「城ヶ島の強行調査により、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明しました!」
笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、拳を固めて身を乗り出す。
「この固定化された魔空回廊に侵入して、内部を突破する事ができれば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定することができます。
『ゲート』の位置が判明すれば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーにより『ゲート』を破壊することも可能です。そうすれば、ドラゴン勢力は新たな地球侵攻ができなくなるのです」
つまり! とねむが拳を突き上げる。
「城ヶ島の制圧と、固定された魔空回廊の確保。この二つが達成できれば、ドラゴン勢力の急所を押さえる事ができるのです! とってもとっても、重要です!」
ねむは拳を下ろし、真剣な眼差しをケルベロス達に向ける。
「ドラゴン達は、固定された魔空回廊の破壊は最後の手段と考えているようです。電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取することは決して不可能ではありません。
ドラゴン勢力のこれ以上の侵略を阻止するためにも、みんなの力を貸してください!」
ねむが、城ヶ島の地図を大きく広げて見せる。
「今回の作戦は、他チームの築いてくれた橋頭堡から進軍を開始します。ドラゴンの巣窟である――」
手にした指示棒が一点を示す。
「城ヶ島公園が目的地です。進軍の経路などは全て、ヘリオライダーの予知によって割り出しているので、その通りに移動してもらえれば問題ありません」
城ヶ島公園までの進軍経路などについて考える必要はない。ケルベロス達は、ドラゴンとの戦いに集中することができるだろう。
「固定化された魔空回廊を奪取するためには、ドラゴンの戦力を大きく削ぐ必要があります。
ドラゴンはすごく強い相手です。だからこそ、ここで倒すことが重要なのです。……絶対、勝ちましょう。おー!」
一瞬過ぎった弱気を振り払うかのように、ねむはいつも以上に元気に指示棒を掲げた。
地図の次にねむが皆に見せたのはドラゴンの絵だ。たぶんねむが描いたのだろう。黒い身体に、緑のまだら模様のドラゴン。体中に傷が入っている。
「みんなが戦うことになるのは、このまだら模様のドラゴンです。
生物兵器の研究所を喰らい、毒のブレスを吐く能力を得たようです。他にも、爪や尻尾を使った肉弾戦も得意としています。
みんなが戦う相手はこの一体だけですが、どの攻撃もかなり強力です。気を付けてください」
ドラゴンに関するねむの説明はある意味シンプルだ。つまり、純粋に能力が高い相手ということになる。
禍々しい模様のその身に刻まれた無数の傷。それは幾多の戦場を屠り、勝利してきた証とも言えた。
「性質は冷酷で残忍です。相手は少しの容赦もなくかかってくるでしょうから、もちろん、こちらからの遠慮や容赦も無用です」
ぎゅっと祈るように目を閉じてから、ぱちっと目を開く。
「ドラゴンを倒せなかった場合、魔空回廊の奪取を諦めることも視野に入ってきます。
作戦の成功はみんなの力にかかっています。がんばって……そして、無事に帰ってきてください!」
参加者 | |
---|---|
クロユリ・マヨ(黒百合・e00088) |
フランツ・サッハートルテ(剛拳のショコラーデ・e00975) |
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584) |
セルディナ・ネイリヴォーム(紫閃黒翼の戦乙女・e01692) |
星迎・紗生子(元気一番星・e02833) |
ドロッセリア・スノウドロップ(レゾナンスウォリアー・e04730) |
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540) |
鳳・都(瑠璃の鳥・e17471) |
●
目の前に広がるのは広大な緑の草原。背の低い木々が、草原を囲むようにそこかしこに生えている。
草原の彼方には、無限に続くかにも見える青い海。
風光明媚な城ヶ島公園。本当なら、人々が平和な時間を過ごせるはずの場所だ。
その草原の中心で、ケルベロス達はまだら模様の毒竜と対峙していた。
ケルベロス達の身の丈を遥かに超えた巨躯。その瞳に宿る、無慈悲で凶悪な死の気配。ヘリオライダーが説明した通りの竜の姿が目の前にある。伝説を目撃した気分とは、こういうものなのかもしれない。
「ドラゴン退治は英雄の条件……みたいな感じデスヨネ、伝承記を読むト。とどのつまり、ワタシ達の記録の1ページとなるがイイデス」
あまりに強大な敵。しかし、ここまでやって来たケルベロス達が怖気づくはずもない。ドロッセリア・スノウドロップ(レゾナンスウォリアー・e04730)の言葉は、伝説となるのはドラゴンの方ではない、という宣言だった。
「魔空回廊に向かうみんなのためにも、負けられないのよ!」
星迎・紗生子(元気一番星・e02833)が、裂帛の気合と共に癒しの空気を纏う。
誰より幼い身でありながらも、仲間を守ろうとする意思は本物だ。盾としての役割を果たすため、紗生子はまず自らの守りをより強固なものにする。
それとほぼ同時に、毒竜が軽く首を屈めて大砲のように口を大きく広げた。
ケルベロス達への挨拶めいて放たれるドラゴンブレス。
一見して真っ白な光線のように見えたそれは――一瞬で緑や紫の、禍々しい色で彩られたまだら模様となって、後衛の者達を真っ先に狙い撃つ。
「サッハートルテさん、下がって」
挨拶と言うにはあまりに強烈な一撃に間に合ったのはセルディナ・ネイリヴォーム(紫閃黒翼の戦乙女・e01692)だった。フランツ・サッハートルテ(剛拳のショコラーデ・e00975)の前にその身を滑り込ませ、手にした日本刀を盾にブレスを受け止める。
毒々しいブレスが、刀の刃ごとセルディナを押しつぶそうとでもするように激突する。直撃すれば相応のダメージがあったであろう光線を目の当たりにして、フランツはセルディナの背後で微かに息をのんだ。
「守られただけの働きは返そう、セルディナ君。……ミルフィ君、リーナ君、動けるか?」
癒し手として守られた自分。しかしセルディナが守りきれなかった者達もいる。振り返ったフランツへ、傷つきながらも気丈にミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)が頷いて見せる。
「わたくしも大丈夫です。竜にも抗い、牙を剥く『兎』もいるという事ですわ……!」
毒に侵されながらもミルフィがヒールドローンを放ち、前衛に立つセルディナ、紗生子、ドロッセリアを守る一位置へと小さな無人機を配していく。ミルフィのドローンがセルディナの毒を的確に取り除いていった。
「この程度で弱音は吐かない……。ドラゴンの命……ここで刈り取るよ……確実に」
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)もまた、大きなダメージを今はまだ気にかけることなく果敢にドラゴンへと駆けて行き、言葉通りに容赦なき飛び蹴りを竜の腹へ叩き込む。
「ドラゴンか……ファンタジー世界の住人かと思っていたけどね」
リーナの飛び蹴りに続いて、鳳・都(瑠璃の鳥・e17471)の銃口が毒竜へと狙いを定める。
「まあ、僕もサキュバスだし偉そうなことは言えないか」
人ならざる者であるという点ではドラゴンも自分も大差ないのかもしれない。戦いとは全く関係のない思考によって、都の思考はより冷たく静かに研ぎ澄まされるような気がした。
放たれた黒色の魔力弾。しかしそれを、毒竜が巨躯に見合わぬ敏捷さで翼を翻し躱してしまう。
残念、と細く息を吹いて銃口を冷ます都の後ろから、雪豹の忍びがさながら弾丸の如く飛び出す。
「私達は、一人だけでは絶対にあなたに勝てません……。だから……っ」
クロユリ・マヨ(黒百合・e00088)が、都の後ろから掌をまっすぐに毒竜へと向ける。
「勝つために仲間を集めて、策を練りました。負けません……っ!」
毒竜に自己治癒能力がないところに目をつけて、様々な妨害を与え蓄積させていこうというケルベロス達の思惑。それは想定される長期戦とも相性の良い作戦だ。
クロユリの螺旋氷縛波は竜に命中し、その体躯の一部を冷たく凍てつかせた。
「あらゆるものは毒であり、毒無きものなど存在しない……か」
地面に、手際良く剣で守護星座を描くフランツ。その瞳はどこか冷淡にドラゴンを見据えている。
「ならば、いま前にしているのは、何の取り柄もないドラゴンと言える。――フランツ・サッハートルテ、ただのドラゴンにくれてやる首はない。地獄へ案内いたす!」
描いた守護陣に剣を突き立てたのを合図に、毒竜のブレスを受けた後列の足元から加護の光が溢れ出す。
その光景を一瞬だけ確かめてから、ドロッセリアは毒竜の腹へと軽やかに跳躍した。
「後ろを任せられて大変助かりますネ。さて、ワタシも責任重大デス」
防御と妨害に重きを置いたがゆえに、確実な火力源となれるのはドロッセリアのみ。自らの仕事を改めて噛み締めながらも、冷静に確実さを優先し、的確な蹴りを竜に叩き込んだ。
その攻撃と氷に切り裂かれるような痛みに、毒竜が苦悶の声をあげて仰け反る。
呻き声ひとつで大気は大きく震え、ケルベロス達の肌を裂くかのようだった。
リーナを魔法の葉で守りながら、セルディナは怯むことなく毒竜を睨む。
「ここで油断せずに狩り斬ってみせる。――深淵の先に誘いし者達を祓う紫淵の加護を……行くぞ!」
ドラゴンはすぐに体勢を直して、ケルベロス達へ殺意を込め咆哮する。まだ戦いは始まったばかりだと、誰もが感じていた。
●
ケルベロス達とドラゴンが攻防を重ねる。美しい草原にそぐわぬ、剣戟と暴力が交叉する。
自らが長期戦に向かないことをドラゴンも分かっているのだろう。故に短期決戦を狙い重い攻撃を繰り出すもの、ケルベロス達の堅牢な連携に阻まれ、決定的な一撃を与えることができない。
紗生子のファミリアシュートから身を捩って逃げながら、毒竜は忌々しげに吠えた。
毒竜は、まとめて薙ぎ払うより確実に一人ずつ消していく手段を取る。人の身の丈を明らかに超えた大きさの巨大な竜尾が大きく振り上げられ、ドロッセリアの頭上からまっすぐに叩き落とされようとしていた。
「スノウドロップさん!!」
避けようにも到底逃げきれる速さではない。ドロッセリアが目を見開いて、頭上に影を作る竜尾を見上げている。駆け出すセルディナの声が切迫した。直撃すれば、唯一の攻め手を失いかねない攻撃。自らも傷を負いながらもドロッセリアの元へ向かおうとしたセルディナを、制する声があがった。
「サキチャンに任せて!」
セルディナよりも傷の浅い紗生子が、腕を広げてドロッセリアと毒竜の間に立ちはだかる。
「だめっ!!」
鋭く張り上げられる幼い声ごと、力任せに打ち砕く竜尾。紗生子の小さな身体は、無慈悲に地へ打ち付けられ鞠のように跳ねた。
「紗生子様、大変な傷を……。今すぐわたくしが浄化致します。愛欲の霧よ、どうか癒しの力を……!」
ミルフィが素早く紗生子の傍らへ膝をつき、癒しの霧を纏わせる。
傷はいくばくか、しかし確かに癒される。きちんと仲間を守れたかと、倒れたまま紗生子は不安そうにケルベロス達を見上げた。まだ身体が動くのは、盾としての守りの硬さゆえだろう。
「怖がらないで、よくやってくれた……。あとは、わたし達に任せて……」
自分のなすべきことをなすために。魔宝刃ファフニールを握ったリーナは、その小さな体躯で軽やかにドラゴンの喉元まで肉薄する。
「……魔法がわたしのメインだと思った? わたし、ナイフの方が得意なんだよ……」
囁く声には隠し切れない殺意が滲む。リーナを睨むドラゴンの眼球と目が合い――同時に、竜の外皮に無数の斬撃が加えられる。その全ては、ドラゴンの命をここで絶つためだけに。
首の急所に無数の切り傷を与えられながらも、肉までは未だ届かず。しかし苦悶と怒りに吼える竜の身体を、半透明の何かが音もなく捉えた。
「やれやれ、そんなに早くけりをつけたいのならそうしてあげようか。――今日は、出し惜しみは無しさ」
都が無造作に、しかし的確に竜の頭上へとグレネードを連射する。人の作り上げた兵器。どこか見覚えのあるそれを睨んだドラゴンの真上に、瞬く間に劇薬の雨が降り注いだ。
「毒を以って毒を制す、となれば良いけどね。ああ、射撃範囲は絞ってるけど一応気を付けて」
「はい……っ。気を遣っていただいているので大丈夫です……っ!」
味方の攻撃の余地を残した射撃範囲を見定めながら、クロユリが駆ける。
素早くチェーンソー剣を構え、リーナが切り開き、都が深くした傷を押し広げんとクロユリは竜の傷口へと剣を突き立てた。
「他の仲間達の所には、行かせません。だから、ここで……っ!」
無理矢理広げられる傷に、ドラゴンの怒りと苦痛の咆哮が響く。
暴れる動きからクロユリが跳躍して後退した。
どこか必死ささえ感じるドラゴンの様子をフランツは見逃さない。
「今が契機だろう。畳み掛けてくれ、ドロッセリア君」
紗生子の手を握り気力を分け与えながらも、フランツはドラゴンへの注意も怠らない。
フランツと同じ判断だったのだろう。悶絶する竜へと、ドロッセリアも迷いなく必殺の蹴撃を繰り出しているところだった。
「お任せクダサイ。――サヨウナラ、ドラゴンさん。ワタシ達の物語として、どうか読み継がれてクダサイ」
別れの言葉と共に、傷の一際深い首へとめりこむエアシューズ。
――グオオオオオオオオオ!!!!!
ドラゴンは巨躯を仰け反らせながら、大きく広げた竜顎から地響きのような怒号をあげ、地面に崩れ落ち――。
そうになった動きが、ぴたりと止まった。
濁った竜の瞳が、ぎょろりとドロッセリアを捉える。大砲の銃口のような口の奥では、今まさに放たれようとしているブレスが光を溜め込んでいた。
誰もが凍りついた刹那。
「誰も落とさせるものか。それが、私自身の誓いだ」
伸びた鎖が、渾身の力で竜の横顔を殴り飛ばす。
放たれるブレスにセルディナが先んじ――最期の力を振り絞っていたまだらの竜は今度こそ、大地を轟かせながらその場に崩れ落ちた。
●
「生物兵器の研究所を喰らう……力を得る為に、そのような事まで……」
仲間達の傷を素早く癒しながら、ミルフィが竜のなきがらに思いを馳せる。
「彼らは……『強さ』に対して、恐ろしく貪欲ですわね……」
「敵は強大だったが、どうにか先へ繋げることができたな。――紗生子君、もう大丈夫かね?」
機を見てフランツが癒しの手を引くと、紗生子は両手を挙げてばんざいをした。
「うん、フランツさん、ありがとう! 良かったあ、みんなおっきなけがしなくて……。みんなで帰れて……」
紗生子が表情を綻ばせる。最も傷の深かった紗生子も重篤な傷とはならなかった。綿密な作戦と布陣によって引き寄せた勝利と言えるだろう。元気を取り戻した少女に、フランツも安堵して笑った。
「ここで決着をつけられなかったら、作戦に影響が出たし……もっと悲しいことが、起きたかもしれない。だから、良かった……」
強大な力を持ったドラゴン。その力は、いつ無力な人々に振り下ろされてもおかしくはない。戦いが終わりに、ひとときリーナは息を吐く。
「にいさん、今日も帰れるよ、わたし……」
「ああ、僕達は勝ったとはいえ、ここはまだ敵陣に違いない。休める場所に移動しようか。星迎さん、そこまで乗っていくかい」
都が撤退用に用意していた台車を広げると、紗生子が楽しげに寄っていく。
そんな様子を見て、クロユリが思わずといった風に微笑んだ。
「台車、出番がなくてよかったです……っ。この公園も、平和になったらもっと風景を楽しみたいな……」
「後は、魔空回廊を抑え、ゲートを破壊すれば……。首尾良く事が運べば宜しいですけれども」
ミルフィが祈るように目を閉じる。
戦いを終えたケルベロス達が、戦場を後にする。
「……調査は後の方に任せましょう、正直疲れました」
ドラゴンのなきがらと青い海を一度振り返って、ドロッセリアが普通の女の子の声でぼやいた。
作者:カワセミ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|