●
「敗れ流れてここに至る、か……」
闇の中、小さく声が響く。
声を発したのは一人の男。
黄金色の布鎧を身に纏い、その下からのぞくのは一部の隙も無く鍛え抜かれた筋肉に包まれた巨体。
いずれ名のある武人と言った佇まいを見せるその素性は、胸元の穴から溢れる稲妻のような形状のモザイクが物語っている。
ドリームイーター『タケミカヅチ』。
ジグラット・ウォーから生き延びたドリームイーターの一人である。
「そうして流れ着いた場所がこことは……ああ、なかなかに皮肉が効いている」
疲れたような――それでいて、どこか楽しそうな響きを声に滲ませて、彼は周囲を見回す。
いくつもの傷を刻みながらもきれいに磨かれた床板、壁に立てかけられた無数の木刀。
人気の絶えた武道場は、『求道心』を欠落させた彼にとって極めて縁が深く、薄い場所。
「ここから再起が始まるか、それとも終わりの始まりになるか。どちらになるかは……さて、神でもなければわからん事だろうが」
そう呟いた直後、闇の中を閃光が走り、タケミカヅチの手に青白い雷で作った剣が現れる。
「どちらにせよ――このまま終わりにだけはさせねえよ」
●
「ジュエルジグラットでの戦い、お疲れさまでした」
集まったケルベロス達を前に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は深々と一礼する。
「皆さんたちの活躍によってドリームイーターの本星シュエルジグラットは制圧され、ドリームイーターは勢力としては壊滅することとなりました」
ドリームイーターの本星『ジュエルジグラット』。
その中枢である『ジグラット・ハート』を巡るドリームイーター勢力とケルベロスとの戦いは、ケルベロス達の勝利に終わった。
モザイクに侵されたジグラット・ハートは倒れ、地球とジュエルジグラットを繋ぐゲートも破壊して。
本星と、それを繋ぐゲートの両方を失い、同時に多くの有力者をも失ったドリームイーターには、この状況を覆す力はもはや残されてはいない。
ここに、ドリームイーター勢力とケルベロス達の戦いは終わりを迎えた。
「――ですが、戦場を生き延びた一部のドリームイーターが、新たな動きを見せようとしています」
大部分のドリームイーターは、ジュエルジグラットでの戦いで本星と運命を共にしている。
だが、戦争で生き延びた『赤の王様』『チェシャ猫』らに導かれて戦場から逃げ出した一部のドリームイーターは、未だ地球に潜んでいることがわかっている。
「調査の結果、ドリームイーターの残党たちはデスバレスの死神勢力に合流しようとしていることがわかりました」
死神とドリームイーターの協力。
それは、かつて『赤ずきん』復活をもくろむポンペリポッサが見せた動きと重なる部分が大きい。
無論、完全に同じということはないだろうが――だからと言って、看過できるものでもない。
「残党の一人『タケミカヅチ』が潜伏している場所が判明しましたので、死神勢力に合流する前に撃破をお願いします」
そうケルベロス達に伝えると、セリカは地図を示して説明を続ける。
「タケミカヅチが現れるのは、こちらの武道場です」
そう言ってセリカが指さすのは、街はずれにある武道場。
「この武道場で深夜に死神勢力からの迎えと合流して、デスバレスに移動しようとするようですね」
タケミカヅチは、死神の迎えが来るまではケルベロス達に見つからないように隠れ潜んでいる為、撃破を狙うならばこの合流の瞬間が唯一のチャンスとなるだろう。
だが、それを狙うには、いくつか問題がある。
一つは、相手の戦力。
死神勢力からの迎えであるザルバルクの戦力は、ケルベロスと比べても劣る程度のものでしかないが――戦場から逃げたとはいえど、タケミカヅチの戦力は決して侮れるものではない。
時に自身の体をも雷に変えて繰り出す雷速の剣技は、残党狩りと甘く見ればケルベロス達が返り討ちにあうことにもなりかねない。
そして、もう一つが制限時間の存在である。
「戦闘が始まってから6分後、デスバレスへの門が開いてタケミカヅチと死神達は撤退します」
死神勢力にとっても、強力な戦力であるタケミカヅチをケルベロスに討たせることは避けたいのだろう。ザルバルク達はタケミカヅチの撤退を支援する為に全力を尽くすような動きを見せると思われる。
「正面から戦った場合、撤退させずに倒せるかは……おそらく、五分五分になるかと思います」
それは、強力なドリームイーターが死神勢力に合流する可能性として見るならば、決して楽観できる数字ではない。
この数字を引き上げようとするならば、何らかの作戦が必要になるだろう。
「考えつくものとしましては……ザルバルクを無視してのタケミカヅチへの集中攻撃か、もしくは相手の性格、欠落を突いて注意を引きつけるか、でしょうか」
ただし、前者であればカバーに入るザルバルクをどうやって突破するかが問題となり、後者であれば相手の意識をどうやって引きつけるかが問題となる。
「どのやり方でも解決しなければならない問題はありますが……皆さんなら、きっと解決できると信じています」
そう言って説明を終えると、セリカは資料を閉じてケルベロス達に視線を向ける。
「ドリームイーター本星は皆さんの活躍で制圧することができました。後は、残った彼らを討つことができれば、ドリームイーターとの戦いを完全に終わらせることができます」
無論、他のデウスエクスが存在する以上、戦いはまだ続いていくが……それでも、一つの終止符を打つことはできる。
だから、
「あと一息です――皆さん、お願いします!」
参加者 | |
---|---|
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550) |
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695) |
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394) |
リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563) |
ナナツミ・グリード(貪欲なデウスエクス喰らい・e46587) |
カーラ・バハル(ガジェッティア・e52477) |
伽羅・伴(シュリガーラ・e55610) |
白樺・学(永久不完全・e85715) |
「まぁたウジャウジャと」
扉を開き、武道場へと踏み入り。
軽くため息をつくサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)の目に映るのは、ひしめき合う無数の怪魚型死神の群れ。
そして――、
「死神と合流ですか」
「奴らの動きも気になるな……」
群れの奥で守られるように立つドリームイーター『タケミカヅチ』。
残党を取り込もうとする死神の動きに、リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)と相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は警戒を深め、
「大阪の方やなくて、わざわざ死神と組もうなんざ何か理由でもあるんかいな? なあ、あんさんは何か理由とか知っとるー?」
首を傾げた伽羅・伴(シュリガーラ・e55610)が尋ねれば、
「ああ、そいつは……いや、秘密にしておこう。ネタをバラしちゃ興ざめだろう?」
「いけずやねー。まあ、ええわ」
はぐらかすような答えに軽く膨れて見せつつも、軽く流して伴は意識を切り替える。
もとより答えは期待していないし、時間に余裕もない。
「そうだねぇ。どうせやることは変わんないんだし」
「ああ、備えろ」
ナナツミ・グリード(貪欲なデウスエクス喰らい・e46587)と白樺・学(永久不完全・e85715)が得物を構え、学の指示に彼のシャーマンズゴースト『助手』が二人を庇うように前に出る。
立ち振る舞いだけでもタケミカヅチが相当の実力なことはわかる上に、周囲にひしめく怪魚は盾となり。
さらには、時間をかければ不完全でも相手の目的は果たされる。
「厄介……厄介だが……ハッ、逃がす気も負ける気も全然しねエけどな!」
「――うん、行こう!」
鋭く息を吐いてカーラ・バハル(ガジェッティア・e52477)は笑みを浮かべ。
左手の薬指にはめた指輪を胸に抱くと、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)も剣を構える。
「ここでしっかり止めさせていただきます」
リビィが呼び出すヒールドローンが飛び交う中で、ケルベロスとデウスエクスは激突する。
●
「それじゃ、行こうかねぇ」
「奴らへの牽制は任せろ!」
薄笑いを浮かべ、踊るようにナナツミが撃ち出す無数のミサイルが怪魚の群れに降り注ぎ。泰地が叩きつける裂帛の気合は重力震動波となって、荒れ狂う衝撃波が怪魚達を薙ぎ払い、
「あ・た・れッッ!!」
飛び込むカーラが、気合と共に両手に握る剣を振るう。
二振りの大型チェーンソー剣が怪魚を薙ぎ払い、同時に放たれるチェーンソー状の大型ブーメランが刃をかわした怪魚も切り裂いて、
「あなた達……邪魔だから早く消えて?」
刃の嵐に続け、シルの呼び出す氷河期の精霊が怪魚を極寒の冷気で包みこむも――、
「……やっぱり、数が多いね」
冷気が晴れた後、数を保ったままの群れに、シルは小さく息をつく。
広範囲を巻き込む攻撃は多数の敵には有効だが、数が多すぎれば効力は減少する。
ひしめく多数の死神を狙えば、それだけ威力も狙いも甘くなることは避けられない。
けれど、
「十分だ」
牙を剥き出す怪魚の口に、サイガがパイルバンカーを叩き込む。
狙いが甘くとも、威力が鈍ろうとも、重なる攻撃は怪魚を削っている。
ならば、賽の目の一つ二つが味方すれば、
「稚魚でしかねぇ、が――」
凍てつき砕け散る怪魚を見届けることなく、周囲に視線を走らせ――直後、振り下ろされた雷の剣をパイルバンカーで受け止める。
「――んな稚魚どもを迎えに出すだなんざ、安く見られたモンだな、アンタも」
「なに、負けるってのはそういうもんだ。気にするもんでもない」
至近距離で笑みを交わすサイガとタケミカヅチ。
受けた上から押し込まれる刃に肩を裂かれながらも、突き出すパイルバンカーはタケミカヅチを押し返し。
再度踏み込もうとするタケミカヅチ。
――その足を、
「あー、あんたはそうやろねえ」
「……なに?」
伴の声が縫い留める。
「どこかで覚えのある名前と姿やと思うたら、あれや。うちの初代とドンパチしたゆーあれやん」
「お前は……」
「なーに? ようやく傷でも治って、今更重役出勤?」
くすりと笑う伴を、タケミカヅチはまじまじと見つめ――、
「――は、ははっ! そうか、お前はあいつらの子孫か!」
そして、笑う。
楽しそうに、嬉しそうに。
「適当に相手をして流すつもりだったが――そういうことなら話は別だ。今度は最後まで相手になってやる」
――牙をむいて、殺意を纏い。
「過去に何があったのですか?」
「いや、昔先祖の土地に襲来して退けられたって聞いてるだけやで」
リビィの問いに、伴は肩をすくめて苦笑する。
かつて何があったのか。真実は本人たちにしかわからないこと。
今、確かなことは一つ。
「なんにせよ、あいつに逃げる気が無くなったってーことは確かやね」
「そうだな、だが……」
学の撃ち込む竜砲弾と『助手』の炎を切り払い、閃く刃はカーラの守りを抜けてその身を裂く。
タケミカヅチの動きは先刻までと変わり無く。
そして何かが決定的に違っている。
「有利不利はまた別の話か」
その『何か』を察して、学は小さく息をつく。
生き足掻こうとする力、何かへの執念。
それらは、往々にして思う以上に強い力を発揮する。
――だからこそ、これ以上発揮させるわけにはいかない。
「これだけ強い方に合流されたら大変です」
「――ああ」
リビィが呼び出す幻影がカーラの傷を癒す傍らで、学は警戒を強めて手にした剣を握りなおし。振り抜く刃から放たれる守護星座のオーラは、怪魚を凍てつかせて走り抜ける。
「油断なく、ましてや加減なく、戦うとしよう」
「自慢の足をお見舞いしてやるぜ!」
続けて、泰地が繰り出す筋力流『巨人の足』。
気合をこめて床を踏みしめれば、迸る『気』が衝撃波となって死神を蹂躙し――直後、吹き荒れる衝撃波の中から無数の影が撃ち出される。
それは、陣形を乱されながらも放たれた無数の怨霊弾。
未だ無数に残る怪魚から放たれる数は、楽観できるものではないけれど、
「――はっ、邪魔だっつの」
着弾するよりも早く、飛び上がったサイガが降魔の力を集中させた足を振り抜けば、生まれる衝撃波が怨霊弾を飲み込んで死神達を打ち据えて。
その機を逃すことなく、拳を構えたシルが一息に距離を詰める。
「そこっ!」
突き出す拳は音速を超えて、死神を捉えて消滅させる。
これで二体。
――だが、
「甘い」
「くっ!?」
直後、走り抜ける蒼雷がケルベロス達を薙ぎ払う。
無数にいるディフェンダーの怪魚を優先して排除する。その作戦自体は誤りではない。
だが、それ以外の――最も危険な戦力であるタケミカヅチの抑えが弱くなってしまえば――。
「がっかりさせてくれるな、ケルベロス」
「――ッ!」
雷光から実体へと姿を戻し、追撃をかけようとするタケミカヅチの刃を、カーラの剣が受け止める。
咄嗟にシルを庇って直撃を受けたダメージは深く、刃を受け止めた衝撃にたたらを踏む程に余力は無くなっているけれど。
「カーラさん!」
よろめく足に気合を込めて、リビィのヒールドローンによる回復を受けて踏みとどまり、
「ま、だ、だァ!」
「ええ、うちらをこんなもんと思わんでや」
剣を操り受け流す動きに合わせ、脇を抜けて飛び込む伴の蹴撃がタケミカヅチの肩を捉えて退かせ、
「そうそう、お楽しみはここからだよ。楽しい~愉しい~パーティータ~イム!!」
マントの如き形状に変化させたブラックスライムを身に纏ったナナツミが身をひるがえせば、その内から飛び出す無数のマルチプルミサイルが生きているかのような動きで死神達へと降り注ぐ。
その中に内包されているのは侵食能力を備えた自立型のブラックスライム。
「……玩具はキミで、御馳走もキミなんだよぉ~♪」」
爆撃を受け、喰らい付かれて消滅してゆく死神達にナナツミは愉しむように笑いかける。
死神に意識を向けるあまり、タケミカヅチの抑えは薄くなっていた。
だがそれは、死神に多くの戦力を集中していたということでもある。
すでに怪魚の数は半減し、残る怪魚も範囲攻撃に削られ、余力もそう多くはない。
泰地のセイクリッドダークネスが、学のグラインドファイアが、残る怪魚を打ち倒し。
そして、最後の二体もまた、
「これで、前菜は終わり!」
「残さねえさ、骨までな」
シルの旋刃脚とサイガのフレイムグリードに飲み込まれ、消滅する。
これで、残るはタケミカヅチのみ。
一手は遅れた。
だが、決着にはまだ遠い。
●
「待たせたな」
「さぁ、邪魔するものもいなくなったし、思いっきりやろうかっ!!」
左右から踏み込むサイガとシルの繰り出すスターゲイザー。
同時に撃ち込まれるその連携を、雷光の剣舞が迎撃する。
星の光を宿す蹴撃と雷光の閃きが交錯し。
シルの蹴撃を受け流し、閃く刃はサイガの身を刻み、
「その程度か、ケルベロス!」
「いいや、ここからが本番だ」
無数の斬撃を受けながらも、サイガの蹴撃はタケミカヅチの剣を外へそらし。
側面から回り込む学のグラインドファイアが、タケミカヅチを後ろへと退かせ。
「ヨシッ、行くぞ伴!」
「ええ、上手に合わせてや」
追いすがるカーラの剣を受け止め、動きが止まった瞬間に伴のディスインテグレートが突き刺さり。続くナナツミの降魔真拳が届くよりも早く、再度雷光へと変じたタケミカヅチが周囲を薙ぎ払い、
「――そこだ!」
リビィが操るヒールドローンの支援を受けて、なおも踏み込む泰地が突き出す雷を帯びた手刀が、実体に戻ったタケミカヅチの肩口を貫き。
飛び退き距離をとる泰地と入れ替わりに踏み込むサイガのパイルバンカーは引き戻した剣の柄に受け止められるも、重ねて伴が打ち込む撲殺釘打法が、学の轟竜砲が、その守りを弾き飛ばし。
十字に走る泰地の足刀とカーラの剣が刻まれた呪縛を倍加させるも、重なる呪縛に動きを鈍らせながらも閃く刃はナナツミのミサイルを切り払い、シルの振るう剣と打ち合い、押し返す。
(「……強い」)
跳ね飛ばされたシルを受け止めて、リビィは表情をこわばらせる。
後ろへ飛んで威力を抑えながらも、受けたダメージは浅くはない。
(「それでも、負けません」)
リビィの手にしたガネーシャパズルが光を放ち、呼び出す光の蝶はシルの傷を癒す。
両手に握るのは使い慣れた剣ではなく、扇とパズル。けれど、これも護るための武器ならば使いこなせる。
死神の守りを失っても、呪縛に動きを縛られても、タケミカヅチの力はケルベロス8人を相手取れるほどに強い。
けれど、押し切られることなく戦うケルベロスもまた、決して劣るものではない。
戦いの天秤はどちらにも揺れながらいまだ定まらず。
「後ろはお任せください」
「ああ、任せた!」
リビィの声に頷きを返し、飛び込む泰地の手刀がタケミカヅチの剣としのぎを削り。
押し返し追撃に移るタケミカヅチをナナツミの降魔真拳が抑え込み――、
「……見せて欲しいなぁキミの求道心」
「……何、だと?」
至近距離から告げられた言葉に、タケミカヅチの表情が変わる。
真理や悟りを求める心であり――彼が欠落し、求めている心『求道心』。
「求道心の始まりに終わりはない。求めても求めても決して得られぬ境地。求めるが故に剥離し高まってしまう。求めた時点で、キミは呪われている…ふふっ」
嘲るように歌い語るナナツミの言葉は真理か、それとも戯言か。
それを知るのはナナツミのみではあるけれど、
(「求道心の欠落、か。力に溺れた……とは、意味合いも異なるだろうが」)
そっと息をついて、学は得物を突きつける。
「どうあれ、道とは踏み歩いて行くために在るものだ。立ち止まってしまった以上、そこで終わりとしておけ」
「いや、終わらんよ。始まりに終わりがないならば、今ここからでも歩き始めるさ」
わずかに笑みを浮かべて、タケミカヅチも応える。
「果たしてキミは求められるのかねぇ? 全てを投げ出して……求めるのを止めた時……それがキミの求めた道の 心の終わりだよぉ? ……かなうかな?」
「かなわせるとも」
『敵う』『叶う』『適う』。
いくつもの意味を乗せた問いを受け止め、返す答えにナナツミは笑みを深め。
そうして、タケミカヅチとケルベロスは再度ぶつかり合う。
「「おおっ!」」
光輝と漆黒を宿す泰地の左右の拳と、雷を宿すタケミカヅチの剣が正面から打ち合い、轟音を響かせる。
一合、二合――交錯する連撃は一瞬で十を超え。
凌ぎ合いを制するのは雷光の剣。
泰地の拳を外へとそらし、首へと振るわれる刃をサイガの突き出す漆黒の爪が受け止めて。
「終わりだ、夢喰い」
「お前の道はここまでだ」
防ぎきれなかった衝撃がサイガの体を貫くも、身をひねり、受けた衝撃も力に変えて突き上げる蹴撃がタケミカヅチの体を宙に浮かせ。
直後、炎を纏う学の一撃がその身を地面へ叩き落とす。
「これで終わり? ……もっと見せて欲しいなぁ、キミの求道心」
どこか残念そうに呟くナナツミのマルチプルミサイルが降り注ぎ――、
「ああ――見せてやるよ!」
刹那、ミサイルが降り注ぐ中を蒼雷と化したタケミカヅチが駆ける。
かわし、切り払い、疾駆する蒼雷。
――それに遅れることなく、疾風と化したシルが並走する。
速度こそ彼女の本領。
純粋な力量ではタケミカヅチに分があっても、今この瞬間だけは譲れない。
振り切られそうになっても、まだだと己を叱咤し追いすがり。
「――ッ、やらせねェ!」
「うちのとっておきや……頼むでえ!」
伴へと迫る蒼雷を受け止め、弾かれながらもカーラの振るうチェーンソー剣の刃は雷光を切り裂き削ぎ落とし。わずかに生まれた間隙に、伴が呼び出すのは怨霊を纏った巨大な野干――八柱の雷神を従え敵対者を蹂躙する黄泉津大神。
その力をもってしても、蒼雷を止めるには至らないけれど――それで十分。
「シルさん!」
(「今!」)
雷が喰らい合い、速度を落とした瞬間。
リビィのヒーリングパピヨンを受けて、踏み出す足は更なる速さでシルを蒼雷の先へと運ぶ。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ…。六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
詠唱に応えるように、その背には一対の青白い魔力の翼が生まれ、周囲から集う精霊の力が両手へと集束する。
(「……六芒精霊収束砲。これがわたしの最大の攻撃魔法」)
見据える先には止まることなく突き進む蒼雷。
その光から目をそらすことなく、シルは正面から魔法を解き放つ。
「せめてもの手向けに、全力で撃ち抜くから、受け止めてっ!!」
火・水・風・土・光・闇。6種のエネルギーが雷光とぶつかりあい、衝撃と閃光を奔らせて。
――光が消え去った時、そこには何の姿も残されておらず。
道を求め続けた雷神の歩みは、ここに終わりを迎えるのだった。
作者:椎名遥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年2月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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