カメラロボ 最後の1枚!

作者:大丁

 どんよりとした曇り空に、よどんだ水面。
 人の気配もないその池には、護岸工事などもされておらず、森の茂みと葦原の境もあいまいだった。
 岸辺にむけて、小さな航跡が近づいてくる。
 上陸とともに姿を現したそれは、一眼レフカメラを三脚に固定したものだった。人の背丈まで伸ばしてある。
 いや、その脚は、まさしく足であって、ノコノコと自分から森へと歩いていくのだった。

 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)が説明した予知のとおり、森の中にある池に、廃棄家電ダモクレスが出現する。
「さいわい、付近に一般人はいないのお。避難誘導は考えなくていいけど、もしダモクレスをほっといたら、民家のある森の外まで移動されちゃう。池からあがってきたタイミングで到着できるから、岸辺で撃破しちゃってねぇ」
 調査にあたった、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)によれば、水底に沈んでいたカメラバッグにコギトエルゴスムが憑りついており、デジタル一眼レフカメラと備品一式が融合しているとのこと。
「本体のカメラは、形も大きさも元のままです。三脚から変化した三本足で歩き、上部にはフラッシュ装備です。ウェブデバイスまで融合していて、撮影された画像は即座にアップされるです」
 真理は、アイズフォンを開いて、仮のネット投稿イメージを示した。
 今回の予知とは直接のつながりはないが、過去にビデオカメラのダモクレスが出現した際も、同様の機能を使われたので、参考にしたらしい。
「カメラロボの『フラッシュ撮影』は、遠距離の1体に、熱をもたない灯りでもって切り刻んでくるグラビティです。ネクロオーブの『クリスタルファイア』と類似性があるです」
「ネクロオーブといえば、敵の魂を蒐集する仕組みよねぇ。カメラ……、写真機はかつて、撮ったものの魂を吸うなんて俗説があったらしいから、関係あるのかも」
 冬美も興味深く頷くと、真理の解説にお礼を言った。
「岸辺はぬかるんでるから、足元にも気をつけてねぇ。レッツゴー! ケルベロス!」


参加者
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
エル・ネフェル(ラストレスラスト・e30475)
ユリーカ・ストライカー(蒼撃天使・e36966)
ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)

■リプレイ

●池の畔
 木々の間に道はあるが、進むには藪をかき分ける。
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は、一輪のプライド・ワンを引きながら、呟いた。
「ネットに上げられると一生残る、って言うですよ……」
 二本の足で歩くケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)は、眼鏡をかけて。
「えーと。覆面とかで顔隠すといいかも?」
「……実は、です」
 真理は、もう用意していた蝶マスクをかぶった。
 変装であるなら、ケイトも地域の中学生っぽい体操服だ。途中の住宅街を抜けるためだったが、エル・ネフェル(ラストレスラスト・e30475)という、全裸の同行者がいる以上、効果があったかどうか。
「ええはい、皆さんの分はちゃんとヒールしますので。ご安心ください」
 最初から着ていなければ破りようがない。ただ、メディックが、仲間のダメージを認識できないのでは困る。
「自分については趣味を満喫しますが」
 森を抜けて、池の水面が、葦原の先に見えるようになる。
 マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)は、ジャケットにフィルムスーツ姿。スーツの演算回路で、周囲に特徴的なスポットがあれば発見できる。
「なにもない、目立たない場所ね。確かに人が寄り付きはしないわ」
「寂しい景色ですものね」
 エルの声に落胆があるのを、マキナは感じ取る。
 ユリーカ・ストライカー(蒼撃天使・e36966)は、逆に意気揚々。
「敵は一体だけ。戦場は人気のない池周辺。文句なしですね」
 銀色の水着、のはずがプルっと波うった。日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)は瞬きする。
「驚いてますね、蒼眞(そうま)さん。元々、体表にオウガメタルを纏わせただけの服装なのです」
 ある意味、全裸作戦だ。
「俺は、ネットに投稿されるにしても、身バレは避けたいぜ」
 お面をバンダナの上からつける。先日、神社に行ったさい、屋台で気まぐれに買い、持ったままだった。
「じゃあ、オレも!」
 ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は、マフラーを顔の下半分に覆った。
 だがむしろ、神宮・翼(聖翼光震・e15906)が、まったく対応するつもりがなさそうなのが、ロディには気がかりである。
「あ、覆面はしないね。服が破れるなら覆面も破れるだろうし。あたしぐらいのナイスバディなら顔隠しても一目瞭然だもんねー?」
 フィルムスーツ『ディーヴァズレイメント』の胸元を、手で持ち上げる。そして、何も言わない彼の視線を辿る。
「大事なことだからもう一度言うけど、あたしにだって羞恥心はあるんだよー? でもケルベロスとしての使命感とかそんな感じの、ね?」
「じゃあ、なんでそんなにニマニマしてるんだ……おっと」
 目に毒だとばかりにそっぽを向いたら、水面にキラッと光るものを見つけた。
 予知のとおり、ケルベロス8人の到着と同時に、その衣服を狙うレンズが顔を出してきている。
 デジタル一眼レフカメラと備品一式が融合した、廃棄家電ダモクレスだ。
「逃走を防ぐため、ヤツを包囲しようぜ」
 ロディは身を屈めて、すぐにそう提案する。ユリーカが応えた。
「はい。任せてください」
 メタルにも助けられて、水中呼吸できる。池にザブザブとはいって、カメラロボの後ろに回り込んだ。それと共に左右へと展開するケルベロスたち。
 ケイトは、葦原を奥側に踏み入った。
「敵のネットワークに侵入して改ざんとかは、さすがに難しそうですしね」
 三脚は、上陸を果たす。

●破壊活動
 ダモクレスを前にして、愛用の斬霊刀を構えつつ、蒼眞にも思うところがあった。
(「……中身入りカメラバッグって。こんな池に捨てるようなものじゃないし、ここで何かしらの事件があったんじゃないだろうな……?」)
 初手から絶空斬に、お面剣士が挑む。
 脚の一本で刃を返すと、カメラロボはマフラー男、ロディをファインダーに収めた。
「く……!」
 リボルバー銃にかかる指が力むが、ライドキャリバーに跨った真理が、レンズと被写体のあいだに割り込んで、通過する。
 その瞬間に、フラッシュが焚かれたようだ。ロディにも、シルエットとなった車上の真理のプロポーションを捉えた気がした。
 特等席にいたのは、蒼眞だ。
 白いフィルムスーツが、焼け縮むように剥がれて、乳房の跳ねるのを見たし、ぬかるみにタイヤをとられそうになりながらも、ハンドルを切り返して止まった裸身に、アームドフォートだけが残っているのも、見た。
 ライディングスタイルでは下半身までは判然としないのと、蝶マスクはしっかりと顔に張り付いている。
「早っ、もう全裸……いや速いぜ、さすが真理!」
 蒼眞はバレバレながらも歓びを隠してディフェンダーの仕事を評価し、ロディは庇われた恩返しに、達人の一撃を繰り出した。
 包囲が効いたのか、デウスエクスの足は止まっている。八方からの攻撃を続けた。
 三脚の上の機械も、旋回しながら、フラッシュ光を浴びせてくる。マキナがくらうと、最初の被害に対して驚きつつも冷静に流した。
「っ……、本当に写真に撮られるだけで破れるなんて……」
 ジャケットが、ボロボロに崩れて下生えに落ちた。マキナのフィルムスーツは、首元から腰までを一枚布で通す構造だ。
 サイドの甘さを上着で補っていたのである。両乳房の外側から、破れ目が山を登ってくるようなかたちだ。
 このサイドラインが頂上を越えるようなことがあれば、布地は谷間に落ち込み、頂点はおろか、バスト全体がまろび出るであろう。
 だが、マキナの両手はオーラに指示し、気咬弾を発するのに使われた。
 隠すつもりはない。
 そして、翼も隠すつもりが、まったくない。
 彼女のスーツも、ヒモビキニくらいに縮んでおり、あと一撃か、あるいは。
「BSマシマシでいくからね」
 トラウマボールを投げつける動作だけで危うかった。ジャマーとして、カメラの弱体化中心に動く。
 与えたトラウマに、元の持ち主の運命を伺えるような不穏さを示すものの、詳細は不明だ。
 ポロっといきそうな場面で、マキナはまた、翼を庇った。
「ありがとー♪ マキナちゃんもナイスだね」
「れ、礼には及ばないわ」
 平常を装う。ふたりともが、赤く染まった頬で、向かい合っていた。
 エルも、ファナティックレインボウの虹で被写体になりたがってはいても、上気した顔は羞恥心が募ってのことだ。
 そう、全裸で人里を闊歩してきても、である。
「どんなポーズがご希望でしょうかね?」
 挑発に、蹴り足は開いていき、大開脚となる。
 ケイトは轟竜砲の反動に、足を取られて尻餅ついた。体操服だけは残っているものの、豊満な中身の揺れが収まらない。
「あ! デジタルズームとか、したりしませんよね?」
 手ブラで隠すが、裾からチラしてるものと、あと顔も。写っちゃいけない優先順位で混乱した。
 エアシューズでしぶきをあげながら、ユリーカが防御に来る。メタル水着は健在だ。
 そのまま、射線を塞ぎながら、スターゲイザーで3本の足を順番に蹴りつけた。
 座ったままのケイトには、エルがフローレスフラワーズの回復を与える。
「こちらを撮って配信される分には歓迎ですが、他の方はご希望ではないようですので、ええ」
 フェアリーブーツは、開脚からガニ股になってのダンスだ。
 体操服は強化されて、ジャージの冬服になった。でも、裾は短くなり、短パンは再生されない。
「エルさん、どうした原理でこのような?」
「あー。ヒールだからですね、ケイト。ご希望には添えられませんでしたが、そのうちイイ事ありますよ♪ じゃっ!」

●接続
「あなたも、キュンキュン響かせてあげる♪」
 翼の歌に、電気的な破調を当てらえた。精密機械は、フォーカスに狂いが生じている。だが、目をとじているのは、ロディだ。
「もう、だめだ!」
 『Vivid☆Beat☆Vibration(ビビット・ビート・バイブレーション)』の激しい振り付けで、ヒモ水着のヒモは切れ、水着は残らない。
 ナイスバディが隠されもせず、畔に踊った。
「こっちも、だめか!?」
 包囲を狭めて、池からあがってきた、ユリーカに出くわすと、オウガメタルの総量が、明らかに減じている。
 最初から、薄く伸ばしてあったのに、あちこちの出っ張りが浮き出て、地肌も透けているではないか。
「ロディさん、敵は弱ってますよ、次はどうしますか?」
 正対してくるので、間近に半裸、本当は全裸がある。
「ふたりとも、目の毒だよ! ちょっと下がってていいから!」
 彼こそ、弱ったあげく、グラビティブレイクに突っ込んでいった。
 三脚は傾きつつある。
「このまま、近接戦闘に持ち込めば、平静を失わずに戦えるぞ」
 叫べば、マフラーもズレて素顔になる。もう、このまま撮影されても、気にするものか。
 それなのに、レンズは横を向いた。ロディを助けるのに、真理が敵の興味を引きつけるポーズをとっている。
 プライド・ワンのシート上に、Y字バランスだ。キャリバースピンにはいって、カメラを中心に周回し、アームドフォートからのレーザー光が、大事なところを際立たせていた。
 レンズのそばには、ロディもいるのだから、今度こそ、はっきりとソコを見せつけられた。
「ああ、蝶マスクに顔が隠されていると、なんでも出来る気がするのですよ……!」
 シャッター音が響くたび、何かが昇りつめていく。
 後先を考えない様子に、マキナはいったん落ち着いた。谷間に沈んで引き戻せない衣服のかわりに、両手で乳房を隠している。
「危険物はデリートですね……」
 その胸元の中央に、クリスタル状の蒼いシールドを形成した。『CCP AIDS(キュアコンバットパターンエイドス)』は、レプリカントの彼女が使うヒールグラビティだが、それをアイズフォンから、ネットへと飛ばす。
 ウェブを高速巡回するクリスタルは、カメラダモクレスがアップロードした画像を、発見。即座に消去するのだ。
 仲間たちのあられもない姿には、マキナも赤面してしまう。
「これは……ねえ、エル!」
「なんでしょ……うんんッ!」
 呼ばれたサキュバスは、ミストに巻かれるために、開脚した中央を弄っている最中だった。
 エルの場合、画像の拡散から得られる回復量が、被るダメージ量を上回っている。マキナも承知して、削除対象からエルを除く。
 ヒールで、ウェブからくる被害を回復させる手は良かったが、マキナひとりで追いつけるものでもない。
 蒼眞は、外観で見当が付くならウェブデバイスの部分を破壊して、ネット投稿を防ごうと考えた。
「その前に保存しておきたかったが、止むを得んな」
 斬霊刀は片手で扱えるが、残りの手でスマホの操作は無理だ。そして、お面は無事だが、あとは丸裸であった。
 機械の背面を見ようと、葦原に横歩きする。デバイスが判ったところで、部位狙いはクラッシャーには難題だ。などと思案していたら。
「ぐわあ!」
 蒼眞も、ケイトと同じところで足を滑らせた。
 倒れ込んで揉みくちゃになり、その拍子にケイトのジャック穴に、蒼眞のプラグ棒が接続されてしまった。大変だ。
「あふ、ああん。どうしてそんな太さに……!」
「や、みんなのをね、見てたらもう、ウッ」
 蒼眞は、発射を我慢して、敵の位置を確認する。今は、ヤツのウェブを切断しなくては。この接続すら、配信されかねない。
「エルさんの言ってたイイ事です」
「え、いいの?」
 ケイトはスナイパーだ。コネクタ、物理的に接続している部分を狙撃すれば、配信を止められるかもしれない。
「ジャックとプラグですよ、雌と雄です」
 なんか、このアクシデントで思いついたらしい。バスターフレイムのガジェットを、アームドフォートに組み込んだ。
 レンズが、真理を追って背を向けた瞬間に、砲口は火を噴く。
 真理は、アイズフォンで確認した。
「ネットへの接続を、完全には切断できていないのです。でも、アップしようとする度に炎上して、カメラロボにもダメージがいくようになったのですよ」
 ふたりのレプリカント、ユリーカと真理は、めくるめく羞恥の世界に舞った。投稿させれば投稿させるほど、ダモクレスは傷つくのだから。
 3人目のマキナが消去してくれれば。
 ユリーカは、真理にしがみつく。
「最新型レプリカントである私に、羞恥心はないはずなのに。カメラは撮ったものの魂を吸うと言ってました。私の心も奪われつつあるのでしょうか」
「むしろ、機械の身体に宿った魂が、輝きを増しているのですよ。わたしは、そう思うのです……あ、ああっ、あああん!」
 真理は最後、蝶マスクの破れた姿で映された。絶頂を迎えた姿で。
 意識がとんでしまい、トドメを誰が刺したか、覚えていない。翼のファミリアが体当たりしてHP1を削っていたと、あとで聞いた。
 カメラロボは、錆びた金属と、歪んだ樹脂、ひび割れたガラスに戻った。
 あの、最後の一枚は、まだネットのどこにも見つかっていないそうだ。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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