邪神植物トソース誘引作戦~熱々甘々のひと時の後で

作者:柊透胡

「美味しかったぁっ!」
 冬の空に歓声が響く。今しも、カフェから出て来たばかりのカップルは、寄添うように肩を並べる。
「やっぱり冬は熱々が良いよね! あのシチューみたいなクリームソースのクレープとか」
「俺は……ショコラグラタン、だっけ? 美味かったよ。苺とチョコって、鉄板だよな」
 どうやら、ホットスイーツを楽しんできたらしい。寒空の下、身体も中から暖まれば、自然と2人の笑顔もほっこりと。
「……でさ。さっき食べたスイーツには、ちょっと程遠いんだけど」
 一転、照れくさそうに俯いた彼女は、バッグの中から小箱を取り出す。
「折角だし、やっぱり手作りも鉄板、かなぁって」
「あ、ありがとう……嬉しい」
 可愛くラッピングされた手作りチョコレートを受け取って、彼は思い切ったように口を開く。
「俺――」
 ――――。
 何か、告白しようとした声が、唐突に途切れる。
「え……」
 ビシャビシャと、呆然と目を見開く彼女に、鉄錆た臭いが浴びせられる。
「ひ……ぁ……」
 目の前で、首を消し飛ばされ、立ち尽くす、彼。
 いっそ漫画のように、噴き出す血潮。その後ろから。
 グニグニと蠕動しながら蠢く黄土の蔦の先端で、眼球がギョロギョロと――彼女を映す。
 ――――!!
 逃れる暇も無く、喰らい付かれ、咀嚼される。先に首を失くした彼の残りも同様に……然したる時間をおかず、血だまりの中で残らず捕食し終えた『其れ』は、忽ち、8体に分裂する。
 事を成せば、もう此処に用はない。『其れ』らは次なる獲物を探し、文字通り、八方に分かれ去っていった。
 
「大阪城の攻性植物に、新たな動きです」
 都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は険しい表情で、ケルベロス達を見回した。
「季節の魔力の1つである『バレンタインの魔力』を強奪するべく、攻性植物が大阪都市部を無差別に襲撃します」
 邪神植物トソース――正式名称『チョコレイ=トソース』は、バレンタインデーを楽しむ男女を食い殺してバレンタインの魔力を強奪すると、その場で分裂。更なる犠牲者を求めて拡散していく。
「被害者が出てしまえば、鼠算式に数が増えていく事になります。大阪都市圏は壊滅してしまうでしょう」
 邪神植物トソースは、「バレンタインの魔力が高まった場所に転移、獲物を捕食して繁殖」を繰り返す性質があるようだ。
「この性質を利用します。ケルベロスのカップルが、囮となってバレンタインの魔力を高めれば、邪神植物トソースを大量に誘き寄せる事が出来る筈です」
 より魔力が高まっている対象を狙い集まってくる為、魔力の高いケルベロスが囮となれば、被害を最小限に抑えての殲滅が叶う訳だ。
「無限繁殖は脅威ですが、邪神植物トソースの戦闘力は低めです。集まる端から、掃討していって下さい」
 尚、ヘリオライダーが指定した邪神植物トソース誘引作戦の地点には、地元でも人気のカフェがある。
 何でも、寒い冬に嬉しい『ほっと』なスイーツが評判だとか。熱々に焼き上がったグラタンスイーツ、シチューのようにホカホカのクリームソースのクレープ、温かな苺スープ等々。身体を温める生姜を使用した、ホットスパイスティーやタピオカミルクもある。
「特に人気のドリンクは、ジンジャーティーにタピオカ、チーズフォームを合わせたホットチーズティーだそうです」
 勿論、バレンタインの特別メニューとして、フォンダンショコラやショコラクレープ、ショコラグラタンにチョコタピオカと、チョコレートのスイーツも豊富だ。
「『バレンタインの魔力』を高めるのに、絶好のスポットかと考えます」
 つまりは……戦闘の前に、ホットでスイーツなでぇとは如何だろうか? というお話。
「バレンタインの魔力を高めるのは、恋人同士でなくても大丈夫ですが、『本気』を出さないと、充分な効果は発揮されませんので」
 真顔のまま、そう言い置いて、創はタブレット画面に目を落とす。
「邪神植物トソースは、その無限とも言える増殖力で、ユグドラシルとアスガルドの国境地域に防衛線を支えてきた強力な攻性植物であるようです」
 長年に渡る前線から引き抜かれたという事は――或いは、攻性植物とエインヘリアルとの戦争に、何らか変化が生じたのかもしれない。
「ともあれ、今は大阪の防衛を優先しましょう。ケルベロスの皆さんに囮になって頂く事になりますが……迎撃し損なった邪神植物トソースは更に分裂していきますので、各個撃破での対応は難しく、今回の作戦が採用されました。どうぞ宜しくお願い致します」


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
巽・清士朗(町長・e22683)
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)
水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841)

■リプレイ

●熱々甘々のひと時
「植物がチョコごと人を食って増力たァ……こりゃまた厄介なモンが出てくるなァオイ」
 ガシガシと逆立った髪を掻きながら、ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)は面倒そうに呟いたものだ。
 その視線は、煉瓦造りのカフェに向けられている。真冬の筈が暖冬の所為か、日向はほんのり暖かい。テラス席にも人影が見えて……まあ、謂わば同僚であるのだが。
(「俺ァ、スイーツ食うような柄じゃあねェしなァ」)
 単純に攻性植物を殴るだけなら、他の依頼もあっただろうに。今此処に居る真意はおくびにも出さず、ジョーイは敵の出現に備えてカフェ周辺の警戒に専念する。

 カフェの内装は温かみのあるアンティーク調。洋風の薪ストーブが、何だか味がある。
「……ねぇ、こういうのって恋人同士でやるものでは……?」
 薪ストーブの傍のテーブルに差し向かい。水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)と水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841)は、双子の姉弟だ。
「翼じゃダメだとは言わないけど……その、なんか、違わない……?」
「いや、確かになんか違うけどさ……しょうがないだろ。俺らが失敗したら、一般の人が巻き込まれるんだから」
 眉根を寄せる和奏に、翼はあくまでも囮作戦の一環と主張する。
「それに、相手が俺なのは兎も角、スイーツは食べたいだろ?」
「まあね………あっ、このショコラグラタン、すごく美味しそう」
 取り敢えず、メニューを開いた和奏は、スイーツの写真に目を奪われる。
「でも、フォンンダンショコラもクレープも捨て難い……」
 どれにしようか、悩む事しきり。こうなったら、全部頼むしか……?
「普段からカロリー気にしてる割に、ホントよく食うのな」
 容赦ないツッコミは弟ならではか。とはいえ、翼も確かに全部美味しそうだと思う。
「……そしたら、半分ずつ食うか? 俺はこっち頼むから」
「え、半分こ? ……いいけど」
 そんな訳で、チョコレート尽くしのホットスイーツが、2人の間にずらりと並んだ。壮観だし、何だか幸せになってくる不思議。
「……わ、和奏……ほら。あーん」
 だけど、フォンダンショコラを一口、和奏に差し出した翼の頬が熱い。
「あ、あーんって」
「……いや、こういうのも有効かもしれないだろ!?」
 あくまでも演技と主張する翼。予想外に胸の鼓動がうるさいのは……きっと気の所為だ。
「……あーん」
 やはり演技と自らに言い聞かせ、「あーん」して貰った和奏も忽ち顔が赤くなる。
「……何で?」
「だって……翼にもしてあげないと、不公平じゃない?」
 すぐさまショコラグラタンの仕返し、もといお返しに、戸惑いの表情を浮かべる翼だが……結局、お相伴に預かった。
「……熱いけど、美味いな」
「うん……」
 同時に俯く2人の顔立ちは似通っている。そう、2人は実の姉弟だ。だから、互いに想い合う『好き』は、あくまでも家族としての親愛の情なのだ。
 ――うるさいくらいのドキドキや、頬が熱い理由なんて、知らない。

「何しようかなぁ……」
 窓際の席にて、メニューを熱心に覗くシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)。
(「スイーツなひととき……勿論、全力で楽しみますよっ」)
 意気込みを胸に、シルと肩並べる幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)の指も、メニューをじっくり辿っている。
「普通のメニューも気になるけど……やっぱり、期間限定のものかなぁ」
 悩ましくも、スイーツを選ぶ幸せな時間。大切な人と一緒ならば尚の事、とても愛おしく掛け替えのないひと時だ。
「あ、わたし、期間限定のフォンダンショコラにするよ」
 ドリンクはお勧めのホットチーズティーを注文する事にして、鳳琴の方に肩を寄せるシル。
「ねね、琴ちゃんは何頼むの?」
「……決めました! 特別メニューのショコラクレープとチョコタピオカにしますっ」
 シルと違うスイーツなのは、鳳琴の狙い通りだ。
「分け合って、楽しく食べましょうね」
「うん♪」
 程なく、少女たちの前に並べられるスイーツ。ハート形にカットされた苺が、幾つも飾られている。
「ん、おいしい~」
 シルも早速、一口。ビター&スイーツのショコラの中から、とろりと溢れる温かなチョコレートソース。濃厚なショコラの味わいを、ベリーの甘酸っぱさが引き立てる。
「クレープも、本当においしいですよー」
 一方、鳳琴が注文した自家製カスタークリームを包んだショコラクレープも、ほんのりと温かい。チョコレートソース、粉糖、ビスケットに加えて、バニラアイスや生クリームもトッピングされており、もちもちとした食感に様々な味のハーモニーが絶品。
(「……そうだね、折角だし」)
「琴ちゃーん」
「何ですか? シルさ――」
 鳳琴の口に、又違う甘さ。フォンダンショコラがほろほろと。
「……ね、どう?」
「シルさんからだと、尚おいしいです♪」
 お返しにクレープを一口、シルへ差し出す鳳琴。
「はい、あーん」
「あーん……ん、おいしいっ」
 何度も重なる美味しい幸せに、揃って笑顔になる2人。そうして、御馳走さまでしたと手を合わせたけれど。
「……ん? どしたの?」
「シルさんのお口、私が拭きますね」
 鳳琴が手にした紙ナフキンが、シルの口許へ近付いて。
「ありがと……っ!?」
 だけど、先に触れたのは鳳琴の唇。ちろりとソースが舐め取られた感触に、碧眼が真ん丸に見開かれる。
「え、ええと、その……」
「は。……ごめんな、さい!」
 高鳴る鼓動、考える前に、身体が動いてしまった……ハッと我に返った鳳琴の赤面に、シルも大慌てで、両手を振る。
「う、ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしたけどね?」
 嬉し恥ずかしで胸一杯の2人。愛情が止めどなく溢れるよう。
「シルさん……好き、です!」
「わたしも誰よりも、琴ちゃんが大好きですっ!」

 3年前は、ホワイトガトーショコラ。白いショコラは彼女のお手製だ。
 一昨年は、トリュフチョコセット。やはり手作りでホワイト、ミルク、ビターの3種類。
 そして、去年は、もちもちもち大福。生チョコ大福のもちもち食感は、彼女の拘りだ。
 薪ストーブの傍からも、窓際の席からも離れたカウンター席に陣取り、新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)は、バレンタインデーの贈り物を思い返す。
 生憎と今日は単独の参戦だが、恭平にだって『大切な温もり』はいる。思い出の熱さだって、他と負けてはいない。
「旅団では惚気と言われたものだ、うむ」
 果たして、これで囮の役は果たせているだろうか……上手くいっていて欲しいと思う。
(「出来れば、一緒に参加したかったのだが……ままならんな」)

「さ、おいで。エルス」
 アーガイルの手編みのセーターにファーの付いた膝丈コート、キャメルのパンツにブーツとしっかりと決めて。巽・清士朗(町長・e22683)が両腕を広げれば、ほんのり頬染めて歩み寄るエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)。
(「何か、前も似たような事をした気がする……」)
 テラス席ならば尚の事、気恥ずかしさが先に立ったが……ちょこんと素直に清士朗のお膝の上。
 既に、テーブルの上には、湯気立つショコラグラタンがホカホカと。だけど、エルスは小さな包みを差し出した。
「あのね……まずは、手作りのをあげたいの」
 おずおずと摘ままれたエルスお手製のチョコレートを、清士朗は衒いなく一口でぱくり。
「味は、どうでしょうか?」
 にっこりと満面の笑みが、彼の答えだろう。お返しは、ショコラグラタンを一匙。ふうふうと、冷ましてあげるのも忘れない。
 大人しく口にすれば、チョコレートの酸味とほろ苦さ、苺の甘酸っぱさが引き立て合って、濃厚な味わいがとろけるよう。
「……」
 大好きな人からの「あーん」は格別。だけど、照れる時はやっぱり照れる。今や、エルスが赤面しているのは、ホットスイーツの所為ばかりではないだろう。
(「うーん……出来ればこんな事、2人っきりでしたいし、化け物達に見られるのは何か、ちょっと……」)
 勿論、いちゃいちゃするのは、囮作戦の一環だ。
 だから、清士朗の期待に満ち満ちた眼差しに負けて、エルスはお手製チョコをもう1つ、小さく咥えて上目遣い。
 清士朗も心得たもので、ゆっくりとエルスのチョコに唇を寄せようとして。
「……おや、無粋な客人のご到来だ。パーティーを始めようか!」
 俄かに周囲が殺気立つ。果たして、にょろにょろと禍々しき怪異の大群が出現すれば、その実、警戒は怠っていなかったエルスも、清士朗の膝から降りて身構える。
「さて、どの程度釣れたかな?」
 店内から飛び出してきたケルベロス達を肩越しに見やり、清士朗は愛刀を手繰り寄せる。
 ――春くれば 星のくらいに かげみえて 雲居のはしに いづるたをやめ。
 天真正伝鞍御守流 手弱女――流派の基本にして奥義。或いは、水月位。全身をセンサーと化し、あらゆる攻撃を見切り受け流さんと。

●邪神植物『チョコレイ=トソース』
「さっさと逃げろ! もたもたしてっと食われっぞ!」
 まるで転移でもしてきたように、カフェの前に湧き出る怪異の大群――邪神植物『チョコレイ=トソース』。
 愕然と目を見開く不運な通りすがりの一般人に声を張り、冥刀「魅剣働衡」を抜刀するジョーイ。
「ったく、クッソ面倒くせェなァ……」
 囮となったケルベロス達は、頑張ったらしい。正確に数える気にはならなかったが、現れたトソースの数は、三桁には上るだろう。さっさと殲滅させるに限る。
(「公園、か?」)
 どうやら、仲間はトソース共を戦い易い公園に誘導するようだ。確か、囮の中にシャドウエルフがいた筈。殺界が形成されれば、範囲内の一般人は粛々と立ち去るだろう。トソースの方も、魔力の高いケルベロスに気が取られている様子。
 一刻も早く合流するべく、ジョーイは超加速突撃を敢行。敵群を一気に蹴散らし、その足並みを乱さんと。
「……クッソ面倒くせェ」
 口癖の悪態を吐きながら、思わず顔を顰めた。相当の数を一気に薙ぎ払ったが、ダメージ、厄付け共に相当に威力が散じてしまっている。流石に、単身で一撃殲滅は厳しい。
 だが、敵が怯んだのを幸いに、蔓触手のたくる間をすり抜け、公園に駆け込んだ。
「悪ィ、手間取った!」
「問題ない。丁度、今から始める所だ」
 ジョーイに応じながら、恭平は立ち木を背にネクロオーブを翳す。
「凍てつけ」
 召喚した氷河期の精霊は、吹雪に姿を換えて吹き荒ぶ。
 シルも同じ精霊魔法を詠唱する。精霊石の指輪が輝くや、風精の涙『シルフィード・ティアーズ』を媒介に、トソースの一帯にアイスエイジが齎される。
「纏めて吹き飛ばします!」
 同時、鳳琴のエアシューズは唸りを上げるや、暴風伴う強烈な回し蹴りがトソースの一群を薙ぎ払った。
 トソースの只中に飛び込んだ清士朗の竜尾――背びれが剣のように連なった巨大な尾が、容赦なく蠢く根をへし折っていく。
「最後まで倒れないようにしないとな……和奏、背中を取られるなよ」
「判っているわ」
 和奏はスナイパー、翼はディフェンダー。互いの死角をカバーし合うように立つ2人。列攻撃で掃討出来れば1番効率も良かろうが、トソースの数は余りに多い。それで、序盤は単体攻撃で着実に数を減らしていく策を選択した。
「絶対に逃がしません。……行けっ!」
 大型爆弾の名を冠するアームドフォートから浮遊砲台を展開、複数方向から無数の砲撃を放つ和奏。
「……ここなら届かないって思ったか?」
 姉の流星の嵐のタイミングに合わせ、翼は急加速からの突撃を繰り出す。その名も、長駆一撃――届かないと思える距離であろうと、ブースター加速の一歩で届かせる。
 ――――!!
 早々に、幾許かのトソースは斃せたものの、応酬に喰らい付いて毒を注ぎ、或いは蔓触手がのたくり、触手の先でギョロつく目玉より光線が奔る。
 時にディフェンダーが文字通り盾となる間に、エルスはスターサンクチュアリを敷いた。数の暴威を相手取るのに、メディックのヒールは心強い。
「絶望せよ!」
 更に、惑星レギオンレイドを照らす「黒太陽」を具現化する恭平。
「ちょいと耳塞いでてくれや」
 端的に注意を促して、ジョーイは大きく深呼吸。
「すぅ~っ……AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGH!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 あたかも10万年生きた悪魔が如き叫び声に、硬直するトソース続出か。
「火よ、水よ、風よ、大地よ……集いて力となり、我が前の障害を撃ち砕けっ!!」
「受けろ、幸家の――私の、闘志ッ」
 すかさず、シルが火・水・風・土の属性エネルギーを魔法陣に収束させて拡散精霊砲を放てば、鳳琴は龍状の輝くグラビティを両手より射出。爆風で敵を薙ぎ払う。
「人の恋路を邪魔する降魔は、龍に咬まれて死んじまえ、とな」
 和奏のフロストレーザー、翼の破鎧衝に続き、清士朗も気咬弾で、青息吐息のトソースに引導を渡していく。
「異界に渦巻く虚無、千の刃となり、罪深き者を打ち砕け!」
 針嵐殺滅陣――虚無から無数の黒い針を召喚し、一斉掃射するエルス。回復に攻撃にと、目まぐるしく戦況を把握し、グラビティ使用の最適化を図っている。
 まず列攻撃が一群を薙ぎ、単体攻撃でダメージ深いトソースから確実に仕留めていくケルベロス達。
 ――――!!
 グラビティが交錯するの中、トソースの数は着実に減っていく。戦況が傾き出せば、ケルベロスの掃討のスピードはどんどん加速していく。
「もうすぐ、気色悪いのが片付きそうだな。皆、もう一息……無限の鎖よ」
 戦闘の余波で公園の荒廃した呈に後でヒールしようと考えながら、恭平は無数の黒鎖を放出し、次々とトソースを縛していく。
「来年も……また2人で。ですね」
「うん、また来年も、その先も…。隣で一緒にね」
 鳳琴とシルは仲睦まじい笑みを交わし、旋刃脚とハウリングフィストが交錯する。
「ねぇ? 邪魔を掃除したら……続き、しましょう?」
 だけど、その先は2人っきりで。きっときっと、チョコレートのように甘いに違いない。
「そういえば、1つ食べ損なっていたな?」
 エルスの甘えるような囁きは脳髄の賦活させるよう。鷹揚に肯いて見せて、清士朗は和奏のナパームミサイルに焼き払われ、翼のゾディアックミラージュに凍り付いた中へと飛び込み、淀みなき斬を以て蔓触手の束を斬り払う。その足運びも又、流水の如く。
「よし、と……目的は済んだし、一足お先に引き上げるぜ。じゃあな」
 そうして、最後の1体を達人の一撃を以て伐採し終え、ジョーイは然したる感慨も見せずに踵を返す。肩越しにケルベロス達に手を振って、歩き出した。

 今日はバレンタインデー――仕事の後は、更なるホットもスイートもご自由に。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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