●グランドロンの変化
「宇宙のグランドロン決戦の結果、妖精8種族のグランドロンのコギトエルゴスムを奪取する事が出来たであります。皆さん、ほんとにお疲れ様でした」
小檻・かけら(麺ヘリオライダー・cn0031)が、深く頭を下げてケルベロスたちを労ってから話し始める。
「グランドロンさんたちは——未だコギトエルゴスムのままではありますけれど、皆さんの説得を受け入れてくれたのであります」
だが、宇宙より帰還したジュモー・エレクトリシアンとレプリゼンタ・ロキからその情報を得た大阪城のユグドラシル勢力は、グランドロンの裏切りを警戒し、グランドロンの形態を変化させたという。
「……作戦中にケルベロスから説得される危険がある状態では、これまでのような運用は不可能と考えたのでありましょうね」
今まではある程度自律的に行動可能であったグランドロンを城塞型へと変化させ、エインヘリアル王族の威光によって完全に支配下へ置いては、強力な城塞としてのみ運用するつもりらしい。
「現在、大阪城勢力の4隻のグランドロンは、大阪城をぐるりと取り囲む長城へと造り変えられてしまい、しかも第四王女レリが完全に支配下へ置く事で意志も封じられてるであります。皆さんがたケルベロスの説得も、決して届く事はありません……」
しかし、グランドロン救出のチャンスはまだある。
「エインヘリアルの王族の威光で無理やり従わせているのならば、その原因である第四王女レリを取り除いてしまえば良いのであります」
とはいえ、大阪城を取り囲むグランドロンの長城は、第四王女レリの白百合騎士団と、三連斬のヘルヴォール率いる『連斬部隊』、さらにはユグドラシル戦力が防衛にあたっており、その守りは堅い。
「ですが、此度の戦いでは、グランドロンさんのコギトエルゴスムが手助けしてくれるでありますよ」
グランドロンによる城塞は当然ながら堅固だが、説得に応じてくれたグランドロンのコギトエルゴスムの助けがあれば、何とか人が通れる程の抜け穴を作る事ができるのだとか。
「その抜け穴を利用し、予知によって居場所が判明している敵指揮官を狙って攻撃を行い、グランドロンを無理やり従わせている第四王女レリを撃破する事ができれば、グランドロンは皆さんの説得をきっと受け入れてくれるでありましょう!」
この作戦に成功すれば、妖精8種族・グランドロンを新たな仲間として迎え入れる事が出来るかもしれない——とかけらは請け負った。
「さて、改めて作戦を纏めると『グランドロンさんたちのコギトエルゴスムを持って、隠密行動で大阪城へ近づき、グランドロンの長城に生まれた抜け道から潜入、有力な敵を奇襲で攻撃・撃破すると共に、グランドロンを制御している第四王女レリを撃破、グランドロンのコギトエルゴスムを救出する』であります」
撃破しなければならない有力敵は、以下の10体だ。
「第四王女レリ、の説明は省くとして、そのレリの親衛隊を率いるのが絶影のラリグラスであります」
ラリグラスを撃破できなかった場合、親衛隊を統率して第四王女レリの救援へ向かってしまう為、レリの撃破が困難となる。
「閃断のカメリアは、城内警備部隊の指揮をとっています。
カメリアを撃破できなかった場合、城内の警備部隊が侵入者を排除しようと動き出す為、作戦行動が大きく阻害されてしまう。
「墜星のリンネアは外敵への警戒を行う部隊の指揮を執っています」
リンネアを撃破できなかった場合、緊急事態として外敵への警戒部隊を全て城内の敵の撃破に向かわせるので、やはり作戦行動が大きく阻害される。
「紫の四片……第四王女レリ配下の螺旋忍軍でありますね」
彼女は緊急時に第二王女ハールへ連絡を行う役割を持つ為、もし撃破できなかった場合、第二王女ハールの援軍が速やかに到着してしまい、作戦の成功が危うくなるだろう。
「三連斬のヘルヴォール……シャイターンで構成された連斬部隊を率いるエインヘリアルでありますが、加えてグランドロンの長城の副城主でもあります」
ヘルヴォールを撃破できなかった場合、城内の混乱を素早く制圧してはケルベロスたちを駆逐してしまう為、作戦は失敗する。
「連斬部隊員ヘルガ、連斬部隊員フレード、連斬部隊員オッドル……どれも三連斬のヘルヴォール配下のシャイターンであります」
彼女らを撃破できなかった場合、増援により、ヘルヴォールの撃破が困難になる。
「連斬部隊員ヒルドル……三連斬のヘルヴォール配下のシャイターンなのは前に同じでありますが、運の悪いことに、襲撃のタイミングで大阪城へ移動しようとしているであります」
ヒルドルを撃破できなかった場合、グランドロンの襲撃が大阪城に素早く伝わってしまう為、大阪城からの援軍が来るまでの時間が短くなってしまう。
「そうそう、救出したグランドロンさんたちのコギトエルゴスムの影響なのか、グランドロンの長城内の敵の様子を詳細に予知できたでありますよ」
加えて最適な抜け道も用意できるので、他の敵に遭遇する事無く目標への急襲が可能となっている。
「ただ、敵の戦力は膨大であるため、有力敵の撃破に失敗し、敵が態勢を整えてしまえば作戦の遂行は困難となりますので、即時撤退を行う必要がありましょう」
作戦に参加するチームは全15チーム。
この限られた戦力で、10体もの有力敵へ対応する事になる。
「隠密で大阪城へ近づく方法、抜け道を使った潜入時の行動、ご自分のチームがどの敵を狙って行動するかの選択、敵との戦闘方法、援軍などへの対処方法、作戦に失敗した場合の撤退手段など、様々な状況を想定して行動を考える必要があるでしょう」
そこまで説明を終えると、かけらは彼女なりに皆を激励した。
「今回の作戦は、妖精8種族のグランドロンさんたちを仲間に迎える為の救出作戦です。無事に救出へ成功してご帰還なされば、丁度、クリスマスの頃……彼らの救出が、素敵なクリマスプレゼントになるかもしれませんね」
参加者 | |
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水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547) |
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793) |
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557) |
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716) |
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699) |
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244) |
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820) |
●
長城と化した宝瓶宮グランドロン。
ケルベロスたち3班計24人は、妖精グランドロンのコギトエルゴスムが城塞との呼応によって外壁に開けた穴から内部へ侵入、レリの元を目指していた。
「にしても、ここまで必死になるって事は、グランドロンはやはりエインヘリアルにとって、重要なものって事なんだろうな」
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は、脈動する壁に囲まれた四方を見渡して、増援の来そうな方向へ見当をつけながら進んでいる。
ついに無気力状態を名実共に脱したらしい、元無気力人間の青年。
降下前の機内でも、決して大将狙いに固執する事なく、他班の動向や自班の総戦力を鑑みて目標変更も辞さないと柔軟な考え方をしていた。
「コギトエルゴスムを持って戦う、か。戦闘中、落としちまう事もあるだろうから、気をつけないとな」
しっかりと案内役を果たしてくれたコギトエルゴスムの安全を気にして、彼らを丈夫な袋へ入れてベルトに固定してあげる鬼人だ。
一方。
この日も降下前の機内で小檻へおっぱいダイブしてきた——そして蹴られた——だけに気合充分な日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)は、自らを隠すように気流を起こし、内部に潜む敵へ気取られぬよう息を殺して進んでいた。
「……男尊女卑がどうの、とかいう方が、グランドロン達はその意志すら封じて強制的に従わせているというのはどうなんだ……?」
ふと、レリの仕打ちがアイスエルフとグランドロンに対して随分違う事の猜疑心を口にする蒼眞。
「……本質はただやられた事をやり返したいだけなんじゃないか……?」
レリの他者を無理やり支配するやり方と、語っている理想の剥離具合、その事に気づかず城主という立場に誇りを持っている姿勢、そのどれもが気に入らない彼だから、レリに幼稚さすら感じてしまうのだろう。
「嫌いな奴だが心情はわかる。私にも大好きな姉がいるから」
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)は、先行する隠密気流組の後ろへぴたりとついて歩きながら、複雑な思いを洩らしていた。
デンマーク人と日本人のハーフで、北欧出身の兎のウェアライダー少女。
味方には礼儀正しくも敵には苛烈を態度を取る性質は、極度のデウスエクス嫌いからきているらしい。
耳掛け型ヘッドホンを愛用し、トランスを聴きつつ柔道の稽古をするのが日課な大学2年生である。
「姉が喜んでくれれば嬉しい。当然ね」
そうレリの行動原理を理解しているものの、だからこそ下手に敵へ情けは見せまいと、エステルは固く決意していた。
他方。
(「よーし、グランドロンさんを仲間にするために、がんばるぞー! おー!」)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)もまた、他の仲間同様に隠密気流を用いて気配を絶ち、足音なども立てまいと慎重に歩いていた。
腰まで伸びた黒髪と低い精神年齢が滲み出たかのような童顔、歳より若く見られる小柄な体格が特徴的な、常に白いワンピースを着ているロリ系男の娘だ。
(「レリやヘルヴォールを何とかしなきゃ作戦は失敗するっぽいしね」)
敵を発見した際はすぐに仲間へ伝えるべくハンドサインを考える傍ら、和は機内での相談を振り返って目的を再確認していた。
「レリの心を折る……部下にヒール掛けたりするくらい騎士団内でも仲良さそうだったしなぁ」
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)は、特殊な気流を身に纏って気配を殺しつつ、地形の影響を受けずに移動できるよう翼で低空飛行していた。
さらさらした髪と同じ緑色の切れ長な瞳、下向きに生えたツノが特徴的な、ドラゴニアンの青年。
常にミミックと共にある降魔拳士で、明るい物言いと笑顔を絶やさぬ性格である。
「恐らく、レリを倒す前に騎士団を全滅させた上で他の王族による裏切りを発覚させるくらいしないと、とても折れそうにない気がするんだぜ……」
一応は自班も長城の総大将と相対する事になった為か、タクティの関心はいかにしてレリの心をへし折るかにあるらしい。
「これで5回目……あれ、6回目、だったかな?」
と、グランドロン内部へ乗り込んだ回数を数えて、思わず感慨に耽るのは氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)。
穏やかそうな笑顔と控えめな態度が奥ゆかしい、地球人の女子大学生。
特別な日にはピンクのリボンを結ったり浴衣や下着でイメチェンに挑戦したりと、年相応にお洒落へ興味があるようだ。
「まぁでもこの感じ、まだ何度も来ないといけなさそうよね……」
かぐらはそんな不吉な予感を振り切るように、隠密気流を隠れ蓑にして静かに歩みを進めた。
「ある意味クリスマスらしいのかな?」
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)は、ヘリオンから見下ろした大阪城ユグドラシルの、青々とした根に寄生された異様な姿をクリスマスツリーと重ねていた。
城ヶ島制圧戦での古馴染みの訃報を受け、元々彼女の影武者として育てられていたのが急遽本人代行として歩み始めた少女。
柔らかな茶髪のポニーテールや純真ながら意思の強そうな瞳など、外見はまるっきり古馴染みと瓜二つ。
性格も彼女同様に明るく前向きな頑張り屋だが、古馴染みを喪った傷は癒えず、クリスマスとドラゴンだけは好きになれないそうな。
「今回もやらないといけない事は多いけれど、全てはグランドロン救出と大阪城を取り戻す為に……だね」
隠密気流に巻かれてしっかり気配を消しつつ、作戦の重圧に押し潰されまいと気合を入れ直すリナだ。
「レリと戦う3班の中でも増援を警戒する役割になって、個人的には助かるわ、ね……」
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)は、呪装緋影の生む特殊な闇を纏って息を殺しながら、内心幾許か安堵していた。
インドアで人付き合いが不得手なせいか、誰にでも横柄な口調になってしまう鹵獲術士の少女。
それでもせっせと溜め込んだ膨大な知識を無駄にはすまいと頑張れる努力家な一面も持つ、いわば頭でっかちな魔女様である。
「単体より集団を相手どるグラビティの方が多いから……回復も疎かにはできないし、頑張らないと」
機内では他班との意見の擦り合わせに神経を砕いて、仲間と一緒に一所懸命奔走していたルベウスだから、いざ作戦が始まった後の方が気疲れも癒えたのか活力を取り戻していた。
●
レリ狙いの3班は、敵に足止めされる危険性を減らす為にそれぞれ別の道を通って、第四王女レリのいる宝瓶宮グランドロン中枢部へと辿り着いた。
彼女の立場上当然だろうが、レリは独りでなく、白百合騎士団一般兵らしき護衛が何人もケルベロスたちを遮るべく立ちはだかる。
「殿下、お退がりください」
「連斬部隊を呼ぶまでもない。我々で始末してご覧に入れましょう」
血気に逸る騎士団員たちの言へ従わず、悠然と立ち上がるレリ。
「見くびってもらっては困るな。グランドロンの城主が椅子を温めるだけのお飾りではない事を、お前たちにも教えてやろう」
手にした大剣を掲げて水瓶座の力を多重に宿すと、天地揺るがす超重力の十字斬りを鬼人へ叩きつけてきた。
白百合騎士団員たちも、主に遅れをとるまじと槍を振るって、水瓶座のオーラを飛ばしてくる。
後衛陣が極寒の波動に晒されて凍える中、ミミックがリナの前へ滑りこみ、全身で彼女を庇っていた。
「俺の道はおっぱいダイブ、そして落下と共にある!」
いつも通りに石英の残霊を召喚し、その中で小檻相手におっぱいダイブを敢行するのは蒼眞。
蹴り落とされた勢いに乗じて、頭から白百合騎士団一般兵の胸へ激突しては、体勢を崩してみせた。
「離れ離れになってるグランドロンさんたちのためにも、しっかりやり遂げないと」
かぐらは小型治療無人機の群れを警護モードで展開。
独自の改良を加えて愛用している彼らを手足のように操り、前衛陣の守りを固めさせた。
「ただ、お姉さんと仲良く、そして部下たちと一緒に同じ目標に向かって進みたかった」
表面上はレリを理解すまいと決めていた筈なのに、自ずと彼女へ向かって問いかけているのはエステル。
「家族であり続けるのが貴方の願いだった。そうでしょう?」
ドラゴニックハンマーを力一杯叩きつけて超重の一撃を見舞うと共に、白百合騎士団一般兵の中に眠る生命の『進化可能性』を奪い取って凍てつかせた。
(「心が折れるとなると一瞬だからな、逃亡の可能性は常に考えておかないと、な」)
鬼人はそんな懸念からレリの挙動を注視すると共に、空の霊力帯びし無名刀を抜き払う。
(「長ってのはそういうもんだ」)
腕の痛みなど感じさせぬ鋭さの一閃が一般兵の傷跡へ寸分の狂いなく命中し、苦痛を倍加させた。
「えーい! これでもくらえー!」
ドラゴニックハンマーを力任せにぶん回して、竜砲弾を射出する和。
レリを護ろうと立ちはだかる白百合騎士団一般兵へ轟竜砲をぶち当てて、見事撃破してみせた。
「あんたが部下の身可愛さで死神に身売りしたって勘違いしてたのだけは、謝っておきたいかな」
レリとは以前にも戦っているだけに多少の因縁めいたものを感じるのか、素直に今の心境を吐露するのはタクティ。
「……ま、言いたい事はこれくらいだぜ。今回はもうどちらが意地を張れるかだと思うのだぜ?」
さあやろうか、と素早く肉薄するや超硬化した手の爪を振るって、白百合騎士団一般兵をその呪的防御ごと刺し貫いた。
ミミックも相棒の指示通りに偽物の黄金をばら撒いて、白百合騎士団員たちの同士討ちを誘発すべく奮闘している。
城主を守るいわば近衛兵たちとの戦闘は、そう長くは続かなかった。
「悪いけれど、雑兵に構ってる余裕はないんだよね!」
リナはゲシュタルトグレイブを構えて機敏に跳躍。
高速の回転斬撃を仕掛けながら白百合騎士団員たちへ突撃して、奴らを一気に薙ぎ払った。
「あらあら……城主様のお付きは大変ね」
残る白百合騎士団員に向かって、呪銭『混世魔王』の先端を伸ばすのはルベウス。
そのまま精神操作で鎖を締め上げ、ついには息の根をも止めてみせた。
●
「何故いつも、皆、私より先に逝ってしまうのだ……また、私は部下を守りきれなかった……」
近衛兵を全滅させられたレリは、怒りに燃える瞳であらゆる守護を無効化する重い斬撃を放ってきた。
「させない!」
すかさずかぐらが蒼眞の前へ飛び出して、大剣を自らの両腕で痛みと共に受け止める。
(「たとえレリにどんな事情があっても……憧れの人の前で迷いは見せられません」)
エステルはレリの肩を掴んで担ぐと同時に足を払い、空中へ飛び上がる。
(「だって、私はルーさんと共に生き残って、勝ちたいから」)
緩やかに膨らんだ弧を描いて空中を舞うと、地面目掛けて勢いよくレリを叩きつけた。
「やってやるぜーっ!」
半透明の『御業』をレリへけしかける和。
両手を広げた御業がレリの頭を鷲掴みにし、ミシミシと全身全霊をかけて握り締めた。
「セット……咲誇れ愚者の華! 晶華ァ!」
タクティは相手を指差し狙いをつけて、nibaru determinationを嵌めた手の指先から結晶の弾丸を放つ。
命中した弾丸が、レリのグラビティ・チェインへ煽られるかのように爆発、さらなる激痛を齎した。
その傍ら、レリの脛へガブリと噛みついて、懸命に動きを鈍らせようと頑張っているのはミミックだ。
「為政者なら二枚舌だったり強権を発動するのも、ある意味仕方が無いとは思うけど……」
蒼眞は斬霊刀を振るって、達人の域に到った刀の腕前を遺憾無く発揮する。
余計な動きの一切を削ぎ落とした剣戟がレリを捉えて、肩口を斬り裂くと同時に凍りつかせた。
レリとの戦いは熾烈を極めた。
3班で束になってかかっても、戦局を有利に運んでいる実感など得られず、どこまでも緊張を強いられる死闘が続く。流石は腐ってもエインヘリアルの第四王女である。
「レリ、あんたは強い。でも……私たちの絆はもっと強い!」
レリの側面へ素早く移った他班の前衛——赤毛のツインテール少女が、破鎧衝を叩き込みながら叫ぶ。
「私はあんたと同じくらい馬鹿だけど、縁はあんたよりも恵まれてきた」
拳を引き抜くや否や、機敏に飛び退る赤毛。
「長い事続いた大阪城の攻防も、ここで終わり」
レリへ反撃の余地を与えてなるものかと、ルベウスが即座に創った魔法生物をけしかける。
魔力を込めた宝石を触媒に生まれた、黄金色の巨大な槍に似た魔法生物——ルイン・アッサルだ。
「返してもらうわ」
金属の如き見た目でありながら全てが光のようにあやふやな存在感を併せ持つルイン・アッサルが、激しい破壊衝動の赴くままに赤い瞳をギラつかせて、レリへ喰らいついた。
「私は、あなたとは直接的な面識があるわけではありません。ですが――人々に仇なす者であるなら、私は容赦しません!」
他班の銀髪のウェアライダー女性も、槍の如く伸ばしたブラックスライムでレリの腕を貫く。
「今回ばかりは決着をつけないとマズいから、本気で頑張らないとね」
かぐらは精神を極限まで集中させて、全く手を触れる事なくレリの脇腹を爆破した。
「……刀の極意。その名、無拍子」
刀術の基礎にして奥義たる一太刀を放つのは鬼人。
決して躱す事の出来ぬ刃の一振りへ圧倒されて、レリの甲冑に鋭く深い傷が疾った。
「レリの誇りも受け止めて全力で戦うよ!」
オウガメタルから魔力と幻術を解き放つのはリナ。
それらは混じり合い無数の風刃となって周囲を舞い踊り、レリの甲冑を幾度も切り裂いて彼女の動きを鈍らせた。
仲間との絆を支えに奮起したケルベロスらが怒涛の猛攻を仕掛けて、レリを徐々に追い詰めていく。
「ターゲット、ロック!」
アームドフォートからミサイルを一斉発射するのは、黒目黒髪の鎧装騎兵だ。
乱舞したかに見えたミサイルの群れは、白煙を棚引かせながら不規則な軌道を描きに描いてレリへと吸い込まれ、泡立つ無数の閃光へと変じた。
「なめるなよ、ケルベロス。絆の強さなら、私たちとて、負けてはいない。もっとも、多くの者が逝ってしまったが……ミュゲット、ヴィンデ、ギアツィンス、ラーレ……」
ついには膝をついて、大剣へ縋るようにしていたレリが、今再び立ち上がる。
思わず8人も、余力を振り絞って身構えた。
だが、もはやレリに攻撃するだけの体力は残っていなかったらしい。
何やら鎧装騎兵の怒鳴る声が聞こえたかと思いきや、レリの身体が淡い光に包まれて、跡形もなく消え失せていく。
床にぶつかって派手な音を立てる大剣と甲冑だけが、今や彼女の存在していた証のように、その場へ留まり続けた。
「終わった、な」
婚約者から貰ったロザリオへ手を当てて、呟く鬼人。
彼だけではない。皆、無意識のうちに自分たちの無事を確かめ、安堵の息をついていた。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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