ヒーリングバレンタイン2020~ハスカップの薫り

作者:天宮朱那

「なぁ、チョコレート作りたいヤツか、復興手伝いしに行くってヤツいねぇ?」
 エラく口の悪い女が開口一番、集まっていたケルベロス達にそう問うた。オオムラサキ蝶の羽根を背に有した彼女は見るからにタイタニアと言った風貌。
 紫竹・早織(ブラックウィザード・en0309)と名乗った彼女は照れくさそうに頬を掻きながら告げる。
「アタシは定命化してまだ一年も経ってねぇ、地球の民としてもケルベロスとしても駆け出しのペーペーだ。だから出来ることからこの星について学びてぇし役に立ちたい」
 そこで聞いたのが、解放されたミッション地域の復興支援。デウスエクスの襲来の為に逃げ出した住民が戻って来れるように、チョコレート作りイベントが開催されるので、その誘いと言う訳である。
 今回行くのは北海道苫小牧市。千歳空港の南、太平洋に面したその町は沿岸に漁港と工業地域を有している。
「主に被害を受けたのは漁港だったらしいぜ。漁師さんがまた漁に出られるように施設とか船着場とか直してやるといいかもな」
 工業地域も多少被害は出ているらしい。自動車工場や石油コンビナートなど、北海道の重工業を支える大事な場所なので、そちらも少し手伝うと喜ばれるだろう。
 そしてチョコレート作り、なのだが。
「地元の大きなお菓子屋さんが協力してくれるらしい。漁業会館の建物の中で、好きなチョコレートを作ると良いだろう。人にやるのでも、自分で食うのでもな」
 北海道産の牛乳から作った生クリームを加えたチョコレートはきっと絶品。
 また、地域性を生かしたものとして。隣の厚真町特産のハスカップを使ったジャムやソースをチョコレート菓子に用いれば、甘酸っぱくて一味違うものが出来るはず。
 チョコ菓子を入れる器も。苫小牧名物のホッキ貝――その大きな二枚貝の貝殻を器にした貝殻チョコレートというのも可愛く趣向のあるものになるのではないだろうか。
「一般のお客さん達を手伝いつつさ、一緒に楽しもうぜ」
 そう言って、早織は笑み浮かべ再び誘いの言葉を投げかけるのだった。


■リプレイ

●港でヒール!
 マリオン・フォーレ(野良オラトリオ・e01022)は到着するなり軽く頭を抱えていた。
「同行者がヒールもチョコ作りも全く手伝う気が無い件について」
 白目剥いて見やった先。チロ・リンデンバウム(ゴマすりクソわんこ・e12915)は既にテンションMAXであった。
「試される大地を試しに来たわ!」
「いや、お前……観光する気満々だろ……」
 既にペナントなんて、何処で買ったんだというブツは手にしてるし。存在がネタでしかない人形抱えてるし。
「さて次は、道内最強とか持ち上げられて良い気になっとる輩がおると聞いたでな」
「はぁ」
「木曽駒の狂犬と呼ばれたチロさんがその道内最強とやらに引導を渡したるわ!」
「ちょ、どこに行くつもりっ!?」
 高笑いと共にどこぞに駆け抜けていったチロ。取り残されたマリオン。
「まぁヒールはすぐ終わるでしょうし」
 お菓子作りまで帰ってくれば良いけど、とマリオンはトボトボと港のヒール会場に向けて歩き出した。
「まずは、ヒール!」
「にゃーん!」
 レリエル・ヒューゲット(小さな星・e08713)が気合い入れるとウイングキャットのプチも元気一杯に声上げた。手伝ってくれる気満々である。
「さぁ、スィーツ天国!……の前に」
 幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)は共にやってきたシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)の方を振り向いて微笑んだ。
「お仕事をしっかり行って、ですね」
「うん、そうだね琴ちゃん」
 姉妹のようにも見えるこの二人だが、お互い大切な恋人。にっこり顔見合わせると、周囲の状況を確認する。
 港の桟橋はコンクリートが割れ砕けており、建物もほぼ倒壊寸前。激しい侵略や戦いの痕跡が思い起こされる。
「それじゃ、復興のために――!」
「ええ!」
 まずシルが放つは風精の力を借りた癒やしの風。新しい風がこの地に呼び込まれるよう祈りも籠めて。
 そして鳳琴は癒しの龍を解き放つ。この地の人々へ、折れない心を捧げるように。
 優しい風と龍の嘶きは凍える北風を掻き消して、暖かな想いと共に破壊された建物や施設に染み渡った。
「みんな元になぁ~れ、元気になぁ~れ!」
 エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)もまた、訪れた北海道の地に軽くはしゃぎながらも損壊した建物に向けてヒールを施す。少しメルヘンチックになってもそれはそれ。
「エルスさんも元気ですね」
 瓦礫と化したテトラポッドの欠片を地元の作業員達と集めながらトリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)は少女に声をかけると、ええ、と明朗な返事。
「折角この町に平和が戻ったんですもの。元気のお裾分けしなくちゃ」
 そして壊れた港に欠かせない備品も少し形を変えてだが再生を果たしていく。
「壊れたものがまた役に立つなら良い事です」
 トリスタンはそう笑って頷いた。
 次々とヒールによって町が元の形を取り戻して行くのを紫竹・早織(ブラックウィザード・en0309)は物珍しそうな顔で見つめていると、肩を軽く叩く誰かに気がついて振り返った。
「早織さん、復興支援一緒に頑張ってみましょう!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が笑顔で声をかけて来たのにドギマギしつつ、早織はこくりと頷いた。
「来たは良いけど、どこから何をしたモノか、実はわかんなくてさ……」
「大丈夫。なにか出来るなら役に立ちたい、という想いは素敵です」
 私も手伝います♪ と地球人一年生の早織をミリムは促した。
 一緒にヒールをかければ色々な建物や施設が復元していく。
「こう、どうしても幻想化する部分はバレンタインみたいなラッピング模様にしたりっ」
「はは、季節にピッタリじゃん」
 また此処で生活が出来ますようにと願いを込めて。二人はヒールを続けたのだった。

●お菓子作り!
「それじゃチョコレート作るよー」
 シルが呼び掛ければ調理台が設置された会場に次々と人がやってくる。さっきまでは人が入るには危険だった建物だけに、綺麗になって皆喜んでいるのが解った。
 レリエルが子供達に手洗いうがいを促せば、はーいと元気の良い返事が聞こえる。
「それじゃ、琴ちゃん、一緒に作ろっ!」
「はい、一緒に作りましょう♪」
 二人仲良く調理台に向かう。地元のお菓子屋さんでチョコもハスカップジャムも並べて準備はされており。
「ハスカップ、折角だから使いたいよね」
「そうですね。甘酸っぱいのもきっと良いアクセントですよね」
 シルは作りたいと思うイメージを菓子職人さんに伝えてみる。
 食べたら中からじわ~ってジャムが出てくるチョコ。
「どんな風にすれば良いんだろ?」
 すると親切に教えて貰い、まずは鳳琴からやってみる。
 ハートのシリコン型に、チョコ→ジャム→チョコの順で流し込む。混ざらないように丁寧に。同じくシルもゆっくり丁寧に材料を流し入れ、緊張に汗を拭う。

「ハスカップというもの今回初めて知りました」
 ミリムは調理台で準備をしながら、菓子職人さんにそう告げる。
 北海道でもこの勇払原野にのみ植生するこの果実。全国的にはそんなに知られてはいないだろうと答えが返ってきた。
「葡萄みたいな味でしょうか?」
 興味津々で味見をすれば、ブルーベリーを濃くしたような酸味と甘み。
 ハニーベリーという西洋名に相応しい味はチョコに合うと確信し。
 生クリームたっぷり加えたミルクチョコレートでジャムを包み込むように型に入れる。

「ハスカップジャム入りのお菓子を……何がいいかな」
 また一方、レリエルは色々模索中。まずはホットケーキに塗って一口食べて。こんな感じの味になるのかー、とそこからアイデアを巡らせる。
「よし!」
 そうして彼女が作り始めたのは蒸しパンや揚げドーナツ。ジャム入りチョコレートにも挑戦する。時々プチがちょっかいかけてくるのはご愛敬。
「色々作って、見て楽しい食べて美味しい……っていうのが一番だよね?」
「にゃーん♪」
 パンの欠片を頂戴しながらプチはレリエルに相槌を打つのだった。

「北海道らしいものが作りたいですね」
 そう言ったトリスタンは、大きなボウルに生クリームを豪快にたっぷりと泡立てる。ふわふわもこもこの白い雪が膨れあがるのをエルスは目を盛大に煌めかせながら見守っていた。
「おじちゃん、すごい……!」
 手で泡立てるには相当の技術と腕力が必要だが、彼はそれを駆使して大量の生クリームを作り上げると砂糖の加減はお任せするとエルスに託した。
「ん、こんなものかな?」
 砂糖を入れて良く混ぜて、指で掬ってぺろっと一口。その美味しさに目を細めたエルス。
「おじちゃんも味見しよう?」
 差し出した一匙。口に含めば濃厚なミルク感とほんのりした甘み。
「ええ、美味しいです」
「これで、おお~きいのを作りましょう!」
 二人が作るのはケーキ。チョコとハスカップジャムを用いたザッハトルテ。
「大きなものを作るのは良いですが、細かい細工などは私もあまり得意では――」
「大丈夫、難しい所はおじちゃんと一緒に挑戦するから!」
 心配げなトリスタンに対し、エルスは前向きな言葉放ち。
 一緒に頑張れば、きっと素晴らしい物が出来上がる。
 そして二人で作り上げた大きなケーキ。地元の子供達も歓声を上げる。
 切り分け、紅茶も煎れて……いただきます。
「ん~~~!!」
 美味しい生クリームも添えて一口頬ばったエルスは、その美味しさに思わず身を震わせる。チョコの甘みとハスカップの酸味が口の中で溶け合って溜まらない。
「やっぱり一緒に作ったものは美味しいですね」
「美味しく出来たのなら、幸いです」
 嬉しそうな彼女の言葉に、はにかむ笑み浮かべたトリスタンであった。

「お菓子もこれだけ良い材料が揃っていれば、失敗しませんけどね」
 戻ってこない相方の心配するのも放棄して、マリオンはお菓子作りに専念する。
 ハスカップはオーブンで軽く焼けば即席ドライフルーツの出来上がり。それを細かく砕いて、貝の皿に流し入れたホワイトチョコの上に散らしてみた。
「うん、雪原に咲く菫の様に可憐ですね!」
 可愛く出来上がった。あとは冷やせば完成。そう思った矢先。
「アイスうめぇえええええ!」
 チロが大騒ぎしながら戻って来た。手には食べかけの市販アイス。
「こ、このなまらうめーアイスがこんな安いって……」
 何故か北海道弁を駆使しつつ、チロは歓喜に震え上がっている。
「試される大地、試され過ぎやろ…!」
「それは良かった。こっちは……親子丼の匂いのせいで、雰囲気台無しだけどな……」
「そうそうこれな!」
 何でも近くで工事してたおっちゃんにうめーぞと勧められて買ってきたとチロは言う。
「やっべ、これだけでも北海道来た価値あるわー」
「をい」
「あ、付近に日本一食べ辛いお菓子があるって聞いたから、それも試さんとな!」
 チロの言葉にマリオンは再び頭を抱えた。
(「こいつ、イベントの趣旨を全く理解していねぇ……!」)
「あ、ヒール手伝ったら漁師さんがこれを」
「ヒールはしてきたんかい!」
 鮭トバを見せるチロにツッコみ入れるしか無いマリオンであった。

 冷蔵庫で冷やす時間はあっと言う間。固まったチョコを型から丁寧に取りだすのも緊張の一瞬である。
 ミリムはその出来映えに目を輝かせ、貝の器に綺麗に並べて飾りつけ、集まった皆に振る舞って回る。
「皆さん一緒に食べてみましょう♪」
 鳳琴は箱に入れてリボンをかけ、シルは北寄貝の貝殻にチョコをのせれば。
「うわぁ」
「可愛いです♪」
 SNS映えする素敵なチョコの完成!
「じゃあ、琴ちゃんどうぞ!」
 シルは自分の作ったチョコを相手の口にそっと入れる。口に広がる甘酸っぱい味に鳳琴は幸せを感じ、逆に自分が作ったチョコをシルが食べる瞬間は胸の高鳴りが大きくなる。
 この幸せがずっと続くように、と二人は口にせずとも願うのだった。

作者:天宮朱那 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月13日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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