聖夜のグランドロン救出戦~討ち入りの時

作者:七尾マサムネ

「みなさんお疲れ様っす! 宇宙のグランドロン決戦で、妖精8種族グランドロンのコギトエルゴスムを手に入れる事ができたっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、ケルベロス達に感謝しつつ、次なる作戦について説明を始めた。
「戦いの結果を知った大阪城のユグドラシル勢力は、グランドロンの裏切りを警戒して、グランドロンを城塞型に変化させたみたいっす」
 大阪城勢力のグランドロンは4隻。その全てが、大阪城を囲む長城に変形させられた上、第四王女レリの威光で支配下に置かれ、意志を封じられてしまったようだ。こうなると、ケルベロスの説得も届かないだろう。
 そこで、支配力を発揮しているレリを撃破し、グランドロン救出を行う作戦が発動される。
「グランドロンの長城は、レリの白百合騎士団や、三連斬のヘルヴォール率いる『連斬部隊』、それとユグドラシル戦力が守ってるっす」
 堅い守りだが、説得に応じてくれたグランドロンのコギトエルゴスムの助けがあれば、長城の壁に、人が通れる抜け穴くらいなら作る事ができると、ダンテは言う。
「長城内にいる敵指揮官達を攻撃して、グランドロンを支配している第四王女レリを撃破できれば、ここのグランドロンも、みなさんの説得を受け入れてくれるはずっす」
 この試みが成功すれば、妖精8種族グランドロンを仲間として迎えられるかもしれない。
 15のチームが、それぞれにグランドロンのコギトエルゴスムを持ち、ひそかに長城に接近。
 コギトエルゴスムの協力を得て通り道を作ってもらい、中へ。
 そして有力敵、あるいは第四王女レリを急襲、グランドロンを解放するのだ。
「待ち受ける有力敵は、全部で10体っす。その顔ぶれは……」
 長城の主で、グランドロンを従わせている第四王女レリ。今回の作戦の最重要目標だ。
 他には、レリの親衛隊を率いる絶影のラリグラス。
 白百合騎士団の新幹部、閃断のカメリア。そして墜星のリンネア。
 第四王女レリ配下の螺旋忍軍にして、第二王女ハールの息のかかったレリの監視役、紫の四片。
 そして、シャイターンによる連斬部隊を率いる、三連斬のヘルヴォール。
「ヘルヴォールは、レリがグランドロンの制御をしてるんで、実質的な城主みたいなもんっす。だから、ヘルヴォールを逃すと、作戦全体に支障が出るっす」
 そのヘルヴォール配下の連斬部隊員ヘルガ、連斬部隊員フレード、連斬部隊員オッドル、そして連斬部隊員ヒルドルが、残りの標的である。
「多少不利な状況になっても、レリがケルベロスに背を向けて逃げるような事はないみたいっすから、一気に討ち取るチャンスっす」
 だがそのためには、他の有力者たちを撃破し、レリへの増援を封じなければならないだろう。
 なお、救出したグランドロンのコギトエルゴスムのお陰か、今回はグランドロンの長城内の敵の様子を、詳細に予知する事が出来ている。
 従って、最適な抜け道を用意できるので、余計な敵に遭遇する事無く、目標とする相手を急襲する事が可能だ。
「……と言っても、敵はツワモノぞろいっす。急襲に失敗して、敵が態勢を整えてしまったら勝ち目は薄いっす。そういう状況になったら、すぐに撤退して欲しいっす」
 今回の作戦の成功には、自分のチームがどの敵を狙って行動するかはもちろん、ひそかに大阪城に近づく方法や、抜け道を使った潜入時の行動。
 また、目標とする敵との戦闘方法、万が一の援軍への対処方法、そしてもしも作戦が失敗した時の撤退手段など、様々な状況を想定する必要があるだろう。
「色々大変っすけど、うまくいけば、妖精8種族のグランドロンが仲間になってくれるかもしれないっす! 頑張って欲しいっす!」
 ダンテの声援が、ケルベロス達を鼓舞した。


参加者
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
唯織・雅(告死天使・e25132)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
クロエ・ルフィール(けもみみ魔術士・e62957)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)

■リプレイ


 聖なる夜を迎え。
 大阪城、そしてそれを取り囲むグランドロンの長城から、十二分に距離を置いた地点。イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)はヘリオンから降り、作戦に突入した。
 速やかに隠密行動にシフトする、唯織・雅(告死天使・e25132)や死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)たち一隊。
「……生憎だが、エインヘリアルには私怨しかないもんでね。容赦なく叩き潰す気しかねぇから、せいぜい良い声で断末魔あげろよ……!!」
 狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)の強い視線は、堅牢な城塞、その内にひそむエインヘリアル達を見通すようようだった。敵地を目前にしては、情動も抑えきれぬ様子。
 仲間の猛りを感じつつ、コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)は心の中で肩をすくめていた。毎年、決まって聖夜には何かが起こる、と。
 だがそれも良かろう、ともコロッサスは思う。同胞や助けを求める者達が救われるのであれば、それこそケルベロスとしての本懐だと。ならば、存分に武勇を揮ってみせようではないか。ここに集った仲間達と共に。
 渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)も、思いは同じ。けれどもちろん、数汰なりの思いもあって。
(「聖夜に人の家に忍び込むのはサンタくらいにしたいところだが……」)
 しかも、半年少々の間に、二度もこの地を訪れる事になろうとは。
(「まあ今回は案内人も居るし、あの時よりは楽かな」)
 案内人……グランドロンのコギトエルゴスムを携えたクロエ・ルフィール(けもみみ魔術士・e62957)も、決意は固い。万一窮地に陥るような事があれば、自らの命も投げうつ覚悟だった。
 進軍するにつれて、巨大城塞・グランドロンの長城が如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)の視界で存在感を増していく。レリに支配されしグランドロンを解放するのが、今回の目的だ。それは同時に、レリ達とこの場で雌雄を決するということでもある。
 一行の目的は、『紫の四片』ただ1人。他のチームと分散して、長城に接近。警戒の薄い城壁に回り込んでいくのであった。


 音もなく、長城の外壁に穴が生じた。グランドロンのコギトエルゴスムが、抜け道を作り出してくれたのだ。
 内部への侵入を果たした一行の先頭は、数汰。
 ヘリオン降下からこっち、数汰達の存在を隠しているのは、隠密気流の力。各人の身の纏う装束自体の隠蔽力も加え、敵からの発見を封殺している。
 一方、しんがりを務めるイズナは、とりわけ周囲への注意を怠らない。折角の予知と導き、自分達の行動によって無駄にするわけにはいかないのだ。
 列の中ほどで進行する雅は、警戒の中にも余裕を感じていた。ヘリオライダーの予知により、紫の四片の居場所は特定されているし、城塞の内部構造もおおむね把握済みだ。
 ゆえに、闇を纏う刃蓙理の索敵感覚にも、敵の気配は引っ掛からない。よしんば微細な気配を感じても、すぐさまコギトエルゴスムが壁面に横道を作り出し、退避させてくれるのだ。
 クロエの持つコギトエルゴスムが、一行を導く。反応は一方的なものだったが、まるで「こっちだ」と語り掛けてきているように、クロエは感じていた。決戦までに、余計な精神力や体力を削る必要がないのは、ありがたい。
 そして一行は、上層階へ。通気口らしき天井部通路を進み、隙間から下方の様子をうかがっていた。
 やがて、下の通路に、少女の姿が見えてくる。ターゲット……紫の四片。
 護衛など、取り巻きはいない。加えて、付近に他の兵士の気配もない。
 絶好の機、今こそ打って出る。ケルベロス達は決断した。
 コロッサスからハンドサインを受けた沙耶が、了承の合図を返す。ここに来たのは交渉ではなく、ただ刃を交え……できれば交える暇もなく……勝利を収める事。沙耶も、既に心を決めている。
 合図に従い、真っ先にジグが飛び出した。
 戦いの火ぶたが切られたのだ。


 それは、実に鮮やかな不意打ちであった。
 三筋の流星が、四片を襲う。天井を破って現れたジグ、数汰、クロエが次々と蹴りかかったのである。
 蹴撃をまともに喰らった四片は、床を転がり、体を起こす。
「……ケルベロス!」
「見せてみな、てめぇの忠誠心って奴をさぁ」
 さすがに狼狽の色を隠せぬ四片に、ジグが凶暴な笑みを向けた。
「攪乱が得意らしいが、配下も仲間も無しじゃ真価を発揮出来ないな」
「ちっ」
 数汰への返答は、短い舌打ちただ1つ。
 ケルベロスたちに囲まれ、この場に釘付けにされた四片を、冷気が襲った。右手から、イズナの召喚した槍騎兵の槍が。
 そして左手からは、コロッサスの突撃……杭の回転によって生じた冷気が迫り、イズナの槍騎兵と合わせ、左右双方から、四片の四肢を氷結させていく。
「構造上弱点、看破。破壊します」
 雅の宣言と結果は、ほぼ同時に生じた。
 至近からのライフルによる狙撃は、四片が群青の扇をかざすより早く、腕を穿ったのだ。
 それでも扇を開き、術にて反撃せんとする四片。だが、身をかがめた雅を飛び越えて、刃蓙理が斬りかかった。
 『灰土羅』で、敵の命を狙う。刃の軌道を逸らす事も、かわす事もかなわず、四片は甘んじて刀を浴びた。
 だが、負ったのは刀傷だけではない。刃を通して忍び込んだ死灰が、四片の体内に侵入したのだ。これでは治癒力も満足に発揮できまい。
 反攻どころか、得意の戦舞もままならぬ四片。攻めの勢いを止めぬよう、沙耶が支援を加速させた。
 占術により、皆に加護の星を送った。倒すべき相手……四片の位置を正しく示してくれる導きの星だ。
 雅のサーヴァント・セクメトも、攻勢を強めるケルベロスたちの護りを担う。
 奇襲は成功した。だが、四片はまだ健在。
「ちっ、初手で仕留めきれませんでしたか。頑丈な人ですね……」
 刃蓙理が舌打ちする。
 とはいえ、ようやく四片が体勢を立て直しかけた頃には、傷を重ねた状態。退路も断たれている。
「あなたたち、私と交渉するつもりはないの? レリ王女やハール王女と話をつけてあげてもいいわ」
 隙を生むためだろう。真偽のわからぬ四片の誘い掛けに、しかし、ジグたちが耳を貸すことはなかった。
 速やかな連携で、四片を追いつめていくイズナたち。ハールに事態を伝える時間はもちろん、レリの元に駆け付ける事さえ許さず、援軍が来る前にこの場で倒しきる! それがイズナたちの作戦だった。
 クロエも、四片の心情は多少なりとも理解しているつもりだ。ケルベロスの襲撃がレリに及んでいる事も察しているはず。
 この場を何としてでも切り抜ける……四片の気迫に負けぬよう、クロエも全身全霊で立ち向かう。
 四片はエインヘリアルにあらず。そして諜報を得手とする事もあり、その戦闘力は、他の幹部級に比べて劣る。加えて、完璧といっていい奇襲だ。
 勝ちます、と沙耶の瞳に力がこもる。
 爆音と共に、四片の華奢な体が宙を舞う。仲間の近接戦の隙をついて、雅が取り付けた小型爆弾が起爆したのだ。
 万全な相対であれば、四片も雅の仕込みに対応できたかもしれない。だがこうも劣勢状態に陥っては、それもままならない。
 はっ、と、四片が後方を振り返る。クロエの魔法光線が、背後から浴びせられた。石化の古代語魔法により、四片の動きの起点となる足が、硬化していく。味方の氷結と合わせて、四片の機動力はほぼゼロに等しい。
 恰好の的となった四片に、刃蓙理の全方位からの斬撃が降り注ぐ。肉体も衣服も、そして四片を支える誇りさえもズタズタにしていく。
 刃蓙理の猛攻が守りを破ったところに、数汰が圧縮したグラビティを叩き込んだ。干渉を受けた四片の時間のみが加速し、装束が急速に劣化。
 そして、時に刻まれ、四片自身の負傷も大きく進行していく。
「っ!?」
 不意に四片は、警戒とは別方向からの攻撃を受けた。
 沙耶だ。後方、仲間の強化に回っていたが、ここは一気に畳みかけるべき時と判断。雷の魔術を行使して、味方の攻撃に加わったのだ。
「我が主君なら、如何なる窮地であろうと決して退く事はないわ。私も同じことよ」
 四片の表情が、引き締められる。覚悟を決めたのだろう。撤退をあきらめ、この場で果てる覚悟を。
 その判断に、数汰は思う。立場も含め、因果なものだと。
「ここで決着をつける気になってくれたなら、選定のヴァルキュリアとして、同じ螺旋忍者として、看取ってあげるね」
 イズナが招くは、災いの月。聖夜らしからぬ災禍の色をもって、四片の心身をぎりりと捩じ上げる。忍びとしての誇りも、レリへの忠誠さえも。
 毒蛾にて戦場を蹂躙せんとした四片の扇は、コロッサスによって切り払われた。
 直後、四片の視界を焼くのは、迸る雷。破邪の権能を放つ刃が、剣圧にて四片の体を血で彩ると、コロッサスの斬撃がその肉体を断った。四片に引導を渡し、この戦いに終止符を打つべく。
 傷つき膝を屈する四片の姿を見たジグから、戦いを通して高まった恨みの念が滲み出した。具現化していく怪物……今こそ終焉をもたらすために。
「女だから殴れないなんて期待するなよ? デウスエクスならどいつも同じ。エインヘリアルに加担するならなおさらだ。与える情なんぞ欠片も持ち合わせてないんでな!」
 壊撃、潰撃、溶撃。
 怨念の怪物たちとジグによるあらゆる破壊が、四片の残る命を蹂躙し尽くした。
「私はここまで……けれど、あなたまで倒れたら承知しないわよ……レリ」
 それが、最期。
 無数の花弁となって、消えゆく四片。
 己が信ずる忠義に殉じた忍びの少女に、コロッサスは剣を構え、敬意を表した。


 四片の最期を看取った一行は、他のチームの援護に向かう事にした。余力を考えれば、まだ進軍は可能。
 新たな導きを頼もうとした途端、コギトエルゴスムが、警告するような輝きを放った。そればかりか、床や壁が輝き出し、宝石に変わっていくではないか。
 足元から光に照らされた沙耶は、何が起きたのかを悟った。
「王女レリが撃破されたのですね」
 沙耶が、安堵をこぼした。向かったケルベロスたちが見事討伐を為した事で、支配力から解放。グランドロンの長城変形が解除されて、コギトエルゴスムへと変換を始めたに違いない。
 すると、刃蓙理たちの元に、光が集う。コギトエルゴスムが集まって来るのだ。
「コギトエルゴスム同士、共鳴しているのでしょうか……?」
 ともあれ、刃蓙理たちも出来る限り回収する。こんな事もあろうかと、鞄を持参していたのが功を奏した。
 だが、雅も知るように、この宝石は城塞を構成していたグランドロンのものだ。したがって、周囲の建物が消滅していくのも、当然の帰結。
 ひゅん、と空を飛ぶセクメトが、雅たちを急かす。早く逃げよう、と。
 ここは上層階、足場をなくせば真っ逆さま。
「確かに長居は無用。後はこの戦果を手に、聖夜を祝うとしよう」
 コギトエルゴスムの回収をひとしきり完了したコロッサスの提案に、異論は出なかった。
 これもコギトエルゴスムの導き。イズナは、ケルベロス専用の脱出路のごとく仕立てられた足場を渡り、外へと逃れていく。皆の安全を確かめるよう振り返りながら。
「待て、賊共め!」
 鋭い声に、クロエたちが振り返る。兵士たちもこの事態に気づき、追撃してくるのだ。
 四片との交戦を終えたばかりとは言え、余力は十分。クロエは、自分が殿として食い止めようと試みる。
 付き合うぜ、と体を敵の方へと反転させようとした数汰の足が、止まった。
 ケルベロスが通り過ぎるや否や、足場が消失。兵士たちの追撃を阻止したのである。
「くっ、逃がすものか……!」
「はっ、相も変わらず、どいつもこいつも血の気が多い奴ばっかだなエインヘリアルはよぉ。ああそうか。それしか能がねぇのか」
「貴様……!」
 ジグの凶暴な笑みが、置き土産。
 数多のグランドロンのコギトエルゴスムをプレゼントに、ケルベロス達は帰投していくのだった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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