城ヶ島制圧戦~舞えよ! ドラゴン!

作者:緒方蛍

 黒瀬・ダンテが緊張の面持ちで口を開いた。
「城ヶ島を強行調査したことで、『固定化された魔空回廊』が存在するとわかったっす。この固定化された魔空回廊に侵入し、内部を突破することができれば、ドラゴンたちが使用する『ゲート』の位置を特定することが可能になるっす」
 仮に『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の調査を行った上でケルベロス・ウォーによって『ゲート』の破壊を試みることもできるだろう。
「『ゲート』を破壊できれば、ドラゴンたちは新たな地球侵攻ができなくなるっす」
 ダンテの言葉の意味は、城ヶ島を制圧し、そこにある魔空回廊を破壊できればドラゴンたちの急所を押さえることができるということだ。
「強行調査の結果、ドラゴンたちは魔空回廊の破壊は最終手段だと考えてるっぽいんで、電撃戦で城ヶ島を制圧して魔空回廊を奪取することはあながち無理な話じゃないんす」
 だからドラゴンたちのこれ以上の侵略を阻止するためにも、ケルベロスたちの力を借りたい。ダンテは真摯に訴える。
「今回の作戦は、仲間が気付いてくれた橋頭堡からドラゴンの巣窟、城ヶ島公園に向けての進軍になるっす」
 進軍の経路はすべてヘリオライダーの予知で割り出されているので、その通りに移動することが前提だ。
「固定化された魔空回廊を奪取するには、ドラゴンの戦力を大きく削ぐ必要があるっす。強敵っすが、必ず勝つ! って心で臨んで欲しいっす」
 そうして、ケルベロスたちが戦うことになるであろうドラゴンについて、ダンテが教えてくれる。
「ドラゴンの見た目っすが、鱗は薄紅で、怒ると真紅になるっす。攻撃は鋭い爪と長くてしなやかな尾と、炎のブレスで攻撃してくるっす。怒ると飛行してブレスで攻撃するみたいっすね。だからってブレスだけになるとは限らないっすが……」
 難しい顔で腕を組むダンテだが、だからといって攻略できない敵ではないと力強く言う。
「先の仲間たちが調査で得た情報を無にしないって気負うのはアリっすけど、気負いすぎて負ければ魔空回廊奪取作戦を断念することもありえるっす。無理はしても、無茶はしないで欲しいっす!」
 力強くケルベロスたちに訴えるダンテの目には、信頼の光があった。


参加者
生明・穣(鏡匣守人・e00256)
望月・巌(風の憧憬・e00281)
上月・紫緒(狂愛葬奏・e01167)
燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184)
糸瀬・恵(好奇心は猫をも殺す・e04085)
中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566)
御滝・葵衛門(隠密御庭番・e08530)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)

■リプレイ

●影のように滑らかに
 8人のケルベロスが周囲を警戒しながら歩を進めるのは、そこが城ヶ島――ドラゴンたちの巣窟だからだ。少なくとも敵からの不意打ちは避けておきたい。そう思えば足取りは自然、慎重になった。
 橋頭堡から城ヶ島公園へと、他の部隊もそれぞれ展開している。この部隊もそのうちのひとつ。
(「強行調査には参加していないけれど……彼らが命がけで持ち帰った情報を活かすも殺すもこの制圧戦に参加している私たち次第……」)
 胸の中で呟くのは中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566)。隣を行く上月・紫緒(狂愛葬奏・e01167)はまた別のことを考えていた。
(「ドラゴンって強いんだよね、私の愛を受け止めてくれるのかな……って、違う違う。私はケルベロスとして戦うんだから!」)
(「相手は究極の戦闘種族と称されるドラゴン。偵察で戦った配下のドラグナーでかなりの強さを誇ったのですから、その上となれば一体どれほどの力を持つのでしょう」)
 敗北の許されない戦いだが、楽しみだとすら思っているのが糸瀬・恵(好奇心は猫をも殺す・e04085)。
(「次に繋げるべく極力敵の戦力を減退させる事が目標だ……」)
 恵の背後で周囲に目を光らせながら望月・巌(風の憧憬・e00281)がひとりごちる。その隣で同じようなことを生明・穣(鏡匣守人・e00256)は思っていた。
(「私達は此処で対峙する者を確実に倒しきる事が、今時作戦の成功への後押しとなるでしょう」)
(「ドラゴンは強敵っすけど今回の作戦を成功させるためにも負けられないっすね」)
 気合いを入れているのは御滝・葵衛門(隠密御庭番・e08530)。
 一番後列にいる四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)も周囲への警戒を怠らない。
 誰しもが戦闘へ向けて気合いを入れていたその時。戦闘に立っていた燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184)が不意に足を止める。
「……いたぜ」
 亞狼が示した指の先、薄紅色の鱗を纏った1体のドラゴンが周囲に首を巡らせていた。
「この佇まい、あふれ出る闘気。さすが最強の戦闘種族と呼ばれるだけありますね。ただ、私もここでスリーカウントを取られるわけにはいかないので全力でいきますよ」
 不敵に呟いたのはめぐみだった。全員その言葉に深く頷く。もとより、手加減してはこちらが危うい相手だとは皆わかっていた。

●蜂のように戦闘開始
 全員がドラゴンの姿を見とめると、すぐさま戦闘態勢に入る。
「光以て、現れよ……!」
 玲斗がすぐさま『第六感(インヴィジブルセンス)』を使い、後列の者たちにエンチャントを施す。これで多少のダメージは軽くなる。
 そうしてケルベロスたちの気配にドラゴンが気付き、こちらを向くと一声咆哮する。
 同時に前列では、亞狼の背後に黒い日輪が浮かび上がっていた。
「ぁ? 文句あんのかよ!」
 放つ熱波は黒。『Burning BlackSun 波』の一撃!
 翼に当たり、ドラゴンは不機嫌な声を上げる。何をする、とでも言いたいのだろう。亞狼が与えたかったのはダメージではなかった。バッドステータスの付与だ。
「ドラゴンさん。私は、私の愛を受けとめてくれる相手を探してるんですよ。アナタは私の愛(憎しみ)を受け止めきれる?」
 先程までとは違った炎を瞳に宿らせ、低く言いながら紫緒が放つのはデストロイブレイド。亞狼の与えたバッドステータスに重ねていくつもりだ。
「これは……どうです?」
 ドラゴンの懐に飛び込んでのめぐみの螺旋掌。どうっ、と鈍い音とともにめり込んだ拳。
 攻撃態勢に入ったのは見て取れた。だが、長くしなやかな尾での攻撃は見極めきれなかった。
「うっ……」
「あぁッ」
「ぐ、ぅ……ッ」
 前列の3人にダメージ。だが攻撃をした後のドラゴンの隙を見逃さなかった者がいる。
「神解けの光よ、来たれ!」
 稲妻の如き閃光。恵から放たれたその光恵の一撃『霹靂の閃耀』を、ドラゴンはまともに喰らう。
「ガ、……ゥ……」
 その間に穣のサーヴァントの藍華が前列へと清浄の翼をかける。この戦いでは回復も要だ。
「おい、このトカゲ野郎! 俺の自宅になに勝手に土足で入ってくれてんだ。あったま来たぜ、地球人がいつまでもユルいままだと思うなよ!」
「いいね巌ちゃん、その調子だ」
 コンビネーションでサイコフォースと気咬弾を叩き込んだのは巌と穣。信頼関係は伊達ではないと行動で示している。
「忍っ」
 手で何かの印を結んだ葵衛門がマインドシールドをかける。手痛いテイル攻撃を喰らった者たちをヒール。
 だが、それだけでは済まさないとドラゴンが腕を振り上げ――巨体に似合わぬ素早い動作で振り下ろした!
「きゃ……」
 めぐみを狙った一撃。だがその攻撃が彼女にヒットすることはなかった。
「させねぇよ」
 割って入ったのは亞狼だ。う、と低い声で呻いたものの、めぐみを突き飛ばし、一撃を肩代わりする。
「亞狼さん! ……許しません!」
 今度はこちらの番だと、受け身を取っためぐみが素早くドラゴンへカウンター、斬霊斬!
「グオウゥ……」
 与えたダメージは多くはなかったが、ドラゴンへ充分な牽制となった。
「やられたままではいないよ。亞狼さん、回復だ!」
 サキュバスミスト、と小さく呟いた穣が亞狼をすぐに回復する。藍華も続き、さらに巌は回復を邪魔させないとばかりにガトリングガンを構え、斉射する。
「おい!お前さんはそれでも究極の戦闘種族の眷属か、笑わせてくれるぜ。もっと本気でかかって来いよ! あれれ……もしかして、それが本気か?」
 挑発も作戦のうち。
「高火力高耐久とは、流石ですね」
 呟き、時空凍結弾を放ったのは恵。大きな羽の付け根にヒットした。
 続いて紫緒の巨大剣からデストロイブレイドを喰らわし、葵衛門、玲斗が回復を行った。

●激高のドラゴン
 徐々にドラゴンの体色が燃えるような紅へと変化していくのを、誰もが見たのは、数ターン前のこと。
 前情報通りの怒り。挑発やバッドステータスが効いたのだろう。
 そうしてドラゴンの口から放たれた炎は後列を焼き、次のターンで前列へもダメージを与えた。
「激高して赤くなるとは分かりやすい、単純ですね。ねぇ、巌」
「まぁったく、ジョーの言う通りだぜ」
 穣の言葉に巌が頷く。余裕がある戦いではないが、不敵な笑みを浮かべる。
 前情報通り、ドラゴンは飛翔し……ドラゴンが大きく口を開く。前列を狙うと思われた攻撃は、しかし後列を狙ったものだった。
「きゃあッ」
 誰かが悲鳴を上げる。見切れたものだと少しばかりの油断、クリティカル。最初ほどのダメージではないが、それでも重い一撃。前ターンの前列へのブレス攻撃のダメージも回復しきらないというのに、これは手痛い。
「さすがに……これは……」
 がくりと膝をついたのは玲斗だ。そのまま地面に倒れ込む。
 それから地に降りたドラゴンは、大きく気を吐いた。余裕に見える。だがヤツに回復の手段はなく、ダメージは確実に蓄積しているのが見て取れた。
「……なもん、どーでもいいんだよ」
 低い呟き。だが攻撃の手を緩めることはない。亞狼がドラゴンへと精神操作で黒い鎖を叩き付けるようにして伸ばし、大きな体を締め上げる。
「グゥルルル……ッ」
「攻撃を受けてばかりではありません……!」
 めぐみが素早い動きでドラゴンへ肉薄、絶空斬を見舞わせる。ジャスト!
「お次はこれだ!」
 地響きと共にドラゴンの足元が割れ、溶岩が噴き出す!
 続けざまのダメージに、今が攻撃の好機とばかり、全員が攻撃に転じた。
「まだまだ、負けません!」
 放たれた惨劇の鏡像。振りかざしたナイフの刀身から巨躯へと放たれたのは、ヤツのトラウマ――どんなものなのかは知るよしもないが、知らなくても構わない。ダメージさえ与えられればそれでいい。
「グアアアアアアッ」
「お次はコレだぜ!」
 他の者たちが攻撃をしている間、ひっそりと集中させていた精神をドラゴンに爆破でぶつける!
 横から飛んできた氷のつぶて。螺旋状に放たれたそれは、巌のサイコフォースと穰のニートヴォルケイノ。それに反撃しようとドラゴンが手近な前列に爪を振るう!
「ギュオオオオオッ」
「させないわ!」
 標的はめぐみ。だが割って入ったのは紫緒だ。
「う、ぐ……ッ」
 後半になっての手痛い攻撃。鋭い爪は紫緒の肩を抉る。えぐい傷口にすぐさまサキュバスミストで回復を、葵衛門も、自分の受けたダメージを顧みることなく回復を行う。
「大丈夫っすか?! ……忍!」
 完全には回復できない。紫緒の表情に苦痛が残る。紫緒にとって愛は憎しみ。憎しみをぶつけた相手によって与えられたダメージは、さらなる愛、憎しみを募らせた。
 だが、勝機は見えた。攻撃を寄越したドラゴンの脚がふらついているのを、めぐみは見逃さなかったのだ。残HPも多くはない。だとすれば、とるべき行動はひとつ――。
「あなたはここまでよく闘いましたわ。でも、もうおしまいです。これが私のフィニッシュホールド。さあ、安らかにお眠りなさい!」
 助走。独特なフォームから放たれたのは、必殺の膝蹴り、『Boma Ye』。高い位置にあるドラゴンの顎を狙ったそれは、見事なクリティカルヒット!
「グアッ!! ……グゥゥルルル……」
 大きな体を仰け反らせたドラゴンが、横倒しに倒れてびくびくと痙攣する。それでもなお戦闘態勢を解かなかったケルベロスだが、やがてそのすべての動きを止めたドラゴンに、ようやく体の力を抜いた。
 勝利。

●戦闘が終わり……
 だが喜んでばかりもいられない。仲間ひとりに重傷者が出た。
「ここは一度引きましょう」
「あぁ、そのほうがいいなぁ。これ以上戦ったら、他にも重傷が出かねねえぜ」
 穰と巌の言葉に全員が頷く。
「勝ちゃなんでもいいがな……仕方ねぇか」
 亞狼が肩を竦める。紫緒の目には先ほどまでの炎はなりを潜め、いつもの光を取り戻していた。
「そうですね……ここは一旦、素早く引きましょう」
「ええ。他の部隊の足を引っ張るような真似はできません」
 めぐみの言葉を受けて、恵が頷く。
「けど……やってやったっすよー」
 安心したのか、葵衛門はへらりと笑い――ふら、と体勢を崩した。慌てて支えたのは、傍にいた穰だ。
「おっとと……」
「おいおい、大丈夫かぁ?」
「……そいつぁ気絶しただけ、みてぇだな」
 亞狼が呆れたように言い、全員が苦笑混じりに笑う。
 ともあれ、当初の目的は果たされた。
 余裕があれば他班の援護に回ろうかとも考えていたが、ここは引くのが上策。
 倒れたふたりの体を抱えてやりながら、ケルベロスたちはその場からすみやかに撤退した。
 後には、ドラゴンの死体だけが激闘の終焉を語るだけ――。

作者:緒方蛍 重傷:四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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