音々子の誕生日~アートしてキャット

作者:土師三良

●音々子かく語りき
 ヘリポートで世間話に興じるケルベロスたち。
 そのうちの一人――ヴァオ・ヴァーミスラックスがなにかを思いだしたらしく、ぽんと手を叩いた。
「あ? そういえばさー。もうすぐ、音々子の誕生日じゃね?」
「そうでーす! 誕生日でーす!」
 と、人の脇に頭をくぐらせる犬猫のごとく、ヘリオライダーの根占・音々子がにゅっと姿を現した。
「つきましては皆さんをちょっとしたイベントに御招待しようかと思いましてー」
「いいねえ。招待されてやんよ。二十代最後の誕生日を盛大に祝おうじゃないの」
「ありがとうございまーす。でも、二十代最後じゃないですよー」
 にこにこ笑いながら、音々子は切れ味鋭いフックをヴァオの脇腹に打ち込んだ。
「ぐぉっぷ!?」
「で、そのイベントというのは――」
 地に伏して悶絶するヴァオを蹴り転がして隅に追いやり、何事もなかったかのように話を続ける音々子。
「――私の知り合いがやってる猫カフェで開催されるんですよ。その名も『にゃんにゃん芸術祭(仮)』! 後ろに『(仮)』が付いているとはいえ、イベントの内容は察しがつきますよね?」
 つかなかった。誰一人として。
「あれ? 判らないですか? ざっくり言うと、猫モチーフ限定でアートなことをするイベントです。店内の猫ちゃんをモデルにして、写真を撮ったり、絵を描いたり、詩を書いたり、川柳や俳句を詠んだり、ぬいぐるみを作ったり、刺繍をしたり、木像を掘ったり……ジャンルは問いませんので、創作活動に勤しんじゃってくださいなー」
「完成度の高い作品をつくったら、賞金とかもらえるわけ?」
 と、俗っぽいを質問をしたのはヴァオ。いつの間にか復活していたらしい。
「いいえ。コンテスト形式ではないので、賞金も表彰状もありません。でも、優劣とかを気にせず、自由に伸び伸びと創作するのも楽しいと思いますよー。猫ちゃんたちに心を癒されるというオマケもついてきますし」
「オマケっつーか、そっちをメインとして推してない?」
 疑惑の目を向けるヴァオを笑顔でスルーして、音々子は声を張り上げた。
「ご都合がよよしければ、是非ご参加くださませー! 猫ちゃんたちと一緒に、れっつ・どぅ・あーと!」


■リプレイ

●ぴーとん
 吾輩は猫である。名はぴーとん。
 そして、ここは吾輩の住居にして勤務地である猫カフェ……なのだが、今日はカフェというよりもアトリエの様相を呈している。
 ケルベロスたちが創作活動をおこなっているからだ。
 創作活動の種類は様々だが、やはり、絵を描いている者が多い。中には変わった描き方をしている者もいて……たとえば、あちらにいる甲斐・ツカサと新城・瑠璃音だ(なぜ、名前を知ってるのかって? 猫はなんでも知っているのだ)。一枚の大きなキャンバスを二人で共有し、猫の絵を合作しているぞ。
「ツカサさん、絵がお上手ですね」
「うん。任務で赴いた場所で見た光景をよく描き留めたりするからね」
 確かにツカサの筆さばきはなかなかのものだ。しかし、絵を描くことに集中していない。何度も手を休めては、隣の瑠璃音をそっと一瞥して微笑んでいる。
 昭和の時代の付き合いたて純情中学生カップルのごとく、はにかみ笑顔で相手をチラ見……そういう軟派な態度で創作に臨むなど言語道断。タックルして活を入れてくれるわ。とうっ!
「きゃっ!?」
 しまった! 狙いを外して、瑠璃音にぶつかってしまった。吾輩、意外とドジッ子。
 もっとも――、
「おっと!」
 ――ツカサがすかさず手を掴んで引き寄せたので、瑠璃音は転倒を免れたがな。
「大丈夫?」
「あ、りがとうございます……」
 顔を覗き込んで尋ねるツカサと、その顔を真っ赤にして答える瑠璃……二人っきりの甘々な世界をつくりおって。爆発しろ!
 しかし、そうやってイチャコラしている輩はこいつらだけ。他の者たちは黙々とストイックに創作活動に勤しんでいるぞ。
「あー! 尊い猫がいっぱぁーい!」
 ……前言撤回。ちっとも『黙々』ではない上に『ストイック』という概念から一億光年くらい距離を置いてる者がいた。
 九条・小町だ。クレス・ヴァレリーの横に立ち、陶酔と恍惚の眼差しで猫たちを見回している。
「猫だらけのこの空間は聖地? それとも、天国? 私、死んだの? 尊死んじゃったの? だとしたら、二度と生き返りたくなーい!」
 この調子で狂的な猫愛をこじらせ続ければ、尊死ぬより先に社会的な死を迎えるんじゃないか?
「どの子をモデルにしようか?」
 スケッチブックを脇に挟んだクレスが苦笑混じりに尋ねると、小町は我に返り――、
「この子よ、この子! ほら、おっとりした感じが尊いでしょ?」
 ――おつむの弱そうな茶トラを抱き上げた。知的なイケオス(人間が言うところの『イケメン』だ)である吾輩を選ばぬとは……審美眼のない奴め。
「よし」
 腰を下ろし、スケッチブックを広げるクレス。
 小町はクレスの前に移動し、同じく腰を下ろした。
 そして、茶トラを膝に乗せて撫で始めた。
「ふぁぁぁーっん! 柔らかい! 可愛い! 柔ら可愛いぃぃぃ~ん!」
 モデルたる茶トラをあやして、おとなしくさせているつもりらしい。
 その甲斐あって、茶トラはじっとしているが、当の小町はあいかわらず騒がしい。
「こうやって撫でてると、うとうと~ってする姿がたまらない! たまらなさすぎて、また尊死にそう! この愛らしさを余すことなく描くのよ、クレス!」
「はいはい」
「生返事ぃ~。ちゃんと描いてんの?」
「もちろん。『愛らしさを余すことなく』ね」
 微笑を浮かべて答えるクレスの後ろに吾輩は回り込み、スケッチブックを覗かせてもらった。
 うむ。確かに愛らしく描かれている。
 あの茶トラの姿が。
 そして、幸せそうな顔をして茶トラを撫でる小町の姿も。

 ……おまえらも爆発しろー!

●ぐりぐり君
「猫ちゃんが口に入れちゃうと危ないから、掌からはみ出すくらいのサイズ感で……」
 大弓・言葉がぶつぶつと呟きながら、カラフルなフェルトをちくちくと縫ってる。
 僕をモデルにして、フェルト人形(『猫形』って言うべき?)を作ってるんだ。
「はい! 頭と胴体が完成! 縫い合わせる前に細かいパーツを作りましょうねー」
 ぶつぶつとちくちくのコンボを何度も繰り返した後、言葉は人形の頭と胴体を床に置いた。
 頭はけっこう可愛く出来てるけど、僕にぜっんぜん似てないなー。僕、可愛い系じゃなくてカッコいい系だし。
 でも、胴体のほうは気に入ったよ。叩いて遊ぶのにちょうどいい。そーれ、猫パンチ、猫パンチ、猫パーンチ!
「ちょっと、なにしてるのぉー! あー、もう可愛いー! でも、作業が進まなーい!」
『可愛い』とか言うな。僕はカッコいい系だってば。猫パンチ!
「しかたないわね。もう一個、胴体を作ろう」
 言葉、ちくちくを再開。
 僕は人形叩きを続行。猫パンチ、猫パンチ!
 ……ん? カーム・コンフィデンスがじっとこっちを見てるよ。彼女も僕をモデルにしてるのかな? 猫パンチ!
「猫をスケッチしてるの?」
 と、カームに尋ねたのはソフィア・フィアリス。猫パンチ!
「うん。でも、このスケッチは下準備よ。猫チェスを作るためのね」
「猫チェス?」
 カームの返事を聞くと、ソフィアは首を傾げた。釣られて、僕も傾げちゃった。猫パンチ!
「スケッチを参考にしてレジンで三十二匹の猫さんたちを作り、チェスの駒にするの。それぞれの猫さんたちを王冠や杖や剣で飾り付けして、赤と青のリボンで陣分けする予定」
 おもしろそー! 僕のことをスケッチしてたってことは、駒に選んでくれたんだよね? なんの駒かなー? カッコいいナイトがいいなー。猫パンチ!
「ちなみにこの子はポーンにする予定」
 やだー! ナイトにしてよー! 猫パン!
「なるほど。ポーンっぽい感じがするわ」
 ソフィアはなんか納得してるけど、僕は納得いかなーい!
「ところで、ソフィアさんはなにを作ったの?」
「よくぞ聞いてくれました。実はおばちゃんも立体物に挑戦してみたのよ。ヒガシバに猫の形をした小さなエクトプラズムを吐き出してもらって――」
 ヒガシバっていうのは、ソフィアの横にいる炊飯器型ミミックのことだね。猫パ!
「――それを型取りしてミニチュア猫ちゃんズを作ったの。じゃーん!」
 ソフィアは小さな猫のフィギュアを並べた。全員、毛並みの色が違う。
「一匹一匹、おばちゃんが手ずから彩色したのよー。けっこう楽しかったわ」
 ふーん。まあ、色はどうでもいいや。重要なのは叩いた時の手応えならぬ肉球応え。そーれ、端から順に猫パンチ、猫パンチ、猫パンーチ!
「ちょっと、おばちゃんの力作を乱暴に扱わないでよー」
 やーだよー。猫パンチ!
 あ? いつの間にか、言葉がちくちくを終えたみたい。二つ目の胴体を持って、僕を見てるよ。猫パンチ!
「新しい胴体を作り終わった時には最初の胴体に興味がなくなってるっていうオチか……まあ、こうなることを判ってたけどねー」
 呆れ顔兼諦め顔兼笑顔で溜息をついて、言葉は一つ目の胴体を拾い上げた。猫パーンチ!

●三毛・フジコ
 あたしは世にもレアな雄の三毛猫。でも、心は乙女よ。
 今日はイッパイアッテナ・ルドルフのアートな活動に協力してあげてるの。
 どんな形で協力しているのかは言うまでもないでしょ? そう、モデルよ、モデル。面倒くさいけど、これもノブレス・オブリージュ。美に恵まれた者は、芸術に貢献する義務から逃れることはできないのよねー。
 ちなみに、イッパイアッテナの『アートな活動』ってのは、木彫りの彫像をつくることよ。
「モデルさんが綺麗だと、作業も捗りますね」
 とかなんとか本当のことを言いながら、鑿を動かしてるわ。
「モデルさんのご機嫌取りをしっかりお願いしますよ」
 と、イッパイアッテナに声をかけられたのはミミックのザラキ。あたしがこの場から離れないように、エクトプラズム製の猫の玩具をアピールしてる。
 でも、気遣いは無用。あたしはプロのモデルよ(気持ちだけはね)。エジプト座りして、可愛く尻尾マフラーを作って、ツンと澄まし顔を決めて、この姿勢をキープ。彫像が完成するまで一ミリたりとも動かないわ!
 ……と、思ったんだけど、鼻がひくひく動いちゃう。だって、美味しそうな香りが漂ってきたんだもん。
「すごーい! こんなにたくさんの猫がいて、しかも、どの猫も可愛いなんて!」
 香りが来た方向から黄色い声が聞こえてきたわ。目だけを動かして、ちょっと見てみましょ。
「このケーキも本物の猫くらい可愛い感じになるといいんだけど」
 うわっ!? ゴリラよ! ゴリラがいるわ! ……って、よく見たら、違う。本物のゴリラじゃなくて、ウェアライダーの金剛・小唄ね。あー、びっくりした。
「ふんふんふ~ん♪」
 フリフリのエプロンをつけた逞しい体をハミングに合わせて揺らしながら、お料理をしてるわ。あれはカップケーキかしら? 猫の顔を模してアイシングするみたい。
 あら? 香りに釣られたのか、ゴリラチックな外見に怯えもせずに何匹もの猫が集まっていくわ。
 猫に囲まれて、小唄はますます上機嫌。ニコニコと笑って――、
「こら、点心!」
 ――いたけど、猫に紛れて摘み食いしようとしていたウイングキャットの『点心』の姿に気付いて、軽く叱った。『軽く』といっても、顔はゴリラそのものだから、めちゃくちゃ怖いけどね。
 でも、もっと怖い奴が視界に入っちゃった。
 比嘉・アガサよ。
 猫の絵を描いてるんだけど、獲物……もとい、モデルに向けた視線が半端なく鋭い! 鋭すぎる!
「シャーッ!」
 ほら、アガサにじーっと見つめられていたぐりぐり君が威嚇の声を発してるわ。でも、アガサに対抗するには圧倒的に貫目不足。あと十秒もすれば、威嚇の声は命乞いの声に変わるでしょうね。
 アガサもそれを悟ったのか、視線を巡らせて――、
「しょうがない。このケバめの三毛猫を描こうか」
 ――あたしに目をつけてきたぁー! やだ、怖ぁーい! 怖すぎて、変な声が出ちゃう!
「う゛に゛ゃーっ!」
「うーん」
 あたしを見つめ続けながら、アガサは首を傾げた。
「こっちは敵意なんかないのに……ただ、じぃ~~~っと見ているだけなのに……なんで、毛を逆立てたり、耳を伏せたり、ぷるぷる震えたりするんだろう? 解せぬ」
 いや、解しなさいよ! あんたの目つきが剣呑だからでしょ!
 ちょっと、イッパイアッテナ! 助けてちょうだい!
「アガサさん。この三毛さんを描くなら、こちらからのアングルのほうが良いんじゃなですか?」
 助けろや! アドバイスしてんじゃねーわ!
 ちょっと、小唄! 助けてよ! あんたの目力なら、アガサの眼光にも対抗できるはずよ!
「そろそろ、ケーキが焼き上がりますよー」
 助けろや! ケーキとか、どうでもいいわ!

●与五郎左
 私の趣味は人間観察。
 珍妙なイベントがおこなわれているためか、今日は観察のしがいがある連中が多いな。
 ほら、あのリリエッタ・スノウもそうだ。
「猫さーん。こっち見て」
 右手でスマートフォンを構え、左手で猫じゃらしを揺らしながら、鍵尾の子猫を写真に収めようとしている。
 しかし、スマートフォンを操る手つきがおぼつかない。使い慣れていないようだ。
「にゃあ!」
 猫じゃらしに子猫が飛びついた。
 ほぼ同時に『ぱしゃり』という音が響き――、
「あー! ブレブレになっちゃいましたぁ」
 ――リリエッタの情けない声が続いた。ボタンを押すタイミングが遅すぎるぞ。
「ねえ、猫さん。もう一回だけ撮らせて」
 新たなシャッターシャンスを得るべく、リリエッタは猫じゃらしで子猫と遊び始めた……が、いつの間にか、スマートフォンを脇に放り出しているではないか。撮影よりも遊ぶことに夢中になっているな。
 それに比べて、シャーリィン・ウィスタリアとゼノア・クロイツェルの撮影は順調に進んでいるようだ。
「ねえ、ゼノア。ポーズはこれでよろしいの?」
「うん。いいんじゃないか」
 シャーリィンがおっかなびっくりといった手つきで猫をあやし、ゼノアがその様子をスマートフォンで撮ろうとしている……が、猫がいきなり暴れ出した。
「きゃっ!? 怖がらせちゃったかしら?」
「おい、こら。暴れるんじゃない。いてっ!?」
 なだめるために近付いたゼノアを猫は思い切り引っ掻いた。順調に見えたのは間違いだったか。
 その後、二人は悪戦苦闘の末に撮影を終えると、新たな作業に移った。
 木彫りの猫を作り始めたのだ。猫の写真を撮ったのは、木彫りの参考にするためだったらしい。
 しかし、その出来映えは――、
「いまいち上手くいかない」
 ――だそうだ。ゼノアは鑿を操る手を休め、なんともいえない顔をして木製の猫を見つめている。木製の猫のほうも、なんともいえない顔だ。ゼノアとは別の意味で。
「そっちはどうだ、シャーリィン?」
「は、恥ずかしいから、見ないでくださいな……」
 顔を伏せるシャーリィンの前にあるのは、かろうじて猫だということが判る代物。
 まあ、しかし、創作物の完成度は高くないとはいえ、二人とも楽しそうだ。器の小さいぴーとんならば『爆発しろ!』などと怒鳴るのだろうな。私は気にしないが。
 ……む? よく見たら、この二人、互いの尻尾を絡み合わせているではないか(シャーリィンはドラゴニアンで、ゼノアはウェアライダーなのだ)。手を繋ぐかのように、腕を組むかのように、しっかりと。
 ばーくーはーつーしーろー!

●ガタム・タムラ
 こっちにも爆発したくなるようなカップルがいるが、俺ァ、他の奴らみてえに『爆発しろ!』とか叫んだりしねえ。老いぼれらしく、出窓で日向ぼっこしながら、黙って眺めておくさ。
 で、そのカップルってのは新条・あかりと玉榮・陣内だ。色鉛筆を使って、猫たちを描いてやがる。
「色鉛筆ってのは――」
 陣内の色鉛筆が生み出す猫はリアルタッチ。
「――柔らかい毛並みを表現するのにちょうどいいんだ」
「でも、色鉛筆が何色あっても追いつかない。ハチワレ、茶トラ、サバトラ、ミケ、シャム……いろんな猫がいるから」
 一方、あかりの猫は漫画っぽい感じ。『でほるめえ』とかなんとか言うんだっけか?
「色数の少なくても、別の色を重ねていけば……いや、美術部員にこんなアドバイスをするのは釈迦に説法だったかな」
「僕が美術部に入ったこと、知ってたの? ナイショにしてたのに……」
「油絵具の匂いに俺が気付かないとでも?」
 自分の鼻先をつついてみせる陣内。そのドヤ顔を見上げて微笑むあかり。
 ……うん。爆発しとけ。
「ケーキができましたよー! 皆さんもどうぞー!」
 お? 小唄が皆にカップケーキを配り始めたぞ。どのケーキも可愛らしいじゃねえか。チョコペンで傷が描かれたのがあるが、あれは俺をモデルにしたやつかな。
「美味しそうだな!」
 アラタ・ユージーンがケーキを受け取り、にっこり笑った。この娘は料理好きなんだが、今日はなにも作ってないようだ。
「アラタは料理を深く愛しているけれど、今回はあえて料理ではなく、詩をつくってみたぞ。この白玉さんをモデルにしてな」
『白玉さん』と名付けた白猫を抱き上げて、アラタは詩の暗唱を始めた。

「にゃんにゃん白玉。
 お昼寝ころころ。
 気儘に何処へ」

 根占・音々子のところに何人かのケルベロスが集まり――、
「誕生日、おめでとうございます」
 ――そのうちの一人のイッパイアッテナが祝福の気持ちを伝えた。
「ありがとうございまーす」
「これ、プレゼント!」
 感謝感激でKO寸前の音々子に言葉がプレゼントで追撃。
「ねっこねこなスケッチブックよー!」
 言葉に続いて、ソフィアもプレセントを渡した。この店で販売されてるグッズだ。
「ここの猫たちの顔がプリントされたコースターをどうぞ。こういうのってちょっと欲しい感じがするんだけど、自分のために買うのはビミョーだったりするのよね」
「私のプレゼントはこれ」
 アガサが差し出したのは、三毛猫(毛を逆立てたフジ子だぜ)のスケッチ。『27』という数字も記されている。
「来年は二十八歳だね、音々子」
「いえ、念を押さなくていいですから……」

「しっぽゆらゆら。
 足音忍者。
 獲物はお魚?
 ちゅーるかな?」

「僕たちが『正義のヒーロー」でいられるのは――」
 いつの間にか、あかりは猫だらけの絵に人間を描き加えていた。
 猫に囲まれて微睡む音々子だ。
「――音々子さんたちヘリオライダーのおかげだよ」
「スリル満点のヘリオンライディングが楽しめるというオマケがついてくるのも音々子のおかげだよな」
 茶化すような調子で陣内がそう言ったが、当の音々子はきょとんとしている。操縦の荒さを自覚してねえようだな。
「最近、また操縦の腕を上げたんじゃないか? なあ?」
「うん」
 陣内に同意を求められると、あかりは頷いた。
 そして、陣内の絵に目を向けた。
 そこにも音々子が描き加えられている。
「エチケット袋を必死に探さなくてよくなったくらいにはね」
 絵の中の音々子の肩には、碧い翼を持った猫がとまっていた。

「自由な白玉。
 あったかお手てと。
 いい匂いの陽だまりへ。
 おひげそよそよ」

 アラタは暗唱を終えると、白猫の両前足をあげてバンザイさせた。
 周りの連中が拍手を送ったが、ただ一人……いや、一匹だけ、むすっとした顔をしてる。アラタが『先生』と呼んでるウイングキャットだ。
「どうした、先生? やきもちか?」
 アラタは白猫を下ろし、代わりに先生を抱き上げると――、
「大好きだよ」
 ――鼻先に唇を押し当てた。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月3日
難度:易しい
参加:16人
結果:成功!
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