磨羯宮ブレイザブリクが展開する東京焦土地帯。
この地を掌握する蒼玉衛士団の兵たちは今、とある敵対勢力からの襲撃を受けていた。
『前方より敵接近! 数は16です!』
『この廃棄区画で食い止める! ブレイザブリクには近づかせるな!』
『――エインヘリアル……――排除する……』
ケルベロスではない、衛士団の同族でもないデウスエクスたち。
剣を抜いた甲冑騎士と、斧を構えた人馬型騎士から成る一団は、一糸乱れぬ動きで隊列を組み、蒼玉衛士団の部隊めがけて次々に斬り込んでくる。
名を『死翼騎士団』。死神で構成された戦闘集団だ。
『――焦土地帯を……――再び我らの手に……』
『第9王子サフィーロ様の名誉にかけて、ここは通さん!』
真正面から激突する両軍の間で、激しい死闘が始まった。
怒号、剣戟、骨が砕ける鈍い音。数分ほどして戦場が静寂を取り戻したとき、生き残っていたのはエインヘリアルの僅かな兵のみ。
『4名? これだけか、生存者は……くそっ!』
傷だらけの督戦兵は、足元に転がる死神のコギトエルゴスムを忌々しげに踏みつけると、
『帰還する。味方の兵は回収しておけ!』
傷ついた体を引きずるようにして、部下ともども戦場から離脱していった……。
「お集まりいただき、ありがとうございます。作戦の説明を始めましょう」
ムッカ・フェローチェは、ケルベロスたちにそう告げた。
「東京焦土地帯が、エインヘリアル『蒼玉衛士団』の支配下にあるのはご存知と思います。その一帯に、死神の軍勢が攻撃を仕掛けていることが判明しました」
軍勢の名称は『死翼騎士団』。彼らは現在、東京焦土地帯の奪還を図るべく、サフィーロの蒼玉衛士団と小競り合いを繰り返しているようだ。
この戦いに横槍を入れ、衛士団の兵を撃破する――それが今回の作戦だとムッカは言う。
「戦力は蒼玉衛士団が優勢で、そのまま戦えば衛士団が勝利します。その場合、生き残った負傷兵――恐らくは5名程度――を襲撃して全滅させれば作戦は成功です」
蒼玉衛士団のエインヘリアルは、督戦兵1体と一般兵4体からなる班が4つの計20体。
対する死翼騎士団は剣を装備した歩兵と、斧を装備したケンタウロス型騎兵が8体ずつの計16体で構成されている。
いずれも戦意旺盛で、敵対する相手が全滅するまで戦いを止めることはない。両軍の戦闘中に乱入することも可能だが、共闘することは不可能だ。
なお彼らは逃げる相手は追撃せず無視するので、戦闘継続が困難になった時は撤退も視野に入れると良いかもしれませんとムッカは付け加えた。
「戦場は廃ビルが立ち並ぶ無人エリアです。戦闘終了後すぐに攻撃を行う場合は、隠密などで事前に近付いておく必要があるので注意して下さい」
衛士団を排しつつ死神の兵を生存させるなどすれば、彼らは今後もお互いに消耗し合ってくれることだろう。三つ巴の戦いをどう立ち回るか――ケルベロスの行動次第では、今後の戦いをより有利に運べるかもしれない。
「東京焦土地帯を巡って争い始めたエインヘリアルと死神……もしかすると、あの土地は彼らにとって重要な秘密がある場所なのかもしれません。危険な戦いですが、お気をつけて」
そう言って、ムッカはヘリオンの操縦席に向かうのだった。
参加者 | |
---|---|
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612) |
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978) |
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731) |
エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314) |
白樺・学(永久不完全・e85715) |
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736) |
●一
視界の先には、朽ち果てた廃墟がどこまでも続く光景があった。
ヘリオンを降りたケルベロスたちが辿り着いたのは、廃ビルが林立する廃棄区画の一帯。死神とエインヘリアルが刃を交える戦場の片隅だ。
3月上旬、東京焦土地帯。
今なおデウスエクスの支配する場所であり続けている磨羯宮ブレイザブリクの勢力圏内の只中を、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)は仲間とともに進んでいく。
「……蒼玉衛士団の奴ら、絶対に許しません」
隊列の先頭を歩きながら、環は嫌悪に眉をしかめる。かつて焦土地帯の戦いで仲間が暴走した記憶は、今なお脳裏にこびり付いているのだ。
「あの時の借りも込めて、残らずぶっ飛ばしてやります」
「イエース! 皆で勝って帰るのデース!」
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は頷きを返し、研ぎ澄ませた五感を周囲の一帯に張り巡らせた。
廃ビルに面した曲がり角の先から、重なり合う剣戟の音が響いてくる。大勢の軍勢同士がぶつかり合う、激戦の気配。ケルベロスたちは頷きを交わし合うと、気配を殺しながら建物の中へ身を隠していった。
「さて、戦場の様子はどうかな……」
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)はボクスドラゴンのラーシュを肩に乗せ、割れた窓から外の様子をそっと伺う。
「いるいる。結構な数だね」
戦場は幅の広い十字路だった。マイヤの視界が捉えた先では、蒼玉衛士団と死翼騎士団の兵たちが刃を交え合っている。どちらも眼前の敵を倒すことだけに集中していて、隠密気流を活性化したケルベロスには気付いていない。
「衛士団は督戦兵2体と一般兵8体。騎士団は騎兵と歩兵が2体ずつかな」
「10対4か。かなり死神が劣勢だね」
スコープで戦場を眺めるエマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)が呟いた矢先、死神の騎兵が星座のオーラを放ち、味方を庇ったエインヘリアルを1体撃破する。
庇い、癒し、妨害し……戦い続ける衛士団の陣形を、エマとマイヤは凡そ掴んだ。
「一般兵はディフェンダー2、ジャマ―とメディックが1。督戦兵はクラッシャーだね」
「死神側もほぼ同じかな……激戦になりそう。ラーシュ、頼んだよ」
高いハードルは承知の上、だが挑むからには、やりきってみせる。決意を秘めたマイヤの視線に、相棒は頼もしく頷いた。
「エインヘリアルを全滅させて、死神を残す……か。まさか僕たちが、デウスエクス同士の争いを利用する側に回るとはな……」
白樺・学(永久不完全・e85715)は感慨深い様子で呟きを漏らした。
青肌に白髪、そして白衣を羽織ったグランドロンの少年。かつて自分たちを使役していたエインヘリアルとの戦いを前に、色々と感じるところがあるようだ。
「準備はいいな、助手。――っておい、僕のメモに触るんじゃない!」
シャーマンズゴーストがメモを紙飛行機にして飛ばそうとするのを阻止する学。
そんな彼の隣では、フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)が無表情の顔でぽつりと呟く。
「東京焦土地帯を巡っての争い……どんな思惑が……あるのかな……」
「死神種族の意図……確かに気になりマス」
攻性植物の葉っさんと揃って首を傾げるフローライトに、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)が頷いた。
死神が焦土地帯を攻める理由は何なのか。この土地に何か秘密があるのだろうか。ほんの僅かな手がかりだけでも、彼らの意図を掴めると良いのだが――。
「さて皆、頃合いのようだ。死神が1体やられた」
ナイトスコープで戦場を観察していたディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)が、エトヴァの思考を中断させた。
死神は3体、対するエインヘリアルは9体。
それを合図に、ケルベロスは一斉にビルから飛び出して行った。
『なっ……敵襲だと!?』
『――……ケルベロス――……新たな敵』
「義はないが助太刀しよう、世の中は愉しい方が良いからね」
不意の奇襲に色めき立つエインヘリアルと死神たち。そんな彼らにディミックは阿頼耶識を輝かせながら、飄々と戦闘開始を告げるのだった。
●二
『敵襲だ! 一般兵ども、足止めしろ!』
怒声が飛ぶや、兵士4体がケルベロスへと押し寄せる。
声の主たる督戦兵を含む5体は、死神を相手に更なる猛攻を浴びせ始めた。騎士団を壊滅させ、残った兵全員でケルベロスを攻撃する気なのだろう。
グラビティ乱れ飛ぶ戦火の中、3つの勢力は一斉に動き出した。
「お忙しいところ失礼。少しお邪魔しマス」
エトヴァは意思の力で氷結輪を動かすと、深手を負った際前衛の一般兵めがけて射出。 脇腹を切り裂かれて悶絶した兵士が、敵意の籠った視線を投げつける。
『ケルベロスどもめ、この地は渡さん……!』
「隙あり、デース!」
星辰を宿した剣を手に、一般兵が星座のオーラを飛ばそうとした刹那、シィカのばら撒く殺神ウイルスが降り注いだ。
「レッツ、ロックンロール! ケルベロスライブ、スタートデス!」
愛用のギターを掻き鳴らし、高らかに歌い始めるシィカ。
その旋律に乗って、環が魔力を込めた咆哮を兵士めがけ浴びせる。大事な仲間を傷つけた敵への、尽きることのない敵意と怒りを込めて。
「嫌い嫌い嫌い。大っ嫌い」
『調子に乗るな……っ!』
心からの嫌悪を込めて放つ『強襲式・暗澹咆哮』は、しかし横から割り込んだもう1体の兵士に防がれた。次いで一般兵が三連続で放つ凍結のオーラを、シィカが、ディミックが、フローライトが身を挺して受け止めていく。
「頑張るよ、ラーシュ!」
マイヤはガネーシャパズルから竜の稲妻を呼び出した。
攻撃を緩める余裕はない。すでに敵前衛の盾役2体は、最後列の兵が描く守護星座の光を浴びて、少しずつだが態勢を立て直し始めている。手を止めれば、その瞬間にケルベロスは敗北するだろう。
「負けないよ。わたしたちは、もうとっくに覚悟完了してるの!」
稲妻に心臓を射抜かれ、黒焦げの躯となって転がる兵士。
フローライトはラーシュの属性インストールを受けて傷を癒すと、薬液の入ったアンプルを地面で叩き割り散布。前衛の傷を回復していく。
「死神は……エインヘリアルとの戦闘で手一杯……みたいだね……」
フローライトが指さす先、死神たちは衛士団の5体を相手に戦い続けている。どうやら、ケルベロスを攻撃するだけの余裕はないようだ。
とはいえ――。
「さすがに……範囲攻撃は……こっちにも届く……か……」
衛士団も騎士団も、自分たちの勢力以外を区別せずに撃ちまくる攻撃の嵐は、ケルベロスの隊列にも容赦なく降り注いでいた。
エマは吹き荒れる星座のオーラを掻い潜り、轟竜砲の砲口を中衛の兵に向ける。
「逃がさないよ! さっさと吹っ飛んじゃえ!」
妨害に優れる一般兵は、早急に排除すべき敵に他ならない。
砲弾で兵を捉えるエマ。その横で学は祝福の矢を射かけ、エトヴァに力を与えていく。
「ふむ、中々貴重なデータが……っておいよせ、メモに落書きするな!」
「敵の支援は中々に厄介だ。皆、これを使ってくれ」
助手が捧げる祈りで傷を癒したディミックは、護法覚醒陣で前衛を包み込んだ。
光によって傷を塞いだのも束の間、周囲からは死神とエインヘリアルの攻撃が雨あられと降ってくる。特にディフェンダーは仲間を庇い続け、全身を氷に覆われている状態だ。
「少々お待ちヲ。いま回復しマス」
「イエース! レッツ、ロックンロール!」
シィカはエトヴァとともにブラッドスターの旋律で前衛を包みながら、尋ねた。
「環さん! 死神の戦況はどのくらいデスか?」
「死神はそのままです。衛士団は督戦兵が1体落ちました!」
環はシャウトで氷を溶かし、続けざまに中衛の兵士へ音速を超えるパンチを叩き込む。
めり込む拳。バキッ、という鈍い音。星座の保護もろとも肋骨を砕かれ絶叫する兵士へ、更にマイヤが時空凍結弾を発射、致命傷を刻み込んだ。
「立ち止まってる暇はないのデス! ファイトデス!」
「はい治療……これならまだ……大丈夫……」
氷で負傷したシィカを緊急手術で回復しながら、フローライトは戦場を俯瞰する。
衛士団が戦力を分散させ、更にはケルベロスが足止めの兵だけを狙い撃ちにして戦ったことで、死神の被害は想定よりも遥かに少ない。降り注ぐ攻撃は今なお熾烈だが、少しずつ敵が斃れ始めたことで、その勢いは弱まりつつあった。
「よし。このまま戦いの流れをものにしよう」
「エインヘリアル! 磨羯宮決戦のお返しだよ!」
学が薬液の雨を前衛に降らせる傍ら、エマが構えたのはロケットランチャー。
瀕死の傷を負いながら、仲間たちとともに守護星座を描こうとする中衛の敵兵士に照準を合わせ、いまトリガーを引く。
「照準よし、ファイアー!」
『ぐ、ぐわあぁぁっ!』
戦乙女が発射したグラビティの爆裂弾が、兵士を跡形もなく吹き飛ばした。
●三
「皆、気をつけたまえ。死神が1体討たれたようだ」
ディミックが護法覚醒陣で後衛を包みながら指さした先では、エインヘリアルの集中攻撃を受けて死神がコギトエルゴスム化したところだった。
劣勢にもかかわらず、死神は被害を最小限に抑えて粘り強く戦っている。対する衛士団にじわりと生まれる焦燥の空気。それをケルベロスは見逃さない。
エトヴァは氷結輪の斬撃で後衛の兵を凍らせながら、衛士団に向かって口を開いた。
「随分と焦っておられる様子。サフィーロ王子は怖がりですカ?」
『……何だと貴様ぁッ!』
殺気立つ督戦兵へ、エマも一緒に挑発を投げる。
「磨羯宮でサフィーロを狩るのも飽きちゃった。ねえ、ツグハの代わりは決まったの?」
「防衛が精一杯デ、牙も剥けないとハ。彼も戦士かと思っていましたガ」
『き……さ……ま……ら……!!』
バトルオーラをみるみる真っ黒に染める督戦兵。
そこへ学がとどめとばかり、最後の一言を浴びせる。
「動きは単調、戦略は鈍い。兵としては粗雑も粗雑……雑兵とは、よく言ったものだな」
督戦兵の意識は、もはやケルベロスだけに向いていた。
彼は配下の兵3体に向かって、
『無能ども、死んででも死神を殺せ! 敗北したら俺が貴様らを殺す!!』
そう言い終えるや、雄叫びをあげてケルベロスに襲い掛かってきた。
『この地はサフィーロ様のもの! 他の王子になど一歩も踏み込ませぬ!』
超音速の鉄拳がドス黒いオーラを帯びて、環めがけ迫る。身を挺して庇ったラーシュが、限界を超えたダメージを受けて消滅。そこへ残る一般兵2体が、星座のオーラを前衛へと次々に飛ばしてきた。
「皆、もう少し……! 頑張って!」
星座のオーラと氷で失われていくシィカの体力を、マイヤは気力溜めで留め続けた。
督戦兵の戦闘力は、一般兵のそれとはレベルが違う。死神からは引き離せたが、早く取り巻きを倒さねば逆転を許しかねない。
「レッツ、ドラゴンライブ……スタート!!」
窮地のときほど、天高らかに。シィカとドラゴニアン少女たちの残霊がトリオで奏でる曲を背に、環がフラワージェイルで後衛の兵士を屠り去った。
「残り2体です、行きましょう皆さん!」
「正念場……だね……」
環の言葉に頷いて、フローライトは薬液の雨で後衛を癒しながら発破をかける。
薄氷を踏む――まさにそんな言葉に相応しい戦いだった。もしディミックや学からの破剣がなければ、もし狙う敵の優先順位を統一していなければ、確実にケルベロスの劣勢は免れなかっただろう。
「磨羯宮決戦のお返しだよ!」
エマは督戦兵めがけて轟竜砲を発射しつつ、傷だらけの体で苦笑した。
ここ最近、すっかり砲兵が板についてきた気がする。わたしはヴァルキュリア、舞うように槍を振る戦乙女なのに――。
「やれやれ、本当に誘いに応じるとは。雑兵ですら過ぎた評価だな」
「同感だ。さっさと黙ってもらおう」
学が祝福の矢でシィカを癒すのに合わせ、ディミックが放つはネクロオーブの熱なき炎。守りを剥ぐ一撃を浴びた督戦兵は鎧が吹き飛ぶのも構わず、配下と共に一斉にケルベロスの隊列へと迫る。
『『サフィーロ様のために!!』』
「俺たちは番犬。此処で退く気はありまセン」
エトヴァの瞳が督戦兵を囚え、『Doppelgaenger』の力で現身の姿を刷り込んだ。麻痺に蝕まれながら、なお督戦兵の勢いは衰えない。
後衛めがけ星座のオーラを放つ一般兵が、マイヤの時空凍結弾に胴を穿たれ絶命。最後に残った督戦兵は配下の死に目もくれず、学めがけ魔法の弾丸を発射した。そこへ即座に割り込んだシィカが弾を受け、戦闘不能となって膝をつく。
「後はお願い、デス……!」
シィカの言葉に、フローライトとディミック、そしてエマが行動で応えた。
フローライトは偽翼で加速。ディミックとエマが立て続けに放った轟竜砲と『PBW』に先んじて、流星の光を宿したサマーソルトの蹴りを督戦兵に叩き込む。
「顎がお留守……」
「そして脳味噌はカラッポ、だな」
蹴りと竜砲弾、そしてロケット弾を浴びて吹き飛んで督戦兵へ、学が関節から引き出したケーブルを一斉発射。突き刺した先端から膨大な『智』の魔力を流し込む。
「憶えているか。これはお前の経験であり、お前の智識より刻まれたものだ。今世のものであるとは限らんが、な」
智の魔力を流し込まれた督戦兵が、絶叫しながら氷に包まれていく。
そして――。
「嫌い、嫌い、嫌い――」
環は、喰らった魂と魔力を弾に、とめどなき負の感情を込めて、叫ぶ。
「大っ嫌い!!」
断末魔とともに督戦兵が砕け散るや、環と仲間たちはもう一つの戦場へ目を向ける。
残った衛士団と騎士団は2対1。
瀕死となった一般兵たちの殲滅には、1分を要しなかった。
●四
「さ、帰ろっか!」
体の土埃をぱんぱんと払ったエマが笑顔で言った。
作戦は成功だ。マイヤは衛士団のコギトエルゴスムを壊せるだけ壊し、仲間たちと退却の準備を開始する。戦闘が終わった以上、ここに長居は無用だ。
「良ければ教えて下サイ。ザルバルクとは一体、何なのデス?」
『ケルベロス……――排除……――』
エトヴァが投げた問いに、死神は答えない。
負傷したシィカを担いだエトヴァの隣で、ディミックは死神のコギトエルゴスムを投げて渡すと、去り際に一度だけ振り返って言う。
「たしか君たちは、同族はサルベージできないのだろう?」
そうして帰還していく仲間たちに混じり、フローライトは葉っさんを撫でて呟いた。
「皆の勝利……嬉しい……ね……」
「ああ。全くだ――っておい助手、メモを破るんじゃない!」
同意を返しながら、学はふと、督戦兵が残した『一言』を思い出す。
真実である保証はない、しかしケルベロスたちの胸を妙に騒がせる一言を。
「他の王子、か」
焦土地帯を巡る戦いは、未だ終わりそうになかった。
作者:坂本ピエロギ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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