もえもえきゅーん☆ 逃亡阻止作戦

作者:鬼騎

「先月はドリームイーター本星との戦い、ジグラット・ウォーお疲れさまだよ!」
 籏本・杏鶴(ドワーフのヘリオライダー・en0198)は集まってくれたケルベロスたちへとまずは無事勝利を収めた戦争の話を持ちだし、労いの言葉をかける。
「皆のおかげで、シュエルジグラットを制圧できたんだけど、問題はここから」
 本星の制圧のおかげでほとんどのドリームイーターを壊滅させることに成功できたのだが、そのような中一部の者達が逃げ延びてしまったのだ。
 彼らは『赤の王様』や『チェシャ猫』などに導かれ地上へと降りてきている。
 これからの流れはポンペリボッサ同様、デスパレスにいる死神勢力に身を寄せようとしているらしいことが分かった。
「今回デスパレスからの使いとして下級のザルバルクが5体ほど現れドリームイーターを回収しようとするからそれを阻止してほしいの」
 今回、回収される予知を見たのはドリームイーター『モエモエ@キューン☆』だ。
 このモエモエ@キューン☆は迎えのザルバルクが現れるまでの間は身を隠すため、撃破できるタイミングはごくわずか。
 ザルバルクと合流しデスパレスに回収されていくまでの間は約6分。
 普通に戦うだけでは倒し切ることはできずドリームイーターには撤退されてしまうだろう。
「このモエモエ@キューン☆って敵はどうやら萌キャラになりたい、っていう願いを持つ人たちを狙う性質があるみたい」
 もしその性質をうまく利用し気を引いたり挑発したりすることができればもう少し長く引き止めることが可能かもしれない。
「他にも色々とドリームイーターを撃破するための作戦はあると思う。とにかくこれ以上デスパレスの戦力増強は止めたいところだよね」
 敵が出現するのは夜半。
 街が寝静まった頃、高層ビル街にある主要道路だ。
「光源に関しては月明かりや街灯があるから心配しなくて大丈夫」
 ひとまずザルバルクだけでも倒しきれればこの依頼は完了とはなるが、できる限りドリームイーターの撃破をよろしくねと杏鶴はケルベロスたちへと伝えるのであった。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)

■リプレイ


 静まり返る高層ビル街。
 そこにあるのは月明かりと、主要道路の横に整然と並ぶ街路灯の数々。
 いつもどおりの日常ならば、少なくともこの時間はまだ車の往来が存在しているもの。
 だがこの日、この場所は人っ子一人通らない静寂に包まれていた。
 しかしそのような状況であることをまったく気にすることなくこの場に現れたのは空中を浮遊する深海魚のような存在。
 それはこの場に居るあるものを回収するため送り込まれたデスパレスの使い、下級死神ザルバルクである。
 5体のザルバルクたちは車の走らぬ道路の中央へと接近すると、ぐるぐるとサークルを描き回り始める。
 ザルバルクたちが作ったサークルは白く発光し、不思議な力場を形成。
 それはとある人物を回収するための魔法陣である。
「もしかしてこれは大チャンスというものですかね〜」
 この状況がケルベロスたちが敷いた警戒態勢ということも知らず、周囲に人影がないことを安全だと勘違いした者が、こそこそとビルの物陰から姿を表す。
 彼女こそが回収される予定のドリームイーター、モエモエ@キューン☆である。
 バニーガールテイストのマジシャン衣装といった雰囲気の服装をしたドリームイーターは、手にする『心を抉る鍵』までバニーモチーフといった形をしていた。
 ドリームイーターは周囲を2、3度見渡し、ザルバルクの元へと駆け寄ろうとする。
「そこまでだ、ドリームイーター!」
 だが突如、その行動を静止する声があたりに響き渡った。
「っ!? なんですかこの、今から魔法少女が登場! みたいなシチュエーションは!」
 月をバックに現れたシルエット。
 それはまぎれもなく――。
「きゃぁ! まさか登場シーンに出会えるなんてすっごく萌えるのー!」
「えっケルベロスがなぜここにっ!? っていうか本当に魔法少女!?」
 ドリームイーターに声が届くほどの距離にさらっと滑り込んでいたのは盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)。
 ふわりが身にまとう衣装はミニスカートのメイド服にフリル付きのエプロン、さらには猫耳カチューチャと猫の付け尻尾というアキバ系萌スタイル。
 そして月を背にしながらヒラヒラフリフリでスカート丈の短いウエディング姿でドリームイーターの前に降り立ったのはジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)。
「月より参りし正義の使者…リリカルブレイド☆サーベラス・ムーン」
 ウエディング姿のプリンセスモードにあわせ、髪もツインテールにしベールのような髪飾りを身にまとうジークリットは剣を片手にビシッとポーズを決めた。
 日曜朝女児向け姿の萌スタイルを狙ってきたのは単順に自身が女児向けアニメに一種の憧れのようなものを感じ、大好きだったから。
 年齢的な部分を気にすると若干あれそれなジークリットだが、ドリームイーターにとってそこは気にならなかった様子。
「すごい! これが俗に言う萌えの過剰摂取というものですか!? 過呼吸起こしそうなぐらい幸せです! その萌キャラになりたい願望わたしにください〜!」
 目をキラキラとさせ、ふわりとジークリットを見比べるドリームイーター。
 萌キャラになりたい願望を奪いたいという性質を持つドリームイーターの注意はすっかりと2人に釘付けだ。
「萌キャラがほしいですのー? ふわりのメイドさんもきゅんきゅんして可愛いですの。でも萌キャラはふわりたちだけじゃないのですの!」
「ほ、他にも萌キャラがこの場にいるんですっ!?」
 ふわりは己の衣装をアピールしながら、ドリームイーターをこの場に惹きつけるための萌えアピールを重ねていく。
 すっかりと目的であったはずのデスパレスへの逃亡を忘れたドリームイーターは、萌え属性を求め周囲を見渡す。
 するとふとドリームイーターとケルベロスの目と目があった。
「あなたはどんな萌キャラに――」
「俺は違うからな」
 ドリームイーターの言葉にかぶせるようにきっぱりと否定の言葉を口にしたのは相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)である。
 筋肉至上主義者である泰地を見て、そんな萌キャラになりたいかと聞こうとするのは中々のものがあるが、もしかしたらそういう世界もあるのかもしれない。
 だが今回、泰地に関してはまったく萌えキャラ関係は担当せず、単純戦力としてこの場に訪れているので彼がどうこうなることはまずない。
 あえて言うならばこの時期に半裸の裸足スタイルでいることに萌えではなく燃えを感じることがあるかないかといったところであった。
「コンバンワでござる! なにを隠そう拙者がその萌キャラ四天王の一人! 拙者の恐ろしいフインキに恐れをなすと良いでござるよ! HAHAHA!」
 ここに訪れているケルベロスは最後に名乗りをあげたカテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)のみなため萌キャラ四天王など存在しない。
 そしてことあるごとに誤用を連発するのはすべて萌キャラらしさを狙ったモーション。
 これはエセ日本人&残念萌えスタイルであった。
 最小限精鋭メンバーで挑むことになったドリームイーター戦だが、ここで逃がすわけにはいかない。
 それぞれの得物を3人は萌えキャラっぽい感じで構え、ドリームイーターに戦闘の意志を見せつける。
 むろん端のほうで泰地もウォーミングアップを済ませ、すでに臨戦態勢である。
「んあ〜! たまらない! なんですかこの萌キャラを狙う人たちは!」
 ドリームイーターは手にする鍵をくるりと回し、構える。
「あなたたちの萌キャラになりたいというその願望、わたしが貰ってあげるわ!!」
 ドリームイーターとケルベロスは睨みあい、戦いの幕が切って落とされたのである。


 戦闘開始と同時にケルベロスたちの前に立ちはだかったのはザルバルクたちだ。
「あ、ちょ、ひぃん。おさないでください〜」
 ザルバルクたちの目的はドリームイーターの回収。
 ドリームイーターを魔法陣へと押しやり誘導しようとするが、当の本人は目の前の願望に首ったけであり、ザルバルクたちの意志を汲み取ることはない。
「さて俺の出番だ。ドリームイーターの残党、討伐させてもらう! はぁあ!!」
 泰地は光の力を込めた左手でドリームイーターを引き寄せ、右に込めし闇の力で敵の肉体へと思いっきり拳を叩き込む。
「きゃぅ! やりますね〜! さすが萌えキャラのボディーガードさんですよ!」
 どうやらドリームイーターの中で泰地の立ち位置はそういうことになっているらしい。
「ふわりもやるの。もえもえにゃんにゃん」
 服装にあわせて猫のポーズをとるふわりの足元からは黒い霧のような影が伸びる。
 萌えとホーラが合わさったような状況は若干シュールだが、これもドリームイーターを逃さないための大事なアピールだ。
 続けて動いたジークリットも萌えアピールに余念がない。
「いくぞ! サンダーボルトアターック!!」
 ノリノリで必殺技を叫びながら放つのは雷刃突。
 昨今肉弾戦で戦う魔法少女は珍しくないもの。
 この場に大きいお友だちがいれば、『ジークリットたーん!』というような掛け声が聞こえてくることだろう。
「わたしも負けてられない! くらえ♪ モエモエ@キューン☆のハートブレイク!」
 キラキラと煌くモザイクを纏いながら振るわれた巨大な鍵により、一番近くにいたジークリットに向け斬撃が放たれる。
 だがその攻撃を受け止めたのはカテリーナであった。
「お主の好き勝手にはさせないでござるよ。しかし@とはインタァネッツぼくてハイカラでござるな? 夜の街中にそんな恰好とは……ハイレベルな残念萌えでござる」
 ドリームイーターの攻撃を受けきった後、カテリーナはカウンターとして即座に痛烈な一撃を入れる。
「夜廻りJKな拙者も負けられぬでござるよ」
 カテリーナはドリームイーターに対し、謎の対抗心を燃やす。
『オォォ』
 カテリーナとドリームイーターがやりあっている横で、他3人へと攻撃を仕掛けるのはザルバルクたち。
 あまり強くない下級の死神だが、その攻撃が重なればケルベロスがわの痛手になることは間違いないだろう。
 しかしケルベロスたちはすぐ倒せるであろうザルバルクは一旦無視し、攻撃をドリームイーターへと集中させる。
 ドリームイーターがどこで気を変え魔法陣に飛び込むともわからないため、攻撃を一気に集中させ逃げられる前に倒し切る作戦なのだ。
 事前に決めた作戦のとおりにケルベロスたちは攻撃を繰り出していくのであった。


 戦闘開始から10分。
 当初予知されていた6分を悠に超えこの場に残り続けるドリームイーター。
 途中魔法陣を振り返る様子がみられたが、その都度ケルベロスたちの萌えキャラを目指したアピールが炸裂。
 刺されば、願望を奪うことを諦めきれずにケルベロスたちへと向き直っていた。
 とてもフザケたかのようなドリームイーターであるが、ケルベロス1人よりもはるかに強い存在を相手に4人のケルベロスたちの攻撃は集中していく。
 だがノーマークとなったザルバルクたちの攻撃、またドリームイーターからの攻撃も加わり、ケルベロスたちの肉体は明らかに傷つき始めていた。
 だがそれは相手も同じこと。
 時折ザルバルクがドリームイーターを庇うものの、4人から集中する攻撃をすべてカバーすることはできない。
 ドリームイーターの肉体も明らかに弱り始めていたのだ。
「さあそろそろトドメの時間だ! アーマーブレイクインパクト!」
 ジークリットが放つ破鎧衝の勢いでショートドレスがはためく。
 度重なる攻防でせっかくの衣装は切り裂け形が崩れるも、今はそのようなことにかまっている状態ではない。
「もー! いい加減倒れろってばー!!」
 ドリームイーターはモザイクを乱射し仕掛けてくるが、もはやその攻撃はやけっぱちといったレベルのもの。
 たった4人で粘り強く戦うケルベロスたち。
 その粘り強さが勝利を導こうとしていた。
「一気に叩く!! 喰らえ雷刃突!!」
 泰地のマッシブな肉体から放たれた突きはドリームイーターの急所へと直撃し、敵の体力を大きく削ぎ落とす。
 そして敵の死角となった泰地の背後から一気に肉薄するのはふわりだ。
「モエモエするのも楽しいけど、そろそろ終わりの時間なの」
 猫耳メイドのふわりは容赦なく混沌を纏った武器をドリームイーターへと叩きつけた。
「うぅ……こんなことが……わたしは、わたしは萌えキャラの願望をっ……!」
「地獄行きの片道切符をプレゼントフォーユーでござる!」
 カテリーナがまんぷく丸と名付けられた日本刀を弧を描くように振るえば、ドリームイーターは膝をつき、うなだれる。
 その肉体はモザイクに飲み込まれるかのように崩れ落ち、夜空へと散っていった。
「萌えという概念が存在しないであろう地獄こそ、お主にとって本当の意味で地獄やもでござるな」
 あとはこの場に残ったザルバルクのみだが、ドリームイーターの回収を失敗していながらも、撤退する素振りは見せない。
 ケルベロスたちは残ったザルバルクを数分で蹴散らし、戦闘終了となる。
 無事、この場の平和を取り戻し、敵戦力の増員を防いだのであった。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月2日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。