城ヶ島制圧戦~暁の炎竜

作者:桜井薫

「押忍! 先発ケルベロスの皆による城ヶ島の強行調査で、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明したんじゃ」
 円乗寺・勲(ウェアライダーのヘリオライダー・en0115)は、応援団長のハチマキをぐっと締め、集まったケルベロスたちに状況の説明を始める。
「こん固定化された魔空回廊に侵入して、その内部を突破する事ができたら、ドラゴンたちが使うちょる『ゲート』の位置を特定する事が可能となるんじゃ」
 もし『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーにより『ゲート』の破壊を試みることもできるだろう、と勲は力強く拳を握りしめる。
「もし『ゲート』を破壊する事ができたら……ドラゴンたちの勢力は、新たな地球侵攻を行う事ができなくなるんじゃ。つまり! 城ヶ島を制圧して、固定された魔空回廊を確保する事さえできりゃあ、ドラゴン勢力の急所を押さえる事ができるんじゃ!」
 ドラゴン勢力にとってそれほど重要な拠点なら、落とすのはとうてい無理なのでは……慎重派なケルベロスの問いに、勲は力強く首を横に振る。
「強行調査の結果、ドラゴンたちは、固定された魔空回廊の破壊は、最後の手段であると考えているらしいんじゃ」
 それゆえ、電撃戦で城ヶ島を制圧して魔空回廊を奪取する事は、決して不可能ではないという。
「ドラゴン勢力のこれ以上の侵略を阻止する為にも、皆の力を貸してつかあさい!」
 勲は背筋をまっすぐに伸ばし、ケルベロスたちに最敬礼で頭を下げる。
「今回の作戦は、仲間が築いてくれた橋頭堡から、ドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍する事になるのう。進軍の経路やら何らは全部、ヘリオライダーの予知によって割り出されてるじゃ」
 予知で得た情報の有利を活かすためにも、作戦に参加する際には、予知の通りに移動してほしい、と勲は念を押す。
「固定化された魔空回廊を奪い取るには、ドラゴンの戦力をようけ削がにゃあならん。今のわしらにはえらい強敵じゃが……絶対勝って帰ってくるんじゃ、押忍!」
 
 ケルベロスたちに気合いを入れた勲は、続いて、標的となるドラゴンの詳細について説明を始める。
「皆に倒してきてもらいたいんは、燃え盛る炎のごたる橙色の鱗を持った、でっかいドラゴンじゃ。見た目のまんま、強烈な炎の力を操ってきよる。その性質も、ぱあっと燃え上がる火の玉みたいに、凶暴にして直情的な奴のようじゃのう」
 強大な炎の力を小細工無しに正面からぶつけて来るだろう、と勲は言う。
「奴の一番の武器は、分かりやすく、その炎を吐き出してくるブレスじゃ。素の威力が強烈なんに加えて、もちろん炎の追加効果もついてきよる」
 列単位の攻撃となるので、複数のダメージ軽減手段や回復の確保、また回避など、色々な面でしっかり対策を考えておく必要があるだろう。
「爪と尻尾による攻撃も、十分に注意せんといかんのう。届くんは前衛にだけじゃが、せっかくの強化を潰してきたり、足を止めさせ回避を妨げてきたりしよる。前に立って戦う役目のもんは、えっと負担になるじゃが……援護や回復に回る仲間としっかり連携すれば、きっと勝機も見えるはずじゃ。逆に言えば、連携もできんぐらいの壊滅的な被害を受けてしもうた時は、命を守って撤退する……そんな覚悟も必要になるかも知れん。くれぐれも、幅広い状況に備えた万全の作戦で臨むんじゃ」
 全員の力を合わせて初めて勝負になる、いつにも増して厳しい戦い……そんな使命に挑むケルベロスたちに、勲はいつもよりずっと力のこもった応援を送る。
「せっかく仲間が命がけで取ってきてくれた情報じゃ。そがあな頑張りを無駄にせんよう、この作戦は絶対に成功させにゃあならん」
 万が一敗北が重なれば、魔空回廊の奪取作戦を断念する場合もありえる……そんな事があってはならないと、勲はケルベロスたちに、強い思いのこもった視線を向ける。
「厳しい戦いになるんは承知じゃが……それでも、皆が勝って帰ってくるんを信じとる。必ず無事に戻ってくるんじゃ、押忍っ!」
 腹の底から響く力強い声で、勲はケルベロスたちを送り出すのだった。


参加者
ブラッド・ハウンド(生き地獄・e00419)
弘前・仁王(龍の拳士・e02120)
ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好き・e04557)
アナーリア・シス(新緑の蒼・e06940)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
先行量産型・六号(サムライロボ・e13290)

■リプレイ

●凶暴な日の出
 先発隊によって発見された、ドラゴンの巣窟……竜と人、ドラゴンとケルベロスの戦いを控えた城ヶ島公園の空気は、ひどくざわめいていた。
 ここにもまた、覚悟を決めた一組のケルベロスたちが、今降り立つ。
「潜入作戦でドラゴンを討ち漏らした鬱憤、晴らさせて貰うぜ」
 闘志にギラつく目で遠くを見据えるのは、ブラッド・ハウンド(生き地獄・e00419)だ。この作戦を行うきっかけとなった強行調査で、陽動と他チームの援護を果たしたものの、目の前のドラゴンをみすみす逃した無念。今度こそ己の拳で、炎で、竜を討ち果たす……戦いへの意気込みはひとしおだった。
「再びのドラゴン討伐、以前の時とは比べ物にならないでしょうが…やるしかありません」
 こちらは静かに、だがブラッドにも劣らない覚悟を青い瞳にたたえるのは、アナーリア・シス(新緑の蒼・e06940)である。以前戦った竜は、グラビティ・チェインが不足して戦力を削がれていた。これから戦う本気のドラゴンが、どれほど強いのか……ともすれば震えだしそうになる心を抑え、怖さ半分、強者への興味半分、彼女は敵の姿を求め遠くを見据える。
(「死中に活、必ず勝って帰ります」)
 仲間たちと作戦の齟齬がないよう打ち合わせをしつつ、弘前・仁王(龍の拳士・e02120)も心の中で手を合わせる。出発前には験担ぎで、特別な戦いの時にしか食べない弁当も食べてきた。強大な相手でも必ず倒して見せると、仁王は戦いへの決意を新たにする。
「負けられないし、負ける気は無い! 次に繋ぐ為、ここで必ず勝つ!」
「ああ、失敗は許されぬ、簡単に落とされるわけには行かぬのだ……」
「そうだなァ、六号。声掛けその他きっちりやり切って、一人として欠けることなく帰ってこようや!」
 気合い十分に声を掛け合っているのは、峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)、先行量産型・六号(サムライロボ・e13290)、ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147)の三人だ。彼らはかつて、他の依頼で背中を預けあった。より困難な敵との戦いにあっても、以前と同じく全力を尽くし互いを信じ合う……思いを一つに、彼らは互いにうなずき合う。
「っと、お喋りはここまでか……ったく、何食ったらこんなにデカくなンのかねェ」
 うなずいた視線を上げた先に見えたものを認識し、ウォーレンの表情が鋭く引き締まる。
 彼の視線の先にあったのは、燃え盛る炎そのもののような橙色だ。
 それは、遠目には夕焼けにも似た輝きを放ち、一瞬、美しさに目を奪われそうにもなる。だが、生きとし生けるものに恵みを与える太陽とは正反対の、破壊と暴力の象徴……今まさにケルベロスたちに迫ろうとしているのは、喰らい尽くすものを求め翼を広げた、ドラゴンそのものだった。
(「誰一人欠けることなく、作戦を成功させてみせる……!」)
 癒し手としての矜持を胸に、月篠・灯音(犬好き・e04557)は迫り来る強敵を見つめ、決心を胸に刻みつける。そして、傍らに立つ恋人、四辻・樒(黒の背反・e03880)の手をぎゅっと握りしめた。
「……ああ、わかっている。ドラゴン退治は無事にお家へ帰るまでがお仕事、だ」
 樒は軽く笑みを浮かべ、何も言わずとも伝わる彼女の思いに応える。
 危険な前衛に立つ恋人の身を案じる気持ちを呑み込み、灯音は樒に笑みを返した。甘い恋慕だけの情を乗り越え、ケルベロスとして相棒を信じる彼女の瞳が凛々しく輝く。
「さあ、行こうか」
 頼もしい相棒の顔を見つめ、樒は決意を固めるようにうなずいた。
 そんな一時の幕間に浸る間もなく、暁の光を思わせる竜は、まっすぐケルベロスたちに近づいてくる。
 いよいよ、戦いの始まりだった。

●ぎらつく南中
「小細工抜きの潰し合いだ、全力で来い!」
 真っ先にドラゴンに向かって行ったのは、ブラッドだ。間近に迫るほどに威圧感溢れる巨体にもひるむことなく、ブラッドは堂々と竜の真正面に躍り出、全力で吼えた。
「……」
 竜の目が、己の眼前に現れた挑戦者に向けられる。
 深い火の色を秘めた瞳に映る、自分に比べれば遥かにちっぽけな生き物……だがその煮えたぎるような憤怒の形相は、まるで同じ目線の高さで睨み合うかのごとく、絶対者であるはずの自分を見据えている。
「…………!」
 戦う生物の本能が、ブラッドたちを見た目よりも厄介な敵と認めたのか……激しい炎竜の咆哮が、辺りの空気を激しく震わせる。そしてドラゴンは、炎の色に覆われた喉元を反らし、大きく息を吸い込んだ。
「紙兵よ、炎を防ぐ盾となれ!」
 仁王が機先を制し、霊力を帯びた紙兵たちを、前に立つケルベロスたちに向かって解き放つ。最も警戒すべき炎のブレスに備え、少しでも抵抗力を高めるようにとの思いを乗せた紙兵は、うっすらと光って守護の力をもたらした。
「私が後ろにいれば、おまえは倒れるわけにいかないだろ?」
 仁王に続き、灯音も前衛に『白癒』の白い霧を降ろす。前に立つ恋人の樒を、そして仲間たちを、衝撃から守る柔らかな霧が広がってゆく。
「……っ、っと!」
 仁王と灯音の備えが行き渡った直後、前に立つケルベロスたち……ブラッド、樒、雅也、そして仁王の相棒であるボクスドラゴンに、ドラゴンの炎が襲いかかった。
「ケッ、図体通りの馬鹿力が……けどよ、このぐらい、屁でもねェ! 俺らの回復より、てめェらの強化が先だ!」
「承知!」
 炎の威力は高くとも、与えられた守りの補助もあり、前衛の体力にはまだまだ余裕がある。荒々しくそれを伝えるブラッドに応え、六号は後方のケルベロスたちにヒールドローンを飛ばす。追加効果の増す立ち位置の力で、六号のドローンは戦線を支える癒し手たちを何重にも頼もしく護衛している。
「いくぜ!」
 紙兵の助けで炎を振り払った雅也が、今度はこちらの番だとばかりに、重力を宿した星の軌道で鋭く蹴りを繰り出す。足止めを狙った初撃は、竜の足元を鋭く切り裂いた……が、ドラゴンの表情はほとんど変わらない。その様子は、この強敵を打ち倒すまでに奪うべき体力の大きさを物語っていた。
(「そんなこと、ハナから覚悟してるさ……それでも、守りぬく!」)
 雅也は眼の前の大きな存在を見つめ、守り手としての意志を再確認する。強大な敵ではあるが、勝つ事、仲間を守る事にただ集中するのみだ。
「一発でも多く当ててやらァ!」
 一刻も早く前衛の負担を削るべく、ウォーレンは熾炎の弾丸を竜に向かって叩きつける。ドラゴンの体から見れば小さな炎ではあったが、グラビティの力を纏った火の弾は、着実に炎竜の鱗を違う色で燃え上がらせた。
「援護します……永遠に眠りし古代の氷河よ、今ここにその姿を表し、全てを凍らせよ!」
 ウォーレンに連携して、アナーリアは無数の氷を浮かび上がらせる。それは集まって氷の槍となり、ドラゴンの鱗を貫きその身体にうっすらと氷をまとわりつかせた……ウォーレンの炎とアナーリアの氷が反射して、茜色の鱗の上できらきらと光を放つ。
「……!」
 炎竜の瞳が、ギラリと二人、そして回復を担う仁王と灯音に向けられる。怒りに燃える紅の虹彩は、次の攻撃目標をはっきりと物語っていた。
「チ……手筈通り、二手に散るぞ」
「了解!」
 いち早くその兆候を見て取った六号が、ドラゴンを睨みつけたまま、背後の仲間たちに誘導を投げかける。声を受けた後衛の仲間たちは、同じく竜から目を逸らさないまま、彼の合図に応えて左右に散開する。
「そう来なくっちゃなァ……!」
 事前によく打ち合わせていた通り、混乱もなくブレスに備える仲間たちの気配を受け取ったブラッドは、ためらうことなく敵の気脈を断つ突きを繰り出した。
「ボクス、援護を!」
 仁王に呼びかけられたボクスドラゴンが、さらにブレスをジグザグに走らせる。炎、氷、動きを鈍らせる石の力……重ねた状態異常を少しでも積み増そうと、ボクスは懸命に息を吐き続ける。
「……!!」
 その重なる不快な異常に抗うかのように、竜は再び、激しく炎を吐き出した。
「っ、灯」
「させるか、全力で守ってやんよ!」
 樒は愛称で呼ぶ恋人を、雅也は一番近くに居たアナーリアを、それぞれの誇りに賭けてガードする。そして樒はすかさず、関節や急所を穿ち枷となる投げナイフの技『穿』で、反撃の狼煙を上げた。
 いよいよ佳境に入る戦いに、城ヶ島の空気は、いまだ激しく揺れ動いていた。

●傾く日暮れ
「クソっ……回復頼むぜ!」
「任せろ、少し我慢してくれ」
 一進一退の攻防が続く中、ドラゴンの鋭い爪がブラッドに襲いかかった。普段は粗暴な彼であったが、事前に定めた作戦に従い、無用のプライドはかなぐり捨て、速やかに己の体力を申告する。要請に応え、灯音は彼に強引な心霊治療を施した。
「……っと、そう何度も当たってたまるか!」
 荒いが強力な癒しに力を得て、追い打ちをかけるように薙ぎ払われたドラゴンの尻尾を、ブラッドはどうにか回避した。
「……ここまで、でしたか。それでも、よく耐えてくれました」
 一方、仁王のボクスドラゴンは、しなる尾の一撃をかわし損ねて倒れ伏してしまう。限られた体力でよく頑張った相棒を、仁王は敬意を持ってねぎらった。そしてまだ立っている前衛たちのため、再び紙兵の癒しを振りまく。
「っと、仕切り直しといきますか! まだまだ、俺たちはこんなもんじゃねーぜ!」
 積み重なる負傷で追いつかない体力に、雅也はパチンと両手で己の頬を叩き、自ら気力と体力を回復した。回復役に任せていれば済むものではない厳しい戦いの中にあってなお、彼はあえて不敵な笑みを浮かべ、勝利を信じて味方を鼓舞し続ける。
「おうともよ! 負けたくねェ理由なら、山ほどあるからなァ!」
 懐に忍ばせた木蓮の『お守り』にそっと触れながら、ウォーレンが戦友の気勢に呼応する。愛用の銃から放たれた達人の一撃は炎に抗う氷となり、鋭く炎竜の鱗を貫いた。
「ワシもそれは同じよ……貴様の焔とワシの氷と、先に音を上げるのはどちらかな?」
 ウォーレンの一撃に重ねるように、流れるように、六号は己の切り札を繰り出した。『飛翔絶氷刃』の鋭い斬撃が、ウォーレンの突き刺した氷の軌道をなぞり、さらなる氷の追撃となってドラゴンに襲いかかる。
「…………!」
 戦友同士の気力がこもった連携を受け、炎竜は激しく吼え猛った。その声色は、今日始めて聞く音色……竜の苦痛を、はっきりと伺わせていた。
「お二人の切り開いた道……私も続きます」
 アナーリアは天秤座の力が込められた星辰の魔剣『Code:libra』を掲げ、二人の重ねた氷の傷を、見えない影のごとき太刀筋で掻き斬った。ジグザグに斬りつけられた魔剣の軌跡は、橙色の鱗に張り付いた氷を広げ、竜の傷口をより大きくしてゆく。
 竜は、さらに大きな声で吼え、いななく。
 痛み、そして怒りが、ドラゴンの大きな身体を激しく揺らしていた。
「……!!」
 強大な生物として君臨する身に経験のない痛みを与えた、いまいましい存在……後方のアナーリアたちをめがけ、ひときわ強烈に燃え上がる炎が吐き出された。
「だから、そんなモンは通さねえ、ってな!」
「誰であれ、守ってみせよう……それが私の役割だ」
 雅也と樒は気力を振り絞り、今日何度目になるか分からない身代わりの役目を果たす。
「後ろ、行きます! この身に宿るは戦場の力!」
 そして仁王は、まだまだ意気軒昂な二人の様子を見て、自分を含めた後衛に『相乗鼓舞』のオーラで癒しを施した。誰がより危険か、どこを回復すべきか……声を掛け合い、無駄な回復がぶつかることのないよう、ケルベロスたちは意志を通じ合わせて無駄なく動いていた。
「私は大丈夫だ……灯、奴を!」
 気力を満たした叫びで己を持ち直させながら、樒も灯音に今すべきことを示唆する。
「樒……!」
 恋人を心配する心を断ち切り、灯音は雷の奔流を炎竜に向け解き放った。尖った剣のような雷鳴はドラゴンの鱗を突き抜け、さらなる痛手を負わせる。
「試してみようぜ……てめェの炎と俺の地獄、どっちが上か!!」
 確実に弱っている竜の息吹を全身で感じ、ブラッドは全身の血が燃えたぎるような地獄の炎を両の腕にまとわせ、骨も砕けよとばかりに叩きつけた。
「…………!!」
 炎竜の咆哮が、苦しげに轟き渡る。絶対的な強者として飛来したはずの己にかくも理不尽な仕打ちをする、憎たらしい者たち……ケルベロスへの憎悪に満ちた叫び声は、暴風のように辺りを駆け巡った。
「もう守るのは終わりだ、くらえ!」
 あと少し、あと少しでこの強敵との死闘も、終わりを告げる……そう確信した雅也は守りの構えを解き、愛用の日本刀で力いっぱい斬りつける。
「ああ、そうみたいだなァ……行くぜ、野郎ども!」
 ウォーレンは、今現在の戦友・雅也の判断を信じ、かつての戦友たちに思いを巡らせる。
「……悪ィが。俺の夢物語にお前さんの居場所は、ねェッ!」
 舞い上がる砂嵐が、竜の視界を覆い尽くした。
 そして、理想を同じくした戦友たちの幻は実体となり、無数の銃がウォーレンと共に、砂塵潤す硝煙弾雨の一斉射撃をドラゴンに浴びせかける。
「……! …………!!」
 燃え上がる最後の炎のように、竜は一声いなないた。さらにもう一声吼えようと大きく吸い込んだ息は、ついに吐き出されることはなかった。
 大地を鳴動させ、緋色の巨体は地に倒れ伏した。その様子は、どこか寿命を迎える赤色巨星にも似て……暁の炎は燃え尽き、最後の時を迎えた。

●つながる空の向こう
「ん、何とか倒せたな」
 樒は目元を和らげ、愛しい恋人にただ一言、万感の思いを込めてつぶやいた。
「樒、傷は? 大丈夫? ……よかった」
 戦いでの凛々しいさまから一転して、灯音は恋人を気遣う一人の女性に戻っていた。半泣きの顔には、やり遂げた喜びと、緊張が切れて崩れそうな思いと、異なる思いが複雑に入り混じっている。
「……さあ、帰ろう。そして、友を迎えよう」
 溢れ出しそうになる思いをこらえ、灯音は空を見上げた。その方角は、別の戦場に赴いた仲間のいる方向だ。
「……はい。私も、大切な人が他の戦場で戦ってます」
 どうか無事でいてほしいと、仁王も遠い空に祈りを捧げる。
 城ヶ島で戦う、全ての仲間たちの無事を願って……ケルベロスたちは、戦場を後にするのだった。

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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