「こんにちはー。今年もいよいよお終いですね」
感慨深げにつぶやくと、跳鹿・穫は咳払いをした。
宇宙のグランドロン決戦の結果、妖精8種族がひとつ、グランドロンのコギトエルゴスムを手にすることが出来た。未だコギトエルゴスムのままではありながら、彼らはケルベロスの説得を受け入れてくれたのである。
しかし、当然ながらデウスエクスたちがこれを良しとするはずもない。宇宙から帰還したジュモー・エレクトリシアンとレプリゼンタ・ロキからグランドロンの奪取を知らされた大阪城のユグドラシル勢力が、グランドロンの裏切りを警戒してグランドロンを形態を変化させてしまったのだ。
その変化とは、ある程度自律行動できるグランドロンを城塞の形にすること。自動で動くことが無いようにしたうえで、エインヘリアル王族の威光によって完全に支配下に置き、強力な防衛機関としてのみ運用してしまおう、という腹積もりである。
おかげで現在、大阪城のグランドロン四隻は、大阪城を取り囲む長城へと造り変えられてしまっている。加えて第四王女レリの威光により、ケルベロスと対話することさえできなくされてしまったのだ。
「ところがですね、実はここがグランドロン救出のチャンスなんだと僕らは思ってます」
というのも、エインヘリアルの王族の威光で無理やり従わせているだけならば、その原因である第四王女レリを取り除いてしまえば良いのである。レリの支配から解放されさえすれば、ケルベロスの説得を受け入れたグランドロンは必ず力を貸してくれることだろう。
だが、当然ながら障害もある。大阪城を取り囲むグランドロンの長城は、第四王女レリが率いる白百合騎士団と、三連斬のヘルヴォール率いる『連斬部隊』、更にはユグドラシル戦力による混成部隊で防衛に当たっており、苦労させられることと思われる。
「正面から戦っては、たぶんレリにはたどり着けないんじゃないかと。そこでですね、説得に応じてくれたグランドロンに力を貸してもらいます」
具体的には、説得に応じてくれたグランドロンのコギトエルゴスムの助けを得て、城塞に人が通れる程の抜け穴を作るのだ。
この抜け穴を通って敵指揮官の元までショートカットし、各個撃破。最終的に第四王女レリを倒せば、グランドロンはレリの支配から解放され、ケルベロスと対話できるようになる。
つまり、妖精8種族・グランドロンを新たなケルベロスの仲間として迎え入れるかもしれない、ということだ。
「では次に、今回の有力敵をリストアップしていきますね」
・第四王女レリ。
グランドロンを強制的に従わせており、今回の作戦における最優先目標。
機能不全に陥っているとはいえ、魔導神殿群ヴァルハラの城主に選定された事を騎士の誉れとして名誉に思っている為、彼女の誇りにかけて撤退はない。
・絶影のラリグラス。
第四王女レリの親衛隊を率いるエインヘリアル。
彼女を撃破できなかった場合、隊を上げて第四王女レリの救援に向かうため、レリの撃破が困難となる。レリ討伐のためには避けて通れない相手でもある。
戦闘スタイルはククリナイフ二刀流と投げナイフによるスピード型。
・閃断のカメリア。
白百合騎士団の新幹部。親衛隊以外の、城内を警備する隊の指揮をとっている。
彼女を撃破できなかった場合、城内の警備部隊が侵入者を排除しようと動き出す。逆に彼女を倒せば指揮系統は混乱し、城内の警備部隊に邪魔されずに作戦を行えるだろう。
軍刀の扱いに長けたテクニシャンタイプ。
・墜星のリンネア。
白百合騎士団の新幹部。外敵への警戒を行う部隊を統率する。
本来、大軍勢の襲来を予測して動いていたため、少数での隠密作戦である今回の作戦を察知できなかったようだ。
しかし、彼女を撃破できなかった場合、緊急事態として外敵警戒部隊が全て城内のケルベロスの撃破に動く。
狙撃銃を用いた遠距離攻撃型。
・紫の四片。
第四王女レリの配下の螺旋忍軍。
第二王女ハールの指示により、第四王女レリの監視役を担うスパイ。
緊急時に第二王女ハールへの連絡を行うため、彼女を撃破できなかった場合、第二王女ハールの援軍が速やかに行われてしまい、作戦の成功が危うくなる。
扇子を武器にして舞うように戦う幻惑型。
・三連斬のヘルヴォール。
シャイターンで構成された連斬部隊を率いるエインヘリアルにして、グランドロン長城の副城主。
第四王女レリがグランドロンの制御を担うため、実際の城主としての仕事は主に彼女に任せている。
彼女を撃破できなかった場合、城内の混乱を素早く収められてしまい、ケルベロスの駆逐に全力を傾けられてしまう。そうなれば作戦は失敗となる。
フランベルジュを武器にした近接パワータイプ。
・連斬部隊員ヘルガ。
三連斬のヘルヴォール配下のシャイターン。
ヘルヴォールを慕い、襲撃が起これば配下と共に、ヘルヴォールの元に駆け付ける。
彼女を撃破できなかった場合、増援により、ヘルヴォールの撃破が困難になってしまう。
戦法はヘルヴォールと同じくフランベルジュを使ったパワー型。
・連斬部隊員フレード。
三連斬のヘルヴォール配下のシャイターンです。
ヘルガ同様にヘルヴォールを慕い、襲撃が起これば配下と共に、ヘルヴォールの元に駆け付ける。
彼女を撃破できなかった場合、増援により、ヘルヴォールの撃破が困難になる。
円盾を使った攻防一体型。
・連斬部隊員オッドル。
三連斬のヘルヴォール配下のシャイターン。
ヘルガ、フレードと同様。
長銃を手にしたオールラウンダー。
・連斬部隊員ヒルドル。
三連斬のヘルヴォール配下のシャイターン。
有力な士官ではないものの、ケルベロスが襲撃するタイミングで大阪城へ移動しようとしているようだ。
彼女を撃破できなかった場合、グランドロンの襲撃が大阪城に素早く伝わってしまう為、大阪城からの援軍がより短い時間で押し寄せてくる。
剣と様々なアイテムが入った箱を武器とする。
まとめると。
1、レリの撃破が最優先。ただし、レリを倒すためにはラリグラスの撃破が必須。
2、作戦を完遂するにはカメリア、リンネア、ヘルヴォールの撃破が必須。
3、ヘルヴォールの撃破にはヘルガ、フレード、オッドルの撃破が必須。
4、増援の阻止には紫の四片、ヒルドルの撃破が必須。
「以上より、最優先するべきはレリですが、レリを倒すためには他の有力敵を全て倒す必要があるということです。敵の数は10に対し、ケルベロスのチームは15。全体で相談して、誰に何チームぶつけるかも考える必要があります」
今回の作戦において、グランドロンのコギトエルゴスムの影響なのか、グランドロンの長城内の敵の様子を詳細に予知できている。これと抜け道の合わせ技で、敵に遭遇する事無く、目標敵を急襲するルートが確立されていることは、ケルベロス側にとて大きなアドバンテージだ。
ただ、敵の戦力は膨大。有力敵の撃破に失敗し、敵が態勢を整えてしまえば作戦の遂行は困難となるので、即時撤退を行う必要がある。
隠密で大阪城に近づく方法、抜け道を使った潜入時の行動、自分のチームがどの敵を狙って行動するかの選択、敵との戦闘方法、援軍などへの対処方法、作戦に失敗した場合の撤退手段など、あらゆる状況に備えるべきだろう。
「今年もまた、デウスエクスたちと戦う一年が過ぎていきますね。グランドロンを救出して、景気よく来年につなげましょう! 皆さん、よろしくお願いします!」
参加者 | |
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ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354) |
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612) |
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) |
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812) |
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228) |
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570) |
朧・遊鬼(火車・e36891) |
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164) |
長城グランドロン内部。
断崖絶壁めいた壁面の上側に、渦巻くように四角い通路が口を開いた。そこから頭を出した北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)はわずかに身を乗り出して目を配り、彼の肩越しにセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)がビデオカメラを覗かせる。
一拍遅れて、セットの隣から四角い吹き抜け空間を見下ろしたヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は、遠く離れた床の一点に目を留める。
「……見えました。カメリアです。あそこです、距離104メートル」
ヴォルフが指差した先に、計都とセットが視線を向けた。
ズームアップするカメラ画面に映る、アイスブルーのポニーテールを流した後ろ姿。髪と同色のマントはためかせた女騎士が、二倍ほど身長差のある二人組に何かを指示する。顔は見えないが、腰には白鞘の軍刀が下がっていた。
カメラから目を外し、セットは出来る限り小声で呟く。
「間違いないっすね。取り込み中みたいっすけど」
「こちらに気づいてはいないようです。ヴォルフさん、合図をお願いできますか」
計都に見上げられたヴォルフは頷き、後ろを見返ってハンドサイン。手合図を見たジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)はその場に片膝を突き、足元をペンライトで照らす。浮かび上がる紫色の足跡と、かかとから伸びる赤紫色をした光の糸を確認してひとつ頷く。
「塗料よし、糸もよし。これで迷わずに脱出が出来るな。後は樹で隠した帰り道がふさがれていなければ完璧だが……」
「そちらは、祈る他ないかと。流石に気づかれることはないと思いますが」
ジークリットと一緒に糸の行方を見ていた深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)が、狼耳をぴくぴくと動かす。硬い面持ちをしたルティエの足元で戯れる赤い子竜とナノナノを抱き上げ、朧・遊鬼(火車・e36891)は最後尾に視線を送る。
「アキラ、後ろはどうなってる? 尾けられたりしてないか?」
「いや、ない。それらしい足音もないな。今のところ、順当に来ているはずだ」
最後尾、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は猫背めいた体勢で応えた。頭頂部からうなじまでが通路の天井に密着し、縮めた両肩は壁に触れるか触れないかといったところ。半分曲がった彼の膝から視線を上げたシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)に見上げられ、晟はやや気まずげに目を逸らした。
「問題は、遮蔽物が無いことと動き辛いことぐらいか」
「……晟さん、キツそうデス……」
「これぐらいなら、なんとか平気だ。後は……前の三人の合図待ちか」
一方、最前列。セットはカメラのズームインズームアウトを繰り返し、慎重に様子を伺う。下方のカメリアが右手を薙ぐと、二人の配下騎士は一礼ののち踵を返して立ち去った。計都は懐から機械式のベルトバックルを取り出す。
「行きましたね。仕掛けますか?」
「そっすね。気づかれてない今がチャンス……うん?」
セットがカメラに目を凝らす。カメリアは佇んだまま動かない。彫像めいた不動の姿勢で―――突如、セットの方を振り向いた! 銀閃が走りビデオカメラ割断! 直後、居合斬体勢のカメリアがセットたちの前に姿を現した! 今度こそセットが悲鳴を上げる!
「のわああああっ!?」
「シッ!」
カメリアが抜刀した瞬間、幾条もの銀光が通路口を駆け抜けて爆散せしめた!
噴き出す土煙から大小の瓦礫がこぼれる中、シィカとルティエを両脇に抱えた晟と遊鬼が飛び出す。続いてそれぞれセットと計都を肩に担いだジークリットとヴォルフが放物線を描いて開けた空間に落下!
前後反転して着地したジークリットは、目を回すセットのかかとに目を落とす。青白い光の糸は真っ直ぐ来た道へと続いたまま途切れていない。ジークリットの足から伸びる糸も同じく!
「糸は……お互いに切れていないな。幸いだ。しっかりしろセット」
「は、はわわわわわ……」
ジークリットは絶句した顔でカタカタ震えるセットを肩から下ろした。その隣にヴォルフが、後方に遊鬼と晟が降り立つ。
「全員無事か! ルティエ君とシィカ君も怪我は無いな?」
「は、はいデス!」
「おかげさまで、なんとか」
驚愕冷めやらぬ表情のシィカとルティエ。そこへ、ダストシュートめいて下り坂状になった通路に立つカメリアから冷淡な声が投げかけられた。
「隠れて覗き見とは、趣味が悪いな、ケルベロス。不意打ちの機会を探っていたか?」
計都を下ろしたヴォルフは腕を振り、袖口から飛び出した漆黒のナイフをつかんでカメリアに向ける。興味深そうに煌めく碧眼。
「気づいていたのですね。こちらが見えていたのであれば、先の二人は残しておくべきだったのでは?」
「見えていたわけではない。ただ、つい先ほど妙な視線に気がついた。そちらを見れば、あるはずのない場所に怪しい通路。しかも無人と来れば……試し斬りをしたくもなる。結果、当たっていたというわけだ」
カメリアは軍刀の先で坂道をつつく。ジークリットは目を細め、先の一撃を思い返した。通路の形を変える一瞬の早業。ジークリットが背負った長剣を引き抜くと同時、ナイフを逆手に握ったルティエが身を沈める。赤みを帯びた刃に入った彫刻を、緋色の光がゆっくりとなぞった。
「聞き及んでいたが、これは中々の軍刀捌き……名のある剣の使い手と見受けた。剣士として……手合わせ願おうか」
「ここ放置してこの先起こるであろうことを考えれば負けるわけにはいかない。グランドロン達を助け出すためにも……お前は必ずここで倒す」
「いいだろう」
カメリアは軽く跳んで通路口から垂直降下。音も無く着地すると、手中で軍刀をくるくると回した。
「我が名はカメリア。白百合騎士団が一柱! 閃光すら断つ我が剣技、御覧に入れよう……!」
半歩踏み出し、切っ先を突き出す!
「来い、逆賊共!」
「行くぞッ!」
晟が手元に出現したホロウィンドウを殴りつけた直後、八人を青い大爆轟が包み込む! 爆炎から飛び出したルティエとジークリットが真っ直ぐカメリアに突っ込む後方、蒼炎をまとって跳躍したシィカがギターを構えた。
「レッツ、ロックンロール! ケルベロスライブ、スタートデス! イエ―――イっ!」
振り上げたピックを弦に叩きつけるようにして奏で、高速奏法と共に歌い始めるシィカ! ギターから噴き出した五線譜状の光を背に流し込まれたジークリットは機械装甲に閃光をまとって低空ジャンプキックを繰り出す! ミサイルめいた一撃に対しカメリアは軍刀を手にして真っ向から全力疾走! 猛然と疾駆し、蹴り足を紙一重で回避して剣閃を振り抜いた!
「閃断……回折・逆螺旋!」
カメリアがすれ違った瞬間、ジークリットの足先から頭までを螺旋状の銀閃が包み込んだ! 機械装甲が引き裂かれて鮮血を噴き出すのを背後にカメリアは斜めに跳躍。銀色の毛皮で拳を固めたルティエは、カメリアに自由落下しながら拳を振りかぶり―――ワン・インチ距離に飛び込んだところで殴りかかる!
「はぁっ!」
「シッ!」
獣拳と斬撃が衝突! 手の甲まで裂かれたルティエが放つ高速乱打を、カメリアは軍刀一本で素早く迎撃。空中回し蹴りでルティエを真横に蹴り飛ばす! 同時にルティエの後方上空に浮遊する盾型ドローンを足場に、セットは小脇に抱えた砲をカメリアに向けた。
「狙いよーし! ファイアーっすーッ!」
砲口から噴き出す蒼の光線が空中を斜めに斬り裂いた! 一直線に飛び込んで来るレーザーに、カメリアは鋭い斬り上げで斬撃を飛ばす! 光断つ漆黒のカマイタチがセットのビームを引き裂いて進み、斬り抜いてセットを強襲。そこに遊鬼がインターラプト!
「ルーナ、紅蓮! 力を貸してもらうぞ!」
遊鬼の両肩に引っ付いたナノナノのルーナと子竜の紅蓮が白と赤のオーラをまとい、流し込む! 遊鬼は獄炎と化した左腕を振り抜き、カメリアの斬撃にストレートを繰り出した! 拳の炎が爆発して円形のバリアを形成、黒のカマイタチをガード!
「燃えろ!」
炎の円盾が斬撃をくるみ、絞るように焼き潰した。着地したカメリアはその光景を見上げて眉根を寄せる。次の瞬間、彼女の後方に回り込んだ計都が機械式のベルトバックルに鍵状のデバイスを差し込んだ!
「変……身ッ!」
鍵穴から放たれた閃光が計都を飲み込んで収束! カメリアが振り向きざまに飛ばした斬撃を、リボルバー弾倉じみた鉄槌が叩き潰した。青くマッシブなパワードアーマーで身を固めた計都は鉄槌をカメリアに向ける! 頭部が水平に変形し、六つの砲口がカメリアをロック!
「荒徹、フルバースト!」
撃ち出される六連砲撃がカメリアに襲いかかった! カメリアは身を沈めて一気に加速! ジグザグスプリントで砲弾を回避し、計都へ肉迫。地面スレスレから振り上げられた剣を、割り込んだ晟が横倒しにしたボートオールの柄を叩きつけて押し込める!
「下がれ計都君ッ!」
「すみません!」
足裏のキャタピラと爪先の車輪を駆動してバックする計都。一方カメリアは軍刀を逆手に持ち替えアッパーカットめいて晟のオールを弾き飛ばす! 即座に蒼雷のオーラをまとった両腕でクロスガード体勢を取る晟に、カメリアの高速斬撃が嵐めいて降りかかった! 飛び散る無数の雷鳴と稲光!
「ぬおおおおおおおッ!」
「てやあああああッ!」
カメリアは垂直斬り下ろしでガードブレイク! 両腕を叩き落とされた晟が首回りと胴体にオーラを集中させた瞬間、カメリアの真上に盾型ドローンが滑り込んだ。横合いから飛翔したセットとシィカが下向いたドローンの表面に着地し、上下反転状態でカメリアを見下ろす!
「突っ込むデスよーっ! せぇーのっ!」
「うりゃあああああああっ!」
共にドローンを蹴った二人が一直線にカメリアへ落下する! セットの飛び膝蹴りとシィカのストンプを見上げたカメリアは追撃を諦め連続バク宙で回避! 二人分の蹴りがグランドロンの床を爆砕すると共に、カメリアは巻き上がる粉塵めがけて走った。真横に振り抜いた軍刀でセットとシィカの首をまとめてはねに行く! その射線上に飛び込むヴォルフ!
「そこまでです。Einfrieren、Weigern……」
手にした黒いナイフを素早く振るって虚空に魔法陣を描き、その中心に刺突を打ち込む! 黒い光を以って具現化した魔法陣を、カメリアは構わず叩き斬りにかかった! ヴォルフは両目を見開いて最後の詠唱!
「Vorzeit zauber!」
魔法陣のカメリア側から光で編まれた女性の上半身が飛び出し、黒い吐息を吹きかける! ブレスに飲まれたカメリアの手足に黒い氷が発生、徐々に面積を広げながら凍らせていく! 張った傍からひび割れるそれを見下ろし、カメリアは険しい表情をする。
「氷と破壊の魔術の併用……! 小癪な!」
カメリアは踊るような回転斬撃でブレスを吹き散らす。刹那、飛来したヴォルフのナイフが彼女の右足の甲を貫通して地面にぬい留め、ヴォルフ本人が繰り出す低空跳躍回し蹴りが左膝を直撃! アーマーブーツがスネまで砕け、カメリアの顔が苦痛に歪んだ。
「っぐ……!」
カメリアが軍刀で鋭く斬り払う! 直後、ヴォルフを弾いた彼女の両側面にそれぞれ駆けこむ計都とジークリット! 後方回転して着地、横一文字に裂かれた胸板を押さえたヴォルフは合図を出した!
「封じました! 今です!」
「了解しました! 荒徹リロード完了!」
計都の六連砲がガシャンと派手な音を立て、ジークリットが山羊の頭骨を鍔にあしらった長剣を振りかぶる! 刀身を竜巻状の赤紫色のオーラで包み、大きくカメリアに向かって踏み込む!
「風よ……我らが障害を打ち倒せ! 烈風!」
「マルチロックオン! ヘキサバースト!」
ジークリットが斬り上げから地を這う真空の斬撃を放ち、計都の砲が轟音を打ち鳴らした。左右から挟み撃ちに来る斬撃と六発の砲弾を睨んだカメリアは、自身の左膝を軍刀の柄尻で殴って喝!
「甘く……見るなッ!」
右足を蹴り上げヴォルフのナイフを吹き飛ばし、コマじみた回転から渦巻き状の斬撃を繰り出す! 放射状に拡散した斬撃は砲弾と斬撃を斬り捨て爆散せしめた。カメリアの剣閃はそのまま挟撃した二人の首を断ちにいく!
だがジークリットの前に遊鬼が、計都の頭上に翡翠色の子竜ラグナルが飛び込んだ。ラグナルは防御態勢を取る計都の頭に乗って自身と同色のオーラを流し込み、遊鬼はルーナにキスされた左頬から噴き出す無数のハート型光を左の炎に混ぜ込む。ファー付きフードで赤くなった顔を隠しつつ、獄炎の左腕を振りかぶった!
「時と場合を考えろよ、ルーナ……! 下がってろ!」
遊鬼が撃ち出す炎の拳がカメリアの斬撃と激突! コートの背中から光の粒子をジェットめいて噴射して押し止める彼の反対側で、計都は縦に並べた両腕で受け止めた。
一方、晟は回転しながら落ちてくるボートオールをキャッチし、逆手に握って振りかぶる。オールを青い炎が包み込み、先端でドラゴンヘッドを形作る! 半身で踏み込んだ晟の足から飛び散る火の粉!
「突き穿ち、焼き尽くせ! 回禄寸龍ッ!」
ジャベリン! 投げ放たれた蒼炎の槍へ、身を沈めて疾走予備動作を取るカメリア。その真後ろに薄く微笑むルティエがナイフを構える!
「ドコ行クノ……? 逃ガサナイ……」
ルティエの藍色の瞳が紫色に変色。次の瞬間、カメリアの両膝、両脇腹、首の左右が斬り裂かれて血を噴き出した!
「があっ!?」
「フフフフフフ……!」
ルティエが飛び離れ、カメリアが片膝を突いた。顔を上げた彼女の視界を覆い尽くす蒼炎の龍がアギトを開き、カメリアに食らいつく! 女騎士は青い火柱の大爆轟を吹き上げ、激しい熱波を撒き散らす。
熱い風に顔を叩かれたセットは、目前に横倒し状態で滑り込んで来た盾型ドローンの表面を叩き、青のホロキーボードとホロウィンドウを出現させる。手早いタイピングと共にホロウィンドウがカメリアを飲み込んだ爆炎をスキャン。『No Enemy』の文字が浮かび上がると同時に、セットは叫んだ。
「よし、討伐完了っす! 撤退するっすよーっ!」
直後、空間が地鳴りを響かせ始める。素早くアイコンタクトを交わした八人のうち、晟は遊鬼とジークリットを肩に担ぎ上げて飛翔。背面部を展開してジェットパックを出現させた計都がヴォルフに肩を貸して通路へ飛び立ち、セットとシィカは自前の翼で羽ばたいた。
最後にルティエがカメリアの爆心地に突き立つオールを拾って壁面を駆け上がると、頭上から落ちてきた宝石をキャッチ。手中のコギトエルゴスムを見下ろした彼女は、慌てて仲間たちの後を追う。
数秒後、カメリアが居た空間はグランドロンの崩落によって埋没した。
作者:鹿崎シーカー |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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