城ヶ島制圧戦~天雷の竜

作者:犬塚ひなこ

 先日行われた城ヶ島の強行調査。
 それにより、かの場所には『固定化された魔空回廊』が存在することが判明した。
 調査結果をケルベロス達に告げ、雨森・リルリカ(オラトリオのヘリオライダー・en0030)は説明を始める。
「固定化された魔空回廊に侵入して内部を突破できれば、ドラゴンさん達が使っている『ゲート』の位置がわかりますです」
 そして、ゲートの位置さえ判明すればケルベロス・ウォーにてゲートの破壊を試みることもできるだろう。それが成功すればドラゴン勢力は新たな地球侵攻を行えなくなる。
「つまりですね、城ヶ島を制圧して、固定された魔空回廊を確保する事ができれば敵の急所を押さえることができるのでございます!」
 リルリカはぐっと掌を握り、これはチャンスだと語った。
 強行調査の結果、ドラゴン達は固定された魔空回廊の破壊が最後の手段であると考えているようだ。電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取することも決して不可能ではない。
「ドラゴン勢力のこれ以上の侵略は阻止しなきゃいけないです。だから、皆様……力を貸してください」
 お願いします、と頭を下げたリルリカは真剣な思いをケルベロス達に向けた。
 
 今回の作戦は、調査を行った仲間が築いた橋頭堡から始まる。
 そこからドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍し、敵を制圧していくのだ。進軍の経路などは全てヘリオライダーの予知によって割り出しているので、その通りに移動して欲しいとリルリカは告げた。
 進軍の振り分け上、今回は一班につき一体のドラゴンと戦うこととなる。
「ドラゴンさんは強いです。けれど、リカは皆様なら勝てるって信じています!」
 そして、少女は対峙するべき敵の力を説明していった。
 進む先に待ち構えているのは、雷の属性を宿すドラゴンだ。
 数メートルほどの体躯には常に弾ける電気を纏っており、その身は雷鳴めいた薄金色に染まっている。便宜上、このドラゴンを『天雷の竜』と呼ぶと話したリルリカは、敵の性格も判明していると語った。
「天雷の竜は意地悪さんみたいなのです。まず空から攻撃を行って、雷の力で皆様を動けなくさせようとしますので気を付けてください」
 敵は知能もそれなりにあり、弱った者や体力の低い者を察知して重点的に狙ってくる。反面、人間に対して怒りを覚えやすいという性質もあるらしいので、気を引いて狙いを偏らせることも可能だろう。
 しかし、攻撃を集中させすぎてはいけない。上手く分散させなければ一気に戦線が瓦解して敗北する可能性が高くなってしまうからだ。
 誰がどのような狙いでどんな攻撃や行動を行うのかをしっかりと認識しあい、協力して戦いに挑むことが必須となる。リルリカはケルベロス達に決して油断してはいけないと注意を告げ、説明を締め括った。
「強行調査で得た情報を無駄にしちゃいけないです。今がきっと頑張り時です!」
 この戦いに敗北すれば、魔空回廊の奪取作戦を断念する展開もありえるので作戦の成功は皆の力にかかっている。
 雷鳴の力を操るドラゴンは強敵だが、困難を乗り越えた先にはきっと新たな道が繋がっているはず。その未来を切り拓く為にも――今こそ、ケルベロスの力を発揮する時だ。


参加者
支倉・瑠楓(虹色シンフォニカ・e00123)
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)
石蕗・陸(うなる鉄拳・e01672)
アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)
結城・渚(戦闘狂・e05818)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
サナリィ・ルーン(忠実な侍女・e07653)
鷹野・慶(魔技の描き手・e08354)

■リプレイ

●雷鳴と竜
 上陸、そして――進軍。
 ドラゴン達が集うという先を見据えた仲間達は予知されたルートを進む。行く先の遥か向こうに回廊があるのだと考え、嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)は指先でブリッジをあげ、眼鏡を軽く掛け直す。
「魔空回廊とはなぁ、わんさか湧いてるわけだ」
 ドラゴンを相手にするのは危険極まりないが、先発の仲間が掴んだ情報を無駄には出来ない。行くぞ、と陽治が呼び掛けると、結城・渚(戦闘狂・e05818)は口の端を緩めた。
「さあ、楽しい楽しいドラゴン退治ね」
「この後に頑張ってくれる皆のためにも負けられないよね。なにより、戦いに勝ってみんな無事で帰らなきゃね!」
 支倉・瑠楓(虹色シンフォニカ・e00123)も両手をぐっと握り、ボクスドラゴンのフェリアと共に気合いを入れる。
 そのとき――上空から大きな影が飛来し、ケルベロス達がはたとした。
 来たよ、と瑠楓が指差した先には雷を纏うドラゴンの姿が見える。あれが天雷の竜だと察した石蕗・陸(うなる鉄拳・e01672)は両袖を捲り上げ、ネクタイを緩めた。
「待っていたぜ。戦いの始まりだ」
 空手の構えを取った陸は上空で羽ばたくドラゴンを振り仰ぎ、鋭い視線を向ける。
 おそらく、すぐに戦闘が始まるだろう。
 そう感じた二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)とアベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)は頷きを交わしあい、ドラゴンの気を引こうと狙った。
「こっち、ですよー!」
「ドラゴンよ、地球の空はお前たちのものではない!」
 大きく手を振って自分をアピールした葵に続き、アベルが自らの翼を広げて存在を主張する。その目的は中衛についた自分達に攻撃を向けさせる為。
「グルルル――!」
 天雷はアベル達の動きに注視し、怒りに満ちた唸り声をあげる。
 周囲に響き渡るドラゴンの声を聞き、鷹野・慶(魔技の描き手・e08354)は眉をしかめた。彼は竜を嫌っている。何故なら、そのブレスの一息や尾の一撃で己の非力さを思い知る羽目になるからだ。
「だが、負ける気はねぇ。やるぞユキ」
 傍らのウイングキャットの名を呼んだ慶は身構え、仲間を守る布陣についた。
 刹那、葵達を狙った雷鳴の吐息が解き放たれる。空気を伝って痺れるような感覚が先んじて走り、その後すぐにアベルと葵の身体中に鋭い衝撃が駆け巡る。
「……っ!」
 仲間から声にならぬ声があがる中、サナリィ・ルーン(忠実な侍女・e07653)は頭上のドラゴンへと狙いを定めた。
「皆様、この戦い負ける訳にはいきません! 何としても勝利致しましょう!」
 アルティメットモードを発動させ、アームドフォートの主砲を上空に向けたサナリィは敵が空を飛んだままであることを憎々しく思う。だが、今はそれでも何とかして戦わなければならないと己を律する。
 次の瞬間、一斉に発射された光弾が宙を舞い、空に躍った。
 その間に陽治が魔術切開による癒しを葵に放ち、ユキが清浄の翼で渚を、瑠楓が浮遊する光の盾を具現化させてアベルを回復する。
 渚も中衛として挑発に加わり、不敵な笑みをドラゴンへと向けた。
「あなたは私を楽しませてくれるわよね!」
 戦いが激しければ激しいほど感情は燃えあがるもの。それは愉悦であったり、畏怖で会ったり、憎悪であったり、仲間達は各自に思いを抱いている。
 だが、ひとつの事柄において皆の心は同じ。
 それは――目の前の敵を倒すという、揺るぎなき信念そのもの。

●空に舞う竜
 ドラゴンが放つ威圧感は重く、緊張が走る。
 気を抜けないと感じた瑠楓は仲間の傷を少しでも多く癒しておこうと決めた。
「フェリア、お願い!」
 ボクスドラゴンに仲間の補助を行うように呼び掛けた瑠楓は、生きる事の罪を肯定する旋律を奏でてゆく。その音色が戦場に響き渡る中、慶もユキと共に攻勢に出た。
 竜語魔法を紡ぎ、上空の天雷へと放つのはドラゴンの幻影。
「目には目を、竜には竜をってな」
 的確に堅実に。数の利はあれど力押しでは適わないと思っているからこそ、慶は油断が命取りになることを知っている。ユキも尻尾の輪を飛ばしてドラゴンを狙い撃ち、尻尾を逆立てる勢いで警戒していた。
 陽治も瑠楓に一度回復を任せ、縛鎖の一閃を放つ。アベルは仲間に合わせて攻撃の機会を掴み取り、柄の両端に刃を付けた大鎌を振り回して投擲した。同じく、サナリィもバスタービームで敵を狙い撃つべく、空に銃口を向けた。
「遠くからちょこまかと……落ちなさい!」
 更にそこへヴォーテクスによるガトリング掃射が放たれ、二種類の銃弾が標的を穿つ。
「すまない、俺の分まで頼む」
 陸は仲間やライドキャリバーに願い、身構えたまま上空を見上げた。現時点の陸が放てる攻撃は近距離のものだけであり、空を飛ぶ相手には届かない。早く下りて来いと敵を睨み付ける陸は攻撃ができない分だけ仲間を守ろうと心に決め、自らを癒した。
 その間にも葵が少しでも自分に気を引こうとドラゴンを呼ぶ。
「天雷の竜さん、貴方の力はそんなものですか?」
 見の丈よりも大きな武器を振りあげる葵は鎖状のエネルギーに武器を連結させ、降魔を込めた。振り被り、刃を全力で投げた葵は決死の形相で一撃を放つ。
 渚も葵に倣い、挑発的に口許を歪ませた。
「もっともっと楽しみましょ、雷なんて小細工しないで全力で」
 笑顔の奥に戦いへの高揚をひそめた渚は禁縛の呪を放ってゆく。だが、それをひらりと避けたドラゴンは渚達を狙うブレスを再び放った。
 すかさず陸が葵を庇い、アベルはその一撃尾避けようと身構える。だが、強力な痺れの一撃がアベル達の身体を貫く。
「やはり強敵か……。だが――未だ耐えられる」
 少しは攻撃が見切れるかと考えていたが、敵の狙いはそれ以上に鋭かった。アベルは痺れに侵された身体を奮い立たせ、痛みを振り払う。敵を見据える紅の瞳は炎のように燃えあがり、彼の並々ならぬ闘志を示していた。
「待ってて、いますぐに全部癒してあげるから!」
 瑠楓は光の盾をアベルに宿し、仲間の防護を厚くしていく。
 陽治も痺れを受けていた陸と渚の回復を担うべく、薬液の雨を戦場に降らせた。仲間と連携して過不足がないように動く陽治の癒しは実に的確だ。
「しかし、流石は奴さんの重要拠点とだけあるなこりゃ。一筋縄じゃいかねえなっと」
 決して焦ることなく、陽治は敵の動きを見極めていく。
 強敵との戦いは厳しいものだが、此処を叩けば城ヶ島のドラゴン勢力は足掛かりを失うことになる。このチャンスを逃してはいけないと思うのは皆同じ。
「ユキ、来るぞ。倒れないように耐えろよ」
 慶はユキを伴い、中衛に向けられるブレスを肩代わりした。こちらの攻撃が外れることも、攻撃が見切れない可能性も十分に考慮している。それも相手が確実な格上だと自覚した上で戦っているからだ。
 葵や渚、アベルが気を引き続けることで攻撃は中衛に集中しており、その攻撃を陸や慶が庇うことでダメージはうまく分散されている。
「サナリィ、気合い入れろオラァ!!」
 自らをも奮い立たせた陸は癒しと援護に専念し、他の者がその分だけ攻撃を担う形で戦いは展開していった。
 そして、幾度かの攻防が巡ったとき――陸はドラゴンが近付いていることに気付く。
「ようやく降りて来る気になったか」
「降りて来ましたね、此処からが本番で御座います」
 サナリィも敵が地上戦に持ち込む心算だと察し、攻撃方法の変更するべく構えた。しかし、ここからは更に激しい一撃が襲ってくるだろう。
「やっと本番ね。ご自慢の力を見せて!」
 双眸を鋭く細めた渚は敵と相見えることを嬉しく思い、満面の笑みを浮かべた。
 仲間達は徐々に疲弊しはじめているが、敵を怖れる者は誰もいない。必ず勝って帰るという強い意思は未だ、それぞれの胸の奥に宿っていた。

●疾雷の翼
 空から地上へと降りた天雷の竜が激しい咆哮をあげ、こちらを睨み付ける。
 そこから放たれた尾の一閃は慶や陸達を狙い、風を切った。
「ぐ……っ! この一撃は重いな」
 陸が思わず痛みに声をあげたが、怯んでいる暇などない。やっと攻勢に出られるのだから、と踏み込んだ陸は降魔の力を宿した拳を突き放った。ヴォーテクスが前衛へと移動する中、攻撃を受け過ぎたフェリアが後方に下がる。
 瑠楓はボクスドラゴンの頭をぽむぽむと撫で、よく頑張ったねと褒めてやった。
「厳しいけど、僕達はまだ屈していないよ!」
 癒しの音色を奏でた瑠楓は、たとえ辛くとも自分が皆を励まそうと心掛ける。アベルもこれまでに失った体力を少しでも取り戻すべきだと感じ、地獄化した胸から炎弾を放った。
「今度こそ敗北してなるものか」
 敵に喰らいつくかのような焔が弾ける雷とぶつかりあい、大きな火花を散らす。アベルは決して私情は挟まぬと心に決め、目の前の戦いに集中していった。
「あぁ、もうウザったい」
 渚は自分の体力を取り戻すべく、忌々しげに叫ぶ。天雷の竜なんて大層な呼ばれ方をしているだけあり、敵は相当に強かった。
 巡る攻防は激しさを増し、陽治は魔医術を駆使して戦線を支えていく。
 葵も支援を受けながら敵の強さを改めて実感し、勝つための意思を強めていった。
「挑発はここまでにしますっ! 皆さん、お願いします!」
 電光石火の蹴りを放ち、前衛に呼び掛けた葵は掌を握り締める。
 一撃ずつが重く、いつ誰が倒れてもおかしくはない状況で戦線を崩されることだけは阻止しなければならない。
 そこへユキによる猫ひっかきが放たれ、慶のブラックスライムが開放された。
「デケェ図体のくせにねちっこく狙い付けやがって。手負いの相手じゃねえと怖いのか?」
 慶は槍型に変化させた黒液と共に、自分に気を引く為に挑発を投げかける。流石にその言葉に反応せざるを得なかったのか、ドラゴンは慶に向き直った。
 そして、天雷の竜はケルベロス達へとブレスを吐く。
 刹那、一撃を受けたユキがその場に崩れ落ちた。一瞬だけ慶が息を飲んだが、彼は動揺することなく、果敢に戦った相棒によくやってくれたと小さく告げる。
 サナリィは敵の殲滅を急がねばならないと感じ、自らの力を瞬間的に高めた。
「リミッター解除……さぁ踊りましょう」
 ドラゴンに高速で接近し、回転蹴りを行ったサナリィは流れるような仕草で蹴り上げからの銃撃を放つ。まるで踊っているかのような動きで敵を翻弄したサナリィは、容赦のない眼差しを向けた。
 陸もそこに続き、達人の蹴りで以て天雷の竜を穿つ。
 しかし、対抗するドラゴンが繰り出す攻撃も相当な衝撃を彼等に与えていた。陽治は痺れが戦況に効果を及ぼすと感じ、瑠楓と力を合わせて雷の効果を取り払っていく。
「さぁて、いよいよ佳境というところか」
 軽口を叩くような余裕をみせる陽治だが、彼はその態度とは裏腹にしっかりと戦場の状態を見極めている。瑠楓もそのことを感じ取っており、二人は魔術医療と癒しの歌でそれぞれの回復を行っていった。

●迅雷の咆哮
 されど、一筋縄でいくほど戦いは甘くはなかった。
 そのこと示すかの如く、ドラゴンの一撃が一片の容赦もなくサナリィを貫く。
「限界のようです。申し訳、御座いません……」
 サナリィがその一撃に倒れ、陸を庇ったヴォーテクスが続けてその場に伏す。陸は悔しさを押し隠すようにして、彼女と愛機の前に立ち塞がる形で地面を踏み締めた。
 敵を引き付けていた慶も体力の限界が近付いており、後方に布陣し直す。
「悪い、一度下がることにするな」
「はい、任せてください」
 移動する慶をカバーするべく、葵が防護役として前に出た。一手を消費してしまう選択だが、これも倒れる仲間を少なくするための作戦だ。
 蓄積した痛みは大きく、間もなく癒しが役に立たなくなる時が訪れるだろう。
 だが、序盤にダメージを分散させた分だけの余裕が今になって上手く巡っていた。それにドラゴンの方もかなりの痛手を負っているはずだ。
「ほら、もっと頑張れるよね。もっと戦いを楽しまないと」
 渚は敵が弱っていると察し、素早さを生かした動きで以て斬霊刀を振り下ろした。戦いの中でついた傷に更なる刃が重ねられ、敵は苦しげな咆哮をあげる。
 怒りに任せた敵が突撃してくる気配を感じ、葵は踏み出した。
 このまま行けば自分が倒れてしまうと葵は知っていた。だが、ただ無意味に走ったわけではない。ドラゴンからの爪撃を受けた葵は、あと少しで敵を倒せると悟っていたのだ。
「……っ! 後はお任せ、します……!」
 葵の叫びが木霊した直後、その身体は地に伏した。仲間達は彼女が作ってくれたチャンスを利用し、一気に畳み掛けるべきだと察する。
「フェリア、僕達も攻撃に移るよ! 終わらせちゃおう!」
 瑠楓がフェリアに呼び掛け、烈しい音を響かせた。
 奏でられてゆくのは追憶に囚われず前に進む者の歌。ボクスドラゴンも封印箱に身を収め、主人に合わせた一撃を放つ。
 頷いた陸が指天の一閃で敵の動きを止め、熾炎を紡いだ渚が敵を燃やしていく。
 今よ、と告げた渚の合図を受けた慶は大型の絵筆を召喚し、天雷の竜を鋭く見据える。
「その雷の力、遠慮なく使わせて貰うぜ」
 次の瞬間、敵の雷を模倣した一撃が放たれ、ドラゴンを貫いた。グルル、と痛みに耐えるような敵の声が響く中、陽治も攻撃の機を掴む。
「喰らってやるよ。その汚れた魂ごとな」
 終幕は間もなく。最早、癒しは要らない。拳を握りしめた陽治は森羅の力を宿した龍の気弾をひといきに撃ち放ち、苦しむ敵を穿った。
 そして、息を整えたアベルは紅い瞳にドラゴンの姿を映す。
「これが真なる黒竜の力だ。さあ、終わりを齎してやろう!」
 地獄の炎を全身に纏ったアベルは究極の巨大黒竜へと進化し、咆哮を轟かせた。翼を広げたアベルは高く飛翔する。竜炎と雷が衝突しあった、刹那――激しい雷鳴が響き渡り、天雷の竜は死という終焉を迎えた。

 戦いに終わりが告げられ、その場に静寂が満ちる。
「勝ったんだね、僕達。やったね!」
「ああ。間違いなく、な」
 瑠楓は笑顔でフェリアを抱き締め、陸は傷付いたサナリィを抱えて健闘を労いあった。戦闘中に仲間を庇って倒れた葵は気を失ったままだったが、渚の介抱によって何とか危険な状態は脱する。
「ひとまずは安心という所ね」
 皆傷だらけではあるが、ケルベロス達は確かな勝利を手にしたのだ。
 アベルと慶は城ヶ島の先を見据え、これからを思う。きっと、この先も更に激しい戦いが繰り広げられていくのだろう。しかし、陽治は心配などしていなかった。
「道は切り拓いたんだ。後は信じて進むだけだ。……そうだろ?」
 陽治は問いかけるようにして小さく笑み、遥か彼方の魔空回廊を指し示す。仲間達はしかと頷き合い、未来を信じた。
 ――大丈夫。強い心さえあれば、先に繋がる道は幾らでも拓けるはずなのだから。

作者:犬塚ひなこ 重傷:二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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