ユグドラシル・ルート

作者:坂本ピエロギ

 大阪城、地下。
 静寂と暗黒が支配するこの世界を、静かに蠢く巨大デウスエクスの姿があった。
『ギギギ……ギギギギギ……』
 触手を生やした大蛇のごとき巨躯に、枝分かれした尾。
 攻性植物『プラントワーム・ツーテール』と呼ばれるそれは、ユグドラシルの意思に従うように、城の地下をひたすらに掘り進み続けている。
『ギギ……ギギギ……』
 体から生えた触手で土を貪り食い、空洞を広げていくプラントワーム・ツーテール。
 その周囲に付き従うのは、竜牙兵を苗床とする攻性植物の群れだ。
『プラントワーム……サマ……ゴエイ……』
『キョテン……カクジュウ……』
 ユグドラシルの仔等は、一心不乱に掘り進む。
 エインヘリアルにドラゴン、ドリームイーター、ダモクレス。
 数多くのデウスエクスが集う大阪城を、もっと大きな拠点へと作り変えるために。
 この星に張ったユグドラシルの根を、もっと深くおろすために。
 もっともっと。もっともっともっと。
 この惑星の全てを、デウスエクス・ユグドラシルのものとするために――。

「大阪城の攻性植物勢力が、大阪城地下に巨大空洞を作っていることが判明しました」
 ヘリポートに集合したケルベロスたちに一礼すると、ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)は依頼の説明を開始した。
 大阪市で最も深い位置にある地下鉄の駅――『大阪ビジネスパーク』周辺を警戒していた君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)によって、拠点の存在が明らかになったという。
「ユグドラシル勢力は、地下掘削に特化した巨大攻性植物を使い、地下拠点の拡大を進めているようです。皆さんにはこの攻性植物の撃破をお願いします」
 現在、敵の拠点は地下鉄路線のすぐ下まで拡張されており、なおも掘削は続いている。
 そこで今回は、敵付近の路線エリアを爆薬で爆破、然る後に拠点を奇襲。目標を撃破した後は速やかに現場を離脱する……というのが基本的な流れだ。
「皆さんには爆薬を持って、封鎖された地下鉄路線に潜入してもらいます。その後、予定地点で爆薬を爆発させ、路線と繋がった敵拠点に突入して下さい」
 拠点にいる敵勢力は、全部で10体。
 まずは掘削用の攻性植物、『プラントワーム・ツーテール』が1体。
 つぎに竜牙兵を苗床とした護衛型攻性植物『植性竜牙兵』が9体だ。こちらは体に無数の種子が埋められており、ドラゴンの力を宿しているという。
 拠点はドーム状の広大な空間で、戦闘用スペースは十分に確保されている。当然だが周囲は無人、戦いの影響で崩落が発生することもない。
「プラントワーム・ツーテールは全長20mほどの巨大攻性植物ですが、拠点工事に特化した個体のため、知能や戦闘能力は高くありません。ただし植性竜牙兵たちはプラントワームを守るために全力で攻撃して来ますので、十分に注意して下さい」
 この巨大攻性植物はユグドラシルでも貴重な個体らしく、量産することが難しいようだ。
 撃破して数を減らせれば、彼らの拠点拡張を食い止められるだろう。
 そうして説明を終えたムッカは、ヘリオンの発進準備へと取り掛かった。
「しかし竜牙兵の攻性植物がこうも増えるとは、ドラゴン達に何かあったのでしょうか……いずれにせよ、大阪の状況は予断を許しません。確実な遂行をお願いします」


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)

■リプレイ

●一
 暗闇の支配する地下トンネルに、幾つもの足音が折り重なって響く。
 ここは大阪ビジネスパーク駅に程近い地下路線の一角。あちこちが陥没した線路跡は今や人の手による管理も放棄され、攻性植物の勢力圏と成り果てて久しい。
「うう、何だか嫌な場所ね……」
 辺りを包む濁った空気に、七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)は身震いした。
 爆破地点へと近づくにつれ、不穏な振動が足元から伝わってくる。大阪城に根を下ろした攻性植物勢力、その尖兵たちの気配と共に。
「プラントワーム・ツーテール。掘削作業に特化した攻性植物……か」
 櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は鬼灯のランプを提げ、ふむと肩を竦める。
「拡張でリゾート施設でも作るのかな。外はそろそろ春なのに、地下の暗所でお仕事とは」
「ホント、ゴクローなことで。ま、ナニ作るにしてもココで切り上げてもらおうか」
 温泉の話は魅力的だけどなと、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が冗談めいた口調で苦笑を浮かべる。
 温泉採掘。そんな牧歌的な話だったら、実際どれほど気が楽だろう。
「ミミズが地下を掘り進めるって正に土壌改良よねー……けどユグドラシル勢力の拠点拡張とか、そんなことされたら困っちゃうの!」
 ぷんすこと頬を膨らませる大弓・言葉(花冠に棘・e00431)は、隣で気勢を上げる箱竜のぶーちゃんに言い含めるように囁く。
「気をつけてね。さもないと『パクッ』て丸のみされちゃうよ!」
 思わず涙目になりつつも、精いっぱい胸を張るぶーちゃん。
 そのとき、先導役のウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が、爆破ポイント到着の合図を送ってきた。
「よし、爆薬セットじゃ!」
 ドワーフたるウィゼの夜目は、僅かな光源さえあれば視界を失うことはない。
 仲間の灯りを手元に準備を進めるウィゼの後ろでは、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)が白銀戦靴を装着し、奇襲の準備を整えていく。
「おっきなワームに、竜牙兵型の攻性植物……負けられないね」
 敵は総勢10体。殲滅こそ必須でないが、激戦になるだろうとシルは思った。
 とはいえ不安はない。今日は頼もしい恋人も一緒なのだから。
「頼りにしてるね、琴ちゃん」
「私こそ。とても心強いです」
 シルの微笑に、幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)が返す。その身を包む紅のバトルオーラは、接近戦を得意とする彼女の力を飛躍的に高めてくれることだろう。
 ちょうどその時、ウィゼが起爆の準備を終えた。
「全員、衝撃に注意じゃ!」
 ズン。ズズン――。
 鈍い振動が響き、地下トンネルに大穴が口を開けた。
 穴の奥に目を凝らし、大きく頷くウィゼ。爆破は滞りなく成功だ。
 間を置かず、隠密気流をまとう鳳琴を先頭に、拠点への奇襲が開始された。
 ドーム状の巨大空間の天井を、イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は緋色の蝶羽根で飛行しながら、光の粒子で周囲を照らす。
「……いる。みんな、気をつけて!」
 果たして照らし出されたのは、攻性植物の大群。
 竜牙兵を苗床とした『植性竜牙兵』と、そして――。
『ギギイイイイィィィィッ!!』
 プラントワーム・ツーテール。20mの体躯を誇る巨大触手ワームだ。
「えーん琴ちゃん、きもちわるいよぉー。で、でも、ここで止めないと……」
「大丈夫。シルさんも皆さんも――必ず守ってみせますとも」
 おぞましい敵の姿に、思わずたじろぐシル。
 攻性植物の向ける敵意を真正面から受け止め、鳳琴が静かに拳を構える。
「それじゃ、気合い入れていくわよ!」
「いざ戦わん。大阪の人々と、そして温泉のために……なんてな」
 隊列を組み、発破をかけるさくら。
 飄々とした空気をそのままに、千梨が最前列でアニミズムアンクを手に取った。
 そして――。
「「突撃!!」」
 ケルベロスたちは一斉に、攻性植物の群れへと向かっていく。

●二
「さぁ、やろっかっ!!」
 シルは白銀のエアシューズで一気に加速すると、最前列の植性竜牙兵めがけ一直線に突撃した。その横を併走するのは、燃える紅蓮のバトルオーラをまとう鳳琴だ。
「琴ちゃん。無理だけはしないでね?」
「もちろんです。さあシルさん、参りましょう!」
 狙うはワームの盾を務める植性竜牙兵。まずは最前列を、集中砲火で各個撃破するのだ。迎撃態勢を取る敵に先んじて、シルと鳳琴は息を合わせた蹴りを放つ。
「いくよっ! これが――」
「私たちの、絆の一撃ですっ!」
 シルのスターゲイザーと、鳳琴の旋刃脚が、蔓に覆われた竜牙兵にめり込む。
『グ……ガ……』
『ギイィッ!!』
 敵が急所を貫かれ悶絶した刹那、ワームの巨体が鳳琴らのいる前衛へと振り下ろされた。粘液をまき散らしての押し潰し。それを皮切りに、植性竜牙兵の毒花粉が前中後衛すべてのケルベロスに襲い掛かる。
「ぶーちゃん、皆を守るよ!」
 言葉とぶーちゃん、そして鳳琴が、次々に身を挺して仲間を庇った。
 攻性植物たちは単体の火力こそ低いものの、数の多さは馬鹿にならない。時間をかければかけるだけ、戦いは不利となるだろう。
「いっくよー、攻撃攻撃!」
 ゆえに言葉の行動は早かった。
 破れた服のまま、毒に蝕まれる体を叱咤し、言葉はエアシューズで敵めがけて加速する。その背中にぶーちゃんを連れて。
「ごーごー! えーいっ!」
 跳躍する言葉。振り下ろされる流星蹴り。
 バキッ、という鈍い音が響き、肋骨を粉砕された植性竜牙兵が悲鳴を漏らす。立て続けに突っ込んだぶーちゃんが熊蜂のごとき勢いで飛び回り、属性ブレスを吐き出した。ふたりの攻撃を浴び、竜牙兵の1体が早くも灰となって斃れる。
『ヒルムナ……コウゲキヲ……』
「おっと、やらせねぇよ?」
 死んだ同胞には目もくれず、攻撃に移ろうとする植性竜牙兵の群れ。そこへキソラが放つのは、紅蓮の炎を装填した如意棒だ。
「アブナい雑草は、燃やしてやるぜ!」
 たちまち炎上する前衛の3体を、敵メディックたちが収穫の光で照らす。
 次いでワームの触手とともに飛来するのは、追撃効果を持つ蔓矢の嵐だ。だがその攻撃は後衛の3体が回復に回ったことで、勢いを衰えさせていた。
「ふむ。しかし竜の牙も、少し見ぬ間に緑豊かな体になったなあ」
 千梨は燃え盛る植性竜牙兵を眺め、呟く。
 中衛のキソラが持つ妨害効果は並よりも高い。敵前衛の全員を燃やすことは叶わずとも、敵のキュアを上回る炎の付与は、敵の足並みを少しずつ、着実に乱していく。
「ひょっとして、主人がガーデニングに目覚めたか」
 肉食獣の一撃で植性竜牙兵を跡形もなく粉砕する千梨。その冗談めいた言葉にキソラが肩を竦めて応じてみせた。どうやら似たような事を考えていたらしい――主たるドラゴンに、『何か』が起きているのでは、と。
「むむ、なかなかに厄介な相手じゃのう……」
 一方ウィゼは最後尾から戦場を俯瞰しながら、ワームの護衛たちをそう評する。
 単体の強さは然程でもないが、いかんせん頭数が多い。そのうえ、稀にだがケルベロスの攻撃を避けている個体も見て取れた。
「ここは万全を期すのじゃ。オウガ粒子、散布開始じゃ!」
 メタリックバーストで前衛を包み、命中率の強化を図るウィゼ。そこに寂寞の調べで前衛の強化を終えたイズナが、若々しいヤドリギの束をそっと掲げる。
「――未来は決まらない。運命は切り開くもの」
 真白い実を結んだ木をシャンシャン振るえば、溢れた光がイズナに勇気を宿らせる。保護を破る、強靭な破剣の力。敵が付与する回復光の効果を見越しての布石だ。
「皆。わたしたちの未来を切り開くよ」
 イズナの決意は、この場にいる全員が抱くもの。
 序盤からの集中攻撃によって、植性竜牙兵の前衛は早くも壊滅状態に陥り始めていたが、ケルベロスもまた無事ではない。服破りに毒にアンチヒール……嵐の如く飛来する攻撃に、無傷の者は一人もいない状態だ。
 だが、ケルベロスたちの心に恐怖はない。弱気も怖気も、ましてや慢心もない。
「覚悟しなさい。わたしたちは、ちょっぴりしぶといわよ?」
『――!!』
 笑顔とともに投擲された殺神ウイルスが、最後に残った敵前衛に直撃。頭部を粉砕された植性竜牙兵が絶命したのを確認し、
「もうひとがんばり。あのワームをぶっ飛ばすわよ!」
「うん。温かいお風呂が待ってるものねっ!」
 頬の血を拭って笑うさくらに、口元の血を拭いたシルが冗談めかして応じる。
 必ず、皆で揃って帰るために。
 ただ仲間を信じ、着々と仕事を果たすのみだ。

●三
 攻撃の標的を的確に絞り、序盤から攻撃に専念したことが奏功し、ケルベロスは攻性植物の前衛を残らず撃破することに成功した。
 対するプラントワームは、配下の手勢が減り始めたことに苛立ったように、更なる猛攻を繰り出してくる。治癒を阻害する触手は、しかしキソラから浴びた重力振動波の影響で直撃コースを逸れ、鳳琴の脇腹を強かに抉った。
「はあ……はあ……っ」
 次第に蓄積していく疲労と負傷によって、荒い呼吸を繰り返す鳳琴。
 戦闘開始から攻撃を浴び続けた影響は、見れば他の仲間たちにも見て取れた。
 ディフェンダー陣ほどではないにせよ、シルも、千梨も、キソラも、ほかの仲間たちも、その全員が傷だらけだ。
「攻撃は任せて、琴ちゃん。少し時間稼ぐね」
 そこへシルが精霊魔法を詠唱しながら告げる。回復するための猶予を作る気らしい。
 この戦いは守りに入ったら負ける。むしろ本番はここからなのだ。
「……分かりました、シルさん」
 鳳琴が頷くのに合わせ、ケルベロスが一斉に動き出す。
 敵後衛めがけ簒奪者の鎌を投擲する千梨。斬撃によって体中の蔓を破られた植性竜牙兵を時空凍結弾で狙い撃つさくら。守りとなるディフェンダーを失った事で、敵後衛はみるみる生命力を削り取られていく。
「鳳琴おねえ、今回復するのじゃ!」
「ぶーちゃん、ここが正念場なの!」
 ブレイブマインで前衛の毒を払うウィゼ。祝福の矢と属性インストールで回復を補助する言葉とぶーちゃん。させじとワームが触手を振りかぶった刹那、その気脈をキソラの指天殺が断ち切る。
『ギギ……ッ!?』
『ゴエイタイショウ……カイフク――』
「隙ありっ!」
 硬直するワーム。そこへ回復の光を浴びせようとした後衛の1体を、イズナが螺旋氷縛波を叩き込んで撃破する。
 ケルベロスの流れるような連携に余計なやり取りはない。己のすべき仕事を忠実に為し、静かに着実に、敵の群れを撃破していく。
「折れることなき、心をもって――さあ、参りましょう!」
 鳳琴は龍のごとき輝きを解放、『幸家・伏龍』の力で心を鼓舞して立ち上がる。
 残る敵後衛は1体。シルが精霊魔法の詠唱を終えたのは、まさにその時だった。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ……混じりて力となり、全てを撃ち抜きし光となれっ!!」
 シルが放つは『精霊収束砲』。
 火・水・風・土の属性エネルギーを一点に収束させて放つ精霊魔術だ。
「威力はいつもより低いけど、汎用性はこっちの方が上っ!」
 青白い魔力の翼を背に展開、追撃で放つ一撃が、最後の敵後衛を完全に蒸発させた。
 そして護衛2体を残すのみとなったワームめがけ、ケルベロスは一斉攻撃を開始する。
「ドラゴンサンダー、いっけー!」
 言葉はガネーシャパズルを掲げると、呼び出したドラゴンの幻を、保護の力で炎を消そうともがくワームの巨大な腹部めがけ発射した。
「みんな、レッツゴーなのよ!」
「この一撃で凍るといいよ!」
 即座にイズナがルーン秘石を掲げ、それに応える。
 召喚したのは【氷結の槍騎兵】。雑魚の取巻きには目もくれず、一直線に突撃する騎兵の一撃を浴び、保護を削り取られたワームの悲鳴が轟いた。
 同時、ウィゼが起爆したブレイブマインが、前衛の背中を七色の煙幕で彩る。
「シルさん!」
「任せて、琴ちゃん」
 間髪入れず、鳳琴のサイコフォースが炸裂。巨大な爆発で触手を吹き飛ばされたワームへシルが叩き込むのは、シャドウリッパーの斬撃だ。
「食らえっ!」
 ジグザグの傷跡から燃え広がる炎に、苦痛のうめきがこだまする。
 自分が劣勢である事にすら気づかぬのか、ワームは炎上する体を振り回し、ケルベロスを叩き潰さんと迫る。
 だが、それはもはや無駄な足掻きに過ぎない。
 中衛へと放たれた押し潰しは、言葉とぶーちゃんが残らず受け止めた。
「さあドウゾ、」
 そうしてキソラは発動する。
 『禍濫ノ疵雨』――皮を穿ち、根に沁み込み、心の臓さえ浸すアンチヒールの雨を。
「ぴぃぴぃ、ぴりり、ちぃちぃ、ころり……おいで、おいで、雷雛遊戯」
 続けてさくらが召喚する。
 『雷雛遊戯』――鋭い嘴で獲物を啄む、雷纏った雛鳥の群れを。
 そうして二人が立て続けに放つ一撃は、ワームの体に致命傷を刻み込む。
『ギイイィィィィッ!! ギ――』
「やれやれ、この図体では捕まえるのも一苦労だな」
 体中を傷に覆われ、尚も攻撃を続けようとするプラントワーム・ツーテール。
 その鳴き声が、のたうつ体が、ふいにピタリと止まった。
「散ればぞ誘う、誘えばぞ散る」
 ワームを包み込んだのは、千梨の御業だ。
 杖に咲かすは桜の御業。無音のうちに生じた結界は、獲物を決して逃がさない。
 御業によって生じた嵐が織りなす桜吹雪に包まれ、断末魔の絶叫をあげる巨大ワーム。
 そうして嵐が止むと同時、絶命したワームは、桜の花弁と共に儚く消滅した。

●四
 ワームの撃破から程なく、拠点には攻性植物の躯が転がっていた。
 残っていた2体の植性竜牙兵も撃破し、戦闘不能者もゼロ。戦いはケルベロスの勝利だ。
「やりました! これでまた1つ阻止ですね!」
「琴ちゃん、おっつかれー! 無事に終わったし、お風呂いこっか?」
 シルと鳳琴がハイタッチを交わす姿に微笑むと、さくらはドームの奥に視線を移した。
 ワームが掘り進んできたであろう穴の奥からは、時折生ぬるい風が流れてくる。その穴がどこへと続くのかは、暗闇に遮られて分からない。
「拠点の様子をもう少し調べたいけれども、長居は危険かしらね」
「そうだね。いつ敵の増援が来るかも分からないし」
 さくらの呟きに首肯して、イズナは闇の奥を見つめる。
 貴重な個体を用意してまで、地下の拡張を進める攻性植物たち。彼らの狙いは、いったい何なのだろう。
「ま、ここで考えてても仕方ないね。あーあ、温泉入りたいなー」
「同感だ。戦いですっかり汚れてしまった」
 衣服の花粉をぱんぱんと払い落とす千梨。その横では、さくらがそっと指輪に触れる。
 地下に潜ったせいで、すっかりお日様が恋しい。帰ろう、大好きなお日様の元へ。
「さ、みんな。ひと風呂浴びて、戻りましょ♪」
 プラントワーム・ツーテール、撃破完了。
 ケルベロスは帰還の準備を終えると、攻性植物の拠点を後にするのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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