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大阪市梅田。
攻性植物に大阪城が占拠されて久しいが、それでも、大阪市民はたくましく日々を過ごしており、バレンタインなど季節の行事も楽しく過ごす。
今年の2月14日は週末とはいえ平日。
多くは学校帰りや仕事帰りに待ち合わせを行い、それぞれのバレンタインの一日を過ごすことになる。
市街地の裏路地へと向かう若い男女。
下校途中らしい制服姿の高校生の男女が言葉少なに一緒に歩いていて。
バレンタインデーという日を互いに意識しているのは間違いない。
少年はチョコレートを貰えるのかどうか、それは義理なのか、そうでないのかと気にかけてちらちらと少女の方を見やる。
一方の少女は渡すタイミングをはかっている。帰宅する為の分かれ道が近づいており、それまでに渡そうと考えていたようだったが……。
「…………」
「…………」
結局、渡すことができないまま、2人は分岐点にまでやってきてしまう。
やや気落ちしたような少年へ、思い切った少女が勢いで赤い包装の箱を手渡す。
「…………はい、これ」
「………………!」
見る見るうちに、少年の顔が喜びに満ち、少女は顔を真っ赤にしながら俯く。
いいムードになったその場へ、忍び寄るように奇怪な植物が現れる。
瞳の付いた多数の触手を持つ『邪神植物トソース』は大きく口を開き、叫ぶ間もなくその男女を食い殺してしまう。
全身を赤く染めたトソースは程なく、2体、4体、そして8体へと分裂していく。
「「「…………………」」」
空に星々が輝き始めた頃、トソース達は新たな獲物を求めて散開するのだった。
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ヘリポートにて。
大阪城の攻性植物の大きな動きがあったということで、多数のケルベロスがヘリポートへと集まっていた。
「皆、お疲れ様。来てくれてありがとう」
やってきたケルベロス達にリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が労いと感謝の言葉を口にしながら、説明を始める。
季節の魔力の一つである『バレンタインの魔力』を強奪しようと、強力な攻性植物が大阪都市部を無差別に襲撃してくることが分かった。
「襲撃してくるのは、『邪神植物トソース』という多数の触手の塊だね」
多数の瞳が付いた触手が相手を見つめ、気味の悪さを抱かせる攻性植物だ。
そいつはバレンタインを楽しむ男女を食い殺してバレンタインの魔力を強奪すると、その場で分裂して繁殖してから更なる犠牲者の元へ向かっていく。
被害者が出てしまうと鼠算式に数が増え、大阪都市圏は壊滅してしまうと思われる。
邪神植物トソースは、バレンタインの魔力が高まった場所に転移して襲撃を繰り返す性質があるようだ。
この性質を利用し、ケルベロスのカップルが、囮となってバレンタインの魔力を高めれば、邪神植物トソースを大量におびき寄せる事が出来るだろう。
2人の関係、ムードなども魔力を高める上では関係してくるはずだ。
「バレンタインの魔力を高めて、邪神植物トソースを大量に撃破して欲しい」
集まったトソースはその場のケルベロスで対処することになるので、誘き寄せる為の場所も考える必要がある。
別所にてそれぞれのカップルで引付けるも、近場にいて4組で合流してから叩くも、参加メンバー達の作戦次第。どこで、どのような編成で作戦に臨むかをはっきりさせてから、トソースの迎撃方法を考えたい。
なお、誘き寄せられるトソースは、瞳での凝視や触手、体当たりといった手段で攻撃してくる。
布陣もバラバラだが、数で攻めてくる相手である為、纏めて撃破すると効果的に倒すことができるだろう。
一通り説明を終え、リーゼリットは補足する。
「邪神植物トソースはその無限ともいえる増殖力で、ユグドラシルとアスガルドの国境地域の防衛を行っていた強力な攻性植物だったようだね」
攻性植物勢力が前線の防衛戦力を引き抜いたという事は、もしかしたら、攻性植物とエインヘリアルとの戦争に何か変化があったのかもしれない。
「あと……、バレンタインの魔力を高めるのは恋人同士でなくても大丈夫だけれど、本気で演出しないと十分な効果が期待できないことを留意していてほしい」
いずれにせよ、バレンタインを楽しむカップルを食い殺すような攻性植物など、許しておくわけにはいかない。
「どうか、この邪神植物の駆除に協力を頼むよ」
リーゼリットは改めて、この依頼解決に助力を求めるのだった。
参加者 | |
---|---|
ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354) |
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308) |
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996) |
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476) |
神宮・翼(聖翼光震・e15906) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
橘・榧(恋獄の鎖姫・e32358) |
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135) |
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大阪市のとある公園。
バレンタインの魔力を狙う攻性植物を一網打尽にする為、ケルベロス達2人1組で恋人を装う。
「まずは殺界形成と……一般人紛れ込んじゃうと大変だからねぇ」
殺界形成に当たる黒髪の小悪魔系シャドウエルフ、橘・榧(恋獄の鎖姫・e32358)の並々ならぬ雰囲気を、左腕をジャンクの義手とした卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)が敏感に察して。
「嫌な予感が……コインは裏、か」
普段、戦い前の景気づけに行うコイントスまでも不吉な結果を示す。
「さて、デートだ!」
「デート? ああ、あっちのカップルかねぇ」
「……逃げるなよ、旦那様?」
状況が整い、榧がとぼけて仲間を見やる泰孝の体をぐいぐい引っ張る。
「ちょ、滅茶苦茶力かかってんだけど!?」
「旦那様? どこでイチャイチャしましょうか」
ぐいぐいと引っ張られていく泰孝に思うことがありながらも、他のペアも公園内の別所へと散っていく。
元気のない竜派ドラゴニアンのフィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)の姿を、葉巻をくわえたクマネズミの獣人型ウェアライダーであるヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)が気にして。
(「……今日は落ち着きがない」)
失恋したことも大きいのだろうと、ヴィクトルは推し量る。
(「勇気が中々出ない」」)
一方のフィストは確かに付き合っていた恋人と別れ、傷心の縁にはあったのだが。
――でも、今渡さないと、……きっと、私は彼に何も言えない。
少しもじもじしながらも、2人きりでベンチへと座る。
ヴィクトルが葉巻を取り出したところで、フィストは反射的に懐から何かを取り出す。
「あ、あの、これを……」
それがチョコであることに、ヴィクトルも目を丸くして。
「……! お前……」
どう言葉にして良いかわからないまま、彼はフィストをぎゅっと抱きしめていた。
別所では、狼の獣人、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)が翼の小さなオラトリオ女性、リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)がカップルの振りをして歩く。
「うまくいきそうなカップルを殺すなんて、許せませんね!!」
意気込むリュセフィーは勢いそのままに、ヴォルフへと買ってきたチョコレートを差し出す。
「ヴォルフさん……。私の気持ちを受け取って下さい!!」
「ああ、ありがとう」
リュセフィーの行為に、ヴォルフは素直に喜んでいた。
少しずつ、公園に高まるバレンタインの魔力。
童顔な赤髪のロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は、藍の髪をお団子にした神宮・翼(聖翼光震・e15906)とコンビを組む。
まだ肌寒い2月の夕暮れ。翼がロディに寄り添う形で互いの体温を確かめ合いながら、公園を散策する。
先日の依頼で互いの気持ちを確かめ合っており、ロディは少しばかり態度がぎこちない。
本当の自分の気持ちも、翼の気持ちも、ずっと前から分かっていたはずなのだが……。
それを受け入れられないロディは、翼に対して残悪感すら感じていて。
「あ、あのさ」
何か喋ろうとしたロディの口を、翼が指で遮る。
「今は仕事に専念。ね?」
受けに回ると弱い自分がそれを今言われたら、きっと舞い上がって戦闘どころではなくなっちゃう。
……そんなことを考え、翼は小悪魔っぽく笑う。
「……さっきから笑いをかみ殺してるのは、絶対わかってて楽しんでるだろ、お前」
がさり、がさり……。
そこで、2人は公園の外から聞こえてくる物音を察知して。
「さっさと終わらせて、続きしましょ?」
翼はロディの手を引き、合流地点へと急ぐ。
高まるバレンタインの魔力を感じてか、奇妙な物体が公園へと集まってくる。
それを感じるのが少し遅れていた泰孝、榧ペア。
「ねぇ、旦那様ぁ……夜の公園って雰囲気あって素敵ね……」
腕を絡めていちゃいちゃする榧は、万力の如き力で泰孝を押さえつける。
「……ったく、オレが雰囲気とか考えるタイプじゃないって分かって言ってるのか?」
観念したのか、泰孝は溜息をついて。
「ところで旦那様……今日は何の日か知ってるわよね?」
どうやら、バレンタインデーの魔力はケルベロスにも及んでいるらしい。
「まぁ、そんなオレにまで、そーいう気にさせる特別な日、って奴かね、今日は」
「そう……ハッピーバレンタイン♪ もちろん私も手作りチョコ作ってきたんだけど……受け取ってくれる?」
差し出すチョコにも、泰孝は悪態づく。何せ、それは彼の家のキッチンで作られたものなのだから。
「ああでもない、こうでもないって散々苦労したもの、受け取る以外は無いだろ?」
そうして笑いを浮かべ、榧のチョコを受け取った泰孝は表情を鋭くする。
「…………」
「…………」
わらわらと近づいてきていた攻性植物トソースの大群。
2人は他のペアと合流すべく、公園中央を目指すのである。
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メンバー達は徐々に攻性植物トソースの群れを引きつけ、公園の中央に集まっていく。
いち早くその討伐に乗り出すロディ・翼組は長く様々な依頼で共闘していることもあり、息はぴったり。
ロディがゾディアックソードを振るって星座のオーラを広範囲に飛ばすと、翼がそこに火球を投げ込んで追撃をかける。
身体に炎が引火し、木々が擦れるような音を立てて体当たりや触手の絡みつきで応戦してくる。
ヴォルフ・リュセフィー組も攻撃を開始していた。
ぎょろりと触手の先端についた瞳で見つめてくるトソース達へ、リュセフィーが抑え、カバーを任せていたミミックが近場の敵へとかぶりつく。
主のリュセフィーも広範囲に火力をぶつけるヴォルフを援護すべく、取り出したガネーシャパズルから光の蝶を放つ。
その蝶が集まるヴォルフは戦いとなれば、攻性植物に対する興味と好奇心を高め、その討伐の為に全力を尽くす。
群がる敵を視認しただけで相手との距離を認知したヴォルフは、身に纏うオーラを散弾のように発射してトソースの侵攻を食い止める。
フィスト・ヴィクトル組もトソースを引き連れてやってくる。
「其は焼き払われ、其は過去へ葬られし美しき我が故郷の思い出のひと欠片……」
ウイングキャットのテラと共に前線に出たフィストがトソースの体当たり、触手の絡みつきを受け流しながらも、合流のタイミングで詠唱を始めて。
「幼き我が記憶を以ってここに顕現せよ! グリューン……サルヴ!!」
フィストの足元から滲み出る暖かな光は、最も守りたいものを定義するグラビティ「黄金の葦原」。
同じく、前列に立つメンバー達を守るために結界を張り巡らすフィストだが、その視線はヴィクトルに向けられていて。
ガジェット「Blitz Falka」を拳銃形態としたヴィクトルが弾丸をばら撒き、前進してくるトソースを食い止める。
最後に駆けつけてきた泰孝・榧組もまた、多数のトソースを引き連れていた。
泰孝はウイングキャットの壁役を任せた上、敵を纏めて視認する。
そこで、榧が景気づけにとカラフルな爆発を巻き起こして。
爆風を浴びて士気を高めた泰孝が身体から展開したミサイルポッドより、無数の弾丸を浴びせかけていく。
ペアとなるケルベロス達は力を高め、グラビティを行使する。
「「…………!!」」
力を求めて群がってきたトソース達はケルベロスの力に抗うことができず、次々に爆ぜ飛んでいくのだった。
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すでに数を減らしてはいたが、攻性植物トソースの総数は160~70体といったところか。
勢揃いしたケルベロス達もそれぞれのペアだけでなく、全員を意識しながらも戦いへと注力して。
「どんな辛い悲しみでも いつかは必ず癒えるから、忘れないで」
翼の歌声を聞いて侵攻を緩めたトソースへ、ロディは「モビルディフェンサー」からナパームミサイルを叩き込み、敵陣を火の海に包む。
燃え尽きるトソースも多いが、生き残った敵はなおも攻勢を強めて襲い来る。
「あたしのビートで、ハートもカラダもシビレさせてあげる!」
さらに翼が歌や踊りで敵を虜にして動きを止めてしまったところで、ロディはグラビティ・チェインで形成された刃を愛銃「ファイヤーボルト」に纏わせて。
「見切れるか、電光石火!」
ロディはまだ動いている敵を狙いすまし、その体を分担してとどめを刺していった。
さらに、ヴィクトルが絶対零度手榴弾を投げつけ、魔力を籠めた咆哮を浴びせて体力を削っていたことで前線のトソースが全滅すれば、ケルベロス達は中衛の厄介なジャマー討伐を進める。
徹底的に攻撃を続け、敵の殲滅に当たるヴォルフ。
奈落を意味する偃月刀に稲妻を纏わせて敵を貫き、嘆きを意味する大型シースナイフで相手を切り刻み、さらにその傷を抉っていく。
敵の攻撃は手数がある分かなり面倒だが、そこはサーヴァント勢が奮戦してくれる。
リュセフィーのミミックが偽物の財宝をばら撒いてトソースを惑わし、傷つくケルベロスの傷を泰孝の翼猫が翼を大きく羽ばたかせて癒しに当たる。
フィストの翼猫テラも翼で邪気を払い、間にリングとひっかきを交え、ケルベロスの支援に奮闘してくれていた。
回復役もまたフル稼働だ。
「我を天に産み落とした星よ! 我と味方す者に生命の加護を!」
チームの盾役となるフィストが地面に描いた守護星座によって、包み込む仲間達に守護の力を与え、癒しをもたらす。
榧はカラフルな爆発で仲間達を鼓舞し続け、自分を含む後方メンバーが傷つけば、手早く気力を放出し、幻影を纏わせることで個別に万全な状態で交戦できるよう努める。
リュセフィーは皆の状態を逐一チェックし、傷が深まった仲間に緊急手術を施す。
敵が減るまではと回復に注力する状況が続くリュセフィーは、合間に祝福の矢を射放つ。
敵は攻性植物だ。収穫形態で自分達の耐性を高めることもよくある話。
近距離メインでグラビティを使っていたヴォルフが目ざとく、回復役となるトソースを発見して。
「Weigern……」
否定を口にしたヴォルフは精霊を召喚し、敵の回復阻害を行わせていた。
ただ、それだけでは敵に張られた耐性までは破壊できぬ為、それを打ち破る為の力をリュセフィーは仲間達に与えていたのだ。
グラビティを重ねるうちに、徐々にトソースの数は減ってくる。
これ以上集まることはないらしく、後は撃破あるのみとケルベロス達も力を入れる。
この後のことを考えれば、トソースなど邪魔者でしかないのだ。
残っていた敵中衛もヴォルフがナイフで切り裂いてしまえば、後は狙撃役を主とした後衛陣のみ。
泰孝はトソースの体力を奪いながらも、火力を活かして攻撃を叩き込み続ける。
「命をチップにすんのが戦いのテーブルだろ?」
根っからの勝負師である泰孝は、左腕部より突き出した針で敵の体力を奪いつくす。
次なる敵は降魔の拳を打ち込んで撃破し、さらに携えた大鎌でこちらを見つめてくる目玉付きの触手を切り落としていく。
身体を張って敵の攻撃を受け止めていたフィストも残る敵へと炎の吐息を浴びせかけて。
「我が敵に死の雨を!」
さらに、天から降る無数の刀剣で敵を切り裂き、蹴散らしていく。
残るは数えるほどになったところで、ヴィクトルがフィストへと視線を向けて。
「「Eins、Zwei、Drei!」」
2人はそのうちの1体を見据えて声を合わせ、フィストが星座のオーラを、ヴィクトルが竜を象った稲妻を同時に放つ。
体を凍らせたトソースは稲妻に灼かれ、その体を霧散させてしまう。
残るトソースも他メンバーが討伐していたらしく、それが最後の1体となったようだった。
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日が完全に沈んだ頃、トソースの群れを全て撃破したケルベロス達は平穏が戻った公園で現地解散する。
そして……。
リュセフィーはヴォルフと共にバレンタインデーの夜を過ごす。
「ヴォルフさん、トソースを倒せて良かったですね」
戦いを終えたヴォルフは些か冷めた様子ではあったのだが、次なるリュセフィーの句に、本気で焦ることとなる。
「ヴォルフさんさえ良ければ、私と付き合ってくれませんか?」
――これからの一夜を彼と共に過ごしたい。そして、これからもずっと。
そうリュセフィーは彼へと本心を告げる。
「……リュセフィーさえ、迷惑でなければ」
動揺を抑えられぬまま、裏切りの狼とまで呼ばれた男は心から喜んで快諾の言葉を口にしていた。
翼は一緒に歩くロディと、デートの続きを。
「で、ロディくんはさっき何を言おうとしたのー?」
からかいながらも、翼は敢えて直接聞きたいと眩しいほどの笑顔に、ロディは芝居ではなく、本当の自分の言葉で告げる。
「18歳になったからな。正面から、その思いに応えたいって」
翼は、初心な彼の言葉を聞けば聞くほど。顔が綻ぶのを止められない。
頑張れ、男の子。夜はまだこれから。
ヴィクトルは戦い前に貰ったチョコレートを食べながら、贈り主と共に歩く。
「フィスト」
ヴィクトルは改めて彼女を呼び、チョコを嚥下した口を重ねる。
ずっと閉じ込めていたはずのフィストの思いが彼女の中で爆ぜ、顔が真っ赤になってしまう。
「……お前さんの事はいつも大事に、思っているさ。Mine Schatzt(俺の宝物)」
もう、2人を邪魔するものは誰もいない。
「さて、続きやりましょうか?」
「続き? 何のコトデショウ?」
榧の言葉に、顔を引きつらせる泰孝は本気で逃れようとするが。
「はいはい逃げない……少し真面目な話するから、少し大人しくしてね」
「なんだ、急に改まって?」
普段と雰囲気が変わり、榧はもじもじと言葉を選ぶように語り掛ける。
「あのね……私はまだ子供で……貴方には釣り合わないかもしれないけど……」
「ハハッ、オメーみてーな子供がいるかよ。本気で嫌ならどんな手段使ってでも逃げるっての」
「……きっと」
茶化す泰孝に、榧は真顔で続けて。
「きっと、素敵な大人の女性になるから……だから……それまで待っててくれませんか……?」
そんな素直な気持ちを口にする榧に、泰孝の軽薄さもなりを潜める。
「それに、賭け事ってのは機を待つこともある。つまり、待つのも苦じゃ無いって事さね」
俯きながら、そんな泰孝の返答を聞いた榧の口元が少し緩む。
「はい、おわり! ……こんなこと本当今日しか言わないからね……」
すぐに、普段どおりに戻った彼女は、何かを取り出す。
「あ、そうそうもう一つチョコ作ったの……南京錠の形したチョコ」
「あー、鍵はどこですかねぇ」
そう言いながらも、錠前を外す鍵などは作られていないことを泰孝は確信する。
「面白いでしょ……さて……この意味……わかってるわよねぇ?」
「っていうか、最後の最後でこういうオチかぁぁあ!?」
そんな2人のやり取りに、泰孝のウイングキャットは呆れてしまっていたのだった。
作者:なちゅい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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