コンビニのおせちは許せない!

作者:神無月シュン

 とあるコンビニの入り口で大声で叫ぶ、羽毛の生えた異形――ビルシャナ。
「おせちというのは、家庭で作ってこその料理だ! コンビニで売られるおせちなど、許せない!」
 ビルシャナの叫びを聞いていた一般人たちも、賛同しビルシャナの周りへと集まっていく。
「そうか、そうか。わかってくれるか」
 配下となった人々を見つめ、ビルシャナは満足そうに何度も頷くと、コンビニに向かって歩きだした。


「個人的な主義主張により、ビルシャナ化してしまった人間が、コンビニを襲撃する事件が起きます。今回の主張は『コンビニのおせちが許せない』とのことです」
「ケーキの次はおせちですか……」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の説明を聞いていたバジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は、呆れた様子でため息をついた。
「近くに居た一般人が、ビルシャナの主張に賛同し、配下となっています」
 ビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を無力化する事ができるかもしれない。
 ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能だが、戦闘に参加されるのは極力避けたいところだ。

「ビルシャナの配下となった一般人の数は5人です」
 配下たちはビルシャナの主張の他に『栗きんとんだけ沢山食べたい』『おせち自体、味的に苦手』『一部の料理だけ最後まで残るから嫌』などの考えから、ビルシャナに賛同しているようだ。
「ビルシャナ自体の戦闘力はそれほど高くはないですが、配下となった一般人が戦闘に参加した場合、ビルシャナを守るような行動を取るため、注意が必要です」

「配下となっている一般人は、ビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。何かインパクトのある演出を考えてみてはどうでしょうか」


参加者
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
ジュスティシア・ファーレル(シャドウエルフの鎧装騎兵・e63719)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
 

■リプレイ


「おせちというのは、家庭で作ってこその料理だ! コンビニで売られるおせちなど、許せない!」
『おおおおおおおおおおーーー!』
「ケーキの次はおせちですか、まぁ、僕が危惧していたビルシャナですから、僕が責任取って倒してしまいましょうか」
 コンビニの入り口前でビルシャナの言葉に声をあげる配下たち。その様子を遠くから窺っていた、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は呆れ顔で呟いた。
「こいつら自分でおせち作るのかね? 家族にやらせていてこの主張なら殴りたい……」
 バジルの隣で袋を下げた拳を握り締めているのは岡崎・真幸(花想鳥・e30330)。
「年末年始で大忙しの主婦の皆さんに代わって私が、我儘アホウ鳥を〆てあげます!」
 叫ぶジュスティシア・ファーレル(シャドウエルフの鎧装騎兵・e63719)。その手元には今回の作戦で使うのか大きな袋を抱えている。
「おせちですか、コンビニも最近は便利になりましたし、コンビニのおせちと言うものも良いですよね」
「おせちはコンビニで買っても良いと思います。美味しい物が食べられたら、それだけで幸せな一年の始まりになりますからね」
 湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)と兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)の2人はコンビニのおせちについて自身の考えを口にする。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
「よっしゃ! いっちょぶちかますか」
 バット片手に立ち上がる柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)。
 今回の作戦の最終確認を終えたケルベロスたちは、襲撃を止める為ビルシャナたちの元へと歩き出した。


「一度に沢山作れば手間にならないというのは確かにありますが……それでも限度があったりします……」
 おせちについての理解を深めてもらおうと、説明を始める地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)。
「おせちは作り置きが出来て、お正月は主婦の方々にもゆっくり休んでもらうために予め作っておくものと聞いた事があります……」
「ええ。けれど、おせちは主婦が休む為とも言われてますが実態とは激しくかけ離れてますね。むしろ忙しさが百兆倍です。年末年始は料理以外の家事も大忙しだし。おまけに貴方方にまで我儘言われたら踏んだり蹴ったりです」
 話に参加すると早速、配下たちに文句を言うジュスティシア。
「おせちは、色々な食材の下ごしらえ、味付け、盛り合わせ、それらを全ての料理に手間を費やさないといけませんので、家庭で作ろうと思ったら大変ですよ」
「自分でおせちを作るにしても、おせちの料理って味付けとかも繊細で、とっても難しいとお聞きしました」
「おせち作るにしても凄え時間かかるぞ。暮れの貴重な時間それで潰すのか?」
 準備の大変さを語るバジル、紅葉、真幸の3人。
「つまり、お正月になる前に沢山作らなくてはいけないのです……。それに加えて、普段の料理まで作らないといけないのですよ……? 全部家で作っていたら、お正月になる前に作っている方々が過労で倒れてしまうかもしれません……! 僕は、そうなるのは、嫌です……」
 説得をしながら、状況を想像してしまったのか、夏雪の目には涙が浮かんでいた。
「うぅ……そんな目で見ないでくれ……」
 罪悪感に配下の一人がこの場を去っていく……。

「おい、鳥。てめえらの主張、完全に作ってもらう側じゃねえか」
 清春はそう言いながら近くの配下へと掴みかかる。
「オレみたいな女いねぇ一人暮らしにも作れってか。あ? 拷問かなんかか!?  エプロン似合う顔じゃねぇだろ! 新年行事の空気だけでも味わいたい連中にとっちゃなぁ、あれは救いなんだよ! そもそもコンビニなら食いたいもんだけ買えるだろうが!」
 心からの叫びを口にする清春。
「誰もいねぇ散らかった部屋、服も着替えずソファーに倒れる。飯を作る気力なんてハナからねぇ。だが悲しいかな腹は減る。外に出りゃ世間はお正月気分で浮かれてやがる、そいつらに悪態つきながら何故かカゴにはおせちが入ってんだ。少しはオレも正月を味わってんなぁって……タスケテクレ」
 清春は今にも血涙を流しそうな勢いで、詰め寄り矢継ぎ早に言葉をぶつける。
「そんなこと言われても、困るんだよ……こっちこそタスケテクレ……」
 清春に詰め寄られていた配下はうんざりして、去っていった。

「大家族で食べるならともかく、一人ぼっちでおせち料理を食べる人はどうするのでしょうか? 貴方たちは、一人で食べる為としても、手間暇かけてきちんと一からおせちを作るのでしょうか?」
 バジルの問いかけに、誰一人答えることが出来ないでいた。
「最近のコンビニおせちは、料理ごとに小分けに売られていて、自分独自の組み合わせのおせちも可能なのですよ」
「コンビニやスーパーは主婦達の救世主だし、好きな物だけ単品で食べるのも可能ですよ」
「ですから、自分の食べたい料理を、食べたい分だけ買えば、一部の料理が最後まで残る事も無いと思います」
「家事が少しでも楽になってもらえるなら、コンビニやスーパーでも些細な事だと思います……それに、お正月を一緒にのんびりできたら、幸せです……」
 麻亜弥にジュスティシアそして夏雪がコンビニおせちの有用性を語る。

「これは俺が約半年料理教室に通い詰めて作ったおせち……食ってみ?」
「我儘な貴方方には私の手作りおせちを振る舞ってあげます」
「家庭で作ったら、どんな味になるのか、此処に家庭で作ったおせちを持ってきましたので、良かったら味見して下さいね」
 仕上げにと真幸、ジュスティシア、紅葉の3人は各々用意してきたおせちを取り出し、配下たちへと勧めていく。
「もぐもぐ……うっ!?」
「げええええぇぇえぇ!」
「何て不味さなんだ!」
 おせちを食べた配下たちが次々に悶え始める。
 見た目が完璧なそれは、口に含むと全く別の何かの味がするのである。
「さあ、栗きんとんが大好きな方が居ましたよね。遠慮せずどんどん食べてください」
 そう言うとジュスティシアは配下の口へとワサビ入り栗きんとんを詰め込んでいく。
 意図的に不味く作られているおせちを食べさせられ、配下たちは次々と意識を失っていった。
「失敗しない保証……ねえだろ……時間かけてこれならもっと別の事した方が良かった」
「……思い知った? コンビニおせちなら安心と言うことを」
「やっぱり、コンビニで買ったおせちの方が、味付けとかも正確で美味しいとは思いませんか?」
 コンビニおせちの方がいいだろうと、3人。しかし聞いている者は一人も居なかった……。


 説得も終わりケルベロスたちとビルシャナの戦いが続く中、コンビニの横には戦いの邪魔にならない様、気絶した配下たちが真幸の持ち込んだ縄で縛られ転がされていた。
 激マズおせちが余程の衝撃だったのか、目を覚ます気配は今のところない。
「オーラの弾丸を、受けてみなさい!」
 バジルの攻撃を受け、後退るビルシャナ。
「この炎で、焼き鳥にしてあげますよ!」
「焼き尽くしてあげますよー!」
 その隙に麻亜弥と紅葉が駆け出す。繰り出されるのは炎を纏った蹴り。攻撃を受けたビルシャナが炎に包まれる。
 続けてジュスティシア、真幸、清春と攻撃を浴びせていく。
「ぐあああっ!? このっ近寄るなあああ!」
 ビルシャナは苦しみながらも孔雀の形をした炎を飛ばす。
「させねーよ」
 清春が飛び出しそれを受け止める。
「大丈夫……。痛くない、です……」
 すかさず夏雪が回復を行う。泡雪状のグラビティが清春の傷へと融け込み、癒していく。
「海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……」
 麻亜弥がギザギザした暗器を袖から出す。例えるのなら鮫の牙が近いだろうか。暗器を巧みに操りビルシャナを切り刻む。
「愛情こめて麺から作り上げました! さあ、召し上がって下さいね!」
 走る激痛に叫ぶビルシャナ。その口目掛け、グラビティの込められた激マズ料理を放り込むジュスティシア。
「ぐおおおおおお! なんだこれは……不味い!!」
 悶絶するビルシャナ。
「来たれ神性。全て氷で閉ざせ」
 真幸の攻撃に一瞬で氷で包まれるビルシャナ。
「私の飛び蹴りを、避けきれますか?」
 氷の中で藻掻くビルシャナへと紅葉の蹴りが襲い掛かる。そして――。
「音速の拳で、吹き飛んでしまいなさい!」
 バジルの拳がビルシャナの体を撃ち貫いた。


 手分けして周囲のヒールを行う夏雪と紅葉。
 元配下たちも顔色はまだ悪いが、無事助けることが出来た。
「終わったのは良いですけど、激マズおせち、どうしましょうか?」
「これって、やっぱり食べたりして処分しないといけないですよね?」
 残った激マズおせちを囲んで、紅葉とバジルが話している。
「とりあえず捨てるのは良くないので、私は我慢して食べますけど」
 そう言って紅葉は箸を取り出す。
「マズいおせちでも、美味しいと思い込めば、何とか食べられる……筈?」
 不味いとわかっている物。なかなか箸が進まない麻亜弥。
「そんなに不味いかね?」
 真幸は自身の作ったおせちを平然と食べている。
「コンビニで美味しいおせちも買ってきましたよ」
 ジュスティシアが袋を掲げてコンビニから出てくる。
「激マズ料理は怖いが……。しかし女性の手作りなら……」
 ゴクリと喉を鳴らす清春。
「イケる!」
 清春は思い切って料理を口に運んだ。
「ブフッ!!」
 口に入れた途端余りの不味さに体が拒否反応を起こし、口から吐き出される。
「清春お兄さん、だ、大丈夫ですか?」
 心配そうに見つめる夏雪。清春は手をあげ大丈夫だと示す。
「くっ! 折角の女性の手作りだというのに……拒否反応を起こすオレの身体が憎いっ!」
 心底悔しそうに清春は地面を叩いた。
「激マズおせちは忘れて、コンビニのおせちを食べましょう」
「ああ、バジルちゃんは優しいなーまるで天使だよ」
「あ、よく間違われますけど……僕は男ですよ?」
「なん……だと……」
 数秒の沈黙。そして……、
「うおおおお! やけ食いだ!」
 一気におせちを頬張る。
「う……ぐはっ!」
「あああ!? 清春さん!」
「水! 誰か水を!」
「今買ってきます」
 こうして、おせち事件は幕を下ろしたのだった……。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月9日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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