●襲撃
「汝が名を告げよ」
ケルベロスたちを取り囲む、少年のような影。ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)は怯みもせず、それどころか武将のような風格を漂わせて問いかける。
無言を貫きながら迫る少年たちに、ボクスドラゴン「リィーンリィーン」も重ねて問うように翼を動かす。それでも、彼らは答えない。
「だんまりたぁ、不都合でもあんのかぁ……ん? 昴、見てみろ。あいつらの武器、グラディウスじゃねぇか?」
「ええ、そのようですね。しかも彼らは残霊ではないように見受けられます」
不知火・梓(酔虎・e00528)の刀の先が示す場所を見て、朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)はうなずいた。
少年たちの手元で光る剣は、まさしくグラディウスだ。身体の先端からモザイクになっているような姿も、気に掛かるところではある。
「何故こんなところにグラディウスが……? 一体、此処は何なのだ……?」
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)は呻くように呟いた。
「気をつけろ。あいつら、妙に統率が取れている。明確な意思をもって侵入者を排除しに来た……そんな、感じがする」
ティアン・バ(泪の行先・e00040)が、仲間に警戒を促す。
「どうする? ――ああ、戦うかどうかじゃなくて、こいつらを倒した後のことよ? どう見ても戦わずに突破するのは無理そうだもの」
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)がそう言うと、ウイングキャット「スノー」が白い毛並みを逆立てた。
「僕たちの探索を阻止する敵が現れたっていうことは、中枢はもうすぐなんじゃないかな? 時間も限られてるから、倒した後すぐに進むのはどうだろう?」
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)が仲間の様子をうかがう。
「……あのね。ワタシ、寓話六塔決戦でドリームイーターになりかけて、苦しみを知ったから……ジュエルジグラットの秘密を、知りたい。モザイクの都市も気になるし、いったん情報を収集してから進むのもありだと思うの。……時間切れの心配は、あるけど」
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)はガタガタ震えるシャーマンズゴースト「アロアロ」に触れ、先ほどの見た都市へと視線をやった。
いずれにせよ、まずは障害の排除が優先だ。ケルベロスたちは、少年たちを迎撃すべく武器を構えた。
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(泪の行先・e00040) |
不知火・梓(酔虎・e00528) |
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813) |
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402) |
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093) |
ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448) |
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376) |
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320) |
●剣を持つ者
グラディウスを手に迫る少年の攻撃を受けながら、コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)は声を張り上げる。
「貴様らは何者だ、何故その剣を持っている!? この都市の仲間なのか!?」
「僕たちは、ここジュエルジグラットの調査に来たんだよ。君たちに敵対する意思はないから、できれば戦いたくはないんだけど……」
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)も遠慮がちに告げるが、少年たちからの返答はない。
容赦なく振り下ろされた剣は、ドワーフの男の肌を裂く。
「くっ、戦闘は避けられん、か……。ならば容赦はせん! 我が刃に宿るは光<スキン>を喰らいし魔狼の牙! その牙が齎すは光亡き夜の訪れなり!」
鉄塊剣「スルードゲルミル」の刀身に青白い水晶の刃を纏わせた。瞬く間に巨大剣となった武器を手に、少年たちの中へと身を投じる。踏み込み、真横に薙ぎ払う一撃は少年の体を真っ二つにした。
「彼らとの会話も無理みたいだし、戦うしかなさそうだね。よし、回復は任せて! その代わり、攻撃は頼んだよ!」
攻性植物「汎用人型御馳走植物 贅沢根菜「パンドラゴラ」弐号機」に黄金色の果実を実らせ、錆次郎は仲間を照らす。
シャーマンズゴースト「アロアロ」が震えながら捧げる祈りによるヒールを受けながら、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)がゆっくりと頷いた。
「こうなってしまったら仕方ない、よね。――中枢へ向かう時間を確保するためにも、速攻で撃破を狙おう!」
マヒナが軸足を起点にして起こす、凶暴な風。マヒナの脚が地面に着く頃には少年たちの数体が吹き飛び、消えていった。
ケルベロスの攻撃がグラディウスへ重なる度に奏でられる音は、孤独な者の慟哭にすら聞こえる。
立ちはだかる者全てを殲滅せんと襲いかかる少年たちは、ケルベロスたちを前に確実にその数を減らしてゆく。
「この調子なら、無事にここは突破できそうですね。さて、引き続き命中率の確保はお任せください」
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)は跳躍し、敵陣へと真上から突っ込む。何度目かの星屑を纏った足先は少年の肩口を捉え、弾き飛ばした。
「とはいえ……まだまだ彼奴らの方が多いのぅ」
捻くれて太く老獪なムフロンの角を撫ぜ、ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)は混沌の波を敵軍へと解き放つ。
ともすれば師匠に修行の成果を見せるように、ボクスドラゴン「リィーンリィーン」も思い切りブレスを吐き出している。
「なら、一気にやってしまうとするか。――おいで。ゆこう」
ティアン・バ(泪の行先・e00040)が作り出すのは、海原の幻影。揺れる波の下、水底へと少年たちを誘えば、数体が一度にくずおれた。
「彼らの撃破も、そして中枢までの距離もあと少し。なおのこと、早く倒してしまいたいところね」
そう声をかけた植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)は、続けて歌声を紡ぐ。細い体から出ているとは思えないほどの声量で奏でられるのは、ケルベロスの肉体を活性化し強化する戦乙女の歌だ。
また、ウイングキャット「スノー」の羽ばたきで生まれる風は、ケルベロスに癒しと耐性を与える。
「だなぁ、さっさとこいつらを片付けて――」
不知火・梓(酔虎・e00528)が都市の方をちらりと見る。
「あっちの調査ができそうならしようじゃねぇか」
言い終わるが早いか、正中に構えた刀身から何かが放たれた。斬撃と共に貯めた剣気であると、少年は気付くことはないだろう。
煙草代わりに銜えている長楊枝が剣圧でやっと揺れた頃、少年の手にしていたグラディウスが折れた。その破片の形は、まるで涙。地面に突き刺さり、消えて行く。
同時に、少年も終わりを迎える。体を構成しているモザイクは色あせ、朽ちてゆく。
やがて両手でグラディウスを握りしめ膝を突く少年。それはまるで、自らの消滅が世界の、ケルベロスたちの理となることを祈るようにも見えたのだった。
「ひとまずはこれで全部倒せたかしら?」
碧があたりを見回す。見える範囲に、もう少年の姿は無い。
「そのようですね、もう敵の気配はありません。……さて、これを回収しておくとしましょうか」
昴は胸元で手を合わせた後、地面に落ちているグラディウスを拾い上げた。
「だなぁ。邪魔にならねぇよう、腰の後ろにでも括り付けておくかねぇ」
梓が拾い上げ、続いてティアンもグラディウスを手にする。
「地球侵略に使われかねない物だからな、敵対してくる相手にはあまり持たせたくない。……それとも、まだティアンたちが知らないような使い道が他にあるのか?」
「わからぬ――が、ひとまずは1本だけでも回収させてもらうとしようかの」
呻くように呟いたゼーが、グラディウスをマントに仕舞い込んだ。
●都市と人々
戦闘を終えたケルベロスたちは、調査のために都市へと立ち寄ることにした。
ひとまずは呼びかけようと、コクマが扉に手を触れる。
「我らはお前達を害する気は――む? この扉、開くぞ」
「えっ? ……本当だ、」
錆次郎も手に力を籠めてゆっくりと扉を押す。
軋みながら開いた扉を見て、ケルベロスたちは顔を見合わせた。
「最初の方に見かけた都市はしっかりと扉が閉まっていたようですが……この都市には防衛の意思が無いのでしょうか?」
首を傾げ、開いた扉の先を見遣る昴。ゼーは口元に手を当て、ゆっくりと頷いた。
「調査をすれば解る――と言いたいところではあるが、如何せん保証できることなど何も無い場所ゆえ。ここは、行くしかなかろう?」
ケルベロスたちは開いた門を抜け、都市の中へと歩みを進めた。
外から見た時と同じように、住民は全身がモザイクとなっている。彼ら彼女らの姿を見て、マヒナは胸を痛めた。
「あの一時だけでも苦しかったのに、全身モザイクなんて……もう欠落が何だったのかも分からないのかな?」
呻く者、苦しむ者――そして、ぼんやりと佇む者。
「あの人になら、話、聞けるかな? ……ねえ、此処は何なの? 住民たちは、いつ頃からこうなってしまったの?」
「仲間はいなくなっていない? もし居なくなっていたのだとしたら、どうやっていなくなったかわかるかしら?」
碧も重ねて問いかける。が、反応はない。声が聞こえているのかいないのか、佇む者たちはいくら話しかけても微動だにしなかった。
駄目ね、と碧は肩をすくめる。
他に佇む者を見つけたコクマと錆次郎も顔を見合わせ、順に問いかける。
「中枢とこの場所の関係、モザイクが増幅している原因について知る者はいないか?」
「ジュエルジグラットとドリームイーターはどんな関係? ジュエルジグラットを制御する方法があるの? 今、ジュエルジグラットは誰が制御しているの? そもそもジュエルジグラットって一体何?」
やはりどのような質問をしても、住民の反応はまるで無い。
「こりゃあどんな質問しても無駄かねぇ? 呻く連中にも変化は無ぇみてぇだが……」
梓が首を捻り、五感に集中する。特段、異様な気配なども感じられない。
「ううむ……では、これを試すとするかの。少しばかり失礼して――」
まるで反応を示さない住民にゼーはいっそう近づき、手を取った。そしてワイルド化した心臓のある場所を、モザイクの手と接触させる。
「これでモザイクを晴らせるといいのですが……」
自身のワイルド化した心臓に重なるように、昴も住民を触れさせた。
「ならば、地獄でも試してみるとしようか。……さあ、失った物を強く思うのだ。愛なら愛を、興味なら興味を。難しいだろうがその求める心に地獄は応えよう」
コクマは右腕の地獄を用いながら、言い聞かせるように住民へと語りかける。
「もしまだ怒りを奪われていないなら、強く思うんだ」
自身の心臓部から濁った黝い色の地獄を分け与えるティアンは、結果を見守る。
しかしいくら待てども、住民のモザイクを取り除くことはできなかった。
「ワイルドも地獄も効果なし、か……ん? おいおいおい、なんだぁ、あいつら? こっちに近寄ってくるぞ?」
梓が言う通り、先ほどまで何をしても無反応だった彼ら彼女らが近寄ってくる。そしてケルベロスたちと一定の距離を取ったところでぴたりと止まったかと思いきや、いっせいに頭を下げたのだ。
『ありがとう、見知らぬ者たち。自分達のモザイクが晴れることはないけれど、君たちがそうしてくれた気持ちが嬉しい。おかげで、ひとときでも意識を取り戻せた』
いっせいに同じ言葉を話す、モザイクの人々。複数の言葉が重なる声からは、まるで個性が感じられない。
そうして、人々が語り出したのはドリームイーターの成り立ちであった。
『もともと、我々はデウスエクスですらなかった』
『ジュエルジグラットが我々の星に来た時、我々は滅びに瀕していたんだ』
『けれど、ジュエルジグラットにモザイクを与えられ、我々はデウスエクスになった。そうすることで、滅びから救われた』
『だが、ジュエルジグラットはモザイクという病に蝕まれている』
『だから我々は約束をした。貰ったモザイクを晴らしてジュエルジグラットに還す事で、ジュエルジグラットのモザイクを晴らす事を』
『ドリームイーターはジュエルジグラットのモザイクを晴らすために尽くし、捧げてきた』
『その仲立ちをしてきたのが、初代の寓話六塔だ』
『だが、モザイクを自分の力であると勘違いしたドリームイーターが現れ始める』
『彼らはモザイクを晴らすためと偽り、私利私欲に走り出した』
『彼らの行為はジュエルジグラットのモザイクを進行させてしまった。そして、ついにはジュエルジグラットの姿が変わってしまった。現在のようにモザイクに覆われたものへと』
『そこで、心あるドリームイーターがジュエルジグラットを癒すため、許容量以上のモザイクを受け入れてモザイク化した』
『それが我々であり、あなた達を襲った『殲剣の理』センたちだ』
『どうか、センたちのことは悪く思わないで欲しい。彼らは侵入者からジュエルジグラットを守ろうと戦いを挑んだに過ぎない。彼らには、大恩あるジュエルジグラットを守る意志以外に何も残されていないのだ』
『また「赤ずきん」はジュエルジグラットのモザイクを晴らすことを最後まで諦めなかった』
『地球の住人のドリームエナジーがあれば、その強い意志の力でモザイクを晴らしてジュエルジグラットに還してくれる……とも、考えていたようだ』
『しかし初代「寓話六塔」が定めたルールを破る事はできなかった。そしてそのルールを悪用した「青髭」の要請も断れなかった……』
住民たちはそこまで話し、いったん口をつぐんだのだった。
●情報
モザイクの住民たちが一斉に語った内容をいったん整理しようと、ケルベロスたちは顔をつきあわせる。
投げかけた質問に、住民たちは知識の範囲で、おおよそ答えてくれたようだった。ただし、地球でもそうであるように『住民たちが知っていること』は必ずしも正しいとは限らない。
「まずはドリームイーターの歴史について、じゃな。十二創神の一体『ジュエルジグラット』は己のモザイクを晴らすため、滅びに瀕した星の住人へとモザイクを与えた。そのモザイクを晴らして自分に還すよう『ジュエルジグラット』が命令した、と話しておったな?」
ゼーの言葉に、コクマが頷いて続ける。
話が正しいなら、モザイクの人々は元いた星から救われ、今いるジュエルジグラットの内部に移住したのだろう。
「ああ。そしてモザイクの人々は、自分たちを救ってくれた『ジュエルジグラット』のためにモザイクを晴らそうと尽くしてきた、と。ドリームイーターは謎の多い種族だと思っていたが、よもやこんなことになっていようとはな……」
ジュエルジグラットが、様々な星で同様の行為をしていたとすれば、地球に現れるドリームイーターが同じ種族とは思えない程に様々な姿をしているのも理解できる。
「先ほど彼ら彼女らが語ってくれた内容を聞く限り、ジュエルジグラットは良い存在のようにも判断できます。しかしジュエルジグラットの目的が『モザイクを晴らす』ことで、そのためにドリームイーターを利用しているのならば――必ずしも良いとは言い切れないでしょうね」
昴の言葉を聞いた梓は、長楊枝をいったん手にして、後頭部を掻く。
「ジュエルジグラットがドリームイーターを利用するため、星を滅ぼすよう追い詰めた……いわゆる『マッチポンプ』って可能性も考えられるよなぁ? 当然そうじゃねぇ可能性もあるが、ジュエルジグラットへの警戒は緩めるべきじゃねぇと思うぜ」
「そもそもジュエルジグラットがドリームイーターにやらせていることを考えれば――ジュエルジグラットがこちらから見て善なる存在である可能性は、著しく低いと考えるのが妥当だろうな」
静かに呟くティアンは、苦しみ呻き、あるいは無気力に佇んでいたモザイクの人々を思い浮かべる。
地球の人々からドリームエナジーを奪って回っているようなドリームイーターは、住民たちの言う『私利私欲に走りジュエルジグラットのモザイク化を進行させた』側なのかもしれない。
だが、初代寓話六塔であり、ジュエルジグラットを救おうとしていた「赤ずきん」ですら『失伝ジョブの末裔の大量誘拐』などを行っている。
「たとえジュエルジグラットを救おうとする気持ちに基づく行為だったとしても、受け入れられるものではないな」
地球を守るために戦って来たケルベロスたちは、静かに頷いた。
気になるのは、と錆次郎が腕組みをした。
「うーん、ドリームイーターの派閥争いについても気になるところだよね。赤ずきんの目的は『ジュエルジグラットを救う』ことだったみたいだけど、『継母』をはじめとする他のドリームイーターは『ジュエルジグラットを救う』という目的で行動していないっていうことだろうね」
「『継母』たちはジュエルジグラットを『自分たちの力の源であるモザイク』を産み出す重要な拠点、くらいに見ているのかもしれないわね。それに、ジュエルジグラットを救えばモザイクが消えて自分達のデウスエクスとしての力を失い定命化する可能性もあるでしょうし」
推測する碧の言葉を聞きつつ、マヒナは時計に視線を落とす。
「だとしたら、デウスエクスの力に依存している彼らには受け入れがたいのかもしれないね。うーん、モザイクの人々にもっと色々聞いてみたいけど……そろそろ、中枢へ向かわないと」
オラトリオの娘が言うとおり――ケルベロスたちは中枢を探索するためにこそ、ここを訪れたのだ。
作者:雨音瑛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年12月23日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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