寒桜とスイーツカフェ

作者:芦原クロ

 1月の中旬に咲く、美しい色合いのカンザクラ。
 近くには小さなカフェが有り、一般人たちはスイーツを堪能している。
 ケーキショーケースの中は、ワッフル、モンブラン、イチゴのタルト、フルーツケーキ、シフォンケーキ、チーズケーキ、ショートケーキ、チョコレートケーキ……などが並んでおり、どれも美味しそうだ。
 見ごろを迎えたカンザクラを一般人たちが眺めていると、謎の花粉のようなものが1本のカンザクラにとりつき、攻性植物化して動き始めた。
 攻性植物は美しい花びらをまき散らしながら、カフェの外テーブルに座していた一般人へと襲い掛かった。

「攻性植物の発生が予知されました。なんらかの胞子を受け入れたカンザクラが、攻性植物に変化してしまったようです。他のカンザクラがなぎ倒される被害を避ける為、そして何より、死者を出さない為にも、討伐をお願いします」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、現場に急ぐようにとケルベロスたちに伝える。
 ケルベロスたちが敵と対峙している間に、警察などが一般人の避難誘導を迅速におこなってくれるので、今回はケルベロスたちが避難誘導に手を貸す必要も無い。

「攻性植物は1体のみで、配下はいません。カンザクラが並ぶ場所とカフェの間……丁度、少し広いスペースが有りますので、みなさんはそこで戦闘をおこなって下さい」
 敵の戦闘能力と、周辺の状況についての説明を終えてから、セリカは優しく微笑んだ。
「ここのカフェはスイーツの美味しさが有名らしいです。討伐後は、カフェでスイーツを楽しんだり、綺麗なカンザクラを見たりするのも良いですね」


参加者
エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
クレーエ・スクラーヴェ(明ける星月染まる万色の・e11631)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
朱桜院・梢子(葉桜・e56552)

■リプレイ


 降下後、敵の位置を即座に把握する、ケルベロスたち。
(「カンザクラかぁ、綺麗な見た目は好きだけど、攻性植物になったからには倒すしかないよね」)
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)は少し名残惜しげに敵を見やり、倒す決意をかためる。
「サクラって春だけじゃないんだ? 初めて知った!」
 カンザクラを見て、やや驚きの声をあげる、アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)。
(「冬に咲く桜、ですか。冬と言えば、休眠する植物が多いと思っていましたが、とても綺麗ですね」)
 エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)も、敵と化したカンザクラをじっと見て思案する。
 美しく咲いている、淡い紅白色の花弁が、敵がうごめく度にはらはらと散ってゆく。
「桜……ねぇ……」
 深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)の呟きに、クレーエ・スクラーヴェ(明ける星月染まる万色の・e11631)のビハインド桜が、呼ばれているのかと反応する。
「桜は同じ“桜”でもきっと寒桜を見たことはないだろうから、後でゆっくり見せてあげたいな」
 クレーエが桜の頭を優しく撫でながら、ルティエと桜に微笑みかける。
「ん、そうだね」
 ルティエが柔らかい微笑みを返すが、敵に向き直った頃には、笑みが消えていた。


「元は桜と言えど、人に仇なすなら伐採させてもらう!」
 他に被害がゆかないよう気をつけながら、しっかりと敵だけを狙って、ルティエは駆け出し、宙へと跳び上がる。
 流星のごとく煌めく、重い蹴りを叩き込んで敵の機動力を奪う。
 ボクスドラゴンの紅蓮は、ルティエの指示通り、後衛のメディックを庇える位置につきながら敵を攻撃。
 敵の迫る動きが鈍ったのを見逃さず、クレーエは黒鴉ノ爪嘴を鞘からすっと抜き、一歩踏み込み、雷の霊力による神速の突きを繰り出す。
 直後、心霊現象で敵を金縛りにする、桜。
「回復は梢子さんにおまかせ! 夕立の まだ晴れやらぬ……」
 明るく宣言した朱桜院・梢子(葉桜・e56552)は和歌を詠み、その情景を具現化する。
 くっきりと澄んだ明るい月光が辺りを照らし、カンザクラの花吹雪も重なって、幻想的な風景をかもしだす。
 梢子は仲間を晴れやかな気持ちにさせ、前衛陣のBS耐性を高めた。
「葉介は足止めお願いね!」
 梢子がビハインドの葉介に声を掛けると、葉介は迅速に念を用いて周囲の石を飛ばし、敵にぶつけてダメージを与える。
 いくつかの石が突き刺さり、敵は身悶えるかのように幹をねじったかと思えば、身体の一部がつる草のようなものに変わった。
 つる草が猛スピードでケルベロスたちに向けて伸びるが、前衛陣は大地を蹴って四方へ飛び、上手くかわす。
「さぁ、この飛び蹴りを、見切れるかなー?」
 幹を目掛け、重力の宿った飛び蹴りを炸裂させ、足止めを付与する、氷花。
 攻撃重視で短期決着を目指している氷花の一撃は、かなり効いたようだ。
「足止めが結構入ってるみたいだから、シャドウリッパーでBSを増やしてOGでトドメだよ! ふふふ、この完璧なコンボを見せてあげる♪ あ、万が一の時にはステルスリーフで立て直すね」
 お気に入りの、オーロラピンクの長い髪を片手でさらりと梳き、はつらつと声をあげる、那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)。
 戦術頭脳派な摩琴は、戦況を見極め、あらかじめ決めていたグラビティを変更し、視認困難な斬撃を繰り出す。
 敵の樹皮が、ズタズタに掻き斬られる。
「最後まで油断せずに戦いましょう」
 自分の友達であるミミック、フォーマルハウトと共に戦場を駆け抜け、隙をうかがっていたカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)。
 見る度に異なる色をしている鎖、infinityを手慣れた様子で操って伸ばし、敵を締め上げた。
 フォーマルハウトも同時に敵を攻撃し、枝をへし折る。
 だが敵もやられっ放しとはゆかず、ケルベロスたちの連携が途切れた瞬間、つる草が隙をついて摩琴に絡みつこうとした。
 クラッシャーを優先して庇おうと注意していたクレーエが間に割り込み、摩琴の代わりに、つる草で全身を締められる。
 苦痛の声がこぼれそうになるも、ルティエと視線が重なれば、愛する彼女の心配や不安を取り除こうと、クレーエは微笑んだ。


「ちゃんと助けるよ!」
 アイリスが無数の霊体を武器に憑依させ、敵のつる草を斬り捨てる。
 汚染した敵はざわざわと枝を揺らし、花びらを舞い散らせた。
「……清浄なる力を秘めし、空の石よ。……神聖なる輝きで穢れを、祓い賜え!」
 見る者に安らぎを与える、澄み切った空色の如く煌めいている石の力で、エレはクレーエを回復。
 エレの肩に乗っていたウイングキャット、ラズリが宙へ飛び、羽ばたきで邪気を祓い、エレの代わりに後衛陣へBS耐性を付与する。
「アイリスさん、エレさん、ありがとーね」
「ありがとう」
 つる草から解放されたクレーエが礼を言い、駆け寄って来たルティエも感謝の言葉を口にした。
「みんなで頑張りましょう」
 カロンは言葉で味方を鼓舞し、敵の横側へ回り込むと、掌から放つドラゴンの幻影で敵を焼き払う。フォーマルハウトも同時に攻撃し、ダメージを重ねる。
「あはは♪ 貴方を、真っ赤に染め上げてあげるよ!」
 武器を構えた氷花は、後方のカフェに被害が及ばないよう気をつけながら、くるりと回転し、踊りつつ敵を斬り裂く。
 血の代わりに樹液が零れ、甘い香りが辺りに漂う。
「ちゃちゃっと倒してすいーつ食べに行きましょ!」
 甘い匂いでスイーツが連想され、梢子は待ちきれんとばかりに仲間たちに声を掛けた。
 回復の必要が無いと判断し、加速したハンマーで敵を叩き潰す、梢子。葉介も敵を攻撃し、ダメージを追加する。
 御守りの紅い房飾りが柄についている日本刀、紅華焔を構えたルティエは、黒鉄の刃で緩やかに弧を描き、敵に斬撃を浴びせる。
 急所のみを的確に斬り裂く斬撃と、紅蓮の攻撃も同時に入り、敵は苦しげにつる草をうごめかせた。
「明けること無き夜、沈むこと無き月の舞台を始めよう」
 ルティエが繰り出した攻撃に合わせ、クレーエも素早くグラビティを展開し、月夜の舞台を具現化する。
 美貌の歌姫が響かせる歌は、聞き惚れるほどに魅了的で……聞こえているのか、敵の動きが停まった。
 隙だらけの敵を、桜がポルターガイストで攻撃。
「他のカンザクラさんや一般人さんに被害があっちゃダメだもんね。このコは可哀想な事になっちゃったけど……せめて最期のときを、あなたの為に踊ってあげる」
 光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えたアイリスが、躍るように回り、跳ね、軽快にステップを踏み、敵に突撃する。
(「この美しさが損なわれるのはいただけませんね。しっかりと駆除しませんと」)
 笑っていれば絶対大丈夫、という信念を持つエレは、戦闘中でも笑みを消さない。
 光り輝くオウガ粒子を全身の装甲から放出し、前衛陣の超感覚を覚醒させる。ラズリは攻撃を終えると、エレの肩へ戻った。
 トドメを刺そうと待ち構えていたのは、摩琴だ。
 愛銃、銀のコルトパイソンPPCカスタムQuick Python Customを、既にホルスターに召喚し終えている。
「撃ち抜け! High Speed Specter!!」
 タイミングを逃さず、ホルスターから一瞬で銃を抜き、敵を撃つ。
 摩琴が撃ち出した超高速のエクトプラズムは、高威力を発揮し、敵を粉砕。
 ホルスターに摩琴が銃を収めた刹那、消えてゆく花びらと共に攻性植物は完全に消滅した。


「周囲の片付けをしようよ。寒桜、傷付いてないと良いんだけど」
 摩琴は仲間たちに声を掛け、後片づけを始める。
「寒桜の花吹雪みたいでしょ? あ、避難してた人達にももう大丈夫って言っとかないとね!」
 フローレスフラワーズでヒールをし、花びらのオーラを降らせていた梢子は、急いでその場を離れてゆく。
「素敵な場所だし人もたくさん通るからな……丁寧に修復作業を行おう」
 念入りに周囲を確認し、ヒール作業をする、カロン。
「ヒールが終わったら、皆でカフェでスイーツ食べたいな」
 カフェを横目にヒールを行ない、氷花が仲間たちを誘う。
「寒いのはすっごく苦手だけどそんな時に綺麗に咲くお花っていいね。ボクの髪の色と似てて親近感♪ 真冬のお花見も良いもんだね!」
 摩琴が白い息を吐き、カンザクラをしばらく眺めていたが、両腕で自分を抱きしめる仕草をする。
「でもはやくあったまりた~ぃ!!」
 切実な摩琴の願いにメンバーは楽しそうに笑い、カフェに向かう。
「折角なので奥さまと桜と紅蓮で一家団欒、デートに行きたいね。カフェは後で行くよ」
「ん、クレーエと一緒に、ぷちデート……みんなでお花見をしてから行くねー」
 クレーエとルティエはカンザクラが良く見える場所へ進み、寒さをしのぐように手を繋ぎ合う。
 満開のカンザクラは淡紅色の花が美しく咲きほこり、見る者の心を和ませる。
 少しして、梢子が店員や客を連れ、戻って来た。
「ちょっと贅沢して苺タルトとフルーツケーキを頂きましょう」
 もふもふのラズリを肩に乗せ、桜を眺めながらケーキを楽しむエレ。
 ひらりと落ちる花びらを、ラズリは興味津々で眺めている。
 カフェで穏やかにのんびりと過ごす、エレとラズリ。
「なにはともかくあったかい紅茶くださいな! 桜のフレーバーってのがあるみたいだし、それとフルーツ系のケーキをもらっちゃおうかな?」
 摩琴はメニューを確認してから、他のメンバーはなにを注文したのかと気になり、見て回る。
「イチゴのタルトとショートケーキを頂きましょう。それと飲み物にコーンポタージュも」
 カロンはそれぞれ2人分を注文し、花見をしながらフォーマルハウトと一緒に食事をする。
「お花見とカフェを楽しむよ! 冬に見るサクラも綺麗だね!」
 花見を一度してから、メニューへ視線を移し、真剣にメニューと睨めっこしている、アイリス。
「どれも食べたい……けど、お腹は有限なんだ……! よおし、桜チーズケーキと抹茶ラテをお願いしまーす!」
 真剣に選び、アイリスは仲間たちを見回す。
「皆は何を頼んだのかな?」
 アイリスも摩琴と一緒に、メンバーが食べているものを順番に見てゆく。
「ショウケースにあるもの、端から端まで全種類くださいな!」
 梢子の注文に、お腹は有限と言っていたアイリスが驚いて、目を丸くする。
「苺のショートケーキとかあるかな? それを食べてみたいな」
 氷花はケーキショーケースの中を確認してから、注文した。
「あら、期間限定の、桜もんぶらん? へぇ、桜色のくりぃむに、桜の花びらの形のちょこれいとがのってるのね……これも食べたいわ!」
 どんどん注文を追加してゆく、梢子。
「期間限定とかあるんだ? 梢子さん良く気付いたね」
 梢子の注文内容を聞き、関心を示す氷花。
「んんー、ケーキもラテも美味しいよ、美味しいよー!」
 両足をパタパタ動かし、美味しさを表現するアイリス。
「花より団子っていうけど、花を見ながらの団子はサイコーに美味しいよね。この場合はケーキだけど!」
 頬を緩め、嬉々としてアイリスは語る。
「むむむ、どれも美味しそうだなぁ……ね、みんな、良かったらシェアしてくれない?」
 悩んでいた摩琴が、名案とばかりに問うと、了承の声が返って来る。
 細身だが、スイーツに対してはブラックホールの胃袋を持つ摩琴は、色んなスイーツを食べてご満悦だ。
「温かい紅茶も頼んで……せっかくだから外の席で寒桜を見ながら食べましょうか」
 一通りシェアし合った後で、梢子は外テーブルにつき、花見をしつつスイーツを味わう。
「うん、どれも美味しいわね! 桜もんぶらんもほのかに桜の香りがして一足早い春を味わえるわ~」
 スイーツに夢中になり、食べては感想を呟き、嬉しそうに自分の頬に手をあてる梢子。
 紅茶を飲みながら静かに桜を眺めている葉介の肩に、花びらが舞い落ちる。
「ほら、花びらついてるわよ」
 食べ終わるまでスイーツに夢中かと思いきや、それに気づき、花びらをとってあげるが、梢子はすぐにまたスイーツを味わい始めた。
 一通りカンザクラを見終わり、あとはカフェでのんびりしようと、ルティエとクレーエがカフェに入って来る。
「温かい飲み物と、美味しいケーキと……幸せだねぇ」
「わー! すごいフルーツいっぱい!!」
 小食の為、ほぼ飲み物だけで、ケーキはあまり口にしないクレーエだが、フルーツケーキを前にして嬉しそうに尻尾をふりふりしているルティエの愛らしい姿が見れて、幸せそうだ。
 ケーキを桜に食べさせてから、クレーエはケーキを一口分、フォークですくう。
「奥さまにもあーん……照れちゃって食べないかな?」
 クレーエの甘い仕草に頬を赤く染めながらも、ルティエは口元に差し出されたケーキを口に含んだ。
「同じ桜の名を持つ植物でも様々な種類があるのですね」
 持参した植物図鑑を開き、桜や寒桜や霞桜など、数多の種類の写真と紹介が載っているページを見て語る、カロン。
「えっ、図鑑、どれどれ? あのコは何て名前か、この本にのってるかな?」
 アイリスが隣から覗き込み、植物好きの氷花も興味津々というように後ろから覗き見る。
「あ、カロンさんが図鑑を持ってるならちょっと一緒に覗かせて貰えるかな? もちろん迷惑じゃなければ、だけど!」
 カロンはクレーエの頼みを、快く受け入れた。
「桜も色々あるもんねー……」
 端っこからそっと図鑑を覗き込む、ルティエ。
「桜が興味津々だし帰りに僕らも図鑑買おうね。桜の花が沢山載った写真集みたいなのも良いかも」
「ん、帰りに本屋さんね、了解」
 クレーエの提案に、ルティエが頷く。
 ケルベロスたちはしばらくの間、桜やスイーツについて話したり、スイーツを味わって堪能したりと、ささやかな休息を楽しんだ。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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