私の犬になりなさい

作者:白鳥美鳥

●私の犬になりなさい
 武蔵野・大和(大魔神・e50884)は、パン屋で働いている。
「今日も忙しかったな……。だけど、明日も良いパンを焼かなくては!」
 もう、夜も遅い。だが、今日も忙しかったが、明日も朝が早いのだ。翌日も良いパンを焼く為に、少しでも早く休む為に帰宅する為に、急いで自宅へと向かっていた。
 そんな大和の前に、可愛らしい姿の少女が現れた。
「あら、なかなか可愛い『犬』になりそうな人じゃない。ふふ、可愛い『犬』になる為に、私の為に死んで頂戴?」
 その少女は問答無用という勢いで大和に襲い掛かって来たのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、大変な事態が起きたんだ! 力を貸して欲しい!」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、大慌てでケルベロス達に話しかける。
「実は、武蔵野・大和(大魔神・e50884)が、宿敵であるデウスエクスから襲撃を受ける事を予知したんだ! 勿論、急いで大和に連絡を取ったんだけど、全然応答が無いんだ……。これは危険な状態になっているに違いない。みんな、大至急、大和の元に向かって欲しいんだ!」
 デュアルは状況を説明する。
「大和はパン屋で働いているんだけれど、その帰り道に襲撃を受けたみたいだ。相手は可愛らしい女の子の姿をしているけれど、死神なんだよ。詳しい理由は分からないんだけれど、彼女にとって『犬』っていうのは重要らしくて、それで大和に目をつけたみたいだ。攻撃は、やっぱり犬を使って攻撃してくる。正確には『犬』は配下では無くて、あくまで彼女の攻撃方法だから、犬がいる訳じゃない。とはいえ、強力な相手だから気を付けて戦って欲しい」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)も、慌てている。
「とにかく、大和ちゃんが大ピンチなのは分かったの! 大和ちゃんがこれからも美味しいパンを焼き続ける為にも、みんなの力を貸して欲しいの!」


参加者
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)
ミーティア・ドラーグ(自称異星人・e85254)
 

■リプレイ

●私の犬になりなさい
「あら、なかなか可愛い『犬』になりそうな人じゃない。ふふ、可愛い『犬』になる為に、私の為に死んで頂戴?」
 可愛らしく微笑む可愛らしい少女。しかし、言っている事はかなり残酷だ。
「確か、パン屋に勤めているのよね? 名物は……メロンパンだったような。うん、中々良い『犬』ね! 美味しいパンを作ってくれる『犬』!」
「ちょっと待って下さい、『犬』ってそういう意味ですか!? 召使的な『犬』って事ですか!?」
 思わず突っ込んでしまう、武蔵野・大和(大魔神・e50884)。
「召使いっていうか……下僕?」
「そんなのこっちからお断りです!」
「人間を犬呼ばわりとは随分不躾な奴だな。他人を見下すならばそれなりの武力を示してくれるのだろうな?」
「武蔵野さんを、わんちゃんにですか? 可愛いとは思いますけど……いやいやダメですよね。惑わされてはいけません」
 そう言って現れたのはカタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)とミーティア・ドラーグ(自称異星人・e85254)。続けてイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)、四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)も駆けつけた。
「皆さん、来てくれたのですか? ありがとうございます!」
 駆けつけてくれたケルベロス達に感謝する大和を見て、少女……コルチカムは舌打ちし、顔をしかめた。
「仲良しごっこ? ……反吐が出るわね」

●死神・コルチカム
「さあ、私の可愛い犬達! 駆け抜けるのよ!」
 コルチカムの周囲に多くの犬が現れる。そして、その犬達を使役し、イッパイアッテナと大和に向かって放つが、その攻撃をイッパイアッテナとミミックの相箱のザラキと共に大和への攻撃ごと受け止めた。
「イッパイアッテナさん、ありがとうございます! 良いですか? 僕を怒らせると怖いですよ……」
 感謝の言葉を伝えつつ、大和は全身を地獄の炎で覆いつくし、自らの攻撃力をより高める。
「ワンちゃんと遊びたきゃ、髭の旦那に本物の犬でもせがんだらどうよ。まあ、可哀想な犬と同じくらいには、アンタも可哀想な目に遭うんだけどね」
 幽梨は弧を描きながらコルチカムの急所を確実に狙って斬りつける。カタリーナは守りの力を高めるために、イッパイアッテナと大和の周囲にドローンを展開させた。
(「戦闘の補佐や説得はしましたが、本気の『戦い』ははじめてですね」)
 緊張をしつつ、ミーティアもルーンの光を纏わせてコルチカムに向かって思いっきり斧を振るった。
「みんな、頑張るのー!」
 ミーミアはオウガ粒子を大和達に向かって集中力を高め、ウイングキャットのシフォンは清らかなる風を送り、護りを高めていく。
「本物の犬も悪くはなけれど……私の犬達はとても忠実なのよ」
 コルチカムは再び数多くの犬達を召喚する。
「さあ、私の可愛い犬達……! お楽しみは後から……先に他の奴等から行くわよ!」
 コルチカムに命じられた犬達が、カタリーナとミーティアに向かって次々と突撃していき、体当たりを喰らわせた。
「お二人共、頑張ってください」
 イッパイアッテナは黄金の光を使ってカタリーナとミーティアを包んでいく。同時に相箱のザラキと幽梨は、間髪を入れずコルチカムに向かって噛み付き攻撃と巨大な鋼鉄の拳を用いて殴り飛ばした。
「思い通りにはいかせませんよ!」
 大和は膝に黄金の角を伸ばすと、炎を散らしながら跳び膝蹴りをコルチカムに喰らわせる。
「こちらも守りを固めるか」
 カタリーナは自身とミーティアの周囲にもドローンを展開させて守りを高めていった。
 一方で、ミーティアはルーンを発動させるとコルチカムに光を輝かせつつ斬りつける。
「次はカタリーナちゃん達なの!」
 ミーミアはオウガ粒子をカタリーナとミーティアに向かって放ち、集中力を高め、シフォンは幽梨に向かって清らかなる風を送って護りを高めた。
「さあ、私の未来の犬! プレゼントよ!」
 今度は確実に大和に向かってプレゼント箱が投げられる。
「未来の犬って……うあっ!」
 可愛らしくラッピングされたプレゼント箱。その箱から全身の生命力を奪われていくのを感じた。
「と……とんでもないプレゼントですね」
「まあ、死んでくれないと、私の『犬』に出来ないし」
 大和の生命力を吸い上げて回復したコルチカムは、何を当然の事だと言わんばかりにそう言った。
「美味しいパンを焼いてくれる『犬』って初めてなのよ。欲しいわ!」
「やっぱり、パンが目当てなんですね!?」
 最初の頃のやり取りに戻った。コルチカムは少女の姿をした死神だが、そういう考え方も見た目通り子供らしい。……手段に関しては明らかに問題があるのだが。
「……武蔵野さん、パン職人である事が仇になって。あれ、でも、それだと武蔵野さんのパンの腕はそれだけ認められているという事になるんでしょうか?」
 首を傾げるミーティア。
「大和さんの職人としての腕が認められているという事に関しては悪い気はしないけど、それで殺させる訳にはいかないよ」
 幽梨は改めて、愛刀である黒鈴蘭をコルチカムに向かって突きつけたのだった。

●パン職人は狙われる
「大和さんを殺させはしない」
 幽梨は雷の霊気を帯びさせるとコルチカムを貫く。
「僕もラクシュミ様に美味しいメロンパンを食べて貰うまでは死ぬ訳にはいきません!」
 大和も高く跳び上がると横回転の後ろ回し蹴りを喰らわせた。
 その間に、ダメージを受けた大和にイッパイアッテナはオーラを用いて回復させる。相棒である相箱のザラキは催眠をコルチカムへと仕掛けた。
「全く、犬にせずとも、普通に頼めば大和ならパン位作ってくれるだろうに……その歪んだ考え方、私が骨の髄まできっちりと『調教』してやろう」
 カタリーナもバスターライフルを構えると、コルチカムに向かって魔法光線を放つ。
「そうですね。武蔵野さんが作るパンがとても美味しいから食べたいという気持ちは分からないでもありませんが……わんちゃんにはさせられません」
 ミーティアは精神を集中させると、爆破攻撃をコルチカムに仕掛けた。
「幽梨ちゃんに力を!」
 ミーミアはオウガ粒子を放って幽梨の集中力を高め、シフォンは再び大和達へと清らかなる風を送って護りの力を高めた。
「あなたの望みは何なのでしょうか? やはり、大和さんにパンを作って欲しいのですか?」
「当然でしょう? 私専用のパン職人が欲しいのよ! その位のプレゼントは貰っていい筈なの。何が悪いっていうの!?」
 イッパイアッテナの問いに、コルチカムは全力で反論する。
「……確かにカタリーナさんの言う通り、あなたがパンを望むのであれば作るのは別に良いのですが……流石に僕自身をプレゼントにされるのは、やはり困りますね」
 ここまでパン職人である大和を求めてくれると、流石に悪い気はしないのだが……やはり殺されては困るのは確かだ。
「みんなして、私の望みを邪魔するなんて……。さあ、私の可愛い犬達、新しい犬を連れてくるようにお願いするわね」
 コルチカムは、召還した犬達を使って大和達へと突撃攻撃を図る。だが、今度は大和をイッパイアッテナが庇った。
「大和さん、大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます!」
 そんな二人のやり取りを見て、コルチカムは顔をしかめる。
「……全く、仲良しこよしごっことか、反吐が出るわ」
「ごっこじゃない。あたし達は、大和さんを守りたい、それだけだ!」
 幽梨は弧を描きつつ、コルチカムの急所を狙って鋭い斬りを放つ。
「もしも、出会い方が違ったのなら……そう思わないでも無いですが……こちらも死ぬ訳にはいきません!」
 大和も飛び上がり、バク宙の要領でサマーソルトキックを放ち、コルチカムを燃え上がらせた。カタリーナは凍結光線を放ち、ミーティアがルーンを纏わせた一撃で追撃をする。
「癒しの光なの!」
 ミーミアのオーロラの様なベールがイッパイアッテナ達を包み込み、シフォンは引っ掻き攻撃を仕掛けた。
「……全く、どいつもこいつも……。少し位、私にも幸せの贈り物があっても良いのに!」
 コルチカムがプレゼントを贈るのは、幽梨。一番、体力があると踏んだ様だ。実際、それは間違いが無いし、それを選ぶという事は、コルチカムが弱っている証拠でもある。
「残念ながら、あなたの御所望の犬ではありませんが……」
 イッパイアッテナの放つ猫の姿をしたファミリア。それをコルチカムに向かって放つ。相棒の相箱のザラキも黄金の鎖を創りだすと、それで追撃した。
「抜き打つ……受けてみろ……!」
 幽梨は緩慢な構えから息吹によって練り上げた剣気を高めると、裂帛の気合と共に抜刀し居合斬りをコルチカムに向かって放つ。次いで大和の膝から伸ばした黄金の角による飛び膝蹴りを喰らわせた。
「……さあ、私の可愛い犬達。あいつらを一網打尽にするのよ!」
 コルチカムも犬を使い、大和とイッパイアッテナに向かって放つ。
 その反撃と言わんばかりに、カタリーナは魔法光線を浴びせかけ、ミーティアも集中して爆破攻撃を行った。
「大和ちゃんに力を!」
 ミーミアは雷の力を使って大和の力の底上げを図り、シフォンは清らかなる風を送り込んだ。
「どうして? どうして邪魔をするのよ! 私には贈り物を得る資格が無いとでもいうの?」
 怒りに震えるコルチカム。彼女は時々、贈り物という言葉を口にする。それは、もしかすると彼女には、それに関する何かがあるのかもしれない。
「大和さん、チャンスを作ります」
「一気に倒してね」
 イッパイアッテナは大地をかち割り、幽梨は刃でコルチカムを抑えにかかる。
「僕の夢の邪魔をするな! 僕の心の『太陽』よ。今こそ、もっと輝け!」
 作って貰ったチャンスに大和は全ての力を込める。普段は、パンを作る為に戦いには使わない両手。だが、今はそれがコルチカムに対するはなむけでもある。彼女に素手で触れ、太陽の如き高熱でコルチカムを焼き尽くした。
「……!」
 何か、コルチカムが言っているような気がする。しかし、それは燃える炎の中に消えていき……やがて光となって消滅したのだった。

●パン職人の想い
 大和の作るパンに思い入れを持ってくれていたコルチカム。
(「もしも、出会い方が違ったのなら、いい常連さんになってたのかな……?」)
 そう想い、大和は手を合わせた。
 大和の作るパンを望んでくれる人に素敵なパンを届けられる様に……そう心に誓いつつ。
「これもお供えしましょう。彼女の望んでいたものではありませんが……わんちゃんのぬいぐるみです」
 ミーティアもコルチカムが消えていった場所に、犬のぬいぐるみを供えた。
 彼女は死神だったが、子供の様でもあったと思う。少しでも喜んでもらえたらと願ってしまうのだ。
「皆さん、今回はありがとうございました。それに迷惑をかけて申し訳ありません」
 大和は改めて助けに来てくれた仲間達に心から感謝の気持ちを伝える。
「礼なら別に……ポンデケージョくらいでいい。ご家庭でなかなか作れないんだあれ」
「ええ、任せてください。他の皆さんのリクエストにもお応えしますよ」
 幽梨の言葉に、大和は笑顔を浮かべつつ、そう伝える。そう、パン職人としての夢を守れたし、これからも続けられる。その感謝は言葉だけでは伝えきれない。きっと、パンであれば伝えられるような気がした。
「じゃあ、これはミーミアから。大和ちゃんが無事だったお祝いと、パンが出来るまでの繋ぎにどうぞなの!」
 ミーミアは大和達にメロンパン型クッキーを配って歩く。戦いの後の甘い物も悪くない。
(「これからも、パン作りに精進しよう」)
 大和は改めて心に刻む。
 仲間達が守ってくれた命を大事に、これからも美味しいパンを作り続けられる様に、と――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月3日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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