何度でも炬燵は現れる!

作者:baron

 暖冬であったとしても、春に成れば温かく感じるものである。
 それは市街でも郊外でも同じなのだが……。
『グラビティの収集活動を開始します』
 ここはとにかく温度差が違っていた。まるで夏の様に周囲に熱き光が振りまかれていたのである。
 やがて家の片隅にある倉庫が燃え上がり、壁がなくなった瞬間に熱気が急上昇。
 倉庫が燃えなかったのが不思議なほどで、にわか雨程度ではチュンチュンと直ぐに蒸発してしまう。
『検索終了。グラビティ収集活動を再開します』
 倉庫の中から出て来た背の低いテーブルは、熱気を振りまきながら街の中心部へと移動を始めたのである。


「郊外にあるとある家の倉庫で、ダモクレス化してしまう家電製品が現れます」
 セリカ・リュミエールが地図とカタログを手に説明を始めた。
 その場所はベットタウンの一つで、昼間はさほど人が住んでいない場所だった。
 郊外ゆえに庭のある家や倉庫のある家も多く、その一つで起きる事件なのだろう。
「このダモクレスは炬燵を元にしていますが、昔の大人数を前提にした少し大きめの炬燵です」
「今と昔では光熱費も全然違うし、大型ならなお高いだろうね」
「最近は核家族化どころか一人暮らしや夫婦暮らしも増えてますものね。このあいだ、文机を炬燵にする機材もみましたわ」
 よく見かけられる小さな正方形よりも大きく、カードゲームやマージャンには向かない大きさらしい。
 旧型で燃費が悪く、しかもサイズが大きいとあってはなおさらである。
 しかも今年は暖冬でもあるので、故障して居なかったとしても出さなかった可能性はあるだろう。
「攻撃方法は熱線を基本として遠近両用、組み付いた相手に使用したり、熱波として放つなど様々です」
「まあ炬燵だしねー。炎で攻撃するかビームの差かな」
 セリカの説明を受けて気の早いケルベロスは既に考察を始めた。
「家電製品に罪はありませんが、かといって罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。誰かが死ぬ前に対処をよろしくお願いしますね」
 セリカが出発の準備に向かうとケルベロス達は相談を始めるのであった。


参加者
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
白樺・学(永久不完全・e85715)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ


「夜に成れば違うんだろうけれど……少し寂しい光景だね」
 周囲を見てカシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は呟いた。
 この辺りはベットタウンで、昼間はみんな市街地に行ってしまう。
「今回の敵は炬燵ですか。もうすぐ冬も終わりですし、この日を終えたら、もう使われなくなるかも知れませんね」
 暖冬で出番がないのが問題なのか、それとも出番がなくて良かったのか。
 どちらだろうと兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)は悩みながら周辺を探っている。
「……炬燵かあ……懐かしいわね」
 キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)の表情は変わらない。
 だがその言葉はアンニュイなトーンを感じさせ、使われない炬燵やダモクレス化したことに思いを馳せる。
「……まだ壊れてなかった頃は……一家団欒の架け橋だとか…冬を越す大切な場所になっていたのではないかしら……」
「とはいえ時間を巻き戻せたとしても、あんまり変わらないだろうね。最近はどこも大家族じゃなくなってきて、今回みたいな炬燵も不要になってしまった訳だし」
 キリクライシャの言葉には頷きつつも、思い出深い光景が続かないからこそ、今回のような事件が起きたのだとカシスは告げる。
「……それを思うと、聞いている能力も……また、使って欲しいと願っているかのように思えるから、不思議ね」
「まあ時代が変わって使われなくなる物が出るのは仕方ないんだろうけど……」
 キリクライシャの言葉に長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)が肩をすくめながら同意する。
「辿り着く先がダモクレス化っつーのは、なんて言えばいいんだろうなぁ……」
「人のために作り出された以上、需要なくてはどうしても、な。エゴを感じなくもないが……何れにしても、害となるならば討つしかあるまいよ」
 やるせなさそうな千翠の言葉に、白樺・学(永久不完全・e85715)はどこまでも冷静に結論を付けた。
「大型故に役に立たないと廃棄された道具か、哀れだな。……いや、待てよ」
 ジャスティン・アスピア(射手・e85776)は話を聞きながら、大家族でなければ使わないという暖房機の話を終わらせようとした。

 だがその途中で自分の思い違いに気が付いた。
「大きさ次第で俺達セントールも、人馬形態のまま入って暖まることは……無理かな? やっぱり無理か」
「少なくとも俺はスッポリと入った。測ったことはないがありえると思うぞ。というか、マジ出てこれない、あれは」
 ジャスティンが自分の下半身を見ながら首を傾げると、筋肉質の千翠は自分が潜り込めるのだから、セントールやグランドロンでも大丈夫かもしれないと教えてくれた。
「そういった面で、長炬燵は使い勝手は悪いかもしれませんが、良い点もあります」
 炬燵擁護派のエレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)としては思わず食いつかざるを得ない。
「足を伸ばして肩まで入っても全然余裕なので、炬燵が空いている時はつい深くまで入って居眠りしてしまいます。ぬくぬくです」
 エレスは千翠の言葉を肯定し、炬燵は良い文明だと保証したのである。
「確かに私ぐらいの体格なら丁度良さそうなサイズなのだが……問題なのは絶対的な需要の方が問題だろう」
 安く手に入れるつもりならば、良い思い付きかもしれないね。とディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736) は口にした。
 測ったことはないが長炬燵は確かにサイズが大きい。
「地球の人々には必要とされなくなりつつあるようだ。私と一緒でそろそろ定年なんだねぇ……」
「しんみりするのはそこまでだ。敵が現れないうちに準備するぞ」
 しみじみと冷静に現実を捉えるディミックに対し、同じグランドロンでも学の方は状況は一つの過程に過ぎないと断じた。
「向こうは他のメンバーに任せる。僕らはこっちだ。助手、貴様もしっかりと手伝え」
 学はシャーマンズゴーストの助手と共に、庭のある家に向かう道の一つをテープで封鎖。
「あ、ならこっちの道は私が手伝いますよ」
「じゃあ任せた。手分けすればすぐだろうさ」
 それを見た紅葉が仲間たちの方を向くと、ジャスティンはテープを渡して封鎖を始める。
 それが終わって暫くした頃……。倉庫の周囲がガタガタと物音がし始めた。


 ドンと大きな音を立ててナニカが倉庫の壁を突き破った。
『敵対反応発見』
 そいつはダモクレスで間違いないようで、こちらを発見する前後で即座に戦闘態勢に移行した。
 ケルベロスたちもそいつを外に出すまいと道を塞ぎ、反包囲して庭から出すまいと身構える。
『戦闘行動を開始します』
 ダモクレスの動きは途中まで、まるで車の様であった。
 四つ足を地面につけて疾走はともかく、途中で前足を上げて飛び掛かるのは獣の様だが。
「……来た、わね。行くわよリオン」
「止めろ、助手」
 キリクライシャとテレビウムのバーミリオン達サーヴァント組が立ち塞がる。
 ドンと押し倒されはするが仲間のカバーには成功した。
「……ん。これは別の意味で危険だわ」
「アー。ヤバイなあの態勢。って感心してる暇はなかった」
 キリクライシャは長炬燵に圧し掛かられているが、獣とかチャラ男に食われるような感じはしない。
 炬燵の足が抑えてヌクヌクしてるだけだが、不思議と出ていく気にはならない。
「攻撃して態勢は崩すから、誰か回復グラうを掛けてやってくれ。……絡め取れ。握り潰せ」
 千翠は己の体を蝕む呪いを、無数の触手という形で実体化させた。
 そして炬燵型ダモクレスの四肢を絡め取り、仲間から引き剥がさんと締め上げる。
 だが流石に組み付いた状態をどうにかするのは無理なようで、せめて攻撃力を削ぐのが精いっぱいだった。
「……このまま逃れてもまた捉まる、だけ、だから、今は結界と防壁を優先しましょう」
 キリクライシャは自分が冷静に考えた末なのか、それとも魔の手に捕まっているのか分からなくなった。
 そのくらいに気分が良く、このままずっと居たくなるのは確かだ。
「それもそうですね。……幻影の長さは自由自在、そして出現位置もです!」
 エレスは棍にげんうぃをまとわせて、そのまま地面に対して振り切った。
 するとどうだろう、棍の先は消失し……その先がキリクライシャの影から現れたのだ。
 そのまま伸びて炬燵を下から上へと殴りつけた。
「さぁ、支援するよ。強力な一撃をお願いね」
 この流れにカシスも乗って、攻撃役の仲間から力を引き出すことにした。
 電流を体の中に流し、神経電流の働きを助ける事にしたのだ。
「……いけないいけない、眠る、ところだった、の。……照らして、全てを明るみの中へ」
 キリクライシャは意識を集中させて、炬燵の下から天に手を伸ばした。
 太陽の光がもつ浄化の力を抽出することで、力を光の珠へと変換。我が身を中心に周囲へ不浄に耐える力をもたらしていく。
「ともあれ援護が必要なのも、結界が重要なのも納得はできる。まあ僕は長期戦に備えるけれど。なっ……おい、助手~」
「では私の方でやっておきますね」
 学が走り出したのにシャーマンズゴーストは全然動いていない。
 ため息を吐きながら、紅葉は手持ちから果実を取り出した。学が敵を蹴るのと、怒られないように助手が動くのはその後の事だ。
「黄金の果実よ、その奇跡の実りよ、仲間に加護の力を与えて下さい」
 果実より黄金の光画溢れ出て、前衛陣を柔らかく包み込んでいく。
 それは仲間の傷を癒すとともに、負荷に対する支えとなるのだ。
「そろそろ回復は意味がないかもしれないが……。まあ援護の方が需要だからなあ」
「そんな物だろう。攻撃の方も複数用意していないと、途中から重ねていくだけになるそうだが」
 ジャスティンは仲間の傷を見ながらオウガメタルを動かし始める。
 その言葉にディミックは頷きつつも、やるべきことをやろうとハンマーを握り締めた。
「では、動きから止めていくことにしようか」
 ディミックの大きな体で振るうと、それなりのサイズであるハンマーがまるで杖の様だ。
 衝撃波が走り抜け、炬燵の周辺がドンとへこんでしまう。
「こっちもいくぞ。安定するまで行くからな」
 ジャスティンの放った流体金属は、戦場に分散しながら仲間たちに囁いて助け手となる。


 周辺の温度が一気に急上昇していく。
 どうやら炬燵型ダモクレスが本気を出し始めたようだ。
「……寝落ちは、身体に悪い……けど」
『攻撃を続行。攻撃を続行」
 いけない! キリクライシャはウトウトしながら甘んじて攻撃を受けているように見える!
 しかしなんだな。絵面的には女の子が転寝しているだけだ。
「危険……ではないでしょうか?」
「でもまだ三割以内だし……。強化した後でいいかな」
 恐ろしいことに大変地味な攻撃ゆえに、エレスもカシスもその脅威を見逃してしまっていた。
 それぞれ攻撃や攻撃強化を優先して、回復はともかく救出は後回しにしたようである。
「くそっ! やっぱりこうなったか!」
 千翠は氷のチャクラムを飛ばしてダモクレスを引き剥がそうとする。
 だが漏れ出る熱気が、彼をも睡魔に誘うかのようだ。実際、これだけ温かいと寝てしまいかねない。
「ともあれ、倒してしまいましょう。そうすればどんな相手でもなんとかなります」
 エレスはダモクレスの一部を幻影で覆った。
 その部分は存在しないと、ボルトやナットを消し去ることで攻撃力を下げていく。
「その能力を引き出すよ。頑張ってね」
 カシスはもう一人の攻撃役にも電流を施し、総合的な火力を上げることにした。
 何しろ相手はこちらの攻撃があまり効いてないように見えるほど、高い防御力とタフネスを持っているのだ。攻撃強化は必須と言えた。
「……たしか、この態勢からでも……」
「そうです。下から上へ、抉る様に、打つべし」
 キリクライシャが組み付かれたまま、何とか膝蹴りを叩き込む。
 軽くバウンドする姿は彼女なりに脱出しようとしたのだろうと、エレスは声援を送っていた。

 冷静に振り返ってみると、相手は防御型なので攻撃が効き難い。
 一同もバランスを重視しているので、最初はこんなものだろう。
「やはり長期戦を覚悟しておいたよかったな。できるだけ外さないようにいこう」
「まあ、そうだね。大型ダモクレスのような速攻を前提としていない。焦る必要は無いだろう」
 学は助手に回復を当てて最低限の保証を付けつつ、篭手の霊威を最大限に稼働させた。
 その間にディミックは思索に思いを馳せ、この状況ならばどんな幻影が良いだろうかと推論を始める。
「今はとにかく結界ですね。炎は防げてるようですし、効きさえすれば効果はあるようです。あ、攻撃補助もですね」
「そうなのか? じゃあ俺も暫くそうして居ようか」
 紅葉は黄金の輝きを拡大し、前衛すべてを結界で覆わんと加護を強めた。
 それに付き合う形で、ジャスティンもオウガメタルを自分たちの周囲に展開してサポートさせる。長期戦になるのであれば相手からも攻撃を受けたり外したりするので、防御幕や攻撃補助は何枚あっても良いのだ。
「……在る人が恋しいか、無き人が悲しいか。消えては現れ、望む像はいずこかに――君の望みはきっとこうだろうなあ」
 ディミックは幻影でかつての光景を再現し始めた。
 炬燵に子供たちが潜り込み、あるいは遠くに住む親戚が年末年始に帰ってくる姿だ。
 田舎町ではないが、きっとこの周囲でもそんな光景は見られたであろうと思い描く。


 堅い敵を殴り続ける面倒な作業の末、戦いはようやく終盤へ。
 技のローテーションも、既に威力重視などに切り替えている。
「……キャンプファイヤーもそろそろ終わりかしら。追い込むわよリオン」
 キリクライシャも脱出しており安定して攻撃に加わっていた。
 バーミリオンに声をかけながら炎を宿した蹴りを見舞う。
「憶えているか。これはお前の経験であり、お前の智識より刻まれたものだ。今世のものであるとは限らんが、な。……しかし鍋が恐怖の対象とはどういうことだ?」
「食事でもこぼしたんじゃないですか」
 学が関節からコードを伸ばしてハッキングを掛けて記憶を操ると、生じた疑念に紅葉は答えてあげた。
 このグランドロンは研究者であるという面が先に立って、炬燵で食事する時の事故に疎いのだろう。
「あ、今度も当たりました。私でも、やれば出来るのです!」
 紅葉は貯めておいた力を開放し、当て難い技を連続で命中させた。
 そして彼女の生み出した力は膨大で、炬燵の本体をさらに凍らせていくではないか。
「私が抑えておくとするよ。後詰を頼めるかな?」
「任せろ!」
 ディミックが背中の幾何学模様から光を発した。
 それはダモクレスを押さえつけ、そこへジャスティンが剣を構えて踊り掛かる。
 大上段からギザギザの刃を押し付けると、敵の装甲が剥がれ落ち氷や炎が内部まで入り込んでいく。
『緊急事態発生。きんきゅ……う。きんきゅう』
「あちち! だが逃がさない!!」
「いや……。後詰はそういう意味じゃないぞ。助手、水だ!」
 敵が燃え上がってもジャスティンは離そうとしない。
 仕方ないので学は助手に突撃させて、水を浴びせながらカバーさせることにした。
 もっとも手元に水がないので、飛びこんでカバーするだけだが。
「こいつで、終わりだ!」
 最期に千翠が大鎌を投げつけトドメを刺した。
 戻ってきた刃を受け止めれば戦闘終了である。

「なんだ。後少しだから最後までって意味じゃないのか」
「……まあ実際直ぐだったけどね。……修復しましょうか」
 信じ込み易いジャスティンの言葉にキリクライシャは苦笑しながらヒールを始めた。
「乾燥した季節だから、火元になりそうなものも、ついでに用心して片づけておこう。草木も萎れてしまっていそうだから、水やりをしっかりとね」
「火事の原因が残らないよう、いつも以上に気を付けなければなりませんね」
 ディミックとエレスもその列に加わり、過去のデータを元にして修復する。
「水か。ちょっと見つからないけれど。薬液の雨よ、皆を癒してあげてくれ!」
「修復と風に当たるついでに探しておこう」
 カシスは周囲に薬剤の雨を降らせ消火活動に当たる。
 学は電流で水道でも動かそうと考えながら、消火栓を探すことにした。
「こんなもんかな。しっかし敵が居なくなると途端に寒くなるな」
「寒い時期が続いていますし、炬燵がまた恋しくなってきますね。帰りに知り合いの家にでも寄りますか」
 千翠が残骸の整理をすればすべて終わりだ。エレスはお土産は何が良いかなと首を傾げる。
「炬燵に入るとまた出たくなくなりますけどね」
「それは仕方ない」
 紅葉とカシスは心理を悟ったかのようにため息を吐いた。
 だが今日くらいはゆっくり炬燵で休んでいても良いのではないか。そう思いながら一同は帰還するのであった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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