ミッション破壊作戦~打ち破るべき壁がそこにある

作者:ほむらもやし

●深夜のヘリポート
「あけましておめでとう! 以上。で、新年早々ですまないとは思うのだけど、使用できるグラディウスが揃ったから、ミッション破壊作戦をしよう」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、年末年始も家に帰れない人たちのことを、しばらくの間考えた。
「ミッション破壊作戦の戦い方はある程度確立されているようだから、細かな戦術については戦う仲間同士で詰めて下さい。黙っていると何かあったときフォローできないから気をつけてね。僕から話すのは、初めての人向けに基本的な内容だけだからね」
 そう言うと、ケンジはこれがグラディウスと告げながら、小さな剣を手に持ってみせた。
 これは少し短めだけど、およそ70cm前後が標準的らしい。
 柄の部分を含めるとか刃だけの長さだとか言うぐらいだから結構バラツキがある。
「で、グラディウスの行使は、魔空回廊の上部に浮遊する防護バリアに刃を接触させるだけでよい。現在の所、『強襲型魔空回廊』を破壊に至らしめる力をもっている兵器はこのグラディウスの他には無いと思う。——ただ、一度使うと蓄えたグラビティ・チェインを放出して機能を失う」
 しかしケンジは、グラディウスは大切に持ち帰って下さい。と念を押す。
 それは、「1ヶ月くらいの時間を掛けてグラビティ・チェインを吸収させれば再使用できるからだ。
「大切に扱うと心がけてくれれば大丈夫。決して投げたりはしないで下さい。手放したグラディウスを探して回収する時間は無いからね」
 様々な思いと共に繰り返し使用され続けたのだから、大切に扱って欲しい。
 変わった使い方をしても威力が上昇したりする知見はない。
 今回、貸与されるグラディウスも、皆で思いを引き継ぎながら使い続けて来たもの。
 思いは目に見えないけれど、込められた思いは大切にしたい。
「ミッション破壊作戦は、グラディウスを使った魔空回廊への攻撃と、撤退戦の二つの段階からなる。前者は個人の思いの強さ。後者は速力と裏付けとなる全員の協調が重要になる」
 今から向かうのは、攻性植物のミッション地域のいずれか。
 具体的な行き先は集まったメンバーで相談をして決定できる。
 向かう先は山や海、市街地とさまざまである。
 いつも同じ撤退作戦が有効とは限らない。
 ただし予想できる障害に対して有効な手立てを講じられればスピードは上がる。
 道筋については初めての場所に、あなたを訪ねて来る友人に道案内をする感じで考えればイメージしやすいかも知れない。
 忘れてならないのは、降下攻撃を掛けるミッション地域中枢部が、通常の手段では立入出来ない敵勢力圏であること。
 ミッション破壊作戦を別のことに例えるなら、軍事国家が厳重に警護する秘密兵器の基地を爆破して、大急ぎで逃げるようなもの。
 つまり『良い』思ってしたことでも時間の掛かることをすれば、時間切れになる可能性が高くなる。
「意外と見落としがちだけど、上空から叫びながらグラディウスを叩きつける。というのは相当にインパクトのある、派手な攻撃だからね」
 グラディウス行使の余波である爆炎や雷光は、非常に強力で敵軍を大混乱に陥れる。
 同時に発生する爆煙(スモーク)によって、視界を阻まれ、敵は連携はおろか組織的行動も出来ない状況だ。
 だとしても、一度も戦わずに逃がしてくれることは無い。
「グラディウス行使を終えてからスモークが有効に働く時間にはそう長くは無い。バラツキがあるのは事実だけど、幸運を期待するべきではない」
 甘い期待に基づいた想定は、それよりも厳しい状況になって時に必ず裏目に出る。
 備えは役立つ場合もあるが、本人がどのようにイメージしているかに関わらず、何か行動を付け加えれば、その分の時間は加算することは忘れてはいけない。
「時間に余裕が少ないと言われていても、今までミッション破壊作戦中に、敵に包囲されてケルベロスが死亡した事例は、僕が知る限りは無いけど——油断をしないで下さい」
 過去に苦戦した地域であっても、ケルベロスの戦闘技量が相当に強化されているため、こうしたことが有利に働く場合もある。
「グラディウスの使用時は気持ちを高めて叫ぶと威力が向上すると言われる。『魂の叫び』と言われるぐらいだから、思い切り気持ちをぶつけてみると良いと思うよ」
 ミッション破壊作戦では、繰り返しの攻撃によるダメージの蓄積で、強襲型魔空回廊の破壊を目指す。
 この戦いは、ケルベロスたちが抱く、さまざまな思いを結集して、強大な敵を打ち倒すものである。
 ミッション地域は、現代の日本の中にあっても、人類の手が及ばない敵の占領地。
 立ちはだかる敵の戦闘傾向は、既に明らかになっている情報も参考にできる。
「ミッション破壊作戦が始まってから3年が過ぎた。でもデウスエクスの手に落ちたままの地域はまだ多い」
 あなたの目の前に見える世界が平和に見えて、世界は平和と思いたくても、実際に侵略を受けて続けている日常は危機。
 危機を知らないことにして、いま、享受できている平和が続くと思うのは、朽ちた木の床の上で暮らしているようなもの。——いつ踏み抜いてもおかしくは無い。
 ケルベロスなら、その危機を打ち壊すことが出来る。


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)
フレデリ・アルフォンス(ウィッチ甲冑ドクター騎士・e69627)

■リプレイ

●降下攻撃
 高空のヘリオンを飛び出して降下を開始した、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は視線を下方に向ける。
 攻撃目標である魔空回廊は、まだ指先ほどの大きさにしか見えないがすぐに確認できた。
 周囲には、夜明け前後の青暗さに染まった広大な山並みが続いている。
 しかし違和感を感じた。
「どうしてこんなに雪が無いのかな?」
 尾花沢の周辺はスイカの産地であるだけではなく、世界でも有数の豪雪地帯として知られている。もっと白い雪を纏った風景が広がっていなければならないはずだ。
 重力の加速を得て降下を続ける。頬に当たる寒気の冷たさは痛みを感じるほど。
 距離が縮まるにつれて魔空回廊とそれを防護するバリアの存在感は急速に大きくなってくる。
「ミッション地域、一つ一つ、地道にでも解放していかないとね」
 デウスエクスの活動の影響なのか、今年が偶々暖冬であるだけなのか、今は様々に想像することしかできないが、ここに来た目的は些かも変わらない。
「スイカの名産地でスイカに擬態してるなんて……卑劣なことを」
 冬にスイカに擬態しても違和感しかないはず。それでもスイカにこだわるのは何故か。間近では壁の様にしか見えないバリアにグラディウスの刃を向ける。
「純なる愛がどうとか知らない、お前たちをスイカ割りしてあげる!」
 叫びと共に突き出したグラディウスが接触した瞬間、衝撃と激痛が身体を突き抜けて行く。
「夏ごろにここのスイカを食べられるようになるために、ここを取り返させてもらうよ!」
 弾き飛ばされる。だがその衝撃に抗ってもう一度、満身の力を込めた。
 昇る太陽とは違う、閃光が広がり爆発の衝撃波が風景を揺さぶる。
「尾花沢はスイカだけやない。美味しいそばやお米も作っとるええところなんですよ!」
 続けて、田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)が、衝撃波を生み出した火球を斬り裂くようにして、突っ込んで来る。
「やからこそ農家の皆さんの大事な作物を、人を傷つけるもんに変えられる恐怖、農業もままならへん悔しさがどれほどのもんか!!」
 被災者となり何もかも失った恐怖。丹精込めて栽培した作物が人を傷つける化け物に変わった恐怖、理不尽な境遇に堕とされた人々への怒りを鋭い叫びに込めて、しかし冷静に、落ち着いた手つきでグラディウスを振り下ろす。
 今日、2度目の閃光が爆ぜて、新たな爆炎が生まれる。膨張を始めたそれが、裂けて崩れかけた火球と混じり合って炎を孕んだ、激しい上昇気流を巻き起こす。
「壊れてしまえや、魔空回廊! 農家の皆さんの明日のために!!」
 僅かに積もっていた雪が瞬く間に蒸発したせいか、広がる火焔の周囲に虹の如き模様が揺らぎとなって生じる様が、フレデリ・アルフォンス(ウィッチ甲冑ドクター騎士・e69627)の目に映る。
 同時に半球状のバリアの曲面を爆煙(スモーク)が瀑布となって流れ落ちて行く。星の誕生を連想させる幻想的な光景に刹那、息を飲むが、間近に迫ったバリアを打ち砕くため、素早くグラディウスを構える。
「こらー! 食べ物を剣にしちゃいけません!」
 そして叫ぶ。
 次の瞬間、手先から足先に向かって突き抜ける衝撃に、身体が浮かび上がる感覚が来る。弾き飛ばされてたまるかと、更にいっそう力を込めて叫ぶ。
「甘くておいしい尾花沢スイカを壊滅させて農家の人達を困らせるとは絶対許せん! それにオレ達消費者だって尾花沢スイカを食べられなくなるのは悲しいんだ!」
 目を開けていられない強烈な閃光の中、放出できるグラビティの限り叫び続けた。
「怪奇スイカ人間は焼却だ! 焼却!」
 秒速に換算すれば数百メートルにもなるかも知れない、気流が地上のありとあらゆる物を空高く巻き上げて行く。
「相変わらず、すごい威力なのデース」
 炎に覆われたままの異形の塊が大量に空中に舞い上げられている。それらが数え切れない程の青白い雷光に貫かれて、次々に塵と消える様を、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)を目にしながら、このような大量殺戮の感覚を当たり前と思ってはいけないと感じた。
「そう、スイカ割りは、もっと楽しくするものデスよ、そうロックに!!」
 自分が最も大切だと思うことを、感じたままに言葉に込める。
 割ったスイカはもちろん皆で美味しく食べるし、間違って違うところを叩くのも、意義深い。
「おまけに皆に迷惑をかけて愛とかどうとかノーロックデスよ!」
 今は冬だし、自分が言うことに辻褄が合わないことがあることも承知している。だけど今、感じている正直な気持ちには違いない。
「冬が終わって、春が過ぎたら、スイカにぴったりの夏! ここに住む皆さんが大切に育てたスイカで、皆が楽しい夏を過ごすためにも!」
 半年もすれば、夏の初めになる。一刻も早くここを取り戻さなければ、楽しい夏はありえない。人の営みも季節も単独で成り立つものではなく、連続したつながりの中にあるのだから。
「夏になる前に取り戻させてもらうデスよ!」
 満身の力を込めてシィカはグラディウスを叩きつける。
「レッツ、ロック! ボクの歌を聴けぇぇぇデェェェス!!!」
 グラディウスによる攻撃の余波が、炎や雷の形をなす。それらはグラディウスを所持していない、加護の対象とならないあらゆるものに対して、一方通行の暴力として襲いかかる。
「スイカはキミ達と似てるもんね。——自分と似たものを見れば、守りたくなるのは分かる気がするよ」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は、敵の境遇にも思いを巡らせた。
 果たしてこの場所に好き好んでやってきたのか、誰かの指示で送り込まれたのかは知らない。
 ひょっとしたら、種族の命運を背負って来ているのかも知れない。とも想像もできる。
「でも、同じようにボクも地球の人達を守りたいし、そこは譲れないよ」
 敵に同情しないわけでは無いが、それをもって味方が傷つくことを許容するわけには行かない。
「それにキミ達にも魅力的に見える土地はここの人達が育て作り上げたもの。いくら素敵でもとっちゃうなんてダメ! なんかだからね」
 複雑に混じり合う両者の思惑を整理して考えながらグラディウスを叩きつける。そして弾かれる衝撃に抗いがなら、もう一度刃に力を込めた。
「返してもらうよ!」
 凄まじい上昇気流に揺れる爆煙は既に成層圏に達している。
 夜が明けたばかりの澄んだ空に墨を流したように広がってゆく。広がった雲と地上から伸び上がった爆煙が柱のように繋がってこの世の終わりの如き光景が広がる中、防災行政無線の不気味なサイレン音が響き渡っている。
「スイカが元とは随分変わった敵であるが——」
 身につけていた、グラディウスをレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)は、慎重に構えると、爆炎の輝きと自分自身を映す鏡面の如き防護バリアに向ける。
「一般人を襲うのであれば、去ってもらう他になく——」
 繰り出した刃先がバリアと接触すると同時に来た激烈な衝撃に耐えながら、少ない言葉に万感を込めた。
「この地より去れ!!」
 本日6回めとなるレーグルがグラディウスを叩きつけても、魔空回廊にも防護バリアにも目立った変化は見られなかった。
 地表はいつものグラディウス攻撃の時と同じ様に濃密な爆煙(スモーク)が漂い、今や尾花沢盆地は濃霧に包まれたような状態となっている。
「とりあえず最上川の方角に、国道13号に当たったら道なりに南下でええと思う」
 先に着地した、マリアもフレデリも破壊の成功を祈りつつも、撤退の算段の確認をしていた。
「道なりに進んでも、問題はないだろう」
 尾花沢盆地は四方を山に囲まれているため、地形が読みづらい所もあるが、攻撃前に見た朝日の方向と谷の伸びる方向を把握していれば大きくは間違いにくい。畑や田んぼ、民家も多く、道も整備されていることから、道の無い場所をわざわざ選んで走る必要もないだろう。
「でも、ここはまだ敵地なのデス」
 懸念があるとすれば、通りやすい道があると言うことは、撤退路も敵に予測されやすいことだった。
 グラディウスによる攻撃は残り2回。まだ続いている。
「ちっと遅くなっちまったがお年玉のお届けだぜ」
 軽い口調に、強い気持ちをこめて、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)はグラディウスの刃を振り下ろす。
 瞬間、閃光が視界を奪う。
 同時にイメージしていた通りの強い衝撃と痛みが来る。
「騒がしくするが、そっちも作物を騒がしい物にしてるんで、お互い様。折角の商品を駄目にされた農家の恨み——」
 身体が浮いて弾き飛ばされる感覚に抗いながら、微動すらしないバリアの曲面にグラディウスを押しつけ続ける。
「そしてテメーを倒してソフィアおばあちゃんからお小遣いを貰いたいオレの欲望」
 ——まとめて受け取れ、返品はお断りだ!
 直後、大きく弾き飛ばされた泰孝とすれ違うようにして、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)がバリアに向かって突入して行く。
「いいでしょう。愛でる者・アーヴェイルの遺志を継ぎ、純なる愛を広めようというのであれば、元調停者、ソフィア・フィアリスが相手しましょう。そしてこの地を取り戻させていただきます!」
 強烈な閃光が煌めく。衝撃から来る激痛から、時が止まったと錯覚する静寂をソフィアにもたらした。
(「あんな奴の遺志なんて継がなくてもいいのに。意外と人望があったのかしら?」)
 刹那に頭の中を巡る、複雑な思い、様々な記憶に気持ちが惑う。
「アイツラ自身には恨みはないけど、きっちり倒させてもらうわ」
 だが目の前の悪しき現実に終止符を打ち、まずは全てを元に戻すことを願い、いっそう強くグラディウスを振り上げ、より強く叩きつけた。

●撤退戦
 合計8回。それぞれの強い思いをグラディウスと共に叩きつけたが、魔空回廊の破壊には至らなかった。
「ほな、全員揃ったようやし、出発してもええかな?」
「柄にもなく気張ったのに、なかなか壊れないものよねえ」
 マリアの呼びかけにソフィアがわざとらしく疲れた様子で応じる。
 攻性植物の活動や攻撃の余波により、色々な意味でメチャメチャになっているとはいえ、尾花沢は元々人が活動していた場所だ。敵に制圧されてからも比較的浅く、道路も地図の通りの場所にあるようだから迷う心配はなさそうだ。
「道があると言うことは、敵がちっと考えれば、オレたちの退路の予測もできるわけだよな?」
「そう言うことになるであろうな」
 裏か表か、コイントスの結果を眺めながら、懸念を口にする泰孝に、それが当然のことであるようにレーグルが応じた。
「ところで、そのコインは何の意味があるのか?」
「さーて、どうでしょうねぇ」
 誰からもお年玉は貰えないような気がしたが、言っても仕方の無いことなので、泰孝は言葉を濁した。
「なにかいるよ!」
 みんな気をつけて——。
 撤退を始めて2分ほどでシルディの警告が飛んだ。
 敵が道に陣取っているぐらいのことは想定すべきことだから抜かりはない。それに加えて目の良いシルディだからこそいち早く敵の気配に気づけたのかも知れない。
「くっ、なんだかベトベトして気持ち悪いし、損したような気分なのデス。——ともかく、気を取り直して。ケルベロスライブ、スタートデス!!」
 不意を打とうとした敵の目論見は破ったが、普通に放たれた弾幕の如き種蔓をシィカは躱し切れなかった。
 どこか余裕があるのは、敵の攻撃が事前に得ていた情報の通りであり、全員がダメージ耐性を揃えるなど愚直なまでに対策をしているから。故にシィカのダメージも大したことなかった。
「あいつの剣、二刀での攻撃後がチャンスよ~」
「そんなら、まずは手堅くいくで——」
 シィカの歌声に紛れていたがソフィアの言葉が聞こえた。真実かそうでないかは分からなかったが、直後、宙高く跳び上がったマリアの飛び蹴りは、見事なまでに攻性植物を打ち据える。
「当たらなければ意味がねえしな。慎重に行くぜ!」
 ひとりひとりの対策は万全、それでもフレデリは気を緩めない。攻撃を確実なものとするためにメタリックバーストを発動する。市街地に近いミッション地域だから撤退距離も短いはず。故に時間にも多少の余裕ができると考えれば、急いで攻撃するよりも確実性を高める一手を入れるのも効果的だ。
「我ラ、純ナル愛ヲ継グ者……ルーンセンチネル!! オマエラ、絶対二ユルサナイ!!」
 この攻性植物は口をきくのか——と内心思いつつも、相手にして時間を浪費したくもないので、レーグルは得物に地獄の炎を纏わせて、圧倒的な破壊力を持つブレイズクラッシュを叩きつける。
 瞬間、受け止めようとした敵——ルーンセンチネルの両腕を消し炭に変えて、蔦を束ねたような身体を真っ二つに裂いて燃え上がらせる。
「意外にあっけなかったな」
 充分すぎる手応えに戦いの終わりを確信したレーグルが言った。
「ちがうで、まだ?!」
 マリアの警告が飛ぶと同時、燃えかすの如き炭屑の中から、きれいな緑色のルーンセンチネルが立ち上がる。
 機を合わせるようにして、陽葉はファミリアロッドの舞葉をニワトリの姿に戻す。
「放て!」
「純ナル愛ヲ振リ撒クタメ、タダイマ復——ギャッ!!」
 何か言いかけたルーンセンチネルを吹雪の如き凍結光線が包み込み青々としていた身体を真っ白な霜で覆う。
「そっちにも受け継いだ者達がいるように、こっちだって、受け継いだ子達がいるんだから」
 だから、明日からは本気で頑張る——。
 ソフィアは言い放つ。
 担保無き前借りの誓いの気持ちを孕んだ溶岩が、凍結した敵の足元から湧き、噴き上がった。
「ギャーアアアー!!」
 今度は、消し炭も残さずに燃やし尽くした。
「今度こそだいじょうぶだよな?」
「あとひと頑張りよ。そら、頑張れ若者~」
 また復活しないかと心配そうな顔をするフレデリ、心配ないと、その背中をソフィアは叩く。
 スモークはまだまだ濃厚で、余裕をもって撤退を続けられそうだ。
「だれも、忘れ物、してないよね? それじゃあ行くよ!」
 シルディの明るい声に導かれるように、一行は西に向かって撤退を続けた。
 道路の上には焼け焦げた乗用車やトラックが転がっていて、攻撃の余波によって未だ炎がくすぶっている所も見られた。
 いつかはただ戦い続けるだけではなく、語り合っていく事ができればいいなって、思ってるんだよ。
 攻性植物も、農家の人のお手伝いをしてくれるとかになれば変わってくるんだけどな。
 実際に攻性植物を武器として操るケルベロスのことを考えると、それが全くの夢物語では無い気もするのだが——。
 今はまだ、そうできるような状況も作れてないし、技術もなくて……。
 ごめんね。
 荒れ果てた土地を、一行は走り続ける。内に抱く思いは様々であった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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