無頼の禍福

作者:黒塚婁

●ある無頼
 うつくしく整えられたものを壊すのはたのしい。
 きれいに揃っているものを、台無しにするここちよさは、なにものにも代え難い。
 空間が歪み、突如と落とされた巨躯のデウスエクスは、咆哮す。
 その身を包むオーラが淀みなくその拳を包み込むと、かれは凶器になる。
 憐れな供物たちは、悲鳴をあげることもできない。頭を撫でるようにしただけで、くしゃりと潰れる儚い生き物だからだ。
 凶器は喜んだ。
 ここにはとてもうつくしいものが沢山並んでいる。どれも地球人どもよりも儚く、掌でぺしゃんと潰れてしまうものではあるが。
 うつくしいものを壊すのは、かれのすべてだから。

●その拘り
 古都と呼ばれる地での予知であると、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はむっつりとした様子で告げた。
「エインヘリアルによる、菓子工芸展の襲撃事件だ――ああ、罪人を解き放って暴れさせるという、聞き飽きた事件だ」
 過去にアスガルドで重罪を犯し『永久コギトエルゴスム化の刑罰』を処されている犯罪者を送り込み、地球で一般人を蹂躙させる――彼らはかの勢力において、失って惜しい戦士ではない。
 ゆえに彼らが好き勝手に地球の人々を殺し、憎悪を確保して定命化を遅らせるにせよ、ケルベロスたちに倒されるにせよ、エインヘリアル勢力には願っても無い状況なのだ。
 辰砂は不機嫌を隠さずに、デウスエクスの勝手を詰るが、まあ、結局こちら側は討伐に向かうより他にはないのだ。
「さて、現場は中規模の展示場、展示された菓子以外、仕切りの無い室内に突然エインヘリアルは送り込まれるようだ――一般人の安全の確保は急務となるだろう」
 罪人エインヘリアルは一体。武器はバトルオーラ。
 エインヘリアルらしい鎧は一揃え纏っているが、身軽な戦闘スタイルが予測される――ただ、それは対峙するものの価値観によるだろうと辰砂は付け足す。
 実力はかなりのもので――エインヘリアルにせよ、捕縛まで相当に手を焼いたらしい。
「奴は特別理性が飛んでいるようだ。戦いというよりは自由に暴れることを好み……更に、美しく整えられたものを破壊する――という行為に執着している。そして、どちらかといえば、自然物よりは人工物を壊したがる傾向にある」
 忌々しそうに眉間に皺を寄せ、彼は続ける。
「例えば、花や鳥を美しく再現した菓子や、文化財を模した菓子などが周りにあるわけだが――それを囮に、気を引けるやもしれん。命には替えられんと、展示会側も言ってくれるだろう……しかし――皆まで言わずとも、解るな」
 金眼がケルベロスたちを強く一瞥する。
「極力の努力と救援を。そして狂瀾の罪人には極刑を――私が貴様らに望むのは、それだけだ」
 最後に武運を祈ると告げて、説明を終えるのだった。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
輝島・華(夢見花・e11960)
除・神月(猛拳・e16846)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)

■リプレイ

●臨
 整然と並ぶ美の競演。これら作品の数数は、まさに職人達の魂を言えよう。
 ――それを根本から守れぬもどかしさもある。
 金の瞳を伏せ、アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)は微かな息を零した。
 今の内に、目に焼き付けておく。手の内から溢れてしまうものを忘れぬ為に。怒りを、敵へとぶつけるために。
 ゆえに、会場の中央に忽然と生じた空間の違和、前触れの無い襲来にも即座に反応できたのは、少し皮肉だ。
「――ッ!!」
 声なき哮りを放ち現れたエインヘリアルへ、ケルベロス達は疾く距離を詰める。
 彼が踏みしめた地点にあった作品たちが、けたたましい悲鳴をあげた。こればかりは、どうしようもない。ぐっと堪えるように唇を結んで、輝島・華(夢見花・e11960)は青紫色の瞳で男――ヨエルを見据えた。
 音速を超える拳が別の硝子ケースを捉える前に、花咲く箒が滑り込む。
「そう易々と壊させはしません――!」
 ブルームが間に合ったことに、安堵を浮かべるより先、直ぐに会場の人々へと声を上げる。
「私達はケルベロスです。落ち着いて避難して下さいませ!」
 途端、人々のざわめきが起こるのを、関係者の体でアリシスフェイルが「皆さん、落ち着いて、彼らに従って避難してください」と静かに避難を促す。
「フフフ、見上げたドミノキック精神だこと!」
 含みのある笑いと共に、片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)が大上段より宣告する。頭上に軽やかに舞った彼女は、流星の煌めきを軌跡と残しつつ、錐揉みにヨエルへ蹴り掛かった。
「フフフ、今サイコーに輝いてるわ、私!」
 自分をそやしながら、鮮やかな着地からの軽やかなターンを決めると、可憐な微笑みで相手を見上げる。
「はいそうですかと許すわけにはいかないけれど――クククその審美眼やよし! 冥土のおみやよ! この可愛い私でキュートアグレッションまで併発してゆくがいいわっ!」
 返された視線は、ぎろりと鋭く刺々しい。
 その背を、突き刺すように一喝が走る。
「動くんじゃネェ!」
 魔力を籠めた咆哮で、除・神月(猛拳・e16846)がその脚を引き留める。
 半身で振り返った男へ、
「キレイなモンをぶっ壊してみてーって気持ちは分からねーでもねーゼ。あたしもそっちの気はあるからヨ♪」
 ゆるりと構えた神月は獰猛に笑う。
「たダ、おめーみてーなのに壊させんのは駄目ダ。壊す側はあたしじゃねーとナァ!」
 リズムをつけるように床を蹴り、今にも跳び込めるように身構える。
 逃げ場を奪う――否、動かさぬよう翼広げた大鴉が嘴を鋭く、切り込んでいく――アリシスフェイルの指揮する黒きスライムが男の半身を包み啄む。
「そちらが気になるというのなら」
 それならそれで別に構わないのだわ、アリシスフェイルは嘯く。
 強気な視線で敵を射貫き、痛む心を押さえ込む。無論、万が一があればすぐにも跳び込む心であるが。
「貴方が其方にかまけているなら、よそ見している内に首を掻き切られても文句はないってことね」
 両手に備えた刃を輝かせ、彼女は挑発する。
「手遅れになって気づくから刑罰を受けているのでしょう」
 敵の表情は無であった。静かに凪いでいて、怒りは見えぬ。
 そして狂気の潜んだ瞳はケルベロスの他へ向けられていた。
「いやはや、悪趣味でいらっしゃる――少なくとも、これ等は貴方の為の供物ではありませんよ?」
 微笑と共に首を傾げ、惘れを滲ませた吐息をひとつ。藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)が双眸を鋭く細める――既に、獄炎に灯る藤色の瞳を隠すレンズは無い。
 穏やかな口調の中、不意にひとさじの殺気が敵を貫く。
「……それとも、その嗜虐心。一度完膚なきまでに殴らねば治らぬでしょうか」
 巨躯の脇をゆるりと駆け抜ける景臣の手元で、鈴が鳴った。
「――粗相のなきよう」
 涼やかな音色が、呼び出された風精を踊らせる。
 くすくす、笑い、遊びへ誘う声音は、男の周囲を取り巻き幻惑する。振り払うように身を捩り、男は後ろへと大きく退いた。彼がただ地を踏みしめるだけで、繊細な菓子を揺るがせた。
 淡く眉を顰め、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)はじっと相手を見据える。たとえ視線が交わらずとも。
「もしかしたら、また作れば良いのかも知れないですが……それでも誰かが頑張って作った作品を、壊して良い権利なんて無いのですよ」
 ヨエルは疎ましいものを見やるようにケルベロス達を見下している。
 機械の身体持つレプリカントでも、やはり魂もつ生き物と彼は見なすか。
 いずれにせよ、告げる言葉は変わらない。ヘッドライトを赤く光らせたプライド・ワンと共に立ち塞がり。
「皆の作品を壊すぐらいなら、私を壊すですよ!」
 次々と向けられた真っ直ぐな挑発に、男は全身に力を籠めた。
「……邪魔だ」
 身を挺してそれらを守るというなら、共に砕く。
 彼らが織りなす、波状の攻撃の陣を破ったならば、きっと胸がすくに違いない。
 狂戦士は一蹴、地を叩くと、拳を振り翳しながら距離を詰めた。

 戦線から僅かに離れたところでも、戦いはある。
「美しいものだから、守らないといけないのよ。限りあるいのちになったからこそ、それがわかるってね」
 鮮やかな赤の髪を揺らし、ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)はそう意気込むと、出口に戸惑う人々の元へと迷いも無く駆け抜けていく。
 焦らないで、と声をかける様は溌剌として、人々を勇気づけた。
 華は誘導の声を上げ続け、テレビウムの梓紗も「落ち着いて避難してください」という動画を流す。
「……だな」
 彼女の言葉を噛みしめるように、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が軽く目を瞑った。そして、跳んできた礫を身で受け止めながら――朗らかな笑みを人々に向ける。
「作品も命も俺らが身体を張って守ってみせるぜ。安心して逃げな!」
 その声は混乱の最中においても、人々の耳へと強く響いた。

●応
 ブルームが激しく旋回しながら男の足元へと突進していく。
 合わせ神月の鋭い蹴りが巨躯が浮かせた脛を強か捉える――打ち据えた自身の脚が痺れそうな衝撃に、そう来なきゃなァ、と口の端を歪めて笑う。
 ヨエルの正拳へと真理は片腕を前へと突き出し、潜り込む。
「させないのです!」
 まともに受け止めた途端、みしりと重い音がした。白い肌が蜘蛛の巣状に割れ、金属が弾け飛ぶ。内部機構を晒しながら、破損した腕をものともせず、彼女はアームドフォートを繰る。
 男の脇へ炎を纏ったプライド・ワンが突撃すると同時、真理は高速演算より導いた急所へと、展開した砲台を一気に解き放った。
 苛烈な応酬は、男の四肢を赤く穿つ。だが、浅い。
 無言で無造作に身体を翻して掌を振り下ろす。掌打ではない――気咬弾が男の手より放たれるを、今度はアリシスフェイルが射線に割り込む。
 ぶわりと長い灰色の髪が踊った――衝撃を打ち破るように撓らせたケルベロスチェインで、そのまま地に陣を敷きて、自分と、先程攻撃を受け止めた真理を癒やす。
 一撃の重さに吹き飛ばされながらも、作品を犠牲にすまいと踏みとどまる。
 不意に――足元に更なる魔法陣が重なった。彼女達の傷をより強く癒やし、護りを高める力が湧き上がる。
「あなたが壊すと言うならば、私は何度でも守ります」
 凛と、華が告げる。戻って来た主を庇うように、ブルームがその前でくるりと弧を描いた。
「壊されても壊されてもまた作って守るだけです」
 応じるよう、梓紗が応援動画を流し、鼓舞を重ねる横を、一陣の風が駆けた。
 一筋の赤が皆の視線を横切り、男へ一気に詰めると、肘から先をドリル状に回転させたジェミが烈風が如く叩きつける。
「さぁ、お待たせ。ここからは私達も相手よ!」
 不敵な笑みから、きりと真剣な眼差しで、敵を睨み上げ、
「守ってみせるわ、あんたみたいなのから美しいものを。……ケルベロス、なめんな!」
 言い放ち、相手の身体を蹴り上げながら、横飛びに離れる――青い光を帯びながら、広喜はコートの裾を翻して跳び込む。
「壊すしか能がねえ個体か――俺と同じだな」
 にかっと笑い、彼は青い双拳を打ち鳴らた。接近に振り返る間も許しはしない。
「直せねえくらい、壊してやるよ」
 唸る拳が強か捉える。的がでかいのだ、外しようが無いと裡で笑い零し。
 仲間達が印した傷を更に抉り、灼き続ける青き炎を、叩き込む。
「あのな、知ってるか。地球には――壊しちゃいけねえもんがたくさんあるんだぜ」
 男はただ目を細めただけで、何も語らず、身体を傾いだ。
 ――そこへ、氷で作られた騎士が槍を繰り出す。
「フフフお菓子も最高だけれど、私の騎士もなかなかでしょう?」
 氷細工のような騎士を、ヨエルへと見せびらかすように芙蓉は敢えて告げ。
「往きなさい私の騎士。美麗に正しく討つのだわっ!」
 高らかな声に従い、騎士が更に深く踏み込み、男の肩を裂く――鋭い氷の一閃への応酬、オーラを淀みなく纏った裏拳が騎士の顔面を砕いた。
 男は僅かに笑っていた。よしと次の符を翳す芙蓉を見下ろしたそれの腿へ、雷纏う剣戟が走る。
「……おや、僕とは遊んで下さらないのです?」
 戯れ乍ら、景臣は容赦なく脚を削ぐように刃を振るう。
 舞う血飛沫すら塗り込めるように、高く跳んだジェミが垂直に斧を叩き込む。纏うオウガ粒子は、華が施したもの。
「あんたの相手はこっち。整えられたもの壊したいって? ならそうする前にあんたぶっ飛ばす!」
 覚醒した意識の中、彼女には止まった的にしか見えぬ。
 身体の転換すら許さず、広喜の腕に浮かんだホログラムが、稲妻が竜の形になって喰らいつく。
「美しいものを壊したい気持ちは私には分かりません。美しい作品も命も、出来るならばずっと守りたいのです」
 だから、負けません。華の言葉に皆が力強く頷いた。

●破
 全身を苛む呪を撥ね除けるように、ヨエルが吼えた。
 次いで重く、実直なる拳を振り下ろす――ブルームとプライド・ワンが一斉に詰めて、受け止めつつ、その場へと縫い止めるよう身を以て食い止める。
 好機ですの、告げたのは華だ。男は目に見えて、動きが鈍くなっていた。
 はいです――真理が応えつつ広げた両腕は変形し、ビームソードと化す。背からはスラスターが加速を後押しする。
「―――全身全霊で、あなたを打ち倒します」
 実際は一瞬にして戦場を横切った線が光の刃を翻す。
 幾度と斬りつけ火花を散らし、纏うオーラを剥ぎ取っていく。
「ズタズタに引き裂いてやるゼェ!」
 そんな彼女と入れ替わり、獣と化した四肢で高く跳躍し、神月が爪を振り下ろす。
 長く尖った両の爪は、凶悪に輝くと、深く男の傷を抉った。拳を埋めるように叩きつけ掻き壊せば、穿たれた傷が脈打つ度に血を零す。
「さあ女神の祝いよ、受け取りなさい……!」
 芙蓉の手元で陽炎が揺らめいていた。腕を薙げば、兎の耳が愛らしい符がいくつも形を失いながら飛ぶ。
 触れなば咲くは、熱の花。刻み込まれた呪を、天命だと決定づける巫女の術。
 横ではぴょこりと梓紗が跳ねて、ひたすら鼓舞する動画を流し続ける。
「金から銅に至り――、」
 皆が織りなす波濤の鮮やかな場へ、唱和し加わるは、アリシスフェイル。
 その唇が澱みなく解放の詩を紡げば、両掌に、黄と緑で描かれた六芒星が浮かぶ。
「……喰らい啜りて潤い充たせ――星火の行軍」
 掌より放たれる斬撃が、幾重と敵の血を巻き上げる。飛沫と舞う朱が、命を啜り上げる道筋を描くように。
 ヨエルは動かず受け止める。全身が、朱と弾けようと動じず耐える。それらの傷を、撫でるは一片の花弁。
「さあ、よく狙って。逃がしませんの!」
 華が掌を差し向ければ、風に舞う数多の花弁が男を包んで、斬り裂く。
 幻惑の光景を目眩ましと景臣は肉薄する。膝を蹴り上げ、跳躍するや、手に収まる細身の銀の一槌がパワーを噴射して加速する。しなやかな弧の動きでそれを制御し、強かに、男の額を殴打する。
 衝突の瞬間、霧のように血の飛沫が舞う――此処まで彼が浴びた攻撃の数を考えれば、よくも形を維持して立っていられるものだと、ひとつだけ感心する。
 そんな男の頭上から、気さくに広喜が一声かけた。
「よっ、壊れていく気分はどうだ」
 彼は両腕を高く掲げ――その先、換装した斧が青く輝いた。
 自分は壊すために作られた。ゆえに精細な品に触れたら壊してしまうと、あまり近付かないようにしている――そして、今も繊細さとはほど遠い戦い方だ。
 だが常と同じ笑みを湛え、脳天へ、垂直に斬撃を落とす。
「これで仕留めてみせるっ」
 同時、掌にありったけの魔力のような力をジェミが駆っていた。身体を縮めるようにしながら、最後の一足、前のめりに跳び込む。
「とにかく!ぶっ飛ばすわ!」
 全身をバネと加速した、渾身の力での掌打――それは男の腹を打ち据えると、鎧どころか敵の全身を朱に染め上げ――まさしく物理で消し飛ばしたのだった。

●麗
「んーん、……守れて、よかったな。気分いい!」
 ジェミがのびのびと身体を伸ばして、振り返る。ケルベロス達は最良の結果を出していた。
 殆どの作品がそのまま守られ、無事だった――それでも出現地帯、戦場となった一帯だけは、どうしようもない。致し方ない犠牲とはいえ、心は痛む。
「これもヒールで治せたらいいのですが」
 景臣がつと零す。治ったとしても、元の菓子に戻らぬのだから、儘ならぬものだ。
「手塩をかけて作り上げた作品が壊されるというのは良い気分ではないでしょうから」
 彼の言葉に、そうね、とアリシスフェイルが静かに俯き、戦闘前に刻みつけた姿を思い浮かべながら、欠片を拾い上げる。
 モノ作りを生業としている、親しい人達――彼らの事を思い浮かべると、どうしても沈んでしまう。
「今度はゆっくり見て回りたいわね」
 今も見事だけど、ジェミの一言に芙蓉がそうね、と神妙に頷いた。
 倒しても仄かな憤りは残るとは、なんと小癪な敵であろう。梓紗を抱え、ムムと唸る。
「あの、でも――守れた作品も、是非拝見していきたいです」
 控えがちに華の言葉に、反対するものは誰も居なかった。

 絢爛なる花々、優雅に羽を広げた鳥――様々な花鳥風月の再現は、仕込まれた細工も、色も、菓子であることが信じられぬ。だが、近づけば、きちんと匂いがある。
「ちょっとだケ、ちょっとだケ……」
 そっと顔を近づけ、甘い匂いを嗅ぐ神月を、プライド・ワンが黄色く照らすと真理が咎めた。
「何をしてるです?」
「キ、綺麗で美味しかったらサイコーじゃン? 確かめてみよーと思ってサ、ハハ」
 誤魔化し笑う彼女に、解らないでもないですが、と肩を竦め。
 そんなやりとりを前に、はは、と広喜が無邪気に笑った。
「なあこれ、すげえ綺麗だぜっ」
 俺でも守れたんだぜ、と。密かに誇りながら。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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