聖夜の囁き

作者:四季乃

●Accident
 吹きすさぶ風は生暖かくて、およそ十二月とは思えぬほど寒さの輪郭がおだやかだ。
 カフェスタンドで購入した熱いミルクティーが身を内から温めると、少し火照りを覚えた。約束二十分前に目的地に着いてしまった逸る心が、体温を上げてしまったのだろうか。あるいはクリスマスマーケットの雰囲気に呑まれているのかもしれない。
「年末年始もあるんだから、散財しないようにしなくちゃ……あ、あのポーチかわいいな……」
 淡いラベンダー色のコスメポーチを見てほうっとため息をついた、そんな時だった。
 雪化粧を施したように白いクリスマスツリーが、がさりと揺れた――気がした。一番目立つ分かりやすい目印だから、待ち合わせ場所はここにした。不思議に思い、背後を振り返る。そんなはずはない。だって全長十メートルのそれは、倒れぬように四方からワイヤーで固定されているのだから。
 けれど、ワイヤーを隠すために飾り付けをされたイルミネーションやオーナメンがゆらゆら揺れている。ぶちぶち、という音に次いで大きく傾くツリー。
「おや。お嬢さん、こんな夜にお一人かい?」
 その影から、落ち窪んだ眼窩の男が首を伸ばして、こちらを見下ろしていた。その手にはぴかぴかに光るイルミネーションを乱射する劔が二本、握られていた。

●Caution
「その女性を皮切りに、クリスマスマーケットは血の海となってしまったのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は痛ましげに眉根を寄せたまま、ちいさな嘆息を漏らした。腕を組み、静かに瞼を伏せていた終夜・帷(忍天狗・e46162)は、締めくくられた言葉に対し頷きを以て意思を示す。
「出現するデウスエクスは罪人エインヘリアル。過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者は人を殺すことに躊躇いがありません」
 どうかこの男を、倒してくれないだろうか。

 敵は一体、得物はゾディアックソードに類似した剣を二振り所持している。
 現場はクリスマスマーケットの入り口にほど近い場所で、白いクリスマスツリーが目印となるのですぐ分かるだろうとセリカは言う。それに、最初の被害者もその場所で待ち合わせをしていた若い女性だそうだ。
「ここのクリスマスマーケットは屋外です。店舗はブースで分かれており通路自体は少々狭く、人が混雑すればすれ違うのがやっと、といったところでしょうか」
 セリカが目で合図をすると、帷は折りたたまれたチラシを広げてみせた。
 南北に延びるマーケットは左右にブースで仕切られており、ツリーの正面がまるく円を描くようにぽっかり空間が出来ている。その辺りには花壇やベンチといったものが点在し、いわゆる休憩スペースのようだった。
「戦うならばやはりこの場所が一番適していると思います。唯一大きなツリーを除けば、他のものは大体みなさんの障害にはなり得ないでしょうし」
 ツリーの近くにはマーケットの運営側が待機するテントがある。戦いが始まればスタッフたちが周囲の一般人を避難誘導してくれる手筈になっているので、皆は攻撃を凌いで時間を稼ぎつつ、敵を食い止めてほしい。
「年に一度のクリスマスを楽しみにしているお子さまもたくさんいらっしゃってます。どうか皆さんで、この罪人を倒してください」
「……よろしく、頼む」
 はじめて言葉を発した帷の低頭に、集まったケルベロスたちは目配せする。そうして静かなる黒眼に明確な意思を感じ、大きく頷いてみせたのだった。


参加者
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939)
屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
終夜・帷(忍天狗・e46162)
星野・千鶴(桜星・e58496)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
ミルファ・イスト(美幼女ガンナー・e85339)

■リプレイ


 皮膚の上を冷たい風が奔った、気がした。
 固く閉じた瞼を射し穿つ光が、頭蓋に反射して心臓を震わせる。小さくまろび出た呼気は掠れて乾いた腔内を傷付けた。初めて死を覚悟した、その筈なのに。
「聖夜に無粋極まりねえな!」
 咆哮のような一喝に次ぐ衝撃。「アッ」と短く声を漏らしたその女性は、大きく傾く世界の向こう側で、夜空を背にしたランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)が男の頬を蹴り飛ばす瞬間を見た。
「とっとと終わりにしてやるぜ!」
 しなやかな身のこなしで地面に着地したランドルフは、低い体勢から上体を起こし、流れるような動きで鍛え抜かれた拳を構える。呆気に取られるのも一瞬。罪人はすぐさま柄を握る五指に力を籠めると、覇気を伴う剣先を振り上げた。夜を照らす深紅の輝きが膨れ上がったのは、その時だった。
 それは小さく炎を散らし、紅い尾を引いて巨躯の懐に潜り込むと、クリスマスツリーの至近に居た罪人の巨躯を投げ打ったのだ。
「……この季節は、大切な人と過ごす時間をより特別なものにする。皆それぞれの、その時間に……貴様のような輩は、不要だ」
 地獄化した炎を右手に宿し、すらりとした佇まいで正視する宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)を見つけたエインヘリアルは、ぬるりとした感触と鉄臭いにおいを覚えると、鼻に深い皺を寄せる。
「任せな嬢ちゃん、待ち合わせの時間までには片を付けるさ」
 尻もちをついた女性を背に庇うようにして立ち塞がるランドルフと双牙に気を取られている内に、死角に回り込んでいた屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)は、鯉口を切りながら緩く吊り上がる唇の隙間より笑い声を漏らした。
「ふふふ……あそびーましょ……!」
 歌うように紡がれた言に罪人が振り返るより、それは速かった。雷の霊力籠る突きが肩を穿つと、全身を使って深く差し込まれる鋼。背面より突き出た刀身から鮮血が滴る匂いに気付き、桜花は黒眼を細めて笑う。
「久々の依頼……斬りたくて斬りたくてうずうずしてたわ……うふふふふふふ……!」
 あたかも意識を操るように、ごく自然と敵の気を引き連れた彼女の笑い声を耳にしながら、リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939)は己の膚から揺蕩う香りを聖夜に解き放つ。それはサキュバス特有のフェロモンと、みんなを守りたいと願うピュアな思いが起こす”ハジメテの想い”。
「……楽しみにしてる人も、多い、クリスマスマーケット、絶対に、守ってみせる、のー」
 鼻腔をくすぐる香りは霧散すると、桜花の刀を引き抜こうとするエインヘリアル――その、向こう側にまで拡がった。淡い桃色が瞬時に凍り付く。”それ”は氷結と成り、花のようにひらめくと凍てる一筋の螺旋と成って、巨躯の背面を容赦なく斬り付けた。「ぐっ」と苦し気に漏れる声が耳朶に届くのとほぼ同時に、一撃を見舞った終夜・帷(忍天狗・e46162)と罪人の視線が交差する。
 音もなく現れた帷を掬い上げるように睨み付ける男は、片手の剣を一気に振り抜いた。予備動作もなく寄こされた刃は重く、苛烈に裂けた痛みは鋭く響く。帷が体勢を整える時間を稼ぐためにミルファ・イスト(美幼女ガンナー・e85339)は氷柱を迸らせた。だが、敵は防御をするでもなく、武器で抑えるでもなく、真正面から腹部で受け止めたその様子にミルファは瞠目した。
「クリスマスに不粋なことをするエインヘリアルには、お仕置きが必要なの」
 ここで引いてはいられない。
「何より、その顔がイラっとするから、赤っ恥で真っ赤に染め上げてやるから覚悟するといいの」
「むぅむぅ……クリスマスを台無しにするなんて許さないのです!」
 ミルファの言葉に同調を示したのは肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)であった。彼が緑色の清浄なオーラを前衛たちの躯体に張り巡らせて、活力を湧き起こす癒しを施すと、後衛から広く現場を見渡していた星野・千鶴(桜星・e58496)がそれに続き鶴羽星を描く。
「クリスマスの賑わいにきらきらした景色。寒いけど大好きなんだ。その一番楽しい日を台無しにはさせないよ」
 掌に星。空に描いた五芒星は散るや鶴翼を広げ、千の流星の如く舞い消える。
 呆然自失で腰を抜かした女性は、眼前で駆ける流星を見上げながら、起きている出来事に瞬きを零すしか出来ずにいた。そんな彼女のもとへ駆けつけたミルファは、その手をやさしく取って立ち上がらせると、すでに避難を始めている方角を指し示す。
「もう大丈夫なの、お姉さんには指一本触れさせないの。スタッフさんのところに、安心して逃げて欲しいの」
 まるでお日さまみたいに暖かな気配を携えた笑みに元気づけられた女性は、こくこくと機械的に頷くと、小鹿のような足取りで、けれど確かにおのれの足で逃げていく。そんな背中を見て「ホッ」と安堵を零した鬼灯は、すぐに表情を引き締めると次の攻撃態勢に入っているランドルフとミルファを見やり、支援の想いを込めた秘術を編み上げた。
「大丈夫、僕たちが援護しますから」
 心強い鬼灯の言葉に頷きが返ってくる。
 出来るだけツリーから離れるように、けれど一般人には近付けさせないように、適度な距離を保ちながら牽制も込めたランドルフの獣撃拳が横っ面に炸裂すると、空いた無防備な懐へと潜り込んだ桜花の憑霊弧月が胸部を斬り付けた。
「Christmasを邪魔しようなんざふてえ野郎だ。壁でも殴ってるのがお似合いだぜ!」
「うふふふふ……! あなた、斬り甲斐があるわね」
 チッ、と舌打ちを零した罪人は「番犬風情が」「粋がるなよ」得物の刀身を眩く光らせたかと思うと、二本の剣を頭上に振り上げた。その動きに気が付いたリィナと双牙たちディフェンダーが前に出るのを見て、即座にミルファが敵の”気”を掴み、内から崩すように投げ飛ばす。
「ちぃと重いが、これくらいで倒れてくれるなよ!」
 だが罪人は受け身を取ることですぐさま起き上がると叫び、くるりと巨体を反転させた。
 その先には、闇に紛れて死角から忍者刀による突きの動きに入っていた帷が居た。ゆるく開く瞳に、愉悦を滲ませた男が映る。罪人は大気すら震わせる気迫を上げながら、一気に振りかぶった。
 パッ、と血の花が散る。
 帷は違和を覚えたが、すぐに感謝の念を示すとリィナの背後から一瞬で姿を掻き消した。傍らの双牙は爪先で蹴り上げるように大地から飛び上がり、帷を探す罪人に向かって蹴りを見舞う。弾けた飛び蹴り、その衝撃でほんのわずかに傾く上体。
「解らんな……楽しんでいたように見えたが。貴様のその顔が恐れに染まっても、俺は何も楽しくはない」
 独語のような双牙の呟きに、鋭い一閃が重なった。
 視界を切り開くようなその軌跡、真っ直ぐ鳩尾を刺し貫く突貫忍刀が、罪人の表情に苦悶を浮かばせる。血液の付着した忍者刀をひとつ払った帷は、敵の脚を蹴って宙返りをすると間合いを取った。
 リィナは己の負傷度合いを確認しながらも、再び香りを充満させる。今度は後衛に位置する三人へと付与することで全体の耐性強化に臨むと、その恩恵に与ることとなった千鶴が桜花と鬼灯たちジャマーへと鶴羽星を降らせ、万全を期す。
「抜かりないな」
 くつくつと喉で笑う罪人に視軸を合わせた千鶴は、双眸を歪めて唇を噛む。
(「怖がる声なんてちっとも楽しくない」)
 誰かが傷つけばすぐに癒せるように、半歩前に足を踏み出し敵を真っ直ぐと射止める。
「嫌な声で笑わないで」
 怖くないよ、大丈夫。それは己を奮い立たせるように、あるいは避難し終えた無辜へ呼びかけるように。そうして合図を出した彼女の仕草に、ケルベロスたちの動きが一つになる。
 真っ先に動いたのは桜花だった。
 彼女は常より聊か舌が回るほどの饒舌となりて、絶やさぬ笑みを見せつけるように至近に迫ると、敵が振り抜いた一閃を掻い潜るようにその懐に飛び込んだ。ハ、と瞠目する罪人が片方の剣を空中で逆手に握り直し彼女を刺そうとしたものの。
「ふふふふふふふふふふ……あはははははははははは!」
 胸部を、腹部を、大腿を。ありとあらゆる肉を切り刻むほうが早く、血しぶきがまるで春の桜のように咲いては散って、視界の端を彩っていく。その苛烈な姿に眉根を寄せた罪人が、今度こそ彼女の細い躯体を穿とうとしたとき。
「閃く手刀に紅炎灯し、肉斬り骨断つ牙と成す!」
 炎が奔った。
 眼前を駆け抜けた双牙の紅に、反射的に身を引いた罪人の瞳に閃く刃。
「舞え曼珠沙華! そして刻み込め、『罪』と『報い』を!」
 桜花が刻んだ肉へと惨殺ナイフを突き立て、抉り、複雑に斬り刻むランドルフの咆哮に「おおー」といった風にうさぎみたいな赤い目をまぁるくしたリィナは、敵から放たれる眩い煌めきに我に返ると、薙ぎ払うその一閃を己が身を呈することで庇いに走る。
「クリスマスマーケット、私も、実は、楽しみに、してたり……」
 だから、あんな敵におとなしくやられている場合ではないのだ。
 トン、と踵が鳴る。くるり、と反転すればわたがしみたいな髪がふわふわ舞う。フローレスフラワーズ、それは庇うこと、そして味方の回復を最優先にした彼女の花舞。いちど庇ってもらった帷は、彼女の傷もろとも癒えていくさまに小さな吐息を漏らすと、忍者刀を握りしめていた利き手に精神を極限まで集中させる。
「ミルファの名において命ずる、雷龍よ、ビリビリに痺れさせちゃえ」
 二丁拳銃を構えたミルファは、雷属性のグラビティを込めた弾丸に、自身のグラビティを掛け合わせることで雷龍を作り出すと、敵の下肢目掛けて撃ち出した。
「オラオラ、足元が疎かだぜ。なの」
 五天龍・雷閃が虚空に轟きながら素早く躯体に巻き付くのを睥睨した罪人が剣を引く。鬼灯はその動きより素早く鬼哭啾啾・夜刀神『魂』のオウガ粒子を放出して前衛の、そして帷の超感覚を目覚めさせると、高まった精神力がまるで罪人の内から噴き出すように破裂した。
「ガッ……!」
 吐血した罪人が剣を支えにするように片膝を突く。指の隙間から大量の血を吐き出しながら、それでも決死に叩き込む片手の一撃は恐ろしく重く、目を眇めてやっと、というところであった。入れ違うように前へと出た双牙が、肩口から受け止める形で刃を抑え込む背中へと、千鶴はすぐさま気力溜めで回復。
「あと少しだよ……皆、もう一息」
 巨体が膝を突いたのならば、身体にガタがきているはずだ。血濡れから寄越される仄暗い瞳に射止められた千鶴はビクリ、と肩を跳ねさせたが、それを恐れる彼女ではない。
「当て易い身体なの」
 ちょうどその時。
 パン、と乾いた音が鼓膜を抜けた。ミルファのクイックドロウが膝を撃ち抜くのを見て、鬼灯は己の躯体から清浄なるオーラを発す。
「これで、私からは、おしまい! なのー」
 イルミネーションの光の中を駆け巡る癒しのオーラは、とどめに入るリィナの肢体を包み込むと、星型に煌めくフォーチュンスターに溶けて一部となって、罪人の肉を打つ。ぐらり、と体勢が前へと傾いた刹那、携えた刀の切っ先を持ち上げた桜花が至極満面の笑みで一気に詰める。
 瞬間、血桜が舞う。
 全身から噴き出す血花、その果てより駆けた双牙が右から首へと指天殺を、帷が左から胸筋へと突貫忍刀を。深く差し込まれ、完全に動きを封じ込められた罪人が、虚空に向かって咆えた。
 耳障りな一声に眉をしかめる暇もなく。ランドルフはグラビティ・チェインと気を練り合わせて特殊弾を生成。リボルバー銃・アストラーダの銃口を眉間に突き付けると――。
「覚悟しな、HolynightがテメエのLastnightだ! 喰らって爆ぜろ!」
 引き金を引いた。
「テメエに『終わり』をくれてやる! コギトの欠片も残さず逝きな!」
 衝撃でのけ反る巨体。まるでスローモーションのように倒れていく。
「残念。もっと斬れると思ったのに」
 刀身に付着した血を払いながら零された桜花の言葉に、エインヘリアルはため息をこぼした。それはなんだか呆れにも諦めにも似ていた、そんな気がした。


 きらきら。ちかちか。
 家族を失ったばかりの鬼灯には、イルミネーションの輝きに負けないくらい頬を赤らめてマーケットを往く人々の笑顔が眩しく見えた。デウスエクスが出現する前に目にした光景と全く同じ表情を見れて、ただただ嬉しく思う。この場に集う人々の命を、幸せを守れたのだ。ずっと心に引っかかっていた羨ましさが、やさしい温度になって腹の底をあたためている。
 子どもたちに四方を取り囲まれて、怖がられつつも興味津々といった様子でもふもふされているランドルフの一方で、同い年くらいの子どもたちに交じってほくほく顔で駆けていくミルファが居る。ただ、なぜだか桜花は、敵が伏していた地面を見つめてうっとりしていた。どうやら久々に斬った余韻に浸っているらしかった。
 鬼灯は口元にちいさな笑みを刷くと、幸せそうな家族連れを眺めつつ大切な人にプレゼントを手渡しに行こうと、人並みに消えていく。
「……クリスマスマーケット、きらきら、してる……こういうのみると、大切な誰かを、思い出すよねー」
 たまたまリィナの近くにいた双牙は、目深に被った帽子の隙間からきらきらした世界を眺め、同調するように瞼を閉じる。
(「こうした催し物にはあまり足が向かないが、見ているとこう、会いたい顔が浮かぶ」)
 眼裏に浮かぶ表情に、胸に小さな火が灯ったみたいにあたたかくなって。
「……あの顔を見ている方が、俺は余程楽しいようだ」
 久々に、顔を出してみようか。
 彼の表情を下からこっそり盗み見たリィナは「……来年は、大切な人、作って、来よーかなぁ」思わずそんなことを思ってしまいつつも。
「ん……、イルミネーションも、楽しんだし、いつものみんなに、お土産買って、帰ろーっ! 私含めて、4人だけど……何が、喜んでくれるかなぁ?」
 踊るような軽い足取りに気持ちが浮き立つリィナであった。

「去年はまだ片想いしてたんだよ」
 鈍い彼の手を握りしながら囁かれた千鶴の言葉に「本当?」と首を傾ぐ。堂々と大好きだと言えるのも、クリスマスも嬉しくてはしゃいでしまう気持ちが抑えられない。
 時が経つのは早いもの。なんて考えていえるのだろうなぁという表情を見上げ、笑みをこぼす。
「ね、帷さん、お揃いのマグカップ買おう! どれがいいと思う?」
 あれが良い。そう指差したのはサンタクロースの格好をした白猫が描かれたマグだった。尻尾が持ち手になり、とても可愛らしい。
「えへへ、嬉しいな、おそろいだ。帰ったら一緒にココア飲もう!」
 マシュマロも浮かべたら、きっととびきりのココアになるだろう。
「メリークリスマス、帷さんっ」
「……ん、メリークリスマス」
 来年もその言葉が言える当たり前でありますように。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。