死翼騎士団の将軍~虎臣の待ち受ける罠

作者:質種剰

●八王子の陣幕
 東京焦土地帯。
 死翼騎士団団長、シヴェル・ゲーデンの元に、彼の右腕ともいえる3将軍が集まっていた。
「ブレイザブリクの攻略には、奴らの力が必要になるか……」
 シヴェルが重々しく口を開けば、八卦鏡と羽扇を携えた知将が頭を下げながら進言する。
「然り、ケルベロスは既にかの要塞の第二層まで攻略しているとの事、このまま攻略が進めば、我ら死神の悲願の達成も可能かと」
「フン、その悲願ごと、ケルベロスに破壊されれば元も子もあるまい」
「兄貴の言う通りだぜぇ?」
 他の将軍2体——どちらも白い髭を蓄えているものの得物が違う——が口を挟むも、シヴェルは冷静だった。
「だが、戦力がズタズタにされすぎた。我らの力だけでは、力が及ばぬ」
「なればこそ」
 間髪入れずに知将は断言する。
「ケルベロスの力が必要になるのです。奴らはデウスエクスを滅ぼす禍であるが、それ故に、その目的を正しく制御すれば、その隙をつく事は可能」
「正しく制御だと……?」
 青龍偃月刀の将軍が、鋭い目つきで問う。知将のもって回った物言いが気に入らないのかもしれない。
「ケルベロスの優先順位は『人の命』と『ゲートの破壊』が第一という事です。ならば、互いに利用し合う事が叶いましょう」
 敵の敵は味方だと、知将は噛み砕いて説明した。
「ん……? 良く分からねえ……。結局、どういう事なんだぁ?」
 次は蛇鉾の将軍が口を開くも、内容は無い。偃月刀へ先程同意していたのも良く考えていない可能性が高い。
「わかりました。まずは、彼らと接触せねばなりません。策は?」
 仏頂面の2将は放っておいて、シヴェルと知将は具体的な作戦の擦り合わせへと議題を移した。


「据灸庵・赤煙(ドラゴニアンの・e04357)殿の調査によって、エインヘリアルが制圧している東京焦土地帯へ攻め込んだ死神の軍勢、殊に指揮官の動向を予知できたでありますよ」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・cn0031)が、神妙な面持ちで説明を始める。
「彼らは、まるで『ケルベロスが接触してくるのを待っている』かのような不自然な動きをしていまして、天月・悠姫(導きの月夜・e67360)殿も『東京焦土地帯の奪還の為にケルベロスの力を借りようとしている』と予測なさってるであります」
 実際、その可能性は高いでありますよ——かけらは続ける。
 現在は、隠密行動に特化した少数の部隊であれば、少数の護衛のみに護られた3体の将への接触ならば可能だろうと思われる。
「彼らの誘いにのって何らかの交渉を行う事もできますし、誘いに乗ると見せかけて、強襲して将の撃破を目指す事もできるであります」
 敵はデウスエクスであるため、交渉によって情報が得られたとしてもその情報は信ずるに値しない上、仮に死神が嘘をついていなくとも、その死神の持っている情報が正しいとは限らない。
「それ故、情報の価値は決して高くありませんが、死神の方へ『エインヘリアルから東京焦土地帯を奪還する理由』があるのならば、その理由によっては一時的な共闘が可能になるかもしれないでありますね」
 死神がエインヘリアルと争う理由については、豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアの・e29077)の仮説『東京焦土地帯の地下に死者の泉が存在する』という可能性まである。
「この仮説が正しければ、エインヘリアルのゲートである『魔導神殿群ヴァルハラ』が東京焦土地帯の地下にあることとなりますから、この情報は精査する必要がありましょうね」
 かけらは更に続ける。
「死翼騎士団の3将軍は……それはもう皆さんを誘い出すかのように不自然な隙を作っていますから、ある程度の隠密行動にさえ気を配れば、接触するまでは難しくありません」
 それでももし撃破を目指すなら、敵の隙を突いて短期決戦へ持ち込み、撃破後も即撤退する必要があるだろう。
「一方、再度申しますが敵さんはデウスエクスでありますので信頼も信用もできませんが、ともあれ、なんらかの交渉を持ちかけることが可能であります」
 交渉をする際は『デウスエクスは虚偽を話すし約束も守らない』という前提を忘れない事が重要だ。

「東京焦土地帯の戦いで死神側がケルベロスを利用しているように、こちらも死神の戦力をうまく利用できればエインヘリアルとの戦いを有利に進められるかもしれません」
 かけらはそう締め括って、皆を彼女なりに激励した。
「そうなると撃破しない選択肢の重要性が増しますね……デウスエクスは嘘をつくし、約束も破りますが、理性が無いわけではありません。約束を守るのが最も有益な行動ならば、約束を守る事もありますので、そこは交渉と条件次第でありましょうね。良い選択を」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)

■リプレイ


 東京焦土地帯。
 8人が隠密気流を駆使して勇将を捜索すれば、やはり呆気なく発見できた。
「戦う気はないと看た。用件を聞こう」
 周りの護衛らが動こうとするのを制して、勇将が静かに告げる。
「ドラゴニアンの神崎だ。こっちはボクスドラゴンのラグナル」
 あくまで対等な立場で交渉に臨もうと、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)がまずは礼節を重んじて名乗った。
(「高圧的な態度を取るつもりはないが、諂うつもりもないからな」)
 そんな晟の気構えは、仲間にも伝わっていて、
「ボクたちは招かれざる客、というわけではないよね。七宝瑪璃瑠。よろしく、でいいのかな?」
 七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)も愛嬌に溢れた笑顔を見せて、淑女らしく一礼する。
「ボクはシィカ・セィカなのデス。よろしくデスよ♪」
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は、担いでいたギターケースから取り出したバイオレンスギターをじゃらんと搔き鳴らし、明るく挨拶した。
「初めまして。据灸庵・赤煙と言います。見ての通りケルベロスです」
 据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)も丁寧に自己紹介をしてから、
「蒼玉騎士団が占拠している土地を、攻めるでもなく少数の護衛だけ連れて歩いているのです。暗殺して欲しいのでなければ、ケルベロスを探していると考えるべきでしょう」
 3将の行動の不自然さを、やんわりと指摘した。
「用件は寧ろそちらにある筈」
 勇将が長い髭に埋もれた口元を歪めて笑う。
「ケルベロスは猛将ほど愚直では無いらしいな……我らの用件も解っているのだろう」
 それでも、わかりきった事をいちいち説明する義理は無いと言わんばかりの勇将の態度へ、赤煙は最大限に譲歩して自分たちの持つカードを切った。
「焦土地帯に新たな王子が派遣され、その王子率いる部隊が攻勢に出る」
 蒼玉騎士と交戦中にそんな情報を得た、と。
「此方が死翼騎士団と共闘する利点は、エインヘリアルとの戦いの後、そちらから背を突かれるのを避けられる事」
 勇将が素直に頷く。
「死神側としては、戦力的に共闘が必要なのだろう?」
 晟が単刀直入に問う。
「だが我々にとっては必須ではない。そちらの提案次第ではあるが、概ね、攻略にかかる時間短縮と消耗の低減以外に利点はないと考えている」
「……あくまで、我々死翼騎士団の方からケルベロスへ共闘を申し込んでいる立場である事を忘れるなと言いたいのか?」
 明らかな敵意を滲ませ、鋭さを増した目で晟を見据える勇将。
「他にメリットや有益な情報、目的があるなら教えて貰おう……例えば、磨羯宮の先にはゲート以外の別の何かがあるのか、とかな」
 だが、晟も負けてはいない。
「求めるのは安全の担保ではなく信頼だ。目的もわからない相手を信頼し共闘しろ、というのは無理がある」
 信頼——デウスエクス相手に求めるべくもない物だと解っていながら、そのデウスエクスが容易には生み出せない概念という欠点を逆手にとって、交渉を有利に進めようとした。
「あなた自身は今回のわたしたちとの交渉に乗り気ではないみたいね?」
 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)も、さらりとした声音で挑発して、仲間を援護する。
 勇将を少しでも動揺させてその反応を見定めれば、奴の言葉の真偽を見極める指標にできはしないか、と考えたのだ。
(「今は人に似た姿をしていても、死神たちの本質は魚でしょう? 曲がりなりにも『猫』のウェアライダーのわたしが、魚相手に知恵比べで負けるのはね……」)
 傍ら、そんなキアリのプライドの発露でもあったのかもしれない。
 どうやら彼女は猫として、魚型の死神へ並々ならぬ対抗心を燃やしているようだ。
「我個人の気勢の度合が、何か関係があるのか?」
 冷めた物言いで返す勇将。
「言葉の真偽はこの際どちらでもいい。元より互いに信用はないからな」
 吐き棄てるように呟く晟だったが、勇将は彼の気概へ思わぬ方向から応えた。
「互いに信頼も信用も無いなどという事は、あり得んな」
「ほう?」
「少なくとも、我らは『ケルベロスは全てのデウスエクスの敵である』事実を『信頼』しているし、『目の前で大虐殺を行うデウスエクスがいれば迎撃し、ゲートを破壊するチャンスがあれば破壊しようとする』事を『信用』しているのだから」
 勇将は淡々と事実——死神勢力から見たケルベロスの印象を述べた。
「ボクたちと君たちの死生観や価値観は違う。だから今は、互いに『そういうものだ』と考えるんだよ。理解は出来ずとも『そういうものだ』とした上で折り合っていきたいんだよ」
 瑪璃瑠は、死神側がケルベロスの行動原理を理解している事へ密かに驚きながらも、それを心から歓迎して仲間の詰問を補足する。
「ケルベロスと組んでまで東京焦土地帯を取り戻したいという動機があるなら、それはボクたちの納得になるんだよ」
 瑪璃瑠自身、
(「戦いながらでもなく、仲良くなるためにでもなく、言葉を交わす……不思議な気分なんだよ」)
 あくまでも共通の敵を倒すという利害関係の一致のみで繋がった不安定な相手との交渉に、大分疲労を覚えていたが、
(「或いは勇将の方が、やり辛さを感じていたりもするのかな?」)
 こちらと価値観の違う死神である勇将もまた、本来の敵へ簡単に刃を向けるわけにもいかない珍しい状況への不満もあろう、と自然に慮る。なんとも素直で優しい心根だ。
 一方。
(「ケルベロスの力を借りてまで東京焦土地帯を奪還したい理由……やっぱりアレ絡み、なのかしら?」)
 やや緊張した面持ちで、仲間たちの交渉を見守っているのは、氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)だ。
(「まぁ、正直言って、まともな交渉になる以前の問題な気もしてるのよね。そもそもが違い過ぎるって言うかなんて言うかだけど……」)
 と、かぐらは班の交渉姿勢に充分納得しているものの、どうしてもデウスエクスと自分たち定命種の価値観の剥離具合が頭をよぎって、不安が拭えない様子。
(「それでも、普通の人に影響がない願いなら叶えてあげたいとも思うけど、それが本当かどうか分からないのがもどかしいわね」)
 いつも控えめで物腰柔らかな彼女は、その優しい雰囲気に違わず、何より一般人の安否が気がかりらしかった。
「死神がエインヘリアルと争う目的は、エインヘリアルに奪われた『死者の泉』の奪還だ」
 とはいえ、瑪璃瑠の真心やかぐらの警戒心とは何ら関係なく、勇将は元々教える予定だったかのように自軍の行動目標を曝してくれた。
「もし、ケルベロスがエインヘリアルのゲートに戦いを挑むのならば、我らは『死者の泉』を取り戻すべく、戦いに介入するだろう。そして、ケルベロスが『死者の泉を奪還しようと攻め寄せる死神』を利用して、エインヘリアルとの戦いを有利に進めんとするならば、共闘関係となろう」
 あくまでもケルベロス側が死者の泉へノータッチを貫くなら、当面の敵たるエインヘリアルとの戦いのみへ注力するならば、味方たり得ると。


(「二人は強いし、わたくしよりずっと賢いし、交渉はきっとうまくやってくれるでしょう」)
 千手・明子(火焔の天稟・e02471)は、勇将かはっきりと共闘の意思を示してくれた事へ快哉を叫びたい心地になりながらも、冷静を努めて口を開く。
「今まで、あなた方死神が東京焦土地帯・ブレイザブリクを攻めるにあたって得ていた情報……そうね。戦場での攻めやすそうなルートや戦力分布、敵にとっての泣き所とか、わかっているなら共有したいわ」
 先の返答から死翼騎士団を共闘する友軍と素直に捉えて、その上で求めて良い情報を引き出そうと試みた。
「例えば、同じルートを共に攻め上っていくつもりはあるか、とか」
 言葉を選んで問いかける明子の口調は柔らかい。
(「情報収集と言ってもこの状況だけで十分な答え。エインヘリアルの戦力を大いに削ぎつつ、死神の秘密にも迫れるかもしれないチャンスがもらえるだけで、十分なリターンかも」)
 そんな現状への理解が、明子の気持ちに余裕を与えていた。
(「だから無理はしないわ するのは今じゃない」)
 デウスエクスと別勢力を倒す為の密談を持てる自体、ケルベロスたち皆の今まで重ねてきた努力が実った証なのだと。
「わたくし達にとって一番大切なものは命だって、あなた達も気づいてくれているもの。その信頼を守る為にお聞きしたいことだし、酌んでお応えくださるのなら、わたくしはお応えし返したいわ」
 肩の力を抜けば、自ずと舌が滑らかになる。
(「わたくしは真心を差し出すだけ……いつか裏切られることを知っていても、そうするだけ」)
 明子は祈るような気持ちで、勇将の答えを待った。
「……まだ完全では無いが、東京焦土地帯のどの地域まで軍を進めれば、エインヘリアルが迎撃に出てくるかといった情報を纏めてある。持っていけ」
 勇将はそう言って、懐から太い巻物を取り出した。
「軍勢の人数や装備によっても変化するだろうから、役に立つかは判らぬがな」
「貴重な情報提供、ありがとうございマース!」
 シィカがにこっと屈託のない笑顔を勇将へ向け、巻物を受け取る。
 それを見やって、明子はホッと胸を撫で下ろした。
(「仮に死神と共闘することになっても、最終的にはケルベロスと死神のどちらが先に相手を出し抜くかの勝負になる筈……」)
 キアリは、共闘関係が解消された後の事まで考えて、冷静に事態を見守っていたが。
(「幾ら『デウスエクスは虚偽を話すし約束も守らない』と言っても、虚偽に価値を見出しているわけじゃない」)
 じっと見つめるのはシィカが受け取った巻物。
(「そんなデウスエクスが、いかにケルベロスを陥れるためとはいえ、虚偽の情報を纏めるのに時間を費やすだろうか」)
 何より、戦力をあてにしているこのタイミングで陥れたところで死翼騎士団側には何の得もない。
 だから、キアリは胡乱げに目を細めつつも、
(「この巻物の情報に嘘はないわね」)
 と心の中で断じた。
 次いで、シィカが機嫌よくギターでクイズのSEのようなメロディーを鳴らしながら、元気に問いかける。
「ボクらケルベロスとキミたち死神が共闘するとして、王子率いるエインヘリアルの軍勢と無数の残霊で守られたブレイザブリクを、どうやって攻略する算段なのデスカ?」
 微かに勇将の顔色が変わった。まるで痛いところを突かれたとでも言うふうに。
「ただ攻撃し続けるだけで陥落するような場所ではないハズなのデス」
「その通りだ。ブレイザブリクは正面から落とせるようなものでは無い。……」
 少しの逡巡の後、勇将は不承不承口を開いた。
「……我らの目的は『東京焦土地帯を係争地』とする事で、攻略できる機会が出た時に、それを逃さない為だ」
 既にケルベロスへ共闘を持ちかけた時点で死神勢の戦力不足を晒しているようなものだが、ブレイザブリクに対して自分たちだけでは到底攻め込めない現状にも歯痒さを感じているのだろう。


「Love you☆ ミライです。あ、お団子とおまんじゅうあるんですよ、一緒に食べましょう!」
 勇将の顔の険しさを心配してか、まるで同じ人間相手であるかのように、手土産を薦めるのは愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)。
(「嘘を話すし、約束も守らない? なんだ――人間と一緒じゃないですか」)
 そんな親近感が、ミライをフレンドリーにさせているのだろう。
(「……私、誰よりも敗走が多いケルベロスですし、失敗だらけですけど、それでも……」)
 ——少なくとも、信じてもらうのを諦めたりは……しないのです。
 と、強い決意を秘めているミライだから、勇将が饅頭へ一切手をつけないぐらいでは、挫けたりしない。
「折角なので色々聞いてみたいのです☆」
 己が好奇心の赴くままに、勇将の年齢や出身地、死神の武器事情やらを無邪気に問いかけた。
 しかし。
「そもそも死神とエインヘリアルって何が違うのです?」
 という質問だけは、
「死を司る死神と使われるだけの死者の区別もつかぬとはな」
 少々気分を害していたようだが。
「んーと、どのぐらいの戦力が必要なのです? 今みたいな少数精鋭から、ケルベロスウォーまでピンキリですけど、見立てとかあります?」
「戦力の派遣なぞ要らぬ」
 勇将は真面目に断じた。
「ケルベロスがエインヘリアルのゲートを攻めている最中、我らが『死者の泉を奪還すべく戦場へ介入』したとしよう。その際、合理的に考えて互いに攻撃せぬが得策な場合は攻撃しない——それが我らの考える共闘だ」
 互いに攻撃しないという共通認識さえ持ち続ければ、それはブレイザブリクを攻略する時も役に立つだろう、と。
「わたし達は今まで通り、ブレイザブリクの奥を目指せばいいのかしら?」
 かぐらが穏やかな物言いで尋ねる。想像より遥かに交渉が順調な事で、心にゆとりが生まれたものか。
「フン、好きにするがいい」
「仮に、あなた達の目的が達成されたとして、それはこの世界の普通の人達に害を及ぼすものなの?」
 めげずに質問を続けるかぐら。
「『死者の泉』がエインヘリアルに奪われるまで、死神はデスバレスの外に出る事は無かったのだ」
 勇将は答える。
「『死者の泉』を奪還し、全てが元に戻るのならば、死神によって殺される『普通の人』とやらもいなくなる事だろう」
 それだけ、死神にとって『死者の泉』以外の全ては些事であり、泉と比べたら拘る価値が無いのだろう。
「共闘の計画を立てたのはどんな人物でしょうか?」
 と質問する赤煙。
「我らが死翼騎士団の団長、シヴェル・ゲーデン。時勢を読める方だ」
 そう返す勇将はどこか誇らしげに見えた。
「本日はお招き感謝だよ」
 瑪璃瑠の屈託ない声を背に受けて、勇将が護衛らと共に歩き出す。
「また機会があれば会って話が出来たりするのかしら?」
「さあな」
 かぐらの邪気のない疑問へは短く返して。
「これは交渉には無関係な私の個人的な質問だが」
 去り際、晟が勇将へ声をかけた。
「死神としてではなく一個人として、正直この共闘をどう思っている?」
 勇将は歩みを停めるも、質問の意味を測りかねてか、口は開かない。
「別に正しい答えなど求めていない。ただ、この交渉の中に貴君の意思があったかどうかを確認したかっただけなのでな」
 死神でなければ好ましく、親近感を覚える態度だった。ただそれだけの話だ——。
 交渉を決裂させずに終えられた安堵からか、日頃寡黙な彼からは珍しいぐらいに、胸襟を開く晟。
「問答無用で殴りかかってきてくれた方が、楽だとは思っていたが、敵が理性的である事を拒否する理由は無い」
 そんな彼の態度に感化されたわけでもないだろうが、勇将は——こちらはこちらで素の態度と思われる——真面目くさった声を返して、その場を後にした。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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