ヒーリングバレンタイン2020~ショコラの勲章

作者:東間

●ヒーリングバレンタイン2020
「ジグラット・ウォーお疲れ様。それから、お帰り」
 笑顔でケルベロスたちを労ったラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)が、25だ、と嬉しそうに言う。
「去年のバレンタイン以降、君たちケルベロスがデウスエクスから取り戻した地域の数さ」
 解放された25の地域には基本的に住人がおらず、日々を生きる人々という当たり前の日常風景が絶えてしまっている。
 しかしそこで毎年恒例のイベント――奪還されたミッション地域での復興も兼ねたバレンタインイベントの開催が決まった。解放された25のミッション地域で様々な催しが行われれば、デウスエクスによる支配を受けていた各地域のイメージは、明るいものへと変わっていくだろう。
「地域のイメージアップと、大切な贈り物の準備……ヒーリングバレンタインもまた、大切な戦いの一つですね」
 静かな表情で頷いた壱条・継吾(土蔵篭り・en0279)に、とても大切だわと花房・光(戦花・en0150)も頷きながら拳を握り、ラシードを見る。
「ファルカさん、今回のイベント会場は?」
「よくぞ聞いてくれた。俺が案内するのは群馬県最北端の町……豊かな水と自然、温泉に美味い物と、魅力盛り沢山のみなかみ町さ」

●ショコラの勲章
 まずはみなかみ町のここからここまでをヒールしてほしいんだ、と指し示された地図は、観光ガイドブックから広げられていた。
 次に示されたのは郷土料理作りといった様々な体験イベントに使われていた、とある施設だ。広さ設備共に十分なそこがイベント会場となる。見学に来た一般人も参加出来るよう、門戸を開いたそこで作られるのが――。
「世界中探してもそこにしかない、チョコレートのメダルさ」
 にこりと笑ったラシード曰く作り方は簡単。型に湯煎したチョコレートを流す。後は作り手のお好きなままに! というやつだ。
 型はオーソドックスな丸形のみだけれど、底の部分はバリエーションに富んでいる。
 底がつるりとした最もシンプルなタイプは、チョコペンや胡桃、ドライフルーツ等、色々な素材を使った飾り付けが捗るだろう。
 凹凸のついているものなら、女神の横顔や旭日、幾何学模様とメダルらしさ溢れるデザインから、バレンタインならコレというデザインまで揃えられているようだ。
「薔薇、ハート、キスマーク……それと世界各国の『愛』を意味する言葉とかね」
 型の大きさも普通サイズから驚きのビッグサイズまである為、インパクト重視で大きなチョコレートのメダルを作る事だって出来る。
 成る程、と呟いた継吾の目が、ほんの少しだけキラリとした。
「デザインタイプの型でも、手を加えればいくらでもパワーアップさせられそうです。型紙を使えば、ビターチョコに粉砂糖や抹茶パウダーで、色んなデコレーションが作れるのでは……」
「壱条君、やる気満々ね」
「はい。折角のバレンタインなので」
「ふふ、そうね。食べるのが勿体なくなるぐらいパワーアップさせるのも楽しそうだわ」
 考え始めた光に、ラシードが体に無害な安心安全のカラースプレーも豊富にあるよと笑って言う。
 カラースプレーで普通のチョコレートを金メダルに変身させたり、金メダルにした上で色々飾り付けたり――驚きのレインボーメダルや、スペースチョコレートメダルだって作れる筈だ。
 出来上がった食べられるメダルの為、専用の箱も用意されている。アクセサリーを仕舞うような高級感のあるものから、年輪の描く模様と色合いがひと味添えてくれそうな木箱、ハート形をしたピンク色のスチール缶等々。
「君たちはどんなメダルを作るのかな」
 一個人もといケルベロスのファンとして楽しみにしてる、と笑ってから、いい一日になるといいねと男が笑う。

 甘いメダル。ビターなメダル。それとも、ほんのりスパイシー?
 チョコレートメダルがどんな姿を得て生まれるかは――あなた次第。


■リプレイ

 癒しの紋章、満月――ミリムの放つヒールグラビティが町並みを修復していく度、みなかみ町の風景に幻想が同居していく。少々バレンタインらしい幻想化を含んだのは季節の影響か、それとも。
 今度は道路ですねと駆けたミリムは、大地から抽出した魔力で修復して空を見る。
 澄みきった青い空が心地良い。
「地元の人たちが無事戻って元の生活に戻れますよーにっと! それと……」
 今日のイベントで作られる、メダルチョコ。
 頑張ったご褒美を控えめに望んだミリムに、銀貨のように煌めく一枚が贈られたとか。

 眸と広喜が作る世に一つだけのメダルは、互いに贈る『一緒にいてくれてありがとう賞』。相手を想い、作るそのデザインは当然相手をイメージしたものだ。
 眸は幾何学模様の凹凸が美しいチョコに歯車形の型紙を載せ、金と銀のカラースプレーを吹きかけて――広喜も幾何学模様のチョコをカラースプレーで金メダルに変え、そこに楕円と菱形の型紙を載せた。
(「楕円が眸のコア、こっちは俺のコアだぜ」)
 不器用は自覚済み。だからこそ頑張って碧色のコアと蒼いコアを描いて――あっ、ちょい混ざっちまった。ハッとするも、これも綺麗だよなっと楽しそうに笑う。
 楽しそうな雰囲気を悟る眸だが、現物は贈る時までお楽しみ。眸は最後の仕上げにと、金と銀の歯車、その真ん中にチョコペンで二つのハートを描いた。綺麗に描けたと思う。が。
「どウだろう、伝わル、かな?」
「伝わった、すっげえ伝わったぜっ」
 作成中のメダルを見た広喜の喜ぶ様に眸も笑みが溢れた。嬉しさのあまり、広喜も眸を真似て中央にハートを描く。そして『一緒にいてくれてありがとう賞』は無事完成して。
「私達のコアの色が混じっていルのもとても素敵ダ。……食べルの勿体なくなっテしまウな」
「ちゃんと食べてくれよ眸。……へへっ、ありがとなっ」
 二人だけの表彰式。メダルに籠めた沢山の気持ちが、笑顔と一緒に交わされる。

 これなら、人々の生活はすぐ戻る。
 癒えた町並みに予感を抱えた光流とウォーレンは、どんなチョコメダルにするかというやり取りをしながら会場を訪れた。二人の作業は滞りなく。けれど。
(「結婚した、けど、まだ実感がないというか。あまり変わってないよね、なんて」)
(「何か言いたそうやな」)
 色々と浮かんだ不満要素候補に光流がぐるぐる考える間に、ウォーレンは笑ってハート型の金メダル作り。一塗り毎に“いつもここぞという時に支えてくれてありがとう”の想いと愛の言葉を籠め――その裏に、我儘を隠す。
「大きいの作るんやな」
「えー? だって僕が感じてる光流さんの愛はこのサイズよりもっと大きいよ?」
 彼だからこその言葉に光流は目を丸くし、メダルを一気に完成させていた。彩るのは誰かさんに似た女神の横顔。放つ虹色はウォーレンにとって意外な色だったけれど。
「綺麗だね」
「虹の色の数ほど色んなこと頑張ってる、頑張り屋さんな君を称えるメダルや。せやけど……我慢するのは頑張らんといて欲しい。いっぱい我慢してるやろ」
 見抜いていた伴侶にウォーレンはうん、と微笑みながら頷いた。その手を取った光流はそこに虹色メダルを置いて、目を見つめる。
「ついでみたいでアレやけど一緒に暮らさへん?」
 瞬きの後。うん、と声がひとつ、零れ落ちた。

 バレンタインと言われても、ユスティーナには渡す相手の“あて”など無く。
(「折角だからメリルに渡しちゃうのもいいかしらね、なんて」)
「ねえねえユナ、チョコのメダルだって。面白そうじゃない?」
「……? あ、コインチョコって事ね」
 面白いと思うわ、やってみましょうか――なんて会話を挟んだから、今この瞬間、ユスティーナはみなかみ町のイベント会場で、ユスティーナと共にメダル型と見つめ合っていた。
 メリルディは、ユスティーナが選んでくれた底部分の凹凸が少ない滑らかな型にチョコを満たし、それが固まる間に箱を見繕ってと手際がいい。チョコに竹串で下絵を描き、それに沿ってナイフで削ってと出来上がっていくのは、チョコレートのインタリオだ。
「……指先が魔法みたいに動くのね」
「ありがとう。ユナを描いたから、出来上がったらあげるよ」
「え、それ、私? ……面映ゆいわね……それなら私もメリルをモチーフに……」
 それを聞いたメリルディが嬉しそうに瞳を輝かす。けれど手にした型を見つめるユスティーナは、指先のレベルが足りなくて逆に呪いの品になりそう、と不安を零した。
「猫を形どるくらいが精一杯かも……」
 それでも心を籠めていけば――呪いはきっと、祝いに変わる。

 “世界で一つだけ”という特別感の良さに笑んだアンセルムに、エルムは首肯してすぐ思案顔。
「沢山一杯素敵なモノをもらっていますから、僕からもなにかあげられると良いのですが」
 その言葉にかりんはふかふかの尾を揺らす。いつもたくさん遊んでくれる、ステキでカッコイイケルベロス先輩の二人の為に、花丸咲かせてぴかぴか金メダル――だけでは終わらない。
 エルムはというと、丸いメダルに白いチョコで出来たダリアをふわり。甘酸っぱいドライフルーツの欠片も散りばめれば、上品で華やかなメダルが生まれ――アンセルムも日頃の感謝をこめた勲章を二つ完成させた。
「ケルベロスとしても、友人としても一緒にいて楽しいキミ達にこれを。いつもありがとう。そして、これからもよろしくね」
 優しい微笑みと共に贈ったのは、オリーブの輪に包まれた三つ首の犬が実に凛々しい特製の番犬メダル。するとエルムは「最初に言ったように」と言って、二人の為に作ったメダルを差し出し、表情を綻ばす。
「沢山一杯いろいろ頂いたささやかなお返しです」
「わぁ、嬉しいです!」
 大好きな人達から贈られた素敵な宝物にかりんは大喜び。
 次は自分の番、とまず金メダルを渡し、続いて広げたのは――。
「学校ではいつも優しくて、有事の際には一生懸命で頼もしいふたりには、かりんから花まる一等賞を贈ります! これからもいっぱい、いーっぱい仲良くして下さいね! ……あれ、普通のお手紙です?」
 けれど本格的な表彰状は二人を見事驚かせ、エルムの心は、困ってしまうくらいの幸せで照らされていた。
「……大切にしますね。これからも、どうぞよろしく」
「ウィスタリアのも可愛いね。うん、仲良く過ごそう」
 唯一のメダルはきっと、“頑張る”源になる。

 環はやる気で目を輝かせ、カラースプレーで金色勲章に星形チョコを降らす。少し大きい星々の周りには香ばしいアーモンド流星群もキラキラと。少々派手、いや子供っぽいのはご愛敬。だって心を籠めた勲章は、共にチョコメダル作りを楽しむ二人の為に輝くオンリーワン。
「戦争で大金星あげた霧山さんに! フォローしていた一之瀬さんもきちんとお祝いされるべきです!」
「……そう言えば、なんやかんやで戦果を挙げていましたね。これって随分と凄いことなのでは」
 自分が成し遂げた事に静かな驚き浮かべた和希の手元には、シンプルなスチール缶が3つ。僕からもと二人へ渡したそこに収まる幾何学模様のビターな勲章は沢山。細かなドライフルーツがアクセントのそれは、環と白に贈る“今回の記念”と、いつもお世話になっている感謝の現れだ。
「思えば先の戦争でも随分助けていただきましたし」
「ありがとうございます! では僕からは『皆の為にとてもよく頑張ったで賞メダル』を授与しまーす!」
 まず環さん、と白はピースサイン秘めた金メダル――金包装にリボンで首から提げられるようにしたチョコを差し出した。その明るさで部室を照らし、戦闘ではとても頼りになるお姉さん。皆の為に常に全力な姿に何度励まされたか。
 和希はクールで格好良く、後ろにいるだけで安心感をくれるお兄さん。口数は少ないが、その優しさと皆への想いは伝わっていると声を弾ませる。
「ふふ……ありがとうございます、団長! 何だか晴れがましい気持ちですね」
「わ、ありがとうございます……! どっちも食べるのが勿体ないですー」
 写真を撮ってから味わって。そしてまた、同じ時間を共に過ごしていこう。

「なあ、お子サンにあげるならどんなん作る?」
「星形リングが彫られたこれかな」
 天体や星座に興味を持ったみたいでと言うラシードにキソラは頷き、並ぶ型を眺める。
「田舎の弟らに贈ろうと思ってンだけどさぁ、成人済みから小学生までいるじゃんね。ゼヒ先輩のご意見をと思いマシテ」
「いいとも。娘を持つ父かつ五人兄弟の次男として力を貸そう」
 笑った男に礼を言い、伝えたポイントは“模様入り”と“沢山作れる小さめサイズ”。目についたのは貨幣風、王冠、何かの植物だ。
「頑張ったで賞みたいなのってどれがイイだろ。でさ、全部金ぴか。違う色混ぜたら喧嘩するし絶対」
「間違いなくする。この中だと王冠かな」
「じゃ、コレ。ラシードは郷にナニか贈ったりは?」
「両親にカードを贈るよ。キソラは? 今までもこういうバレンタインを?」
 男からの質問にキソラは歯を覗かせ笑う。
「オレはこんなんするようになったのここ数年だけど、案外お祭り騒ぎで楽しいヨ」
 だからまた頼むネ。
 お安いご用だ。
 出来上がった金ぴか数枚は密約の証――なんて。

 型はバレンタインの定番といえば、で適当に選んだ。後は溶かしたチョコをそこに流し込むだけの簡単作業。けど。
(「折角だから美味しく作ってあげたいよね」)
 アガサの想いは自然と手付きに現れていた。彼女を知る陣内の目が丁寧に作る様に気付いたのもまた自然な事。しかもハートマーク――ハート!?
 陣内の脳内は一瞬で大混乱。しかし歴戦のケルベロスは一切口にも顔にも出さぬまま、えっなにこいつもそういうお年頃なのかと思いながら、自然な風を装ってアガサ(25歳)を窺う。
(「鼻歌まで歌ってやがる……誰だよ、相手! あいつか? ……いや、それとも」)
 浮かんでは消え、浮かんでは消えていく容疑者たち。しかし陣内の尻尾は大変ソワソワと揺れ、型からチョコが溢れ続けてと、口と顔以外から動揺が素直に現れている。
「……何やってんの? それ、メダルというより溶岩吹き出す活火山だよね」
 誰にあげるのか知らないけどさ、というアガサに、陣内は「いや、なんでも」と尚も平静を装い、真顔になった。
「ただ、これだけは言っておく。相手はちゃんと見極めて選べ。お前を大事にしてくれる男をちゃんと……」
 するとアガサがハートに白いチョコペンで何か書き始め――えっ、何で粗品。
「あげる。どーぞ受け取って」
「義理かーーーい! そんで俺かーーーーい!!」
「……陣、溶けたチョコみたいになってるよ」

「ね、ジエロ。作ったら交換こしましょう」
「いいよクィル、交換しようか。君にあげるとなれば、一層励まなければね」
 そうと決まった時から、クィルの中でむむむと湧いていた悩みは、ふんすと漲るやる気に大変身。その様にジエロはくすくす笑い――同じように、そして負けじと真剣に材料選び。選ぶチョコは勿論、クィルの大好きな甘いチョコだ。
(「そうだ。大きい方が喜ぶかな」)
 銀のアラザン。スターシュガー。なかなかない夜空を食べる機会を君に贈ろう。自分には甘過ぎるけれど、甘い夜空の味わいは君にはきっと丁度いい。
(「ジエロが食べる物にするならビターチョコがいいですよね」)
 目安は掌に乗せられるくらい。勿忘草咲くそこにクィルはパウダーを散らし、大人のジエロにピッタリのお洒落な雰囲気へ。ブランデーもちょっぴり入れて完成したメダルに、つい、ふふ、と笑みが零れた。
「ジエロ、出来ましたか?」
「出来たよ」
 気になる。けれど自分より大きな体に隠されて見えない為、クィルも自分のメダルを頑張って隠した。ふんす。
「僕の方はね、出来たけど内緒です。お家に帰ってから渡しますからね」
「内緒にされると気になるなあ。ああ、クィル」
 帰ったら、せーので交換でもしようか。
 内緒にした分、その瞬間はとびきりの幸せで輝く筈。

 非常に甘ったるい会場でも目的がハッキリしていると“迷わない”もので。
「喋り相手でもいねえとヒマだろ」
「解ってらっしゃる」
 ラシードにちょっかいをかけながら、サイガは堅実にストロベリーとホワイトの組み合わせ――甘々なチョコを型へ流し込み、そんで? と型紙を使う男の手元を見た。一枚は星形リングを白銀色へ、もう一枚は真紅の中央にある薔薇を黒に染めていく。
「へえー」
「先生ーサイガ君が覗いてきますー」
「っせ。で、最後の晩餐ってナニ食いてえ派?」
「最後の? ……大勢で楽しみたいしピザ……いや、うーん」
(「デコる参考になりそうでならねえ」)
 まあ隠し味にペッパーを仕込んどいてやろう、と出来上がったメダルは手製の型は歪だった事もありヘリオンだとは言えず、いつぞやの春のように押し付けた。
「やるわ。また一年頑張りましたで賞。なあに、敬老の日の前借りよ」
「え、待った40歳ってそんなおじさんか!?」
 驚く声にニヤリ笑ってじゃあなと手を振ったら、こことはおさらば。ああ、甘ったるくて酔いそうだ。だが――悪くない日だと。近頃は、そう思うようになった気がする。

 時が廻る度に生まれ咲く色を何度でも君と同じ瞳に映したいから。
 ラウルの想い乗せたチョコペンが甘く白いキャンバスにショコラの枝を伸ばし、ドライストロベリーの欠片が梅花となって煌めき咲く。完成に近付くその意匠は、共に見た春告げの花々だ。けれど一番の春告げは。
(「やっぱり”メダル”といったら、きんぴかの一等賞メダルだろ! ……うん、大きければ大きいほど良いに決まってる」)
 シズネは目に光をぴかぴかと踊らせ、とびきり大きな金メダルにチョコペンを近づけた。慎重を要する作業で『いっとうしょう』の特大文字は若干へろへろ気味だけれど、やり遂げたシズネの顔は大満足の大完成。
 更に明るくなった笑顔と、少し歪だけれど愛嬌ある文字。一枚に宿る想いの輝きがラウルの口元を自然と綻ばす。
(「やっぱり、君の瞳が、声が、温もりが――俺に春彩を告げてくれる唯一の標だ」)
 特大金メダルの裏面に「いつもありがとう」とこっそり書けば、大完成の上を行く超完成。ラウル、と弾む声と共に贈られる。
「メダルってのは頑張った奴やいちばんの奴にあげるもんだからな!」
 だからオレにとっての“いちばん”に。
 ぴかぴか眩しい笑顔とメダルに咲くのは、“ありがとう”と、微笑。
「シズネの一番星になれるなんて、俺はとっても幸せだね」
「あ、この枝垂れ梅、あの時の……!」
 贈られた世界で唯一の、甘く輝いて咲く勲章。その完成度にシズネはやっぱり凄ぇなと感心して、笑みを深めた。
(「もうすぐ来る春も、おめぇに告げねぇとな」)
 その時は当然、花よりも、陽射しよりも早く!

 銀や螺鈿にも似た色の点々が夜空の天河めく黒。蓋も底も青一色。それから。
「これはどうだい?」
「いいな。それも」
 ラシードが手にした野花溢れるボタニカル柄に、箱選びの手伝いを頼んでいたティアンはこくり頷いた。今は全て同じメダルチョコ――星形の凹凸がついた彼らに生まれる個性は、収まる箱次第。ティアンは“気に入ってもらえそう”という大事な要素で選んでいく。
「ラシードはどんな箱でチョコレート、贈るんだ?」
「娘にはこの青い箱かな」
 贈るには衛生面が心配な為PC越しに見せるだけになるけれど、と言って。“彼女”にはこっち、と笑って深いブラウンの箱も取る。ティアンは静かにそうか、と頷いてから不思議そうな視線に気が付いた。
「これは、――おくるの」
 書いては燃やした何もかもが届いていなかったとしても、そこに収めた気持ちだけでも届いたらいいと願って。そうして選び終えた最後、ティアンはチョコ入りの箱を一つ、男の手に置く。
「?」
「手伝ってくれたお礼」
 箱の上でそっと揺れた紙細工の睡蓮に、赤い目が柔らかに笑った。

 メダルって好きなんです。人から認められてる気がして。
 また一つ知ったシィラの『好き』が嬉しくて、灯は笑顔で天使の翼メダルを作っていく。
 ベースはピンクの苺チョコ。抹茶パウダーで可愛い緑に染まった右の翼と、粉糖やアラザン飾って輝く左の翼。左右合わせて完成する天使の翼は、その奇麗な色だけでなく美味しそうという予感でシィラをたちまち魅了した。
「右は私、左はシィラさん。二つを合わせてプレゼントです! メダルは多い方が良いですもの!」
「わあ、有難う! すごく可愛らしい……えへへ、大事に頂きますね、嬉しいな」
 じゃあ、わたしも。いそいそと作って贈るのは“仲良くしてくれたで賞”の金メダル。
 出来たての一枚に灯の頬は嬉しさに染まり、シィラのメダルを見た瞳はうっとり乙女色。
 シィラが作ったホワイトチョコ製の小さな花メダルは、固まる前にライラックの砂糖漬けとアラザンの魔法を鏤め、ちょっぴり豪華だ。チョコではなく花の香りがしそうなくらい、上品で、綺麗で――。
「ふふ、白いのはね、本命チョコなの。……喜んで貰えると良いな」
 囁いたシィラの姿はとにかく綺麗で。
 灯はときめきのまま、貰う方の幸せを保証する。
 だって。
「私は金メダルを貰ってメダルも、シィラさんも……ますます好きになりましたから!」
 その言葉に灰の目は幸せに染まり、わたしも貴女が大好きと。親愛が咲く。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月13日
難度:易しい
参加:24人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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