カマエインヘリアルの侵入

作者:大丁

 ソファに深く腰掛ける者もいれば、身を乗り出すような者もいた。
 間々の低いテーブルには、紅茶やコーヒーのカップが置かれ、ヒマにあかした雰囲気もあれば、熱心に商談している様子も見られた。
 とある高級ホテルのラウンジ。
 平日、午後の風景である。
 あまりに華美な出で立ちは避けられ、皆それなりにキチンとしている。
 そこへ、身の丈3mの巨躯が突然、侵入してきたのだ。
「アタシもいただこうかしら。お洋服!」
 ウェーブのかかったロングヘアに、切れ長の目。
 イケメンというより美人。
 しかし、裸の上半身にふくらみはなく、腰布にこそふくらみがあるところから、男性であろう。
 手には長大な鎌が携えられており、ラウンジの客もホテル従業員もがザワめきだしたところで、投げつけられた。
 刃がソファからソファへと渡っていく。
 ネクタイを締めていた人間と、そうでなかった人間。
 そのどちらもが、服を剥かれていった。

 演台の前には、大鎌と4mほどの棒が、武器ラックに掛けられていた。
 ポンチョ型のレインコートを広げて、軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、両手でそれらを指し示す。
「敵の武器から説明しておくねぇ。見本に借りてきた『簒奪者の鎌』と、エインヘリアル用の実物の大きさを再現した柄だよ。『デスサイズシュート』で遠距離の相手に服破りを起こすの。でも、ケルベロスのみんななら、一度に数人が標的になったりはしないはずよ」
 出現するデウスエクスは、エインヘリアルの罪人。虐殺と、それに伴う恐怖と憎悪を利用して、地球での定命化を遅らせる目的で、解放されたという。
 冬美は右手を掲げると、控えていた、除・神月(猛拳・e16846)を紹介する。
「神月ちゃんの調査のおかげで、事件の予知ができたのねぇ」
「それでエインヘリアルの野郎が出てくるタイミングなんだけどナー。1時間くれーの枠の中からしか特定できねーんだワ。全員でなくていいかラ、誰かは現場のラウンジにいねーとナ」
 事前の避難も予知を乱す危険があり、最初の攻撃では一般人の命に別状ないとはいえ、その後の保証はできない。
「ラウンジは、宿泊客でなくとも利用できるからね。飲食物をオーダーすれば怪しまれない。念のため部屋をとりたいって人には手配もするよ。もし、外から突入するなら窓ね。敵出現後になるけど」
 冬美と神月は重ねてお願いした。服も命も狩る、鎌エインヘリアルの退治を。
「レッツゴー! ケルベロス!」
「やっパ、オカマなんかナー?」


参加者
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
除・神月(猛拳・e16846)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)
高千穂・ましろ(白の魔法少女・e37948)
カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)

■リプレイ

●ラウンジにて
 ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は、挑んだ。
 人々を理不尽な死と恐怖から守るため、神宮・翼(聖翼光震・e15906)と一緒に高級ホテルのラウンジでデザートを食べる!
「……太るぞ」
 パンケーキをせっせと口にもっていく翼には、清楚なお嬢様といったワンピースにしてもらっているのだが、変装が台無し気味である。
「あ、それらしい雰囲気を漂わせるのも忘れてないよ? はいロディくん、あーん♪」
「よせって……!」
 フォークに一切れを差し出してきた。そんなイチャつきかたも変に目立つ気がして、ロディは冷や汗をかく。
 自分のプリンをスプーンにすくう。
 数人ずつで組になり、ケルベロスたちは現場で待機していた。セオリーどおりでもある。
 紅茶のカップを置いて、高千穂・ましろ(白の魔法少女・e37948)は、高校の制服姿でソファにちょこんと座っていた。
 テーブルを挟んで向かいには、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)。ブラウスとカーディガンを着こなし、彼女も紅茶を味わう。
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)はオレンジジュースを飲みながら、最初は離れた席にいた。
 いくらもしないうちに、周りのソファは様々な一般人で埋まり、今は知らないおじさんと談笑している。
 ライダースジャケットの下、フィルムスーツに関心があるようだ。
 珈琲を頼んで、巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)は、ビジネススーツに黒ストッキング。商談待ちの営業という筋書きだったが、それほど演出は必要なかった。
 若いビジネスマンと世間話がてら、愚痴を聞いていた。今日のバイトはシフト入替済みだが、どんな仕事でも、状況を置き換えれば、悩みの共通点は多い。
 こうした時、たまたま顔を合わせたどうしが挨拶を交わし、雑談などに入るのは、ごく普通な流れらしい。バイト先のファミレスで言えば、地元の知り合いが次々と来店して、テーブルがどんどんくっついていく様に似ていた。
 ましろが地球人なのも、影響あるだろう。
「あ、紅茶、おかわりおねがいします……」
「かしこまりました」
 カップをさげる従業員は行きかけて、数瞬止まった。
 除・神月(猛拳・e16846)が、ラウンジに登場したのだ。
(「ここはやっぱチャイナドレスで攻めるしかねーだロ!」)
 スリット深めで脚見せ、でもショーツのサイドは見当たらない。
 従業員だけでなく純な若者は、まるで夢に誘われるかのようだった。
 マダム然とした神月は、ロディの顔を見ずに、背中合わせの位置に座る。
「この上のフロアに、託児所サービスがあるってヨ。万が一、建物破壊があるといけねーかラ、早めに誘導してーらしイ」
「事前避難にならないか?」
「プラチナカードがあるからうめーことやるっテ。任せよーゼ」

●出現
 カップの紅茶に波紋が浮かんだ。空間のひずみだ。
 紫織はもう、ボクスドラゴンの箱を開けている。
 3mの影が口をきく。
「アタシもいただこうかしら。お洋服!」
 腰布一枚の巨躯、だが美人。大鎌を振りかざした。
「大地の精霊よ、彼の者を束縛せよ」
 紫織の詠唱により、大理石の柱から砂の蔓が茂り、罪人エインヘリアルを掴んだ。しかし、一寸間に合わず、鎌は投擲される。
「みんなァ、頭を低くしろヨ!」
 純な若者たちは、神月のまわりでしゃがみ込んだ。
「ひいい」
 水平に回転する大鎌の刃を、チャイナドレスの横から高く掲げた片脚が、旋回しながら蹴って弾き返す。
 夢中で視る純ちゃんたち。
(「あぁ、マダム……!」)
(「やっぱり、履いてなかった」)
(「モロ、見え!」)
 手元に戻った簒奪者の鎌を追い、ロディはエインヘリアルにスターゲイザーの飛び蹴りをかます。一般人の避難誘導は翼たちに任せるつもりだ。
「……せいッ!」
「……まあ!」
 ウェーブのかかった髪からのぞく、切れ長の目と視線が絡んだ。
「大丈夫だよ。ケルベロスがいるから」
 翼の声に、罪人の注意は彼女に逸れる。
 今度は縦に投げられた鎌がディーヴァズレイメント、フィルムスーツの背中に襲いかかる。
「あ、うん!」
 スーツは、刃先が当たってオフになった。先っちょだけで軽く逝ってしまう。鎌の先で、服が。
 女性をハダカにした恐ろしさに固まる一般人を、ましろは案内しなければならない。
「みなさん、こちらから避難してください!」
 しかし、その脚はもつれた。
 頼んだ紅茶は5杯目。お手洗いにも行けず。
「こ、こっちです……うぅ」
 我慢して、内股になり、逃げ遅れとみなされる。
「お嬢ちゃん、手を!」
 誰か大人が引き返してきそうになり、拒んだところを、大鎌が制服を通過していった。
「いやああっ!」
 人々のまえで、全裸に剥かれたところで、限界に達した。ちょろちょろと太腿をつたわる生暖かい感触。
 けれども、殺人カマ使いが襲ってきたなら、失禁するくらいは当然だ。そう、判断されたのか、大人たちはかまわず女子高生の軽い身体を持ち上げてしまう。
 本格的に噴き出した小水が、高価なカーペットに染みのスジを描いた。
 そして、今度は下手投げに刃が、床に溝を掘りながら迫るのだ。
 おじさんを庇った真理は、フィルムスーツの部品をばら撒きながら、柱の後ろへと逃げ込んだ。
「キミ、これでも着なさい」
 上着を掛けようとするが、もちろん防具の代わりにはならない。辞退しようと行き来するうちに、おじさんの手は、真理のお尻を揉んでいた。
「ううむ、ポロリがいいというなら、無理強いせんよ」
「掴んでても結構ですから、私から離れないでくださいです」
 機会を伺って、柱から脱出する。
 ホテル従業員が、お客の逃げ遅れ防止に残ってくれていたが、どうやらラウンジから被害者は出さずに済んだらしい。菫は、割り込みヴォイスでその従業員にも避難を呼び掛けると、自分の衣服も、バラバラになっているのに、気が付いた。
「って、黒ストだけ残すな!」
 鎌にぐるりと回り込まれた時らしい。このホテルは構造上、他のエリアとの境界が少ないから、ラウンジの避難が済んだからと言って、敵にどう動かれるかは予測しにくかった。
「もうちょっとだけ、ビジネスマンくんたちに付き合わないといけませんね。やれやれ」
 ノーパンストッキングで、豪奢なエントランスロビーを走る。

●カマのアタック
 フォーマルだったロディの服も破けた。
「男のハダカなんか見たがる奴もいないだろうしな」
 間違っても間違いは起きないと思う。
 思いたかったが、破鎧衝を打ち込んで、罪人の腰布を破壊したとき、期待は悪いほうに外れた。
「もう、お洋服じゃなくて、アンタが欲しくなっちゃったわ」
 女性の裸には反応しなかったのに、バキバキに天井を向いている。
「鎌を使うオカマのエインヘリアルなのね。ギャグか何かかしら?」
 紫織が魔導書を開いて立っていた。ブラウスにはシミひとつなく、スカートも乱れていない。
「違うわ! 笑うなんてヒドイじゃないのさ。アタシを閉じ込めたヤツらは……!」
 大鎌は虚空を斬っていた。紫織の『無貌の従属』によって、トラウマが蘇ったのだ。
 どうやら、ロディは丸出しにされただけでなく、ダメージも積み重なっているようだ。ボクスドラゴンのナハトを呼ぶ。
 しかし、デスサイズシュートが、またもやロディをかすめ、旅行トランクを中身ごと輪切りにした。男物のほかに、女子の制服のようなものまである。
「ちくしょう、みんなのために用意しておいたのに!」
「みんなぁ? そのみんなは、そこのお嬢さん以外、逃げちゃったでしょう?」
 紫織のほかに、真理のライドキャリバー、プライド・ワンも残っていた。キャリバースピンで支援してくれたが、ついにロディ自身の身体が、罪人に捕まってしまった。
「放せ! やめろ!」
 大きな手で、しごいて大きくさせると、あろうことか、カマエインヘリアルは、自分の後ろへとロディのを挿入させようと当てがったのだ。
「オレには、翼という愛し合ってる人がいるんだ!」

●決着
「ロディくん♪ みんないるところで、はっきり言ってくれて、ありがとう♪」
 翼が、満面の笑みで両手を広げていた。避難誘導から戻ったケルベロスが勢ぞろいしている。
 ロディからのメッセージのお返しは、「ブラッドスター」のメロディーにのせられ、響く歌声に豊満な胸も揺れる。
 カマのエインヘリアルは、武器を取り落として耳を塞ぎ、股間に当てがわれようとしていたロディも、カーペットの上に尻もちをつく。
「……やっぱり、照れるぜ」
「愛してる~♪」
 ダメージも多少は癒えたが、単身で受け続けただけに、まだ次の一発で堕ちる危険もあった。モノも、たたされたままだ。
 おさめるには優しい痛みが効く、という話もある。カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)は、拳圧を飛ばして、ロディの身体ごと、ラウンジの壁まで吹っ飛ばした。
「ぐへぁ!」
 敵から引き離す効果もあったが、でんぐり返しした陰部はまだ元気だった。
「ご、ごめんなさい……! あああ、強すぎました……!」
 オウガの癒しの拳が、放たれたのだ。長身で筋肉質な裸体は、カフェ自身にもコンプレックスだったけれども、負傷を殴り飛ばす力がある。
(「エインヘリアルさん、お話のとおり、綺麗です。禁断の恋でさえ、積極的ですし……」)
 憧れる部分もある。ただ、地球こそ、そうした垣根を取り払ってきた場所ではないのか?
 カフェは戦意も新たに降魔真拳の構えをとった。
 壁にむかっては神月が、満月の光球を溜める。
「そーカ、ロディのを治せばいーのカ」
 エネルギーの集まりに、チャイナの裾は捲れあがった。
「ああ、神月、さかさまだ……」
 逆さM字の中央は、ルナティックヒールを浴びて、凶暴性を増してしまった。
「1回、出すといいと思うのです」
 真理は、チラとだけ翼に視線を送って、グッドのポーズの了承を得ると、フィルムスーツの残骸から小型治療無人機の群れを呼び寄せた。
「――これで、全部ヌけるですよ!」
 『メディックフォーメーション』は、赤と銀が交互に密集する。
「はっ、ふっ、ウッ」
 男の喘ぎに、カマ使いは嫉妬の声を上げる。
「ちょっと! アタシなら生でやれるのよ?!」
 また、手元に取り戻そうと、武器を投げてくる。真理は、ある種のマジメさを感じた。
「男の人でも綺麗な人とかっているですけど、エインヘリアルにも居るのですね」
 当初はウププと笑っていた菫も、彼らが男女差をことさら気に掛ける社会なことを思うと。
「カマで鎌……韻は踏んでますが、貴方のコーディネートならレイピアの方がお勧めですよ」
「細いじゃない。得意だから、鎌を使ってんのよ」
 生きにくさゆえに罪人とされ、この場に送り込まれてきたような気がした。飛ぶ刃をモップでいなすと、菫も快楽エネルギーをロディに送る。
 桃色の霧に、絶頂を迎えたようだ。
 仕上げに、紫織のボクスドラゴン、ナハトが属性インストールを施すと、桃色は紫に転換され、目を白黒させていた地球人は、リボルバー銃を携えて、戦列に復帰した。
「さぁみんな、ガンガンやろうぜ!」
「はいっ! この白の魔法少女の杖を、受けてみなさい!」
 ましろは、変身したといっても、髪留めが装着されたくらいだった。杖の構えも、まだ内股だ。
「バスタービーム……光魔法ですっ!」
 光に隠れてプッシャァァァ……。
 いや、プレッシャーを与える。
 カーペットのシミを越えて、チャイナドレスが飛び掛かった。神月のむきだしの手足は、先端だけがパンダのそれに変化している。
「カマ野郎は、これで攻めんゼ」
 爪は鋭い。相手の武器にせり勝った。
「はあぁう……。アタシ、男にまで、手をだそうとしたのが、いけなかったのかしら……ね」
 罪人はくずおれた。髪が、爪傷を負った頬を隠すようにしな垂れかかる。
 神月はドレスの裾をもとに戻して、それを見下ろした。

●各階止まり
 エントランスロビーから見上げられる吹き抜けを、ガラス張りのエレベーターが昇っていく。
 傷ついたケルベロスらと救助した人の一部を、客室で休ませるべく、運んでいた。
 紫織だけは、カーディガンすら汚れていない元気さだったので、状況をホテル支配人に説明しているところだ。
 エレベーター内でカフェは、赤ん坊を抱いていた。託児所に代わり預かっているのだろう。
 抱っこ紐ならぬ、腰のハーネスでしっかりとつながるようにする。
 もう一人、女性がいて、母親でも保育士でもないようだが、ドレスの胸元を破いてしまっていて、カフェが体調をチェックすると言い、一緒にエレベーターを降りていく。
 次は、ロディと翼だった。ちゃんと同室を手配してもらってたらしい。
「今回の依頼はオレが呼び出したから。つきあってくれた労いも兼ねてな。戦闘が終わったらのんびり一休みしようと思って」
「そうそう、夜は長いからゆっくり休んでおかないとねー?」
 え、とかいうロディの顔が、ドアの隙間に見えた。これからまだ、戦うらしい。
 ストッキングだけ残した姿で、菫はまた熱心に、ビジネスマンの話を聞いていた。いや、熱血指導ともいうポジションに変わっている。
「そういうのは、数こなしてガンガン! ときにはねちっこくかき回し、根回しで突き進み……」
 部屋までいって延長戦らしい。フロアへ降りていった。
 ましろは大人たちと降りて、閉まるドアの向こうに声を残した。
「えっ?! 誘ったなんてことはっ!?」
 真理も、今度は上着を掛けて貰い、その下の全裸に妙な気分になって、ふたりで降りる。
 ガラスの箱の中は、神月をのぞけば、若者たちだけになった。
 彼らは、部屋のある階まで到着するあいだに早くも、キスしたり、胸を揉んだり、指をいれたりできるほどに親しく、大人になっていた。
「あふン……」

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。