●概要
妖精八種族の一つ、グランドロン。
その一部が宇宙戦の末にケルベロスの説得を受け入れ、コギトエルゴスムとなって回収されたという事実は、同じ戦場から帰還したジュモー・エレクトリシアンとレプリゼンタ・ロキにより、大阪城にも伝えられていたようだ。
「さらなる離反を警戒した敵勢力は、これまでのような移動拠点としての活用を諦め、第四王女レリの威光で以て、大阪城に残るグランドロンから意志と自由を奪ったの。今の彼らは正真正銘の物言わぬ壁、敵拠点をぐるりと囲む長城にされてしまったわ」
ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)はそう語ると、ケルベロス達を見回してから再び口を開く。
「――けれども、よ。彼らを虐げる元凶さえ取り除いてしまえば、また皆の声も届くようになるでしょう。即ち、第四王女レリの排除。それを成し遂げられたなら、グランドロンを新たな仲間として迎え入れられる可能性もより高まるでしょうね」
しかし、言うは易し行うは難し。長城防衛にはレリ配下の白百合騎士団と、三連斬のヘルヴォール率いる連斬部隊、さらにユグドラシルの戦力までもが配置されている。
それでも今回の戦いを仕掛けられる理由は、二つ。
「一つは、予知によって有力な敵の居場所が悉く判明していること。もう一つは――呼び掛けに応じてくれたグランドロンのコギトエルゴスムよ。彼らの手助けがあれば、同族で築かれた長城に人が通る程度の抜け穴を作ることが出来るわ」
どれほど堅牢堅固な城壁だろうと、中に入ってしまえば此方のもの。
そして密やかに侵入を果たしたなら、第四王女レリの排除を――或いは、その為に必要な有力敵の撃破を目指し、服従を強いられているグランドロンを救出、コギトエルゴスムとして確保するのだ。それが、先頃の説得に応じてくれたグランドロン達へと見せられる、ケルベロスの誠意の一つだろう。
●詳細
今作戦において、撃破を狙うべき有力敵は十体。
「まずは――当然ながら、グランドロン支配の要たる“第四王女レリ”ね」
彼女の排除なくして、作戦成功は有り得ない。
排除とは、死と同義だ。レリが栄誉ある役目を――長城化した宝瓶宮グランドロンの主という責務を捨ててまで逃げ出すような事態は考え難い。万一があるとすれば、騎士の誇りを失うほどに心折られた時くらいだろうが――。
「それの前に考えるべきこと、討ち果たすべき相手が沢山いるわ」
ミィルは提示した資料に印をつけながら、敵の名を列挙していく。
レリ親衛隊を率いる“絶影のラリグラス”に、新たな白百合騎士団幹部として確認された城内警備部隊長“閃断のカメリア”と、外敵警戒部隊長の“墜星のリンネア”。
「この外敵警戒部隊は大軍勢の襲来を予測して設置されたもので、それ故に今回の少数による隠密作戦を察知することは出来ないと予知されたわ。それから――」
第二王女ハールの命で、レリの監視と緊急時の連絡役を担う螺旋忍軍“紫の四片”。
シャイターンで構成された『連斬部隊』を率いる“三連斬のヘルヴォール”に、彼女の配下でも有力な“ヘルガ”と“フレード”、そして“オッドル”のシャイターン三体。
それからもう一体――連斬部隊員の“ヒルドル”は有力な敵でないが、グランドロン襲撃のタイミングで大阪城に移動しようとする為、不運にも予知で捉えられたシャイターンだ。
「ヒルドルを逃せば大阪城への作戦露呈が早まり、援軍が送られてくるタイミングも前倒しになってしまうでしょう。それから他の有力敵も――個々の事象は異なるけれど、その生存がグランドロン救出の障害となる事に違いはないわ」
とりわけ、三連斬のヘルヴォール撃破は必須となるだろう。グランドロン制御に専念するレリに代わって長城を取り仕切る彼女は、健在なら城内の混乱を瞬く間に収束、態勢を立て直した大軍でケルベロスの駆逐に取り掛かる。そうなってしまえば、もう撤退する他ない。
「作戦に投入できる部隊は十五。各々がどの敵を狙うのか。どのようにして敵を倒すのか。……それ以前に、グランドロンのコギトエルゴスムを所持したまま長城まで隠密行動する方法はどうするのか。抜け穴を使った潜入に際して、どう行動するのか。あとは――」
援軍が到来した場合の対処法に、作戦失敗時の撤退手段など。ケルベロス達が想定し、考慮し、用意しなければならないものは中々に多い。
それでも一つ、幸いと言うべき事がある。此方に確保したグランドロンのコギトエルゴスムの影響なのか、長城内に関する予知はかなり詳細なものとなっており、最適な抜け道を通って進めば、雑兵と遭遇することなく目標を急襲できるはずなのだ。
「その優位を活かして敵を退け、長きに渡るレリとの因縁にも終止符を打ち、グランドロンを救い出して、そして――」
そこで言葉を区切ったミィルは、ふと思い出した事を加えて言い直す。
「――そして助け出した彼らと共に、皆でクリスマスを迎えましょうね」
参加者 | |
---|---|
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) |
ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454) |
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796) |
●侵攻
歴史の遺産から侵略の象徴と化して久しい大阪城。
その異様な姿を彼方に置き、ケルベロス達は密やかに進んでいた。
音を消し、匂いを消し、能力や障害物で姿を隠して、存在そのものを秘匿する。
簡単な事ではないが、綿密な下準備と十分な経験に裏打ちされた足取りは揺るぎなく。
彼らは何者にも察知されず、着実に目標へと近づいていく。
城とケルベロスを隔てる境界。ほんの少し前まで存在しなかった防壁。
侵攻を阻む長城。その正体は、服従を強いられる妖精グランドロン。
(「必ず、救ってみせます」)
徐々に近づく壁から迫力を感じつつ、輝島・華(夢見花・e11960)が今一度誓えば、ライドキャリバー“ブルーム”が呼応するように勢いよく、けれども静かに物陰から飛び出た。
魔法の箒を想起させる一輪は、纏う花弁を微かに揺らして行く。
その優しくも鮮やかな姿のように。
大阪の中心に色彩が還る日は、何時になるのだろうか。
――と、感傷に浸ることさえ出来るほど、進軍は順調であった。
長城の下にまで辿り着いてみても、敵方に気取られた様子はない。
「どうやら方向音痴の呪いが効いたようね。きっとお城の中も迷子だらけだわ!」
暗色の外套を脱いだ遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)が、アイテムポケットを漁りながら言った。
「いつの間に、そんな仕掛けを?」
全く信じがたい話と分かりつつ、ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)は問う。
答えは――ない。代わりに篠葉が手渡してきたのは、手頃な大きさの宝石。
既に確保したグランドロンのコギトエルゴスムの一つだ。
「そうですね。此処からは彼らの力を借りないと」
さらりと切り替えたウィッカは、魔石の類と違うそれを掴むと外壁に寄っていく。
途端、堅牢という文字を具現化したような壁には、人が通れるほどの穴が開いた。
「一体全体、どういう……仕組み? 体質? なんでしょうかねー」
話に聞いていたとはいえ、いざ目の当たりにすると不思議な現象だ。
移動拠点にもなり、堅固な長城にもなり、解いていけば一つの妖精。
摩訶不思議なグランドロン。その長城の内側を伺いつつ、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)もコギトエルゴスムを持って壁をなぞってみるが――さて、少し撫でてみたところで、やはり口を衝いて出る感想は“不思議”以外にない。
「こればっかりは本人達に聞いてみるしかないね」
「そうじゃのぅ。その為にも、全員無事で迎えてやれるようにせねばの」
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が侵入の準備を整えながら言えば、テレビウム“菜の花姫”を従えたミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)が答える。
それは何気ないやり取りで――しかし、クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)は神妙な面持ちで聞き入ると、受け取った宝石と長城の間で何度となく視線を彷徨わせた。
此方側に来たグランドロンの信頼と、隷属を余儀なくされたグランドロンの壁。
双方を感じ取り、或いは目の当たりにして、一つの種族の命運を自分が――ケルベロス達が握っているのだと実感すれば、如何に数多の戦場を越えてきたクラリスであっても、重責に身体が打ち震える。
「……でも、進まなきゃ」
「そうだね。そうする他にないからね」
呟きが孕むものに気付いたか否か。立ち尽くすシャドウエルフに一瞥くれてから、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)は「たまには焦らされるのも悪くないけど」などと独り言を零しつつ、抜け穴に潜っていく。
その背がまだ捉えられる内に、クラリスは不安と緊張を握り拳の中へと押し込めた。
「……私達が、行かないと……!」
程なく、乙女の表情には戦士の気概が滲む。
それから踏み出した一歩は力強く。
後ろ姿は儚げでありながら、確固たる信念を宿しているようにも見えた。
●潜入
無事に侵入を果たしたケルベロス達は、より慎重かつ迅速であろうと心掛ける。
予知という大きな優位性があっても、何一つ油断は出来ない。彼らが目標とする“三連斬のヘルヴォール”は実質的な城主。即ち、指揮系統の中枢。其処は、この長城において最も多くの報せと人手が行き交う場所でもあるはず。
(「……ボク達も全力を尽くす。だから、頼んだよ」)
手元の情報と自らの視界を照らし合わせつつ、アンセルムはコギトエルゴスムを見やる。
それは呼び掛けても反応なく、壁に近づければ無造作に穴を開けるわけでもない。
ただ、ケルベロス達の益となる時だけ道を作る。
彼らは自らの意思と判断で、不完全な自由の中、同胞を救うべく反逆しているのだ。
堅牢な城壁を力で維持している王女が知れば、何を思うだろうか。
問いかける機会は、恐らく無い。彼らがヘルヴォールの元を目指しているように、他のケルベロス達が王女の討伐へと向かっている。
そして妖精グランドロンの解放は、王女の死とほぼ同義。
なればこそ、八人は自らが引き受けた使命を果たす為、黙々と城内を駆ける。
そうして、幾つの抜け穴を潜っただろうか。
回数が増え、感覚が狭まり、グランドロンの協力なくしては通路一つ越えるのも困難であろうと実感するようになって暫く。殿で情報を纏めていたアンセルムが、それを告げた。
予知と照らし合わせる限り、この先にヘルヴォールが居るはずだ、と。
別の地点から侵入して、共に敵を討つと取り決めた仲間の姿はまだ見えない。
だが、それを待たずに仕掛ける約束だ。
ケルベロス達は、意を決して動き出す。
そんな彼らを導くように、最後の抜け穴が開き、そして――。
●襲撃
真っ先に見えたのは、刃を携える巨躯の女戦士。
その周囲を、幾人かのシャイターンが取り囲んでいる。
連斬部隊の者達だろう――だが、彼女らの意識は此方に向いていない。
主たるヘルヴォールも、同じく。その場に居た敵の注意は、有り得ざる道を抜けてきた八人――否、十六人でなく、大扉を開けて正面から乗り込んだらしき八人に注がれていた。
(「――それならば」)
まずは雑兵を討ち、この戦場の孤立を確実なものとする。
決断するや否や、ウィッカは姿勢を低く保ったままでシャイターンへと襲いかかった。
細い刃で左胸を一突き。濁った瞳が驚愕に揺れ、そのまま色を失っていく。
それを眼前で見たシャイターンが弾かれたように動くが、意味ある行動など何一つ許されない。激しくスピンするブルームが過ぎたところに環の槌とミミの矢が降り、クラリスが吹雪かせる冷気で凍り付いた者達もアンセルムの蔦に呑まれ消えていく。
そして瞬く間にシャイターンを屠ったケルベロスの手は、ヘルヴォールにまで伸びた。
だが、大部隊を率いる長は流石に実力が違う。女戦士は奇襲を跳ね除けると、怒りを湛えた眼で此方を見下ろしてくる。
「心配しなくていいよ。すぐに同じくらい、気持ちよくしてあげるから」
いつの間にやら形成されていた不自然な闇。其処から現れたプランは囁き、指先の雫を舐め取りながらヘルヴォールを見据えた。
その足元では、精気を吸い尽くされたように痩けたシャイターンが全身を震わせている。
種族こそ違えど、連斬部隊として率いる部下だ。無言のままで立つヘルヴォールに、何か思うところがあってもおかしくはない。
だからなのか――プランは屈み込み、シャイターンの背を弄ぶようになぞる。
タールの翼が一段と大きく震え、微かな吐息と甘い声を伴って崩れ落ちた。
ヘルヴォールの剣が唸りを上げたのは、それから間もなくだった。
彼女は多数のケルベロス相手に、三連斬の名に違わぬ姿勢で猛然と斬り掛かってくる。
「全く、キミはこの場の誰よりも勇猛で“男性的”だよ」
アンセルムが冷ややかに挑発すれば、その言の葉の倍はあろうかという数の剣閃が飛ぶ。
「わらわに任せるのじゃ!」
斬撃への備えは万全だと、勇んで盾になるミミの身体に幾つもの傷が浮かび上がり、それに憤慨したか菜の花姫が凶器を持って走れば、華と篠葉が視線を交えて治癒に駆けつけた。
「なんとか斬なんかより呪いの方が強いのよ!」
「あの、篠葉姉様……」
呪いでなく治癒を、と華が言うまでもなく、ミミの傷が閉じていく。
何やかや、癒し手の務めはしっかり果たしているようだ。ならば自分も出来る事をするまでと、治癒術を手早く進めた華は、流れるような手付きで鎖の魔法陣を描く。
其処から広がる守護の力は――いつもよりも大きく広がって、望むほどのものを齎すことなく消えた。
普段よりも多くのケルベロスが集っているからだろう。
だが、それは此方に不利なことばかりでもない。
ヘルヴォールの斬撃も多くを奪おうとするあまり、本来の重みを失っている。其処に気づかぬ彼女でもなかろうが――しかし、理解したところで覆す手段がない。
一瞬ばかり、光明かと思えるものもあったが、それは――。
「へ、ヘルヴォール様!?」
戦場の外で目を見張り、声上げたのは一体のシャイターン。
(「援軍? ……いや」)
クラリスは敵が足元に落とした紙束を認めると、頭に過ぎった可能性を切り捨てた。
あれは戦士でない。事務仕事の最中に争う音を聞きつけて、思わず飛び込んできた裏方なのだろう。
推測を裏付けるように、短刀を構えて迫るシャイターンの姿は何処か頼りなく。ひらりと刃を躱したクラリスは、背後からの一撃で容易く相手を打ちのめす。
その後もぽつぽつと湧いた彼女達は悉く乱戦に無茶な交わり方をして、或いは踵を返した途端に討たれて、何一つ驚異になれず散っていった。
やがて時計の針が進むにつれて、天秤はケルベロス達の側へと大きく傾いていく。
三つの部隊には、それだけの重みがあった。
だが、それでも。
「――邪魔をするなぁ!!」
奇襲を許した自責からか、事が思うように運ばず苛立ったか。
或いは、流れる血と刃の輝きに昂ぶりを抑えきれなくなったのか。
ヘルヴォールは叫び、群がるケルベロス達へと刃を振るう。
何度も、何度も何度も何度も――。
「アンちゃん下がって!」
三連斬などでは留まらない、驟雨の如く始まって終わる気配のない斬撃。
それが及ばぬようにと、環がアンセルムを押し退けて最前に立てば、ウィッカの前に割り込んだライドキャリバーは車体に大きな裂け目を作った。
「堪えて、ブルーム!」
主の華が緊急の治癒術式を広げ、辛うじて相棒を戦場に踏み止まらせる。
それを助ける手立てなど持たぬウィッカは“万が一”から救われたのだと自覚しつつ、己に出来る事――つまりは敵に仕掛ける機会を狙って、未だ続く斬撃から一先ず逃れる。
「さすが、あの王女から城を預かるだけはあるのぅ……!」
自身の三倍に等しい巨躯から降り注ぐ攻撃は、ミミを唸らせるだけでなく確実に削り、お供の菜の花姫ごと弄ぶ。
華の術の向く先が変わり、篠葉の呪い(と言う名の治癒)も合わさって傷は塞がれていく。
それでも失われたままのものを、盾となるケルベロス達は気概で埋めて立ち向かう。
そして――斬撃の絶えた僅かな間に、漆黒の騎士が反撃の号砲を鳴らした。
勇敢なる盾に守られた者達が、その轟音を合図として一斉に牙を剥く。
(「――終わりの、始まりを!」)
僅かな足の運びで射線を作ったクラリスが、右手を構えながら小さな破裂音を発す。
途端、指先から撃ち放たれた不可視の弾丸は、ヘルヴォールが幾つも負った傷の一つに触れて眩く爆ぜた。
その光に紛れて、影が動く。連綿と続くシャドウエルフの血を――かつて担った暗殺者の役目を体現するかの如く、己を闇に溶け込ませたウィッカが刃で巨躯を斬り裂いて抜ける。
(「……浅いか」)
手応えから察し、首を回せば迫る大きな手が見えた。
――が、それはウィッカの赤いツインテールに触れる間際、ピタリと止まる。
「……やっぱり、縛られるより縛るほうが好き?」
「な、にを……ッ!」
鬼の形相で唸るヘルヴォール。
対して、艶やかな微笑みを返すプラン。
まるで愛する者を求めるかのように伸ばされた細腕は、超自然の御業を介して戦士を掴み、決して離そうとしない。
「このまま押し切るよ、環! ――喰らい付け!」
「まっかせなさぁい!!」
鋭牙の如き闘志を滾らせて、斑に錆びついた巨槌を手に駆け出す環の脇を大蛇が過ぎた。
変容した蔦であるそれは主の指図通り、敵を捉えて毒を注ぐ。そうして内外のあらゆる力で自由を奪われた巨躯目掛けて、環は靭やかに飛び上がると勢いよく槌を振り下ろす。
耐えに耐え、溜めに溜めた渾身の一撃は打撃でありながら斬撃と見紛うほど鋭く。環の役割が盾であることさえ忘れるほど強烈に、ヘルヴォールの脳天を打った。
――それでも。城を預かる者の矜持か、女戦士は倒れない。
「それならっ――!」
倒れるまで叩き、叩き、叩き潰すのみ。
二の太刀、もとい二の槌振るう構えを見せた環に、他のケルベロスも同調して――。
「……」
プランは広げかけた影を収めると、ただ静かに佇んでその光景を見やった。
殺意に満ち満ちた銀髪のシャドウエルフが、ヘルヴォールの首に鎖を巻き付けて力一杯に振り回している。
荒々しく、とても戦いの技とは呼べない。一方的な蹂躙。破壊。略奪。
そうした言葉が相応しいほどの猛襲の果て、床に叩きつけられたヘルヴォールは大の字に転がり――。
「……レ、リ……」
絞り出すような声。刃を取り落した手が、彼方へと伸びた。
求めているのか。侘びているのか。……それとも。
今際の際の囁きに思い巡らすケルベロス達。けれど真実を確かめる術も、必要もなく。
「何処かでレリに会えたら、キミ達はすごく“男らしかった”って褒めてあげなよ」
アンセルムが、冷酷にさえ聞こえる言葉を浴びせた。
もはや“レリの死”すら確信した台詞は、戦士の亡骸へと吸い込まれていくだけだった。
●解放
そして、確信は程なく現実のものとなる。
突如として城の其処彼処が綻び、コギトエルゴスムに変わり始めたのだ。
それは第四王女の支配の終焉。妖精達の解放を意味している――が、それよりも。
「……っ、篠葉姉様!」
「分かってるわ!」
呼び掛けられた篠葉。声掛けた華。
二人は共に、アイテムポケットを開く。往路で人数分の宝石だけを収めていたそれは、すぐに大量の同胞で埋まっていく。
「必ず、自由にしてやるからのぅ」
あらかた収めて封じられる直前の包みへと、ミミが穏やかに呼び掛ける。
気付けば、辺りはケルベロスの退路だけを残して崩れ去り。
シャイターン達の姿も、崩壊の余波に巻き込まれたか見当たらなくなっていた。
ならば撤退――いや、グランドロンと共に帰ろう。そして、クリスマスを祝おう。
誰かのそんな声を聞きながら、ケルベロス達は退路を駆けた。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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