2020年の成人の日は、1月13日――日本全国で成人式が行われ、華やかな晴着姿の若者達で賑わう。尤も、旧友との再会は喜ばしくとも、式典自体は特に面白いイベントでない場合が大半だろう。
だが、東北地方にあるその町の成人式は、毎年楽しみにされているという。式典の後、同じ会場でお祝いのパーティが催され、特製のビュッフェを振舞ってくれるのだ。
故に、出席者も毎年比較的多いのだが……よもや、それ故に『標的』に選ばれる事になろうとは。
――――!!
お祝いパーティの最中、突如、爆音轟き崩壊し始める建物。人々は怯え戦き、逃げ惑う。
「キャァッ!!」
今しも、激しい揺れに階段から転げ落ちた振袖姿の女性は、傍らの友人に手を伸ばす。
「ち、ちぃちゃん、助けて……」
「うるさい!!」
ほんの10分前まで、高校時代の『親友』との再会を喜び、『これからも親友』と言い合っていたのに。袴の裾を掴んできた手を、彼女は無情にも振り払う。
「こんな所で死ぬなんて、まっぴら!」
『親友』を一顧だにせず、彼女は非常階段目掛けて駆け出す。
折角、大学だって東京の方に進学したのだ。成人式で美味しい物を食べたら、故郷に帰るのもこれで最後。元よりその心算でいたのだ。
「絶対、生き残ってやるんだか……っ!?」
だが、外付けの非常階段に出た途端、激しい揺れに堪え切れず、3階の高さから鉄柵を越えて転落する。
「あ、ぐ……」
強かに地面に叩き付けられ、喉奥から鉄の味が込み上げてくる。まだ、意識はあるが、全身の激痛で身動き1つ取れない。
「や、やだ……死に、死にたくな……」
「おおー、みあげた根性でしゅ。『マブダチ』ほっといて、自分だけたすかろうとか、えーっと、こうゆうの……い、イギタナイってゆうんでしゅよね! シャララ、ちゃーんとしってるでしゅ!」
舌足らずな声音に違わず、まだ稚い少女だった。寒い最中にも拘らず、ベールを重ねたような薄着は、正にアラビアンナイトにでも出てくる幼いジンニーヤのよう。
だが、女性を見下ろす眼は暗く濁り、その背には小さいながらもタールの翼が広がっている。その正体は、シャイターン。『炎』と『略奪』を司る妖精8種族が1つ。
「た、助け、て……」
「いーでしゅよ。あんたはシャララに『選定』しゃれまちた。喜んでくだしゃいね、たった今、あんたはエインヘリアルに生まれ変わるんでしゅから」
すかさず、女性に灼熱の炎塊が浴びせられた。断末魔の叫びを上げる暇も無く、晴着の袴もその身体も何かも、忽ち燃え尽きて……後には何も残らない。
「……なーんだ、ハズレでしゅか」
詰まらなさそうに両頬をぷくぅと膨らませ、シャイターンの幼女はクルリと踵を返す。
「人が集まってたから、ココにしまちたけど……やっぱり、『オジサン』とか『オバサン』はダメでしゅねぇ」
次は学校とか幼稚園とかにしようと呟きながら、彼女はタールの翼を羽ばたかせ、飛び去って行った。
「そうですか、成人式の会場が……」
もっふりタヌキ、もといウイングキャットを抱き締め、眉根を寄せるシャドウエルフの少女……もとい、女性に慇懃に頷いて、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は集まったケルベロス達に向き直る。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
ヴァルキュリアに代わって死の導き手となったシャイターンは、相変わらずエインヘリアルを生み出すべく、事件を起こそうとしている。
「シャイターンは、多くの一般人が中にいる建物を崩壊させ、その事故で死に掛けた人間を殺す事で、エインヘリアルに導こうとしているようです」
シャイターンが襲撃するのは、東北地方のとある町の成人式。町の文化センターに新成人やスタッフ、来賓合せて500名程集まっているようだ。
「タイミングは、成人式のセレモニーの後、お祝いパーティの時、なんですね?」
アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)の確認に、ヘリオライダーも静かに肯いて。
「フロールさんの懸念がヘリオンの演算にヒットしましたので、皆さんに集まって頂いた次第です……しかし、事前に人々を避難させてしまうと、別の建物が襲撃されてしまい、被害を止められなくなります」
その対応として、ケルベロス達は予め建物の中に潜伏し、襲撃発生後、まずはシャイターンが選定しようとする被害者以外の避難誘導を行ったり、建物をヒールして崩壊を止めれば良いだろう。
「そしてその後、シャイターンが選定対象を襲撃する場所……外付けの非常階段に向かい、元凶を撃破するようにして下さい」
上手く対処すれば、犠牲者を出さずに事件を解決出来るだろう。
「敵は、『シャララ』という名前のシャイターン1体です」
10歳に満たぬ幼女の姿で、喋り方も舌足らず。だが、愛らしさより、寧ろこまっしゃくれて生意気そうな顔つきをしている。
「得物は、惨殺ナイフの二刀流ですが、トラウマを抉ったり炎を操るのも得意なようです」
尚、タールの翼は、他の妖精族の翼と同様に、空を飛ぶ事も可能だ。
「現れるのは『外付け』の非常階段、ですよね……逃げられないように気を付けないと」
ウイングキャットを抱き締めたまま、考え込んだ表情で呟くアイカ。
ちなみに、非常階段の周辺は自転車置き場となっていて、成人式当日はほとんど駐輪されていない。戦うのに支障はないだろう。
「シャイターンが選定しようとする一般人の女性は……避難時に問題行動を起こし、単独で逃げ出した所を襲撃されるようです」
この一般人の名前は「真高・智以」。彼女が独りで逃亡した後ならば、他の一般人を救出したり建物をヒールしても、シャイターンの襲撃は予知通りに行われるようだ。
「要は、タイミング次第です。可能でしたら、誰も大怪我をしたり死亡したりしないよう……宜しくお願い致します」
参加者 | |
---|---|
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
レリエル・ヒューゲット(小さな星・e08713) |
ドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669) |
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383) |
天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082) |
●成人の日2020
今年は相当な暖冬であるらしい。それでも、本日の外気温は一桁――思わず身を震わせるウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)。
「ふむ、中では成人式を楽しんでおるんじゃろうのう」
成人式なんて、11歳のウィゼにはまだ早い……まあ、元より、ドワーフは年齢不詳の気があるのだけど。
「じゃが、邪魔だけはさせないのじゃ」
ヘリオライダーの予知に従い、ウィゼは文化センターの非常階段付近で待つ――やはり、成人式にそぐわぬ者の襲撃を。
それは、非常階段を見張るように待機するドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)も同様か。
「失敬な……俺は36歳だ」
腰に下げた魔導ランプに触れながら、大いに主張するドゥマの傍らには、エジプトの詩的呼称を冠したライドキャリバーが控えている。
「確かに、背は高いが……あたしより年下じゃろう? おぬし」
冷静なツッコミに、プイとそっぽを向くドゥマ。ライドキャリバーのラハブごと隠密気流を纏うと、ウィゼから離れた。どうも子供扱いを厭う節があるが、ちょっとした仕草から実年齢(9歳)が滲み出るか。
クシュン――。
小さなくしゃみが、ビョウと吹いた北風に紛れた。
成人式会場――文化センター4階、中ホール。
(「そう言えば、私も新成人だっけ」)
という訳で、レリエル・ヒューゲット(小さな星・e08713)も式典に出席。今は、待機の呈で文化センターの見取り図を眺めている。シャイターンが襲撃してくる非常階段から遠ざかる避難ルートの確認に余念がない。
既に式典はつつがなく終了し、お祝いパーティの真っ最中。ホールの卓には、御馳走が所狭しと並んでいる。
「こんな美味しい成人式があるんだね! ボク、今年成人で良かったよ♪」
仕立てたばかりの紅の振袖は、艶やかな花模様。オーロラピンクの髪にも花を飾り、那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)は、嬉々としてビュッフェに舌鼓を打つ。
(「後は……人命と、友情も、守って上げたいよね」)
無邪気ながら、その実、ケルベロスの使命は忘れない。談笑している振袖姿と袴姿の女性2人を、テーブル越しに窺っている。
「どうでしょう?」
「どう、と言われても……」
男性はスーツ、女性は振袖や袴が多い中、一際目を引くのはミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)だ。何せ、ケルベロスコートを着用している。面と向かって不審をぶつける者はいないものの。こんな新成人いただろうか、とひそひそ噂になっている。
「……周囲に紛れる装いの方が、良かったのでは?」
ミリム自身も『コスプレ』の感覚でいるが、眉根を寄せる天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)。会話自体は嫌いではない。でも、感想を問われても、それに見合う語彙があるかどうかは別の問題だ。
「兎に角……選定なぞさせて堪るか。必ず止めるぞ」
小声で決意を口にして、水凪は物陰に隠れるように壁の花となった。
●襲撃
――――!!
午後1時30分――突如、轟く爆音。天井からパラパラと破片が墜ちてくる。
「ち、ちぃちゃん!?」
真っ先に、ホールから逃げ出す袴姿の女性。次いで、彼女を追い掛ける振袖姿の女性も見送り、ミリムは身を竦ませる新成人達の方に向き直る。
「皆さん! これはシャイターンの襲撃です! 慌てずにこちらへ!」
瓦礫の類は、ゴーストヒールの亡霊達で受け止め――要は、ヒールしながら声を張るミリム。
「大丈夫! ボク達はケルベロスだよ!」
「シャイターンが居る時に1番やっちゃいけないのは、他の怪我人とか押しのけて自分だけ逃げようとする事! 却って狙われますよ」
周囲にケルベロスの存在を報せ、摩琴は避難ルートを誘導する。ダイナマイトに変身したレリエルの注意に、新成人達は寧ろホッとした表情で避難を開始する。
とは言え、人数は相当に多い。避難の間にも建物は破壊されていくが、レリエルのウイングキャット、プチも懸命に翼を羽ばたかせて建物のヒールを手伝っている。
「キャァッ!!」
斯くて、襲撃より数分後――激しい揺れに階段から転げ落ちた振袖姿の女性は、傍らの友人に手を伸ばす。
「ち、ちぃちゃん、助けて……」
「うるさい!!」
袴の裾を掴んできた手を、真高・智以は無情にも振り払う。
「こんな所で死ぬなんて、まっぴら!」
『親友』を一顧だにせず、智以は非常階段目指して駆けていく。
「大丈夫? 後ろにボクの仲間がいるから、そっちに逃げて」
呆然と見送るしかなかった彼女に一声掛けて、摩琴は急いで智以を追い掛けた。
(「始まったようじゃのう」)
襲撃を察知するや、ウィゼは防具特徴を以て壁沿いに非常階段の陰へと回り込んだ。
「キャァッ!!」
果たして、非常階段の3階から、真高・智以が転落したその時。
「おおー、みあげた根性でしゅ」
舌足らずな声音に違わず、まだ稚い少女が降り立つ。
「『マブダチ』ほっといて、自分だけたすかろうとか、えーっと、こうゆうの……い、イギタナイってゆうんでしゅよね! シャララ、ちゃーんとしってるでしゅ!」
幼きジンニーヤ……否、背にタールの翼を負うシャイターンは、得意げに小さな胸を張る。
「あんたはシャララに『選定』しゃれまちた。喜んでくだしゃいね、たった今、あんたは――あれ?」
「ギリギリだけど、ナイスキャッチ!」
智以は無事だった。彼女を追ってきた摩琴も続いて非常階段を飛び降り、エアライドも駆使して、クッション代わりに受け止めたのだ。
(「今じゃ!」)
愕然とするシャイターンへ、ウィゼも又、非常階段から飛び掛かる。
「お互い、成人式にはまだまだ早い者同士。甘いお菓子はどうかのう」
ウィゼのドキドキ女子力クッキング!! 女子力満載のスイーツは、正に昇天する程のお味。
――――!!
『危険』を察知したか、ウィゼのスイーツこそ避けたシャイターンだったが、そこへラハブに騎乗したドゥマが突進する。
「デウスエクス、命の循環から外れたモノが定命の者の命を奪うなど言語道断」
「もう! 何でしゅか!」
流石に獲物から距離を置きながら、シャイターンはむぅっと唇を尖らせる。
「シャララの邪魔は、ゆるちまちぇんよ!」
舌足らずに横柄な様子を、ドゥマは冷ややかに睨み据える。
「ふむ……イギタナイ、とは『寝起きが悪い、いつまでも寝ている』という意味で、性根が悪い事を指す言葉ではないと理解しているが」
少年と静かに肩を並べた水凪は、その面に冷笑を刷く。
「言葉の意味も知らずに使うようでは、まるで本物の幼子のようでしかないな」
水凪が掌中でガネーシャパズルを組替えるや、現れたのは怒れる女神の幻影。
「よ、よくも! シャララを馬鹿にちまちたね!」
シャイターンが激昂したのは、水凪の挑発の所為か、或いはカーリーが齎した狂乱故か。
ゴオォッ!
本来なら智以へと放たれていた炎塊が、水凪目掛けて迸る。ラハブに騎乗したまま、ドゥマは粛々とその軌道を遮った。
●立ち位置を視る
ドゥマを包んだ炎は消える事なく、ドワーフの小柄を焙り続ける。
「……破壊、か?」
自らの防具耐性との相違を感じ、少年はその攻撃の質を推測する。
「え、あ……」
「キミは隠れていて……逃げたいなら、それもいいけど」
戦闘を目の当たりにして狼狽する智以に、声を掛ける摩琴。そう言えば、レリエルは避難完了後に殺界を形成すると言っていた。一般人の彼女は抗えまい。
(「後で、智以と親友の間を取り持とうかな。友達は大事だからね」)
今や、シャイターンの注意は水凪を始め、ケルベロスの方に向いている。ならば、守りながら戦うより、逃がしてしまう方が得策だ。
「自分だけ助かろうなど、2度と考えるな」
這う這うの体で逃げ出す智以に、果たして水凪の諫言は届いただろうか。
「シャドウエルフだって『癒し』で戦えるんだから!」
敢えて敵の気を引くように、声を張る摩琴だったが、内心ではメディックとして、ドゥマにどのヒールを使うか逡巡する。
(「武器グラビティの対策しか、考えてなかったね……」)
恐らく、先程の炎は、シャイターンの種族グラビティだろう。延焼の気配を感じ取り、溜めた気力を注ぐ事にする。
ミリム、レリエルとプチは、一般の避難が完了しなければ来られない。それまでに少しでも敵の情報を得るべく、攻撃を仕掛けるケルベロス達。
「むむ……」
敵の足下を崩すべく、繰り出した地裂撃をひらりと躱され、ウィゼは不満げに眉根を寄せる。幼女の姿であろうと、敵はデウスエクス。ウィゼの攻撃が完全に捉えるのは難しい。
――――!!
だが、ドゥマの特技とも言える力技、轟竜砲をぶっ放せば、響き渡る轟音に、確かに悲鳴が入り混じった。やはり、ディフェンダーでありながら、水凪も初手からカーリーレイジを命中させた事を鑑みれば……シャイターンは、キャスターでなさそうか。
(「恐らく、回復の手段はないだろう……メディックの線も、薄い」)
シャイターンの刃に映った水凪のトラウマは、像を結ぶ前に摩琴の気力で散らされた。
「ジャマー……否」
ドゥマが被ったゲヘナフレイムの延焼も、メディックのキュアで事無きを得ている。厄を得手するのは、狡猾なシャイターンらしいとも言えようが。
「寧ろ、攻撃は力任せというか、速度重視というか」
「世の道理も判らぬ童に、ジャマーの振舞いは難しかろうしな」
「また馬鹿にしたでしゅね!」
ドゥマと水凪は、1つ1つの可能性を取捨選択していく。
――――!!
シャイターンの怒れる斬撃は、再び水凪へ。
「……っ」
惨殺ナイフ二刀流の技と言えば、ブラッディダンシング――シャイターンの両手の刃が、舞うように閃く。正確な斬は敵をばらばらに解体せんと。
「しっかり!」
すかさず、アニミズムアンクを掲げた摩琴の大自然の護りが、癒しを注ぐ。
「……そうか」
攻撃を被って得心した。水凪のバトルクロスは斬撃に強い。幼き身が振るうにも拘らず、盾たる身を刻む刃は、重い。となれば。
「お待たせしました!」
「一般人の避難、完了だよ!」
奇しくも、レリエルとプチ、ミリムが駆け付けて来たタイミングで、水凪は鋭く言い放つ。
「敵は、クラッシャーだ!」
「うむうむ」
尤もらしく頷いて見せて、ウィゼは威厳と知性溢れる口髭を捻る。
「役者も揃った所で、総攻撃と行きたい所なのじゃ」
●悪意の選定を叩き潰せ!
「……なぁんだ、結局、オバサンばかりでしゅね」
「オバッ……オバさんって言う人がオバさんですー!」
実も蓋もないシャイターンの言葉に、二十歳のミリムは思わず抗議の声を上げる。
「それに、数百年生きるデウスエクスが、子供な訳無いでしょう」
「失敬でしゅね! シャララはずーーっと子供でしゅ!」
睨み合いはすぐさま、ナイフとバスタードソードの切り合いに……ナイフの半分は、水凪の方に向かっていたけれど。
(「二十歳でオバサン呼ばわりかぁ……」)
後衛に立ったレリエルはもっと冷静で、小首を傾げて考える。
(「彼女の両親は、私と同年代の見た目なのかな? まあ、デウスエクスだし」)
それとも、彼女の方こそ、外見年齢に関するトラウマがあるのか。考察は尽きない……というか、ドン引きしそうなのでここら辺りで止めておく。
いよいよ、全員合流を果たしたケルベロス達――とはいえ、総攻撃に至るまで、また暫くの手数を要した。
ケルベロス達の実戦経験の程が様々であれば、『全員』の攻撃を命中させるのに、敵の足止めは不可欠。だが、足止めの技を用意していたドゥマも、スナイパーの位置から捕縛の業を放つレリエルも、サーヴァントを伴う。魂分かつ身は手数で優位であっても、厄付けは万全と言い難い。
故に、シャイターンがキャスターでなかったのは、幸運と言えただろう。
勿論、ケルベロスの命中率とて零ではない。圧倒的な手数の多さを駆使し、敵の動きを鈍らせる間も、倦まず弛まず攻撃を重ねていく。
「……俺は36歳だ」
時にシャイターンの攻撃を遮っては、子供扱いを嫌悪するトラウマに冒されながらも、ドゥマはライドキャリバーに騎乗した一撃離脱を繰り返す。
ウィゼも攻性植物に補食させながらお子様と戯れたり、ガジェットガンを嬉々としてぶっ放したりしている。
「新成人の者達、おめでとうなのじゃ」
更には、声高らかな戦言葉は、社会という戦場に赴く者達へ激励を――引いては、やはり戦場に立つ自らに対しても。
「永遠を生きても、成長出来ないよりはマシかな……暗殺と諜報のシャドウエルフでも、人を守れるんだから!」
そして、レリエルのウイングキャットと肩を並べ、後方から戦況を俯瞰する摩琴は、的確なヒールに専念する。
――そして、遂に。刻は訪れる。
「……頼むぞ」
死霊魔法を以て、大地に潜む死者の記憶を槍に変える水凪。その視線は鋭く険しい。或いは、ヴァルキュリアに換わっての『エインヘリアル』の創り手に、思う所があるのかもしれない。
「風槍よ! 穿て!」
ミリムも紋章を描くや、女王騎士の風槍を次々と放つ。その尽くに貫かれ、シャイターンは悲鳴を上げる。
「ど、どうちて! シャララを邪魔するでしゅ!?」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、簡単なことなのじゃ」
今度こそ、女子力ふるこーす☆を叩きつけながら、ウィゼは大いに胸を張る。
「あたし達はケルベロスで、シャイターンは敵じゃからのう」
「その通り……外れたモノ、俺は地獄からお前を捕まえに来た獄卒だ」
虚空より得た巨大な銀のショベルで突き刺し、『空間ごと』敵を埋葬するドゥマ。ゲヘナの炎で焼却し、最後は埋葬された空間ごと粉砕する。
「……生きたなら死ね」
同時、骨の手足の少女が何体も湧き出すや、やはりショベルで乱暴に空間を掻き混ぜた。
容赦ない集中攻撃は、幼女を穿ち、叩きのめす。生意気な態度は忽ち見る影もなく、シャイターンはオロオロと視線を彷徨わせる。
「シャ、シャララは、こんな所で……」
「子供でも大人でもシャイターンはシャイターン。容赦なくやっつけちゃいましょう」
宙に逃れようとしたシャイターンを許さず、武神の矢を放つレリエル。神々を殺す漆黒の巨大矢だ。妖精には一溜りも無かろう。
「アグッ!? イギャァァッ!」
「何言ってるか、全然わかりませんね!」
更に、ミリムはダブルジャンプでその頭上を取るや、力一杯、シャイターンの脳天目掛けて、暴斧Beowulfを振り抜く!
バキィッ!
地面に叩き付けられた勢いで、小柄が幾度もバウンドする。
「撃ち抜け! High Speed Specter!!」
初めて攻撃に転じた摩琴は、愛銃・銀のコルトパイソンPPCカスタム【Quick Python Custom】を召喚。
「キミみたいな悪い子はお仕置きだからね!!」
同時、飛翔スピードが自慢のエクトプラズムをスタンバイし、超絶クイックドローを繰り出した。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年1月31日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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