ダンテの誕生日~よるぱふぇ!

作者:猫目みなも

「皆さんは、シメパフェってご存知っすか」
 唐突に、至極真面目な表情で、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はそんなことを言い出した。
 シメパフェ。読んで字の如く、ディナーや飲み会の後の『シメ』にパフェを食べに行くことだ。夜に、それも結構がっつりお腹に物を入れた後にパフェ? と首を傾げられることもあると言うが、そこはそれ。諸々の最後に食べる冷たくて甘いデザートは間違いなく各別だし、美味しいものは別腹という言葉もある。
「で、っす。自分、ちょっとそのシメパフェに興味があるかなーなんて思ってたんすけど、こう、いい年こいた男一人でってのも、なかなかハードルが……っすね」
 片手でぐいーんとハードルを上げるジェスチャーを取ってみせた後、ダンテはケルベロスたちにがばりと頭を下げて。
「つまり……アレっす! 自分がご案内しますんで、シメパフェ体験に付き合って頂けないっすか……!」
 という訳で、プランはこうだ。
 シメパフェ文化の発信地とも言われるのが、北海道は札幌市。現地で各々早めの夕食を済ませたら、すすきのに集合してシメパフェのお店に向かい、皆でパフェを食べよう――と、そんな風にまとめつつ、ダンテは付箋がびっしり貼られまくった観光誌をケルベロスたちの前に広げる。
「で、自分が皆さんをご案内しようと思ってるのはこの店なんすけど、……すーごいんすよ」
 苺にオレンジ、キウイ、カシスにブルーベリーと宝石のような種々の果物に、甘さほろ苦さの度合いも様々なチョコレート。北海道ならではと言わんばかりの新鮮ミルクで作ったクリームやチーズ、アイスがそこに加わり、更には添えられた飴細工やチョコ細工、ハーブの葉などもお洒落で写真映えだって間違いなしだ。
「勿論自分が個人的に気になってるってのもあるっすけど、これは皆さんにも味わってもらわなきゃ……って、自分思うんすよ。たまにはご一緒に、甘い物でもいかがっすか?」


■リプレイ

「改めて、ジグラット・ウォーお疲れお疲れ」
 氷水のグラスをとりあえずといった調子で掲げつつ、千梨はいつも通りの口調で『↑ 2F探偵』の仲間たちの労をねぎらう。その活躍ぶりを思えば彼らの誰にも豪勢にジンギスカンを食べる資格があったろうと述べ、戦争当日のカレーしか用意しなかった自分自身は今回それに便乗して――とうっすら笑えば、すかさずその脇腹をルイーゼが小突いた。
「所長どのも師団でご活躍だったと聞いているぞ」
「皆、大活躍でしたからネ」
 グラスの水で唇を潤したエトヴァも同意するように頷き、勿論ジェミも、と傍らに視線を向ければ、当のジェミは照れたように頬を掻いてから大きなメニューに手を伸ばす。途端にテーブルの上に四つの頭が寄り集まり、作戦会議が始まった。
「近頃の締めってパフェなんだね。流行ってるんだっけ」
「元々酒の締めだったのかな? それなら俺は少しアルコールを入れようか」
「洋酒、それもシックで心惹かれますネ。それにしても、沢山食べた後の山盛りスイーツとは贅沢体験なのデス……」
「色々食べてみたい。みたいが、締めゆえお代わりは難しい。悩む……が、ここは欲張りスタンダードメニューでいくぞ」
 戦いの前とは違う高揚感を存分に含んだ話し合いを経て店員に手を振れば、やがて注文通りに四つのグラスがテーブルに並ぶ。シャンデリア風の照明を受けたグラスと果物を映して、ルイーゼの瞳が桜桃のようにきらきら光った。
 円錐をひっくり返した形のパフェグラスの底にコーンフレークを積もらせ、その上に重なる生クリームとバニラアイスの層は外で見てきたふかふかの雪のよう。バナナの黄色と苺の紅白、そこにかかったベリーとチョコの二色ソースも目に鮮やかで、極めつけは向日葵の花にも似た黄金色の飴細工!
「ルイーゼさんの凄いね、直で見ると一層贅沢!」
 網羅された人気のトッピングにはしゃぐジェミも、早速自分のパフェにスプーンを差し込む。ヨーグルトのムースにレモンシャーベット、グラスの口に沿うようにぐるりと並べたグレープフルーツは、どれもこれもさっぱりとしてご馳走の後の口にうってつけ。んん、と零れた唸り声が、そのまま幸せの味を示していた。
「甘酸っぱいよ、ちょっと食べる?」
「では少々いただいてみたい。代わりにこの苺をどうぞ、だ」
「わぁ、いただきまーす!」
 向かい合わせにわいわいと取り換えっこに興じる年少組の姿に、エトヴァの表情も一層綻ぶ。細身のスプーンいっぱいにカステラと抹茶アイスを掬いつつ、エトヴァは隣に笑みかけて。
「俺のも食べてみマス? 黒蜜たっぷりデス」
「やった、じゃあ交換ね!」
「エトヴァせんぱいの和風パフェも美味しそうだ。よければ次はわたしとも交換してほしいな」
「勿論、分けっこしマショウ」
 そんなやり取りを面白そうに眺めつつ洋酒の香り立つパフェをつついていた千梨の目が、ごく一瞬鋭く光ったのは――照明の具合だろうか。いや、どうもそうではなかったらしい。
「……お、隙あり」
「ア」
 まるでエトヴァの手と視線が離れる瞬間を狙い澄ましていたかのように、千梨のスプーンが黒蜜の絡んだ白玉をひとつするりと真正面から掠め取っていく。流れるように自然な略奪に、一瞬の間をおいて誰からともなく笑いが弾けた。
「いやあ、羨ましかったものでつい。詫びに此方のパフェに良い感想を言う権利をやろう」
「仕方ないですネ……」
 ジェミの差し出すシャーベットの爽やかな酸味をしっかり口で受けつつ苦笑してから、エトヴァはラムレーズンとショコラのパフェに控えめに匙を入れる。千梨曰く『芳醇なラムとアイスの甘み、ショコラのほろ苦さが絶妙』な(そして千梨はそこまで言ったところで自分の語彙力に見切りをつけた)大人パフェを舌の上で転がして、彼はしみじみ顎を擦った。
「……ふむ……戦争とジンギスカンに勝利した後の、甘い労い…………ですネ」
「違いない。……ああ、贅沢だ」
 そんなテーブルの賑わいを背にする形でカウンター席に身を落ち着けたローゼスは、何はともあれと運ばれてきたワインのグラスを軽く持ち上げる。
「まずは誕生日おめでとう御座います、黒瀬さん」
「恐縮っす! どうすか、地球での暮らしは」
「そうですね……」
 グラスを合わせたダンテの問いにしばし首を捻った後、地球に足を付けてそう日も経たないセントールの騎士はゆっくりと答えを口にした。
「私にとっては、何もかもが未知そのものです。なので、上手いお祝いも思いつきませんが……」
 一度この背に乗って駆けてみるというのはどうかと持ち掛ければ、ダンテの顔がぱっと輝いた。恐縮、憧憬、歓喜に期待、忙しそうに輝きの色をくるくる変えるヘリオライダーの表情に、ローゼスはこっそりと笑う。ああ、確かに彼はケルベロスのことをどこまでも尊敬しているのだ。
 と、そうこうしている間にローゼスの目の前にカクテルグラスが置かれる。いくつか並んだ小さなそれには、それぞれ種類の異なる洋酒パフェが盛り付けられ、さながらスイーツ版飲み比べセットのようだ。
「先に頂いてきた夕食も素晴らしかったですが、これはこれは……」
 紅茶アイスにブランデーを垂らしたもの、ラムレーズンをふんだんに使ったもの、ワインゼリーに果物を合わせてサングリア風に作ったもの……それぞれを丁寧に味わって、ローゼスは自分なりの結論を下す。やはり、自分にはワインが一番だ。
「食べ比べというのも心躍っていいですな! ……夕食、私はジンギスカンで腹ごしらえしてきました。ダンテさんは?」
 ダンテを挟む形でローゼスの反対側の席に座っていたイッパイアッテナが、その様子を見て楽しげに目を細める。
「自分は札幌ラーメン食ってきましたよ。やっぱ、寒いと恋しくなるんすよね、ラーメン」
 そう言うダンテの視線が自分の手元に向かっていることに気付いて、ああ、とイッパイアッテナはパフェグラスを指差した。
「こちらはハスカップ入りパフェです。爽やかな香りと酸味がたまりませんよ」
「確か、北海道名物の果物っすよね。通っすねえ」
「はは、それほどでも。今日はおっさんとして視線の盾になりますので、ダンテさんもどうぞ楽しんで」
「いやおっさんって、イッパイアッテナさんも充分見た目若い方っすよね?」
 すかさず突っ込んでくるダンテに、イッパイアッテナは声を立てて笑う。種族の中では長身で大人びた見目の方だが、彼はドワーフ。三十を超えた実年齢に比すれば、付け髭を差し引いても充分若く見えてしまうのは常のことだ。
「冗談ですよ、今日は気負わずお祝いするとしましょう」
 主人の言葉に、大盛りフルーツパフェを器用にがっついていた相箱のザラキもそうだそうだと言わんばかりにエクトプラズムを弾けさせる。それじゃ、と笑ったダンテが、袖をまくってスプーンを手に取った。

「パフェ乙女三人衆、いざ締めパフェ突撃です!」
「乙女では」
「ないですね」
 拳を突き上げる環の両サイドから、アンセルムとエルムが挟み込むようにして突っ込んだ。それはもう即座に。けれどそんなことは意にも介さず、環は鼻歌混じりに煌びやかなメニューを指でなぞった。男二人もそんな『乙女(※正真正銘)』の様子に一度顔を見合わせた後、気を取り直すようにメニューを覗いて。
 そうしてやがて運ばれてきたパフェに、乙女たち……もとい、乙女と男たちの口から一様に感嘆の声が零れた。ブランデーのクラッシュゼリーに品よく粉状の金箔を散らした上に自分の手でブランデーシロップを垂らせば、シロップのとろみある艶も加わって一層煌きを増すパフェに、環ははあ、と息をつきつつカメラを構える。
「宝石みたいで綺麗だね、環の」
「本当ですね……あ、折角だから三つ並べた写真も撮っていいですか?」
「わ、それ良いですね! 二人のもどっちもおしゃれですし!」
 重なる色合いが描くグラデーションがカクテルを思わせるフルーツパフェに、濃厚カカオに赤ワインを効かせた香りも高いチョコレートパフェ。三者三様の洋酒パフェを並べてキラキラの写真を撮影したら、次は勿論舌でこのパフェを楽しむ時間だ。フルーツをひとつひとつ幸せそうに味わいながら、アンセルムがぽつりと呟きを零した。
「黒瀬も言ってたけど、こういうとこって良い年した男一人だと来づらいんだよね。三人で来れて本当に良かった」
 そう言えば合流したのはこの近くだけれど、その前はどこで何を食べていたの? とふと続けた問いには、環が付箋のびっしりついたグルメガイドを取り出してみせて。
「北海道はスープカレー発祥の地ですから、ちょっとはしごしてきましたー」
「梯子かあ」
「……野菜たっぷりでしたから、実質ゼロカロリーです。どこもさっぱりピリリで美味しかったですよー」
 ちょっぴり尖らせた唇がそう言えば、成程と納得とも疑念とも取れる形の苦笑をエルムが浮かべた。スープカレーも良いですよね、とスパイスの香りを思い浮かべるように息を深く吸い込んで、彼は自分の撮ってきた写真を二人の仲間に見せる。
「僕はカニ食べ放題二時間コースでしたよ」
「ああ、北海道に来たからにはそれも食べておきたいよね。同じ理由だけど、ボクはジンギスカン食べてきたなあ」
 環の理屈を借りるなら、こちらも実質ゼロカロリー……だろうか。おしゃれではないけど、とグラスの中のシャンパンゼリーをスプーンで突き崩すアンセルムに良いじゃないですかと笑って、エルムも自分のパフェに向き直る。
「ジンギスカンもスープカレーも良いですよね。話聞いてたら食べたくなりました」
「分かりますー。って言うかエルムさんの写真、ほんと美味しそうで攻撃力高くないです?」
「それだよね。パフェの写真もさ、後で見返して絶対また食べに行きたくなるやつでしょ」
「来ればいいじゃないですかー」
 わいわいと話しながら、何枚もの写真を撮り合いながら。
 キラキラの時間が、流れていく。
「ラーメンのシメにパフェってなんか超イケナイことしてる感じだよね」
 そう言う萌花の悪戯っぽく笑う瞳に、幾つもの煌きが映り込む。大粒の苺に皮の飾り切りもお洒落な林檎とオレンジ、磨き抜いたようにつやつやのさくらんぼ。レースのような飴細工とともにミルクアイスを囲むそれらは、さながら甘い宝石箱のようだ。同じ煌きに目を輝かせつつ、ティアンも運ばれてきた自分のパフェを受け取って。
「果物の甘いのは、やはり正義だな。ティアンも迷ったが……」
「せっかく北海道まで来たんですもの、クリームもチョコも食べたいのは乙女心として当然です!」
 ぐっと力説するアイヴォリーの言葉に小さく、けれどしっかりと頷いて、ティアンは早速両手を合わせた。濃淡も美しい二種のチョコアイスに生クリームを絞り、木苺を散らしてスティックチョコを添えたパフェは、まるで貴婦人のような佇まいで口に運ばれるのを待っている。
「あ、アイヴォリーおねえさまのも来たね。三つ並ぶとどれも個性的でやっぱカワイイ感じ?」
「ほんと、宝石のショウケースみたいね」
 萌花の言葉にふふりと返して、アイヴォリーは早速スマートフォンを取り出す。まるで雪原のように真っ白でなめらかなレアチーズパフェをアップで写しかけ、ふと首を傾げて――そのまま、彼女は少しだけカメラを持ち上げた。かしゃりと響いたシャッター音に、チョコパフェを頬張っていたティアンが顔を上げて。
「……ああ、しまった、またやった」
 ちょっぴりしょんぼり耳の先を下げて、ティアンは惜しむように呟いた。カメラはちゃんと持ち歩いていたのだが、美味しいものの誘惑には抗えなかった。気持ちは分かる分かると頷きつつ、こちらはしっかり写真をスマホに収めた手でティアンの肩をぽんと叩いて、萌花はアイヴォリーへとからかうような視線を向ける。
「あれ、写真は事務所を通してほしいなー?」
「これはわたくしのカワイイフォルダに入れておきます。欲しくばパフェを一口くださいな、なんて?」
 負けじと悪戯な少女のように人差し指を立てたアイヴォリーの言葉に、二人が同時に頬を染める。恥じらいではなく楽しみの色合いと共に差し出されたフルーツを一口食めば、レアチーズの蕩けるような柔らかさとはまた違った鮮やかな甘酸っぱさが舌の上で弾けた。
「アイヴォリー、アイヴォリー、ティアンのもどうぞ、だ。おいしいものは分け合うともっとおいしい」
 いそいそとチョコレートパフェのグラスをアイヴォリーの方へ寄せるティアンに、それならとアイヴォリーも自分のパフェグラスを彼女の方へ差し出してみる。あ、と声を零した萌花が、鞄にしまったスマホを再び掲げた。
「ね、ちょっとこっち向いて? あたし今の一枚撮りたい!」
 女子会の雰囲気は、何枚だって切り取れる。先ほどのお行儀よく佇むパフェの姿とは打って変わって、賑やかで華やかなやり取りの様子が、そうして液晶の向こうに花開いた。
「……う、うう、ん」
 先ほどダンテとラーメンの話をしていた時の笑顔はどこへやら、眉間に皺が寄るほど真剣に、ラウルはメニューと睨み合っていた。ふくよかに甘い果汁たっぷりのメロンパフェか、ブラウニーのブロックもあしらいボリューム満点のチョコパフェか、一体どちらを選ぶべきだろう。いつまで経っても決めあぐねているらしい正面の彼に小さく笑って、シズネは二つのメニューを交互に指先で叩いた。
「オレ、メロンのにしようかな。ラウルがしょこらのにして、分け合うのはどうだ?」
「!」
 がばりと顔を上げたラウルの瞳が、天啓を得たとばかりに輝いている。その笑顔がおかしくて嬉しくて、シズネは深々と頷いた。
 そうしてテーブルに置かれたパフェを前に、再び二人の瞳が煌く。透き通る硝子いっぱいに重なるチョコクリームとブラウニーのてっぺんには、ルビーチョコで切り抜かれた繊細な雪の結晶がひとつ。それを壊したりクリームに沈めたりしないよう、そっと縁からスプーンを差し入れて、ラウルは早速ショコラを口に含んでみた。途端にほどけるように広がるほろ苦さと芳醇な香りが、心弾む幸せを連れてくる。
 余程美味しい顔をしていたのか、パフェの二口目を食べるでもなくにこにことこちらを見つめてくるシズネに、ラウルは迷わずスプーンを差し出した。その上に乗るチョコクリームと赤い雪に一度確かめるように首を傾げた後、シズネはくちづけるようにそれを唇で受けて。
「……ん、美味い」
「だよね!?」
「じゃあ、お返しな」
 そう言って、シズネはスプーンの代わりにフォークを手にした。迷いなく取って差し出されたいちばん大きなメロンのひと切れを頬張れば、ラウルの口いっぱいに熟し切った濃厚な甘さが広がり、チョコレートの残り香とひとつに混ざり合っていく。
 深まっていく夜の中、温かな世界で甘い喜びと満開の笑顔を分け合って。それだけで、シメパフェは良いものだな、なんて――そう思ったのは、きっと同じ。

作者:猫目みなも 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月5日
難度:易しい
参加:14人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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