狙われる初詣

作者:鬼騎

『キィイイイイイ!!』
 年が明けたばかりの時期、人々で賑わう神社に響いたのは機械のような音。
 初詣に訪れていた人々はその音の出処を探るように当たりを見渡す。
 しばらくして軋む機械音と共に現れたのは白煙を口から吐き出し、目についたものを端から破壊する子供の形をしたダモクレスであった。
 響く悲鳴、不快な金属音、様々なものが破壊される音。
 それを軽く見届けたあと、黒衣に身を包む一体の死神はその場から消えるのであった。

「大変大変! すぐに向かってほしい現場があるの!」
 ヘリポートにて慌ただしくケルベロスを集めようとしているのはヘリオライダーの籏本・杏鶴(ドワーフのヘリオライダー・en0198)だ。
「神社を襲うダモクレスの予知が出たの。それも死神の因子が埋め込まれた暴走状態で」
 死神の因子。それは死神がデウスエクスに埋め込む球根のようなもの。
 それを埋め込まれたデウスエクスが大量のグラビティ・チェインを得た後死ぬことで死神の強力な手駒となってしまうのである。
 敵の兵力が増えることを黙って見過ごすわけにはいかないし、ましてや人的被害が出ることは絶対的に阻止せねばならないだろう。
「見た目は小学生ぐらいの子供の形をしたダモクレスなんだけど、敵が使ってくる力はレプリカントさんたちとまったく同じものだよ」
 時間は昼間。年明けのおめでたい雰囲気が残り、人々が初詣に参拝し賑わう神社の境内。
「申し訳ないけど前もって人々の避難をさせてる暇がないのね。だから皆にはダモクレスの撃破とは別に一般の人たちの避難誘導もお願いしたいんだよ」
 このダモクレスがグラビティ・チェインを得ることは絶対的に阻止しなければならない。
 現地へ到着するのはまさに境内に暴走状態のダモクレスが現れたそのタイミングだろう。
「あとこのダモクレスをただ倒すだけだと、死神にもってかれちゃうみたいなの」
 回収されないためには敵を倒す際、過剰な攻撃を与え体内に埋め込まれている死神の因子を破壊すること。
 それができれば死体はそのまま消滅するということが分かっている。
「避難誘導から敵の撃破まで全部おまかせすることになっちゃうけど、被害を最小限にとどめつつなんとか頑張ってもらいたいんだよ!」
 人的被害なく敵を倒すことができれば戦闘後には神社側からの好意で甘酒が振る舞われるだろうとのこと。
 死神の陰謀を阻止するためにもケルベロスたちは現場へと急遽向かうのであった。


参加者
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
日下・魅麗(ワイルドウルフ・e47988)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)
ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)

■リプレイ


 ちょうどお昼時の神社の境内。
 まだ年が明けたばかりのこの時期、初詣をしようという参拝客で賑わっていた。
 緩やかな時間が流れるその場所に異音を発しながら突如現れたのは暴れ狂うダモクレス。
 楽しげな雰囲気は今や恐怖が支配する空間へと変貌。
 しかし人々を恐怖から救い出したのは上空に現れたヘリオンから降下してきたケルベロスたちであった。
 真っ先に動いたのは篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)だ。
「お前さんの相手は俺っすよ!!」
 廃棄された屑鉄などで鍛え上げられた鉄塊剣をダモクレス目掛け叩きつければ、理性を失い暴れまわっていたダモクレスの注意は本能的にケルベロスたちへと向けられる。
「エクトプラズムよ、あいつの動きを止めて頂戴!」
 続けてダモクレスへ攻撃するのは日下・魅麗(ワイルドウルフ・e47988)だ。
 間髪入れずに圧縮したエクトプラズムで作られた霊弾を放ち、周囲の一般人に敵の意識が向かないようこちらへと注意を引きつける。
「アアアアア!!」
 ダモクレスは体に仕込まれた砲門を開き数多のミサイルを射出。
 ケルベロスたちに向けられたミサイルは周囲の環境までも破壊していく。
 境内に敷かれた砂利が飛び散り土煙が上がる。
 攻撃を仕掛けた側であるダモクレスだが、苦しそうにもがき苦しんでいた。
「死神のやつらめ、こんな子供みたいなのま利用するとは……」
 長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)は眉間にシワを寄せた。
 ダモクレスを暴走させる根源となった死神に対し強い嫌悪感を覚える。
 一般人を巻き込まない立ち位置を意識しつつ、斉天截拳撃を放ち攻撃を加えていく。
 今回体内に埋め込まれている死神の因子を破壊するための要である千翠。
 それぞれの攻撃でどの程度敵を弱らせることができるかしっかりと見定めていく。
「死神に回収されてはさらにただの駒として使われることでしょう。必ずここで倒してあげましょう」
 肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)は漆黒の鎖を操りダモクレスの足を絡め取る。
 デウスエクスの襲撃によって家族を失った過去がある鬼灯にとって、一般人への被害は絶対的に抑え込みたいことであった。
 敵の牽制をしつつ周囲へも意識を向けるのは嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)だ。
「安心しろ! 私達はデウスエクスになど、絶対負けない!」
 プリンセスへと変身した姿で周囲で恐怖に怯えている人々を励まし、ライドキャリバーの蒐と共に攻撃を放つ。
 守備に重きを置いた槐と佐久弥は敵の注意を強制的に引き受けるための力を使っていく。
 ケルベロスたちが注意を引きつけてくれていることによって、一般人たちには次第に冷静さが取り戻されていった。
 ダモクレスが現れた直後の混乱が少し落ち着いた今、仲間が敵を引きつけているうちに残りのケルベロスたちは境内に残る一般人の避難誘導へと動き出した。
「僕たちはケルベロスです! デウスエクスが出現しました。避難を開始してください!」
 持ち込んだ拡声器で境内全体に声をかけるのはヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)だ。
 居座られると危険なため殺界形成も使いながら、なるべく聞き取りやすく、かつパニックにならないよう注意しながら避難を呼びかけていく。
「慌てて走らず、歩いて避難を! さ、こちらです」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)も自力で逃げられる人々へと指示を出しながら、老夫婦の手を取り安全かつ最短のルートで外へ誘導をしていく。
 実は後で初詣と洒落込むつもり満々だったため振り袖を着ているのだが、動き回る事に対して問題はないようだ。
 同じように一般人の避難を集中的にこなしているのはケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)である。
 遠くの者へは割り込みヴォイスで指示を出し、自ら抱えた移動させたほうが早い人に関しては抱え上げ安全な所まで運んでいく。
 参道方面へと逃げる人々に、新たに参拝に訪れようとしている人たちに今は危険なため避難を呼びかけるよう伝達を行えば、後々一般人が戦場に紛れ込むこともないだろう。
 境内に居た参拝客や神社の関係者全ての避難を完了したことが確認できれば、避難誘導に回っていた者たちも皆戦闘へと合流していくのであった。


「おまたせしました! 避難は無事終了です。すぐ傷を癒やしますね」
 一般人の避難が完了した境内は暴走するダモクレスとケルベロスのみの空間となる。
 神聖であるはずの境内はダモクレスにより荒らされ、無惨な様子である。
 しかし境内は障害物も少ない場所であり、避難が完了したことによりあとは敵に集中していくのみとなる。
 ミリムは戦闘へと合流後、この地に眠る霊たちの力を借りすぐさま手当をしていく。
 威力の高い回復は瞬く間に仲間を癒やし、傷を塞ぐ。
「現状予定通り、敵の攻撃は私と佐久弥が引きつけられているな」
 槐は合流した仲間に現在の様子を簡潔に伝える。
 敵の注意をしっかり引きつけておけた事により、一般人には一切の被害がでなくて済み、避難誘導も実にスムーズに行えた。
「でもお2人共、無理はしないでくださいね」
 鬼灯は攻撃を引きつけている2人の心配をする。
 得に槐は己よりも強いケルベロスではあるのだが、親愛を寄せる友人なのである。
 槐と鬼灯はミリムに続き味方へと回復のグラビティを使う。
 これは傷を癒やす目的ではなく、味方が合流したことにより、最後のトドメに向け布石を打つためである。
「暴走状態ですが弱ったら本能的に防衛本能が働き逃走される可能性もあるでしょうか。それを考えると一気に追い込んだほうが良いのかもしれません」
 ケイトはバスターフレイムを放ち炎を燃え上がらせながら敵の考察をする。
「正月早々、休日返上してまできてるんだよ。逃がすわけにはいかないよね」
 ケイトの考察に答えるようにヴィルフレッドはPiccola fataをペットの姿へと戻し、手のひらに乗せる。
 それはデグーと呼ばれるネズミに似た小動物。
「行くぞアール!」
 今年の干支に似たアールは魔力を籠められ……射出された。
 ネズミに似たお前の出番だ、ということでアールはバリバリと敵へ攻撃し活躍をする。
「ほんと、せっかくのおめでたい雰囲気を邪魔するのはいけないんだよ」
 このタイミングでの暴走自体は死神によるもので、ダモクレスの意思ではないだろう。
 目の前で暴れまわるダモクレスが生前どのような人格をもっていたのかは知る由もない。
 今できることは暴走するダモクレスをただ倒すことのみ。
 オウガメタルを拳へと集中させ、より攻撃が通りやすくするため魅麗はダモクレスの装甲を打ち砕く。
「めでたいハレの日に境内に穢れを呼び込もうとか、洒落にならないっす。千翠さん、俺が先に突っ込むっす!」
「おう! とっとと倒して正月明けのめでたい一日を取り戻そう」
 佐久弥が敵へと肉薄すると炎を灯した武器で強烈な一撃を入れ、すぐに横へと離脱。
 それに続いた千翠は態勢を崩したダモクレスへ炎を纏った蹴りを入れれば敵は吹き飛び地面へと叩きつけられる。
「イイイイイイイイイ」
 地面を転がりながら起き上がり、こちらに向け威嚇をするダモクレス。
 まだ暴走している様子に変化はない。
 しかしその肉体へのダメージは確実に蓄積され始めているのは間違いないだろう。
 一気に攻め込み、だが殺さぬように。
 ケルベロスたちは細心の注意を払いつつ攻撃し、敵を追い詰めていくのであった。


「フー……フー……」
 暴走状態のまま暴れ続けたダモクレスはケルベロスたちとの応酬により限界近くまで傷つき、疲れ果てていた。
「最後の最後に念押しをしておくのも悪くないですよね」
「僕も最後の手助けだ。あともう少しだけ削って、次がトドメになるだろうからね」
 すべてはダモクレスの体内に埋め込まれた死神の因子を破壊するため。
 ヴィルフレッドとミリムは千翠へと攻撃の威力を増すための補助を入れる。
「ドキドキするけど、もうちょっと平気なんだよねっ」
 周囲の同意を得ながら魅麗はプラズムキャノンを放ち、ダモクレスの体力を削る。
「あともう少しっすが……でも俺が攻撃するとちょっとやばいかもっ……!?」
 佐久弥の攻撃威力では万が一を考えると危険かもしれないと判断し、攻撃の手を止める。
 その代わり動いたのはケイトと槐である。
「なるべく攻撃の芯を当てないように狙って撃ちます」
「合わせて私の攻撃ならばギリギリのところを突けるはずだ」
「ガアアア!!」
 攻撃を受けたダモクレスは叫び軋む体で肘から先を回転させた突きを放つ。
 トドメの一撃を喰らわせるため眼前にいた千翠へと放たれたダモクレスの死にものぐるいの攻撃。
 しかしそれは蒐が盾となり攻撃を肩代わりした。
 怒涛のごとくダモクレスを追い詰めたケルベロスたち。
「後もうひと押し、僕からも補助を!」
 最後に鬼灯からの補助を受け、度重なる布石により千翠の感覚は研ぎ澄まされる。
 ダモクレスのボディが破壊され露出している心臓部へと狙いを定め、剣を構えた。
「これが、トドメだ!!」
 これまで重ねてきた力を全て載せ、千翠の斬撃は敵を切り裂いた。
 固唾を呑んで様子を見守るケルベロスたちの前で、ダモクレスの体は砕け散り、そのまま消滅していくのであった。


 無事にダモクレスを死神の因子ごと撃破したケルベロスたちは戦いにより荒れ果てた境内を修復し、避難していた人々に無事デウスエクスを倒したことを伝え終えていた。
 一般人の被害者も、ケルベロスの負傷者もなく戦いが終えたことで、神社の境内は再び人の活気に溢れ始めていた。
「せっかく神社に来たんだからやっぱり初詣したいよね」
 魅麗が手水舎へと向かって行けば他の面々も同じ用にそちらに向かい、参拝の作法に沿ってお参りを済ませる。
 戦闘中は真剣な表情だった魅麗も、戦いが終われば小さな少女だ。
 楽しそうに参拝する様子を見れば他の者達も釣られ場が和んでいく。
 お参りを終えた後、槐は鬼灯に向かい、礼を述べた。
「先日はありがとう。今年もどうかよろしく」
 その礼にはケルベロスとして一緒に仕事をこなしたことや、クリスマスの時にプレゼントしてもらった、ふわふわのぬいぐるみに関してなど様々なことが籠められている。
 普段ワイルド化した瞳を閉じて生活をしている槐にとって触って楽しめるプレゼントはとても気に入っていた。
「こちらこそありがとうございます。そして今年もよろしくお願いします。槐さんからもらった手編みのセーター、今も着てきてます」
 大切な親友からのプレゼントは互いに嬉しいものだったようだ。
「あとは神社といえばなんでしょう。助けてもらったお礼に甘酒を振る舞ってくだされるというお話も頂けてますが、おみくじなども引いたりしたいですね」
 和やかな雰囲気の中、次はどうしましょうかとミリムは皆に話しかける。
 振り袖まで着ていているミリム自身はあれもこれもと満喫する気満々である。
「私はおみくじというものに興味があります」
「僕は早く甘酒が飲みたいですね!」
 ここからはそれぞれの目的に合わせて別れて行動をすることに。
 おみくじへと向かった面々はワイワイと結果を報告しあい、占いの結果を吟味していく。
 そのような中ケイトが引いたのは凶。
 周囲の進めにより、内容を見た後は用意されているみくじ掛けへと結んだのであった。
 先に甘酒をもらいに向かった面子はその味に舌鼓をうっていた。
「初詣といえばやっぱり甘酒。甘党にはたまらないよね」
 デグーのアールを肩に乗せ、ヴィルフレッドはハイペースで甘酒を飲み続けていく。
 普段量販店で売っているようなものとは味や香りが段違いである。
「千翠さん、お疲れっすー。それにしても俺、実は甘酒呑むのって初めてっす」
 佐久弥と千翠は軽く甘酒で乾杯し、それぞれ一口ずつ甘酒を味わう。
「実は俺も! でも甘酒って日本酒とはまた違った味で上手いんだな!」
「酒精はほとんど感じないんすね」
 酒という言葉が使われている甘酒だが、実のところはアルコール分は1%未満なため子供でも飲める清涼飲料水の分類のものである。
 まだ日は高い。
 各々が思い思いに戦で疲れた体を癒やし、ゆったりとした時間を過ごしたのであった。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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