その墓碑に名を刻め

作者:河流まお


 八王子・東京焦土地帯。
 かつて霊園だった広大な敷地に、焼け残った墓石たちが整然と並んでいる。
 まるで地獄を顕現させたような風景の中、ふわりと墓石の上に降り立つ者達がいた。
「……」
 黒い翼の甲冑騎士が18体。死神『シヴェル・ゲーデン』が率いる死翼騎士団の一隊だ。
 すでにこの八王子では、各地で死神勢力とエインヘリアル勢力の熾烈な勢力争いが展開されている。
 この一隊もつい先程、エインヘリアルの戦士を数名討ち取ったばかりであり、この墓地に舞い降りたのも、まだまだ続く戦闘のほんの一休憩の為だったのだが――。
 ターンッ!
 と、乾いた音が響いた。
「――ぐッ!?」
 死神の一人が翼を撃ち抜かれ、墓石の上で大きくバランスを崩す。
 ターンッ!
 二撃目がその死神の頭部に命中し、額に大きな風穴を穿った。
「敵襲だッ!」
 休む間も無しか、と舌打ちしながら武器を構え直す死翼騎士団。
 狙撃してきたのは、マスケットのような古風な装飾を施された古式銃を構えたエインヘリアルの蒼玉衛士団。その数20名。
 黒く煤けた墓標が立ち並ぶ戦場で、人知を超えたデウスエクス同士の闘争が繰り広げられてゆく――。


 両軍の戦力はほぼ互角だった。
 一進一退の攻防の後、勝利したのは初手で死神側の不意を打つことが出来たエインヘリアル側。
 だが、まるで無傷といくわけもなく――。
「……残ったのは5人か。ケッ、手こずらせやがってクソ死神共が」
 この一団の指揮官と思われる男が、墓石に寄り掛かった死神騎士の亡骸を蹴り飛ばしながら唾を吐く。
 紅い宝石となり、焦土の上を転がってゆく死神。
「さーて、おめーら。残念ながら休んでる時間はねーぞ。
 サフィーロ王子は今、随分と功を焦っておられる。
 だが……この局面で活躍すりゃ俺達の評価もうなぎ上りってもんだ」
 古式銃に弾を込め直しながらニヤリと微笑む指揮官。
 その表情は戦いに疲れた様子も無く、ただ次の獲物を屠るのを楽しみにする戦闘狂のそれだった。


 予知を語り終えたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、改めてケルベロス達に向き直る。
「エインヘリアルが磨羯宮ブレイザブリクによって支配している東京焦土地帯――。
 そこに死神の軍勢が攻め込んで、戦いになっているようです」
 攻め込んだのは、『死翼騎士団』という死神の集団。
 そして、東京焦土地帯の防衛を担っているのがエインヘリアルの第9王子、サフィーロが率いる『蒼玉衛士団』。
「この両軍が八王子のいたる所で小競り合いを繰り返しているようです」
 スクリーンにかつての八王子の地図を表示させながらセリカ。
 彼女が戦場として示したのは、『東京霊園』と書かれた場所の1区画だ。
「この戦いは、東京焦土地帯で行われており、一般人の被害者などは出ていません。
 ですが、この機に乗じて敵の戦力を減らせれば、それは今後の戦いできっと有利に働くはずです」
 セリカの説明を聞いていたケルベロスの一人が「ふーむ」と考え込む。
「つまり、横槍を入れて漁夫の利を狙えってことね~」
 身もふたもない表現に苦笑しながら、セリカは「そうです」と頷く。
 今回、ここに集まったケルベロス達が担当するのは黒く煤けた墓石が立ち並ぶ、少し不気味な場所である。
「戦闘の介入タイミングは、大きく分けて2つです」
 両軍の戦闘が終わるまで身を隠し、残ったほうと戦う方法。
 そして、もう一つが死神とエインヘリアルの戦いの最中に、あえて飛び込むという方法だ。
「共闘は不可能なので、三つ巴の戦いになります。
 両軍とも、死ぬまで戦う覚悟は出来ているようですが、戦場から逃亡する者をわざわざ追いかける気はないようなので、危険だと判断すれば撤退はいつでも可能です」
 と、セリカは説明するものの、前者より多少リスクが高い作戦になることは容易に想像がつく。
 問題は、その利点であるが――。
「え、みつどもえ作戦のメリット? うーん、そうですね……。
 この戦いは今のところ、エインヘリアル側が優勢のようです。
 ですので、もし戦闘終了時にあえて死翼騎士団を生き残らせ、撃破せずにケルベロスが撤退すれば、東京焦土地帯の戦況が死神側に有利になったり、サフィーロ王子の考える算段を狂わせることが出来たりするかもしれませんね……?」
 考え込みながらも、ちょっと自信なさそうにセリカ。
 どちらの作戦をとるかは、ケルベロス達の判断に委ねるとのことである。
「まさか、ここまで大きなデウスエクス同士の抗争が起こるなんて……。
 もしかすると、この東京焦土地帯は死神にとってもエインヘリアルにとっても重要な土地なのかもしれませんね」
 とまぁ、そんな考察は尽きないところだが、そろそろ出発の時間だ。
 ケルベロス達に戦いの意思を問うように視線を向けたセリカは、深く一礼する。
「では行きましょう――。
 死神と英霊が覇を競う、戦いの地へ」


参加者
東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
湊弐・響(真鍮の戦闘支援妖精・e37129)
エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)

■リプレイ


 遠く響く剣戟と銃弾の音。
 戦場から離れた場所で、ケルベロス達は機を窺っていた。
(今のところ上手く行っているようですわ……)
 隠密気流で身を隠しながら、湊弐・響(真鍮の戦闘支援妖精・e37129)。
 時折、頭のすぐ上を流れ弾が飛び去って行くものの、デウスエクス達がこちらに気が付いた様子は見られない。
(幸い、身を隠す物に不自由はしませんね)
 灰色系統の迷彩服を羽織り、立ち並ぶ墓石の影に飛び移ってゆく響。
 戦場から離れすぎては、先手を打つことが難しくなる。敵に発見されないギリギリの範囲を見極めながら慎重に歩を進めてゆく必要があるだろう。
(敵も、一先ずは目の前の戦いに必死のようだな)
 響とハンドサインで意思疎通をしながら、東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)は油断なく敵の様子を窺う。
「十分な距離もある。小声で話す分には問題は無さそうだな」
 集中していると視野が狭くなりがちになるのは、人間もデウスエクスも変わりがないのかもしれない。
 戦況を確認するウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)が頷く。
「さて、蒼玉衛士団の構成だが……ディフェンダー、ジャマー、スナイパーにメディックのようだな」
 セリカの予知では、この中の5体が生き残るとのことだったが――。
「とは言え……」
 どの個体が生き残るまではまだ解らない。
「確定するには、もう少し情報収集をしないとだね」
 ウリルのすぐ隣の墓石で隠れていたベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)が双眼鏡を構えながら顔を出す。
「えーと、あの関羽みたいなヒゲのおじさんがディフェンダーで……。あっちの黒ヒゲがメディックで……」
 記憶力をフル回転させながらベルベット。どいつもこいつも動き回っているため中々難しい。
「ええ、そして金髪三つ編みヒゲがジャマーで……。
 映画俳優みたいなヒゲが狙撃手……この一団の指揮官デス」
 同じく、個体識別を進めてゆくモヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)。
「なんなの……この圧倒的ヒゲ率」
「サア……」
 無駄に謎が増えて困惑する二人。
「ハッ――! もしヤ!」
 モヱに電流が奔る。
 ああやって揃えることで、隊の中で強固な結束を生み出し、熱い友情を深め合っていル――?
 なんだお前、今日のヒゲ綺麗じゃねぇか――。 お前こそ――。
 ふーむ、ヒゲ+衛士隊か……。
「ニッチではありますが、なかなか面白い題材かもしれませんネ……」
「突然どしたの?」
「いえ、ただの考察デス――」
 とまあ、それはともかくとして――。
 ケルベロス達が選んだのは二つの勢力の争いに介入すること無く、生き残った勢力と戦うというものだった。
「漁夫の利を狙うみたいで、ちょっと気が引けるけどね」
 正々堂々と戦いたかったエマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)少し微妙な表情だ。
「死神の狙いなど気になる点はあるけど、今は喧嘩両成敗でいいと思うよ」
 少女人形を抱いた青年、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)がエマを気遣ったのか語り掛ける。
「ここで一方を生き残らせたとして、そいつが一般人に被害を及ぼす可能性を否定することは出来ない」
 アンセルムの言葉に少女人形がうんうんと頷きを返す。
「死神側が勝った場合の展開っていうのも気にはなるけどね~」
 双眼鏡を下げながらベルベットも苦笑。
 ウリルが続く。
「今回の俺達の選択がどのような結果をもたらすのかは解らない。
 ヘリオライダーの予知も万能というわけでは無い。
 デウスエクスが起こす事件のことは予知出来ても、もっと大きな流れまでは見通すことは出来ないからな」
 結局のところ悩んだところで、答えが出ないのだ。
「今はこの選択を信じて、戦うしかないだろう」
 漆黒の大鎌『Orage』を構えるウリル。
「そうだね。よーし……種族の誇りと、この胸甲にかけて」
 決意を瞳に宿し、エマもまた槍を構える。
「……どうやら終わったようだよ。
 セリカの予知通り、エインヘリアル側の勝ちだね」
 スコープを使い戦闘を確認していた塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が仲間達に告げる。
「それじゃ行こうか、覚悟はいいね。アンタ達」
 飄々と問いかける翔子に、ケルベロス達は静かに頷きを返すのだった。


「ケッ、手こずらせやがってクソ死神共が」
 戦いが終わり、エインヘリアルの指揮官が死神騎士の亡骸に蹴りを放とうとした瞬間――。
「失礼するよ」
 銃弾のような速度で飛来したアンセルムが、敵の指揮官を蹴り飛ばした。
「――ぐはッ!」
 指揮官が墓石をなぎ倒しながら、焦土の上をゴロゴロと転がってゆく。
 灰色の髪を躍らせながら着地するアンセルム。
「なッ――!」
 突然の襲撃に目を見開く蒼玉騎士団の面々。
「まだ終わらせないよ、次の相手は俺達だ。付き合ってくれるだろう?」
 響いた声から、氷のような殺気を感じとった蒼玉騎士団。
 振り返れば、不気味な黒い影が墓石の間を縫うように接近してくる。
「死神の増援か――!?」
 と、蒼玉騎士団が見間違えたのは無理もないだろう。
 迫ってきたのは漆黒の大鎌。
 得物を投擲し、地を這うような姿勢から敵陣へと襲い掛かるウリル。
「……クッ!?」
 大鎌に胸元を引き裂かれた蒼玉騎士団の一人が、よろめく。
 続けざまに炎を纏いつつ蹴りを放つウリル。
「ッ!!」
 殺意たっぷりの顎狙い。
 だが、二撃目までは受けまいと蒼玉騎士団の衛士は咄嗟に腕で防ぐ。
「へえ、手負いなのに結構やるね」
 ヒュウと口笛拭くウリル。なかなか楽しませてくれそうな相手だ。
 完全に先手を取ったケルベロス達の猛攻は続く。
「あんたら侵略者にとって地球はどこだって敵地のど真ん中。油断する方が悪いのよ!」
 その情熱そのままに、全身に炎を纏ったベルベットが敵に渾身の一撃を叩き込む。
 爆ぜて咲くのは紅蓮の爆華。
 強烈な範囲爆撃を喰らい、敵陣が大きく乱れた。
「このまま畳みかけてやろうよ!」
 勢いに乗るケルベロス達、だが――。
「狼狽えるんじゃァねえ、テメエら! 俺達は蒼玉騎士団だろうが!」
 怒号が焦土に響き渡る。
 口の中に入った土を噛み砕きながら、指揮官が身を起こす。
「――なんだァ? 死神の新手かと思ったら……ケルベロスかよ?」
 先制攻撃を受けたものの全く動じる様子がないこの男。
 粗暴な印象だが、しっかりと統率は執っているようだ。
「んん?」
 敵味方ともに仕切り直す中、敵の指揮官が憐を見て驚いた様な声を上げる。
「おいおい『蒼狂紅のツグハ』か……? いや、報告ではアイツはこの間の戦いで死んだはずだが……」
 昨年の磨羯宮での戦いで戦死したはずの同僚と、憐が瓜二つだったのだ。
「ツグハ? ……人違いだ、私はお前たちの敵だよ」
 不敵に笑う憐。その表情がますます蒼狂紅のツグハにそっくりで、敵の指揮官は一瞬だけ気圧される。
「チッ、不気味なヤツだ……まあ、いい」
 僅かに感じた恐怖を、唾と共に吐き捨てる指揮官。
 古式銃に銃弾を込め直しながら、猛獣のような笑みを浮かべる。
「こいつらもブッ殺せば褒章は間違いなしだァ! やるぞテメエら!」
 死を恐れることの無い歴戦の勇士との戦い。
 果たして、焦土に骨を埋めるのはどちらとなるか――。


 『蒼玉騎士団』。
 その戦いは勇猛果敢にして、堅実無比。
 戦いが始まってすぐに、ケルベロス達は彼らが容易な相手ではないことを悟る。
 とにかく、守りが硬いのだ。
「えーと、あのヒゲの形は……。
 ディフェンダー2人、スナイパー1人。あとメディック2人!
 ……だよね?」
 ベルベットがモヱのほうをチラッと振り返る。
「ええ、防御型の構成ですネ。相性としては微妙なところデショウカ」
 攻守のバランスを整えながらも、状態異常を与えることに主眼を置いたケルベロス達の布陣。
 如何にして敵の鉄壁の守りを突破し、一角を崩すかが勝負になりそうだ。
「戦乙女の力を見せてあげるんだから!」
 メタリックバースト。エマの胸元を覆う白銀の胸甲からオウガ粒子が放出されてゆく。
「まずは敵にプレッシャーを与えて行くとするか」
 スナイパーとして後方から敵を狙い撃つ憐。
 相棒であるビハインドのセイナはディフェンダーとしてパーティー内の盾役を担う。
「全ては過ぎ去った過去だ。打ち破らせてもらうぞ、蒼玉騎士団」
 敵に対して色々と思うところがある様子の憐。
 とは言え、その関係性を問うたところで彼女はあまり多くを語りたがらないかもしれないが。
「死神だろうとお前たちだろうと、ここから出て行ってもらう!」
 憐が構えたのは長大な砲身を持つバスターライフル。その銃口に燈るのは憐の魔力を束ねた光だ。
「当たれッ!」
 眩いばかりの光が焦土を一瞬染め上げる。一直線に伸びた白い魔力の光線が敵陣の護りを突破して、指揮官を正確に捉えた。
「チッ……やるな」
 だが、敵も怯むことなく、すぐさま反撃の照準を憐に向けてくる。
「まずはテメーから撃ち落としてやろうかァ、ああん?」
 硝煙の匂いに酔うように、下卑た笑みを浮かべる指揮官。
「撃ち合いか、望むところだ」
 すぐさまアームドフォートの弾倉に鉄弾を叩き込む憐。
 繰り広げられるのは互いの眉間を狙いあう、射撃の応酬だ。
 傷つくことは避けられない。だが、自分が狙われている間は、他の仲間が自由に動けるとも言える。
「足止めは任せろ、響ちゃん!」
 憐は信頼する妹の名を叫ぶ。
「お任せください、お姉さま」
 微笑みを返す響。
「さあ行きなさい。踊りなさい。私の奏でるワルツと共に!」
 ひらりと花のように舞い踊る響。
 【妖精砲手の飛翔】(フェアリークロスファイア)。
 緑色の燐光が奔り抜け、異界に収納していた自律式空中砲台がその威容を現す。
「デウスエクスがどう考えているかは分かりかねますけれど、ここは地球。
 私達定命者の地ですわ」
 真鍮の妖精が朗じる声は、まるで金管楽器のように周囲へと響き渡る。
 歌うように、奏でるように――。
「八王子は死神の領地でもなければ、第九王子の属領でも御座いません」
 味方の周囲に展開してゆく響の空中砲台。
「取り戻させて頂きますわよ!」
 仲間の攻撃に連動して、空中砲台が光線を撃ちだしてゆく。
「へぇ、こいつは便利だね」
 響の支援を受けながら翔子はその効力にニヤリと微笑む。
 翔子の腕に巻きついた白蛇のシロも、ブレスと同時に発射される光線にはしゃいでいるようだ。
 遠距離単体で固められたそのグラビティと相まって、圧倒的な火力を持つ移動砲台と化す翔子&シロ。
「じゃ、まずはアイツから沈めるとするかね」
 翔子が指し示したのは死神との戦いで一番仲間を庇っていたヒゲディフェンダー。通称『関羽』。
「まぁ、硬いことには違いないだろうが……その分、あのロン毛を撃ち抜きゃ敵に大きな風穴が空くだろうさ」
 コイツが一番蓄積ダメージが多いに違いないと目星をつけた翔子。
 仲間のケルベロス達も頷く。
「関羽、了解です」
「よーし、やっちゃおう!」
「ご覚悟くださいネ」
 まるで容赦なしの瀕死狙い&集中攻撃。
「うぐおおおッ!」
 気力で耐える関羽。
「クソッ! 俺達がアニキを支えるんだ!」
 と、必死に彼を支える敵メディックの面々。
 なんかこっちが悪役みたいだけど、強敵だから仕方がない。
 実際、この戦法は非常に効果的だったようで――。
 関羽が倒れてからは一気に戦いの天秤がケルベロス側へと傾いてゆく。
「恨まないでね」
 破れた敵陣に殴り込みをかけるアンセルム。如意棒を高跳び棒のように使い、大跳躍をすると、流星のようなかかと落としを敵に叩き込む。
 黒く煤けた焦土に、頭から突っ込んで沈むエインヘリアルの巨体。
 さらに追撃――。
「喰らい付け、妄執の毒蛇」
 アンセルムの身体に纏わりつく蔦がざわっと葉を揺らした。
 大蛇と化した蔦が瞬く間にエインヘリアルに巻きつき、その首筋に毒牙を突き立てる。
「これで2体目だね」
 大立ち回りで乱れてしまった少女人形の髪を整えながら、アンセルムは薄く微笑む。
「……あなた達の尊い関係性。忘れまセン」
 ガチで悲しそうな表情で拳を引き絞るモヱ。
 音速を優に超えた拳が、敵の意識を刈り取る。
 地響きを立てて三体目が沈む。
「クソッ! 人間共がぁあ!」
 焦りと怒りをない交ぜにして、敵兵が烈火の炎を振りまいてくる。
 広範囲を焼き尽くそうとした敵の炎だったが仁王立ちでこれを阻むベルベット。
「そんな炎でアタシを焼けると思ってんの? 億年早いわ!」
 全く熱くないと言えば嘘になる。
 でも、やせ我慢だろうとなんだろうと――。
 仲間を守って地球も守る、そんでもって絶対に倒れない。
 それがベルベットの意地なのである。
「私の炎、冥途の土産にしかとその目に焼き付けな!」
 一直線に放たれたアッパーカット。紅蓮を宿した気咬弾がエインヘリアルの巨体を吹き飛ばした。


「さあ、あなたが最後だよ。指揮官さん」
 エマが敵を睨みつける。
「クックック……」
 全ての部下を失おうと、これが蒼玉騎士団の矜持とばかりに最後まで戦い続ける指揮官。
 ゆえに男が狙うのは、地獄への道連れだ。
「ハッ、随分と立派な口を叩くじゃねぇか小娘。
 ついこの間まで俺達エインヘリアルの先兵に過ぎなかった、ヴァルキュリアのくせによォ……!」
 エマに向かって罵声を浴びせかける指揮官。
 あえて相手の逆鱗に触れ、直戦的な動きになったところを撃ち抜く。それが男の狙いだった。
 だが――。
 そんな敵を称えるようにエマは小さく微笑んだ。
「最後まで逃げずに戦うんだね。先に倒された仲間達のためかな?」
「……」
 沈黙で答える敵指揮官。
 以前の自分なら、敵の挑発で怒りに駆られていたかもしれないとエマは思う。
 でも、今は違う――。
 少女に芽生えたヴァルキュリアとしての自覚。
 そう、死を恐れない勇敢な戦士の魂を看取る。それこそが――。
 ぎゅっと槍を握るエマ。
 彼女の想いに応えるように、ガネーシャパズルが展開し青白い閃光を纏う雷龍が現れる。
 まるで彼女を守護するように、槍の先に雷竜が宿った。
「行くよ、雷竜! 勇敢なる魂を導くためにっ!」
 白き雷を纏いながら突撃するエマ。
「――!」
 敵が放った最後の銃弾は、雷竜に焼かれてその威力を減じて、エマの頬に裂傷を残すに留まった。
「チッ……」
 敵の指揮官が舌打ちを一つ。
 勇敢な戦士、か。
 どうせならサフィーロ殿下からも、そう言って讃えられたかったもんだ。

 ●
 戦いは終わった。
「こんなところに長居は無用だよ。さ、帰ろっか!」
 ここはまだ戦闘領域。もたもたしていたら次に撃たれるのはケルベロス達になるかもしれない。
 死神とエインヘリアルの思惑。気になるところではあったがこの場を後にするケルベロス達だった。

作者:河流まお 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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