聖夜のグランドロン救出戦~血塗られた包囲網

作者:坂本ピエロギ

 宇宙を舞台に繰り広げられたグランドロン決戦は、マスター・ビースト残党軍を撃破したことで勝利を掴む事に成功した。
 残党勢力が乗っていたグランドロンの宇宙船は、ケルベロスの呼びかけによって元の姿へと戻った。彼らはコギトエルゴスムとなって回収され、今も静かな眠りについている。
 だが、その一方で――。
「大阪城のエインヘリアル勢力に、新たな動きがありました」
 ヘリポートに集合したケルベロスを見回し、ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)はそう告げた。
 大阪に帰還したジュモーとロキからグランドロン降伏の報を受けたエインヘリアル達が、残るグランドロンの裏切りを警戒し、彼ら妖精達を巨大な城へと造り変えたのだ。
 グランドロンは現在、大阪城を取り囲む長城へと姿を変え、第四王女レリの支配下に置かれている。レリの力は強く、彼女を除かぬ限りはケルベロス達がどれほど声をかけ続けてもグランドロンに言葉が届く事はないだろう。
「そこで皆さんには大阪の長城へと潜入を行い、王女レリを撃破して貰いたいのです。自分達を無理矢理従わせるレリが撃破されれば、グランドロン達はケルベロスの説得をきっと受け入れてくれるでしょう」
 こうしてムッカの口から、グランドロン救出戦の具体的な内容が語られ始めた。

「皆さんはヘリオン降下後、隠密行動で長城へ接近し、内部へと侵入して貰います」
 言うまでもない事だが、城にはレリの指揮する幹部や兵士が防衛にあたっている。城へと向かう最中に隠密が露見しないよう、慎重に行動しなければならない。
「なお今回の作戦では、グランドロンのコギトエルゴスムを所持して行って下さい。彼らの力を借りれば、人が通れるくらいの抜け穴を、城に開けられる事が分かっています」
 ひとたび抜け穴に入れれば、余計な敵に遭遇する心配はない。グランドロンの力で穴の中を進みながら、予知によって居所が判明しているレリや幹部らを奇襲するのみだ。
 なお今回の作戦では、ケルベロス側の戦力は総勢15チーム。
 対する大阪城側の有力敵は総勢10名となっている。
「敵の顔触れは、まずは城主である王女レリ。そして親衛隊を務める絶影のラリグラスと、白百合騎士団の幹部である閃断のカメリアと墜星のリンネア。それに加え、螺旋忍軍である紫の四片がいます」
 親衛隊のラリグラス撃破に失敗した場合、彼女は配下と共にレリ救援へ向かう。そうなればレリの撃破は困難となるだろう。
 幹部二名や四片は、侵入したケルベロス排除のために妨害や援軍派遣を行って作戦行動を阻害してくる。ラリグラス同様、撃破に失敗すれば作戦継続は困難となってしまう。
「次に、副城主である三連斬のヘルヴォール、そして彼女が率いる連斬部隊のシャイターンが4名。それぞれヘルガ、フレード、オッドル、ヒルドルという名前の戦士達です」
 ヘルヴォールはグランドロンを制御するレリに代わり、実質的な城主の仕事を行っている。彼女を撃破できなければ、場内の混乱は素早く制圧され、ケルベロス達も排除されてしまうだろう。その場合、作戦は失敗となる。
 ヘルガ、フレード、オッドルの3名はヘルヴォールを助けるため、配下の兵を率いて応援に向かう。そうなればヘルヴォールの撃破は困難となるだろう。
 いっぽうヒルドルは襲撃のタイミングで大阪城へ向かおうとするため、撃破できなかった場合は大阪城からの援軍が来るまでの時間が短くなる。
「エインヘリアル達の戦力は膨大です。敵が態勢を整えてしまえば、作戦遂行は困難となるでしょう。状況によっては即時撤退を行う選択肢も視野に入れておいて下さい」
 ムッカはそう言って、作戦の説明を終えた。

 この作戦を成功に導くには、様々な状況を想定して行動を考えねばならない。
 隠密で大阪城に近づく方法、抜け道を使った潜入時の行動、襲撃する有力敵の選択や戦闘の方法、援軍などへの対処方法や、万が一失敗した場合の撤退手段……どれひとつ取っても疎かに出来ない事ばかりだ。
「ですが皆さんなら、必ず成し遂げてくれると信じています」
 そう言ってムッカは、ヘリオンの搭乗口を開放した。
 戦いが終わって帰還するのは、ちょうどクリスマスの時期になる。作戦を成功に導く事ができれば、グランドロン達を地球の仲間として迎える事が出来るかもしれない。
「第四王女レリ……彼女と重ねてきた因縁に、今こそ決着をつけに行きましょう」
 宿敵との雌雄を決するため。そしてグランドロンを解放するため。
 ケルベロスを乗せたヘリオンが、大阪城を目指して飛び立っていく。


参加者
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)

■リプレイ

●一
 廃墟と化した大阪市街の外れを、番犬達が駆ける。
 隠密気流をまとったカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は、翼飛行で隊列の殿を務めながら、彼方にそびえ立つ長城を視界に捉えた。
「あれが僕達の目指す城塞ですね」
「ええ。囚われた妖精達を開放し、必ず地球に迎えましょう」
 そう言って頷きを返すのは、レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)。
 敵との遭遇を避けるよう気配を殺して走る番犬達の行く手、大阪城をぐるりと囲むように鎮座する城塞は、妖精族グランドロンの変わり果てた姿だ。
「急ぎましょう。まずは城内のエインヘリアルを除かねば」
「第四王女レリと白百合騎士団、そして連斬部隊の精鋭達……だね」
 城塞が近づくにつれ、オウガの九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)は己の血が滾るのをはっきりと感じ取っていた。
「王女レリとその配下達……全力でぶつかり合えそうだね。すごく楽しみだ」
「うむ。吾等の勝利のために、最善を尽くすぞ!」
 幻の同族であるオニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)もまた、これから始まる戦を心待ちにしているようだ。
 この戦いは負けられない。妖精達と交わした誓いを果たすためにも。
「早く汝の仲間も自由にしてやらぬとな」
「ええ。待っていて下さい、必ずあなた達の同胞を救出します」
 オニキスと葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)はそう言って、そっと手を開く。
 掌で輝きを放つのはグランドロンのコギトエルゴスム。かつて宇宙の戦いで、番犬の呼びかけに応じてくれた妖精達の結晶だった。
(「もう間もなく着きます。気をつけて」)
 かごめは意思伝達の手段をハンドサインへと切り替え、仲間達と物陰に身を隠す。
 気がつけば長城は目前だ。城には警備兵と思しきエインヘリアルの姿も見えるが、その数はさほど多くない。
(「それでは、偵察に行って来ますね」)
 アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)は消音ブーツと迷彩マントで背景に紛れて一帯を探り、程なくして警備の手薄な場所を探り当てた。
(「あの一角が手薄のようです」)
(「なるほど……行けそうですね」)
 ステイン・カツオ(砕拳・e04948)は夜目を利かせ、周囲の物陰に敵がいない事を確認して頷いた。
 番犬達は未だ敵と接触していない。敵側にも自分達の存在は知られていないだろう。
 最後の詰めを誤らぬよう慎重に周囲を伺い、8人は一斉に城壁へと張り付いた。
(「グランドロン。一緒に、仲間を助けに行こうなー!」)
 グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)が掌のコギトエルゴスムを翳すと、それまでただの壁だった城の一部が音もなく開いた。
 グラニテ達は気配を殺し、ひとりでに開く抜け穴を静かに進んでいく。耳を澄まし、神経を張り巡らせ、敵の足音を避けながら。
(「私達の潜入に、エインヘリアル達は勘づいていないようですね」)
(「ああ。妖精達が安全な道を開いてくれているのだろう」)
 オニキスとアリッサムがハンドサインを交わす背後では、開いた抜け道が再び元通りに塞がっていった。侵入が露見しないための手段も考えていたアリッサムだが、幸いにも彼女の心配は杞憂に終わったようだ。
(「ありがとう。後は私達に任せて下さい」)
 妖精達の意思を無駄にしないためにも、この戦いは負けられない。
 そうして進む事しばし、予知の場所に到着したレベッカが停止の合図を送った。
(「気をつけて。……いました」)
 厚い壁に取りついた覗き窓の先に見える広間、8名の瞳はそこに標的の姿を捉える。
 純白の鎧を纏った女エインヘリアルだった。護衛の騎士3名を従えている事から見て、敵の指揮官に間違いないだろう。
(「あれが『墜星のリンネア』ですね。皆さん、準備はいいですか?」)
 アリッサムの言葉に仲間達は頷くと、掌のコギトエルゴスムを一斉にかざす。
 そうして壁が消滅すると同時、
「墜星のリンネア。その命、貰い受けます」
 カルナの合図と共に、番犬達は一直線に敵に向かって走り出すのだった。

●二
 襲撃を察知した騎士達は、即座に迎撃体制へと入った。
『何奴!』『リンネア様、敵襲です!』
「リンネア、いざ勝負!」
 竜鎚を砲撃形態に変形させるオニキスめがけ、前衛の騎士2体はバトルオーラを展開し、魔法の弾丸を発射してきた。
 射線に割り込み、かごめとレベッカが弾を浴びる。いずれも傷は深くない。前衛の2体はディフェンダーだろう。
(「問題は、リンネアと並んだ後衛の敵……ですね」)
 レベッカが視線を向けた先、星辰を宿す長剣を構えた騎士が守護星座を描き始めた。
 リンネアはその横で己への怒りを滲ませながら、ライフルの銃口を番犬へと向ける。
『番犬の奇襲を許すとは……不覚です』
 奇襲を許したにもかかわらず、リンネアに動揺の色はない。
 空気すら凍りつかせそうな魔力弾で幻らのいる前衛を包み、冷ややかに彼女は告げる。
『王女レリ様に害為す者達、生かしては返しません』
「こっちのセリフだ。慈悲はねえ、ぶちのめす!」
 氷結弾から幻を庇ったステインが、霜に覆われた体で吼える。
 リンネアの狙いは恐ろしく正確だ。スナイパーである事は間違いない。番犬達は敵の陣形を把握すると、オニキスにリンネアの牽制を任せ、後衛の騎士を狙い定める。
「増援が来る前に、黙って倒れてもらえませんか? ……まぁ、無理ですよね」
「さあ、全力をぶつけ合おう!」
 精密な狙いでカルナが放つ凍結光線。最前列から幻が発射する虚無球体。
 コンビネーションを発動した二人の一撃が後衛の騎士に食らいつく。
 飛び交う斬撃と砲撃のなか、負傷した騎士は守護星座で自身とリンネアを包み、状態異常の回復と共に、受けた傷を瞬く間に塞いでいく。
 後衛の騎士はメディックで間違いない。グラニテはルーンアックスに秘めた破壊のルーンをオニキスへと宿し、破呪の力を付与した。
「オニキスー、頼んだー!」
「引き受けた! さあリンネア、参るぞ!」
 竜鎚から発射された砲弾がリンネアを捉え、その足を封じると共に保護を打ち砕いた。
「行きましょう。回復役を最優先で撃破します」
 かごめは敵メディックを狙い定め、ガネーシャパズルから竜の雷を解き放つ。
 麻痺の雷撃に悲鳴を上げる騎士。いっぽうステインはリンネアへ狙いを切り替えると、ノーモーションで『怪光線』の光矢を射かける事で狙いを自分へと誘導していく。
「こっちですよ!」
『……見え透いた挑発を』
 怒涛の如く放たれる攻撃。盾役の騎士達はそれを懸命に防ごうとするが、番犬達は回復に特化した後衛の騎士へ徹底した集中砲火を浴びせ、体力を削り取っていく。
(「ですが、敵は白百合騎士団の幹部。こちらの回復も疎かには出来ません」)
 アリッサムは降り注ぐ木漏れ日を浴びながら、巫女の舞いを踊り始めた。今この瞬間、城の中で戦う仲間達のためにも、立ち止まる事は許されない。
「”いつでも咲顔を忘れない”黄色は、”先見の明”がある証――」
 巫女の声が流れると、スチームバリアの金属片を纏うレベッカの足元にツワブキの花々が咲き乱れた。
「大丈夫、私達はこの程度の” 困難に負けない” 筈です」
 前衛に立つ番犬達の足元に花開く奥ゆかしい黄色は困難に耐える力をもたらし、リンネアが浴びせた氷を優しく溶かしていく。
「皆さん、必ず勝利を掴みましょう」
 アリッサムの『花獄の舞~石蕗~』に背を押され、奮い立つケルベロス。
 それを撃破せんと応戦する白百合騎士団。
 両者は一歩も譲らぬまま、戦いの火花を散らし続ける。

●三
 戦闘開始から十分が過ぎる頃。
 互いに傷を増やしながら刃を交えること暫し、ついにその時は訪れた。
「幻ー、一緒に攻撃だー!」
「分かった、任せて!」
 グラニテが掌から放つ氷柱が後衛の騎士を射抜いた。
 ジャマーの力を帯びたアイススパイクに鎧を剥ぎ取られる騎士。間髪入れず幻が発射したホーミングアローが騎士の防御を突き破り、その心臓を射抜く。
『リンネア様……申し訳……』
 血を吐いて斃れる騎士を、リンネアは一瞥もしない。
 侵入者を排し、レリを守るため。彼女はどこまでも冷徹に戦い続ける。
『団の指揮官として、命にかえてもこの城は守ります』
 銃口が捉えたのは、アリッサム。
 それに気づいたレベッカは、騎士達の音速拳に保護を壊されるのも構わず、アリッサムの前へと跳んだ。
「ぐっ……!」
 追尾性能を持つ弾に胸を穿たれ、その場に膝をつくレベッカ。スチームバリアで傷を塞ぐ彼女へ追撃を試みるリンネアめがけ、オニキスがグラビティ中和光線を放つ。
「吾らがいる限り、一人として死なせはせぬ!」
 光線を命中させ、リンネアの威力を減じたオニキスに、ステインとカルナが続く。
「逃がさねえよ、観念しな!」
「さあリンネア。生命の遣り取りの一瞬を楽しみましょう」
 ステインのドスを効かせた声と共に、御業から放たれる炎。それを庇って負傷する騎士を越えて、カルナの竜砲弾がリンネアを縫い留めた。
「回復を急ぎましょう、アリッサムさん」
「ええ了解です、かごめさん」
 火力担当が攻勢に転じる傍ら、支援担当は負傷した仲間の回復を急ぐ。
 かごめはパズルの光る蝶で、アリッサムはマインドリングの光る盾で、特に負傷が激しいレベッカとステインの傷を塞いでいく。
『レリ様、どうかご無事で……』
 次第に傷を増やしながら放つリンネアの冷凍弾は、精緻な狙いと氷によって番犬達への傷を積み重ねていく。
 続けて騎士が放つバトルオーラの弾丸がグラニテに傷を刻み、番犬側の負傷がじわじわと重なり始めたその時――。
 突如として、戦場を異変が包み込んだ。
(「城が……揺れている?」)
 最初に気づいたのは、リンネアに凍結光線を発射したカルナだ。
「これは一体、」
 一体何がと言いかけた矢先、広間の床が、天井が、コギトエルゴスムへと変じ始める。
「ねえ。これって、まさか?」
「ええ。グランドロンが解放されたという事は、つまり……」
 リンネアへ虚無球体を放つ幻も、戦言葉で傷を塞ぐステインも、城塞を覆う異変の理由をすぐに察する。
 支配を解かれたグランドロンの城塞が崩壊を始めていること。
 すなわち、王女レリが討たれたことを。
 それは同時に、レリの配下であるリンネア達の終わりを告げるものでもあった。
 しかし――。
『私の命はレリ様と共にあるもの。その道を最期まで共にするのみ』
 リンネアの目は、まだ死んでいない。
 オニキスの轟竜砲にも、かごめの氷結輪による斬撃にも、悲鳴を上げることはない。
『レリ様は笑って逝かれたはず。ならば私が涙を流して死ぬ訳にはいきません』
 純白の鎧を血で汚しながら、リンネアはなおも銃口を番犬に向ける。
 配下の騎士達もここを死に場所と定めたのだろう。バトルオーラを練り上げ、最後の突撃を試みるようだった。
 彼女達にも譲れぬものがあるのだ。番犬達にも譲れぬものがあるように。
「……グラニテさん」
「ん。そうだ、なー」
 アリッサムの光盾を浴びたグラニテの視線が、リンネアのそれと一瞬重なる。
(「きみたちの選択、わたしたちの選択。きっとどっちも間違いじゃないから……」)
 大切な藤納戸色のリボンにそっと触れ、グラニテは紺碧の絵具で一本の矢を描く。
 『紺碧の閃』。かつてひとりで眺めていた空の色を帯びた矢を。
「お互いの、大事なもののために――わたし、負けないぞー!」
 そうして放たれた一射は、射抜いたリンネアの肩を氷で包み込んだ。
 それと同時、広間の全員が一斉に牙を剥いて激突する。
「一斉発射!」
 かごめの全身から放たれたジグザグミサイルが、群れを成してリンネアへと迫る。
 盾となって砕け散る騎士の横をレベッカとステインが駆け抜け、魔法光線と御業が放つ炎をリンネアめがけ浴びせかける。
「さあ、捉えましたよ」
「焦がしてやる、観念しな!」
 返す刃でリンネアが放つのは、追尾性能を持つ銃弾だ。
 先んじてアリッサムが発動した光盾が幻の身体を包み、銃弾の威力をそぎ落とす。
「リンネア、覚悟ぉぉぉぉっ!!」
 オニキスはエアシューズの車輪に火花を散らせ、突撃。
 炎と氷に覆われ、満身創痍のリンネアめがけ放たれるグラインドファイアを、グラニテに音速拳を叩き込んだ騎士が庇って砕け散る。
『レリ様……どうか私に、御力を……!』
 なおも斃れず銃を構えるリンネア。
 グラニテは傷ついた体を叱咤して、幻の体に最高のグラフィティを施した。
「幻ー! あとは――」
 あとは頼む。自分達が繋いだ最後の一撃を、どうか。
 頷きを返した幻は、グラニテと仲間達の想いを背負い、掌底の構えを取る。
「さあ、行くよ!」
「ええ、幻さん!」
 カルナの固定砲台が火を噴き、大気を震わせた。
 続く幻が右腕に紅い稲妻を纏わせ、跳躍。
 主砲発射を浴びて吹き飛ぶリンネアの懐へと飛び込むと、血と煤で汚れた白百合の鎧に、幻は掌底に乗せた稲妻を流す。
「何処に避けても無駄な事だよ」
 紅い稲妻はリンネアの体で暴れ狂い、その心臓にグラビティを叩き込んだ。
 その一撃が、とどめ。
『レリ様……今、御傍に……』
 全ての力を失い崩れ落ちる間際、墜星のリンネアは安らかな微笑みを浮かべながら、光となって消滅した。

●四
 王女レリを失い、城は崩れ落ちようとしていた。
 いよいよ激しく揺れる城塞を、番犬達は急ぎ離脱していく。
「皆、急ごう! グランドロンも忘れずに!」
 ケルベロスコートのポケットを広げて呼びかける幻。そんな彼女の周りには、いまや大量のコギトエルゴスムが次々に集まって来ていた。
「これは凄いですね。まるで磁石に引き寄せられるみたいに……」
「グランドロンー! これからは、みんなみんな一緒だからなー!」
 ありったけの宝玉を抱え、カルナとグラニテが走る。
 遅れて駆け付けた騎士達は何とかしてカルナ達を追おうとするが、それを妨害するように崩落する穴に転げ落ち、次々に姿を消していった。
「バーカバーカ、こっちですよ!」
「さあグランドロン、どうぞこちらへ」
 敵に舌を出して挑発するステイン。翼飛行で妖精達を回収しながら離脱するレベッカ。
 一方、オニキスとかごめは負傷の痛みも忘れ、ほっと微笑みを浮かべた。
「最後まで汝等には世話になるな。感謝する」
「さあグランドロン。仲間の元へ帰りましょう」
 デウスエクスに利用されるのは、もうお終い。
 これからは皆で一緒に、地球の仲間として生きていこう。
「賑やかな聖夜になりそうですね」
 宝玉を包んだマントを手に駆けながら、アリッサムは最後にリンネアに祈りを捧げる。
 自身の主君に忠誠を尽くし、己の信念に殉じて散ったエインヘリアルの魂に――。
(「どうかレリさんや仲間の皆さんと、同じ場所へ逝けますように」)
 妖精族グランドロンを巡る大阪の戦いは、こうして幕を下ろすのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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