コタツにみかんは究極の組み合わせ!

作者:神無月シュン

「皆さん、よく集まってくれました」
 とあるマンションの一室。集まった信者を前に、両腕を広げ喜びを顕わにする羽毛の生えた人型の異形――ビルシャナ。
「寒くなってきたこの季節。コタツに入ってみかんを頬張る。これほどの贅沢はないでしょう?」
 ビルシャナの言葉に、感激し拝み始める信者たち。
「今日は皆さんの為に、コタツとみかんを用意しました。思う存分堪能してください」
 次々とコタツへと入っていく信者たち。心酔する信者たちの瞳からは徐々に光が失われていくのであった。


「悟りを開いてビルシャナ化した人間が、信者を増やそうと行動を開始するようです」
 書類を手に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まったメンバーたちに事件の概要を説明する。
「ビルシャナと信者と戦い、ビルシャナ化した人間を撃破する事が、今回の目的です」
 ビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やそうとしている所に乗り込む事になる。
「ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまいます」
 ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれない。
「ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加してきます」
 ビルシャナさえ倒せば信者は元に戻るが、戦闘に参加してくる信者が多くなれば、それだけ戦闘がしづらくなるだろう。

「信者となっている一般人は10名です」
 ビルシャナ、信者共に戦闘力は低いが人々を守るケルベロスとしては、信者たちは無傷で正気に戻したい所だ。
「信者たちは『コタツでのうたたねは気持ちいい』『温まりながらみかんを食べテレビを見る、最高』『ずっとだらけていたい……』といった声をあげています」
 マンションの部屋には数多くのコタツが配置されており、戦闘するときは少々動きづらいかもしれない。
「戦闘に参加する信者たちはコタツから出ようとはしないようです。攻撃の心配をしなくていいのですが……」
 セリカはここで一呼吸を置き、続きを口にする。
「信者たちの信仰心を受けたビルシャナが力を増すようです。信者たちを気絶させればビルシャナの強化を解除することができます」
 出来るだけ信者たちの無力化を優先したいところだ。

「ビルシャナとなってしまった人は救う事が出来ませんが、信者たちはまだ救う事が出来ます。どうか、ビルシャナの手から皆さんを解放してあげてください」


参加者
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)
ルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)
 

■リプレイ


 ケルベロスたちは中にいるビルシャナと一般人に気づかれない様、注意を払いながらとあるマンションの部屋の前へとやってきた。
「コタツにみかんは魅力的だけど、それは人を堕落させる巧妙な罠だね。皆には、もっと健康的な生活を送って貰いたいよ」
 そう言うシルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)はドアに耳を当て中の様子を窺っていた。
 どうやら中ではビルシャナがコタツについて熱く語っている真っ最中のようだ。
「わぁ、着る毛布ってホンっとあったかい♪」
「はじめて使ったのだが、あたたかくて動き回れる。すごい」
「最近寒すぎだから丁度いいね♪」
「うむ」
「もうこれが標準装備でもいいかも……」
「流石に外で着ているのはどうなのだろう」
 着る毛布を羽織り、話に花を咲かせている、那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)とルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)の2人。
「さぁいたず……、こほん、ビルシャナ討伐ガンバろー!」
 そう言って作戦を開始する為、扉を開けると摩琴とルイーゼは部屋の中へと忍び込んだ。

 少しして、大きな音をたてながら部屋へと入ったのは、アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)。無言で侵入したアジサイも着る毛布を纏っている。
「暖かさとだらだらを求めるなら、電力に頼るコタツに限定しない方がいいと思うな。だって電気がなかったらただのテーブルでしょ」
 アジサイの影から顔を出したのはマイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)。
 アジサイとマイヤが派手な登場で注意を引いているうちに『隠密気流』を使い目立たない様に行動する摩琴とルイーゼ。
「そっちのケーブルお願い」
「うむ、分かったのである」
 コタツの電源を差し替え、タコ足配線を作り上げていく。
「コタツは確かに温もるけど、それだとほとんど身動きが出来なくならないかな?」
「別にいいじゃないか。こうして暖か……あれ?」
 シルフィアの問いかけに答える配下だが、途中で様子が変わった。
「容易く手が届く安寧に甘んじた結果、それが今の貴様らだ。炬燵から手が届く範囲でしか生きられぬ哀れな存在。だから、手の届かぬ危機には何もできない。例えば……ブレーカーが落ちるような危機には、な」
 配下の様子を見て作戦が成功したことを悟ったアジサイはニヤリと笑う。
「あ、ブレーカー落ちてるみたい」
 コタツ布団を捲り、中を確認するマイヤ。
「炬燵とは、かくも不完全なものよ」
 電気がなければ暖かくならないコタツを見て、アジサイは呟いた。

「私は、湯たんぽとかカイロとかをお勧めするよ!」
 コタツが温まらなく震えだす配下たちに、シルフィアが話しかける。
「停電した時には、コタツは全然温まらないし、湯たんぽやカイロなら持ち運べるから外出するときにも便利だよ」
 持ってきていた袋から、次々とカイロや湯たんぽを取り出していく。
「寒いなら、湯たんぽやカイロなら幾らでも持って来ているよー」
「カイロくれー!」
「お、俺も!」
 寒さに耐えきれなくなった配下たちはシルフィアの元へ集まっていく。
「暖かいー」
「もう、自分の家に帰って温まろう……」
 配下たちが次々と部屋を去っていく。
「寒いよね? そういう時は暖かい恰好をするのが一番。例えば……着る毛布!」
「炬燵に頼らねばならんとは、なんと弱い怠惰力。俺を見ろ」
 着る毛布についてマイヤとアジサイが語り始める。
「最近は大きなポケットが付いてるのもあって、ペットとかサーヴァントを入れられるの」
 ほらと合図を送ると、マイヤのポケットからボクスドラゴンのラーシュがひょっこりと顔を出す。
「これならずっと一緒で可愛いし、お互いの体温でぽかぽかだよ。しかも自家発電みたいなものだから電気代がかからなくてエコ!」
 その場でくるりと一回りしてアピールする。
「好きなところでのんびりできるし、これは利便性が高いのではなかろうか」
 隠密行動をしていたルイーゼも合流と同時、説得に参加を始めた。
「冬場でもたまには部屋を換気しなければだめだぞ」
「そうそう。万が一の時だって……」
 部屋の奥。窓際まで歩いていくと、マイヤは一気に窓を全開にした。
「少しも寒くないわふははは」
「ほら、寒くない!」
「窓を開けても自分自身があたたかいからへっちゃらである。うむ」
 着る毛布のおかげで平気だと、口をそろえる。
「この完成されたゆるだら具合。この格好で寝ることすら可能だ」
 その場に寝転び始めるアジサイ。
「オススメは羽毛布団とセットにすると、ごろごろできてもっといいよ」
「ううう……寒い」
「毛布に布団……暖かそうだ……」
「どうどう? 着てみたくなった?」
 マイヤが欲しがる相手に着る毛布を配っていく。
「もふもふの手触り、試してみて」
「皆さんお待ちなさい!」
 着る毛布を受け取る配下たちに待ったをかけるビルシャナ。
「そんな誘惑に負けてはいけない。コタツ、コタツこそがみかんと合わさり最高の贅沢を味わえるのです」
「そんなことを言われても、寒いものは寒いんだ!」
「羽毛に包まれて暖かそうにして!」
 着る毛布を受け取った配下たちは、ビルシャナに文句を言うと部屋を後にしていく。

「あとは、こたつに頼りきりではこたつが故障したときとても困る」
 ビルシャナと配下たちが言い合う中、説得はまだ続いていた。
「配線で躓いたりしたら、わたしはうっかり天板を割ってしまうかもしれない」
 そう言いルイーゼはコタツに手をつく。
「それにこたつに入れる人数には限りがあるし、全身潜ろうと思ったら更にせまいものな」
「コタツってさ、争いの種だよね?」
 今まで様子を窺っていた摩琴が口を開く。
「なぜそう思う?」
「だって、面積が決まってるからさ……恋人とだったら同じ面から入ってイチャイチャできるけど……」
 そこで辺りを見渡す摩琴。
「あ、ごめん!」
 そう言うのとは無縁そうだねと舌を出して愛想笑いを浮かべた。
「うん、幅は取るのに入れる人数や面積は少ないから、こういう集まりには向かないよね?」
「はぁ。ほんと、何やってるんだろ俺……」
 一度怒り冷静になった配下は、どうかしていた。馬鹿馬鹿しいとこの場を去った。


「その程度の攻撃、無駄だよ!」
 ケルベロスたちの説得により、配下を失ったビルシャナに脅威となる攻撃は一つもなかった。
 ビルシャナの渾身の攻撃もこうして、摩琴の放った光の蝶が舞い仲間の傷をあっという間に治していく。
 回復する間もケルベロスたちは攻撃の手を緩めず攻めていく。
 アジサイの一撃がビルシャナの胴を捉え、マイヤの一撃が地獄の炎を纏い襲い掛かる。
 更には星形のオーラをビルシャナ目掛けて蹴り込むルイーゼ。
「ぐうううっ!? まだです!」
 ビルシャナの反撃は素早く反応したシルフィアによってあっさりと受け止められる。
「あなたに届け、金縛りの歌声よ」
 シルフィアの口から紡がれるのは、金縛りを引き起こす呪われた歌声。
「隙あり!! 撃ち抜け! High Speed Specter っ!!」
 ビルシャナが耳を塞いだその瞬間、摩琴の手により撃ち出されたエクトプラズムがビルシャナを撃ち抜いた。
 余りの衝撃によろめくビルシャナ。その瞬間を逃すはずもなく――。
「脇ががら空きだ」
 アジサイが一瞬で距離を詰めると硬化した爪を見舞う。
「上を向いて、きっと願いは叶うから」
 マイヤの詠唱にキラキラ輝く流星が、群れを成して上空を満たす。連なった光は踊るように。弾けるようにビルシャナへ襲い掛かる。
 更にマイヤのポケットから飛び出したラーシュが追撃を加えた。
 ルイーゼが取り出し掲げたのは、ガネーシャパズル『百花』。ルイーゼが力を込めると『百花』が輝き出す。やがて光は、竜を象った稲妻へと姿を変えビルシャナ目掛けて解き放たれる。
「があああああああああああああああああああああああ!」
 強力な電撃を浴び叫びをあげるビルシャナ。攻撃の余波に部屋の照明が明滅を繰り返す。
「この後ろ蹴りを、受けてみなさい!」
 電撃が止み、放心するビルシャナ。その隙にシルフィアは近づくとビルシャナに背中を見せると同時、後ろ足で思い切り蹴り上げる。
 一度天井へと叩きつけられ、床へ倒れ込んだビルシャナは再び立ち上がることは無かった……。


 戦いを終え、アジサイは所狭しと置かれているコタツを片付けていく。
 その間にシルフィアは部屋の修理を行なう。床に天井、一つ一つ丁寧にヒールを施していく。
「本当はわたしもコタツにみかんっていいと思う」
 コタツを片付けるのを手伝いながらマイヤが呟いた。
「それはわたしも同じだぞ。うむ」
「コタツも好きなんだけど、今回は心を鬼にしないといけなかったからね!!」
「ビルシャナの教義に利用されたとあれば、同意するわけにはいかないのである」
 隣で作業をしていたルイーゼと摩琴もマイヤの言葉に同意するように頷いた。
「炬燵が好きな気持ちはよくわかる。俺も寒いのは苦手だ」
 ケルベロスたちもコタツは好きなのだが、今回はビルシャナの教義を肯定してしまう事になる為に他の寒さ対策を薦めることにしたのだった。
 本当は皆、布団に入っているかのような暖かさ。一度入ったら出られない、そんなコタツの不思議な魔力には抗えないのかもしれない……。
「蜜柑が余っているなら、お土産に持って帰りたいな」
 シルフィアは部屋の隅に置いてあったみかん箱を確認しにいく。
「おーい先に行っちゃうよ?」
「待って。今行くよ」
 部屋の外へと出ると、北風が肌をさす。体の芯までが凍ってしまいそうな冷たさに、恐ろしいまでの寒がりな摩琴はガタガタと震えだす。
「うー寒い。早く帰ってコタツに入って温まりたいね!」
「それはいい案だな」
「うむ、それなら帰りにみかんを買っていくのはどうだろうか」
 こんな寒い日はコタツに入ってだらだら過ごそうと、この後の計画を立てながらケルベロスたちはマンションを後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月2日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。