聖夜のグランドロン救出戦～従属と開放

■リプレイ

●潜入、グランドロン
　ケルベロス達は、グランドロンのコギトエルゴスムの力を借りて、城砦の内部まで突き進んでいった。狙う敵の場所は、絹の予知の力で正確に捉えられており、且つ内部の敵の死角を突くように、侵入に成功することが出来たのだ。
「久しぶりのー、普通ですわねぇー」
　フラッタリー・フラッタラー（絶対平常フラフラさん・e00172）は、目の前に広がる景色を確認しながら、気流を纏って広い場所に出た。
「目的は目の前だし、此処までうまく来れた。みんなで無事帰れるようにしていこうねっ」
「ええ、予定通り。……でも、油断しないでいきましょうか」
　東雲・苺（ドワーフの自宅警備員・e03771）の言葉に頷きながら、黒住・舞彩（鶏竜拳士ドラゴニャン・e04871）が今まで得た情報を妖精さんに纏めてもらう。
「どうやら、もう一つの班も、無事に辿り着けたようじゃのう」
　ルティアーナ・アキツモリ（秋津守之神薙・e05342）の視線の先には、一つのケルベロスの集団があった。
「ああ、そのようだ」
　すると、ハル・エーヴィヒカイト（閃花の剣精・e11231）は、周囲を見渡し、右手を広げ裏返す。そして、人差し指で左奥を指した。
「グランドロンの皆様の協力は、ありがたいでありますね。必ず敵を討ち果たすであります」
　クリームヒルト・フィムブルヴェト（輝盾の空中要塞騎士・e24545）がそう言いながら、もう一つの班が動いた事を確認し、自らは反対方向へと壁伝いに動き出した。
　ケルベロス達は固まったまま、グランドロン内部を少しだけ進み、大きな柱に隠れる。
「後方は大丈夫だよ。うまくいっている。このまま行こう」
「戦闘の準備もバッチリ。動くなら、今だ」
　浜本・英世（ドクター風・e34862）と那磁霧・摩琴（医女神の万能箱・e42383）が、口だけ動かして頷くと、一番前にいるフラッタリーが遠くを確認した後、頭上に腕を揚げて掌を広げ、三本の指を立てた。
　その動作を見た摩琴が、アニミズムアンク『Asvinau's Taktstock』にリズムを与え、自らに治癒の力を増加させるべく準備に移った。
　予想できる戦いは、激しいに決まっている。彼女はそう思い、仲間を支える意思を心に刻み込んだ。
　一つ……二つ……。ゆっくりと指を折った後、最期の人差し指を握りこみ、振り下ろす。
　ドドドオ！！！！
　その瞬間、フラッタリーが確認した位置から大量のミサイルが撃ち放たれ、爆発した。
「さあ、行くであります！」
　重鎧で身を固め、大きな盾を構えたクリームヒルトがマントを翻しながら、臆する事無く飛び込んだのだった。

●信念の戦い
　ケルベロス達が飛び込んだ場所には、ラリグラスと数名の白百合騎士団員のみが存在している状態だった。
　完璧な奇襲だった。
　ケルベロス達はもう一班と瞬時に意思をあわせ、此方はラリグラスを、もう一つの班は白百合騎士団を受け持ったのだった。
　そして、激しい戦いが繰り広げられていっていた。当然、此方も無傷とは行かない。
「野干ヨ吼ヱヨ、喰rAヒ付ケ。具現シ喉ヲ引kI裂キ貪レ」
　フラッタリーは既に戦闘モードとなっていた。額のサークレットが展開し、狂笑を浮かべ鉄塊剣『野干吼』の炎を余す事無く叩き付ける。
「……直情的な動きね。それでは私に届かないわ」
　地獄の炎は、容易く避けられてしまう。
「やはり、一筋縄ではいきませんね」
　英世はそう呟くと、ルティアーナに対して幻影を付与する。
「大丈夫。慌てずしっかり、作戦通り動いていこうねっ。マカロンは、前でしっかりね！」
「冷静に、強力な相手だからこそ後衛は視野を広く持つんだっ！」
　ボクスドラゴン『マカロン』に指示を出す苺の声に頷きながら、摩琴は慌てずに、ダメージを受けていたクリームヒルト魔法の木の葉を纏わせる。
「まずは、その足を止める。良いか、焦るでないぞ！」
「まっかせてっ！　せーの！」
　ルティアーナと苺が同時に、攻撃を繰り出す。共に、ダメージを与えるというよりも、動きを鈍らせるための攻撃である。
　ケルベロス達は、彼女の強さ知っている。それもそのはずである。幾度と無く剣を交えた相手。
「ちっ……」
　二人の攻撃が、飛びあがったラリグラスの脚を襲い、宙で吹き飛ばす。
「はああああ！！」
　ラリグラスの着地を狙い、舞彩が飛び込み、渾身の一撃をヌンチャクと化した武器を叩き付ける。
　ガツッ！！
　鈍い音を立て、ラリグラスがその一撃を曲刀で払った。
「……久しいわね」
「ええ……」
　ラリグラスと舞彩が対峙する。
「君は覚えていないかもしれないが。橋では挑発するためとはいえ礼を失した。
　今回はその必要はない。誇り高き騎士に全霊で挑ませてもらう」
　そこにハルも並ぶ。
「そう。それで、今度はどうするのかしら？」
　ラリグラスはその時の事を思い出したのだろう。二人にそう問うた。
「……殺しにきた。手は……抜かない」
　舞彩がそう言うと、ラリグラスはまた、そう……とだけ答え、宙を舞った。

　ラリグラスの速度は、ケルベロスの速度を凌駕していた。
「さすがの速度だ。だが今こそ、その影を絶ち斬るッ！」
　しかし、ハルの言う通り、ケルベロス達は準備に抜かりが無かった。既に知っている相手、そしてその対処方法に関して戦略を練るには、十分すぎる時間が合った為だ。
「恨みは無い、信条には共感も出来る。
　なれど汝らが吾等を糧として見る以上、反撃の牙は覚悟の上と見る！」
　ルティアーナはドラゴニックハンマー『パニッシュメント』から、竜砲弾を打ち放つ。だが、それをラリグラスは紙一重で避ける。
「……そうね、遅かれ早かれ、こうなる事などは分かっていた。ただ、それが今だったと言う話ね」
　ラリグラスは少し口角を上げ、二つの曲刀を胸の位置でクロスさせる。そして、一瞬のうちに空を斬った。
「ボクが、護るであります！！」
　ラリグラスが放った衝撃波がルティアーナに迫った時、クリームヒルトが彼女を突き飛ばして盾で受け止める。しかし、その力は想像以上だった。何とか堪えようとするも、その力に吹き飛ばされてしまう。
「クリームヒルトさん！」
　派手に壁にぶつかって、砂埃が舞うが、何とかクリームヒルトは起き上がり、英世の声に手を上げて応じた。
「この程度、大丈夫であります……」
　そう言うも、彼女の腕からは明らかなるダメージとして、出血が見えていた。しかしそれでも、彼女は前に進み出た。心配そうにテレビウム『フリズスキャールヴ』が彼女を癒すが、それだけでは足りない程のダメージだった。
　敵の力は、こちらのケルベロス８人と互角か、僅かに少し相手に分があるだろうか。このままでは、少し時間がかかってしまい、下手をすると取り逃がすという事も、頭によぎる。ケルベロス達はもう一度武器を握りなおし、『絶影のラリグラス』と対峙する。
　作戦を練ってなお、一進一退の攻防。お互いに引く事は考えていない。いずれかが倒れるまで、この戦いは続くのだ。
　だがその瞬間、この戦況を大きく変える出来事が起こる。
「こ、これは……、どういう事で、ありますか！？」
　クリームヒルトの足元から、黄金の蔦が絡みつき、傷口を覆い始めたのだ。
「待たせたな！　さぁ、あと一歩だ！　トイ、トイ、トイ！！」
　その声はハインツ・エクハルト。続けて、リティ・ニクソンの医療用ドローンが、飛び交った。そう、勢いよく合流してくるのは、任せた白百合騎士団員を片付けたもう一斑のケルベロス達だった。
　もう一つの班が、戦いに勝利したのだ。駆けつけてくる彼等は、とても力強く、ほんの少し綻びかけた心に勇気を与えてくれる。
「決着……つけましょう」
　舞彩がラリグラスと対峙し、『竜殺しの大剣』を構えた。

●絶影のラリグラス
「我らは今、どんな手を使っても君を討たねばならない。非礼があるかもしれないと、先に詫びておくよ」
　英世は、あくまでもスジを通す。それは礼儀なのだろう。無数のメスを展開しながらも、続ける。
『……こうした業を使わざるを得ないのは、君の『強さ』故だ。悪く思ってくれて結構だよ』
　英世の呼び出した無数のメスが周囲を動き回り、意思をもってラリグラスを襲う。それを体をひねって避けるラリグラスだが、数本の傷をつけ、其処から今まで付けた傷を広げていく。
「みんなでうまく連携していけばこの場で負けたりはしないよっ」
　苺が全員を鼓舞し、声をかける。
　もう一班も、力を抜かずに攻撃を展開する。
「その信念には敬意を評するが、わりぃがサシとはいってられねぇ」
　齋藤・光闇のオウガメタルが放つ光をラリグラスは舞いながら避ける。
「気にするな。いや……光栄だ。異なる魂の者よ」
　ラリグラスはもう一つの班に対して、衝撃波を与えて、ダメージを与えていく。
「これが死にぞこないの動きなんてっ！？」
　もう一つの班からそう言った言葉が聞える。やはり、それ程の相手。
　だが、此方はラリグラスの攻撃をある程度把握していた。長く戦っているが故の見切り。
『掲ゲ摩セウ、煌々ト。種子ヨリ紡ギ出シtAル絢爛ニテ、全テgA解カレ綻ビマスヨウ。紗ァ、貴方ヘ業火ノ花束ヲ！！』
　フラッタリーの地獄の炎が、舞うラリグラスを直撃する。
『よーし、もっとうまく動いていくよー』
『妖精達よ！皆様を援護するであります！』
　その隙に、苺とクリームヒルトが敵の動きをよりよく把握する為の力を前衛と後衛に与えた。
「一気呵成に行くよ！　Fly High Tailflowers！！」
　それを見た摩琴もまた動く。此処まで全員が立っていられるのは、間違いなく摩琴の献身が一つの成果に繋がっている。その彼女が仕上げのグラビティを籠めた。
『みんなの情熱に一陣の風を！アンスリウムの団扇風！』
　苺とクリームヒルトの与えた力を倍増させるべく、ガンベルトに備え付けられている薬瓶を投げ割り、一時的に力を無理矢理引き出す薬品をぶちまけたのである。
　ここぞとばかりの支援に、ルティアーナは少し笑った。
「愛無くば家畜でも牙を剥く。
　無敵無敗に慣れすぎたが故に野犬の牙にかかるとは、神とは哀れなものよ」
　ルティアーナは、古より在るという守護者の力を導き、呪印をすっと構える。
『行此儀断無明破魔軍…！　大元帥が御名を借りて命ず、疾くこの現世より去りて己があるべき拠へと還れ！　たらさんだんおえんびそわか…！』
　その光の矢は舞うラリグラスを追尾し、遂には腹部に深々と突き刺さった。
「はぁっ……はぁっ……」
　宙より何とか着地したラリグラスは、明らかに肩で息をしていた。敵の数が１６名に倍増したのだ。当然といえば当然である。また、部下である白百合騎士団も、その増援となったケルベロスに屠られている。
　ラリグラスからすれば、万事休すと言った情況なのである。
「自害して、宝石化してまだ手遅れでは、ないかも」
　舞彩は思わずそう口に出した。ケルベロスがもたらすのは、デウスエクスの『死』である。それから逃れるためには、確かにそれが効果的なのかもしれない。ただ、無防備になったコギトエルゴスムは、容易くケルベロスによる『死』が与えられる事とも同義である。そう思いながらも一時的とは言え、望みがゼロになるわけではない。舞彩はそう言いたかったのだ。
「殺すつもり……ではなかったのかしら？」
「……正直に言うわ。さっき言った『殺しにきた』ってこと。あれは、自分の為よ。そう口に出さないと、手を抜いてしまうから……そして、貴女に対してそれは礼を欠くわ」
　その言葉を聞き、ラリグラスはふっと笑った。
「私はレリ様の騎士。あなたも、判っているはずよね？」
「そうね……。そして、この提案は、聞き入れられないという事も」
　二人の距離が縮まっていく。それ程の時間ではない。ただ、幾度か剣を交えた相手との記憶は、確かにそこにあった。
「……レリ様に恥じぬ騎士として。……最期まで！」
　鋭い、ラリグラスの神速とも思える踏み込みが、舞彩との距離を埋める。
　ギィン！！！
　激しい金属音が周囲に響き渡る。ラリグラスの二本の曲刀を、舞彩が二本の『竜殺しの大剣』で受ける。
「ぐ……あああぁぁぁっ！！」
　渾身の一撃が舞彩の肩にめり込み、そのまま刃が舞彩の肩の骨まで届く。
「受け止めた……あなたの、覚悟を！」
　舞彩は肩の痛みに耐え、左手から地獄を呼び出し、剣に与える。そして右手の剣には闘気の雷。
『竜殺しの大剣。地獄の炎を、闘気の雷を纏い二刀で放つ！』
　二本の剣が、十字にラリグラスの胸を斬った。すると、其処から今までの傷が爆散するように広がる。
「……あ」
　宙に舞うラリグラス。
「トドメを！！」
『境界収束――光を束ねて空を断つ。解放、蒼空断絶(ブレードライズ・デストラクタ)ッ！』
　舞彩の懇願に応えたのは、ハルだった。
　ハルが形成した心を、無数の刀を内包する領域に映し出し、その中に舞う刃を集束させた。
「さよならだ」
　白髪となったハルの言葉と共に、集束した刃が放つ最期の光が、ラリグラスを打ち抜いた。
「レリ……さ、ま……」
　地面に落ちたラリグラスは、それだけ呟き、消滅していったのだった。

　ラリグラスを討ったケルベロス達は、少しだけその場に立ち尽くした。
　恐らく同じように、第四王女レリもまた、ケルベロス達によって討たれるのであろう。
「さてー、これからー。どうしましょうかぁー」
　フラッタリーがそう言うと、周囲のグランドロンが少しずつコギトエルゴスムになって、ケルベロス達のほうに集まってきた。
「そうか……。作戦は、成功したのでしょうね」
　英世がそのコギトエルゴスムを見て、そう呟いた。
「幾つか、もって帰る事にしようかのぅ」
「賛成！　勝てた事だし、クリスマス楽しんで、いい夜を過ごしちゃおう！　ケーキも待ってるよ！」
　ルティアーナがそっと手にコギトエルゴスムを乗せ、苺が張り切ってそれを集め始めた。
「アイテムポケットを持ってきた。ここに……」
　ハルはそう言いながらも、倒れた彼女が存在していた場所に向かい、一礼をする。それは、彼なりの敬意だった。
「っとと！　少し急がないといけないかもだよっ！」
　摩琴はアイテムポケットにコギトエルゴスムを入れながら、周囲の様子を見て言った。グランドロンがコギトエルゴスムになる事により、この要塞は崩れる事を悟ったのだ。つまりは、自らが立っている足場もという事になる。
「では、急ぐであります！」
　クリームヒルトが文字通りスピードを上げ、持ち帰れるだけのコギトエルゴスムを集めて回る。
「崩れはじめー、ましたのー」
「よし、此処までとしようかの！」
　フラッタリーとルティアーナの声に、ケルベロス達は元来た道を戻り始めた。
　舞彩は最後に振り返り、口を開いた。
「……じゃあ、ね」
　それだけ言うと、同じく駆け出した。

　そして、二度と振り返る事は無かった。

作者：沙羅衝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年12月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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