セクシーナースは好きですか?

作者:雷紋寺音弥

●セクシーナースの天啓
 曇天の空の下、聳え立つは白い巨塔。都心にほど近い場所に位置する大病院には、入院患者が耐えることはない。
「佐々木さ~ん、検診ですよ~」
 病室の扉を開け、看護師が患者の検診に現れた。名前を呼ばれ、青年は面倒臭そうに両手を伸ばす。入院理由が病気ではなく怪我なので、身体が鈍って仕方がない。
 どうせまた、いつもの看護師に変わり映えのない問診をされて終わるだけだろう。そう思い、ふと顔を横に向けた瞬間……彼は目の前に立っている看護師に、思わず釘付けとなった。
「おわっ! もしかして、新しい看護師さん!?」
 青年の瞳が、期待に満ちた色に染まって行く。そう、彼の前に立っていたのは、今日付けで彼の担当になった新米看護師。しかも、何故かグラビアアイドル並にスタイルが良く、ナース服がはち切れんばかりの巨乳を持った、セクシーナースだったのである。
「あっ……あばばばばっ!!」
「きゃぁっ! だ、大丈夫ですか!?」
 突然、痙攣を始めた青年の身を案じ、看護師が彼の手を取った。だが、それは更なる刺激となって、ついに青年の身体から凄まじい光が迸り。
「ヒャッハァァァァッ! スタイル抜群の巨乳最高! セクシーナースこそ、大正義だぁぁぁっ!!」
 全身から羽毛を生やした鳥頭の怪人と化した青年は、骨折した足さえも完治させると、そのまま病室の窓ガラスをブチ破って外へと飛び出した。

●アブない、白衣の天使!?
「はぁ……。ついに病院にまで、おかしなビルシャナが現れるようになっちゃったんですね……。もう、いい加減にして欲しいです……」
 季節も場所も関係なく無節操に現れるビルシャナだったが、さすがに病棟で暴れるのは勘弁して欲しい。そう言って、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は大きな溜息を吐くと、ケルベロス達に自らの垣間見た予知について語り始めた。
「エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)さんが心配していた通り……白衣の看護師さんに、イケない妄想を暴走させるビルシャナが現れちゃいました」
 今回の事件は、個人的な趣味趣向の『大正義』に出会った一般人が、その場でビルシャナ化してしまうというものである。そして、何を隠そうビルシャナになってしまう者の主張する『大正義』こそ、『ナイスバディのセクシーナースこそ大正義』というものだった。
「ビルシャナ化した人を放っておくと、周りの人達を巻き込んで配下にしたり、新しいビルシャナを誕生させたりしちゃいます。そうなる前に、やっつけないといけません」
 ねむの話では、ビルシャナになるのは病院に入院している患者の内の一人で、新しく担当になった看護師さんが思い他にナイスバディだったことで、歓喜極まり覚醒してしまうらしい。放っておくと、彼は窓ガラスをブチ破って病室から抜け出し、周囲に自分の大正義を広めるべく主張を始めるので、やってられない。
「大正義ビルシャナになった人は、戦いになると……そ、その……変なお薬を注射したり……えっちな診察で攻撃したりしてきます」
 具体的には、全身の感覚を鋭敏にさせて痺れさせる薬を注射したり、召喚した診察台に相手を拘束して動きを封じて来たりするようだ。また、自らの妄想を具現化させることで気力を補充し、体力を回復することもあるので油断できない。
「えっと……後は、周りにいる人達を逃がすときは、グラビティとか特殊な能力を使わないようにしてください」
 仮に、それらの技を使ってしまうと、ビルシャナは即座に戦闘行動へ移ってしまい、一般人を巻き込んでしまう可能性が高い。
 幸い、大正義ビルシャナはケルベロスがグラビティや、それに準ずる特殊な能力を使用しない限り、自分の大正義に対しての意見を言われると、問答無用でそれに反応してしまう。その性質を利用して議論を挑みつつ、一般人の避難を行えれば完璧だ。
 なお、賛成意見にしろ反対意見にしろ、本気の意見を叩きつけなければビルシャナの意識をこちらに向けることは不可能である。色々と突っ込みどころのある大正義だが、恥じらいを捨てて『セクシーナースは至高か否か』を論じなければ意味はない。
「看護師さんは、病気や怪我で苦しんでいる人を癒してくれる大切な人なんです! そんな看護師さんで、えっちなことを考えるなんて、いけません!!」
「確かにね……。そもそも、巨乳とかセクシーとか、看護師さんに必要なものなのかなぁ……」
 ねむの言葉に、自らも溜息を交えつつ、素朴な疑問を口にする成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)。今回もまた、色々と頭の痛くなりそうな依頼だと、ここ最近で愛用し始めた釘バットを握り締めた。


参加者
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
除・神月(猛拳・e16846)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)
シーラ・グレアム(ダイナマイトお茶目さん・e85756)

■リプレイ

●爆誕、セクシーナース大正義明王!?
 白い巨塔の一室にて、何気ない顔で息を潜めるケルベロス達。ある者は見舞客のふりを、また別の者は看護師のふりを。それもこれも、この病室にいる青年が、ビルシャナになるという報を受けたからである。
(「なんともまぁ、欲望に忠実な変貌動機だこと。ビルシャナらしいと言えばらしいけど……」)
 待合所で待機しつつ、ステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)は早くも呆れ果てていた。
(「むぅ、今度の変態は看護師さん狙い? また変態な仲間を増やされる前に退治しないとね」)
 同じく、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)もまた、油断なくビルシャナの出現に備えて身構えている。
 そう、今回のビルシャナは、放っておけば爆発的に仲間を増やすかもしれない危険な存在! 変態信者を増やすだけならまだしも、変態ビルシャナを大量増殖させられでもしたら、今に日本中が変態色に染め上げられ兼ねないのだから!
(「医療従事者はセクシーアピールする暇があったら、私の美貌のメンテナンスをお願いしたいのだけれど。それはそれとして……」)
 ふと、シーラ・グレアム(ダイナマイトお茶目さん・e85756)が横を見れば、そこには看護師に扮したエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)と除・神月(猛拳・e16846)の二人がいる。もっとも、その恰好は今時の看護師にしては随分と女性を強調しており、ナースキャップにミニスカートな恰好は、時代に逆行していると言えなくもなかった。
 もしや、この病院は、ちょっと設備や感覚が古いのではあるまいか。まあ、それはそれとして、問題なのは看護師の制服よりも、それを装って潜入するという作戦だ。
(「むぅ……。看護師に扮したはいいが、やはり本職と入れ替わるのは無理があったか……」)
(「まあ、当然っちゃ当然だよナ。ぜってー守るって約束しても、医者が看護師や患者を危険に晒す選択するはずがないってカ」)
 病院を預かる医師の立場からすれば、いくらケルベロスからの要請とはいえ、患者や看護師を囮にするのは認められない。避難をしろと言われても、ビルシャナ化する予定の青年だけ放置して、全ての入院患者を外に逃がすなど無理がある。
 結局、この病院の中で決着を着けねば……あれ? そういえば、このビルシャナって、放っておけば勝手に外に出て来るんじゃありませんでしたっけ? つまり……苦労して潜入などしなくとも、窓ガラスをブチ破って現れたところを取り囲んで、そのままボコボコにすれば良かったのでは?
「えっと……もしかしなくても、外で待ってた方が良か……って、あの悲鳴は!?」
 気付いてはいけないことに気付いてしまい、思わず呟いた成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)だったが、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。なぜなら、目的の青年がいる病室から、看護師の悲鳴が聞こえたのだから。
「どうやら、現れたみたいですね」
 ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)が、拳を握り立ち上がった。円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)とシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)の二人も、それに続く。
「気持ち悪いビルシャナだけど、放っておくわけにはいかないしね」
「確かに、自己判断で退院するのは良くないですよね。これはぶったたいて再入院……いや、死体安置室に叩き込むしかないですね」
 タイミングを逃せば窓から外に逃げられてしまうため、一斉に扉へと殺到するケルベロス達。色々と思うところはあったが、この病室内で事件を終わらせると決めた以上、まずはビルシャナを引き付けた上で、他の患者を避難させることが先決だった。

●セクシーナースの危険な診察?
「ヒャッハァァァァッ! スタイル抜群の巨乳最高! セクシーナースこそ、大正義だぁぁぁっ!!」
 病室の扉を開けるなり、部屋の中に響く甲高い声。呆気に取られて動けなくなっている巨乳看護師を他所に、ベッドの上では骨折さえも全回復させたビルシャナが、ドヤ顔で主張しながら覚醒していた。
「そこまでだ! 病院は、怪我や病を治すための場所だぞ。ふしだらな考えは、健康を得てから自宅で十分にすれば良かろう」
 まずは、看護師に扮したエメラルドが、開口一番にビルシャナを制した。
 もっとも、その程度で退くのであれば、青年もビルシャナになどなっていなかっただろう。案の定、自分の主張を否定されたことに腹を立て、自分こそが正しいのだと反論して来た。
「やっかましい! そもそも、病は気からと昔から言うだろうが! セクシーナースは、単に看護をしてくれるだけでなく、存在そのものが癒しなのだ!」
 その癒しを以て患者の自然治癒力を強化するのだから、セクシーナースこそ看護師たる者の正しい姿だと、ビルシャナは声高に叫び続ける。なんとも酷い屁理屈だったが、叫んでいる本人がミリ程の疑いも持っていないため、もはや完全に救いようがない。
「そもそも、英語では男の看護師もナースなんだよ? つまり……男女平等に働くこの時代、セクシーな女性看護師を認めるなら、はち切れんばかりの筋肉を見せつける、セクシーな男性看護師ナースもアリだと思うんだけど?」
 真の平等を目指すなら、セクシーナースならぬガチムチ兄貴マンナースも認めるべきだろうと、ステラが続けた。実際、マッスルナースは体力にも優れているので、介護を求める患者の多い病院では、需要もあると思われると。
「なるほど、一理あるな。だが、それは女性が求めれば良い話だ。俺は男! 故に、俺が求めるのは女性のセクシーナースのみ!」
 もっとも、そんな理屈だけで納得するビルシャナではなく、あくまで自分は女性のセクシーナースを求めているのだと言って譲らない。その視線は、いつしかナース姿のケルベロス達……特に、童顔巨乳なキアリへと向けられており。
「……物凄くぞっとしないけど。そして、あの鳥の粘つくような視線が気持ち悪いわ……」
 ナース服を着た自分に向けられるおぞましい視線を察知して、キアリは思わず身を震わせた。しかし、両腕で胸元を抱えるように身体を丸めたため、却って胸が強調されて、ビルシャナの視線をより一層に引き付けてしまった。
「おお、君も看護師さん……いや、まだ若いし、見習いの学生さんか? その歳からセクシーナースの素質があるなんて、素晴らしいよ……はぁ、はぁ……」
「……ッ! キモッ!!」
 あまりに下賤なビルシャナの言葉に、思わず本音で叫ぶキアリ。
 冗談じゃない。こんな変態の妄想材料にされるだけで、こちらとしては不愉快極まりないことだ。
「ふざけないで! セクシーナースで癒しとか、一部の変な人だけしか喜ばないわよ!」
 文句があるなら、自分を納得させるような根拠を示してみろ。それができれば、そちらの専属セクシーナースとなって、どんな願いでも聞いてやる。そんな風に煽られれば、ビルシャナとて黙ってはいられない。
「根拠だと? ならば、改めて教えてやろう! 先にも述べたように、セクシーナースは究極の癒し! そのダイナマイトボディを使って、荒んだ患者の心まで癒してくれる、究極の看護師にしてセラピストなのだぁっ!」
 それが分かったら、さっさと諦めて奉仕しろ。そう言って、ドヤ顔で迫るビルシャナだったが、キアリは完全にドン引きしていた。
 ビルシャナに大正義を語らせることで時間を稼ごうとしたものの、このままでは先に自分の方が穢されてしまう。こうなったら、あまり認めたくはないのだが……ビルシャナの主張に敢えて乗っかり、煽てて時間を稼ぐしかない!
「いいですよね、セクシーなナースさん」
「分かるゼ。こーゆーのってエロロマンだよナ?」
 シフカと神月が、次々にビルシャナへと賛同の意を示し、その教義の有用性を語って気持ちを高揚させて行く。
 娯楽の少ない入院期間。美人が近くに居てくれるだけでも最高な上に、そんな人が自分の世話をしてくれるなど最高だ。露出の少ない恰好の下を妄想するだけでも楽しいし、なによりも白衣の天使という清純そうなイメージの存在に対して、やってはいけないことを色々と妄想するから興奮するのだと。
「ふっふっふ……君達、分かっているじゃないか。そう、セクシーナースとは、人類にとって宝なのだ! 白衣の天使であるならば、自らの身体と心を以て、患者を癒すべきなのだぁっ!!」
 煽てられたことで完全に調子に乗ったビルシャナは、もはやマシンガントークが止まらない。その間に、リリエッタやステラが他の患者やかんを逃がしているのだが、それにさえ気が付いていないようで。
「セクシーナース、最高よね! あなた趣味がいいわ」
 駄目押しとばかりに、昔ながらのナース服を纏ったシーラが、モデル歩きをしながらビルシャナの前に現れた。その後ろからは、同じくカルテや体温計を持った、ナース姿のミスラも続き。
「セクシーナースもいいですけど、最初からセクシーなだけのナースでは、ただの特殊なお店のコスプレと変わりないですよ」
 本当に至高なのは、甲斐甲斐しく世話を行う清潔清楚なナースが、無意識に見せるお色気要素だ。そう言って、まずは検温から始めようと、ミスラがビルシャナの脇に体温計を挟んだのだが。
「ん? おぉぉぉぉっ!!」
 その瞬間にミスラの胸がビルシャナの顔面に当たり、体温も合わせて急上昇!
 人知を超えた存在であるデウスエクスだったことも相俟って、電子体温計はオーバーヒートを起こし爆発した。
「きゃぁっ! す、凄いお熱です!!」
 しかも、爆発に驚き尻もちをついたせいで、ミスラのスカートの中が丸見えに! そして、一見して清楚なナース服の下から覗くのは……黒レースのハイレグTバックパンティにガーターベルト!
「うっひょぉぉぉっ! これだよ、これぇっ! 清楚な皮の下に隠れたセクシーさ! 最高だぁぁぁぁっ!!」
 ビルシャナの血圧は更に上昇を続け、このままでは熱気で部屋まで吹き飛びかねない勢いである。さすがに、それは拙いので、流れを変えるべくシーラが近づいて行き。
「は~い、お注射の時間ですよ~」
 まずはビルシャナの血管に、空っぽの注射で空気を注入! 心臓に入れば大変なことになってしまうが、デウスエクスはグラビティ以外では死なないので問題ない。
「ちょっ……ま、待て! 今、何を注射し……もががががっ!!」
「お薬たくさん飲んで、早く治しましょうね」
 続けて、抗議の言葉を遮るように、今度は消毒液をリッター単位で口の中にブチ込んで嘴を摘まんだ。吐き出そうにも吐き出せず、ビルシャナは涙目でそれら全てを飲み込むしかない。なお、どれも実際にやったら完全に患者へ対する虐待&業務上過失致死罪なので、良い子は絶対に真似しちゃダメだぞ!
「はぁ……はぁ……。き、貴様ぁぁぁぁ! 何をするかぁぁぁぁっ!!」
 自分の信じていたセクシーナースのイメージをブチ壊され、これにはさすがのビルシャナも完全にキレた。しかし、そうこうしている間に、既に患者の避難は終わっており、部屋に残っているのはビルシャナとケルベロス達だけだった。
「患者さんの避難は、終わったよ」
「よ~し、後はあの変態鳥頭をやっつけるだけだね!」
 リリエッタと理奈が、それぞれ愛銃や釘バットを手にし、ビルシャナの前に現れる。下らない戯れやお遊びはここまで。ビルシャナへと覚醒してしまった青年には申し訳ないが……己の大正義に殉じる形で、このまま地獄へ逝ってもらおう。

●イケない、診察バトル!
 セクシーナースこそ大正義。そんなアホらしい主張のために覚醒したビルシャナだったが、しかし彼の妄執は思った以上に凄まじく、それは戦いにおける彼の強さへと直結していた。
「ふっふっふ……もう、逃げられんぞ。お前達は、今からこの俺が、直々にセクシーナースへ改造してくれる!」
 気が付けば、ケルベロス達の大半は、ビルシャナのグラビティによって生じた診察台に拘束されてしまっていた。おまけに、診察台から伸びる謎のアームや機械によって、あんなことや、こんなことをされてしまう始末。
「おや? 君は随分と胸が小さいね? さては……おっぱいの小さくなる病気じゃないのかな?」
 診察台に拘束した理奈に、ビルシャナがとんでもないことを言い放った。完全なセクハラである。しかも、それだけでは終わらずに、ビルシャナは診察台から伸びるアームで、理奈の胸に注射針を突き刺した。
「ひゃぁっ! やだぁ、おっぱいに注射しちゃ駄目……やぁぁ、そんなに強く揉まないでよぉ!!」
 謎の薬を馴染ませるべく、アームで胸を揉まれてしまう理奈。結局、今回もこんなオチである。せめて、これで本当に胸が大きくなれば良いのだが……どうやら、そんな効果はないらしく、むしろなんだか変な気分にさせられて行き。
「んひぃぃぃっ! も、もうダメですぅ、それ以上は……ぁぁぁぁっ!!」
 ミスラに至っては服さえも全て脱がされ、全身のあちこちにイケない診察を施されていた。針のない極太の注射器を挿入され、そこから謎の白濁液を注入され……もはや、完全に戦えるような状況ではない。
「これは目に毒すぎるね。リリちゃん、見ちゃ駄目だよ」
 あまりの酷さに我慢できず、ステラがリリエッタの視界を両手で遮る。しかし、見えなくしたところで現実は変わらないため、このままでは本当に、お子様には見せられない展開になってしまい兼ねない!
「あらあら、随分と刺激的な攻撃ね。でも……未成年に悪戯するのは、感心しないわねぇ」
 見兼ねたシーラがウイングキャットのお玉に命じ、清浄なる翼の風を吹かせて診察台から仲間達を解放させた。
「よし、拘束が外れた! ……アロン、殺っちゃって!」
 流れがこちらに向いたことを察し、まずはキアリがオルトロスのアロンを嗾ける。擦れ違い様に刃で斬り付けるアロンだったが、それはあくまで牽制だ。
「こちらは私に任せろ。その間に、ビルシャナを撃破してくれ!」
 ビルシャナがキアリとアロンに気を取られている隙を突いて、エメラルドが満身創痍のミスラを介抱して行く。しかし、そこで黙ってやられるビルシャナではない。彼の妄想パワーを以てすれば、自らの負傷した肉体を再生させることも可能なのだ。
「まだだ! まだ、こんなところで負けぬぞぉぉぉっ! 奥義、妄想リアライズだぁぁぁぁっ!!」
 己の妄想を具現化する形で、ビルシャナがセクシーナースへと癒しを求める。たちまち、爆発と同時に煙の中からセクシーナースが出現し……その姿は、何故かナース服を着たエメラルドの似姿になっていた。
「はぁ……はぁ……。さあ、看護師さん……俺の身体を、あなたの身体で癒してください……」
 大きく開いた胸元に顔を埋め、ともすれば手を自分の股間に誘導し……妄想なのを良いことに、好き放題のし放題!
「ちょ、ちょっと待て! 貴様、妄想の中で、いったい私に何をさせている!?」
 さすがのエメラルドも、これには動揺を隠しきれず、思わず叫んだ。
 え~と、これって回復系のグラビティですよね? それなのに、なんでこっちが精神にダメージを負わなければいけないんでしょうか? まさか、回復と同時に相手の心を破壊する二段攻撃!? おのれビルシャナ! なんて危険な存在なんだ!
「これ以上は、遊んでいると酷い目に遭いそうだね」
「どうせ助けられないんだし……一気に片付けちゃおう」
 凄まじく冷めた表情で、ゴキブリに向けるのと同じ視線をビルシャナに向けるリリエッタとステラ。自分の方にとばっちりが来るのは嫌だったので、一気に決めるべく銃を構え。
「あぁ、最高だ! 最高のおっぱ……ぎゃぁぁぁっ!!」
 妄想中のビルシャナへ、情け容赦なく弾丸を浴びせる。ライドキャリバーのシルバーブリットも加わってガトリング砲をブチかまし、四方八方からハチの巣に。
「セクシーナースを否定はしませんよ。ただ、ちゃんと『医療行為』だけをしていただけるのであれば」
 間違っても、風俗店のようなサービスを求めてはならないと、続けてシフカがビルシャナを斬り付ける。そして、最後は神月が後ろから組み付くと、ビルシャナの首元を腕で締め上げて。
「ほら、どうしタ? もう、おしまいカ?」
「ぐげげ……ぐ、ぐるじい……」
 強烈なチョークスリーパーを食らい、ビルシャナが力無く崩れ落ちる。もっとも、それで死ねたのであれば、まだ幸福だったであろう。
「うふふ……最後に、いいもの見せてあ・げ・る♪」
 満身創痍のビルシャナへ、シーラが地獄へと御招待。妄想には妄想で対抗とばかりに、そんな彼女が見せたのは。
「おや? 君、なかなか良い身体をしているじゃないか。ひとつ、中まで診察させてくれたまえ」
「うげっ! な、なんだ、お前は……い、いやだぁぁぁっ!!」
 ガチムチ兄貴マンなガチホモ看護師に、尻を掘られるという悪夢でした。
「おーほっほっほ! 私達に勝てると思って?」
 身も心も殺され、完全に沈黙したビルシャナの頭を、シーラがピンヒールで踏みつける。かくして、ビルシャナの下らない野望は打ち砕かれ、院内感染による変態の増殖も、無事に阻止されたのであった。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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