ミッション破壊作戦~シャッター・ジ・アビス

作者:坂本ピエロギ

「お疲れ様です。ミッション破壊作戦の開始にあたり、皆さんにお知らせがあります」
 ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)は、ヘリポートに集まったケルベロスたちへそう告げた。
「ジグラット・ウォーの勝利により、新たなグラディウスを入手することに成功しました。これで今後は、より迅速なペースで作戦を実施できるようになります」
 グラディウス。それはミッション地域の強襲型魔空回廊を破壊できる唯一の兵器だ。
 長さ70cmほどの小剣型をしたこの道具は、回廊を覆うドーム状バリアめがけ、所持者がグラビティを極限まで高めた状態で、刃を接触させることで攻撃を行う。
 回廊を破壊するには最大で10回程の作戦が必要と言われるが、全員の攻撃をうまく集中させれば、1回で破壊することも不可能ではない。グラディウスは「魂の叫び」でその力を増すため、剣に込める想いが強いほど、成功する確率も上がるだろう。
「今回の作戦では死神の回廊を攻撃します。彼らは現在、ドリームイーター残党を組み込むことで、戦力の増強を目論んでいるようです」
 ここ最近目立った動きを見せない死神たちだが、その勢力は決して侮れない。
 新たな動きを見せる前に、少しでも攻撃を加えておきたいところだ。
「回廊の上空までは、私が皆さんをお送りします。皆さんはヘリオンを降下したら、先ほど説明した方法で回廊を攻撃してください。攻撃完了後は、迅速にミッション地域を離脱する必要があります」
 回廊周辺の守りを固める敵防衛部隊は、グラディウスから生じる爆炎と雷光によって一時的な混乱状態に陥ることになる。攻撃の後はスモークも発生するので、連携を取った反撃に移ることも、しばらくの間はない。
 回廊を攻撃し、敵が反撃態勢を整える前に、ミッション地域を離脱すること。
 これがミッション破壊作戦の達成目標だ。
「注意点がひとつ。ミッション地域には敵部隊を統率する強力な個体が存在します。この敵は、攻撃完了後に必ず戦闘を仕掛けてくると思われますので、遭遇した際は迅速に撃破して離脱するようにして下さい」
 この個体を倒す前にスモークが切れた場合、ケルベロスは敵部隊に包囲されてしまう。
 そうなれば選択肢は二つしかない。降伏か、暴走かだ。
 万が一降伏して囚われれば、敵勢力にグラディウスを奪われる恐れがある。一度奪われたグラディウスを取り戻す事はまず不可能だ。そうなれば回廊を攻撃する武器を、ケルベロスはひとつ失ってしまう。
「数は増えましたが、グラディウスの数には限りがあります。命の危険がある場合を除き、必ず持ち帰って下さいね」
 新たな強襲型魔空回廊が築かれなくなった今もなお、死神たちは暗躍を続けている。それを止められるのは、ケルベロス以外にいないのだ。
「皆さんの勝利を祈っています。どうか無事に戻って来て下さいね」
 そう言ってムッカは一礼し、発進準備を開始するのだった。


参加者
伏見・万(万獣の檻・e02075)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)
ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)
朧・遊鬼(火車・e36891)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)

■リプレイ

●一
 灰色に濁った曇天の下を、一機のヘリオンが飛んで行く。
 目指すは刑天焦土地帯。死神によって焦土と化したミッション地域の中枢だ。
「これは……何とも酷い眺めでございますね」
 地上に広がる光景に、ステイン・カツオ(砕拳・e04948)は思わずそう漏らした。
 かつて和歌山県海南市と呼ばれた地、そこに平和であった街の面影は最早ない。あるのは死神『刑天』にサルベージされ、虚ろな足取りで進軍するデウスエクスの群れだけだ。
「焦土地帯、そしてサルベージ……つくづく死神の動きは得体が知れませんね」
「全くだ。死人の軍勢など率いて、何を企んでいるやら」
 唸るような声で朧・遊鬼(火車・e36891)は言った。
 折しも東京焦土地帯では、死神勢力がエインヘリアルに戦いを仕掛けたという報が入ってきたばかり。きっと死神勢力は、今も水面下で暗躍を続けているのだろう。
「ここを第二の東京焦土地帯にはできん。気張って行かねば」
「ええ。これ以上、奴らの好きにはさせません」
 呟く遊鬼に、帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)が返す。
 一筋縄ではいかぬ戦いなのは承知。しかし剣を取らねば死神の暴虐は永遠に続く。やがてはこの街の外へ、その版図をじわじわと拡大させていくだろう。
「死神の目論見は、全部叩き潰してやりましょう」
「うん。刑天の天下は、今日で終わらせる」
 降下の準備を終えた空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)が、グラディウスを手に言う。
 グラビティ・チェインの輝きを湛えた、小剣型の兵器。これで回廊を跡形もなく破壊してやるのだ。
「さてと、そろそろ到着かね。皆よろしくな」
 降下ポイント接近を告げるアナウンスが機内に流れると、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)は席を立った。常と変わらぬ軽い笑顔だが、その目は笑っていない。
 死は全ての始まりにすぎぬ――そう嘯く刑天に、死という幕引きを図る気なのだ。
 一方、そんなキソラの後ろでは、笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)がやや緊張した面持ちで支度を終えたところだった。
「死神の拠点はあと7つか。今日で6つに減らしたいね」
 氷花はパシッと両手で頬を叩き、気合を入れる。ミッション破壊作戦の初陣を勝利で飾るために、全力を尽くすのだ。
 鳴り響くブザーと共に開放されるハッチ。ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)は眼下の回廊を睨み据え、輝くグラディウスを静かに構える。
「では行くとするかのぅ」
「おうよ。死神どもには、さっさとご退場願おうかね」
 伏見・万(万獣の檻・e02075)はスキットルの中身を景気づけに呷ると、先陣を切ってハッチから飛び出した。
 続いてゼーが、氷花が、後続のケルベロスが次々と回廊めがけて出撃していく。
 8本のグラディウスが放つ、グラビティ・チェインのまばゆい光と共に――。

●二
 死臭はらむ潮風を切り裂きながら、地獄の番犬たちが降下する。
 一番手は万だ。黒い狼のウェアライダーは見る間に迫りくる回廊を睨みつけ、握りしめたグラディウスをドーム状のバリアへと突き刺した。
「死んだモンを好き勝手に使って、『死は全ての始まり』なんざ、ケッタクソ悪ィ」
 命ある者は、死ねば終わり。そこに始まりはない――。
 死をすべての始まりと唱える刑天に向かって、万は魂の叫びを剣に込める。
「それが道理ってモンだろうが。てめェこそとっとと終わっとけ」
「そうだよ。死は全ての始まりだなんて、間違ってる」
 鳴り響く雷鳴の余韻が消えぬうち、氷花が追い打ちをかけるようにバリアを切り裂く。
 首なき死神のサルベージを必ず阻止する、そんな誓いを抱きながら。
「死んでしまったら、楽しむ感情はもう持てない。死ぬことは終末にしかならないよ」
 氷花の爆炎が回廊を真っ赤に彩った。行軍中のデウスエクスも奇襲を察知したのだろう、濁った瞳を向けてくる。
 ベガール、ジャヒール、イェフーダー。最上・幻夢、三月ウサギ……。
 ある者は種族のため、ある者は己のため、ケルベロスと戦い死んでいったデウスエクスの屍を見下ろし、ゼーは呟いた。
「なんとも悍ましい姿と言えようか。或いは、これまでの戦果とも言えるのじゃろうか」
 いずれにしても討つべき敵に変わりはない。ゼーは剣を構え、鋭い声で告げた。
「疾く、この地を去ると良い!」
「東京焦土地帯ですら、まだ取り返せていない……新しい焦土地帯を広げられたら困る」
 雷光で回廊を穿つゼーの横で、無月もまた魂の叫びを紡ぐ。
 この地に死神が根付いたら、どれほどの地獄が生まれるか。死神の目論見を挫くために、無月は静かな叫びを込めた。
「そうなる前に、海南市を開放する」
 残るグラディウスは4本。無月の雷光を浴びて傷を増やす回廊を見下ろして、ステインは握りしめた剣を勢いよく叩きつける。
「戦え戦えってうるせえんだよハゲ!」
 ドスを利かせたステインの声が、焦土地帯全域に木霊するように轟いた。
「こちとら定命なんでよ、魂が朽ちるまでにやることが山積みなんだよ! そう、たとえばイケメン探しとかイケメン探しとか、イケメン探しとかな!」
 刑天が暴れ回らなければ、この時間をどれだけ有意義に使えたか。
 もしかしたら、捕まえて酒の力で既成事実を作ってアレコレできたかもしれない。つまり自分が独身なのは刑天が悪い。すべて刑天が悪い。
「だからここを破壊する。てめぇなんぞに好き勝手させてたまるかよ!!」
 爆炎を浴びて倒壊した廃ビルが、土煙を立てて崩れ落ちていく。
 ほとんど更地と化した焦土の地を、なおも無言で行進する死者たちを遊鬼は見下ろして、吐き捨てるように叫んだ。
「死は始まりだと? 死ねば全て終わりだ!」
 左腕、内臓、そして首。地獄と化した遊鬼の体が、死神への憎悪で激しく燃える。
「この先築けたやもしれぬ絆や思い出が……全てが剥奪され、残るのはただの物言わぬ脱け殻だけ。そんなもの、都合の良い傀儡を作りたいアンタの言い訳だろう!」
 刑天の姿は未だ見えないが、ケルベロスの襲撃は察知していることだろう。だから遊鬼は高らかに告げた。これ以上、死神の好き勝手にはさせないと。
「さぁ、ぶっ壊してやろう。その腐った思考を、回廊を!」
 雷が回廊を打った直後、攻撃で生じたスモークが焦土を覆い始めた。
 翔は次第に煙幕に飲まれていくデウスエクスを睨みつけ、荒らげた口調で叫ぶ。どこかで自分たちの攻撃を見ているであろう刑天に向かって。
「罪のない人々の生活を脅かして、死んだデウスエクスまで利用して……どんだけ命を冒涜すりゃ気が済むんだ、ふざけんじゃねー!」
 死神への怒りが、翔の体を緑色の地獄炎で包む。
 死者の静かな眠りを妨げ、道具として使役する。翔は死神が相容れぬ存在であることを、改めて感じずにはいられない。
「命を道具にした罪は、償わせてやるぜ!」
 咲き誇る爆炎が回廊を包むなか、最後の一人――キソラがグラディウスを握る。
「ソレが始まりに過ぎないってぇなら、生きる意味はどうなる。地に足つけて懸命に繋ぐ今を、てめぇらごときに否定なんてさせねぇ」
 死後の世界。死者の魂。そうしたものはキソラにとって、興味の範疇にない。そんな彼が信じるものはただひとつ、死は生の幕引きであるということだ。
 故に彼は、気に入らない。生を軽んじ死をも侮辱する、あの死神が。
「てめぇにこそくれてやるさ、死は全ての終わりだ」
 そうして、キソラが魂の叫びを放った刹那。
 雷光に射抜かれた回廊が、全ての動きを停止した。
 消滅するバリア。響きわたる轟音。曇天を切り裂くグラビティ・チェインの光に照らされながら、魔空回廊がゆっくりと崩れ落ちていく。
「何だと……まさか!?」
「ええ、これは恐らく……」
 顔色を変えて着地した遊鬼に、頷きを返す翔。
 恐る恐る凝視した先、焦土に鎮座していた回廊の姿は――ない。
「間違いございません。破壊成功でございます」
 ステインはそう言うと、すぐに気を引き締める。喜ぶのは作戦を完遂した後だ。
「参りましょうか。まだひと仕事が残っております」
「うむ。ここからは時間との勝負じゃ」
 頷きを返すゼーを筆頭に、ケルベロスたちは各々の手でグラディウスを収納すると、すぐにその場を離脱していった。

●三
 濃密な煙幕をかき分けるようにして、番犬たちはひたすら走る。
 散発的な攻撃を掻い潜り、そして――数分ほど経った頃だろうか。先頭を駆ける遊鬼が、ふいに足を止めた。
「……ふむ。真打の登場というわけか」
 呟きを漏らすや、遊鬼の前方から異形の影がゆらりと現れる。
 土気色の四肢。手に握るは一振りの斬首剣。そして首代わりに生えた、巨大な刃。
 死神『刑天』である。
『回廊を破壊した猛者たちと相見える。今日はなんと良き日か!』
「ふざけんじゃねぇ」
 喜色のにじむ声で剣を構える死神に、翔は吐き捨てた。
「命を玩具にしてきた代価、支払わせてやる。てめぇの命でな!」
『さあ、戦え!』
 ケルベロスたちが武器を抜くと同時、死神は刃のごときイナゴ型の脚を腰から広げ、襲い掛かってきた。
「……っ!」
 キソラめがけて放たれた蝗足の繰り出す斬撃が、盾となった無月を切り裂く。
 追撃の蹴りを浴びた無月の生命力が、吹き出る真っ赤な血飛沫とともに失われた。それを見たゼーは、仲間へ報せるように呟く。
「刑天め……クラッシャーかのぅ」
 荒い狙いを補って余りある、馬鹿馬鹿しいほどに高い攻撃力。刑天という死神を体現するかのような戦いぶりだった。
「あの威力……勝つか負けるか、いずれにせよ決着は短期じゃろうな」
「有難ぇね。煙幕切れの心配はいらねぇってワケだ!」
 キソラは九尾扇を掲げ、百戦百識陣を後衛に施す。破剣の力を帯びていくゼーたちを背にしながら、無月がアームドフォートを展開。星の力を宿した砲台から、グラビティの砲弾を一斉に発射しながら、呟く。
「逃がさないよ」
「さあ、遠慮なく喰ってやれ!」
 高速演算で導かれた砲撃が刑天の胴に着弾するのとほぼ同時、万は爆破スイッチをオン。ブレイブマインの煙幕で前衛を鼓舞する。
「吹き飛んでしまえー!」
 凝縮された氷花の精神力が爆弾と化して、刑天の脇腹で突如弾け飛んだ。衝撃でよろめく刑天。その足を狙ったステインが、凝縮させた悪意の弾丸を指先から放った。
「掬え!」
 黒い竜巻に足を縫い留められるのも構わず、巨大な剣を軽々と振るう刑天。その勢いたるや凄まじく、守りに優れる無月や遊鬼の負傷も、回復が全く追いつかない。
「ルーナ、俺に続け!」
 遊鬼はガネーシャパズルを手に取ると、ナノナノと共に癒しのグラビティを発動。光る蝶とハート型のバリアで、無月の傷を塞いでいく。
「リィーンリィーン、回復を手伝うのじゃ」
 ゼーはボクスドラゴンに支援を命じると轟竜砲を発射。炸裂した竜砲弾が、刑天のまとう死骨の保護を打ち砕き、その身動きを封じ始めた。
「長引いては厄介じゃ。一気に片付けようかのぅ」
「隙ありだ、死神!」
 足を鈍らせた刑天めがけ、翔がエアシューズで疾駆。四方を無差別に切り裂く蝗脚の迎撃をかい潜り、流星蹴りを叩きつける。
「叩き潰してやる!」
 その一撃に耐えきれず、鈍い音を立てて刑天の足が砕けた。ゆっくりと着実に近づく死を前に、しかし刑天は愉快そうに笑う。
『無駄なこと。死は全ての始まりなのだ……』
 刑天は斬首剣を振りかぶると、無月めがけて跳躍した。負傷した者を確実に仕留める気のようだ。それを察知した遊鬼が、真正面から激突するように突っ込む。
 首を狙った横薙ぎの一閃を、処刑用の大斧で受ける遊鬼。勢いを殺しきれずに体を袈裟に切り裂かれるのも構わず、彼は青い鬼火を召還した。
 『【言霊遊戯】氷鬼』。傷を刻んだ者を芯から凍えさせる、氷のような火を。
「死神よ。この地を焦土地帯に変えた理由は何だ?」
 遊鬼の問いにいかなる感情を抱いたかは分からない。
 刑天は無言を保ち、剣を構える。それが全ての答えだった。
「語ることはない、というわけか」
『ふふ。――勝負!』
 鬼火を斧へ纏わせる遊鬼。それを合図に、ケルベロスが一斉に刑天めがけ殺到する。
「狩られるのはテメェだ、逃げられると思うなよ!」
「さぁて、幕引きの時間だぜ?」
 真っ先に仕掛けたのは、万とキソラ。
 キソラは万の獣影に身を絡め捕られた刑天の間合いへ潜り込むと、振り下ろされる蝗脚を黒い鉄梃で弾き、そのまま尖った先端部を刑天の肩へと突き刺した。
『――!』
「捉えた。逃がさない」
 真っ黒い血を噴出させて悶絶する刑天の蝗脚を、無月のバスターライフルが吹き飛ばす。グラビティ中和光線でよろめく死神に反応するように、斧を構えた遊鬼が跳んだ。
「さぁ、俺が鬼だ。精々綺麗に凍りついてくれ」
 鬼火をまとう処刑用の斧が、ぶんと勢いよく振り下ろされ、刑天の胸を割った。
 全身を瞬く間に凍り付かせる刑天。続く氷花が開いた傷口を狙い定め、漆黒の惨殺ナイフを手に迫る。狙うはひとつ、断たれた肋の隙間から覗く、鼓動を止めた心臓だ。
「あはは♪ ぜんぶ染め上げてあげるよ!」
 華麗な舞踏で氷花が刃を振るうたび、黒い血が辺り一面に黒薔薇のような跡を描く。人間ならばとうに絶命している深手を負いながら、刑天はなおも倒れない。
「最期じゃ、死神よ」
 ゼーは竜翼を広げて空へ飛び上がると、心底愉快そうに剣を振るう死神へ、竜鎚を構えて滑空。混沌をまとう一撃を頭の刃へ振り下ろした。
 ギンッ――。
 硬いものが砕け散る、妙に軽快な音。
 刃が欠けた刑天の頭部が、鋼鬼と化した翔の戦術超鋼拳を浴びて弾け飛ぶ。
『戦いは……これ……か……ら――』
「うるせぇハゲ。私たちの地に土足で上がるんじゃねぇ」
 バトルオーラをまとったステインが、大地を全力で踏みしめて跳躍。
 首なき死神へ、強烈な回転体当たりを叩きこむ。怒りを込めた渾身の一撃を。
「地獄で好きなだけ、裸の王様してやがれ!」
『……!!』
 心臓にグラビティを撃ち込まれ、刑天は跡形もなく砕け散る。
 そうしてケルベロスたちは、地球の大地に還ることなく消えていく死神を後に、ふたたびミッション地域の外へと走り出した。

●四
 8人が離脱を完了したのは、それから数分後のことだった。
「……終わったんだね」
「ああ。後は一日も早く、人々が戻るのを願うばかりだ」
 回廊の跡地を眺める氷花に頷きながら、遊鬼はこの地の未来を思った。
 冬の終わりはすぐそこだ。果たしてこの地に春が訪れるのは、いつの話になるだろう。
 だが、もうこの地に死神の姿はない。これより先は、明るい未来が待っているはずだ。
「お疲れ様です、皆様。それでは帰還いたしましょう」
 淑やかな口調に戻ったステインに頷いて、ケルベロスたちは戦場を後にする。
 刑天焦土地帯、ミッション破壊完了。
 晴れゆく雲から差す陽光が、戦士の背を静かに照らしていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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