静謐の花

作者:崎田航輝

 木々が風に揺れて、静かに音を立てる林の間。
 小学校の裏山の奥にある、小さく開けたその空間に翔太は今日もやってきた。
「来たよ、晴樹」
 まだらに花が咲く地面に座り、少年は話すように笑いかける。
 ただ、そこには翔太ひとりしかいなくて、応える声はない。独り言を喋るように、自分の声が静かに響くばかりだ。
 翔太には勿論、そんなことは判っている。
 親友は事故で死んでしまったのだと、何度も言われた。もう二度と話せないとも言われた。ここに来たってもう誰とも会えないとも。
 それでも翔太はここにいる。前によくやったように、放課後ここに立ち寄って、なんとなく下らない話をしている。
 そうしていると、そこで本当に晴樹と話しているような気になれるから。
「それでさ、今日授業で……」
 一人で話し続けながら、ふと先生や母親の心配そうな声を思い出す。
 けれど何かを認める事を拒むように、翔太は首を振る。それからふとそこに咲く紫の花に触れていた。
「綺麗だよね、この花……。名前、前に教えてもらったっけ」
 何だっけ、と、思い出そうとした──その時だ。
 不意にその花が揺れ、蠢き出す。
 何が起きたのか、翔太には判らない。けれど空から舞い降りた胞子がその花弁に取り付いて──巨大化しながら襲ってきたのは確かだった。
 翔太は花に取り込まれ、意識を明滅させる。
 ゆっくりと手を伸ばしながら、その内に朦朧と何かの幻を見たのだろうか。
「……、晴樹、そこにいるの……?」
 掠れた声を零しながら。ゆっくりと夢に落ちるよう、目を閉じていった。

「攻性植物についての事件が予知されました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「謎の胞子を受け入れたらしいアネモネの花が、攻性植物に変化して一般人に寄生するという状況のようですね」
「警戒はしていましたが、現実となってしまったんですね」
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が言えば、イマジネイターは頷く。
「ミントさんの情報提供のお陰で対処できる事件でもあります。確実に撃破し、被害を広げないようにしましょう」
 場所はとある学校の裏にある山中。
 被害に遭うのは一人でやってきていた少年だ。
 周囲に他のひとけはなく、避難誘導などは必要ない。
「戦闘に集中できる環境と言えるかもしれません。ただ……」
「敵は少年と一体化していて、普通に倒すだけでは少年も、死んでしまう──ですか」
 ミントの言葉にイマジネイターは静かにええ、と応えた。
「これを避けるためには、ヒールを併用した作戦で戦う必要があるでしょう」
 相手を治癒しながら戦闘を進めて、深い傷だけを蓄積させてゆく。容易くはないが、これによって攻性植物だけを撃破できるはずだと言った。
「そうすれば、少年は助かるんですね」
「その可能性は高まるでしょう。助けられる命があるなら助けてほしいとも思います」
 その上で作戦を考えてくだされば幸いです、と。イマジネイターは皆を見回して、言葉を結んでいた。


参加者
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
御手塚・秋子(夏白菊・e33779)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
ルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●闇
 風に揺蕩う木々が、静かに葉を擦れ合わす。
 哭いているようなその音が響く山の奥地に、開けた空間はあった。
「……まさか、本当に現れるとは」
 真っ直ぐに奔りながら、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)はそこを見つめる。
 花の咲く小さな場所。
 そして中心で蠢く紫の異形。
 変異し巨大化した花。鮮やかな程の色彩が今は不思議な程毒々しく映った。
 警戒していた存在が現実に出現したことに、ミントは僅かな驚きを抱いている。けれど同時に冷静さもまた、崩さない。
「こうして駆けつけられたことは不幸中の幸いでしょうね。この悲劇、起こさせませんよ」
「──うん」
 隣を駆ける小柳・玲央(剣扇・e26293)も頷いた。
 見据えるのは、流動する花の中に垣間見える一人の少年──翔太の姿。
 この出来事が起こる事は避けられなかった。けれど、後手だろうと助けられるなら絶対に助けたい、そうに決まっているから。
「皆、行くよ」
「……ん」
 応えて蹄で地を蹴るのは、オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)。空間へ飛び込みながら、翔太の顔へ声をかけていた。
「助けに来た、気をしっかりと、持って」
『……、う……』
 翔太は朦朧と呻く。瞳を閉じ、言葉は深い闇に向けるように。
『……晴樹……、いる、の……?』
「──いいや」
 その声に返すよう、エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)は首を振って歩み寄っていた。
「翔太君、君の友人は『そこ』にはいない」
 意識の水底に声を届けるよう、はっきりと言ってみせる。
 それに翔太は微かに身じろぐ。まるで暗闇に光に似たものを見つけたかのように。
 だが──直後には巨花が翔太の体を蔓の中へ呑み込んだ。取り込んだ命を、渡さないとでも言いたげに。
 だから皆と頷き合い、エリオットは星剣を抜く。
「待っていて、必ず助けるから……!」
「……ああ、戦おう」
 そう声を継ぐのは白妙の少女──ルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)。
 己が内に巡る思いはある。
 けれど今やるべきことは一つと知っているから、髪を淡く撫ぜるように、そのバレッタに指を当てている。
『──』
 ただ倒すだけではあの少年も道連れになってしまう。
 なら、必要なのはそうさせないための布陣。瞬間、紡ぐ唄声が優しい風のように木々に反響し、皆を守護していた。
 それを合図にするように、ミントが巨花へ肉迫している。
「電光石火の蹴りを、見切れますか?」
 刹那、跳躍して木を蹴り方向転換。切り裂く蹴撃を横合いより叩き込んだ。
 敵の体勢が崩れれば、オルティアが正面より跳んで。そのまま速度も膂力も込めて脚を突き下ろして強烈な打撃を加えた。
 巨花は嘶き、棘の生えた茎を振り回す、が。
「危ない、けど」
 光を湛えた翼で、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)が掻い潜るように翔び抜けていた。
 至近から伸びてくる茎も、翻って回避して。白色の雷光を矛先に帯びさせて一閃。眩い刺突で花弁の一端を貫いた。
 下がった敵が激しく蠢いたと見れば──。
「反撃、来ます」
「了解しました」
 飛び退いた右院に代わって前へ出るのが天原・俊輝(偽りの銀・e28879)。巨花が放ってくる芳香混じりの突風を、己が体で受け止める。
「足止めを」
 と、同時に傍らへ声をかければ、ビハインド──娘の美雨が手を伸ばし、木の葉の嵐を起こさせて花を食い止めた。
 その間隙にしゃらりと鎖を構えるのが御手塚・秋子(夏白菊・e33779)。
「残った傷はすぐに治すからね」
 軽く握り締めたその手先から、魔力の光を纏った鎖は──宙を奔ると共に眩い光の軌跡を残し、魔法陣を成していく。
 そこから立ち昇る輝きが皆を包むと、俊輝を含む前衛の皆に護りと癒やしが齎された。
「これでひとまずは、平気」
「では、僕は皆の補助を」
 と、エリオットが蒼空より星灯りを降ろして加護を広げれば、防護は万全。
 俊輝は反撃に移り、抜刀して一撃。弧月の剣閃で巨花の根元を切り裂いてみせる。
「今です、連撃を」
「任せて」
 頷き、足元で軽くリズムを取るのは玲央。
 嫋やかに、同時に風に踊るように剣舞を繰り出して──生み出すのは烈しい衝撃波。巨花を包む葉の一端を爆散させ、少年の体を表面に顕にさせた。

●檻
 翠の破片が舞う中で、垣間見えた翔太は今も目を閉じている。
 僅かに花の呪縛が解けたようでもあるが──変わらぬ茫漠とした意識で、か細い声を零していた。
『……ここは、どこ……、晴樹、は……』
「“ここ”にあなたの大切な人が、いるかどうかは分からない」
 オルティアは呟きを返す。
 思い出の場所だという、この静かで小さな空間を見渡して。或いはここで、見守ってくれていたりするのかもしれない、と思いながら。
 人が死んでしまったらどうなるのか、それをオルティアは明言は出来ない。
「それでも その花は、違う――それだけは、確か」
「ええ。ですから、必ず助けます。今は辛抱して下さいね」
 ミントは言いながら手を伸ばしていた。
 正面から、巨花が棘を放ってきていたのだ。だがミントは空気を爆縮させて──。
「吹き飛ばしてあげましょう」
 花が咲くが如き衝撃を炸裂。強烈な破砕音と共に棘を砕け散らせている。
 大きく傾いだ巨花は瀕死となっていた。
 が、直後にはオルティアが『伝令走技:闘翻静走』──自身へ軽量化の魔術をかけることで瞬時に接近。治癒のグラビティを注ぎ込んで浅い傷を回復させる。
 右院も虚空を輝かせ、淡い光を抱いた雫を零させていた。
 それは『蛇と蜂蜜』。
 呪いで魔物にされた女神と、呪いを解く霊薬、それらを巡る冒険物語に宿る生命の力を借り受けて現世に顕現させる力。
 現実に呪いを打ち消すその光で敵を癒やしきると──右院は翔太へと言葉を伝えた。
「大丈夫、その体を縛っているものは、すぐに斃すから」
 少年にかけられる言葉は多くない。だから今はただ騎士として、言える事を形にした。
 巨花は翔太に反応すら許さぬよう、再び蠢き出す。
 だがエリオットも同時に疾駆。さらりと金髪を靡かせながら迫り、鮮烈な光を纏った剣先を花弁へ突き刺した。
「このまま次の攻撃を」
「判った、任せて」
 声と共に、美しき蒼色が踊る。
 とん、とん、と。玲央が敵の周囲を廻りながら、その手に鮮やかな焔を棚引かせていた。
 燿く軌跡を追って巨花は棘を放つ。だが玲央はそれをあしらうようにステップを踏み、真後ろを取ると一撃。弾ける炎弾で茎を灰にした。
 戦慄く巨花は、小さな花弁を雨のように注がせてくる。それは刃のように降る衝撃、だが秋子は焦らなかった。
 剣を振り上げるように星屑の輝きを撒いて、宙で星座の煌きを構成。深い護りの加護を皆へ宿させて治癒していく。
「後はお願いね」
「ああ」
 と、ルイーゼも小さく短い舞踏。仄かに紡ぐ歌と共に、粉雪のような花風を舞い込ませて皆の苦しみを拭い去った。
 攻撃できる余地も在ると見れば、ルイーゼはそのまま攻勢。花のパズルから眩い雷華を咲かせ、葉を灼き切っていく。
 巨花もよろめきながら地を這ってきた、が。
「──させません」
 木漏れる雨滴のような、静やかな声音を俊輝が響かせた。
 瞬間、その心に応ずるように美雨が風を吹かせて巨花を縛る。
 俊輝はそこへ接近し、跳躍。涼やかで──同時に苛烈な蹴り。花弁の一枚を四散させ、巨花の本体をも倒れ込ませた。

●花
 いやだ、と小さな声が聞こえる。
 それは未だ判然としない意識で少年が洩らす、弱々しい声。
 蔓がほどけ、花弁が減り、縛めが少しずつ無くなって。そうして自分の命を取り戻そうとしている──そのことをまるで拒否するかのように。
 誰かがいない世界と景色に、向き合うことを拒むように。
 そうして目を閉じて、自ら闇に沈もうとするように眠りを求める。けれど──俊輝は小さく首を振っていた。
「死んでしまったらもう話せない、会えない。それを認めることは辛いことでしょう」
 けれど、と真っ直ぐに翔太を見つめて。
「貴方が死んでしまったら、誰が晴樹君の事を思い出だすんです?」
『……、晴、樹……、僕は……』
 篭もった声が響く。エリオットはその声音に目を伏せていた。
 彼の気持ちは自分も痛いほど判る。
(「僕だって、目の前で救えなかった命を、何度見送ったことか」)
 ──でも、それじゃ駄目なんだ。
「今君が死んだら、残された親御さんや周囲の人々が悲しむ。何より亡くなった晴樹君自身が、きっとそれを望んではいない」
 そしてこれ以上誰かの悲しむ姿は見たくないのだと。
 エリオットが声を張れば、玲央も言葉を投げていた。
「心配してくれる人達が……家族が居るってことを思い出そう、翔太」
『……、う……』
 翔太は苦しむように唸り、激しく身動きする。すると巨花はまるでその心を具現させるよう、激しく棘をばら撒いた。
 ミントはそこへ躊躇わずに疾駆する。
「攻性植物──人を蝕む貴方の魂を、食らい尽くしてあげますよ」
 そのまま深い青の光を湛えて、叩き込む拳で棘を砕き、蔓を粉砕した。
 巨花の傷が深くなれば、俊輝が『慈雨』──優しくも穏やかな癒やしの雨を降らせ、即座に処置をしていく。
「あと少し……皆さんは攻撃を」
「うん」
 玲央は悠久を詠う歌を紡ぎ、敵の魂を摩耗させるように傷を付けていく。
 巨花はそれでも残る棘を全て飛ばした。が、玲央が防御して衝撃を抑えてみせれば、その直後には秋子が天を仰いでいる。
「翔太さんは連れていかせない」
 だから誰も斃れさせないのだと。
 降り注ぐのは魔力で創られた赤い剣、『Recuperare』。玲央に触れたそれは硝子の如く砕けて苦痛を消し去っていた。
 ルイーゼが拳に癒やしの魔力を込めて、そこへ一打を与えれば──玲央に残る痛みはもう失せている。
「頼む」
「ええ!」
 エリオットが魔力を収束させて敵へ施すと、それが最後の治療。
 それを機に右院は宙を翔け、刃を振るって無限の剣を巨花へ注がせた。
 隙間のない衝撃の雨が巨花の体力を削っていくと、オルティアは光の剣を具現している。
「これで……終わり」
 瞬間、奔り抜けながら斬撃を放ち──異形の花を切り裂いて少年を解放した。

 花の跡形は残らず、そこに倒れ込んだのは翔太一人。
 ミントはすぐにその体を抱き上げて応急手当をしていた。
「大丈夫ですか?」
「う……僕は……」
 皆もヒールをかけると──ゆっくりと目を開けた翔太は、始め木漏れ日と皆の顔を見上げてぼんやりとする。
 けれどすぐに何があったのかを思い出すように、静かに俯いていた。
 誰にも聞こえないように、何かを呟きながら。
 秋子はそこへそっと歩み寄り、自身の見目を変容させた。それは頭に美しい紫の花を飾った、平素と秋子との表裏の姿。
「私は花──」
 その声と、花に自然と目を惹かれるように翔太は目を上げる。
 秋子はその瞳に言った。
 ──私は、誰かが来てくれるのをずっと待ってる。
 ──でも摘まれるとすぐに枯れてしまう。
 “貴方もそう?”と尋ねるように。
 それは戦っている最中も、今も──その死を受け入れたら壊れてしまうと、助けてと、聞こえた気がしたから。
 或いは少年自身に、その心を知って貰うためでもあったろう。
 翔太はその花を見つめて、微かに唇を震わせていた。
 俊輝は優しく語りかけるように、周囲にも視線をやっていた。
「この花は、アネモネ、ですね」
 紫色の花言葉は、『貴方を信じて待つ』、『悲しみ』。又は女神が失った人を想って流した涙、とも謂うのだという。
 彼がそれを何処まで知っているかは判らないけれど。
「花を見て、昔を思い出していたのですね。──君はもう、晴樹君が居ないことを、本当に解っているのでしょう」
 言葉に、翔太はぐっと息を詰まらせる。
 その仕草に、秋子は続く言葉を強要しない。そしてそれはオルティアも同じ。別にその何かを無理に認めなくたっていいと思っていた。
「……何も、言いたくないなら、言わなくてもいい」
 翔太はそれに微かにだけ頷く。けれど、次にはぽろ、と一粒の涙を零して──また一粒、もう一粒と雫を流し始めた。
 秋子は落ち着くまで、そんな翔太を抱きしめてあげる。
 きっとそれは何かが解けた瞬間。
 全ては本人が決めることだけれど、右院は話した方が楽になるだろうと判って言った。
「晴樹くんの事、聞いてみたいな」
「……うん」
 翔太はたどたどしく、つっかえながら話し始める。
「ゆっくりで、良いからな」
 と、ルイーゼは穏やかに言った。
 ルイーゼ自身、地球で目覚めるまでの記憶は真っ白で──その後も身近な喪失など経験がない。そして自身が思う以上に、死への躊躇いがない。
 だからどう言葉をかければ良いのか、答えは出なかったろう。それでも少年が淋しいのだと、それだけは察することが出来たから。
 翔太は頷いてぽつぽつと話す。親友との出会い、ここでのこと。そして、ある日突然死んでしまったことを。
 右院は命について少年を導く解も、真っ直ぐ語れる強さもない。
 それでも今は、番犬だから。
「よく話してくれたね」
 そう言ってそっと頭を撫でた。
 翔太はまた少し泣く。そこから虚ろな感情は、僅かに減っているように見えた。
 今すぐにじゃなくて、きっと少しずつ受け入れて行くんだと、秋子は思う。
 エリオットも同じ気持ちで、翔太へ視線を合わせた。
「今はまだ辛いかもしれないけれど、どうか前を向いて、彼の分まで生きて下さい」
 大切な人の幸せが、きっと彼自身の望みだろうから、と。
 ん、と小さく応える少年に、玲央は花を示した。
「ここのアネモネ、植え替えて持ち帰って、世話をしてみるとかどうだろう。許可は取れると思うから」
 きっと思い出の物も場所も他にもあるはず。だからそれをひとつずつ回ったり、集めたりして、ひとつずつ思い出して。
「ひとつずつ……君の中に、大切にしまう場所を見つけるといいと思う」
「花……」
 翔太は短くそれを見つめていた。それから少ししてうん、と頷く。
「無理だけは、しなくていい、から」
 オルティアは最後まで言って聞かせた。
 人生は長くて、けれど短いもの。少しくらい抱えるものがあっても、走り抜けることも出来るだろう。
 いつか、腕に重さを感じたなら──その時にはちょっと下ろして休んでみればいい。きっと、それだけのことだから、と。
 その優しさにも、翔太は頷く。涙は涸れていなかったけれど、その表情はほんの少しだけ、前向きに見えた。
「……胞子はどこから飛んでくるのかな」
 玲央は空を仰いで呟いた。
 その軌跡は見えない。言葉にも答えは返らない。ただ、今だけは──木々の間から見える空は、清く晴れ渡っていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。