●雪のりんご園
一月。青森のりんご農家は雪で畑に入れないため、家の中でできる仕事をする季節である。にもかかわらず工藤・リンコは畑の様子を見に来ていた。
「こんな時期に花が咲いているはずがないのに……」
リンコは家の中で受粉用のハチを住まわせる小屋を作っている時に、窓の外で金色に輝く花粉が飛んでいるのを見て、不思議に思い見に来たのだった。
「うそ……咲いてる」
まさかとは思いながらやってきたが、実際に一本だけ花を咲かせている林檎の木が存在していた。いままでこんなことはありえなかったし、今も目の前の光景が信じられないリンコ。
そんな彼女がおそるおそる林檎の木に近寄るやいなや、その木が不自然に歪む!
悲鳴を上げる間もなく、リンコは飲み込まれてしまった!
●攻性植物討伐作戦
「ケルベロスの皆サンお疲れさまネ!全員揃ったアルか?今日の作戦の説明を始めるヨ!」
クロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が集まったメンバーを見渡し、説明を始めた。
青森のりんご園で林檎の木の攻性植物の事件が起こることを御影・有理(灯影・e14635)は懸念していたという。
「有理サン、バッチリ的中ヨ。なんらかの胞子を受け入れた林檎の木が変化したと思われる攻性植物が青森のりんご園で確認されたヨ。そのりんご園を管理しているりんご農家の女性が林檎の木の攻性植物に取り込まれ宿主にされてしまったアル。急いで現場に向かって、一般人を取り込んだ攻性植物を退治して欲しいネ!」
●説明
「攻性植物の能力の資料を読みあげるアルヨ」
蔓触手形態・身体の一部をツルクサの茂みの如き「蔓触手形態」に変形させ、敵に絡みつき締め上げます。
光花形態・身体の一部を光を集める「光花形態」に変形し、破壊光線を放ちます。
収穫形態・身体の一部を黄金の果実を宿す「収穫形態」に変形させ、その聖なる光で味方を進化させます。
「この季節のりんご園に近づく人はそうそういないし、現場には注意喚起と避難してもらって人払いは済んでるヨ。様子を見に来ただけの人を襲えるくらいの位置にあった木が変異してるから、積雪も気にせず現場に踏み込むことができるネ。だから細かいことは気にせず戦ってもらう事ができるはずアル。被害者は攻性植物と一体化してるカラ普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまうネ。相手にヒールをかけながら戦えば、戦闘終了後に取り込まれてた被害者を救出できる可能性がアルネ。ヒールグラビティを敵にかけて敵が回復しても、ヒール不能ダメージは少しずつ蓄積するカラ、粘り強く攻性植物を攻撃していけば最終的には倒せるネ。ケルベロスの忍耐力、攻性植物に見せつけチャイナ!」
●クロードの所見
「こんな寒い季節、雪の中でも様子を見に行くほど林檎を愛してる農家サンアル。可愛い林檎たちに殺させたりできないと思うヨ。どうか生きて帰れるように尽力してほしいところネ」
参加者 | |
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メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015) |
フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301) |
御影・有理(灯影・e14635) |
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513) |
鉄・冬真(雪狼・e23499) |
清水・湖満(氷雨・e25983) |
影守・吾連(影護・e38006) |
款冬・冰(冬の兵士・e42446) |
●雪のりんご園
降り立った地には雪が残っていた。ケルベロス達は現場のりんご園まで寒い中を徒歩で進む。
「おーさむ……でもリンコはきっちり救出せんとなぁ。例の草(攻性植物)、さっさと狩るよ」
首に毛皮を巻いた清水・湖満(氷雨・e25983)は白い着物の裾を乱さず、しかし遅れもせずにすり足で急ぐ。
「うーん、こういうのもなかなか減らないなあ。女性も絶対に助けたいよ」
冷たい空気をふわりと和らげるネロリの香りはメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)、小瓶から取り出した金平糖を口に放り込み、糖分を脳にチャージする。
「しっかりきっちりリンコさんを助けるよ。精魂込めて林檎を育ててる農家のお姉さんを、犠牲になんてさせないんだから!」
「……林檎農家の方々を損なうなんてあってはいけないの、絶対にね」
花とりんごのデザインで決めたフィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)と林檎には一家言あるキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)は被害者の救出を固く誓った。サーヴァントのバーミリオンは今日もしっかりキリクライシャの傍らに付き添っている。
「ん。冰も一般人救助に尽力」
ナノマシンの体をちゃっちゃか動かしながらついてくるのは款冬・冰(冬の兵士・e42446)。白い肌と白銀の髪が雪の風景に溶け入りそうだ。
「農家のお姉さん、林檎をとっても気に掛けてたんだね。事件を知ったからには放っておけないや。必ず助けるよ、ね、冬真さん、有理さん、リム!」
元気よく振り返る影守・吾連(影護・e38006)の後ろからは鉄・冬真(雪狼・e23499)と御影・有理(灯影・e14635)の夫婦が顔を見合わせて頷きあっていた。有理のサーヴァント、リムは白い雪に少し興奮している。
たどり着いたりんご園の入口までは綺麗に雪かきしてあり、そこまで行けばもう巨大な林檎の木が現れていた。
●林檎の怪
その木は異様としか言い様がなく、巨大な林檎の実をその幹に抱いたまま籠のように絡まったまさに攻性植物・林檎の怪だった。
「まずは痺れてもらっちゃおうかな」
メリルディの稲妻突きがバリバリと瞬きながら、絡み合う幹を突いた。
「ほな、メディックさんに癒やし追加しとこか。爆ぜ、注げ」
吾連の頭上に黒く大きな氷が出現して、爆ぜる。湖満の剣呑な癒アップ技だ。
黒い氷の欠片が降りしきる傍ら、林檎の怪は金色の光を放つ。小さな林檎がぷくりと太り、光になって幹を包んだ。
「対象の回復行動確認。BS耐性が付与された疑いあり。足止めを試行し確認」
ドラゴニックハンマー・NPW-01『Larsen』を振り上げ、冰が轟竜砲をぶちかます。砲撃に揺れる林檎だが、足止めはいかに。
「まだまだぜんぜん戦い始めたばかりだからね。緋は命とその力を紡ぐ色。……さぁ、本気出していこうか」
フィーが取り出した薬瓶の蓋を開けると、後衛に赤い液体を振りまく。飛び出した液体はこれまた赤い光になって、後衛のケルベロス達の刃を研いだ。
「ありがとう、フィー!」
破剣の加護を受けた有理がメリルディに続き稲妻突きを見舞う。リムのブレスがBSを重ねようとするが、やはり効きが悪い感触がした。
「長期戦は覚悟の上だよ、頑張ろう」
冬真が意識を集中させると、林檎の怪の枝が軽い爆発を起こした。
「俺も加護を送るよ!」
さらに吾連が同じ列の有理にブレイクルーンで破剣の加護を与える。
「……いわゆる自然現象が起きるだけ……リオン、続いて」
キリクライシャのグラビティと記憶を元に、彼女の理想の林檎を宿した林檎の木が、林檎の怪に並び立っていた。と思うやいなや大木は姿を消し、赤くつややかな林檎が降り注ぎ、敵を害する。
バーミリオン、リオンが、見切りも構わずかりかりと破壊行動を行った。
まだまだ始まったばかり。助けるべき人は果実の中にいる。
●命の重み
「重いかもだけど、当てていくねっ」
メリルディがその身を覆うQui - mort mangerを拳に集中させ、重く撃ち込む。
「農家さん救って、草は狩る」
攻撃が続いたことによる被害者のダメージを予想し、湖満は林檎の怪にも先ほどの黒い氷を投げた。
驚いたのか、林檎の怪は蔓触手を湖満に伸ばし攻撃してくる。
「今の私は盾、攻撃の前にこの身を挺して皆を庇うのよ」
湖満はディフェンダーの仲間を制して、攻撃を受ける。湖満自らもディフェンダーのためか、さほど深刻なダメージを受けずに済んだ。
「ありがとう、コミチ、動きが止まって狙い安くなった。全砲門開け。……Feuer」
冰の全身から現れたミサイルポッドに総攻撃され、湖満に絡みついた蔓が離れる。器用に湖満を避けて着弾したミサイルは次々と爆発し、林檎の怪を苛んだ。
「わお、冰さんは相変わらず火力が高いなあ」
冰の攻撃に舌を巻きながら、その攻撃でできた傷をウィッチオペレーションで癒すフィー。マッチポンプに見えても、被害者を救うために必要な作業だ。
「冥き処に在して、三相統べる月神の灯よ。深遠に射し、魂を抱き、生命の恵みを与え給え」
有理が詩篇を詠唱し、さきほど湖満が負った触手での傷を癒していく。有理が癒しを行っている間にリムがブレスで攻撃するスタイルで隙を見せない。
妻達の攻撃のあとは冬真の手番だ。青い稲妻がバリバリと迸り敵を突く。
「耐性が手薄だな……前衛のみんな!」
吾連が前衛に黄金の果実の聖なる光で耐性を付与していった。
「……痛みと回復の繰り返しが、どうか彼女を強く苛んでいませんように」
祈るキリクライシャのガネーシャパズルから竜を象った稲妻が飛び出し、林檎の怪を攻撃する。リオンも主人の稲妻をかいくぐりながら凶器で攻撃していった。
囚われの被害者の命は果実の中で息づいている。攻撃と回復のバランスを崩せば失われてしまうその命の重みが、否応がなくケルベロス達の肩にかかっていた。
●林檎の悲しみ雪の中
激しい攻防戦が続いた。傷つけ、癒やし、その繰り返し。蓄積ダメージを狙う戦いゆえ、ジリジリとした駆け引きが長く続く。
「……抱えてるもの、教えて?」
メリルディが武器として連れている攻性植物、ケルスに咲いたアルメリアの金平糖を対象に分け、思い出を共有し、癒す。被害者の林檎を慈しむ記憶が流れてきた。
「もう少しだ! もう少しで……」
戦いの終わりが近いことを感じながらサイコフォースで攻撃する冬真。終焉の兆しは感じ取れるのに、それまでが長い……!
そのとき、突然林檎の怪が輝き、光を集め始めた。
「ほんまは面倒なんやけど、忍耐力になら自信あるからね!」
林檎の怪は集めた光を破壊光線として、先程攻撃した冬真に向かって放った。防御の体制を取った冬真を庇うのは白い和服。
ジュウウウウウッ!!
焼けた熱線が湖満の真っ白な体を呑み込み、灼く! 喉が焼け、声も出さずに耐える湖満。
「我が身に宿りし雷光よ、此の者に天の恵みを与えん!」
後衛から吾連が素早く湖満の火傷を回復し、致命傷になるのを防いだ。
「まだあんな力が……でも僕は僕の仕事をまっとうしなきゃならない!」
フィーは迷ったが、林檎の怪に閉じ込められた被害者を癒す方を優先した。もうなんども繰り返したウィッチオペレーション。
「私も癒す……! リムもお願い!!」
夫をかばってもらった有理が湖満を抱え上げ、リムと協力して火傷を回復する。焼けた喉が治ったようで、小さく咳き込み、彼女は立ち上がる。
「頑張るよ」
ゆらりと構えて。
「武器は持ってないように見える? ううん、私に武器なんて必要あらへんだけよ」
そういって、湖満は魂を喰らう降魔の一撃を放った。攻撃を受けた林檎の怪がぐらりと傾ぐ。
「目標、沈黙まで目前。オーバーキルを防ぎながらのとどめが必須」
冰はミサイルを連続で見舞いながら、幕引きをキリクライシャに託す……!!
「……林檎には林檎を……林檎を愛しむ方を失くすなんて、そんなこと少しも許す気はないの……!」
キリクライシャが再び顕現させた林檎の木の幻影は、しかし今までのものよりも大きく、威圧的に林檎の怪を見下ろした。
重力を体現したかのような赤い赤い宝石のごとく輝く林檎が次々と林檎の怪に降り注いでいく。めりめりと音を立てて幹にめり込み、引き裂いていった。
幹に抱え込まれていた大きな林檎の実は放り出され雪の地面に受け止められる。駆け寄るケルベロス達の傍ら、林檎の怪は物言わぬ林檎の木の残骸と化していた。
●林檎を愛する者よ
戦闘終了後、ヒールを使えるもの達が協力して被害者、工藤・リンコの回復をはかった。
「……なるべくリンコさんは休ませたいわ、他の農家の方はいらっしゃるかしら……?」
ヒールを持っていないために回復はリオンに任せ、キリクライシャはあたりを見回した。
「人払いしてたからまだ戻ってきてないと思う。この場でできることを……毛布! カイロ! あっためないとダメだよ!!」
フィーは用意していた毛布でリンコを包み、冷え切った手を摩擦で温めている。
「あ……」
温められたリンコは次第に血の気を取り戻し、小さく呻いてまぶたを開いた。
「何ともおへんようね。農家のひとが減っとる今、更にこんな事件で減らす訳にはあかんのよ」
「は……、林檎……林檎の木は」
湖満の声がけに意識をはっきりさせたリンコは、我が身よりも先にりんご園の無事を心配しているようだ。
「大丈夫、しっかり直すよ!」
「……冰も林檎は好き。だから、健勝で何より」
現場の破損箇所をヒールしていた吾連と冰が、彼女を安心させる言葉をかけた。
「口を開けて、安心するから。ねえ、りんごを使ったお菓子や料理のレシピを教えて?」
メリルディが小瓶から取り出した金平糖をリンコの口に一つ落とす。冬真と有理の夫妻が連絡した他の農家の人たちや救急車が到着するまで、メリルディはたわいない話をリンコにしてあげていた。
「ところであの二人はまだ帰ってこないわけ? リム置いちゃってさ」
「このあたりは雪が深いからリムも夢中で……雪に箱型の穴が、リムどこ?」
箱竜とコロコロ遊ぶ吾連を見ながら、フィーは天を仰ぐ。
「まあ、いつものことかあ。お土産に林檎ジャム買っていこうかな」
●雪を溶かす幸せ
電波が通りやすいところまで移動していた冬真と有理の二人は手をつないで歩いて戻ってくる最中だった。
「雪の量が全然違うね、雪うさぎ何匹作れるかな」
「ふふ、有理寒くない? おいで」
「え? 何笑って、あ」
冬馬の胸にすっぽりと収まった有理が、彼の大きな手を撫でる。
「……帰ったら有理の作るアップルパイが食べたいな」
「アップルパイ? いいよ、帰ったら作ろうね……ん」
落とされるくちづけは林檎よりも甘く、雪を溶かすほど暖かかった。
作者:星野ユキヒロ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年1月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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