黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、ジグラット・ウォーを終え、帰還したケルベロス達を労った。
「作戦が成功したお陰で、ドリームイーターの本星ジュエルジグラットは制圧されたっす! これで、ドリームイーターも組織だった活動は出来ないっすけど、生き延びた『赤の王』や『チェシャ猫』達に導かれた一部のドリームイーターが、戦場から逃げ出したみたいっす」
残党は、デスバレスの死神勢力と合流しようとしているようだ。
そして、ダンテの新たな予知は、残党のうちの1体を迎えに、下級死神の群れが現れるというものだった。
「合流地点はわかってるっす。そこに向かって、迎えの下級死神と残党ドリームイーターを撃破してほしいっす!」
合流地点は某県、廃墟となった元・遊園地にあるホラーハウス……お化け屋敷だ。
ターゲットとなる残党ドリームイーターは、『ざ・わんだーらんど!』。クマの着ぐるみを脱ぎかけた少女、といった風貌をしている。
自身と着ぐるみ、それぞれの持つ鍵剣が主な武器だ。
「『ざ・わんだーらんど!』は、死神が来るまでホラーハウスに隠れてるっすから、確実に攻撃できるタイミングは、合流しに姿を見せた時しかないっす」
だが、戦闘が始まって6分ほどすると、残党はデスバレスへ撤退してしまう。
「魚の姿をした下級死神どもは、総勢10体っす。『ざ・わんだーらんど!』を無事デスバレスに送り届けようと、必死でケルベロスの攻撃をしのごうとするっす。下級だと思って普通に相手してると、逃げられちゃうかもっすよ」
ダンテの目算では、撤退の成功率は、五分五分と言ったところ。
「あえて下級死神を放置しといて、残党に攻撃を集中させるって手もあるっす。もしくは、残党の注意を上手い事引きつけられれば、撤退するのを引き延ばせると思うっす」
『ざ・わんだーらんど!』は、楽しむ気持ちや高揚感を欠落したドリームイーター。楽しい気持ちやハイテンションで戦えば挑発効果となり、引きつけられてくる可能性は高い。
「ドリームイーターの本星は制圧済みっす。これで残党もなんとかできれば万々歳っすね。死神の思い通りになんてさせないっす、うまいこと作戦を成功させてほしいっす!」
ダンテが、ぐっ、と拳を突き出した。
参加者 | |
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メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015) |
立花・恵(翠の流星・e01060) |
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471) |
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384) |
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434) |
●
「うう……敵が現れるまでここで待ち伏せ……でしょうか?」
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は、裏声になりつつ、カタカタと歯を鳴らしている。なぜならば。
「いかにもナンか出てきそうじゃないですか!」
ここは、ホラーハウス。それも、人工の恐怖と時の流れが合わさり、名状しがたい雰囲気を放つ廃墟へと変貌していた。
恐怖が一周回って謎の高揚感を湧き立てている。ミリムの心拍はハイだ。
「うぅ、わかる、わかるよ……慣れてるつもりでも、やっぱり気味が悪いよなぁ……」
立花・恵(翠の流星・e01060)も、割れた壁の隙間から見える血まみれの手足の模造品に、不安を掻き立てられずにはいられなかった。
ケルベロスだろうと、怖いものは、怖い。
「テンション高めていこう。残党も下級死神も全員倒す!」
何とか自分を鼓舞する恵。
「確かにここは、任務に集中するのも一つの手かと。死神も未だに手広く戦力を集めていますが、何を求めているのか」
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)は、その長身を少々かがめながら、物陰に身をひそめながら告げた。
「それにしても、楽しむ気持ちとか高揚感を感じられないって、どんな気持ちなのですかね。……何をしても、無味乾燥、楽しくない、って感じなのでしょうか」
ローゼスのように仲間達の気を紛らわすよう、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が小首を傾げた。
「『ざ・わんだーらんど!』をひきつけるためには、戦いを楽しむ必要がある、ということですね」
「戦いが楽しい?」
「ですか?」
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)と如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)はそろって疑問符を浮かべながら、視線をかわした。
瑠璃の表情は、「その発想はなかった」という色に満ちている。
「言われてみれば……楽しい、というのとは少し違うかもしれないけれど、愛しい人と戦いに臨めるのは嬉しい、かな。ある意味何倍もの力が出せる」
「確かに、瑠璃と共に戦えることは嬉しいことは確かですね。絆が深まりますし」
婚約者と肩を並べて戦える沙耶としては、ホラーハウスの恐怖もどこ吹く風、と言った様子であった。
「俺にとっちゃ得意分野だな。つええやつとの戦、いつもとは違う戦、何だって良い」
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)が荒々しい笑みを浮かべて、陰鬱な雰囲気を吹き飛ばす。
そしてメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は、辺りの様子を確かめながら、つぶやいた。この、廃墟というほかない光景を。
「戦闘を楽しむ、かぁ……ちょっと難しいけど、ドリームイーターは取り逃さないようにしないとね」
そもそも、ドリームイーターからして楽しみを反転させたような姿をしているようだし。
メリルディは、口から血をしたたらせるクマを思い描いた。小瓶の菓子を口に含みつつ。
少し経った頃であった。いかにも何か出ますよ、とばかりに構えられた曲がり角から、異形の群れが現れたのは。
●
アトラクションの如く浮遊する魚影……死神ザルバルク達の前に、新たな人影が現れた。ピンクのクマの着ぐるみだった。
じじっ、と金属がこすれる音に続いて、クマの背中から少女の上半身が現れた。『ざ・わんだーらんど!』だ。
「死神のお迎えなんて不吉すぎますけど、デスバレスまでよろしくお願いしますね」
了承、と方向転換を図ろうとした死神たちを、鋭利な光が遮った。
儀礼的な装飾の施されたソードブレイカーを突きつけ、行く手を塞いだのは、暗がりから現れたメリルディ。
もう一方からは、沙耶と瑠璃が、絶妙の位置取りで、敵を囲む。
「逃がしはしないよ」
「死神の戦力を増強させるわけにはいきません」
瑠璃や沙耶達がケルベロスだと看破したザルバルク達に、動揺が広がる。
「邪魔が入っちゃったみたいです?」
「よう、ドリームイーター」
ケルベロスを振り返るわんだーらんどに、鬼太郎が手を振った。
「オウガでもねえのに戦場で楽しい心を求めるとは、変わりもんだねえ。それとも、ケルベロスにやられると死ぬってのを心からは理解してないのかねえ」
するとわんだーらんどは、どこか虚ろな笑顔で答えた。
「ええと、楽しさをなくしたままなら、死んでるのと変わらないっていうか?」
「そういうもんか。まあ、いいさ。戦場で楽しく死合いたいってんなら止める理由はねえし、心配してやる義理もねえ。ただ相手をするだけだ」
そして鬼太郎は、わんだーらんどやザルバルク達、一体残らず届く声を発した。
「俺はオウガ、柴田鬼太郎! まあ、よろしく逝ってくれや」
「そういうこと! 最高の勝負をしようぜ!」
恵が、敵に指を突きつけた。
スタイリッシュに変身を遂げたと同時、爆音が響き渡った。
「ヒェアッ?!」
突然の大音声に、思いきりビビるミリム。しかも余波でマネキンの首が飛んできたものだから怖さも倍増。
ローゼスが、廃墟を吹き飛ばす勢いで、爆煙を巻き起こしたのだ。
「遊戯の為の玩具など恐るるに足らず! 如何なる戦場であってもケルベロスに負けはない!!」
槍を携えたローゼスが、高らかに宣言する。いささかやかましいかも知れないが、辛気臭さと周辺の陰気な雰囲気を吹き払えば、恐怖も拭い去る事ができるはず。
「なななびっくりしましたよコレ!!」
「失礼しました、戦場を整えたまで。戦とは流れを引き込み、気分を高めて行くものですよ」
「ナイス演出!!」
心拍数上昇中のミリムに、ローゼスは平然とこだわりを語り、恵はぐっと指を立てた。
「面白そうな事しますね、ちょっと付き合ってみたいです」
「クマー」
わんだーらんど、少女の言葉に合わせて、クマの着ぐるみから合成音のような鳴き声がこぼれた。
ザルバルク達は早く行こうと促すように体をよじったが、わんだーらんどは聞く耳持たない様子。
気を惹くことには成功したみたいですね、と、タイマーをセットする真理。さしあたって、最初のリミットは2分。それまでに、どこまで相手を追いつめられるかが勝負だ。
●
鬼太郎もまた、豪快な反撃の狼煙を上げた。館内の埃はもちろん、ホラーハウスの小道具の数々が宙を舞い、味方の高揚感を高める。
ウイングキャットの『虎』も、小翼をはばたかせて、死神の毒から皆を守る。もふっとした体を見るだけで癒しとなる。
更に、文字通りの発破をかけていくローゼス。重ねて味方の勢いを鼓舞し、死神達の決死の反攻に抗う所存だ。
いやおうなしにテンションを高めざるを得なくなったミリム。だが、この恐怖空間から脱するには、敵を倒すしかないのも事実。
ドリームエナジーをかき集め、解き放った。モザイクにまみれた魔法が、前衛の死神達を押し流す。
「まずは、『盾』をなんとかしないとね」
ミリムの攻撃を受けた死神達へと、メリルディが、素早く詠唱を完了させた。
竜を象って顕現した魔力が、矢面に立つザルバルクディフェンダーへと、竜炎を浴びせかけた。
冷静さを持って戦いに臨む真理のアームドフォート、そしてプライド・ワンの掃射が続く。所詮は下級死神、強固とは呼べない鱗が、次々とはじけ飛んでいく。
わんだーらんどを中ほどにすえた陣形にて襲い来る死神達。そのディフェンダーに照準を合わせ、瑠璃が『寒月』を構えた。
輪の内より精製された弾丸が、ディフェンダーのウロコを貫き、氷の檻へと閉じ込める。新鮮なザルバルクの氷漬けである。
瑠璃が攻めなら、沙耶は守り。占術が、仲間達に運命を指し示す。戦場のおどろおどろしい雰囲気も、戦闘の高揚感のバランスが保たれ、死神の牙にひそんだ毒への耐性をも高めるのだ。
真理のタイマーが2分経過を報せる。ここからは、全面的に攻勢に移る。
わんだーらんどは、時折、少女とクマに分かれて走り回る。思いのほか機敏だった。
「あなたなら教えてくれます? 楽しいってどういうこと?」
クマが、蜂を象った鍵剣をかざすと、真理を蜂の群れが囲い込んだ。
くるくると回転する幻影達が、一匹、また一匹と突きさすたび、痺れが真理の体を走る。この執拗さはおそらく、ジャマーの力あってこそ。
ザルバルク達も、牙を突き立て、あるいは霊弾を射出して、ケルベロスの排除に徹した。
「楽しい気持ちがわからないってのは、寂しいよな。そのモザイクが晴れる術があるんなら、助けてやりたいって気持ちもあるよ」
喰らいついてくる死神をかわしながら、恵がディフェンダーへと凍結光線を浴びせた。
「けど、今は敵同士だ。こうなった以上はあんたを倒す!」
氷片となって砕け散るディフェンダーを乗り越え、恵達は、『ざ・わんだーらんど!』への距離を詰めていく。
●
もう一体のディフェンダーが討ち取られる。ケルベロス達の攻撃は、全てがわんだーらんどへ集中した。
「皆さんのその気持ちが、『楽しい』? 全部知るまでデスバレスになんていけませんね」
「うむ、その意気や良し!! この一槍の冴えをとくと馳走しよう!!」
戦いに専念したドリームイーターに、ローゼスも応えぬわけにはいくまい。
「ならその『発生源』を食べちゃえば、わかるでしょうか」
クマの口が開き、グロテスクな内側が露わになる。奥には、七色の異次元空間が、ケルベロスを迎え入れんと広がっていた。
死神の援護もあり、ケルベロス達に、じりじりとダメージが蓄積していく。
が、メリルディが、周囲の景色をその身より繁茂させた緑……共棲せしケルスで書き換えると、味方の体を包み、その傷を癒していく。
噛みつく死神を引き剥がし、嬉々として投げ飛ばした鬼太郎が、味方に剣を繰りだした。その圧が、体内の毒素までも外へと吹き飛ばしてしまう。
メリルディらによって浄化されたケルベロス達へ、わんだーらんどの少女が、鍵剣をかざした。
「さあ、その気持ち食べさせてくださいな。お礼にいい夢をプレゼントします」
ミリムの周囲に、小さなピンククマ達が寄り添った。夢の世界へいざなおうと、子守唄を合唱する。
「いい夢……いい夢なんて見れるかー!!」
ミリムの催眠を、仲間の加護と、気合が吹き飛ばす。
そろそろ6分……知らず知らずの間に難しい顔をしていた瑠璃を、沙耶が引き寄せると、その頬に軽く口づけした。
「さあ、どんどん行っちゃいましょう」
「……うん、もっと頑張るよ」
一瞬虚を突かれた表情の瑠璃だったが、すぐ表情を引き締める。
「楽しそうですね。わたしも混ぜてくださいよ」
とてとて、と、沙耶の方へと引きつけられていくわんだーらんど。
だが、それを遮断したのは、超・大剣を振り下ろした瑠璃であった。
「沙耶さんには指一本触れさせないよ」
そして沙耶が美杖を、ファミリアへと転身。クマと少女の周囲を駆け巡る。着ぐるみからは詰められた綿が、少女からは血液に似た何か……が零れ落ちていく。
「ううん、楽しいとは違いますねコレ?」
「なら、次のプレゼントをあげるよ!」
気づかぬ間に、恵の銃口が、クマのお腹に突きつけられていた。
「ショータイムだ!」
零距離の衝撃が炸裂。クマの中から綿が噴出し、床を埋めていく。
やけになったミリムの感情に応えるように、スライムが槍と化した。主に負の念を凝縮した黒のランスが、クマごと中の人を貫き通す。
この勢いに乗り、ローゼスは、周囲のオブジェの成れ果てを舞い上げ、接敵。ランスを一閃させ、クマを切り裂いた。いよいよ着ぐるみとしての体裁を保てず、中から少女が飛び出す。
すかさず、真理の攻性植物が、その全身に巻き付いた。鍵剣を蔦で取り上げると、獣の如く凶暴な牙を首筋に立てる。
「私は、今のこの瞬間を楽しむ事は出来ないし、貴女に伝えられないのですが……」
注ぎ込まれるのは死の毒。苦痛も与えず、そのまま醒めぬ眠りへと誘う。
「欠落、埋めたかったですねえ……」
真理に看取られながら、消えゆく『ざ・わんだーらんど!』。
残されたのは、死神群。
一矢報いようとするザルバルクだが、メリルディの魔力で、停止時間の中に飲み込まれる。
ローゼスの槍撃はますます冴え、鬼太郎の矢は朽ちかけの柱を迂回して、死神達を貫く。
そうして残敵の殲滅を果たした恵は、くるくるとリボルバーを回し、ホルスターへと収めた。
恐怖から解放され、ミリムはほっと一安心。鬼太郎の頼もしい背中が、安らぎをもたらしてくれる。
メリルディも、消費した分の甘味を補給して、一息。
互いの無事と任務の完了を確認し、瑠璃と沙耶も安堵する。
「これで、敵の目論見も1つ、潰すことができたはず」
「今度は瑠璃と2人でこういう場所に来るのもいいかもしれないですね」
何気ない沙耶の言葉に、ケルベロス達は苦笑、あるいはひええとおののくのであった。
去り際、真理は、ふと振り返る。廃墟に、活気に満ちた頃の遊園地の幻影が、重なって見えた気がした。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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