ウェディングドレスへ想いを馳せて

作者:白鳥美鳥

●ヘリオライダーより
「みんなお疲れ様。ジクラット・ウォーによって、ドリームイーターの本星シュエルジグラットを無事に制圧したよ。これも、みんなの活躍があったおかげだね。ありがとう」
 そう笑顔でお礼を伝えてから、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、本題に入る。
「これによって、ドリームイーター勢は勢力としては壊滅したんだけど、戦争で生き延びた『赤の王様』や『チェシャ猫』らに導かれて戦争から逃げたみたいなんだ。この残党は、ポンペリポッサと同じ様に、デスパレスの死神勢力と合流しようとしているんだ。そして、彼等を迎える為に下級の死神の群れが出現する事も予知されたんだよ。だから、みんなには、彼等の合流地点に向かい、迎えに来る下級死神と残党のドリームイーターの撃破をお願いしたいんだ」
 デュアルは状況を説明する。
「ドリームイーターなんだけど、死神が迎えに来るまでは隠れ潜んでいるんだ。だから、デスパレスに移動しようとする時が撃破のチャンスになるんだよ。戦闘開始から6ターンが経過すると、ドリームイーターはデスパレスに撤退してしまう。それに、下級死神もドリームイーターの撤退を支援するために全力を尽くして戦ってくるから、普通に戦うだけだと五分五分くらいでドリームイータ―は撤退してしまう。だから、作戦を練らないといけない。下級死神を後回しにしてドリームイーターを狙うとか、ドリームイーターの性格を踏まえた行動をとってみるとかすれば、撤退を阻止する確率が大きく上がると思う」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、ぐっと手に力をいれる。
「ドリームイーターが死神勢力に加わるのは、やっぱり良くない事だと思うの。だから、みんな、力を貸して欲しいの!」


参加者
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
クレーエ・スクラーヴェ(明ける星月染まる万色の・e11631)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)
椏古鵺・魅羽(トワイライトスピリチュアル・e56459)

■リプレイ

●ウェディングドレスへ想いを馳せて
 ……彼女は待っていた。身を潜めつつ、使者達が来る事を。そして、同時に別の事も考えていた。
(「……どうしてかしら。私はずっと誰かを待っている気がする」)
 それは、迎えの死神達では無い事も分かっている。
(「……いえ、それは……きっと『私』が生れた理由だから……?」)
 彼女……彌紗羅は、自らの姿を見て、軽くくるりと回ってみる。ふわりと広がる白いウェディングドレス。それはモザイクで出来ている。……そう、この『ウェディングドレス』が……『結婚式』が……夢見たもの。自らが生れた理由。……そして、隣りに立って欲しいその人は……待っているその人は――。
 そこまで想いを馳せた時、彼女の視界に魚達の群れが見えた。今の彼女の待ち人達。デスパレスへと誘ってくれる死神達だ。
(「……行こう。私の夢を叶える為に」)
 死神達の誘いに、彌紗羅は身を潜めていた場所から、彼等の元へと向かう。促されるまま、死神達と共に行こうとしたその時、強い声が聞こえた。
「――行っては駄目だ!」

●ドリームイーター・彌紗羅
 死神達の元に行こうとしているドリームイーターがいる。その予知を聞き駆けつけたケルベロス達。
 そこに居たのは――白いモザイクのウェディングドレス姿をした美しく長い金色の髪を持つドリームイーター。そして、その穏やかで優しく美しい女性を椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)と椏古鵺・魅羽(トワイライトスピリチュアル・e56459)は知っていた。
「とと様、あれは……かか様よ」
 魅羽は、父親である笙月の服をぎゅっと握る。動揺を隠せない娘と同様に、笙月も動揺していた。
 そう、彼女は彼にとってとても大切な――。
(「いや、本人である筈が無い。私の目の前から彼女を攫ったのは……」)
 だが、笙月と魅羽が彌紗羅に声をかける前に、死神達が立ち塞がる。死神達は気付いたのだ。自分達が迎えに来た相手を手にかけようとしているケルベロスだと。
「家族は一緒に居るべきだよ、例えドリームイーターでも! 二人の邪魔はさせない!」
 死神達より先の飛びだしたのは那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)。摩琴の放つ調合薬は霧となり死神達に纏わりつき、押し潰していく。
 戦いが始まった事に気が付いた彌紗羅は再び身を潜めようと戦闘から離れ始めた。戦場から逃げる様子は無いが、戦いたくない、そう思っているのであろう行為。出来る限り戦いは避けたいらしい。だが、その動きはケルベロス側としては願ってもいないものだ。笙月と魅羽の2人にドリームイーターの事は任せたいからだ。彼等は彼女を死神に渡す気は無いし、そして出来うる限り傷つけたくも無いし……そして何よりもモザイクを晴らしてあげたいのだから。
「笙ちゃん、魅羽ちゃん、行くのだ!」
「おにーちゃん、死神達は僕達に任せて!」
 月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)とクレーエ・スクラーヴェ(明ける星月染まる万色の・e11631)の放つ桜吹雪が死神達を弾き飛ばし、彌紗羅へと向かう道を拓く。
「皆、感謝する!」
 その道を笙月は仲間達に心から感謝しつつ、愛しい人と同じ姿をした彼女を引きとめるために魅羽と共に駆け抜けた。
「結婚式の邪魔は野暮というものよ」
「無粋な真似はさせません」
 アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)と鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)が直ぐに道を塞ぎ、灯音の夫で相棒でもある四辻・樒(黒の背反・e03880)、そして笙月達の力になる為に駆けつけたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)、深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)、安海・藤子(終端の夢・e36211)、アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)、ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)も死神達の前に立ち塞がった。
「灯、気をつけてな」
 樒の言葉に灯音は頷く。
「樒、露払いといくのだ」
「ああ、任せろ」
 灯音がグラビティチェインを乗せた銀槍を振りおろし、樒が間髪入れずに輝きを伴う重い蹴りを死神に目がけて叩き込んだ。
「桜、いくよ」
 クレーエは雷の霊力を帯びた突きを、ビハインドである桜は金縛りを、それぞれ狙いを付けた死神へ向かい放つ。
 死神達は彌紗羅を守る為に笙月達を追おうとするが、アリシスフェイルの放つ凍てつく風に襲われて行く手を阻まれた。
「追いかけさせたりはしないわ!」
「結婚式には美しい華を添えるものです。こういった風に!」
 奏過の放つ火花は新しき門出を祝う様に美しく輝き、摩琴達に力を与える。その力を受けた摩琴の放つ光の砲弾は更に美しく輝き死神達を呑み込んだ。
 死神達も、彌紗羅を守る為にはケルベロス達が邪魔だと判断したのだろう。群れを成すようにそれぞれが思い思いにケルベロス達に容赦なく噛み付き、その生命力を奪う。
「みんな、頑張ってなの!」
 ミーミアはアリシスフェイル達にオウガ粒子を放ち、ウイングキャットのシフォンは清らかなる風を送る。ラグエルも回復を中心に、アルシエルや藤子もまずは回復に努める。ルティエは死神達に攻撃を繰り広げ、ボクスドラゴンの紅蓮は回復に重点を置き、オルトロスのクロスは攻撃に専念した。
 勿論、死神達も一筋縄ではいかない。まず、数が多い。更に固い上に、互いに庇い合い、状況に応じ回復もしていく。
「おにーちゃん達の邪魔をさせないよ」
「花嫁さんもね!」
 クレーエの放つ桜吹雪の中でアリシスフェイルの漆黒の鎖が死神達を捕らえる。
「樒、サクッと済ますのだ」
「ああ、早く倒してしまわないとな」
 灯音の召還した桜の樹木による桜吹雪の中、樒の放つ矢が放たれ撃ち貫いた。
「二人が諦めない限りボクも諦めない!」
「サポートは任せてください」
「ミーミアも頑張るの!」
 摩琴が漆黒の闇を駆け巡り、奏過は適時回復とサポートを施し、ミーミアも手伝う。また、応援に来てくれたケルベロス達も攻撃に回復にと駆け巡る。
 しつこく回復して襲い掛かってくる死神達を、皆で連携しながら戦っていく。確実に一体一体仕留めながら。そう、笙月と魅羽の邪魔をさせない為にも。

●思い出の中の君
 笙月と魅羽は、彌紗羅とそっくりなドリームイーターと対峙していた。
 しかし、彼女は特別何かしてくる訳でも無い。それは、笙月と魅羽も彼女を傷つけようとしていないから、という事も大きいのかもしれない。
 ……もしかしたら、それだけでは無いのかもしれないけれど。
 目の前のドリームイーター、彌紗羅は何から何まで本人とそっくりだった。
 美しい金色の髪には、笙月が気まぐれであげた髪飾り。そして、顔つきも容姿も――娘である魅羽によく似ている。そう、まるで母と娘の様に。
 傍らにいる魅羽が、笙月の手を握ってくる。
「魅羽に良く似たお顔、髪の色……そして優しそうな笑顔……。魅羽、かか様のこと覚えているよ」
 魅羽は記憶が欠けている。記憶にあるのは3歳頃までの幼きもの。それ以降は……父と再会するまでの記憶は無い。だから、どうして母がいなくなったのか、それも知らない。
 ……本当は父は知っているのだろうと幼心に思う。しかし、それにはきっと訳があるのだろうとも感じている。
 でも、目の前にいるこの女性は……間違いなく魅羽の記憶の中の母そのものだ。
「彌紗羅……君なのか?」
 笙月の問いかけに、彼女は戸惑っている様だった。
「私の名前は彌紗羅。……でも、貴方の知っている『彌紗羅』なのかどうかは分からないわ。……私が分かる事は一つだけなの」
 彌紗羅は、俯き、ゆっくりと首を横に振る。
「……私ね、ずっと誰かを待っているの。私は……ウェディングドレスに憧れた花嫁。だから……きっと隣りに立つ人を待っているのかな、ずっとそんな風に思っていたの」
 そして、顔を上げると、今度は笙月と魅羽を交互に見て微笑んだ。
「……でも、どうしてかしら。貴方とその子を見ると……温かい気持ちになるの。……貴方達を待っていたような……そんな気持ちにもなるの。だから……私がずっと待っていたのは……きっと……」
 そう言って、彌紗羅は哀しげに微笑んだ。その微笑みを見て、笙月はこみ上げてくるものがあった。
 ……手にしているブーケは彼女が好きだった野薔薇によく似ている。花言葉は……上品な美しさ、素朴な愛……そして孤独。その孤独は……今、目の前にいる彼女そのものの様にも思う。
「――あれは、あの人は……かか様の『ココロ』なの。魅羽には分かるよ。かか様……よく言ってたの、いつかとと様の隣で真っ白いドレスを着たいって」
 ぎゅっと手を握り見上げてくる魅羽の瞳が真実だと語っている。その事が笙月には分かる。……そして目の前の彼女……彌紗羅が哀しい笑みを浮かべている理由も……。
 もし、このドリームイーターが彼女の『ココロ』なら……違う物になっていても、その事実だけは本物なのだろう。
 ……それならば、なおの事、死神達に連れて行かせる訳にはいかない。それは本当に彼女が彼女では無くなってしまう事を意味しているのだから――。

●仮初めの結婚式
「おにーちゃんと魅羽ちゃん、大丈夫かな」
「笙ちゃんが魅羽ちゃんを守ってくれてると思うし……きっと大丈夫なのだ」
 クレーエの言葉に灯音が返す。死神達を全て片付けた仲間達は、笙月達が向かった方向に向かっていた。彼等に全て一任する事は全員で決めていたが、相手はドリームイーターだ。何が起きても可笑しくは無い。
 だが、それはいらぬ心配だったと笙月達を見つけた時に分かる。
 笙月は、彼女のモザイクを晴らしたいと言っていた。……それが、今、行われようとしていたから。
 モザイクのウェディングドレスを着た彌紗羅の隣りに立つのは、魅羽の力でタキシードドレス風の衣装を纏った笙月。
「かか様、とと様……おめでとうなの! よかったね……かか様、綺麗なのよ……ぐすっ」
 傍では魅羽が涙目で2人を見て感極まっている。母の願いを一番知っているのは、娘である魅羽だけなのだから。
 その様子を見てアリシスフェイルは結婚式の彩りとして、そっと雪の華を降らせる。
 神聖な雰囲気の中、笙月は彌紗羅に向かって優しく微笑み、それを見て彼女も頬を赤らめて微笑む。
「彌紗羅、例え君が本物でなかったとしても、私はお前に誓おう……どんな姿でもお前を愛することを――」
 誓いの言葉と共に、笙月は野薔薇で作った指輪を左の薬指に嵌めて接吻をする。そして幸せな笑顔を互いに見せあって……彌紗羅の左の薬指に嵌められた野薔薇の指輪が輝きだした。この野薔薇の指輪は笙月によって作られた特別な指輪。そして彌紗羅は笙月の中に取り込まれていく。取り込まれるその中で、彌紗羅は幸せそうな微笑みを浮かべている……そんな風にも見えた。
 そして、結婚式には花婿一人が残った。笙月は、自らの胸に手を当てる。
「どうか今は、私の中で眠ってくれ……」
 必ず君の本体を取り返す……その日まで、そう誓って。
 全てが終わり、涙を浮かべた魅羽が笙月に向かって走り寄って来て、ぎゅっと抱きしめる。そんな娘を笙月はそっと抱き返した。
 夫婦である樒と灯音、クレーエとルティエも寄り添い合い、ぎゅっと互いの手を握る。
「……彌紗羅さんのモザイクはきっと晴れたのでしょうね」
「うん……晴れていると良いね。……彼女は今、笙月の中にいるから……ちゃんとした形では無いけれど、魅羽と一緒に家族にもなれたんじゃないかな」
 奏過の言葉に摩琴はそう返す。孤児である摩琴にとって、家族は特別な存在。今はこんな形ではあるけれど、それでも一緒であるとも言えるから。
「皆、力を貸してくれてありがとう。無事に結婚式を挙げられたよ」
「結婚、おめでとう」
「良かったね」
 死神達の相手をしてくれて、彌紗羅との時間を作ってくれた仲間達に笙月が礼を伝えると、祝福の言葉を贈ってくれて、自然と笑みが零れた。
 魅羽が手を握ってくる。
「……ねえ、とと様」
「……そうだね。いつか、きっと……」
 魅羽の言葉に笙月は頷いた。
 いつか、きっと……今度は本当の君と。その日が訪れる事を心から願って――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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