餅つき大会を守れ!

作者:坂本ピエロギ

 餅つき大会で賑わう、とある商店街の広場。
 そこを一歩外れた裏通りに、一台の壊れた餅つき機が捨てられていた。
 少し大きめの電子ジャーにも見える直方体のボディ。すり鉢型のパーツにもち米を入れ、機体のボタンで操作をすれば、美味しいお餅の出来上がり――。
 そんな道具としての役目を終えたその機体に、狙いを定めた者がいる。
 蜘蛛めいた形の機械脚に、握り拳ほどのコギトエルゴスムを抱えた小型ダモクレスだ。
『キリキリキリ……』
 ダモクレスは餅つき機に飛びつくと、機体内部へ潜り込む。
 そうしてヒールの光と共に、粗大ゴミだった餅つき機は、立派な手足が生えた殺戮餅つき用マシンへと変貌を遂げて、
『ペッタン! ペッターン!!』
 機体から取り出した杵を手に、グラビティ・チェインを求めて広場へと向かっていった。

「そうして餅つき機のダモクレスは、餅つき大会に参加していた人々を襲う……?」
「そっす。犠牲者が出る前に、ホゥさんと皆さんで事件を防いで欲しいっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はそう言って、ヘリポートに集合したホゥ・グラップバーン(オウガのパラディオン・en0289)とケルベロス達に依頼の説明を始めた。
 事件が起こるのは、商店街の中央広場に設けられた餅つき大会の会場だ。今から急行すればダモクレスの出現前には到着できるだろう。
 市民の避難については、ダンテが警察に対応を依頼してあるので、到着する頃には広場は無人になっている。広場は十分な広さがあり、大会用の設備が戦闘の巻き添えを食う事はないとダンテは付け加えた。
「敵は餅つき機のダモクレスで、横長の電子ジャーに手足が生えた格好っす。ジャーの中から粘着性の弾を発射したり、餅つき用の杵を振り回して攻撃してくるっすね」
 幸い、敵の戦闘能力はそれほど高くない。協力して挑めば、苦戦する相手ではない事を付け加えて説明を終えると、ダンテの話は戦いが終わった後の事に及んだ。
「うまく敵を倒せたら、広場で餅つき大会が開かれるっす。餅つきの他に、ついたお餅とかも食べられるんで、帰りに寄って行くのもいいかも、なんて思うっす!」
 餅つき大会では、ついたばかりのお餅を食べられる。
 もち粉をまぶしたのし餅は、そのまま焼いてお醤油をつけて食べてもいいし、おろし大根をかけたからみ餅や、ずんだ、きな粉をまぶすのもいい。こし餡、つぶ餡、白餡などの餡子を包んだ大福餅の他、ぜんざいや力うどんなど、お餅を使った料理も揃っている。
 それを聞いたホゥはゴクリと喉を鳴らし、期待に目を輝かせた。
「のし餅に大福、今から凄く楽しみです……!」
「ダモクレスを倒して、大会の方も楽しんで来て下さいっすね。それじゃ出発っす!」
 そう言ってダンテは搭乗用ハッチを開放すると、ヘリオンの操縦席へと駆けていった。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)
北見・燈(冬幻燈・e85469)

■リプレイ

●一
 とある晴れた昼下がり。
 ヘリオンを降下した番犬達は、予知があった商店街の広場へと到着した。
「お餅! お餅!」
 大弓・言葉(花冠に棘・e00431)が簒奪者の鎌をぶんぶんと振って叫ぶ。
「頑張ろうね、ぶーちゃん。お餅つき大会を絶対に守るの!」
 熊蜂風の箱竜ぶーちゃんは、先程から言葉の周りを元気一杯に飛び回っている。大好きなお餅がかかっているとあって、普段は臆病な彼も今やすっかりやる気満々だった。
「避難も終わって、人が巻き込まれる心配もないし。全力で行けるもんね!」
 闘志を燃やす言葉。そんな彼女にうんうんと同意を返すのは、エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)だ。
「これが終わったらお餅がたっくさん食べられる……楽しみ~!」
 エヴァリーナの視線が向いているのは、少し離れた場所にある餅料理のブース。そこでは少し前に搗きあがったであろうお餅がほかほかと湯気を立てている。
 傍には沢山のトッピングも揃っていた。醤油に味噌に大根おろし、餡子にずんだに黄粉。どれも食欲をそそるものばかりだ。
「白味噌のいい香りがする……! まずは丸餅のお雑煮にしようかな。それから力うどんも食べて、汁粉に大福、黄粉餅……たくさんたくさん食べたいなぁ……」
 見ればブースの一角には、食事用のスペースも設けられている。
 大テーブルの一面に餅料理を並べた光景を想像して頬を緩ませるエヴァリーナの言葉に、ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)が同意を示す。
「お餅、凄く美味しそうですよね。私は黄粉まぶしが気になって……!」
 その一言を聞いたテレビウムのイエロが、ぴょんぴょんと餅つきのジェスチャーをしながら飛び跳ねた。どうやら餅つきにも参加したいらしい。ブレアはそれを見て、赤茶色の瞳で柔らかい笑みを浮かべる。
 自分の手で作った餅の味は、きっと格別に違いない。赤ん坊の肌のようにすべすべな餅に黄粉をたっぷりまぶし、それをぱくりと頬張って――。
「えぇ、もちろん……もちろん、今回も食べさせていただきますっ!!」
「楽しみですよね。折角のイベントですし、台無しには出来ませんね」
 期待に目を輝かせるブレアに北見・燈(冬幻燈・e85469)は頷き、戦いの支度を終えたところだった。
「お茶と和菓子は外せないとして、折角の機会なので餅つきもしてみたいと思います」
 それから美味しそうな餅料理があれば、そちらも是非……と呟く燈。
 話しを聞いた天司・桜子(桜花絢爛・e20368)は、広場をエアシューズで軽く駆けながら会話に加わって来た。
「桜子はからみ餅とか、磯辺焼きとかが気になるー。ダモクレスをやっつけたら、みんなで楽しい時間を過ごしたいな」
「うんうん。お餅は一緒に作って食べるのがいいのよねー」
 心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)は微笑みを浮かべながら、孤児院の子供達を思い浮かべた。今日はお餅を多めに搗いて、子供達のお土産にしよう。きっと素敵な年末年始が過ごせるはずだと。
「いっぱい頑張って、いっぱいお餅を持って帰りましょうね。ソウちゃん」
 翼猫のソウが餅のように白い翼をはためかせて応えた。主人の括と同じく、子供達のためにも必ず勝とうと決意しているようだ。
 と、その時。
「皆さん、注意を。……来たようです」
 七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)が警戒を発し、路地裏へと続く一本の道を指さした。
 ズシイィン……ズシイィン――。
 間を置かず、重々しい轟きが次第に広場へと近づいてくる。
 談笑を止め、即座に戦いの配置につく番犬達。その眼前にぬうっと姿を現したのは、巨大な餅つき機型のダモクレスだ。
『ペッタアァァァンッ!!』
 すり鉢状の餅つき機構を取り付けた箱型のボディ。その両脇に生えた鉄腕に構える大杵の威圧感に怯む事無く、綴は仲間達へ呼び掛ける。
「さあ、行きましょうか。市民の方々がお正月を迎えられるように」
「そうですねーぇ。あんな邪悪な存在は放置できませんねーぇ」
 前衛に立つ人首・ツグミ(絶対正義・e37943)は朱殷の大鎚をダモクレスへ突きつけるように構えると、正義の味方として懲罰執行を高らかに告げる。
「お餅の前に、貴方をペッタンペッタンしてあげますよーぅ♪」
『ペッタン!? ペッタアァァァァンッ!!』
 かくして、戦闘は開始された。

●二
『ペッタアァァンッ!』
 咆哮を轟かせるダモクレスの臼状機構から、真っ白なグラビティ粘着弾が燈を狙い定めて飛んできた。言葉はオラトリオの翼を広げて急降下、射線に割り込んで弾を浴びる。同時に弾が言葉の体に纏わりつき、回避の力を奪った。
「ぶーちゃん、がっつり攻撃してね!」
 言葉はエアシューズで地上を滑走、ダモクレスの両脇をぶーちゃんと挟むようにすると、流星蹴りと属性ブレスのコンビネーション攻撃を見舞った。
 たまらずたたらを踏むダモクレス。そこへ桜子が一直線に突っ込むと、スターゲイザーの追撃で鋼の脚を蹴り砕いていく。
「まずはその素早い動きを、封じてあげるよー!」
「私の蹴りも差し上げます。避けきれますか?」
 綴は細い足を鞭のようにしならせ、箱型の胴体に旋刃脚の蹴りを叩き込む。
 強烈な麻痺に囚われたダモクレスは、それでも怯む事無く巨大な杵を構えると、ぶんぶんと振り回して攻撃態勢に入った。
『ペッタアァァーンッ!』
 どうやら敵の狙いは中衛のようだ。括は彼我の間合いからそれを察すると、グラビティと想いを込めた包帯でツグミの体を巻き始めた。
「敵の足も良い具合に止まったみたいねー。さあ、強くしていくわよー!」
 括は清浄なる風を前衛に送るようソウに伝えながら、ツグミに微笑みかける。
 これから始まるのは、番犬とダモクレスの餅つき合戦。餅つきは杵だけでなく、合いの手も欠かせない。括はそれを務める1人だった。
「はい完了よー。ぺったん! ぺったん!」
「百人力ですーぅ! 頑張りますねーぇ!」
 『心意式予防法』の支援で破壊の力を強化させたツグミは、身と心を揮わせながら大鎚を振りかぶって突撃。足止めで動きの鈍ったダモクレスめがけて、進化の可能性を奪う一撃を叩きつける。
「いきますよーぅ。そーれぇ♪」
『ペペペッ!? ペッタアァンッ!!』
 ツグミの常軌を逸した威力の一撃を受けてよろめいたダモクレスは、その体を氷で覆われながらも、負けじと杵を振り回して応戦。大立ち回りを演じる両者の外では、負傷した言葉をエヴァリーナがウィッチオペレーションで癒す。
「言葉ちゃん、傷は平気? 今回復するからね!」
「ノーチェ様、私も手伝います。イエロ、援護を」
 餅つきを更に盛り上げようと、ブレアは爆破スイッチを起爆した。カラフル煙幕で後衛の仲間に勇気をもたらす傍ら、イエロの応援動画で言葉の傷を塞ぐ。
「二人ともありがとう。もう大丈夫なの!」
「ダモクレス。その守りを剥いであげます」
 言葉が戦列に復帰する。いっぽうブレアの煙幕に背を押された燈は斬霊刀を抜き放って、二つの杵が荒れ狂う修羅場へと飛び込んでいく。
 かつては人々のために働き続けた機械。しかし今は、グラビティ・チェインを求めて蠢くデウスエクス。街の人々を守るためにも、情けをかける事は出来ない。
「覚悟してもらいましょう、ダモクレス。……ぺったん!」
 燈の刺突が雷の霊力を帯びて、装甲の隙間に突き刺さる。
「……受けなさい!」
『ペッタアァァンッ!』
 ビシッという音を立てて装甲が吹き飛ぶのも構わず、ダモクレスは中衛の括と綴めがけて突っ込んで来た。言葉はすかさず、ブレアと共に嵐の如き横薙ぎを正面から受け止めると、妖精弓から引き絞ったエネルギーの矢をお返しに放つ。
「ぶーちゃん、私達もぺったんぺったん! ここでしっかりカロリー消費するよ!」
 心を貫く矢に射抜かれ、ダモクレスが構える杵の先がふらふらと彷徨い始めた。
 ぶーちゃんが勇猛果敢にタックルを浴びせて助太刀する後方から、ピンク色のハンマーを掲げた桜子がドラゴニックパワーの噴射で加速。カラフル煙幕で沸き上がる闘志を込めて、速度と重力を込めた一撃を振り下ろす。
「桜子もぺったん! いっけええぇぇぇ!」
『ペ……ペッタアァァァンッ!』
 ドラゴニックスマッシュの一撃がもたらす振動が、餅つき会場を揺さぶった。
 衝撃でボディを大きく凹ませるダモクレス。対する番犬側はエヴァリーナが足元に描いた魔法円から小妖精の如き光を召喚し、『小妖精の祝福』の力によってブレアと言葉の傷口を包み込んでいく。
「うう、何だかお腹が減って来たんだよ……みんなファイトだよ、ぺったん!」
「承知しました。さあダモクレス、私の一撃も受けてもらいましょうか」
 綴は桜子の一撃で凹んだボディを狙い定め、自分の可能性を信じる心を魔法へと変換していく。ぺったんぺったん。やれば出来る。
「そう。私もその気になれば――ぺったんぺったん出来るはず!」
 魔力を付与されたオウガメタルが、敵の脇腹に食らいついた。瞬く間に氷に包まれていくダモクレスを狙い定め、斬霊刀を構える燈。それを援護するように、括は更なる合いの手でブレイブマインを起爆する。
「もう少しよー。みんな頑張ってー」
「助かります。そろそろ仕上げと行きましょうか」
 カラフル煙幕の鼓舞を受けた燈は、空の霊力をまとう斬撃をダモクレスへ叩き込み、綴が与えた傷口を更に切り開いた。
「デウスエクスとなった以上、討つのみです。覚悟してもらいましょう」
『ペッタアァァンッ!!』
 全身を凍らせ、絶叫を上げて崩れ落ちるダモクレス。ブレアはガネーシャパズルから光る蝶を解き放ち、ツグミの第六感を研ぎ澄ました。
 これが最後の合いの手だ。仕上げは思い切り派手に行こう。
「人首様。とどめを!」
「了解ですーぅ♪」
 ツグミは魂の残滓を練り上げ、形成した大鎌をダモクレスへ向けた。
「自分は貴方を救いません。願いもしないし祈らない。ええ、ええ。神の手など払いのけましょう。それが貴方の結末ですよーぅ♪」
 正義の味方である彼女にとって、美味しいものすなわち餅は正義。同時にその催しを邪魔せんとするダモクレスは、徹頭徹尾にして純然たる悪そのもの。
 今ここに、餅つきという名の正義を執行すべし。
「そーれぇ、ぺったん♪」
『ペッ……ペッタアァァァァンッ!!』
 ツグミが振り下ろす一撃に叩き潰され、ダモクレスは爆発。魔力が齎す業火に焼き払われ灰となり、跡形もなく消え失せるのだった。

●三
 現場の修復が終わって程なく、餅つき大会は再開の運びとなった。
 景気の良い声に合わせ、餅をつく人々。出来たばかりの餅を満面の笑みで頬張る子供達。いつもと変わらぬ日常が戻ってきた商店街を、綴と桜子はぶらぶら散策しつつ、あちこちのブースで好みの餅を選んでいく。
「お餅が沢山あって、目移りするねー」
「ええ。漂うもち米の香りが、何とも食欲をそそります」
 桜子に相槌を打つ綴が選んだのは、焼いたばかりの醤油餅だった。
 団子状に丸めたお餅に何重にも醤油を塗り込んで、竹串に刺して炙ったものだ。立ち上る匂いをそっと吸いこむと、腹の虫が途端に暴れだした。
「やっぱり、搗きたての餅は違いますね」
「桜子はどれにしようかな……あっ、あれが美味しそう!」
 あつあつの餅をついばむように食べながら会場をそぞろ歩く綴。一方の桜子はというと、からみ餅に目を留めたようだ。温かい餅に白雪のような大根おろしをまぶし、さっと醤油をかけた逸品である。
「ふふっ、ほっとする味だね。そういえば皆はどうしてるかな?」
「あそこにいるようですね。私達も行きましょうか、桜子さん」
 綴が指さしたのは、食事用スペースの一角。そこでは他の仲間達が、めいめいの餅料理に舌鼓を打っている最中だ。合流する桜子と綴に手を振って返すのは、山と積み上げた餅料理を片っ端から平らげていたエヴァリーナだった。
「ふえぇ、美味しいよぅ……最高だよぅ……」
 エヴァリーナの卓に並ぶのは、お雑煮と力うどん。
 お雑煮は人参と大根に彩られた白味噌仕立ての椀で、ど真ん中に堂々と鎮座する丸餅を、エヴァリーナは箸でうにょんと伸ばして頬張っていた。
「うん、美味しい……」
 そうして瞬く間にお雑煮を平らげれば、次は力うどんだ。
 優しい味がする温かい汁を一口すすり、きつね色に焦げた角餅をかじる。うどんはコシがあって歯応えもよく、するりと胃袋へ収まった。
「いいお味ですね……」
 いっぽう隣に座るブレアはというと、黄粉餅をつまんでいる。
 搗きたての餅に黄粉をたっぷりとまぶし、黒蜜をかけたものだ。お供の緑茶をすすれば、身も心もぽかぽかと温まる。
「実は、こんな物もいただきまして」
 そう言って手を伸ばしたのは、紫色の餅。紫芋と呼ばれる薩摩芋を練りこんだ餅で、素朴な芋の味わいと黄粉の相性が実に良い。
「美味しいです……! イエロもどうですか?」
 そうしてブレアがテレビウムと餅を分け合っていると、言葉と燈が餅つきに挑戦するのが見えた。合いの手を務めるのはホゥのようだ。
「ホゥさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ。それでは言葉さん、燈さん、始めましょう!」
「よーし。ぶーちゃん、お餅をつくよ!」
 大きな杵を元気よく振り回す言葉。腕まくりをする燈。蒸したもち米を臼にあけて丁寧に潰せば準備は完了、いざ餅つきの始まりだ。

●四
「ぺったんぺったん! あ~、もち米のいい匂いがする!」
「お腹が空いてきますね。美味しいお餅が出来そうです」
 言葉が搗いて、燈が搗いて、合いの手でホゥが餅を丸める。
 一足先に餅を頬張るツグミは、もち米の香しい匂いに頬を緩ませ、その光景をのんびりと眺めていた。
「んんー……砂糖醤油ってどうしてこう、香ばしいのでしょうねーぇ!」
 甘辛い醤油が染みた魅惑の味わいに、嬉しい悲鳴を上げるツグミ。餅をつくのも良いが、自分は食べる方をメインに頑張る――とは彼女の弁だ。
「さて、次はちょっと趣を変えてみますーぅ!」
 そう言ってツグミが手を伸ばしたのは、餅ピザだった。
 普通のピザと違い、具の土台となる生地を餅で焼いたものだ。トマトとチーズ、サーモンとケッパー、テリヤキチキンにカレーポテト……食欲をそそる具を次々に載せては、それをツグミはあっという間に平らげる。
「さてーぇ、では最後に甘いものも……♪」
 シメは蜂蜜がけのデザートピザ。味に変化があると、いくらでも腹に収まってしまう。
「ふふっ。燃費の悪い腕も、これで元気になりそうですねーぇ♪」
 そうこうするうち、言葉と燈のついた餅は立派な白い塊へと変わっていた。
 精魂を込めて搗いた餅はとても立派で、ソウも思わず大喜びだ。これだけあれば孤児院の子供達も、きっと楽しい年末年始を過ごせるだろう。
「お疲れ様ー。いま皆の分を分けるわねー」
 括は搗きあがった餅をホゥと一緒に運び、餅粉を塗して均等分すると、早速餅を食べたい人はいるか尋ねた。出来立ての一品である、どう料理しても美味しいに違いない。
「はいはーい! 私とぶーちゃんは今食べたい!」
「折角ですし、私もいただきます」
 そうして手を挙げた言葉と燈の前には、程なくして焼きたての餅が並んだ。
 言葉の卓にはぷっくりと膨らんだきつね色の餅。醤油、大根おろし、大福餅にぜんざい、塩味と甘味が満遍なく揃った顔ぶれだ。醤油を浸した餅は、シンプルながら抜群に美味い。からみ餅は餅の熱さと大根おろしの冷たさが実に合う。
「ぶーちゃん、美味しいね!」
 ぶんぶんと上機嫌で飛び回るぶーちゃんと一緒に、言葉は大福餅にも手を伸ばす。色とりどりで見た目も味も共に良い。
「締めはぜんざいよね。甘いものは別腹別腹!」
 デザートをもりもり食す言葉の横では、燈が納豆餅をつついていた。餅に納豆をかけて、刻み葱と海苔を散らしたものだ。じんわりと染み込む滋味か、体を芯から温めてくれる。
「美味しいお餅ですね。心がほっとします」
「本当ねー。きっと子供達も喜ぶわー」
 括もまた、温かいお汁粉をすすっていた。脇には餅の包みも積んである。こちらは孤児院の子供達に持って帰る分だ。
「ソウちゃん、しっかり食べていくのよー?」
 はしゃぎ回りながら餅を頬張るソウ。その向かいではエヴァリーナが、搗きたての餅塊に黄粉をまぶした一品に取りかかるところだった。雑煮とうどんを駆け付け5杯平らげ、胃袋も大分温まったところ。彼女にとってはここからが本番だ。
「ふぇえ、美味しい……」
 人々の賑わい、仲間の笑顔。山盛りの餅。平和を満喫しながらエヴァリーナが立派な餅を齧っていると、ブレアとホゥが第二弾の餅つき準備を終えた。
「皆様。折角ですし、もう少し食べませんか?」
「私も頑張って搗きます。良ければ是非!」
 そんな素敵な申し出に、仲間達の番犬達は拍手で答える。
 特に大喜びなのはエヴァリーナとツグミだ。
「さんせーい! 他にも磯部餅と餡子餅とか善財も……大福も食べたーい!」
「とっても素敵ですねーぇ。お代わりも餅ピザにしましょうかーぁ♪」
 こうして始まる餅つきに、仲間達も手拍子で参加する。
 ぺったん、ぺったん。
 声に合わせて杵を振り下ろすホゥ。合いの手を入れてイエロの杵を誘うブレア。
「いきまーす! ぺったん!」
「はい、次はイエロの番ですよ!」
 番犬達の長閑なひと時は、こうしてゆっくりと過ぎていった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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