城ヶ島制圧戦～豪炎竜バドルグを討て！

■リプレイ

●死闘！　豪炎竜ＶＳケルベロス　
「あれか……うわっ！？」
　ヘリオライダーに指示された通りのルートを進み、間もなく城ヶ島公園に入ろうというあたり。
　行く手に、輝く紅の鱗を持つドラゴンがぬっと出てきたのを認め、文月・蒼哉（着ぐるみ探偵・e04973）が呟いた瞬間。
　紅の鱗のドラゴンはケルベロスたちをじろりと見やり、そしていきなりぐわっと口を開いて火炎のブレスを吐く。強烈な炎が、セレナ・スフィード（薬局店員・e11574）と蒼哉、そして二体のボクスドラゴンで構成される前衛ディフェンダーを襲う。
「あちちちちっ、問答無用かよっ！」
「先制するつもりだったが、向こうも充分に警戒していたようだな」
　紅の竜を見上げて、セレナが不敵に呟く。
「しかし、ぬるい。その程度の炎では、私を燃やし尽くすことは出来ん」
「ホザキヨルワ、小サキ者ガ」
　紅の竜が、割れ鐘のような声をあげる。
「貴様ラガ、我ガ炎ノ一噴キデ燃エ尽キルヨウナ弱者ナラ、何ヲシニ来タノカト笑ッテヤルトコロダ。少シハ、楽シマセテクレルノダロウナ？」
「死に至る闘いを、お前が楽しめるのかどうか知らんが。今まで、味わったことのない体験になることだけは、保証しよう」
　大真面目な口調でセレナが応じ、蒼哉がシャーマンズカードを抜き出す。
「黒猫師団所属、文月蒼哉。一番槍いざ参る！」
　鋭い声で宣言すると、蒼哉はカードを振りかざし、白銀の騎士の姿をした氷属性のエネルギー体を召喚する。
「くらえ、フロスト・ランスナイト！」
「グフッ！」
　氷結のエネルギー体に突撃され、紅の竜はわずかに揺らぐ。そこへ続けて、セレナがバスターライフルからフロストレーザーを放つ。
「グヌウ……我ガ炎ヲ冷ヤソウトイウノカ。小賢シイ！」
　冷凍ビームを避けようとして避けきれず、まともに顔面に撃ち込まれてしまい、紅の竜は苛立たしげに咆哮する。
「ソノ程度ノ冷気デ、コノ豪炎竜ばどるぐノ炎ヲ冷ヤセルナドト思ウナヨ！」
（「冷やすのは二の次……怒らせるのが目的だ」）
　さすがに作戦意図は口に出さず、セレナは射抜くような視線で竜を見据える。その間にボクスドラゴンの一体……小森・ルチノ（鳥籠少女・e07624）のサーヴァント、よくちゃんこと『よくぼういち号』が、自分自身をヒールする。
　そして中衛ジャマー、シェミア・アトック（悪夢の刈り手・e00237）と日柳・蒼眞（蒼穹を翔る風・e00793）の二人が攻撃にかかる。
「邪悪なる瞳の魔力にて、かの地彩る彫像とならん……！」
　大鎌『蒼き炎獄の裁首』を構えたシェミアが、石化の魔法光線を放つ。蒼眞は異界の冒険者の意志と力を借り受け、雷電の力を帯びた斬撃を見舞う。
「ランディ・ブラックロッドの意志と力を今ここに！……全てを斬れ……雷光烈斬牙……！」
「浅イ！」
　冷気攻撃を受けた時とは打って変って、豪炎竜は身じろぎもせず傲然と言い放つ。実は、直接のダメージよりも石化や麻痺の効果を狙った攻撃なのだが、もちろんそんなことをわざわざ教えはしない。
　そして後衛スナイパー、物部・帳（お騒がせ警官・e02957）はわずかに考えた後、愛用のリボルバー銃『捕鳥部万』から白蛇を放ち、攻撃ではなくセレナへの治癒術を行う。続く小森・ルチノ（鳥籠少女・e07624）は、もともとメディックであり、躊躇うことなく蒼眞を「真に自由なる者のオーラ」ことジョブレスオーラで治癒する。
（「……治癒してもらっておいて何だけど……その、ジョブレスって名前、何とかならないのかね」）
　蒼眞は思ったが、もちろん口には出さない。そして、愛柳・ミライ（宇宙救済系・e02784）のサーヴァント、ボクスドラゴンの『ポンちゃん』が自分を癒やし、ミライ自身は立ち止まらず戦い続ける者達の歌「紅瞳覚醒」を奏で、前衛全体を治癒し防御力を上げる。
　そしてランジ・シャト（舞い爆ぜる瞬炎・e15793）が、ドラゴンの頭部まで高々と跳び、ルーンアックスを叩きつける。
「おらっ！　よそ見してんじゃないわよ！」
「フン……浅イワ」
　軽く鼻を鳴らすと、豪炎竜はいきなり身を翻し、セレナへ竜爪を叩きつける。
「ぐあっ……！」
「マズ、一人」
　相手が潰れたのを確信した口調で、豪炎竜が呟く。まともに竜爪を喰らってしまったセレナは全身から激しく血を噴きだし、更にその傷口を炎が焼く。ぐら、と身体が揺れ、倒れるかと思いきや。
「……まだだ。まだ、私は倒れはしない。倒れてなるものか！」
　強烈な意志を籠めてセレナが叫び、体勢を立て直す。通常なら完全に戦闘不能のダメージだが、魂が肉体を凌駕したのだ。
「こ、これは……」
　一瞬、蒼哉は瀕死のセレナに治癒を使うべきか迷ったが、治癒役は別にいるし、敵は単体。敵に攻撃の手番が再び回る前に、仲間が治癒できるはず、と、理性で感情を抑えつけ、蒼哉は豪炎竜に攻撃を仕掛ける。
「来るなら、俺に来い！」
　挑発の叫びとともに、蒼哉はファミリアロッドを小動物……黒猫ネコ吉の姿に戻し、魔力を籠めて射出する。ネコ吉は怖れげもなく巨大なドラゴンに飛びつき、爪で無茶苦茶に掻き毟る。
「グオッ！」
　魔力が籠っているとはいえ、サイズからすれば比較にもならない小動物の攻撃に、豪炎竜がたじろぐ。更にボクスドラゴンのよくちゃんがブレスを吐き、巨竜の傷口を的確に抉る。
「ギギ……コンナ、チビドモニ……」
「大きければ、強いわけではない。そして、強ければ勝てるわけでもない」
　全身ずたずただが、目だけは爛々と輝かせて、セレナが言い放つ。
「だが、これは真実だ……十倍強い程度では、一人は十人に勝てない！」
　さあ、お前は私の、否、私たちの何倍強い？　と、凄惨な微笑を浮かべて問いながら、セレナは豪炎竜に飛びかかり、惨殺ナイフを縦横に振るって相手の傷を更に抉る。竜の血とともに、彼女自身の血が盛大にしぶくが、まるで気にする様子はない。
　そしてシェミアも、豪炎竜に近接し、全力攻撃を仕掛ける。
「悪夢に惑いし魂よ……この一閃にて浄化する……！」
　呟きとともに、シェミアは空中で大鎌を振るう。一見、空振りをしたようにみえるが、実は相手の霊体とトラウマを刈り取っている。
「ク……何ダ、コノ解放感ハ……」
　当惑した口調で、豪炎竜が唸る。その隙を狙って、ランディ……もとい、蒼眞が飛び込む。
「星天……十字撃！」
　蒼眞は二振りのゾディアックソードを同時に振るい、天地揺るがす超重力の十字斬りを叩き込むが、しかし豪炎竜は平然と告げる。
「フ……浅イナ」
（「……それは、ダメージよりもパラライズ狙いだからなんだが」）
　言い返したくなるのを、蒼眞はかろうじて抑える。そして帳は、再びセレナへ治癒術を使う。
（「凌駕できたのは僥倖でありましたが……さて、どこまで僥倖が続くか……」）
　難しい表情で、帳は呟く。続いてルチノが、ジョブレスオーラをセレナへと放つ。ボクスドラゴンのポンちゃんがブレスを吐き、ドラゴンの傷を抉る。ミライはジョブレスではないオーラを使い、セレナを癒やして炎を消す。
（「……かなり治癒できたけど、完全じゃないわね」）
　ランジはセレナを見やり、ルーンアックスの力で治癒を行う。効率はよくないが、わずかな体力差が生死を分けかねないのだから、回復は可能な限りしておいた方がいい。
　そして次の瞬間、豪炎竜は前衛に向かって火炎ブレスを吐く。
「ぬるい！」
　決して無視できないダメージを受けながらも、セレナは決然と叫ぶ。
「その程度の炎では、私を燃やし尽くすことは出来んと、言ったはずだ！」
「……確カニ、貴様ハシブトイ。小サキ者トシテハ、ダガ」
　渋々といった感じで、豪炎竜が応じる。
「ダガ、他ノ奴ラハ、ドウカナ？」
「見ての通りだ。誰一人として、燃やし尽くされるどころか、倒れてすらいない」
　昂然と、セレナは言い放つ。
「確かに、一対一なら、お前は私たちの中の誰よりも強いかもしれない。しかし、団結した十人を倒せるほどの強さが、お前にあるかな？」
「舐メルナァ！　十人ガ百人ダロウト、小サキ者ナド、我ガ敵デハナイ！」
　吠える豪炎竜に、蒼哉が【氷結の槍騎兵】を叩きつける。
「グアッ！」
「お前なんかに、一対一でも負ける気はしない」
　冷ややかな口調で、蒼哉が挑発する。続いてよくちゃんがボクスタックルを決め、セレナはフロストレーザーを撃ち放つ。
「ギギギ……アクマデ、冷ヤソウトイウノカ……」
「お前がどういうつもりか知らんが、これは試合でも決闘でもない、戦争（いくさ）だ」
　バスターライフルを構え、セレナは言い放つ。
「そして戦争（いくさ）に勝つには、相手が嫌がること、してほしくないことをするのが鉄則だ」
「……勝ツ気デイルノカ、貴様ラハ。コノ、豪炎竜ニ」
　唸るドラゴンに、セレナはきっぱりと答える。
「私たちは、相手が誰だろうと、負ける気で戦争（いくさ）をするほど馬鹿ではない！」　
　もっとも、勝つ気でいれば勝てるわけではないが、と、セレナは内心で続ける。
　そしてシェミアが石化光線を放ち、蒼眞がランディの力を借りて雷電の剣を打ち込む。
「浅イナ。ソンナ甘イ攻撃デ、我ニ勝ツ気デイルノカ、貴様ラハ？」
　豪炎竜は、再び傲然と言い放つ。さて、石化や麻痺が効力を発揮しても、そんな余裕を持てるかな、と、蒼眞は小さく呟く。
（「気がついた時には、既に手遅れって事態も、世の中にはあるんだぜ」）
　胸の中で呟いた時、蒼眞は無意識に顔を顰めてしまった。単位とか留年とか、そういう類の単語が脳裏に浮かんできたからだが、もちろん今はそれどころではない。
　そして帳は、みたびセレナに治癒術を使う。
（「おそらく、次のクロー攻撃が勝負でありましょう。そこで戦闘不能者が出なければ、勝ち目が見えてくる。しかし、誰かやられたら……」）
　まあ、最善を尽くすだけであります、と、帳はドラゴンを鋭く見据える。ルチノはジョブレスオーラを使って蒼哉を癒やし、ポンちゃんはボクスタックル、ミライは生きる事の罪を肯定するメッセージを歌って、前列を癒やし炎を消す。そしてランジは、再びセレナを治癒する。
　そして、豪炎竜が身を翻した。
　その爪は、セレナに向かうかと見せて、不意に横殴りに振るわれる。ボクスドラゴンのポンちゃんが直撃を受け、きゅう、と、ひと声鳴いて封印箱に飛び込んだ。
「今度コソ、一人」
「あっ……！」
　ミライが一瞬、泣き出しそうな顔になるが、即座に表情を引き締めて敵を睨み据えた。

●激闘の果て
「豪炎切り裂いて進むのよ　負けることを知らない　狂戦士！　死を知らない竜に　命の意味を教えて　地獄の猟犬！」
　それこそブレスを吐きかねない勢いで、ミライが歌う。勇壮な曲は前衛……ボクスドラゴン二体が戦闘不能に陥り、セレナと蒼哉の二人になっている……を癒やし、耐性を強める。
　そして豪炎竜は、セレナに向かって爪を振るうが、その動きは鈍く、易々と躱される。
「ク……ナゼダ……」
　この身体の重さは何なのだ、と、歯噛みをするドラゴンを見据え、蒼眞が小さく肩をすくめる。
（「まあ、あれだけしつこく麻痺攻撃打ち込んで、ジグザグで増幅してもらったんだ。いい加減痺れてもらわなけりゃ、こっちが困る」）
　思いはしたが言葉には出さず、蒼眞は注意深く戦闘の経緯を見据える。蒼哉がシャーマンズカードを出し【氷結の槍騎兵】を召喚するかと思いきや、いきなり別のモノを呼びだした。
「着ぐるみ召喚【着ぐるみの森】！」
「……は？」
　敵も味方も、一瞬、目が点になって動きを止める中、ゆるキャラ着ぐるみの群れのエネルギー体が召喚され、ドラゴンに殺到する。
「フ……フザケルナアッ！」
　豪炎竜が喚いたが、蒼哉は大真面目な口調で告げる。
「ふざけてなどいない。この攻撃を受ければ、その恐ろしさがわかる」
「ヌウッ……」
　エネルギー体に殺到されたドラゴンは、爪を振るって相手を吹っ飛ばそうとするが、その動きは更に鈍い。
「ナゼダ……ナゼ、コンナ……」
「戦場にあるべきでない可愛いものが敵として出現すれば、誰でも混乱し、気後れする。貴様は、可愛いボクスドラゴンを無慈悲に倒したが、内心の迷いは隠し切れていない。その心の弱さを突いたのだ！」
　びしっとポーズを決めて、蒼哉は告げる。ちなみに、ここまで特に描写してこなかったが、彼自身、青いスカーフを巻いた黒猫の着ぐるみを、ケルベロスコートとして常に着用している。
　一方セレナは、惨殺ナイフで豪炎竜の傷を抉り、押し広げる。毎ターン同じ攻撃をしているように見えるが、実は力任せの絶空斬と迅速を極めたジグザグスラッシュを交互に使い、見切られることなく効果を上げている。
（「そろそろ、動けなくなってもよさそうなもんだが」）
　呟く蒼眞に、シェミアが声をかけてくる。
「一気に畳みかける……クラッシャーに、変更するよ……！」
「よし、合わせる」
　示し合わせ、二人は中衛から前衛クラッシャーへポジション変えをする。一回、攻撃機会を失うが、次のターンから強力な攻撃で大ダメージが出せるようになる。
（「ふむ、勝負どころ、でありますか」）
　シェミアと蒼眞のポジション変更を見て、帳が小さくうなずき、捕鳥部万に詰める弾丸を変える。
「この弾は、少々特別製でありますよ！……って、こら！　まだ出ちゃダメであります。私が感電する！」
　いささか緊張感に欠ける言葉を口走りながら、帳は銃を撃つ。弾丸は、豪炎竜に命中する少し前で破裂し、ドラゴンに劣らぬ大きさの黒蛇……三輪の雷神が出現する。これぞ帳の必殺技『三輪大蛇の天変地災（ミワノオロチノテンペンチサイ）』であり、出現した雷神は、問答無用で凄まじい雷嵐を巻き起こす。
「ヌアッ……グワアアアアアアアアッ！」
　全身を雷に貫かれ、豪炎竜が苦悶の咆哮をあげる。今こそ好機と見て、メディックのルチノも攻撃に転じる。
「来週からがんばるねー！　ニートヴォルケイノ！」
　通常は明日からだが、彼女の場合は来週から本気を出すという誓いの心を溶岩に変え敵の足元から噴出させるという、何とも微妙な大技ニートヴォルケイノが炸裂、豪炎竜の全身を灼く。負けじとばかりに、ランジも必殺の『炎火収斂（レイジング・フェノメノン）』を発動させる。
「ちまちました戦い方って好きじゃないのよ。コイツで全部消し飛ばしたげる！」
　豪炎竜ったって、凍結に弱いわけでも火炎に強いわけでもなかったのよね、と、この期に及んで確認しながら、ランジは集められるだけの火炎を集めて圧縮した大火球をドラゴンに叩きつける。
「ギ、アアアアアアアアッ！」
「……あ、終わった……」
　せっかくポジション変えたのに、と、シェミアがちょっと残念そうな声を出す。そしてセレナが、断末魔の叫びをあげる豪炎竜を見やって、半ば独言のように呟いた。
「あの世で待っていろ。いずれ私個人で……一対一で再戦しに行く」

作者：秋津透	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年12月9日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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