染井吉野と鍋料理

作者:芦原クロ

 花見客がまばらな公園で、ソメイヨシノが綺麗な淡い紅色の花を咲かせていた。
 公園を出たすぐ近くには、美味しい鍋料理が自慢の店が有り、店内からは桜が目前に見える。
 寒さを気にせずに、花見をゆっくり楽しめるという、贅沢な時間が味わえるのだ。
 のんびりとした雰囲気を壊そうとするかのように、漂って来た謎の花粉のようなものが、1本のソメイヨシノにとりついた。
 攻性植物化して動き出す、ソメイヨシノ。
 逃げる一般人たちを追った攻性植物は、公園から出ると店を破壊し、無慈悲に人々の命を食らい尽くした。

「笹月・氷花さんの推理により、攻性植物の発生を予知したぜ。なんらかの胞子を受け入れたソメイヨシノが、攻性植物に変化してしまったようだな。急ぎ現場に向かって、攻性植物を倒してくれ」
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)に頭を下げて礼を伝えてから、集まったケルベロスに説明する、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)。

 一般人の避難誘導は警察などが行なってくれる為、避難誘導に手を貸す必要は無い。
 降下後、丁度公園から出て来た攻性植物を、迎撃する形となる。
 戦闘に集中していれば、攻性植物もケルベロスだけに意識を向けるようだ。
 戦場は狭い公園内では無く、ひらけた店の前になる。

「ソメイヨシノ……日本では最も多い桜だな。この公園にも多く植えられているが、攻性植物は1体のみで配下は居ない。戦闘についてだが、今回の攻性植物は【催眠】【毒】などの、バッドステータスが付与された攻撃をして来る。対策を考えておけば、有利になるな」
 攻性植物を放っておけば被害が拡大し、多くの命が失われるだろう。
「討伐後は、店に行ってみたらどうだ? 予約は一応、済んでるぜ。……死傷者を出さない為にも、どうか討伐を成功させてくれ」
 頭を下げ、後半は真剣な声で頼んだ。


参加者
清水・湖満(氷雨・e25983)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)

■リプレイ


「もう桜の季節……」
 ソメイヨシノを見た如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)が、そっと呟く。
 桜の甘い香りが漂い、思わず足をとめてしまいたくなる。
 公園から這い出て来た異形が、居なければ。
「なんだ、花見とは襲ってくる花を見ながら戦う事だったのかと錯覚するばかりだ」
 ローブに身を包んだペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)は、言葉を続けた。
「我はその方が愉しいから構わんが、流石に戦いながら鍋は食えんからな、間引いてやるとしよう」
 すかさず戦闘態勢に入る、ペル。
 敵が反応し、ペルに意識を集中させた刹那。
 1人遅れて降下した、ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)が空中で踊り、魔法陣を広げる。
「引き返し、歩みを止めず、茨道、我が意を得たり、新たなる未知」
 着地と同時に魔法陣から無数の紅い茨を噴出。
 茨は壁となり、前衛陣に降りかかる災厄を、押しとどめる。
 催眠を警戒したベルベットの指示通り、ビーストも羽ばたきで邪気を祓い、バッドステータスへの耐性を高めた。


「折角綺麗な桜なのになぁ。それを手折ってまうのは少し残念やけど、まあ仕方ないね」
 白い着物姿の清水・湖満(氷雨・e25983)は、すり足で動いているが、機敏だ。
 敵の後方へ回り込み、繰り出した拳は音速を超え、敵を吹き飛ばす。
 強い衝撃から、花びらが多く散ってゆく。
(「おちおち花見もできねぇな。まっ、桜を手折るってのも……ククク、面白そうではあるか」)
 美しいものを汚す快感に、無意識に口角が上がる、柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)。
「桜といえば染井吉野、攻性植物化したのは悲しいですが」
 攻性植物化したソメイヨシノを見て、沙耶の瞳に悲しみの色が浮かぶ。
 早く仕留めれば、桜が人の血で染まる前に、止められる。そう信じ、The Mallets of Sluggerを構えた。
 加速したハンマーを敵の幹に叩き込む、沙耶。
「桜は散るのが美しいといいますが……」
「あー、いいよねぇ」
 清春が煌めく飛び蹴りを炸裂させ、敵の枝をへし折り、沙耶に言葉を返す。
 彼の後ろで、きゃり子がポルターガイストを展開し、飛ばした石などで敵の樹皮をえぐる。
「油断禁物で行こう」
 仮に敵が弱くとも、気を抜かないようにと仲間たちに呼び掛ける、ジャスティン・アスピア(射手・e85776)。
 ジャスティンは素早く跳躍し、重力の蹴撃を食らわせる。軌跡が流星の如く、煌めいた。
(「まさか私が危惧していた攻性植物が本当に現れるとは驚きだよ。でも、美味しい鍋の為に、頑張るよー!」)
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)は炎を纏った、激しい蹴りを敵に浴びせる。
 短期決着を目指している氷花は、ダメージをしっかり入れようと、命中しやすい攻撃方法を選んでいる。
「寒さも和らぎ、花見に適した時期となった訳だが……攻性植物の奴らは相変わらずといった所か」
 戦好きの九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)は、自身の持つ知識、技術、その全てを込めて。
 速く、鋭く、正確な斬撃で敵を斬り捨てた。
 連携が途絶えたのを機に、反撃に出た敵は身体の一部を変形させ、ケルベロスの1人に喰らいつく。
 幻を狙った攻撃だったが、清春が嬉しそうに幻を庇う。
 今回は高威力の攻撃を繰り出せる、クラッシャーを優先して庇うと決めていた、清春。
 毒が注入された状態でも、余裕の笑みを消さない。
「可愛い子ばっかだとやる気でんなぁ、オイッ!」
「可愛い子ばかりとは上手いことを言うじゃないか……クク」
 ペルがローブの中で笑い声を零し、呪詛の載った斬撃を繰り出す。
 禍々しい雰囲気からは想像も出来ないほどに、軌跡は美しかった。


「被害が広がる前に仕留めてしまいましょう。店が被害を受けるといけませんし」
「まー大丈夫やろ、みんな強いし頼もしいわぁ」
 店のほうへ視線を一瞬向ける沙耶に、湖満がのんびりと声を掛ける。
 いつも戦いに精を出す同じ旅団の仲間、ペル、幻、ベルベットを信頼している、湖満。
「よく育った桜だが、侵された以上は仕方あるまい。切り落としてくれる。罪を濯ぎ、落とし断て」
 ギロチンを創造しながら瞬時に肉薄し、敵の死角から刃を刻みつける、ペル。
 吠えながら這いずり回る敵は、地面に接する体の一部を、大地に融合していた。
 侵食された大地が、前衛陣を飲みこむ。
「ひとおもいにやって、鍋を楽しもう」
 おっとりとマイペースに、湖満は仲間を鼓舞する。
「骸と成って沈め」
 暴力的な立合の斬撃が、湖満の右手から放たれた。
(「暖かくなってきたから、攻性植物が元気になるのも致し方なしだねぇ」)
 ベルベットはビーストと共に、回復に専念。
(「だからアタシ達に狩られるのも致し方ないと思って諦めてよ、ね?」)
 仲間たちに掛かった催眠を解いて、敵を見据えるベルベット。
「鍋料理、楽しみだね」
 ジグザグに変形させたナイフの刃で、敵の樹皮を斬り刻む、氷花。
「笹月ちゃんが食べさせてくれたら、嬉しいねぇ」
 骨を研磨して作った棍棒で敵の守りすら突き破り、敵に深い傷を負わせた清春が、軽い調子で言う。きゃり子は敵の背後に出現して攻撃を加えた。
「そこだ!」
 ジャスティンが撃ち込んだ弾頭や矢尻が、敵の傷口をこじ開けるように広げる。
 敵は激痛からか咆哮をあげるが、弱々しい。
「すぐ終わらせましょう。鍋のお店も早く再開できるようにしませんと。……意志を貫き通す為の力を!!」
 占いを得意とする沙耶が、運命を示す。
 強い意志の力を剣にし、容赦無く振るう。
「食前の運動だ、軽く斬り捨ててやるとしよう」
 そう宣言した幻は、稲妻を帯びた超高速の突きで攻める。
 威力の高い攻撃で貫かれ、敵は動かなくなる。
「お休みなさいませ」
 沙耶が黙祷している間に、敵は消滅した。


 ソメイヨシノの外観が変化するのは、ためらいが有る為、植物の自然回復に任せてヒールはかけない、ベルベット。
「皆で鍋料理を楽しみたいな」
「さあ、鍋料理を頂きますか」
 ヒール作業と片づけを終え、氷花が無邪気で明るい笑顔を向け、沙耶も仲間たちを誘う。
「さて、いよいよ本題の鍋料理といこう。気温は上がりつつあるとはいえ、まだ肌寒さはあるからね」
 幻は落ち着いた様子で頷き、仲間たちと共に予約済みの店に入り、席へ案内される。
 店内は暖かく、美しいソメイヨシノが眼前に広がっていた。
「この、桜と言う花、ソメイヨシノと言う品種は地球、いや日本ではポピュラーなものなのか? 咲きかけらしいが、満開になったらどれだけ華やかなのだろう」
「日本で一番多い桜は、ソメイヨシノらしいよ。どこででも見れるから、満開になったら見に行くといいかもね」
 ジャスティンの言葉に、植物好きの氷花が笑顔で答える。
「戦闘が終わったらいよいよ本番て感じ! もうそろそろ暑くなってきて、鍋が辛い季節になるし、今のうちに楽しんどこ」
「そういえばどんな鍋なのかは聞いていなかったが……」
 湖満の向かい側に座り、幻が店内を見回す。
「メニュー見たら、色々あるみたいだねぇ」
「鍋ー鍋ー色んな鍋がたくさーん」
 女性陣に清春がメニュー表を配ると、湖満が早速選び始める。
「わーい、鍋料理、楽しみだね。鍋料理にも色々とあるよね。私は、水炊きが良いなって思うよー。シンプルな味付けで、素材の自然本来の味が楽しめる、美味しい鍋だからね」
 氷花も嬉々として、メニュー欄から水炊きを探し出す。
「私はね、鶏とこんぶの出汁の水炊きが一番好き。シンプルイズベストてやつよ。だって、飽きが来ないやろ?」
「同じ水炊きでも、笹月ちゃんと清水ちゃんのは違うのかねぇ」
 湖満の語りに興味を示し、尋ねる清春。
「具材はね、スライスした大根にゴボウ、しらたきにお豆腐、しゃぶしゃぶ肉、それにたーっぷりの水菜ときのこ! ポン酢とゴマだれ用意すればもう最高」
「わー、そっちの水炊きも美味しそうね」
 湖満が話しているのを聞き、氷花は目をらんらんと輝かせる。
「ふむ、肉類はあるだろうか……?」
 どちらかといえば肉の方が好きな、幻。
「皆はどんな鍋が好き? あんま鍋て食べたことあらへんからー、教えてもらえると嬉しいな」
 湖満が仲間たちを見回して、問う。
「私も家族に色々教えて貰って鍋料理の奥深さを知りまして。ここは鰯のつみれ鍋を推薦して置きます」
「鍋はまろやかで健康にも良さげな豆乳鍋がいい。何より汁の色合いが白いのが好ましい」
 沙耶がオススメを選び、ローブを外したペルも、好みの鍋を選ぶ。
 注文を終え、ほどなくして、鍋が運ばれて来た。鴨鍋や鶏鍋などもテーブルに並ぶ。
「熱い鍋料理は身体を芯から温めてくれる、今の時期にぴったりの料理だ。まぁ、種類はなんであれ、皆で囲む鍋であればきっと美味しいものとなるだろうね」
 肉類を優先的に取り始める、幻。
「公園で花見ってのもいいけど、やっぱ花より団子ってやつだよねぇ」
 鍋用の小鉢に仲間たちのオススメを分けて貰い、酒を飲み、店内から見える桜を堪能しながら鍋を味わう、清春。
「同じ鍋をつつくと自然と心の距離が縮まるような気がするんだよね。だから、一度みんなとも一緒にお鍋を食べに来たかったんだ」
 旅団の仲間たちが座る席で、鍋をつつくベルベットは、楽しそうだ。
「つくづく我の実年齢が成人していないというのが不便極まりない。心だけ育つのも善し悪しだな。まぁいい、鍋を戴くとしよう。小さいうちから健康には気を遣いたいものだ」
 鍋を味わいながら、のんびりと桜を眺めているペルは、少し不満を打ち明けた。
 実年齢とは裏腹に精神年齢が高いペルとしては、花見酒というのをしてみたかったのだが、成人までが遠すぎる。
 その為、ジュースで我慢しているのだ。
「この豚肉のみぞれ鍋とか、色々あるな」
 定命化したばかりの為、鍋も酒も余り食したことが無い、ジャスティン。
 仲間たちの分を小鉢に移して配り、シェアをし合って、色々な鍋を食べ比べしている。
「皆さんの好きな鍋料理も美味しそうですね。桜の風景を眺めながら、皆で頂きましょう」
 口数が少なめで大人しい為、周りからは分かりにくいが、料理に対しての喰い付きが凄い、沙耶。
 興味津々に、沙耶も食べ比べに参加。
「ああ、最高の味ですね」
「本当に美味で贅沢な空間だな。共に戦った仲間達とこんな時間を過ごすのは格別だ」
 沙耶の満足げな声に、ジャスティンが頷く。
「うーん満腹。美味しゅうございました。お家に帰る前に、お店の人にお礼を言おうね」
「今度また皆で一緒に来ようよ!」
 食事が終わり、少し休んでから湖満が声を掛け、ベルベットは天真爛漫な笑顔を見せた。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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