ユーデリケの誕生日~お伽噺お茶会にようこそ

作者:あき缶

●夢見る娘が好むもの
 今日はユーデリケ・ソニア(幽世幼姫・en0235)の誕生日。
 彼女の好きなものは、おいしいものにきれいなもの、かわいいもの。
 だったら、きれいだったりかわいいものに囲まれたところでおいしいものを食べるのが、最も彼女が喜ぶことなのでは?
 そう考えたケルベロス達が企画したのが、お伽噺お茶会だ。
 おとぎ話に出てきそうなファッションで、お菓子や軽食とともにお茶を飲む。
 楽しい場になるに違いない。
 愛らしいレースで飾られた招待状を受け取ったユーデリケは目を輝かせる。
「おとぎ話! どんな格好をしようかのう!?」
 そう言って、彼女は皆を見回した。
「おすすめはあるかの? できればいろんな格好がしたいのじゃ!」
 主役なのだし、お色直しがあってもいい。
 彼女が目一杯、かわいいおめかしをする手伝いをしてあげようではないか。

 お茶会に参加する条件はたった一つ、おとぎ話に出てきそうな格好をすること。
 プレゼントだけでなく、お茶や軽食、お菓子の持ち込みも歓迎だそうだ。
 ユーデリケの服装をプロデュースしてあげるのもいいだろう。
 ユーデリケももう十四歳。そろそろ夢見る少女……という歳ではなくなりつつあるからこそ、夢がいっぱいつまった誕生日を贈るのもいいのではないだろうか。


■リプレイ

●おんなのこの好きなもの、それはきれいなもの!
 トンガリ帽子の魔法使いドラゴニアンが、ユーデリケ・ソニア(幽世幼姫・en0235)に明け方の空のような瑠璃色ドレスを着付けてくれた。
「可憐にドレスアップ致しましょう。お姫様のように」
 魔法使いの仮装をしたアリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)はおとぎ話の優しい魔女が、魔法をかけるような優美な手付きで、ユーデリケの髪をふんわりと巻いていく。
 未だ小さな手の爪も、つやりとエナメルを塗って。
 それからアリッサムは胡・春燕(三千年草の残り香・e84417)に仕上げを頼んだ。
 中東風の踊り子衣装でセクシーな大人の魅力を纏う春燕は、そっと箱から金細工のティアラを取り出した。
「お誕生日おめでとう。素敵なプリンセスに仕上げさせて貰うわね」
 そおっとティアラを髪に乗せてから、春燕は笑顔でメイクパレットを開く。
「リップの色は、ピンクと赤、どちらにする?」
「ピンク!」
 元気に答えるユーデリケは、いつもとは違う自分の姿にドレスと同じ色の目をキラキラさせている。
 小さな唇に筆が桃色を乗せて、さあできあがり。
「ふふ、とても良くお似合いですよ。お写真、撮りますか?」
 アリッサムの提案に、こくこくと勢い込んでユーデリケがうなずいたので、傾いてしまったティアラをそっと春燕が整えてやる。
「わーっキレイ! ありがとなのじゃ!」
 るんるんとスキップを踏みながら、お茶会の会場へ去っていったユーデリケを見送り、アリッサムはさてと、と周囲を見回す。
「なかなか無い機会ですから、他の衣装も着てみたくなってしまいますね」
 そわそわするアリッサムに、春燕は微笑んだ。
「ふふ、アリッサムもお色直ししたくなったのね。綺麗なマーメイドドレスがあるけど着てみる? 大人っぽくセクシーな人魚姫に変身してみるのもいいと思うわよ」

 お姫様のユーデリケが飛び出したお茶会会場には、愛らしい二対の青い鳥。
 青薔薇を髪に咲かせ、鳥かごクリノリンの青いドレスは金の青い鳥、ロゼ・アウランジェ(七彩アウラアオイデー・e00275)。
 青い羽を髪にあしらい、ふんわり羽根のような青いドレスは銀の青い鳥、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)。
 二羽が囲む丸いテーブルの上には、鳥かごのケーキスタンドに、鳥型に抜いた小さなサンドイッチ、忘れな草と青いバラのケーキ、鳥かごアイシングのクッキー。
「甘やかな祝福の味がしますね。エルスさん、こっちの鳥籠アイジングクッキーもおいしいですよ!」
「綺麗で美味しいお菓子は、やっぱり幸せを招くよね」
 お菓子を口にし、繊細な硝子器からマロウブルーを飲んで、おとぎの歌を囀り、ふたりの美女が微笑み合う。静かで夢のような世界に、ユーデリケはぽうっと見とれてしまった。
 ふとエルスは、口を半開きにして目を輝かせているユーデリケに気づき、手招きする。
「お嬢様、あなたは幸せを見つけたの?」
「はわ……」
 一幅の絵画のような世界にユーデリケが言葉を失っていると、エルスはニッコリ笑って、ちょっとした魔法を見せましょう、とレモンジュースの器を手にとった。
 そして、マロウブルーにレモンを注げば。
「幸せの青、夢の紫、そして童話のピンクへ」
「わぁあ……」
 可愛い色から可愛い色へと変わっていく水色を、ユーデリケは食い入るように見つめる。
 微笑ましい光景を見て、ロゼは顔をほころばせた。
(「ああ、幸せだなぁ。なんて思うのです」)
 ――そう、幸福の青い鳥はいつだってすぐ側に。

●おんなのこの好きなもの、それはあまいもの!
 純白のフリルドレスにマント、そして三角帽子……さながら姫を導く良き白い魔女の曽我・小町(大空魔少女・e35148)が、
「ユーデリケさんはお誕生日おめでと! 素敵な時間になりますように」
 と手にしたバスケットからクッキーを手渡す。
「ありがとなのじゃー! ふふふ、きれいなものやおいしいものでいっぱいなのじゃ……最高じゃ!」
 とクッキーをぱくつき進むユーデリケは、次のテーブルを見て、目をみはる。
「おかしの国なのじゃあ!」
 建ち並んだ、ジンジャーブレッドが住まう『おかしの家』の屋根と壁はクッキーで、扉はチョコレート。窓ガラスはつるりとした飴細工で出来ている。
 粉糖の雪が降り積む冬の国を、ブッシュドノエルやバウムクーヘンの切り株に、キャンディーの花やメレンゲ菓子の茸が囲む。
 テーブルの中央には、スポンジケーキを幾重にも積み、クリームと苺で飾り付けられた『おかしの塔』がそびえ立ち、頂点には、美しい姫と王子のマジパン人形が並んでいる。
 建国したのは、貴族の人狼姿のリューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)と、赤ずきんのチェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)の『美女と野獣』夫妻だ。
 ミニチュアのおとぎの国。小さくて精巧なドールハウスのような世界は、ユーデリケの心を奪った。
「はわぁ。すごい、すごいのじゃ」
 と感心しきりのユーデリケに、リューディガーはシナモンティーのカップを差し出した。
「誕生日おめでとう。 俺たちからのささやかな贈り物『おかしの国』は気に入ってくれたかな」
「うむ。これぞおとぎの国じゃな……!」
「それからこれをどうぞ」
 チェレスタが渡したプレゼントの中身は、砂糖とスパイスのセット。どこかの童謡にうたわれた、女の子を構成する素敵なものに因んだ。
「さあ、どこからでも食べてくれ」
 リューディガーが勧めると、ユーデリケはぷるぷると首を振る。
「ええっ、こんなの食べるのもったいないのじゃ……!」
「童話の兄妹はお菓子の家を食べて飢えを凌いだんだ。 遠慮なく食べてくれ」

「うっし! 飾り付けはバッチシっス!」
 額を腕で拭い、いかれ帽子屋のハチ・ファーヴニル(暁の獅子・e01897)は、満足げに息を吐いた。
「わーい! 準備万端ですね!」
 と言いつつ、エプロンドレス姿のエルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)はヒョイとクッキーをつまみ食いした。
 一月が誕生月のエルトベーレも、今日は主役の一人というところ。
「今日の私は、摘まみ食いの権利があるはずです!」
「摘み食いは構わないが変なクッキーを食べて巨大化しても知らないからな?」
 緑一色の服装に、触角つきフードをかぶり、ハッカ水のなんちゃって水タバコを手にした芋虫ルックのシグリット・グレイス(夕闇・e01375)が目を眇めるも、エルトベーレはどこ吹く風。
「ふふふ、巨大化、望むところです! 大きくなったら、お菓子がいっぱい食べられます!」
「つまみ食いする悪い子には、私のケーキでお腹が膨らむ刑を与えましょう!」
 と赤と黒のハートモチーフドレスに王冠で女王の姿をした華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)が言うように、テーブルの上にはクッキーやドーナッツ以外にも、苺でハートのトランプに見立てた長方形のケーキが鎮座している。
「飾り付け、中々の出来栄えじゃないスか? 我らが女王様の力作を映えさせるため、気合入れたんスよ!」
 ハチがテーブルの出来栄えに頷いていると、
「……ほう、これを灯が作ったのか?」
 シグリットがケーキに目を留める。
「そうなのです。焦がさず焼けるようになったんです」
 肩にウイングキャットのシアを乗せて灯は胸を張る。
「ふふ、私はもう立派なオトナですからこれくらい当然なんです」
 シグリットに頭を撫でられ、得意げな灯の横で、ささっとエルトベーレがケーキに手を伸ばした。
「そいや! わ、灯ちゃんのケーキ、すっごく美味しいです!」
 美味なる甘味に感動しつつ、エルトベーレは自慢の親友の努力を想う。
(「……きっと、離れていた間にも沢山頑張っていたんですね。やっぱり、私の親友はすごいです!」)
 ハチはハチで、愛しの天使様が灯ばかり褒めるので、飾り付け担当として頑張った自分も褒めてアピールをし、灯女王も、
「サボり魔イモムシさんは、女王のお茶会を立派に飾った帽子屋さんにご褒美をあげて下さいね!」
 と命じるので、シグリットは『成長したな』と妹分と同じようにハチの頭をなでてやった。
「さあ、ケーキを切り分けチョンパです!」
 灯がケーキサーブを始める。
「こんなに美味しいケーキ、今日の主役にも早く食べてもらいましょう! ハチくん、ゴー!」
 エルトベーレに急かされたハチはつんのめるようにユーデリケに走りかけ……急ブレーキをかけて、一同に振り向いて言うことには。
「あ、自分がユーデリケに衣装をお勧めしに行ってる間に、お菓子も紅茶もなくなってるのは勘弁っスよ。天使様、見張りよろしくっス!」
 シグリットはひらひらと手を振った。
「ちゃんと残して置くからハチはさっさと行ってこい」

●おんなのこの好きなもの、それはおめかし!
 ハチがユーデリケの前に駆け込んで、さっと衣装を差し出した。
「ユーデリケ、誕生日おめでとうっスよ! お茶会にご案内……する前に、この衣装、着てもらえたら嬉しっス!」
 衣装は、時計と兎をモチーフにしたドレス、そしてウサギの耳だ。
「お色直しじゃな! ありがたく着させてもらうのじゃ。ありがとなのじゃ!」
 いそいそと更衣室に向かうユーデリケを見て、黒いローブと黒猫の人形、そしてステッキを構えるイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が言う。
「さあさあお嬢様のお色直しのお時間です!」
 相棒の『相箱のザラキ』がもあもあキラキラときらめくエクトプラズムでユーデリケを包んで演出する。
 嬉しそうなユーデリケを見て、イッパイアッテナも嬉しく思う。目一杯おとぎ話お茶会を楽しんでいる主役で何よりである。
 さてお色直しの間に、とイッパイアッテナは部屋の飾りつけを、ユーデリケの時計ウサギに合わせて変更し、また次のテーブルへといざなうように絨毯を敷く。
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)も彼を手伝った。
 さて、時計ウサギの仮装に着替えたユーデリケは、ハチたちのお茶会に参加したあと、きょろきょろと会場を見回した。
 青い金と銀の鳥や美女と野獣のように、ペアで仮装を楽しむ人が多い。
「そちらは海賊と妖精さんかの?」
 とユーデリケに話しかけられ、赤い服の海賊こと草間・影士(焔拳・e05971)は首肯した。
「誕生日おめでとう。 それから楽しいお茶会への招待ありがとう」
 羽飾りのついた黒いつば付き帽子を被り、左腕は鉤爪の影士は、隣の妖精こと小柳・玲央(剣扇・e26293)を見やる。
「お互いの衣装をお互いで選んだんだ」
 似合っているだろうかという不安は、一番自分を見てくれている人が選んだという事実がかき消してくれる。
 相手はこんな好みなのだと、またひとつ相手のことを知ることも出来た。
「私の愛しい海賊さん? 今日は私が君の左腕だよ♪」
 玲央はぎゅっと影士の腕に抱きつくも、すぐに照れて離れてしまった。
「仲良しさんなのじゃな。お似合いなのじゃ!」
 にこにことユーデリケは言い、楽しんでいってほしいと願うと次のテーブルへと去っていく。
 彼女の背を見送ってから、玲央は影士にフォークでケーキを差し出す。
 照れながらも海賊は妖精のくれたケーキを食べ、
「ありがとう。だけど 俺ばかりじゃ不公平だよね」
 とクッキーを彼女の口元に差し出した。
「うん……」
 真っ赤になりながら、玲央は思う。
(「これは照れる。自分からやるときは大丈夫だったのにな」)

●おんなのこの好きなもの、それはかわいいもの!
 次にユーデリケに話しかけたのは、子ブタのきぐるみ姿のリリエッタだ。
「ユーデリケ、お誕生日おめでとうだよ。ユーデリケもきぐるみどう?」
 もう一つの子ブタのきぐるみを差し出され、ユーデリケは喜んで受け取る。
「うさぎもよいが、子ブタさんも可愛いのじゃ!」
「それからこれはプレゼント!」
 リリエッタから、クッキーをレンガに見立てたお菓子のおうちももらったユーデリケは、ふと気づく。
「わしらは子ぶたで、クッキーの家……これだと狼に食べられてしまうな」
「あっ、そうだね!」
 ふたりは顔を見合わせ、くすくす笑う。
 リリエッタの勧め通り、子ブタのきぐるみに身を包んだユーデリケは、どうぶつランドになっているテーブルを見つけた。
 バルーンアートで出来た動物がたくさんと、もふもふのぬいぐるみが席にいて、風船もいっぱい浮いている。
 テーブルには色とりどりのマカロンに、うさぎくっきー、チョコレートのお家。それからやっぱり誕生日にはなくてはならない、フルーツとホイップでデコレートした大きなバースデーケーキ!
「ふー! ふー! ふふふ、驚くでしょうか? 男爵をお迎えニャン」
 とタップダンスで出迎えるは、長靴をはいた猫の仮装をしたミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)だ。
「夢いっぱいじゃなあ! ぬいぐるみもかわいいし、これぞ誕生日って感じなのじゃ!」
 ぬいぐるみを抱きしめ、ユーデリケはミリムにサーブしてもらったハーブティーとバースデーケーキに、むふーっと嬉しげに鼻息を吹く。
「みんな、本当にありがとなのじゃ。こんなに大好きなものばっかりのお誕生日、幸せ!!」
 そして大きな口で、ケーキを頬張った。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月22日
難度:易しい
参加:16人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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