コンビニのケーキ絶対にゆるさない!

作者:神無月シュン

 ――12月。街の到る所でクリスマスの装いが目立つようになってきた。
 そんな中、とあるコンビニの前で腹立たし気に叫ぶ、羽毛の生えた異形――ビルシャナの姿があった。
「だああああ! クリスマスケーキ予約受付中だあ? 世のケーキ屋を侮辱するような行い、俺は絶対に許さない!!」
 ビルシャナの言葉に歓声が上がる。
「さあ、お前たち。手始めにこのコンビニを滅茶苦茶にしてやろうじゃないか」
 賛同する配下たちを引き連れ、ビルシャナはコンビニの中へと入っていった。


「許せないのです!」
 会議室へと入ってくるなり、叫ぶ笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)の姿に、ケルベロスたちは何事かと目を向ける。
 どうやら、個人的な主義主張により、ビルシャナ化してしまった人間が、対象のコンビニを襲撃する事件が起こるらしい。
「甘いものには何も罪はないのです。ケーキ屋さんのケーキもコンビニのケーキもどっちも大切なのです!」
 ねむが怒っているのはそれが原因のようだ。最近はコンビニのケーキもどうだとか語り始めたが、その話は後で聞くからとケルベロスたちは事件についての説明を求めた。
「こほん。ビルシャナの主張に賛同している一般人が配下になっているのです」
 ビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を無力化する事ができるかもしれない。無力化できなかった場合、ビルシャナの配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナと共にこちらへと向かってくる。
 ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能だが、配下が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるだろう。

「配下になった一般人は、6人です。『コンビニケーキはまずい』『コンビニのせいでケーキ屋が潰れる』『一人でケーキを食べて何が楽しい?』いろんな主張があるけど……とんだ言いがかりなのです!」
 ビルシャナの戦闘力は気にするほど高くもない。問題は配下になった一般人がビルシャナを守るように行動をすることだ。
 正論で説き伏せるよりかは、彼らの主張がばかばかしく思えるような、突拍子もない内容の方が効果が高いだろう。
 配下を上手く正気に戻すことが出来れば、戦闘も楽になる。

「なるべく一般人の方を傷つけることなく、事件を解決してほしいのです」


参加者
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
フレデリ・アルフォンス(ウィッチ甲冑ドクター騎士・e69627)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ


 事件が発生するという、コンビニへと向かってケルベロスたちは揃って歩いていく。
「コンビニのケーキが嫌いなビルシャナ、ですか。私は、気軽にケーキが買えるのでコンビニのケーキは好きですけどね」
「手軽なコンビニケーキは本当にありがたい存在」
 コンビニのケーキについて横に並んで話しているのは、彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)とオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)の2人。
「コンビニのケーキも、ケーキである事には変わりはないので、コンビニケーキの良さを思いっきり皆に見せてあげましょう」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)の提げた袋には、先程道中のコンビニで買ったケーキが入っている。
「コンビニケーキは素晴らしいものだというのに、良さが分からないとは……」
 残念そうにため息をつくフレデリ・アルフォンス(ウィッチ甲冑ドクター騎士・e69627)。彼の両手には視界を遮る程に高く積みあがった、たくさんのホールケーキの入った箱。よく見るとどれも有名なケーキ屋の名前が書かれている。
「そんなにたくさんのケーキ、いったいどうするのですか?」
「ケーキは食べる為にある。まあ、少し豪快に行くつもりだ」
 バジルの疑問にインパクトは任せろと、フレデリは笑った。

 話をしながら歩くうちに、問題のコンビニはもう目の前。
 遠目にもわかる鳥の様な羽根に覆われている人影。ビルシャナだ。その周りには配下になったと思われる人影が6つ。
「まだコンビニは襲撃されていないようですわね」
「あの人たちが、ケーキを……」
「素直に説得に応じて貰えたらいいのですけど」
「やるだけやってみればいい。なんとかなるさ」
 配下になった一般人を正気に戻す。そしてビルシャナを倒すため、ケルベロスたちはコンビニへと歩みを進めた。


「ケーキ屋のケーキを分けあう相手がいない者、それは俺のような非リア充だ。そんなお一人様にとってコンビニケーキは量もお値段も優しく、人目を気にせずデリシャスな甘味を味わえる。ついでに食べ残しも出ないからエコい、そんな存在なんだ。それを否定するお前らは即ちリア充=悪だな!?」
 配下たちの前で抱えていた大量のケーキの箱をそっと地面へと下ろすと、フレデリは配下たちに話しかける。
「いきなりやって来て、なに意味不明な事を……」
「ケーキ屋のケーキがいいと言って何が悪い」
 突如の乱入者に警戒しながらも、反論してくる配下たち。
「よろしい、ならば……ケーキ屋がお前らリア充の為に精魂込めたこのケーキをしっと戦士の俺が蹂躙してくれるわ!!!」
 積みあがったケーキの箱一つを手に取り、開けるとフレデリはホールケーキを一気に食べ始めた。
「えええええええ!?」

「ケーキと言えば、やはりケーキ屋を連想するでしょうけど、コンビニのケーキも素敵ですよ」
 フレデリがケーキを食べている中、バジルはコンビニケーキの良さについて語り始める。
「コンビニのケーキなら、大きいケーキを格安の値段で食べられますし……それとも、ケーキ屋さんのケーキを買えない様な貧乏な家庭では、ケーキなしでクリスマスを過ごさないといけないのですかー!?」
「確かに普通のコンビニケーキは安いのかもしれない。だが、クリスマスケーキに限ってはケーキ屋のケーキと値段はほとんど変わらないじゃないか」
「それは……」
 最近は有名なチョコレートのお店とのコラボケーキなど、値の張る商品を出すところも少なくはない。
「確かに高いケーキもあります。ですがそもそも、コンビニのケーキが全く無かったら、ケーキの需要はそのままケーキ屋さんにぶつかるのですよ?」
 思わぬ反論に困るバジルを助けるように紫が口を挟む。
「コンビニのケーキ無しだと、クリスマスにはケーキ屋が忙しくなりすぎて、供給が追い付かなくなりますわ。コンビニの効率化されたケーキ作りも、今の日本には欠かせない物ですわ」
「それは……確かに」
 そのおかげで沢山あるケーキの中から、予算や味の好みに合ったものを選べるというのも一つの楽しみだ。
 話を聞いて納得したのか、配下の1人がこの場から去っていった。

「ケーキ屋のケーキ、もちろんそれは、素敵。でも、コンビニのケーキにも、良さがある。それをきちんと説明する、つもりだったけれど……」
 半人半馬のセントールであるオルティア。蹄を鳴らしながら配下の1人に近寄っていく。
「まずい、とそう言った人、ちょっと話そう。怒らないから、私は怒ってないから、話そう」
 上から見下ろす視線に、静かな怒りが見て取れる。オルティアの言葉通り怒っていなかったとしても、威圧感は相当なものである。
「値段的にも場所的にも、手軽に買えて、気兼ねなく、日々のちょっとしたご褒美として、癒してくれる。そんなありがたいケーキに対して、まずい? 大丈夫、まだ怒ってない、逃げないで」
 地球の甘味の美味しさにはまっているオルティアとしては納得がいかないと、言葉を紡ぎながら詰め寄る。恐怖を感じたのか配下は後退っていく。
「逃げるな」
 冷たい一言に、配下の動きが止まる。
「コンビニケーキの値段なら、いろんな種類を一度に買ったり、そんな豪遊だって、比較的簡単にできてしまう。各種が自分の前にずらり並んだ、その幸せな光景、私は今も目に浮かぶよう。あなたも、想像してみるといい」
「そんなこと言われても……」
「しろ」
「ひぃぃぃぃっ!?」
「そうするとほら、心が躍る、でしょう?」
 いきなり言われて想像できるはずもなく……。
「頷け」
「うあああああああああああああ! もう嫌だあああ!!」
「あれ……?」
 やり過ぎたかなと感じながら、オルティアは耐えきれなくなって逃げ去っていく配下の背中を見送った。

「さぁ、コンビニのケーキも食べてみないと、その良さも分りませんよ?」
 袋の中から用意してあったコンビニケーキを取り出し、配下たちに勧めるバジル。
「お前らがコンビニへの狼藉をやめない限りオレも蹂躙を続けるぞ」
 その横ではもう何個目になるか分からない、ホールケーキの一気食いを続けているフレデリの姿。
「沢山買ってきたので遠慮せずにどうぞ?」
 手を付けようとしない配下たちにバジルは尚もケーキを勧める。
「あいつ、一体何個食べるんだ……」
「見ているだけで胸やけが……」
「気持ち悪くなってきた……」
「うっぷ……。もうケーキの事なんてどうでもいい!」
 余りの光景に衝撃を受けた配下たち4人は、フラフラしながらこの場を後にした。

「お前たち。コンビニを滅茶苦茶にしに行くとしようじゃないか」
 ………………。
 …………。
 ……。
「どうした? 配下のものたちはどこへ行ったのだ!?」
 返事がない事に気が付いたビルシャナが振り向くと、そこに居るはずの配下たちは全員居なくなっていて、代わりにケルベロスたちが立っていた。
「配下の人たちなら皆帰りましたよ」
「気が付かないなんて、まぬけ」
「後はあなただけですわ」
「腹ごなしの運動と行こうか」
 武器を構えたケルベロス4人。
「おのれ、たとえ同志が居なくとも、私一人で決行するまで! 邪魔をするなあああ!」
 こちらへと向かってくるビルシャナを迎え撃つため、ケルベロスたちは行動を開始した。


 コンビニ前で繰り広げられる戦い。力の差があるのは誰の目にも明らかだった。だがビルシャナはボロボロになりながらも、自らの目的を全うしようと喰らいつく。
「この一撃を、耐えられますか!?」
 星型のオーラを容赦なくビルシャナへと叩き込む紫。
 続いてフレデリがライトニングロッド『風雷剣サンティアーグ』を巧みに操り、ビルシャナ目掛けて雷を放つ。
 オルティアは駆け出すと、蹄を鳴らしビルシャナの元へ。目の前で体を反転させると、後ろ足の蹴りがビルシャナの胸へ突き刺さる。
「このおおおおお」
 ビルシャナの放った氷の輪が紫とフレデリに襲い掛かる。僅かなダメージと共に触れた箇所が凍り付いていく。
 しかし、バジルの降らせた薬液の雨によって、ビルシャナの与えたダメージは瞬く間に回復していく。
「これで回復完了です。僕が居る限り誰一人としてやらせはしませんよ?」
「くっ!? 手も足も出ないというのかっ! これでは私の主張がなかった事にされて……しまう……」
 ビルシャナが悔しそうに地面を叩く。その様子を見ていた紫が一歩前へと出る。
「あなたのその『コンビニケーキがゆるせない』という主張を否定するつもりはありません。ですが、その主張を通すためコンビニを襲撃する。そのやり方が間違っています!」
「そ、そんな……」
 ビルシャナがガクリと膝をつく。心が折れたのだと誰もが思った瞬間、ビルシャナはゆらりと再び立ち上がった。
「たとえ間違っていると言われようとも、今更引く事は出来ない!」
 せめて目的だけは達成させようと、ビルシャナがコンビニへ向かって走り出す。
 ケルベロスたちはビルシャナを止める為、一斉に詠唱を始めた。
「全てのものに恵みあれ、自然の怒りは抑える事が出来ませんわよ!」
「サンティアーグの騎士たちよ、オレに続け!」
「青き薔薇よ、茨の蔦で敵を蝕み、その身を滅ぼしなさい」
「機に立つ術にて吹き荒び。気を断つ術にて凪を呼ぶ。一過で残るは如何程か、見える程にも遺るか否か。――言って解らないなら、退け!」
 足元の雑草が急成長してビルシャナの足を貫くと、召還された騎士の魂たちがビルシャナを斬り刻む。薔薇の蔦が体内へと潜入し、内側から破壊していく。そして巻き起こる風と共に繰り出された連撃によってビルシャナは力尽きたのだった。


「ふう、ケーキが余っていたら是非とも頂いて帰りたい所ですけど」
 武器をしまいつつ呟く紫に、フレデリが残っていたケーキの箱を差し出した。
「たくさん残っているみたいですし、皆で分けて食べましょうか」
 途中で買ったコンビニケーキも残ってますし。とバジル。
「俺は遠慮するぜ」
 ケーキの食べ過ぎと直後の激しい動きに、フレデリは顔を真っ青にして気持ち悪そうにしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですか、すぐに治してあげますね!」
 バジルが慌ててフレデリを治療する。
「これくらいなら、みんなで、食べられそう」
 たくさんのケーキを目にして、食べ比べが出来ると嬉しそうにするオルティア。
「そうですわね。でしたら、本部に戻ってお茶会でもいかがですか?」
「いいですね」
「たのしみ」
 ケルベロスたちは後始末を終えると、お茶会をする為に本部へと帰還するのだった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月18日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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