死二至ル病

作者:秋月きり

 逃げろ、と彼らは言った。
 逃げて逃げて生き延びろ。そう言った。
 どうして逃げるのだろう? そこに何があると言うのだろうか。
「そこに、救いがあるとでも言うの?」
 だが、ディスペア・バッドエンドには救いは無い。救いを望む資格が無いのが彼女だった。その欠落は希望。
 多くの人間を狩った。多くのグラビティ・チェインを奪った。多くのドリームエナジーを奪った。
 故に絶望と呼ばれるようになった。その生き様に悔悟は無い。自分に希望など無く、誰にも希望を与えない。それが彼女の有りようだった。
「……取れないな。血の臭い」
 生き延びる。まだ滅ぶ事は出来ないと、今、決めた。
 存在理由など、それだけで充分だった。

「ジグラット・ウォー、お疲れ様。みんなの活躍で、ジュエルジグラットを制圧する事が出来たわ」
 ヘリポートに集ったケルベロスに向けられたのは、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の労いの言葉だった。
 ドリームイーターのゲートの破壊は、地球侵略を目論むデウスエクスの一角であったドリームイーターの『勢力としての壊滅』を意味する。それ自体は喜ばしい事なのだが。
「ただ、『赤の王様』『チェシャ猫』に導かれ、幾らかのドリームイーターは戦場から逃げ出したらしいの」
 ドリームイーターの残党は現在、デスバレスの死神勢力と合流しようとしているらしい。
「で、下級死神の群れの出現が予知されたわ。目的は当然、ドリームイーターの残党を迎え入れる為でしょうね」
 それを見逃す理由など、ケルベロス達には無いのだ。
「みんなのターゲットはディスペア・バッドエンドと言う名前のドリームイーター、そして十数体のザルバルクよ」
 まず注意する事は、戦闘開始後6ターンで、ドリームイーターはデスバレスへと撤退してしまうと言う事だ。その妨害の為には、速攻の撃破が必要となる。
 しかし、ザルバルク達もそれを黙って見ている訳がない。死力を尽くし、逃亡を補助してくるだろう。
「例えディスペアを逃がしたとしても、多くのザルバルクを倒すわけだから、この戦いそのものは勝利になるだろうけど」
 そんな消極的勝利は望んでいないよね? とリーシャは微笑し、言葉を続ける。
「だから、ディスペアの撃破を行う為には、相応の策が必要となるわ。例えばクラッシャーの分担割合を大きくして、ダメージ総量を上げるとか、ディスペアを挑発し、戦場に1ターンでも長く留まらせるとか、そう言うのね」
 とは言え、クラッシャーの数を増やしても、その攻撃を当てる方策が薄ければ、速攻の撃破と行かないだろう。
 また、ディスペアの挑発にしても、彼女の性格を踏まえない物であれば、相手にされずに終わる可能性が大きい。
「ディスペアの攻撃方法は鍵による殴打の他、絶望の書と名付けた自身の書物を紐解き、周囲への精神汚染を行う事が出来るわ」
 そんな彼女の欠損は『希望』の様だ。戦闘能力も然る物ながら、『希望を持たない』が故の達観した性格は注意が必要だろう。
「ザルバルクの能力は皆が知る通りよ。特出した戦闘能力は無いけど、数は厄介だと思う。気をつけてね」
 それらを踏まえ、自分達のベストを尽くして欲しいとリーシャはケルベロス達に告げる。
「ディスペア・バッドエンド。その名の通りバッドエンドは誰に訪れるか判らない。それは、彼女にも言えること」
 彼女にとってのバッドエンドを皆で紡いで欲しいと、リーシャはいつもの言葉でケルベロス達を送り出す。
「それじゃ、いってらっしゃい」


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
ドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)

■リプレイ

●死に至る病
 死に至る病とは絶望である。
 地球人の思想家が残した言葉を、ディスペア・バッドエンドは時折、反芻する。
 ならば、その反対――希望を奪われた自分は死者だとでも言うのか。
 自己への問いに未だ答えは無い。不死者デウスエクスである彼女が、死者である筈はないのだから。

「いやはや、退屈な人生と思っていたが、生きてみるものだな。いい出会いが沢山あるというものだ。この先の未来に憂いなしと言う訳だ」
 棒術の刺突がディスペアを強襲する。身を捻って躱すものの、白き一撃は変幻自在にうねり、彼女を追撃。――否、その殴打が捉えたのは、彼女の傍らにいた怪魚の一体であった。驚愕に目を見張る暇も無く、怪魚――ザルバルクは動きを縫い止められてしまう。
「ディスペア、お前も好きだろう?」
 呵々と少女が笑う。棒術の主、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)が浮かべた笑みは、十歳を超えた少女に似つかわしくなく、老成した物であった。
「別に」
 怪魚の群れが舞う中、ディスペアはぼそりと呟く。視線の先では、殴打を受けた怪魚もまた、その周遊に合流していた。傷はあれど、己が役目は果たす。そう主張するように。
「ぶーちゃん、行くよっ!」
 その呼びかけは大弓・言葉(花冠に棘・e00431)からだった。自身のサーヴァント、ボクスドラゴンの息吹と共に放たれたのは、時空凍結の魔力が込められた弾丸だ。
 二者から放たれた衝撃は余波でこそ身を焦がすものの、一歩後退して魔力を集中。双方が生み出す破壊エネルギーを相殺、無へと帰していく。
「……ケルベロスめ」
 ぽつりと零した呪詛は、突如現れた8人と4体への唾棄であった。
 地獄の番犬ケルベロス。デウスエクスに死を刻む牙を持つ猟犬。その忌名を持つ犬共が、今、自身の目の前に立っている。
(「この期に及んで――」)
 だが、それを否だと自身で否定する。
 今だからこそ。死神と合流しようとした現在だからこそ、彼らは自身を襲ってきたのだ。
 即ち、それこそが為されては困る事だと。
「端から潰す、皆合わせ頼むぞっ!」
 踏鞴踏んだ彼女の暇を縫い、駆け抜ける影があった。声の主、ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)は自身の護刀を抱き、一陣の風として怪魚の中を駆け抜ける。呪われた一撃が狙う先は、先程、ペルの殴打によって傷ついたザルバルクの一体だ。
 悲鳴と共に消し飛んだそれを見送り、ルティアーナは嘆息する。流石はクラッシャーの加護だ。殲滅に不足は無い。
「よそ見している暇は無いよ!」
 轟音と共に放たれるベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)の竜砲弾は、舌戦と共に。
 仲間の消失に驚愕を浮かべるディスペアは、まともにその一撃を受けてしまう。その暇を縫うかの様に、サーヴァントのビーストは翼からの風を仲間達へ付与していく。
「お前の悪事もここまでよ! どこまでも追い詰める……地の果て、天までも届け! ワイルドアーム!」
 重ねて放たれるのはガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)の左腕の一刀――真紅の輝きを刻む精神剣の一撃であった。混沌の水によって槍程まで伸びた左腕が繰り出す刺撃はディスペアの脚を切り裂き、血霞を辺りにまき散らした。
(「ここでトドメを刺す」)
 それが同類としての感情移入なのか、ただの同情憐憫の類いなのかは判らなかった。だが、それは誓いだと折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)は独白する。
 繰り出した砲撃はその決意を示すよう、ディスペアを捕縛。零れた吐息は苦痛に彩られていた。
「咬み千切ってやるよ」
「死ね、悉く死ね」
 相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は竜と化した豪腕を、マンデリンは手にした得物を振り下ろし、ドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)はラハブと共に弾丸をザルバルクへと振りまく。
 空を裂く鋭い悲鳴は、ザンバルクが苦痛から逃れる為の術か。
 多対多で始まった戦闘は、地獄の様相を示してきた。

●野の百合、空の鳥
 ディスペア・バッドエンド。
 このデウスエクス――ドリームイーターに覚えた第一印象は『道化』だった。
 艶やかな肢体を包むのは、赤と青に染め上げられたレオタードで、銀色の髪を覆う帽子もまた、同じ色に染め上げられている。
 厚化粧こそないものの、その外観は道化そのもので、そして。
 小悪魔の如き笑みを浮かべる表情は、何処か泣き笑いの憂いを帯びている様でもあった。

「希望が無いなら何で逃げたの?」
 傷ついた仲間を治癒のオーラで癒やしながら、言葉は問う。
 敵は希望を奪われたドリームイーター。ならば、逃げる理由に思い至る事が出来なかった。
「希望が無ければ座して死ぬの? 希望を奪われた存在は死ねと言うの? 残酷なのね。番犬さん」
 夢喰いは嘲笑う。私は希望を奪われた。だが、それは生存理由を失った訳ではない、と。
「死ね。死ぬことによって生きていたと証明して見せろ。真に終わることによって、生きる望みが絶えることで、今まで望みはあったのだと証明してみろ」
 高速回転の吶喊を行うドゥマは呪詛の如く呟く。潰されるザルバルクは応戦とばかりに呪いを放ち、盾と割り込むぶーちゃん、マンデリンの身体を怪我していく。
「嫌よ。死にたくないもの」
 夢喰いは微笑む。それは誰しもが抱く望み。それこそが、本能だと。
「絶望を撒くなら、自身も絶望の海に落ち果てよっ!」
 怪魚たちを蹴散らしながらのルティアーナの叫びに、しかし、ディスペアは嗤う。
「ならば、私も、貴方たちも、ね」
「断言してやる。死神に付いてくのは救いにゃならねえよ」
 そして、竜人のパズルによって召喚された女神は災厄をまき散らす。蹂躙される怪魚たちが零す怒号を、しかし、ディスペアはケラケラと笑う事で、彼らすらいなしていく。
「救いを求めて居るように見えるの?」
「本当はあなたも……未来は変わるかも、と淡い期待を抱いているんじゃないですか?」
 ガートルードの砲撃はディスペアを、死神達を梳っていく。
「ジュエルジグラットは他ならぬ貴方たちの手によって陥落した。ゲートを失ったデウスエクスの末路を知るのは、他ならぬ貴方たちでしょう?」
 そこに夢や希望や救済など有るはず無いと、ディスペアは否定する。共に奏でる歌は絶望の空虚の元、ケルベロス達に重圧を与えていく。
「アタシはフローリア孤児院院長、ベルベット!」
 ベルベットの輝きは、子供から得た物。彼らの笑顔こそが世界最大の希望と主張する彼女に、ディスペアはふうんと笑む。
 それが纏う色は、とても残虐な色であった。
「なら、それを壊して絶望に変えないとね」
 それは純粋な悪意の笑みだった。嘲笑でも皮肉でもなく、ただ、昏い色を瞳に宿し、唇を歪める。
「それが、お前の有様か、ディスペア」
「ま、そうですよね。勝手な希望を語られても何それ? って感じですよね」
 得心と頷くペルの言葉に、茜の同意が重なった。
 絶望の申し子たるディスペアにとって、希望とは誘い出す為の餌だ。だが、その行動原理とは、他者に希望を与えない――他者の希望を奪う事にのみ、収束する。
(「共感出来る、とまでは言いませんが」)
 それを理解してしまった茜の嘆きは如何程か。
 彼女が投擲した鋼糸を受け止めたディスペアは、ふふりと鼻を鳴らす。
 湛える笑みは今までと変わらず、しかし、そこに広がる闇は深い。
 小悪魔の様に。娼婦の様に。獣の様に。殺人鬼の様に。
 そして、絶望は口を開く。
「気が変わったわ。貴方たちにも絶望を上げるわ」

●おそれとおののき
 きぃきぃと怪魚が啼く。ケルベロス達を警戒しながらも発せられるそれは、むしろ、ディスペアに対する抗議の様にも聞こえる。
(「いえ、抗議なのでしょうね」)
 それも当然だ、とガートルードは内心で呟く。
 迎えに来た相手が意見を変え、反転する。そんな事態に接したら、最下級の兵士であっても、文句の一つも言いたくなるだろう。
「煩いわね。少し相手するくらいよ」
 ディスペアが胸元に広げた指は、人差し指、中指、そして薬指の三本が経っていた。それが意味する物は、撤退時間を3分だけ延長する事だろうか。それだけあれば充分だと言うそれは、慢心のエゴ、或いは、それだけの実力があるという示唆にも見えた。
「よし殺す。だいたいバッドエンドって名前が気にくわねぇ」
「絶望を名乗るなら吾等の希望を砕いてみせよ!」
 ならば速攻で沈めると、竜人とルティアーナが動く。
 竜砲弾と虚無魔法による双撃はしかし。
「――舐めんじゃないわよ。猟犬!」
 ディスペアの鍵に絡め取られ、空中へと逸らされてしまう。
 それでも、頬に奔る裂傷は、それら全ての効果が無に帰さなかったと言う証左でもあった。
「消し飛ばしてやろうか」
 そこに連なるのはペルの行使した虚無魔法だった。
 咄嗟に身体を捻り躱す物の、虚無球体の全てを避けきる事は出来ない。帽子と銀髪の一部を巻き込み、消失していく。
「私たちは貴方の同胞を沢山殺して宇宙に追放した仇――と言っても、貴方には響かないよね」
「ええ。全く」
 徹底した個人主義がデウスエクスの標準的な在り方ならば、ディスペアの観念もその通りであった。
 確かにジグラット・ウォーによってドリームイーターの、ジュエルジグラットの地球侵攻は終結となった。そして、その結果、ディスペアは逃亡の憂き目を見ている。
 だが、それだけだ。その事実は如何なる感嘆をもディスペアに与えない。仲間の仇を取れるかもしれない、との希望を抱く事は、彼女にありえないのだから。
 見切ったとばかりに竜砲撃を躱した夢喰いの身体は、しかし、小柄なドワーフによって捉えられてしまう。
「生きているものは全ていずれ死ぬ。死なないお前は生きているとは言えない。故に――死ね」
「お断りよ」
 ドゥマが蹴り込んだ星形のオーラを、ディスペアはそれすら足がかりにして跳躍する。天高く飛び上がった彼女が行った予備動作は、すぅっと大きく吸気を行う事であった。
「――ッ!」
 歌が響く。
 地が唸り、絹を裂くような甲高い悲鳴が木霊する。耳から脳を侵蝕し、全てを破壊していくその歌は、ディスペアが歌う絶望であった。
 だが。
「……多過ぎよ、貴方たち」
 愚痴のような言葉は、4人と3体からなるケルベロス達への前衛陣に対してだった。
 減衰によって威力を削がれた歌に、致命的な損傷を与える力は無かった。付与する筈の麻痺の力も、霧のように霧散している。
「それだけ皆が希望を抱いている――絶望を忌避している証拠だよっ!」
 僅かに傷つく仲間達を光で包みながら、言葉がびしりと指差す。誇らしげなボクスドラゴンの鳴き声を背に、ふゆりと揺れる胸を張る様は、とても得意げであった。

 歌が響く。鍵戟が翻る。重力の牙が、爪が、不死者の身体を切り裂いていく。
 自身らを食いつく怪魚を無視し、ケルベロス達はディスペアを集中砲火する。対するディスペアもまた、死力を尽くし、歌を奏で、銀鍵を振るう。
「――っ?!」
 そこにぶーちゃん、マンデリンの影は無い。盾役としての役目を全うし、既にその身を消失させていた。
「流石、と褒めておくわ」
 夢喰いの鍵が閃く。
 刀の様に振り下ろされたそれは、剥き出しのルティアーナの肩を、鎖骨を、そして胸を切り裂く。――その間際。
「はんっ。見え見えの太刀筋なんだよ」
 鍵が食い込んだのは、ルティアーナを突き飛ばした青年――竜人の肩口だった。紅染の浴衣を更なる真紅で染め、しかし、仮面の奥で毒を吐く。
 だが、それが強がりなのは見て取れた。
 あと一撃。
 追撃の歌が奏でられれば、彼の命が吹き飛ぶ事は明白だった。
 ――それが、奏でられれば。
「死ぬのはお前の方だ」
 冷たい声が響く。ガートルードの蹴りを先導とし、次々とディスペアにグラビティが突き刺さっていく。
 砲撃が、如意棒の殴打が、虚無魔法が、毒の槍が乙女の柔肌を貫き、抉り、侵していく。
「……流石、と褒めておくわ」
 先と同じ台詞を、しかし、口から血を零しながらディスペアは紡ぐ。
 それは彼女なりのけじめだったのか。賛辞にも聞こえるそれに、更なる声が重なる。
「私は好きにした。君らも好きにしろ」
 ベルベットの生み出した火山雷からの熱線は、炎宿る槍と化し、ディスペアを貫く。死を刻む牙に貫かれた彼女に、自身の不死性を止める力は無い。
 傷口が焦げ、赤い炎が巻き上がる。傷口を灼いたそれは業炎と化し、皮膚を、そして夢喰いの身体をも焼き尽くし、飲み込んでいく。
「地獄で会いましょう。ディスペア」
 地獄が何処か知りませんが、まあ、すぐ会えますよ。
 荼毘に付されたように消え失せていく彼女へ向けられた茜の言葉は、確かな葬送として響いていた。

●愛の業
 ドリームイーターを失ったザンバルク達にケルベロスを討つ力は無かった。
 仇と奮闘すれど、しかし、彼らにそれを成せる戦力は無い。ケルベロス達の猛攻の元、一体、また一体と討たれていく。
「まるで掃討戦だね」
 それは言葉の呟きの通りであった。
 ディスペアの撃破に死力を尽くした彼らだったが、それでも、下級死神と呼ばれるザンバルク達に敗北する理由は無い。8人と2体のグラビティを一極集中する事で、確実な撃破を行っている。
「文字通り雑魚だったって訳だな」
 肩を押さえた竜人が鼻で笑う。頷く茜とベルベットの表情が何処か明るくも見えるのは、無事、依頼を完遂出来た喜びであろうか。
「見たか、竜人。我の勇姿を? なんてな、クク……」
 ペルの笑みに竜人は唇を吊り上げ、凄惨な笑みで応答する。
 ディスペアの討伐は完遂した。そこに彼女の力が無ければ、最良の結果は難しかっただろう。それを承知しているが故に、笑顔だけで答えた。
「援護も感謝するぞ」
 付け加えられた台詞は、聞こえなかったとばかりに無視する事にしたのも、彼女に対する肯定だ。
 やがて、ザンバルクの最後の一体をルティアーナの三鈷剣が打ち砕く。
 壁に叩き付けられたそれは、ケルベロス達の勝利を示すよう、光の粒子へと転じ、空へと溶けていく。
「正しき輪廻へ還れ」
 ドゥマの祈りが果たしてそれらに届いただろうか。
 不死者達の居なくなった戦場の中で、ガートルードはそっと、胸をなで下ろす。
 自身らの希望は為された。此処に有ったデウスエクス達は全て、潰えたのだから。
「……デウスエクスに絶望をもたらす者が、希望だから」
 ケルベロスの使命を胸に、8人は帰途へ着くのであった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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