邪神植物トソース誘引作戦~バレンタイン大作戦!

作者:ハル


 今日は2月14日。言わずと知れた、バレンタインデー。
 とある大阪の高校では、『校内一斉チョコプレゼント』なる企画が、密やかに開催されていた。この企画は、カップルはもちろん、片思い中の女子が意中の相手を誘いやすくする場を設けよう! という建前の元旗揚げされたが、実際は盛り上がる材料を探していただけ、という若者らしい悪乗りが大半を占めているようだ。
 それでも飾り立てられ、アロマキャンドルが照らす薄暗い体育館にて想い合う男女が向かい合えば、そこに第三者の介在する余地はない。
 体育館は女子達の手によって、インスタ映えする空間へと見事に誂えられていた。

「んっ、……こ、これ、あんたにあげる」
 表面上素っ気なさを装いつつも、少女が綺麗に包装されたチョコを恥じらいつつ差し出している。
「……お、おぅ……」
 少女に負けず劣らず、少年はつれない態度でチョコを受け取った。
 その反応に不満と不安を抱いた少女は、唇を尖らせて少年を伺いみる。しかし、彼の顔を見た少女の表情は、一転して悪戯っぽいものへと変わる。
 少年の顔を見れば、心配が杞憂であると一目で分かったからだ。その顔は少女以上にリンゴのように真っ赤に染まり、まるで初めて貰ったバレンタインチョコ――事実、そうなのであろう――であるかのように、感動に打ち震えていたのだから。
「なーにぃ、もしかしていらないのかなぁ?」
「い、いる! いるって!! すっげぇ嬉しいって!」
 少女が、からかう様にチョコを取り上げようとする。すると少年は慌てて、チョコを離さないとばかりに抱え込んだ。
 少女がカラカラと笑い、少年が羞恥に悶える。
 と、そんな嬉し恥ずかしな空間が、体育館内のあちらこちらで見受けられた。
 だが次の瞬間――少女は見た。少女を幸福に浸らせる言葉を紡いでいた少年が、肉塊に変わる様を。それはあまりにも唐突であり、悲鳴を上げる暇もない。
「あ……あぁ……」
 少年を喰って肉塊に変えた化け物。それは悍ましい植物の触手のようであり、巨大の瞳がギョロリと蠢いていた。その瞳と目が合った時、少女の恋も終わりを迎えるのであった。

 カップルを喰い殺した怪物は、8体程に分裂増殖を果たす。周辺の生徒達が異常に気づいて悲鳴を上げる中、増殖した怪物はその場にいる他の生徒へ、あるいはより濃密なバレンタインの魔力を求め、去っていった。


「こんな日にまでお仕事で呼び立てしてしまい、申し訳ありません。これはお詫びという訳ではないのですが……」
 集まってくれたケルベロス達に、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が軽く頭を下げる。それは今日がバレンタインデー当日だからこその配慮。予定があった者もいたに違いない。
「しばらく安定傾向にあった大阪城の攻性植物ですが、ここに来て動きがあったようです」
 やがて、桔梗は皆に義理チョコ&友チョコを振る舞いながら、事件の概要を語りだした。
「2月14日という日付けで予測できた方もいるかもしれませんが、ええ、攻性植物の狙いは、季節の魔力の一つ――『バレンタインの魔力』の強奪にあるようです。攻性植物は、この魔力を狙って、大阪都市部への無差別襲撃を画策しています」
 襲撃してくる攻性植物の敵個体名は、『チョコレイ=トソース』。便宜上『邪神植物トソース』と呼称されている攻性植物だ。
「この邪神植物トソースは、バレンタインを楽しむ男女を喰い殺す事で魔力を強奪する模様です。さらに厄介な事に、邪神植物トソースが魔力の強奪に成功した場合、分裂して繁殖する機能を有しているようなのです。そのため、犠牲者が出れば出る程、鼠算式に被害が拡大してしまう恐れがあります」
 次に桔梗は、邪神植物トソースのさらなる特性とその攻略方法について言及する。
「まず邪神植物トソースは、バレンタインの魔力が高まった場所に転移して襲撃を繰り返す性質があるようです」
 桔梗の告げる作戦が予測できたのか、ケルベロス達の瞳に理解の色が灯る。
「ええ、そうです。逆にこの性質を利用する事で、邪神植物トソースを大量に誘き寄せる事が可能です。皆さん――ケルベロスのカップルが、囮となって周辺のバレンタインの魔力を高めることによって!」
 ケルベロス達にもある程度馴染みのある戦術だけに、状況や、やるべき事も素早く浸透する。
「成すべき事はシンプルですね。バレンタインの魔力を高めて、邪神植物トソースを大量に撃破する」
 幸いにも、ケルベロスは元々持つ豊富な魔力を有しているし、邪神植物トソースの戦闘力は低い。
 作戦が嵌まった場合、少なくとも50体以上の撃破は堅いだろう。
「現時点で恋人同士でない方同士のやり取りでも、バレンタインの魔力を高める事は可能です。しかし、やはり『本気』の心、雰囲気を醸し出せなければ、充分な効果は得られません。一人でも多くの男女を救えるように、そして皆さんにとってのバレンタインも守れるように、お力をお貸しください!」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
イピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)

■リプレイ


「綺麗デス!」
 アロマキャンドルと装飾に彩られた体育館を壇上から見下ろすシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は、素直な感想を漏らしていた。薄闇の中をゆらゆらと揺れるロウソクの火は実にロックであり、彼女の魂を高ぶらせる。
「生徒さん、避難をお願いしマス!」
 シィカは、ギターの弦を弾いて生徒達の注目を集めると、そう告げた。
「……しょうがないよね?」
「……ああ」
 年に一度、これだけ準備してきた校内イベントだ。実行委員はもとより、参加しているカップル達も残念そうな表情。
 だが、反論する者はおらず、素直に従ってくれている。
 というのも――。
「あなた達の命を護った上で、あなた達の今日という日を守りたい! だからどうか、この場を少しの時間だけ、わたし達に預からせてください!」
 折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)を中心に、ケルベロス達が根気強く状況を説明した事が生きたのだろう。茜は懸命に、敵がカップルを狙う意図や性質を包み隠さずに話した。
「わたし達だけで先にこの場を借りる事を不満に思うかもしれませんが……それでも――お願いします!」
 自分達を守るために来た茜に誠心誠意頭まで下げられては、生徒達が文句を言えるはずもない。どころか茜と年頃の近い生徒達は、「頑張って!」そう応援もしてくれた。
「なるほどね。音響設備の使い方については大体理解したわ。どうもありがとう」
 植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)は、イベント中に流す音楽について相談していた生徒に感謝を告げる。
「いえいえ、それにしても……可愛いですね~」
「そう言ってくれると、その子も喜ぶわ。さぁ、貴女も避難を」
 碧は生徒の腕の中で抱かれ、撫でられていたスノーに誘導をお願いする。その生徒を最後に、体育館の中にはケルベロスのみとなる。
「そっちは大丈夫そうかしら? 裏方を担当させて悪いわね」
 主婦として、こういった場の切り盛りに関しては一日の長のあるアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)であったが、この場においてはより重要な役割がある。裏方の三人を労わりながら、どこかその足取りは軽かった。
 避難してもらった生徒は、カップル同士が一緒にならないよう、避難先は複数に分けられている。
「さすがに学校内のイベントで、堂々と同性カップルが参加しているって事はなかったのです」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が微苦笑する。それでも、単純に仲の良い女の子同士での参加はあった。
「みたいだね。でも、念のために警戒しておくのは悪い事じゃない」
 マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)が、避難の最終チェックを終える。
 やがて体育館にBGMが流れ出し、『校内一斉チョコプレゼント』企画が本格的にスタートすると、マルレーネはクールな眼差しを僅かな喜色で染め、
「真理がどんなチョコを私のために選んでくれたのか、楽しみ」
 そう呟くのであった。


「恋人達の為にも、こういうイベントは守らないとですね」
「誰かを想う人々にとってかけがえのない日、ですしね」
 ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)とイピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)が、クスリと微笑む。
 視線の先にはアロマキャンドル。
「任務中ですが、こんなに素敵なバレンタインを過ごせるとは思いませんでした」
 陽炎の中で肩を寄せ合う二人の姿に、ラインハルトは自分がどれだけ幸せそうな表情をしているのかを知る。
「私もです。恋人になって初めてのバレンタインをこんな素敵な空間で過ごせるなんて。一緒にいられるだけでも幸せなのに……」
 そして、その幸せを誰かが共有してくれていると知った時、人の心とは信じられない程深く満たされるものだ。イピナの声色には、溢れ出る喜びが込められていた。
「そろそろですね。折角のバレンタインです、何度でも――」

「この香りは柑橘系の……オレンジ・スイートかしら?」
 イピナがラインハルトにチョコを渡そうとしていた頃、アウレリアもまた夫『アルベルト』と共に、二人だけの空間にいた。
 薄暗がりに、二人の姿が浮かび上がる。銀髪長身の彼は、死して尚アウレリアの心を強く、強く惹き付ける。
「貴方と過ごすバレンタインは6度目ね。今日の佳き日も貴方と共に在れる事が私には何よりの幸せだわ」
「――――」
 ビハインドたる彼は言葉を返してはくれない。しかしアウレリアが彼に寄り添うと、言葉よりも雄弁に彼女への愛を伝えてくれた。アウレリアに心と愛を刻んでくれた彼だ。その想いを受け取れないはずもない。
「愛する想いは連日伝えても足りない位に溢れているけれど、特別な日に改めて託すのもまた素敵よね」
 アウレリアがチョコレートを取り出す。

 ――すると、流れてくる曲調が変わった。

 裏方で頑張ってくれているだろう仲間の少女達に感謝しながら、アウレリアはチョコレートをアルベルトの口にソッと入れ、半分咥えさせる。
「……愛しているわ、アルベルト……昨日よりもずっと、明日のその先までも」
 そしてもう半分を覆うように、アウレリアがアルベルトに口づけを。
 チョコの甘さと、彼の甘さが広がり、体温がチョコを溶かす。
 どうやら、アルベルトも今日という日を楽しんでくれているらしい。魂からは、幸福感と、辛党な妻から貰えたチョコの甘さへの感激が伝わってくるようだ。
(「……あら、嫌いじゃないくせに……」)
 アウレリアも今だけは、その甘さに溺れた。

「――言わせてください。あなたが好きです、ラインハルトさん。ずっと一緒に居たいくらい、あなたが好きです」
 可憐に頬を染めたイピナからの熱烈な愛の言葉と一緒に差し出されたチョコに、ラインハルトは照れて赤面してしまう。
「……一口サイズで、いろいろな種類のものを多めに用意したので、お口に合うと思います。そ、その……あ、あーん」
 イピナも自分が告げた想いの内容に今更ながらアワアワしながらも、意を決してラインハルトにチョコを食べさせてあげた。
 すると、負けじとラインハルトも……。
「アーン」
「う゛、うぅ」
 比較的硬派なラインハルトがそのようにしてくるのだから、イピナにとっては威力が高い。それでも流れに乗り、イピナは「えーい、ままよ!」とばかりに彼に甘えた。
「ありがとうございます……僕と一緒になってくれて。僕にとって貴方は、純粋で綺麗で眩しくて……僕は傍に立つ資格がないんじゃないかと思ってました」
 やがて、羞恥と幸福感でクラクラとするイピナの小さな手を、ラインハルトがそっと取る。
「だから……今、イピナさんの隣に居られるのが凄く嬉しいんです。イピナさんと初めて模擬戦をした時から、貴女は僕の憧れでもあったから……だから、イピナさんに出会えた事に感謝を……イピナさん、愛してますよ」
 顔を赤くしながらも、少年のように純粋な言葉と微笑みで、イピナをノックアウトするのだ。


「そろそろですね。碧さん、そちらに問題はないでしょうか?」
「ええ、問題はないわ。曲の変わり目はもうすぐよ」
 場は煮詰まり、雰囲気は最高潮に達しようとしている。
 茜が碧に問いかけると、彼女からは楽しそうな、それでいてどこか複雑そうな笑みが返ってきた。
(「全く……こういうタイミングでくるのはやめてほしいわね」)
 碧が胸中で小さく愚痴る。
「さぁて、そろそろボクの出番デショウカ?! レッツ、ロック! ロックなバレンタインに!!」
 と、ふいにシィカが真紅の瞳をキラーンと輝かせた。『曲』と聞けばシィカ、シィカといえばロック!
「実はバレンタインっぽい自作ソングを用意してきたデース!!!!」
 シックな雰囲気に、終末の鐘を鳴らしそうな気配を漂わせているのは、果たして気のせいだろうか。
「後でいくらでも披露するタイミングはあるわ」
「首尾よく敵が現れたら、是非聴かせてくださいね」
 碧と茜はそれがシィカの冗談だと察しつつ、念には念を入れ、ノリで生きる彼女の衣装をガッチリと握っていた。
 シィカとて女の子。空気ぐらいは読める。彼女は「冗談デース」そう悪戯っぽく笑った。うずうずとした様子でギターを構えるのは変わらないが。
 ともかく曲調は変わり、三者三様の恋物語が展開されていく。
「真理さんとマルレーネさんも交換するようですね!」
 茜が告げると、シィカと碧の視線もそちらへ向く。
 裏方として、なんだかんだとイベントを楽しむ三人であった。


 曲調が変わり、マルレーネの心臓がドキドキと高鳴る。きっと世界広しといえど、マルレーネの心をこれほど揺さぶらせる存在は彼女――機理原真理を除いていないだろう。
「私が選んだチョコが、マリーのご期待に添えるといいのですが」
「心配ないと思うけど」
 微笑み合った真理とマルレーネが、ラッピングされたチョコをせーの! で交換、開封する。
 そしてその瞬間、真理は思わず瞠目した。
(「「――あ、これ。もしかして……?」」)
 対面で、マルレーネも同じような表情をしている。
 その驚きの至る先は、紛れもなく喜び。
 チョコは、一緒に買いに行った訳ではなかった。サプライズも兼ねて、別々に買いに行ったものだ。
 にも関わらず……互いの手元に渡ったチョコは、どちらも同じ有名店で販売されているもので……。
「真理が好きそうなチョコを選んできたよ。気に行ってもらえたら嬉しい」
「さすがは私のマリーです! ミント系のチョコの詰め合わせを買ってくれていたんですね! ありがとうなのです!」
「真理こそ。これ、買いに行った時に、自分だったらこれ食べたいなって思ってたチョコだよ」
「マリーには生クリームとか、ミルク系たっぷりのチョコがいいかと思って買ったですよ」
「うん、大正解」
 二人は心が通じ合っている事実に、幸福感を覚えた。独り善がりなんかじゃ決してなく、相手の事を正しく理解できている。
 たまらない気持ちになった真理が、マルレーネにガバッと抱き着いた。
 マルレーネは真理を抱き留めながら、「はい、あーん」彼女の口にビターとミントのマーブルチョコを優しく差し入れる。
「……甘いです」
「……んっ」
 真理が指をペロリと舐めると、マルレーネの肩がピクンと跳ねた。
「私のもとっても甘いと思うです。優しい味わいのトリュフチョコですから」
「真理みたいだね」
 マルレーネは口を開け、チョコと真理の甘美な味わいに酔いしれた。


(「……いいところだったのですけど……」)
 ふいにイピナが顔を上げると、ラインハルトと目が合った。
 周囲に突然発生した気配は、紛れもなくデウスエクス。邪神植物トソースだろう。
「邪魔が入ったようですね。まずは皆さんと合流を」
「ええ」
「ようやく出番デース!!」
 大量のトソースの出現地点は、三組のカップルの方に偏っている。
 茜が冷たく告げると、シィカが竜たちの唱を熱唱する。願いを背に超加速突撃を敢行した碧が、前・中衛のトソースを纏めて弾き飛ばした。
 そうすると、裏方を担当した三人に耳に、激しいエンジン音が届く。真理がロックオンした中衛に無数のレーザーを浴びせ、猛烈なスピンを繰り出すプライド・ワンが敵陣を内側から喰い破ろうとしているのだ。
「人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られるなんて言葉があるけれど、貴方達は私達ケルベロスが永劫の滅びを刻んであげるわ」
 中衛に続き、黒鉄の拳銃から弾丸をばら撒いて前衛の制圧を狙うアウレリアが望むは、完全な勝利。それは、この素敵な舞台を穢させないという意味も含まれている。彼女は、トソースの背後を取るアルベルトと共に臨機応変に行動する。
 が、トソースも次から次へと押し寄せている。一撃一撃は致命傷には至らず、回避も容易だ。しかしあまりに多い手数に、無傷といかないのもまた事実。
「火力で一気に押す」
 マルレーネの赤い瞳が魔力を帯び、トソース側に混乱を引き起こす。
「回復は任せておいてください」
 茜が負傷した仲間にエネルギー光球をぶつけ、勢いを与えた。
(「――今日は完全に裏方かな」)
 茜が微苦笑を零す。しかし、それで誰かが傷つかずにいられるなら、茜に一切の否やはない。
 スノーがBS耐性を付与し、絡みついて【足止め】を刻もうとするトソースから守護する。

「どうやら僕達は、役目を果たせていたようですね」
 ――Don't get so cocky!
 居合の構えからラインハルトが不可視の斬撃を放ち、敵陣を斬り捨てる。グネグネと蠢き悍ましいトソースが、数体消滅した。彼は頬から血を伝わせながらも、囮としての手応えを。
 トソースの噛みつきを、イピナがいなす。そうしながら嬉しさと恥ずかしさと心配が入り乱れた表情で、イピナは彼に具現化した光の盾を与えた。
「お邪魔虫は退散しておきなさい?」
 恋人同士の空気感は自然と伝わるもの。バレンタインを邪魔された事を改めて意識した碧が、カップルに迫る追撃を身を挺して庇い、遠隔爆破で出現に歯止めがかかってきたトソースを確実に屠る。
「碧さんはボクに任せるデス!」
 シィカが仲間に呼びかけながら、ウィッチオペレーションを行使する。
「はい! ……ここまでくれば、わたしも攻撃に加わりたい所ですが……! みんなの幸せな日々を邪魔する奴め――!」
 トソースに、茜だって踏み込んでタックルや打撃を叩き込んでやりたい。それこそ、一匹残らず。しかし茜は堪え、全体を見て仲間にヒールを施す。
 彼女の怒りに呼応するように、ケルベロス達の攻撃は苛烈さを増し、やがて140体余りの邪神植物トソースの撃破に成功するのであった。


「レッツ、ロックンロール! ケルベロスライブ、スタートデス!」
 体育館に、癒しの力が込められたシィカの自作ソングが響き渡る。
「再開できて一安心ですね」
 アロマキャンドルの灯が揺らめく体育館は、ヒールによって幻想的な雰囲気もプラスされて生まれ変わり、茜に呼ばれて戻ってきた生徒達を感嘆させていた。茜の手元は、感謝の印だろうチョコで溢れている。
「皆さんにとって大事なイベントを守れて良かったです」
 ホッと息を吐くイピナが、隣のラインハルトに微笑みかける。
「いい思い出を作りなさい」
 アウレリアは夫と共に初々しい学生たちのやり取りを微笑ましそうに眺めていた。
「私のチョコ、味見しても良いですか?」
「――んっ?!」
 と、薄闇の中で、その熱々ぶりから密かに注目を集めていた真理とマルレーネ。ふいに真理が唇を奪い、場の空気を一気にピンク色に。
(「彼無しでも、やれる事はやったわ。でも、もし彼がいたなら――」)
 碧は零れかけた笑みを隠すようにスノーをギューと抱きしめながら、また終ってはいない2月14日バレンタインデーに思いを馳せるのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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