尽きない命

作者:白鳥美鳥

●尽きない命
 テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は、歩いていた。愛用の眼鏡にメイド服。傍らにはライドキャリバーのテレーゼがいる。
 それは、いつもと同じ光景の筈なのだけれど……何故だか、今日の夕陽に連れられるように、ただ、歩いていた。
 そこに、メイド服の女が現れる。ズタズタのメイド服、そして血塗られたその姿。おぞましい姿に、テレサは身を引いた。相手から溢れる殺気を感じたのだ。
 そして、そのおぞましい姿のメイドの女は容赦なくテレサに襲い掛かって来た。

●ヘリオライダーより
「みんな、緊急事態だ!」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)が飛び込んできた。
「テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)が、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受ける事を予知して……急いで連絡を取ったんだけれど……全然、連絡が取れないんだ。一刻も早く、テレサを助けに行って欲しい!」
 デュアルは状況を伝える。
「テレサは歩いている所に襲撃を受けたみたいなんだ。相手はダモクレスでメイド服を着た女性だ。……何ていうか、とにかく見ただけでぞっとする様な外見だね。服もズタズタで、血に汚れていて。……どうやら、戦い方としては、ドレイン系をメインにしている様だね」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、カタカタと震えている。
「ど、どうしよう……! テレサちゃんが大変なの! 早く助けないといけないの! みんな、力を貸して欲しいの!」


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)

■リプレイ

●尽きない命
 ……見るからに恐ろしく気持ちが悪い相手だった。ズタズタのメイド服、そして血塗られたその姿。
「み~つけましたよ?」
 その気持ち悪い相手……ヴァレンシア・ザ・ドゥームは、にたりと笑った。目は棘の様なものが付きだし表情こそ分からないが、その口元だけでも恐ろしさと悍ましさが嫌でも分かる。
 その気持ち悪さと沸き立つ殺気に、テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は言葉を失い、身動きが取れなくなる。だが、ライドキャリバーのテレーゼが間に入りテレサに近づけない様、動いた。
「大丈夫か、テレサ嬢!」
 飛行形態に変身したジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が、ヴァレンシアに特攻を仕掛けて零距離による火器攻撃を仕掛けて、テレサとの距離を更に引き離した。
「貴様か、テレサをいじめているのは。SYSTEM COMBAT MODE」
「ホント良く狙われるぜ、テレサは」
 マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)と軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)が駆け寄ってくる。その後に続いて、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)、ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)、そして応援に駆け付けたイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が駆けつけた。
「……皆様」
 親しい人達の声や助けに来てくれた人達を見て、テレサはやっと声を発する事が出来た。
 だが、現れた援軍にも目をくれず、テレサの方を向くヴァレンシアが、とても怖い。だが、救援に入ったケルベロス達も、その悍ましさと殺気に怖さを感じないと言えば嘘になる。何せ、見た目だけで既に怖いのに、纏っている空気すら恐ろしさを感じるのだから。

●ヴァレンシア・ザ・ドゥーム
「……私が怖い? それなら、もっと怖くなってあげる」
 最初のヴァレンシアの動きは攻撃力の強化から始まった。恐らく、彼女の能力をより生かす為のものだろう。
「まずはコイツで行くぜ! 運が良けりゃお目々パッチリだ!」
 ランドルフが取り出したのは、癒しを齎す銃。その回復銃弾には頭脳の高速活性化をもたらす能力が込められている。これをパトリシア、ピコに撃ち放った。何だか若干痛い様な気もしなくもないが、二人の集中力は確実に上がっていく。
「アナタがどういうデウスエクスだかは知らないケド、アナタもワタシにどうせ興味ないデショ? だったらヤるコトはヒトツ! 悔いが残らないように全力で暴れなさいナ」
 パトリシアはチェーンソー剣を構えると、一気に距離を縮めてヴァレンシアを切り刻んでいく。
 マークも不可視の防御フィールドを展開し、自身とジョルディ、ティーシャの守りを高めた。
「……!」
 明らかに怖いヴァレンシアに対し、テレサも勇気を振り絞ってドラゴニックハンマーを変形させると竜砲弾を叩き込む。それに続けてテレーゼも炎を纏って突撃攻撃を喰らわせた。
「テレサに近づかせないぜ!」
「好きにはさせんよ!」
 双吉とティーシャも続いて輝きを放つ重い蹴りをヴァレンシアに叩き込む。
「ダミー投影開始。パターンは命中支援でランダムに。今のうちに、態勢を整えて下さい」
 二人の攻撃の間を縫って、ピコは周囲に散布しているナノマシンにホログラムを投影させ、マーク達の集中力を高めていく。
「テレサちゃんを強くするの!」
 ミーミアはテレサの力の底上げを狙い、ウイングキャットのシフォンはジョルディ達に清らかなる風による護りの力を送った。
「ふふ……ふふふっ。大丈夫、安心して? ……あなたは死ぬ。ただ、それだけ……。ふふっ、ふふふ……」
 不気味な笑みを浮かべるヴァレンシア。それはテレサに対して言っている事は明白だ。
 その不気味さにテレサは一瞬怯む。その瞬間高速の勢いでテレサに向かってヴァレンシアが突撃してきた。
「危ない、テレサ!」
 彼女が狙われない様に警戒していたマークが踵のパイルを地面に刺して肩シールドで庇うが……己の攻撃力を上げてきた相手の吸血能力は恐ろしく何度も奪われる生命力……気が付けばマークの視界が白くなっていた。
「ちょ……大丈夫か、9ちゃん!」
 ランドルフが慌ててマークの元に駆け寄る。今回はTPOに合わせて『マーク』と呼ぶつもりだったが、いきなり戦友が動けなくなる程のダメージを負って、それどころでは無くなった。急いで満月にも似た光を使いマークを癒す。
「流石にコレは危ないネ」
「マークちゃん、大丈夫?」
 パトリシアとミーミアも駆けつけてマークの回復に努めた。
 ……守りを固めていた筈のマークがこの状態だ。テレサを庇い切れていなかったらと思うとぞっとする。
「……感謝する、ランドルフ、パトリシア、ミーミア」
 意識を取り戻したマークは、自らの力も使って回復に努めた。
「マ、マーク様……私の為に……」
「落ち着け、テレサ。マークはもう大丈夫だ。そして……君は、必ず私が……私達が守る」
 怯えるテレサにティーシャがそっと抱きしめた。その言葉に、テレサは幾分落ち着きを取り戻す。
「……残念です、もうちょっとだったのに。……でも、この血も悪くは無いですね」
 視線はテレサに向いているが、口元の血を拭うとにたりと笑う。テレサを狙う事には変わりが無いようだが、他の者の生命力も良いと感じている様だ。この調子では、テレサを含め、皆、彼女に命を吸い上げられてしまう。
 だからこそ、ここで勇気を振り絞らないといけないのはテレサだ。
「……私は、ここに駆けつけて下さった皆様の為にも……死ぬ訳には参りません」
 ちらりとマークを見てから、続いてティーシャに視線を移す。
「力を貸して頂く事は可能でございましょうか?」
「当たり前だ」
 ティーシャの言葉に、テレサも頷く。
『『切り裂け!!デウスエクリプス!!』』
 それは、ティーシャとテレサによる合体攻撃。ティーシャにジャイロフープを搭載し特殊形態になった彼女をテレサが制御する。双円刀がヴァレンシアを斬りつけ、テレーゼもスピンによる攻撃を仕掛ける。赤黒い血が舞い上がる中、ヴァレンシアは変わる事無く、悍ましい笑顔を浮かべた。彼女は他者の生命力を奪うだけでは無く、自らを回復し強化する事も出来る。だからこそ、どんな怪我も怖くは無いのだろう。それは……とても恐ろしい事だ。
 少しでもテレサから、意識を反らしたい。
「我が嘴を以て……貴様を破断する!」
 ジョルディはヴァレンシアに斧を突きつけ煽る様に宣言する。
「ふふ、私の命は尽きる事は無いのです……」
「それは……どうだろうな?」
 パイルがドリル回転し、ヴァレンシアを貫いた。これで強化は一旦解けたが、油断が出来ない相手である。
「テレサは私達が守る!」
「右に同じく!」
 ティーシャはルーンを纏わせた斧を思いっきり振りおろした所に、双吉の螺旋の力を持った拳で爆破攻撃をヴァレンシアに叩き込む。
「皆さんに力を」
 ピコは爆発による力でティーシャ達の力の底上げを図り、シフォンはパトリシア達に清らかなる風を送って護りを高めた。

●命はいつか尽きるもの
「……ふふふっ、もう一度……」
 ヴァレンシアの能力が回復と共にまた上がっていく。
「今のうちニ、一気にいきマスヨ!」
「隙は与えない!」
「いくら力を上げようが、関係ない」
 パトリシアは容赦なくズタズタに斬り裂き、ジョルディの斧が強烈に振り下ろされ、マークはガトリングガンの弾丸で力の上がったヴァレンシアを撃ち抜き、その攻撃力を落とした。
「そらよ! Tensionアゲてけ!」
 ランドルフは満月に似た輝きをもって双吉の力を底上げする。
「……もう、誰も傷つけないで下さい」
 テレサのアームドフォートが一斉に火を噴き、テレーゼがスピンしながら足元を引き潰す。更にティーシャと双吉が動きを合せて輝きを伴う蹴り、ピコは氷結の螺旋を放ってヴァレンシアに叩き込んだ。
 ミーミアはパトリシアの力を上げ、シフォンはテレサ達に護りの風を送り込む。
「……ふ、ふふ……」
 歪んだ笑みを浮かべるヴァレンシア。彼女は痛みを感じる事無く、再び視線をテレサに向けた。そして、素早く動いたかと思うと、その姿はテレサの前にあった。
「……今度こそ、あなたですよ」
 一気にテレサの生命力がヴァレンシアによって奪われる。
「しっかりしろ!」
 ランドルフの放つ光がテレサを包み込み、ミーミアやシフォン、イッパイアッテナも回復に向かい、何とかテレサは持ちこたえた。
「48arts,No.39!  デッドウェイトアンカー!」
 太腿を振り上げると、パトリシアは思いっきり地面を踏みつけて動きを止めた所に、マークとジョルディのアームドフォートが火を噴いてヴァレンシアを撃ち抜く。
「見た目は堅い感じじゃねぇのに、不屈って言葉が良く似合うじゃねぇか」
「ですが、コールさんを死なせる訳にはいきません」
「尽きない命など無い。死は皆、平等に来るのだからな!」
 双吉の螺旋による爆破攻撃をした所にピコの爪の様な手甲が殴りつけ、ティーシャのハンマーがヴァレンシアを叩き潰した。
「……ふふっ、まだ……まだですよ……」
 テレサ達の目の前に赤黒い血飛沫が飛ぶ。しかし、これはヴァレンシアから放たれた血……心を抉っていく血だ。
「……だから、俺の見た目で怖がるな……来世は……美少女になるんだ……」
「……昔の嫌な思い出が……」
「……」
 怖そうな顔という理由だけで孤独に生きていた頃が双吉の中に蘇り、ランドルフは子供の頃の悪夢の様な時間を思いだし……テレサは、今、まさにこの瞬間が十分なトラウマになって動けない。
「騎士道の片隅にも置けん!」
 ジョルディは地獄の炎をヴァレンシアに叩き込む。それに合わせてパトリシアはヴァレンシアのズタズタになっている身体を更にズタズタに斬りつけた。
「みんな、しっかりするの!」
 動けなくなっている三人にミーミアの光のヴェールがかかり、意識を取り戻す。
 三人が意識を取り戻した事を確認してから、マークはもう一度、自分達の周囲に防護膜を展開する。……恐らく、次はまた生命力を奪いに来る事が予想される。しっかりテレサを庇い守る為にも、この先の守りは大切なのだ。
 ティーシャは輝きを伴う重い蹴りをヴァレンシアに放ち、ピコは手裏剣を投げつけた。
「……ふふっ、ふふふ……」
 元々、立っている事が不思議な位の姿だったヴァレンシアは更に凄惨な姿になっている。だが、不気味な笑みを湛えている事は変わらない。それがより恐ろしく感じる。
 ヴァレンシアの狙いは変わらない。あくまでテレサを狙ってくる。備えていたマークは踵のパイルを地面に刺し、肩シールドでテレサの盾となった。生命力は奪われていくが、最初の意識が遠のく様なものからは遥かに弱っている事が感じられる。そして、その奪われた生命力もランドルフの放つ光で戻ってきた。
 パトリシアのチェーンソー剣が閃き、ジョルディの斧がヴァレンシアに叩き込まれる。テレサも竜砲弾を撃ち込み、テレーゼが炎を纏って突撃した。更にティーシャの斧が降り下ろされる。
「ゾンビは荼毘に付してやるのが正攻法だろう?」
 双吉の翼に纏わせたブラックスライムを右腕に走らせ螺旋の力を内包させると炎の塊にして放ちヴァレンシアを燃やしていく。更に、ピコの爪状の手甲が容赦なく殴りつけた。
「テレサちゃん、ファイトなのー!」
 ミーミアはテレサの力の底上げを、シフォンは護りの風を送る。
 流石のヴァレンシアも、完全にふらつき身体は血まみれ……恐らく、本人ももう後が無い事位は分かっているだろう。それでも、彼女はテレサをあくまでも狙う。その生命力を……命を奪うために。だが、直ぐにマークが守りに入った。
「やられっぱなしは性に合わねえぜ!」
「もう終わりデスヨ!」
 ランドルフのナイフとパトリシアの剣が容赦なくヴァレンシアを斬り裂いていく。そして、飛行形態に変形したジョルディがヴァレンシアを押さえ付けた。
「今だ! 恐怖の対象は自身の手で消すのだ!」
 ジョルディの言葉に、テレサ頷き、ティーシャの方へ向いた。
「ティーシャさん、もう一度、力を貸して頂けますか?」
「勿論だ」
 ティーシャは頷き、二人は体勢を整える。そして……。
『『切り裂け!!デウスエクリプス!!』』
 ジャイロフープをティーシャに搭載し、テレサは制御しつつ、二人の力を合せて神喰の双円刀『デウスエクリプス』がヴァレンシアを切り裂いた。
 崩れ落ちるヴァレンシア。その身体は血の海に呑まれ――二度と動く事は無かった。

●その後に残るもの
「皆様、救出に来て下さり本当にありがとうございました。こうして、今、私が生きているのは皆様のお陰でございます」
 ぺこりと頭を下げてお礼を伝えるテレサの表情はさえない。とにかく怖かったのだ。死を恐れる事無く、戦ってくる。それも生命力――命を奪いながら。……本当にトラウマになりそうな戦いだった。
 よろけかけていたのか、ティーシャとピコ、テレーゼがテレサの身体を支えてくれた。
「無理をするな」
 ティーシャの言葉はクールだが、テレサの心には優しく響く。
「空の旅は如何ですかな?」
 少しでも元気になれば、気分転換になれば、と、ジョルディはいつでも飛び立てる姿になってくれる。
「テレサちゃん、チョコレートなの」
 ミーミアもその手にチョコレートを入れて来た。
 向こうでは、双吉が輸血を出来る病院は無いかと慌てていて、マークはメイドとは一体なんだ……? という様な目でどこか遠くの方を見ている。パトリシアとランドルフは周囲をヒールして回ってくれていた。
「……ありがとうございます」
 自分の命を救ってくれた人達を見つめ、テレサは改めて一人では無い、寂しくないと思った。ここには確かな『優しさ』があるのだから――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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