ヒーリングバレンタイン2020~復興のために

作者:寅杜柳

●解放された地を
「去年も多くのミッション地域がデウスエクスの侵略から解放されているね。これも皆ケルベロス達の活躍の成果だよ」
 そんな事を集まったケルベロス達に話しつつ、今年もこの季節が来たねぇ、と雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)はどこか嬉しそうな様子だ。
「解放された地域からデウスエクスは追い払われたけれども、住民もまだいない。引っ越しを考えてる人とか周辺の住民が見学に来たりしてるけれども侵攻の爪痕はやっぱり深い。だから今年もケルベロス達で復興を兼ねてバレンタインのイベントを行わないかい?」
「バレンタインのイベント?」
 首を傾げるドラゴニアンの少女はソニア・コーンフィールド(西へ東へ・en0301)、何をするのかなとはてなを浮かべる彼女に知香は補足する。
「要するにお菓子作りだよ。今回アタシが案内するのは愛知県名古屋市、大須になる。東海地方最大の電気街だったこの地も、ビルシャナの侵攻ですっかり住人がいなくなってるんだ」
 名古屋市大須、電気街として知られている他にも多数の寺社があり、観光地としても有名であったこの地も復興途上という雰囲気でどこか寂しさが漂っているのだと、知香は説明する。
「復興のためにまずはヒールで建物を修復してほしい。あまり大きな破壊はないけど、見た目に分からないダメージが入ってる箇所もあるかもしれないからね。その次は調理器具や設備が準備されたイベントホールでのお菓子作りになる。作れるのはチョコレートが基本だけど、設備も整ってるから色々と挑戦することも出来るだろう。今回はイベントに来た人達に手渡しで配る形のイベントで考えてるからとにかく大量に作ってほしい。大体の設備は揃ってるし、材料もたくさんあるから多少なら失敗とか考えず作ってもいいんじゃないかな」
「それで作ったお菓子はどんな感じで渡すの?」
 ソニアの言葉にまあまあ落ち着きなと知香は地図を広げる。
「そしてチョコを作った翌日、商店街で人々に配る。ケルベロス達と言えばこの地を奪還してくれた英雄みたいなものだから、その武勇伝を聞きたがる人も多いだろう。訪れた人達と色々話したり交流したりして、とにかくイベントを盛り上げるのが目標だ」
 まあとにかく、ケルベロス達が楽しめれば自然と目標は達成できるだろう、と知香は締め括る。
「事件関係なしに楽しめる機会、どうか楽しんできてほしい」


■リプレイ

●街を修復しよう
「また今年もこの時期がやってきました!」
 元気なミリム・ウィアテスト(e07815)は準備万全、デウスエクスから解放されたけれどもまだまだ人々の戻っていない街並みは寂しい。大きく崩れた所は少ないけれど、所々に見える残骸は痛々しく見える。
「ささ、ソニアさんも一緒にヒールと準備頑張っちゃいましょうっ」
「はーい! ミリムちゃんガンバろ!」
 ハイタッチするように手を上げて、二人は電気街の方へと歩みを進める。
「名古屋の大須と言ったら電気街と呼ばれていますけれども、近頃ではオタクの街とも呼ばれてるそうで……」
 壊れたビルの外壁にヒールをかけつつ、看板の一つに目を止めたミリムがそんな事を言う。
「へーそうなんだ! だからこんなに色んなのがあるんだねー」
 キョロキョロと辺りを見まわすソニア、言われてみれば商店街とはまた違った独特の雰囲気があるような気もする。
「あ、ここ直しとくねー。そっちの大きいのはミリムちゃんお願い!」
 壊れた壁を見つけ、ソニアは金の鱗と結晶に光を受けながらガジェットからスプレーのように金属片を吹きかけて修復する。
 雑談も挟むけれども仕事の方は丁寧、細やかな破損も見逃さずに現地のゴーストと癒すミリムの手際は人の心も癒すようにとの願いが籠っている。
 彼女達の通った後には修復された町並みが広がっていた。

 商店街の前には、リリエッタ・スノウ(e63102)とルーシィド・マインドギア(e63107)。
 やや荒れた景色の大須商店街、戦いの傷跡はそれ程でもないが、まともに人が住んでいなかった時間が長いからか所々に綻びがある。
 元々の賑やかだったこの場所を取り戻すために、二人がまず取り掛かったのは招き猫。大須商店街といえば巨大招き猫は当然欠かせない。台座の電光掲示板も割れて寂しい事になっているけれどもそこは腕の見せ所。塗装の剥げで怖くなった姿も、二人のヒールにかかれば在りし日の姿を取り戻す。
「……若干、大きくなっちゃったような?」
 首をかしげるルーシィド、元々の形が少し崩れていたから正確な大きさは分からないけれども心なしか大きくなっているようにも思える。可愛らしさも三割増しになっているのは気のせいだろうか。
 大丈夫、問題ないと納得しながら二人は商店街の中へと歩みを進めていく。

 街を修復して歩くソニアとミリムは、ばったりと二人の竜派ドラゴニアンに遭遇する。
「たっちゃんと一緒に来ました!」
 元気に挨拶した黒いドレスの少女は深川・香澄(e47789)、猫のぬいぐるみを抱える彼女の年の頃はソニアと同じくらい。
 もう一人は大学生くらいの少々厳つい青年、深川・辰平(e43274)。彼は妹の付き添いでやってきたらしい。
「二人で来たんだね! 皆でやればヒールもばっちりだよ!」
 親近感を抱きつつ、ソニアがはしゃいで返す。
 香澄がぬいぐるみの『ビルベリー』をぎゅっとすれば、癒しの風が吹き抜け、大小問わず街に与えられたダメージが修復されていく。さらに辰平が電流を流す要領でヒールをかければ、街の傷んだ木々もみるみる再生していく。その様子に香澄とソニア、ミリムはぱちぱちと拍手を送る。
「それじゃ軽く踊ってみましょう♪」
 ゴーストと共に比較的大きな崩落をヒールするミリムの言葉にはーい、とステップを踏むソニア。オーラの花弁が空からはらはらと雪のように舞い降り建物を修復していく。
 そして、少々元とは違う装いだけれども電気街の風景はケルベロス達の手により人々の住める状態へと修復されていった。

 一方、ぶらりと商店街を歩くルーシィドとリリエッタ、隠れた名所を探り当てる感覚に従い歩いていけば、奥まった場所に隠れた名店も見逃さない。
 途中、オークかと見紛う影にびっくりしたけれどもそれはとんかつ屋のマスコットの像。壊れた様相は恐ろしいけれどもヒールで修復すれば元通りの愛嬌のある形へと様変わり。
 二人が修復を進める途中、支配から解放されたという話に状況確認に来た元々の住民、さらに新たに転居してこようとしている人たちと遭遇した。
 話を聞くに、彼らはどうやらイベントについては知らないらしい。いい機会だと二人はイベントが開かれる事を伝えてチラシを手渡しする。
「よろしければ来てください」
 たまたま訪れたこの場所での予想外の出会いに驚いていた人々だが、その言葉には絶対に来るとの事。
 まだ修復途中なので危なく無いようにだけして下さいと伝えた二人は、再び商店街の修復へと取り掛かった。

「こうしてリボンで飾り付けしてみたらそれっぽいですよね」
 そして、特設会場予定地へとやって来たミリムはリボンを取り出しささっと飾っていく。
「ここももうちょっとライトとか飾れればいい感じかも?」
 少し離れた所から全体図を見つつ、ソニアも感想を述べる。
 特設会場の飾り付けは別にやってくれるけれども折角ならそれっぽい形に整えておきたい。そう考え、できる範囲でああでもないこうでもないと思案しながら二人は飾り付けを進めていった。

●お菓子作りは甘く
 そしてイベントを前に、ケルベロスと協力者の人々はイベントの為の菓子作りに集まった。
 髪に木瓜を咲かせたオラトリオの少女、華輪・灯(e04881)に銀砂の竜の青年、カルナ・ロッシュ(e05112)は二人でホワイトトリュフに挑戦中。
 灯が説明してカルナが教わる形になっているが、手際は中々で甘い洋酒の香りも混じったチョコの香りが漂っている。
 白猫のウェアライダーの篁・悠(e00141)とハインツ・エクハルト(e12606)も調理を始めていた。
 二人が扱う食材はチョコレート、その量はかなりのもので、これならイベントでも不足はなさそうだ。
「とりあえずバラの一口チョコは確定で……」
 彼女が事前に準備していた型は抜かりなくバラの形、これならば余程の事がない限りは綺麗に、そして大量にバラの形のチョコを仕上げられるだろう。
「それから……あちらは食用スプレーを使って……」
 さり気ない桃色の薔薇の髪飾りと白猫耳を揺らしつつ、ぶつぶつと呟きながらチョコレートを溶かし、或いは削っていく悠を横目に、ハインツも調理を進めていく。
 そしてミリムもお菓子作りに精を出していた。
 先日ソニアと二人で修復の報告に行ったら、ねだる前にお菓子作りで作ったらね、と返された。
 どんなお菓子が喜ばれるかな、そんな事を考えながら、ミリムとソニアは調理器具を手に材料と格闘しつつクッキー作りに取り組むのであった。
 そして、先日の修復に訪れていた竜の兄妹も菓子作りに取り掛かる。
「さて、チョコ作りなわけだが」
 辰平の前には材料が山積み、そしてボウルは会場にある中で一番の大きさで大量のお菓子を作る準備は万全。
「それじゃたっちゃん混ぜるのよろしく!」
 妹のお願いにおう、とぶっきらぼうにかえしつつ竜の青年は計った材料をボウルに放り込むとじゃんじゃか混ぜ合わせていく。
 とにかく大量の菓子が必要という事なら猟を扱う必要がある。ただでさえ菓子作りは重労働、だけれども力仕事は辰平にとってはお手の物。
「えーと待って待ってたっちゃん!」
 お菓子作りには分量が大切なのだ。どの材料をどのタイミングでどれだけどのように加えるか、せっかく作るなら香澄はみんなに喜んでもらえるような美味しいお菓子を作りたいと思う。そしてそれは辰平も同じで、妹の言葉に合わせて調理の速度を調節する。
 混ぜられた生地の様子を確認しつつ、香澄が砕いて溶かしたバターやチョコを加えていく。
 二人の調理は進み、丁度いい具合に仕上がった生地を手分けして小さなカップに流し込む。それらオーブンに並べ加熱を始め、辰平は一息ついて額の汗を拭い香澄を見る。
 受験も乗り越え春からは家を出る、その前に今日という日くらいは一緒に相手してやりたいという兄心。少々周りから怖がられる厳つさはあるけれども、辰平は年相応の青年なのだ。
 リリエッタとルーシィドの二人も菓子の材料と格闘中。リリエッタは料理があまり得意ではないけれど、ルーシィドが手伝ってくれているから中々のチョコが仕上がりそうだ。
 試食してその味に満足すると、リリエッタはこっそりと幾つかを別に分けてラッピングする。それは人々に渡す為のものではなく、彼女が贈りたい人への秘密の一包み。
(「……これは当日のお楽しみ」)
 普段の無表情でお菓子作りを進めるリリエッタの裡ににそんな想いが隠れているなんて気づかずに、ルーシィドは次のチョコ作りを進めていった。

 そして調理は進んでいって。
「トリュフ、沢山できましたね!」
 えへんと灯の表情は自慢げだ。彼女とカルナの前に並ぶホワイトチョコのトリュフは少々不格好だが、ドライフルーツやチョコスプレー、その他色々な工夫が施されている。
 これなら訪れる人々も満足してくれるだろう。そんな事を思いながら、カルナは灯と二人でラッピングへと取り掛かる。
「むむっ、ハインツさんそれは……」
 ハインツが作ったのは猫の形や肉球を象った猫チョコ。
「結構力作なんだけど、どうだろう?」
「なかなかに手の込んだ。これはよいもの」
 うんうんと悠が頷く。実際形は上手くできていて、余程厳しい審査員でもなければ文句をつけるようなこともないだろう。
「しかし……悠のは芸術的なんだぜ……」
 自分の作品と見比べつつ感嘆の声を漏らすハインツ。型があるとはいえ薔薇の形は精密、特に花弁の薄い部分の造形もどうやって作ったのかと思う程。
「バラは型を作った人が有能なのだよ。うん」
 チョコを削り形を作る。かどは一応丸く仕上げる等の細工は加えているが、基本的な部分は悠の言う通り型の力も大きい。ある程度の妥協は良しとするつもりだったが、妥協無しの十分過ぎる出来上がりに満足だ。
「それでそっちは……」
 なぜだか悠がハインツから見えない位置で作っていたチョコ、其方にハインツが興味を向けると、
「お待ちかね、ゴールデンハインツさんだ!」
「えっオレ!? でかくない!?」
 ゴールデンハインツ。悠が完成させたそれは、デフォルメされて等身を下げたハインツ人形。二頭身と三頭身の境で安定性は抜群。
 流石に人間程の大きさはないが、それでも人の頭位の大きさはある。イベント会場で飾っていても十分目立つだろう。
 ちなみにハインツ型チョコレートを作るために削ったチョコの欠片は再びテンパリングして一口チョコへと姿を再度変えている。ロスは無し。
「びっくりしたぜ、す、すごいな……?」
 薔薇のチョコを作りながらこれ程の物を仕上げたことにびっくりするハインツ。自分をモチーフにした造形にはちょっと引いてしまったけれども、何より照れくささの方が強かったりする。
「ここの色はこの食用スプレーでこう、目は金茶っぽいアラザンでそれっぽく仕上げてみた」
 金の瞳を輝かせ悠が説明する。意外に繊細な工夫も凝らされていて、ハインツは説明を聞きながらチョコの人形をじっくりと眺めた。
 ちなみに。
 そんな悠に気取られぬよう、ハインツもこっそりと猫チョコの詰め合わせを作っていた。贈る相手にちなんだホワイトチョコのそれらは、もしかするとお返しにはちょっぴり早いかもしれない。
(「喜んでくれるかな?」)
 熱心に説明する白猫の言葉を聞きながら、ハインツはそんな事をちらりと考えた。

 そして竜の兄妹が生地を焼き上げていたオーブンから完成を示す音を鳴らが響く。出来上がり、いい焼き具合に仕上がったそれはチョコレートマフィン。
 それぞれ一つ手に取り、ぱくっと試食してみれば、文句なしのほろ苦い甘みが口に広がって口元も思わず緩んでしまう。
「おっ、こりゃあ中々いい出来じゃねぇか?」
 混ぜた腕がよかったのか、味わいは上等、焼き加減も通しすぎにならない絶妙さに仕上がっていて、イベントに備え準備するには最適の状態だろう。
「うん、美味しいね! ……あ、ソニアちゃん!」
 偶然通りかかった金色の竜の少女を見て、香澄がぶんぶん手を振り呼びかける。
「作ったんだけど、よかったら食べてみてほしいな」
「香澄ちゃんありがとー! これはチョコレートマフィン?」
 香澄に勧められるままマフィンを一つ頂いたソニアの表情は弾けるようないい笑顔。
「うん、最高だね!」
「もしよければラッピング手伝ってくれないかな?」
 同じ年頃の竜派少女にあまり出会ったことのない香澄、お菓子作りを縁に出会った機会だからもう少し一緒にとの想いもあった彼女誘いにソニアはいいよ! とさむずあっぷ。
 そして二人はラッピングを一個一個丁寧に包んでいく。まだまだ先は長いけれどもラッピングを含んでの完成品。
 家族のみんなの為のマフィンもいくつか分けて、けれど添えるメッセージはまだ内緒。
 ラッピングは二人に任せて辰平は次の生地をオーブンに送り込む準備を始める。
 何せ大量の菓子が必要なのだ。焼成を待つ生地はまだまだ沢山あるのだから。
 竜の兄妹は共に過ごせる残りの日々の一日を、そんな風に楽しく過ごしたのであった。

●人々にお届け!
 そしてイベント当日。
 商店街近くに設置された特設会場は周辺地域からやってきた人々でごった返していた。ようやく奪還されたこの地域、
 リリエッタとルーシィドがチョコを配る人々の中には先日のヒールの際に出会った人々の顔もある。感激して受け取ってくれる人々の顔には笑顔。思い出を語りつつ、二人はイベントを盛り上げていく。
 そして悠と笑顔を絶やさぬハインツも、マスコット代わりのゴールデンなチョコで目立っているからか多く集まっている。
 その中で、特に賑わっていたのは灯とカルナの場だ。
 作り方を教わりながら二人で作ったトリュフは形だけで言うなら不揃いかもしれないが、カルナの胸には安心感があった。
 その味は試食して合格点、さらにデコレーションもバラエティ豊かで、一つ一つが彼と灯の冒険の想い出を呼び起こす。
「このドライフルーツ入りのは夏のトロピカルパフェ攻略戦ですね! パフェを切り崩してる途中に崩落しちゃいましたが、果物がきらきらしてて――」
 ドリームイーターの事件、真夏の想い出を情感たっぷりに語る灯、
「苺ミルク風味のそれは、お爺さんを襲っていた攻性植物の事件。無事に助け出せて本当に良かった」
 カルナも別のトリュフを手に取りつつ、あの時の苺の味も本当に甘く美味しかったな、と思い返し語る。
「このコーヒーパウダーを振ったトリュフはどんな戦いが……?」
「それは珈琲店オーナーの病魔の事件ですね。病魔根絶後に訪れた時の珈琲とオーナーの笑顔は格別でした」
「ケーキも絶品だった、あのお店ですね!」
 コーヒー風味のトリュフを興味深げに見つめる青年に二人が説明する。
 また行きたいです、と笑顔の灯にそうですね、とカルナが答える。
 その他にもホワイトトリュフは沢山、共に語られる思い出は人々にとっても興味深いもの。次々に訪れる人々に想い出話とチョコを語り渡していくカルナと灯。
 ジャスミンの風味、抹茶味。歌劇を見た興奮と、外での茶の湯の緊張した空気を思い返しながら灯が語る。
 チョコスプレーをまぶしたそれには、あの日の夜景の記憶が思い出される。
 戦いの記憶とも関連している想い出の数々だけれど、甦る想い出はどれも楽しい事ばかり。
 そしてカルナはといえば、思い出が沢山ある事を嬉しく思う。
 ある時点より前の、かつての記憶は彼にはない。だからかいつも心の何処かに居座っていた喪失感、けれどもその空虚を埋めるには十分な幸せを、二人は過ごしてきたのだ。
 パフェも夜景も歌劇も野点も、一緒に駆け抜けた日々はどれも大事で、
「――いつも、ありがとうございます」
 そして不意に零れた言葉。それはごく自然体のさりげないお礼。一瞬固まり、意味が頭の中で組み上がればつい頬が赤くなりそうで、
「そ、そうです! カルナさんの無敵の二つ名も」
「灯さんそれは――」
 ケルベロスに憧れる人々にぶらっくなひすとりーになりかねない事を口にしようとする灯を慌てて妨害しようとしたものの、
「なんのっ!」
「もごっ!?」
 灯が先回り。華麗に回避し口にチョコを押し付けて口封じ。口に押し込まれた甘味を前には黙るしかない竜の青年。
 甘味を喉の方へと落とし込み、遮られたけれどもお返しは忘れない。
「お返しに灯さんもどうぞ!」
 さっと渡されたのは灯へのお礼のチョコレイト。
 それは攻性植物の時の苺を思い出させる苺ミルク。その味も想い出の一つ、今日という日々のようにきっと忘れないだろう。

 そしてイベントも終わりを迎える。
「はい、おつかれさま」
 リリエッタに声をかけ、ルーシィドがチョコを手渡す。
 それはおつかれさまの労いを込めたチョコ、そのために準備していたものだ。リリエッタの方もあわあわとしかけるも、すぐに無表情に戻り有難うと受け取る。
(「……少し早いけれども」)
 鞄の中にはルーシィドに渡すために準備されたチョコが入っている。
 当日に渡すか、今このタイミングで渡すか。チョコ作りの時には当日にと決めていたけれども、と表情に出さないように気を付け思案する。
 その後については二人だけの秘密。

 晴れやかな未来を願い、そんな風に甘い一日をケルベロスと人々は過ごしたのであった。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月14日
難度:易しい
参加:9人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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